自律思考型魔道人形 試作13号機 エイル
続きです。
◇◆◇
「うぎゃあぁぁぁっーーー!!!手がっ、俺の手があぁぁぁっーーー!!!」
その日、ニコラウスは絶体絶命のピンチに陥っていた。
身勝手な理由から『ノヴェール家』のジュリアンを唆し、『掃除人』チーム・『ノクティス・フィーリウス』をアキトや『リベラシオン同盟』に差し向けさせたニコラウスは、紆余曲折を経て、アキトの『事象起点』の影響や、ハンス、ジーク、ユストゥスらの活躍によって、その『計画』は失敗に終わった。
また、ヴァニタスの介入により、アキトや『リベラシオン同盟』の動向を密かに監視する事が可能だった『失われし神器』の『模倣品』・『神の眼』を奪われ、ニコラウス本人は気付いていなかったし、通常ならそんな事はありえない事であったから想像もつかなかったと思われるが、彼の最大の『武器』であった『魔眼』もヴァニタスによって剥ぎ取られていた。
アキトの未知の『能力』(『事象起点』)と、ヴァニタスの警告に恐れをなしたニコラウスは、『ライアド教』から与えられたアキトの『監視者』としての任務を放棄して、行方を眩ませた。
以前に“仕込み”を済ませていた『ギアード組』に合流して、水面下で独自に『力』を蓄えようと画策していたのである。
ニコラウスが目をつけたのは、アキトや『リベラシオン同盟』の活躍によって失脚したレイモン伯や、壊滅した『ランツァー一家』が牛耳っていた、“勢力”や“権力”の『空白地帯』である『ダガの街』周辺の“稼ぎ場”であった。
もし、ニコラウスに『魔眼』が健在であったなら、『ギアード組』は、第2の『ランツァー一家』に成り上がっていたかもしれない。
しかし、先程も言及した通り、ニコラウスの『魔眼』はヴァニタスによって剥ぎ取られていたし、ちょっとした“事情”によって何としても点数を稼ぎたい『ダガの街』駐在の『騎士団』・団長のクロヴィエの“思惑”によって、『ダガの街』周辺の『騎士団』や『憲兵』達の取り締まりが強化されていた。
また、長らく『ランツァー一家』の襲撃を恐れ、物流が滞り気味だったところに、レイモン伯の失脚や『ランツァー一家』の壊滅によってようやく活気が戻ってきていた『ダガの街』周辺の治安を守ろうと、『冒険者ギルド』や『商人ギルド』が協力して、『守護者』の異名を持つ『A級冒険者パーティー』・『デクストラ』をはじめとした、名のある『冒険者パーティー』によって、この“稼ぎ場”に参入してきた『盗賊団』連中は、ことごとく駆逐されていった。
当然、『魔眼』を失ったニコラウスや『ギアード組』も例外ではなかった。
そんな訳で、『ダガの街』周辺は、今現在では一般市民にとって非常に快適で安全な街道へと変化していったのである。
“思惑”を外されたニコラウスは、『力』を失っていた事も含めて、荒れに荒れていた。
しかし、自暴自棄になったとしても、現状が変わる訳ではない。
命からがらそうした『警戒網』の網を潜り抜け、『ヒーバラエウス公国』側にニコラウスと『ギアード組』の生き残り達は逃げ延びたのだった。
以前にも言及した通り、『ヒーバラエウス公国』には、『盗賊団』が身を隠すにはうってつけの、手付かずの『遺跡類』が多数あった。
その一つに潜伏して、小規模な『冒険者パーティー』や『旅商人』などを襲いながら、何とか『ダガの街』周辺のほとぼりが冷めるのを待つ事としたのだ。
この『選択』が、ニコラウスの、その後の『命運』を変える事となる。
『遺跡類』は、長い年月による風化や浸食、動植物などが生息する事などによって、所謂『迷宮』めいた作りになる事が多い。
そうした場所には、人々が出入りしない事を良い事に、『盗賊団』が“アジト”にしたり、『魔獣』・『モンスター』の棲みかとなっている事が往々にしてあった。
