『試作機』完成
続きです。
章タイトルに違和感が・・・。
変更しようかな・・・。
◇◆◇
僕らは、今、『ヒーバラエウス公国』の首都・『タルブ』にある『グーディメル子爵邸』にお世話になっている。
ここは、リリさんことリリアンヌさんの『生家』であり、レティシアさんの仕える『家』でもあった。
ディアーナさんの『暗殺計画』を未然に防いだ僕らだったが、モルゴナガルさんらを拘束したまでは良いのだが、このまま彼らを『ヒーバラエウス公国』の『治安当局』に突き出した所で、うやむやにされるのがオチだと考えていた。
もちろん、ディアーナさんの証言やリリさんやレティシアさんの証言、僕らの証言や状況証拠があるものの、『権力者』を罰するのはそれほど難しい事なのである。
と、言うのも、『治安当局』側が、モルゴナガルさんに抱き込まれている可能性もあるし、そうでなくとも、『権力者』に対する忖度が働く可能性がある。
『ヒーバラエウス公国』の情勢的にも、ディアーナさんの主張が握り潰される可能性は十分に考えられるだろう。
しかし、生憎僕らにはそうした『理屈』は通用しない。
すでに『ロマリア王国』でも実証済みであるが、つまり、『権力者』であろうとも、『国家』に対して多大な不利益を与えた事を明確に『証明』出来れば、そうした者達も罰する事が可能なのである。
まぁ、そうした場合、最終的に『他国』に『亡命』されてしまう事もあるんだが、僕らに拘束されたのが運の尽きである。
逃がすつもりはないので、精々自分のこれまでの『悪事』を恨んで下さいね。(無慈悲)
しかし、それもやはり最終的には『ヒーバラエウス公国』の人々の手で裁くべき案件だろう。
もちろん、僕らも『力』を貸しはするが、『他国』の人間である僕らがでしゃばったマネをしてしまうと、後々それが問題になりかねない。
例えそれでこの件を解決したとしても、僕らの協力を得たディアーナさんの立場が危うくなるかもしれないからである。
『自国』を『他国』に売り渡した『売国奴』だ事の、『国』を乗っ取る為の『陰謀』だ事の、自分達のこれまでの行いや何も出来なかった事を棚どころか宇宙の彼方に放り投げて、『他者』の揚げ足取りをしたり、見当違いな非難する連中はいつの世もいるもんだからねぇ~。
まぁ、本音を言うなら、そんな連中の“戯れ言”は無視したいところだが、しかし、あえて痛くもない腹をつつかせる必要もないので、『極秘資料』だけかき集めて、後はディアーナさん達にお任せする事にした。
そもそも、僕らが『ヒーバラエウス公国』を訪れたのも、『食糧問題』の解決や『鉱石類』の取引についてや、『ヒーバラエウス公国』の特殊な『魔法技術』との『技術提携』を求めてである。
また、それを介した後々の『ロマリア王国』との『友好関係』の『下地作り』であって、『御家騒動』は本来は埓外だ。
まぁ、前にも述べた通り、『ヒーバラエウス公国』の『御家騒動』が解決しない事には、それらも進展しないので、『力』を貸す事自体は吝かではないんだけどね。
まぁ、そんな訳で、後はディアーナさん達『反戦派』の皆さんには『ヒーバラエウス公国』の『国内掌握』は頑張って貰う事として、僕は僕で、リリさんとの『共同研究』に没頭していた。
元々の問題であった『食糧問題』の一助として、『農作業用大型重機』を開発中なのである。
まぁ、これも、ぶっちゃけ『竜語言語』を体得した今の僕なら、片っ端から新たなる『農作地』を『開拓』・『開墾』する事も可能なのだが、それだと先程述べた通りの問題もあるし、色々な人達の雇用の機会を奪いかねない。
これに関しても、先程の理屈同様に、『ヒーバラエウス公国』の人々が自ら解決する事に意味があるのであって、出来るからと言って、何でもかんでも僕らがやればいいってモンじゃないからねぇ~。