ニコラウスらが身を隠そうと『選択』したその『遺跡類』も、まさに『魔獣』や『モンスター』の巣窟だったのである。
縄張りを荒らされれば、当然『魔獣』や『モンスター』達は、その『侵入者』を排除しようと襲ってくる。
『ギアード組』も、以前は『ロマリア王国』のとある山の洞窟に潜んでいたので、そうした縄張り争いは経験があったかもしれないが、土地が変われば生息している『魔獣』や『モンスター』の『種類』や『強さ』も変わる訳で、その『迷宮』内の『上位ヒエラルキー』に君臨する『魔獣』や『モンスター』達は、一介の『盗賊団』程度の『使い手』では歯が立たない『強者』達であった。
一人、また一人と『魔獣』や『モンスター』の餌食となっていく『ギアード組』を尻目に、ニコラウスは逃げ惑い、『遺跡類』の深部へと知らず知らずの内に突き進んで行く事となったのだった。
「グルルルルッ!!!」
「あひゃぁぁぁっーーー!!!く、来るなぁっ!!!来るなぁっ!!!」
ニコラウスは、『魔獣』・『金虎』に追い詰められていた。
(ここで、『魔獣』と『モンスター』の違いを簡単に解説しておこう。
『魔獣』とは、その名の通り、『獣』である。
こちらの世界に生息している野生動物は、『種類』や進化の過程はともかく、基本的性質は地球におけるそれと大差がない。
しかし、この世界には、地球にない要素、『魔素』がある為、その影響を色濃く受ける『種』もいるのである。
そうした『魔素』の影響を受けて、巨大化・凶暴化した『猛獣』全体を指して、『魔獣』と総称しているのである。
ただし、この世界にはまだまだ未確認の生物も多数存在するし、厳密には『魔素』の影響をそれほど受けていない『種』もいるのだが、とりあえず『獣』っぽいモノは全て『魔獣』と呼称されている。
一方の『モンスター』は、『ホブゴブリン』や『ゴブリン』などの例の様に、『妖精』や『精霊』などの所謂人が作り出した心の中の『畏れ』と、『魔素』が結び付いた結果生まれた、東洋における『妖怪』に近い『幻想種』の総称である。
それ故、『モンスター』と呼称されるモノは、外見が人に近しくなる傾向にある為に、『人間種』に近しい『亜人種』とする者もいるが、そこら辺の分類も明確化していない。
この世界の大半の人々にとっては、『魔獣』や『モンスター』の分類や境界は曖昧で、脅威と言う意味ではそう大差ないのである。
ただし、草食動物や『ホブゴブリン』の例もある様に、こちらが手を出さない限り大人しい性質のモノもいるので、必ずしも危険視する必要はないのだが、通常は意思の疎通が困難な為、彼らに遭遇した場合は、時に襲われるリスクを常に意識しておかなければならないのである。)
深部の『金虎』の支配するエリアに迷い込んだニコラウスは、冒頭の通り左手をその鋭い爪で切り裂かれていた。
なおもジリジリと間を詰めようとする『金虎』に、ニコラウスは奇声を張り上げながら、ジリジリと間を空けて懸命に生き残ろうともがいていた。
『金虎』は縄張りを荒らされて機嫌が悪かった。
しかし、先程まで『ギアード組』の連中を貪り食っていたので、空腹、と言う訳でもない。
それ故、自分の縄張りを荒らしたこの『闖入者』を一思いには殺さずに、あえて弄ぶ事で自身の“憂さ晴らし”をしようとしていたのだった。
深部は、開けた空間だった。
苔によるモノか、『鉱石』によるモノか、はたまたどこからか光が漏れ入っているのかは定かではないが、『迷宮』内にしては、ほのかに明るくなっている。
所々、『古代魔道文明』時代の『遺産』がそこかしこに見受けられるが、生憎とニコラウスにはそれらに目を向けていられる余裕はなかった。
「死にたくないっ!死にたくないっ!!死にたくないっ・・・!!!」