さて、それでは、『農作業用大型重機』についてだが、これを“提案”したのは僕なのだが、発想自体はリリさんも似た様な事を考えていた様である。
と、言うのも、まぁ、これもまた少し難しい話になるのだが、まずは現在の『ロマリア王国』と『ヒーバラエウス公国』の『魔法技術』の状況からおさらいしておこう。
まず、基本的な事なのだが、この世界の『魔法』と言うのは、この世界に存在する特殊な物質である『魔素』を利用して発動している。
『魔素』は、『人間種』や『魔獣』・『モンスター』にある程度の影響は及ぼすものの、基本的にそのままでは意味のないモノである。
もちろん、クロやヤミが扱う『覇気』や、アイシャさんが体得している『魔闘気』などの様な“利用法”もあるのだが、これは、要は“個人”の素養に依存する『スキル』であって、『技術』としては極限定的であり、誰もが扱える代物ではない。
それを、もちろん『技術』や専門的な『知識』を学ぶ必要はあるものの、誰もが扱える様に開発されたのが、現在の『魔法技術』なのである。
行程としては、
1、『魔素』を“感知”する。
2、『魔素』を“収束”させる。
3、『魔素』を“コントロール”する。
4、『魔素』を『魔闘気』に“変換”するか、『魔法』に“変換”するか『選択』する。
が、基本であり、『魔法』として発動する為には、ここから更に、
5、どの様な『魔法』を発動するかを『選択』(『詠唱魔法』、あるいは『刻印魔法』によって『使用術式』を『選択』)する。
これでようやく『魔法』の発動に至り、火を出したり、水を出したりするのである。
この一連の作業行程が、『ゲーム』で言うところの『詠唱時間』に当たる。
当然ながら、『上位』の『術式』を使うには、それだけ『詠唱時間』が長くなる訳だが、それではやはり効率が悪くなってしまう。
それ故、特に『ロマリア王国』の『魔術師ギルド』では、今現在、『オートマチック方式』である『刻印魔法』が主流となっているのである。
事『戦闘』においては、確かに『刻印魔法』は重宝するのだが、以前にも述べたが、それも一長一短である。
『魔法技術』は、何も『戦闘』に利用するだけのモノではないからである。
『刻印魔法』は、要はあらかじめ描かれている『魔法陣(魔法式)』を利用する方式だ。
しかし、これにも『使用制限』の“壁”がある。
例えば、僕がエキドラス様との対戦で使用した『符術』は、一回こっきりの使い捨てである。
なぜなら、発動と同時に『符』が燃え尽きてしまうからである。
これは、おそらく『魔素』を『魔法』に“変換”する行程の中で、『紙』と言う『触媒』では耐久力に問題が生じる為だと思われる。
そして、それは他の素材でも同じなのである。
例えば、ヴィアーナさんが使用している『宝玉』や『魔道書』と言う『触媒』も、もちろん『紙』ほどの耐久性の弱さではないものの、使用すればするほど、徐々に『劣化』していってしまう。
言うなれば、『刻印魔法』に利用される『触媒』は、一種の『消耗品』なのである。
もちろん、『弾薬』の如く、その都度補充出来ればその問題も解決出来るのだが、当然ながら、人が一度に持てる量には限界がある。
それ故、今現在でも“現場”の『魔法使い』達は、あいかわらず『詠唱魔法』が主流なのだが、もしも、『刻印魔法』が普及したとしても、僕の様に2つを併用した方が賢明だと思う。
まぁ、それは各々の判断によるんだろうけどね。
さて、ここまでは『発動方式』の話をしたが、今度は『魔道具』や『魔法陣(魔法式)』についてである。
『魔道具』は、基本的には『刻印魔法』の派生系なのだが、こちらはもっと利用方法も限定的であった。
これまで何度となく言及しているが、この世界の『魔法技術』は、『貴族』や『魔術師ギルド』と言った一部の者達が独占しているのが現状であり、歴史的事実も踏まえて、『魔法技術』が流出する事を彼らは極端に恐れていた。