痛む傷口を押さえながら、朦朧とする意識の中で、それでもニコラウスは生に執着していた。
しかし、当然ニコラウスが進んでいる先は深部であり、逃げ道などあろう筈がない。
バンッ、と何かにぶつかり、ニコラウスは思わず転倒した。
「・・・えっ・・・!?」
何かの『液体』が満たしている密閉状の『水槽』がそこにはあった。
その『水槽』による光の反射の具合によって、もちろん、ハッキリと明るかった訳でもなく、ニコラウス自身の意識も朦朧としていた事もあったのだろうが、道が奥へと続いていると勘違いしていたのだった。
しかし、その先は“行き止まり”である。
その現実に、ニコラウスは目の前が真っ暗になった。
「グルルルルッ!!!」
「ひっ・・・!!!」
そこに悠然と『金虎』が歩んできた。
少しでも距離を取ろうと『水槽』に張り付いたニコラウスだったが、それ以上彼には為す術がなかった。
以前にも言及したが、ニコラウスは『魔眼』以外は、普通の一般人とそう大差のない『ステイタス』構成をしている。
『武術』・『武器術』の『使い手』でもなく、『魔眼』自体は失われたものの、依然として『魔素』との『親和性』自体は非常に高いのだが、『魔法技術』を学んでこなかったので『魔法』も使えない。
しかし、冷たい話、これもニコラウスの『選択』してきた『結果』である。
『金虎』も、目の前の『ニコラウス』がもう詰んでいる事に気付いたのだろう。
つまらなそうに、その鋭い爪を降り下ろした。
「ぎゃあぁぁぁぁっーーー!!!」
ズダァンッ!!!
パリンッ!!!
「ガウッ???」
勢い余って、『金虎』はニコラウスの右足首を持っていくのと同時に、彼をその『水槽』に叩き付けてしまったのだった。
長い歳月の末に耐久力が低下していたのだろうか?
鈍い音と甲高い音が鳴り響き、謎の『液体』を撒き散らしながら、頑丈そうな『水槽』はアッサリと壊れてしまったのである。
その『液体』が自身の身に掛かるのを嫌って、『金虎』は一旦後ろに下がった。
一方のニコラウスは、右足首を無くした激しい痛みと、『水槽』を覆っていた“ガラス”の様なモノに右目を引っかけて片目の視力を失いつつ、謎の『液体』によって呼吸が出来ずに溺れかけていた。
しかし、そんな満身創痍ながらも、ニコラウスの生への“執着心”は衰える事がなかった。
(いたいっ!死にたくないっ!いたいっ!たすけてっ!いたいっ!死にたくないっ!いたいっ!たすけてったすけてったすけてったすけてっ!!!)
「・・・?・・・!」
そのニコラウスの『渇望』が、『水槽』の中にいた『何か』を揺り動かしたのか。
ちょうど、謎の『液体』が引き、偶然にもニコラウスの下にその『何か』が滑り込んでいた。
それに、ニコラウスの右目から滴り落ちた血がポタリッと落ちたのだった。
「・・・『契約者』候補、ノ、『アクセス』、ヲ、確認、シマシタ・・・。・・・エラー・・・。『魔素親和性』、ハ、一定レベル、デ、アル、ト、認メル、モ、レベル、ト、『アストラル』・『マテリアル』、共ニ、既定ライン、ニ、達シテ、イマセン・・・。再検査、ト、『データ』、ヲ、分析中・・・。・・・完了・・・。周囲、ニ、該当人物、確認、デキズ・・・。仮称、『仮契約者』、ト、『契約』、シナイ、場合、99%、ノ、確率、デ、本機、ノ、機能停止・・・。『仮契約者』、ト、『契約』、シタ、場合、87%、ノ、機能低下・・・、タダシ、最低限、ノ、機能継続、ハ、可能・・・。」
「な、何だっ!!!???」
「グルルルルっ!!!」
『水槽』の中でたゆたっていたそれは、『水槽』が壊れた事で、その『封印』が解けたのか、ゆっくりと『起動』を開始した。
それに面食らって、痛みや状況も忘れて、ニコラウスは驚愕の声を上げた。
先程まで余裕の態度だった『金虎』も、それには警戒の唸り声を上げた。
「・・・結論・・・。機能継続、ヲ、最優先、ト、スル・・・。『適合者』、ガ、現レル、マデノ、緊急措置、ト、シテ、『仮契約者』、トノ、一時的『契約』、ヲ、承認・・・。・・・マスター、ゴ命令、ヲ・・・。」
「へっ・・・?」
それが、ニコラウスと“13号”の出会いだったーーー。
◇◆◇
自律思考型魔道人形 試作13号機 エイル。
それが、ニコラウスが“13号”と呼ぶ者の正式名称であった。
これは、『古代魔道文明』の末期に、とある目的で『計画』され、最終的には『完成』を見ずに『廃棄』、正確には『古代魔道文明』自体が崩壊した為に、『歴史』の彼方に忘れ去られたモノであった。
エイルは、その中でも最後期に『開発』されたモノで、現代地球の『科学技術』すら軽く凌ぐ、超高度な『古代技術』によって作り出されている。
それが、同じく『古代技術』によって生み出された『密閉型培養槽』に保護されていた事、『遺跡』自体が地中深くに埋没した事による風化や浸食からの保護の機能を果たした事、エイル自体に『搭載』された『自己修復機能』など、様々な奇跡的な偶然が重なって、ほぼ無傷のまま“現代”にまで遺されていたのだった。
アキトやリリアンヌがエイルの存在を知れば、目の色を変えてすっ飛んで来る事だろう。
なぜなら、まさにエイルは、生きた『古代技術』そのものなのだから。
そして、エイルがより稀なところは、ほぼ完全な“自律思考”が可能な点にあった。
エイルが『契約者』と呼ぶ者との『契約』が必要なものの、エイルには『自己』で分析、判断、行動すると言った、『人間』の様な“思考”が可能だったのである。
「・・・マスター・・・?」
「あっ・・・?えっ・・・??はっ・・・???」
エイルの呼び掛けに、ニコラウスはもはやパニックであった。
ただでさえ、四肢が欠損し、痛みで意識が朦朧とし、絶体絶命のピンチの場面で、『人間』の少女そっくりの、しかし明らかに『人』ではない『何か』から呼び掛けられたとしても、自分の頭がおかしくなったのではないかと疑うのは無理はないだろう。
しかし、エイルは、そんな事とは露知らずに、ニコラウスの『生体情報』をスキャンしていた。
「・・・スキャン完了・・・。『仮契約者』ノ、著シイ身体機能低下、ヲ、確認・・・。・・・コノママ、治療、ヲ、施サナケレバ、95%、ノ、確率、デ、『仮契約者』、ノ、生命機能、ハ、停止、スル、恐レガ、アリマス・・・。・・・緊急措置、ト、シテ、『生体リンク』、ヲ、応用シタ、“疑似”『回復魔法』、ニ、ヨル、治療、ヲ、開始、シマス・・・。『ヒールビーム』ッ!」
「こ、今度は、何だっ!!!???」
「ガウッ!?」
エイルから照射された謎の“光”が、ニコラウスを包み込んだ。
それを受ける事で、ニコラウスは不思議な事に、欠損した四肢は流石に元には戻らなかったが、痛みや傷が嘘の様に引いていったのだった。
「っ!!!???」
「・・・完了・・・。生命機能、ノ、停止、ノ、危険、ハ、ナクナリ、マシタ・・・。」
「お、お前が助けてくれたのかっ・・・?」
「・・・イエス、マスター・・・。・・・『生命リンク』、ヲ、応用、シテ、マスター自身、ノ、『アストラル』、ヲ、用イテ、治療、ヲ、施シマシタ・・・。タダシ、マスター、ノ、レベル、デハ、多用、ハ、厳禁、デス・・・。」
「???・・・よく分からんが、その『マスター』とは何だ?」
「・・・私、ト、『生体リンク』、ヲ、繋イダ、『契約者』、ノ、呼称、デス・・・。・・・ソノ、呼称、ガ、気ニ入ラナケレバ、呼称、ノ、変更、モ、可能、デス・・・。」
「『契約者』・・・?俺がお前の“主人”と言う訳かっ・・・!?」