まぁ、自らの優位性を確保しておきたいと言う『心理』は分からんではないのだが。
もちろん、それは『魔道具』にも言える事であり、例えば、『公共施設』や『貴族』の館に見られる様な『照明』なんかは『魔道具』なのであるが、『平民』と呼ばれる者達の『家庭』で使用されている『照明』は、あいかわらず、ロウソクなどの『火』を光源としたモノであった。
もちろん、『魔道具』に使用される『鉱石』などの『パーツ』が高価と言う事情もあるのだが、前述の『魔法技術』流出への懸念もあるのだろう。
僕も、以前はあまりこの世界の『技術革新』を早めるべきではないと考えていたのだが、それも遅かれ早かれ時間の問題なのだ。
リリさんの例にもある様に、『古代魔道文明』から着想を得たとは言え、『魔素結界炉』、向こうの世界で言うところの、『原動機』を、もちろん、まだ洗練された『理論』ではないものの、生み出した“天才”がいる以上、いずれ『魔法技術』が『魔法科学』に発展していく事はほぼ確定的なのだ。
ならば、むしろその『方向性』を“コントロール”する上でも、積極的に関与した方が得策だろう。
一度生み出された物は、良きにしろ悪しきにしろ発展を遂げていくモノだ。
それを止める術などありはしないのだから、せめて『平和利用』する『方向性』に持っていきたいと考えたからである。
それ故、『生活魔法』の開発に関与し、今回、リリさんと『共同開発』で、『農作業用大型重機』の開発に着手しているのであった。
それでは、最後に『魔法陣(魔法式)』についてである。
『魔法陣(魔法式)』は、要は『コンピュータ』で言うところの、『コンピュータプログラム』に当たり、当然ながら、その『魔法使い』によって、『理論構築』がまちまちであった。
そもそも、これは『魔法使い』にとっての一番の『秘術』に当たるモノで、それを継承されるのは、『後継者』などの極限られた一部の者のみである。
もちろん、『コンピュータ』同様に、専門的な『知識』がなくとも『魔法』自体は使用する事が出来るのだが、仮に『術式』を改良するなり、新たに構築する上では、『魔法陣(魔法式)』の意味を理解している事は、重要かつ必須条件なのである。
しかし、今現在のこの世界の『魔法技術』は、以前にも言及したが、失伝してしまった『技術』も数多く存在しており、この『魔法陣(魔法式)』の“内容”もその一つであった。
だが、これはどの『分野』でも言える事だが、『ハード面』の改良よりも、『ソフト面』での改良の方が、ある意味安上がりでもあるし効率も良い。
それ故、今現在の各『魔法使い』、『魔術師ギルド』では、この『魔法陣(魔法式)』の解析と解読が盛んに行われる様になっていたのである。
その改良に『マンパワー』を駆使して成功したのが、『ロンベリダム帝国』であり、また、一部改良(?)に成功したのが『ヒーバラエウス公国』であった。
『ロンベリダム帝国』は、『資金』や『人材』を大量に投入して、『人海戦術』で現存の『魔法陣(魔法式)』の解析と解読に成功。
それがどの様に『魔法』に作用しているのか解明し、効率の悪い『回路』や省略出来る『回路』などを削ぎ落として、(一見)無駄のない『ロンベリダム式』の『術式』を完成させたのである。
これが、『ロンベリダム帝国』が『魔法技術先進国』として台頭する要因の一つともなっていた。
それに対して、『ヒーバラエウス公国』の一部改良(?)は、必要に迫られてたまたま成功したモノであり、ぶっちゃけ偶然の産物であった。
『ヒーバラエウス公国』は、以前に言及したが、その『領土』の大半が荒れ果てた山に覆われていた。
その過酷な土地を『開墾』・『開拓』する上で、既存の『魔法技術』の威力では、『魔法使い』の絶対数が少ない事も手伝って、やや力不足な点が問題視されていたのである。