「・・・イエス、マスター・・・。タダシ、コノ、『契約』、ハ、一時的、ナ、モノ、デス・・・。・・・マスター、ノ、レベル、ト、『アストラル』・『マテリアル』、共ニ、既定ライン、ニ、達シテ、」
「ああっ、細かい事はいいっ!よく分からんからなっ!ただ、俺がお前のマスターになった。それで間違いないんだなっ!?」
「・・・イエス・・・。」
「っしゃあっ!ツイてるぜっ!じゃあ、質問だっ!お前、アイツを何とか出来るかっ!?」
ニコラウスはエイルと会話を交わしながら、エイルを警戒したまま近付いてこない『金虎』を指差した。
エイルは、『金虎』の方を向き直り、ニコラウスに問いに答えた。
「・・・『データ』、ニ、該当、ノ、存在、ハ、確認、出来ズ・・・。アナライズ開始・・・。・・・完了・・・。・・・仮称、『ビーストα』、ト、固定・・・。・・・脅威度、C+・・・。現在、ノ、本機デモ、迎撃、ハ、十分、ニ、可能、デス・・・。・・・迎撃、ヲ、開始、シマスカ・・・?」
「出来るのかっ!?」
「・・・イエス・・・。」
「なら、やってくれっ!!!このままだと、俺は食い殺されちまうっ!!!」
「・・・イエス、マスター・・・。」
「グルルルルッ!!!ガウッ!!!」
「ひぃぃぃぃっーーー!!!」
そう言うと、エイルは改めて『金虎』と対峙した。
『金虎』は、それを確認するも、先程の警戒が嘘の様に、先手必勝とばかりにニコラウスとエイルに襲い掛かった。
『金虎』は、『魔獣』、あるいは野生動物としての“感覚”として、生来、『気配感知スキル』を有している。
しかし、エイルからは所謂『生体反応』が感じられず、それにも関わらず動いていた事に驚き、警戒していたのだった。
しかし、『生体反応』が無いと言う事は、『金虎』の“感覚”では、死んでいるか、死にかけている、と言う事である。
そんなモノに、『強者』である自分が恐れる事は何もない、と判断したのだった。
しかし、
「ガッ・・・!!!???」
「・・・『ウォーターカッター』、射出・・・。・・・命中・・・。『ビーストα』、ノ、沈黙、ヲ、確認・・・。」
「へっ・・・?」
エイルが放った『古代語魔法』の一種である『ウォーターカッター』、水に超高圧を掛ける事によって金剛石すら容易に貫く、言わば『水鉄砲』の超強化版の様な『魔法』によって、『金虎』は心臓を射抜かれてアッサリと沈黙したのだった。
あまりにも呆気なく脅威が去った事に、ニコラウスは暫し呆然としたのだが、その事実が徐々にニコラウスの脳に染み渡ってくると、ニコラウスは狂喜乱舞した。
「は、ハハハッ、アハハハハッ!!!凄い、凄いぞっ!!!俺は、凄いモノを手に入れたんだっ!!!俺の『運』は、まだまだ尽きちゃいないぞっ!!!」
『強敵』である『金虎』をアッサリ迎撃してみせたエイルの『性能』に、ニコラウスは喜び、しかも、その『所有者』になった事が更にニコラウスを浮かれさせていた。
もちろん、ニコラウス自身が無くした『魔眼』も、左手、右足、右目も元には戻らないが、それを埋めて余りある『力』だと判断したのだった。
「・・・そう言えば、お前を何と呼べば良いのだ?」
一頻り感情を爆発させたニコラウスは、冷静になった事によって、ぽつりとそう溢した。
それに、エイルは反応して答える。
「・・・私、ハ、『魔道都市ラドニス』、製造、ノ、『魔道兵量産計画』、ノ、『試作機』、デス・・・。・・・正式名称、ハ、『自律思考型魔道人形 試作13号機』、愛称、ハ、『エイル』、デス・・・。」
「・・・ラド・・?・・・自律・・・13号・・・??」
『古代魔道文明』の重要な『真実』を仄めかすエイルに、しかし、そうした『知識』に乏しいニコラウスは困惑した。
ニコラウスの“感覚”では、エイルの存在は都合の良い『道具』でしかない。