その問題点をクリアにする為に付け加えられたのが、『増幅回路』であり、僕が『増幅魔法』と呼称している『ヒーバラエウス公国式』の『術式』なのてある。
ただし、これは余分な『回路』を後から付け足したモノであり、合理性や効率性の観点からは、ハッキリと言うと、無駄が多すぎる。
まぁ、しかし、『戦闘』を想定して開発されたモノではないから、それでも良いのかもしれないが。
さて、長々と解説してきたが、その『増幅魔法』と『古代魔道文明』の『知識』を応用してリリさんが提唱したのが、『魔素結界炉』であった。
これは、おそらく『古代魔道文明』に見られる『魔道科学』から着想を得たものと思われるが、要するに向こうの世界で言うところの『原動機』同様に、『魔素』を純粋な『力学的エネルギー』に“変換”する『装置』の事である。
ただ、現存の『魔法技術』と言うのは、『術者』が使用する事を前提にしている為に、この『魔素結界炉』は『ヒーバラエウス公国』では懐疑的な意見が大半であった。
もちろん、分かる者にはこれがとんでもない『発明』であると分かるのだが、その具体的な『パッケージ』を見ない事には、人々に真の理解を得る事は難しいのであろう。
『パーツ』の一つだけ見て、これが凄い物だと分かる者は少ないのと似たような状況であった。
先程も述べたが、リリさんにも発想として、この『魔素結界炉』を『機械』に登載するところまでは辿り着いていたのだが、今度は具体的にどんな用途の物を製作するのかで行き詰まっていたのだった。
これは、僕と違い、リリさんには向こうの世界の『知識』がない為に、具体的な『イメージ』が不足していたからである。
そこに登場したのが、向こうの世界の『知識』を持つ僕であった。
もちろん、僕も『前世』では『機械工学』の『専門家』ではなかったので『機械』の事は、『オタク的知識』+一般的男子としての興味ぐらいの『知識』しか無かったのだが、こちらの世界における『魔法技術』や『魔法科学』・『魔道科学』についてはアルメリア様の教育や『英雄の因子』の『能力』によって、一応この世界でもトップクラスの『知識』を持っている自負はあった。
それに、やはり具体的な『イメージ』を持っているのは強みである。
そんな経緯があって、リリさんの『魔素結界炉』を『心臓部』とした『農作業用大型重機』の製作に着手しているのだがーーー。
◇◆◇
ドドドドドッ。
僕とリリさんは、今、『グーディメル家』の庭先にて、『農作業用大型重機』の『試作機』の走行テストを実施していた。
「うん、とりあえず“走らせる”事までは成功しましたねぇ~。この分なら、何とか“形”になりそうです。」
「凄いよ、おにーさんっ!『魔素結界炉』にこんな可能性があったなんてっ!!!」
「いやいや・・・。」
興奮した様にリリさんははしゃいでいた。
しかし、僕は若干複雑な気分であった。
もちろん、『魔素結界炉』を用いて『機構』自体を考えたのは僕なのだが、『現物』を知っている僕からしたら、これはある種の『ズル』だからなぁ。
『古代魔道文明』の『知識』から着想を得たとは言え、自力で『魔素結界炉』の『理論』を築き上げた本物の“天才”であるリリさんから手放しで誉められても、「凄いのは貴女の方ですよ」って感じである。
「『魔素結界炉』から抽出される『力学的エネルギー』で『ギア』を回して、それを経て『タイヤ』を回す。『機構』としては、結構単純なんですよ?この場合の『動力源』が“荷馬車”における“馬”から『魔素結界炉』に置き換わっただけです。」
「ふむふむ、なるほど。」
「まぁ、用途や生産性を考えると、複雑な『機構』にする必要はありませんから、まずは第一段階はクリア、と言う所ですかねぇ~。」
元々、こちらの世界においても向こうの世界同様に、“馬”とか“牛”(正確には『種』としては地球とは同一ではない様だが)みたいな動物の『力』を借りて、運搬手段としたり、農業の『働き手』として利用する事は盛んに行われている。
それ故、“荷馬車”の“車”の部分は、ある種完成されたモノがすでに存在しているのである。
それを少し『改造』して流用し、『試作機』を製作してみたのだった。
もちろん、現代地球ほどの洗練された『技術』を再現しようとしたら、それこそとてつもない時間や労力が掛かるだろうが、今はそれは求めていないし、複雑な『機構』にすればするほど、例え『完成』したとしても、大量生産はとても望めそうにない。
『開拓』や『開墾』を、『魔法技術』に依存しない大多数の“一般市民”の人々に行って貰える事を強みにしたいのだから、数を揃える事が重要になってくる。
それならば、当然、『機構』はシンプルにする方が大量生産も簡単になるのは道理だ。
それに、『魔素結界炉』の『パワー』は想定以上のモノである。
後は、この『試作機』に『アタッチメント』として、こちらも既存の(もちろん『改造』は必要だが)『農具』を取り付けるだけで、『開墾』や『開拓』にも対応出来るし、『農作業』にも対応出来るだろう。
『使用者』の発想次第では、別の用途を考え付く事もあるかもしれない。
「しかし、欲を言えば、『エネルギー効率』をもっと上げたい所ですよねぇ~。『魔素結界炉』から抽出される『エネルギー』を全然活かしきれていない印象があります。まぁ、それでも凄い『パワー』なんてすけどねぇ~。」
「そうかい?ボクが考案した『魔素結界炉』に、おにーさんが改良を施した『古代語魔法』の『魔法陣(魔法式)』が刻印されているから、すでにこの『魔素結界炉』は、ボクの『知識』では、改良の余地がない様に思えるんだけど・・・。」
「いえいえ、『魔素結界炉』自体はほぼ完成された『発明』だと僕も思います。むしろ重要なのは、その周辺の『機構』の方ですね。命令系・制御系の『術式』は、『構築』する事は簡単なんですが、『魔素結界炉』から抽出される『エネルギー』を十全に活かそうと思ったら、“車”の方がその『パワー』に耐えられなくなってしまいます。それ故、もちろん、今現在でも“馬”や“牛”なんかよりも数十倍『パワー』がありますが、『魔素結界炉』の『スペック』的には、これでもおそらく全体の一割にも満たないと思いますよ。」
「ほえ~。とんでもない『発明』だねぇ~。」
「いやいや、貴女が作ったんですよ?」
「いやいや、おにーさんの改良あっての事だからね?」
「いやいや。」ヾノ ゜Д゜)
「いやいや。」ヾノ ゜Д゜)
「あのぉっ~!ワタシは何時まで『試作機』を動かしていれば良いのでしょうかぁっ~~~!?」
「「あっ・・・!」」
『テストパイロット』であるレティシアさんの存在を忘れてました。
・・・
「つまり、『車大工』や『鍛冶職人』の意見を取り入れたいんだね?」
「と、言うよりも、『農作業用大型重機製作プロジェクトチーム』を結成すべきかと思います。“完成系”は見えたとは言え、これを最終的には『ヒーバラエウス公国』に普及させたいので、製造、販売、流通などに関する『ライン』を構築しておくべきでしょう。僕やリリさんは、『肩書き』上『リーダー』としては適切ではありませんが、『グーディメル家』のどなたかなら、『リーダー』としては申し分ないのではないでしょうか?元々『グーディメル家』は『商家』から始まった『家』らしいですから、今でもそうした横の“繋がり”もあるでしょうし。」
「う~ん、それは分かるんだけど、今は父上達も忙しそうだしねぇ~・・・。」
「ああ、『極秘資料』の『処理』がありますもんねぇ~。」
流石に同時進行は大変かなぁ~?
いや、けど『ビジネス』の話も絡んでくるんだから、逆に良いのか?