故に、ニコラウスには、『エイル』を愛称で呼ぶ趣味はなかった。
「よしっ、それじゃあ、“13号”っ!お前のマスターとして命令するっ!!!俺の『再起』を手伝えっ!!!」
「・・・イエス、マスター・・・。」
こうしてニコラウスは、エイルの『力』を借りて、『ヒーバラエウス公国』での『裏社会』での『地位』を、確立していったのであったーーー。
◇◆◇
あの『魔道人形』を何としても手に入れたい。
ハイドラスは、そう考えていた。
もちろん、ハイドラスには、自身の『駒』としての『血の盟約』のメンバーや、自身には直接の『命令権』はないものの、『英雄』・アキトに対抗する事が可能な『異邦人』達を、ほぼ手中に収めている。
とは言え、これは前例がない事なので、ある意味必然だったのかもしれないが、『異邦人』達を召喚した影響で、『失われし神器』・『召喚者の軍勢』は、その『機能』を完全に失ってしまったのである。
原因は不明だが、『異邦人』達を、『データ』のみならず『魂』までも一緒にこちら側に喚んでしまった事が、『召喚者の軍勢』に過剰な負荷を掛けてしまったモノだと推察出来る。
まぁ、それはともかく。
『戦力』としても、『思想』としても、表から裏から『ハレシオン大陸』を征服するに足る『力』を手にしつつあるが、それでもやはり不安要素はあった。
アキトとその一派はもちろんの事、先程『駒』の一つである『血の盟約』のメンバー、エネアとの『リンク』を強制的に途切れさせた、エイルの存在である。
この世界に眠っている『古代魔道文明』の『遺産』は、それこそ数多く存在するのだが、今現在発見されている物は、その中でも極一部である。
その中でも、とりわけ“使える”物は、更に稀少性が高い。
『英雄神』・セレウスの予測通り、『ハレシオン大陸』の『覇権』を手中に収めるには、そうした『古代魔道文明』の『遺産』をより多く手にした者が有利である事は、ハイドラスも当然気付いていた。
しかし、『古代魔道文明』の『遺産』を発見・発掘、更に研究・解析するにはそれ相応の時間が掛かる。
ならば、当然、現在ある物を強奪した方が早いとの結論になるのは、ある種必然であろう。
特に、『血の盟約』のメンバー、『S級冒険者』クラスの『使い手』であるエネアを簡単に退けてみせ、更には『魔道兵量産計画』を一端を知るハイドラスが、エイルを手に入れたいと考えるのは当然の帰結だった。
しかし、ここで問題が生じていた。
どうやってエイルを確保するか、であった。
エイルの『性能』は、ハイドラスをしても未知数であった。
現在分かっている点は、『S級冒険者』クラスの『使い手』を簡単に退ける『力』を持ち、『強制アストラルリンク』すらも検知、切断する『能力』だけである。
それだけでも驚異的な『性能』なのだが、『魔道兵量産計画』そのものは知りつつも、その全容までは把握していないハイドラスは、人選に苦慮していた。
エネアの例から分かる通り、自身の持つ“最大戦力”である『血の盟約』のメンバーでさえ、エイル相手には分が悪過ぎる。
『血の盟約』のメンバー達を一斉にエイルにぶつけたとしても、最悪全滅すらありうるのである。
徒に自身の『駒』を消費するのは悪手である。
ならば、やはり『異邦人』達を上手く使うしかないだろう。
そう結論付けて、ハイドラスは心当たりのある人物を利用するべく、行動を開始するのだったーーー。
誤字・脱字がありましたら、ご指摘頂けると幸いです。
ブクマ登録、評価、感想等頂けると幸いです。お嫌でなかったら、是非よろしくお願いいたします。
また、もう一つの投稿作品、「遊び人ハヤトの異世界事件簿」も、ボチボチ更新していますので、本作共々、御一読頂けると幸いです。