「ふぅ~む、これもある種の『説得材料』の一つになりますから、相談するだけでも相談してみませんか?」
「う~ん、それもそうだねぇ~。」
そう言う事になった。
◇◆◇
「旦那様、アキト殿とリリアンヌ御嬢様が御呼びですが・・・。」
「今度は何だっ・・・!」
以前のディアーナ同様に、セドリュカ子爵は疲れ果てた表情で、執務室に大量に積まれた『資料』の山から顔を覗かせた。
腹心のハーヴァーも、セドリュカの体調を慮るが、今セドリュカが手掛けている『仕事』は、『貴族』でないハーヴァーに手伝う事は難しい。
ならばと、使用人一同ディアーナ、セドリュカの身の回りの世話に全力を上げていたが、日に日に二人の疲労は蓄積していった。
それも、『パーティー』までの辛抱だ。
『反戦派』の『貴族』達に協力を要請出来れば、『人海戦術』を使う事が出来る。
そんな事を思った矢先に、またもアキトとリリアンヌが“何か”仕出かしたらしい。
セドリュカは、頭を抱えていた。
「『共同研究』の完成の目処が立ったから、旦那様の意見を伺いたいとか・・・。」
「はぁっ!?・・・へっ!?えっ・・・?も、もう出来たのっ・・・!!??」
ハーヴァーの言葉に、セドリュカはすっとんきょうな言葉を返した。
普通に考えれば、アキトとリリアンヌがやろうとしている事は、長い年月が掛かる筈の『プロジェクト』だ。
いくら“天才”たる二人でも、セドリュカはしばらく時間が掛かるだろうと考えていた。
その間に、『国内情勢』を『掌握』しようと考えていたのだが、二人の『能力』はセドリュカの予測を遥かに越えていたのだった。
「ディアーナ公女殿下にもお声を掛けた様です。気分転換がてら、様子を見てこられたらいかがでしょう?」
そう言えば、しばらく屋敷を移動する事すらしていない自分に、セドリュカは気付いた。
僅かな間でも、『資料』との格闘から解放されるのは、ある意味セドリュカとしても魅力的な提案である。
「・・・それで、彼らは今はどこに?」
「庭先にて『試験』を行っている様です。」
「そうか。では、しばらく出てくる。」
「ハッ、行ってらっしゃいませ。」
・・・
「ああ、お忙しい所すいません、ディアーナさん、セドリュカさん。」
「いえ、それは良いのですが、もう『共同研究』が完成したと伺いましたが・・・?」
ディアーナさんは、恐る恐る聞いてきた。
セドリュカさんも同様の表情だ。
まぁ、彼らからしたら、貴重な時間を割いているのだ。
中途半端なモノを見せるんじゃねーぞ、ってトコなんだろう。
「ええ、まだ完全な『完成』とは言えないのですが、おおよそは“形”にはなりました。口でご説明するのもあれですから、まずはご覧頂きましょう。レティシアさぁ~んっ!」
「はいっ!『試作機』、走行を開始しますっ!」
そう言うと、レティシアさんは専用の『始動キー』を差し込み、『魔素結界炉』が始動する。
この『始動キー』がなければ、『魔素結界炉』は始動しない様に、また、『始動キー』を外す事で、『魔素結界炉』が停止する様に設計されている。
盗難防止と、『魔素結界炉』の『劣化延命』を考えた仕様である。
その後、レティシアさんは『運転席』にて、『ハンドル』、『アクセル』、『ブレーキ』の『操作』を始める。
『ユーザビリティ』の観点からも、運転方法は可能な限りシンプルにした。
『ハンドル』で方向の修正、『アクセル』で加速、『ブレーキ』で減速である。
まぁ、その命令系・制御系の『術式』を理解するのは大変だろうが、『使用者』が利用する分には、それらの『操作』を行うだけで済む。
ドドドドドッ。
小気味良い『アイドリング音』と共に、『試作機』が走り始める。
「「おおっ!!!」」
ディアーナさんとセドリュカさんからしたら、“馬”や“牛”と言った『動力源』がないのに、動き始めた『試作機』に、驚愕の声を上げるが、『パワー』はともかく、『スピード』は大した事はない。
まぁ、それでも、『最高速度』は、通常の“荷馬車”よりも遥かに速い『スピード』を出せるが、この世界は『街道』くらいしか舗装がしっかりしている所がないから、今は『スピード』の事はあまり考えなくても良いだろう。
むしろ、『足回り』や『サスペンション』は、改良の余地があるかもしれないなぁ~。
「まぁ、『スピード』に関してはこんなモノですが、『パワー』は凄いですよ?アイシャさぁ~んっ!」
「はいはぁ~いっ!」
言って、アイシャさんに指示を送ると、ドでかい『岩』をアイシャさんは軽々と担いでくる。
『鬼人族』特有の『膂力』とアイシャさんの『レベル』なら、この程度の『岩』など大した重量ではないが、一般的にはとてつもない重さであろう。
おそらく、10トンは軽く越えているかな?
「「」」
「『開拓』や『開墾』をする上で、こうした『岩』や『樹木』が障害になる事があるかと思います。アイシャさんの『力』なら大した事はありませんが、一般的にはこうした障害物を撤去する為には、多大な労力を必要とします。しかし、この『試作機』を使えば・・・。レティシアさぁ~んっ!」
「了解ですっ!」
ティーネとリサさんの協力を経て、『試作機』の前面に『鉄板状』の物が取り付けられる。
言うなれば、一種の『ブルドーザー』である。
それで『岩』を目標に定めると、ズズズズッと軽々と『岩』を動かしてみせた。
「「おおっ!!」」
「と、まぁ、こんな感じです。で、一番大事な事は、今は『魔法士』のレティシアさんが『操作』していますが、少し『操作』を覚えれば、これは誰でも扱える事です。」
「なんとっ・・・!?」
「それは凄いっ・・・!!!これが一つあれば、『開拓』や『開墾』の進捗率が飛躍的に跳ね上がるぞっ・・・!!!」
「そうです。更に、これはそのまま『農作業』にも転用が可能です。もちろん、『費用』や『劣化』の問題はあるものの、その利便性はご覧の通りです。初めは皆さんで共同で購入し、『共有物』として一台あるだけでも、皆さんの作業効率も大幅に上がるでしょうし、『コスト』を抑えられれば、一家に一台と言うのも夢ではないでしょう。」
「「おおぉ~!!!」」
お二人に対するプレゼンは成功した様だ。
しかし、ここでセドリュカさんが疑問を呈した。
「それで?私達に意見を聞きたいと言うのは?」
「と、言うよりかはお願いですね。『人材』をご紹介頂きたいのです。まずは、『グーディメル家』から、この『プロジェクト』を統括する『リーダー』を、後は『スポンサー』や腕の良い『職人』さんなんかですね。もちろん、『グーディメル家』の『力』ならば、単独で製造、販売、流通を手掛ける事が可能でしょうが、それだと後々不利に働きかねない。大事なのは『利益』を独占する事ではなく、上手く“振り分ける”事です。そうする事によって、色々な人を『味方』につけやすくなるでしょう?」
「「っ!!!」」
「それに、僕らの『力』だけでは、これ以上の“車”や『アタッチメント』の改良は難しいのですよ。『貴族家』お抱えの『職人』さん達の意見や協力は広く募りたいですね。『パーティー』の時にでも、『余興』と言う事で、お披露目してはいかがでしょうか?」
「「・・・。」」
僕の言わんとした事が伝わったのか、ディアーナさんとセドリュカさんは深く考え込むのだったーーー。
誤字・脱字がありましたら、ご指摘頂けると幸いです。
ブクマ登録、評価、感想等頂けると幸いです。お嫌でなかったら、是非よろしくお願いいたします。
また、もう一つの投稿作品、「遊び人・ハヤトの異世界事件簿」も、本作共々御一読頂ける幸いです。