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『英雄の因子』所持者の『異世界生活日記』  作者: 笠井 裕二
幕間 ロマリア王国史
80/383

望んだ結果と望まぬ結末

お待たせしました。

またボチボチと投稿を再開したいと思います。


今回は幕間の話です。

少しややこしい『政治』の話ですが、上手く表現出来てるかなぁ・・・。


次回から新章に突入します。



◇◆◇



「………貴殿が我が国に与えた打撃は計り知れない。しかし、貴殿の名誉も考慮し、また()()()()における『ノヴェール家』の貢献は我が国としても無視出来ないモノである。よって、フロレンツ・フュルスト・フォン・トラクス、貴殿には『爵位』の剥奪と“名誉ある死”をマルク国王陛下の名のもとに命ずる。異論のある者は挙手をっ!」

「「「「「「「「「「・・・。」」」」」」」」」」

「ふざけるなっ!!!これは何の“茶番”なんだっ!!??私を誰だと思っているっ!!!誰がっ・・・!!!」

「静粛にっ!!!貴殿も『()()』であるなら、最後まで『()()』らしくありなさいっ!!!」


ロマリア王国にて、『貴族』の『裁判』を取り仕切る裁判長にして、フロレンツと並んでロマリア王国の『政界』に強い『影響力』を持つ二大巨頭の片割れであり、ロマリア王国の現・元老院議長、マルセルム公爵が一方的とも言える態度でそう述べた。

そこには、シンッと静寂が包む元老院議事堂にて、半狂乱になりながら絶叫するフロレンツの姿もあったーーー。



『司法』が正式に体系化されたのは、『地球』においても意外にも近世に入ってからだそうである。

と言うのも、所謂『三権』を保持していた者が誰なのか、その所在が曖昧だった事に由来する。

『三権』、すなわち、『立法権』・『行政権』・『司法権』である。

現代の『地球』の大半の『国』では、それは『国会(立法権)』、『内閣(行政権)』、『裁判所(司法権)』と明確に定められているが、絶対君主制などの場合は、極端な話、『王』が『法』であり、『(まつりごと)』を司る者であり、『裁判長』も務める、なんて事がしばしば横行していた。

言うなれば、“権力の一極集中”である。

しかし、実際にはその“業務内容”はとても一人では捌ききれる量ではなく、その多くは『王』の配下が『代行』している事が主であった。


その『代行機関』がロマリア王国(この国)における『元老院』の始まりであった。

元老院とは、元々『王』に対する『助言機関』であったのだが、その『権限』が徐々に増大していくと『王』に成り代わる『統治機関』へとその姿を“変貌”させていった。

が、『名目(建前)』としては、元老院は『王』の『代行機関』に過ぎず、その『権力』の行使も、『王』の『権力』を間接的に行使しているに過ぎない、と言う(てい)になっている。

とは言え、そうした『代行機関』を構成する者達も、当然『一般市民』、所謂『平民』から選出される訳ではない。

それを担うのは、当然『貴族』達である。

故に、『貴族』と『平民』の間に、『権力』や『発言力』・『影響力』などにおいて、明確に身分の差がより大きくなる事の要因ともなっているのであった。

また、その事が『貴族』の『影響力』を更に増大させ、『王家』を脅かす要因ともなったのである。


ちなみに、よく一般的に『貴族』と言うが、その『立場』になる為には、国や時代によって様々な形が存在する。

例えば、『王』が『国』を盗る時に、その配下であった者達が、戦功によって下肢された『土地』をもとに『影響力』・『発言力』を強めていき、『貴族』と呼ばれる者達が現れ始めたり、『国』を発展させる上で、『功績』を認められた者達が『貴族』に選出されたり、中には有力な『貴族』の『パーティー』に呼ばれると『貴族』になる、などと言う、何ともいい加減なモノまで存在する。

結構そこら辺も曖昧でいい加減なのである。

まぁ、ロマリア王国(この国)における『貴族』と呼ばれる者達は、その『家』の祖となった者達が、戦功をあげた者達である事はまごうことなき歴史的事実であり、その事を誇りに思っている『家』では、慣習的に『武官』を輩出する事を誉れとしている『家』もある。

しかし、その殆どは、先祖が聞いたらさぞ嘆き悲しむ様な、肥太った『政治家』になる事が往々にしてあった。

だがしかし、それも致し方ない部分もある。


『戦功』を多くあげる、と言う事は、すなわち、『戦争』が多くある、と言う事でもある。

『国』を興してからしばらくは、様々な『争い』が数多く起こり、その分戦功をあげる機会も多くなる訳だが、『国』が安定化していくにつれて、所謂『戦場働き』では『点数』を稼ぐ事が難しくなっていく。

そうなれば、次は所謂『内政』で成果をあげた者達が重宝される様になる。


『国』の設立当初は、当然、所謂『第一次産業』と呼ばれる分野を開拓した者達が、強い『影響力』・『発言力』を得るに至る。

『第一次産業』、すなわち、農業、林業、(鉱業)、漁業などである。

安定した食糧の確保は、人が『文化』や『文明』を発展させる上では重要な要素だ。

つまり、農業改革と農地開拓で成功した者達は、その後の鉱業や、それに伴う『第二次産業』、すなわち、製造業、建設業などにおいても大きな『アドバンテージ』を得る事となる訳である。


フロレンツの生家である『ノヴェール家』も、『トラクス領』の『領地経営』、農業改革や農地開拓などを足がかりに、その後様々な分野の産業でその膨大な資金を投資しては成功を収めてきた『家』である。

そうした『家』は、『王家』からしたら、『知恵者』を多数輩出した『家』とも言える。

そうなれば、その『知恵』を『(まつりごと)』にも活かしてほしいと願うのは、まぁ、当然の流れであろう。

程なくして『地方の名士』から、『中央政治』の『政治家』として、『ノヴェール家』はその名を轟かせる事とあいなったのである。


しかし、長らく『貴族社会』にどっぷりと浸かっていると、いつしか大なり小なり『グレーゾーン』を含む『不正行為』に関わる事が往々にしてある。

その背景には、『国』を安定化させる上で『潤滑油』ともなったその『貴族』達の莫大な資金が、『王家』にとっても無視出来ないモノになり、『貴族』の『影響力』が増大した事に起因している。

そうなれば、例え『王家』であろうとも、明確な『証拠』を押さえられなければ、簡単には『貴族』達を『処分』出来なくなると言う“事情”があった。

それを良い事に、『権力』を後ろ楯とした癒着や贈賄の様な汚職なども横行していくのである。


もちろん、『王家』としても、それは頭の痛い問題であるので静観する事はない。

しかし、『貴族』達も保身に長けているモノで、以前にも言及したが、『王家』が送り込む『間諜(スパイ)』に対して、独自の『セキュリティ(私兵)』を囲い混む事で対応し、ボロが出ない様に上手く立ち回るのである。

そこはもう、それこそ“イタチゴッコ”であった。


その末で、フロレンツ達の世代となると、フロレンツを筆頭とした『貴族派閥』と、マルセルム公爵を筆頭とした『王派閥』がロマリア王国では対立していたのだが、フロレンツの強い『影響力』によって『貴族派閥』が優勢に立ち、ロマリア王国(この国)の『立法権』・『行政権』・『司法権』などの『権力』は少しずつ『貴族派閥(フロレンツら)』に掌握されつつあったのだった。

フロレンツの『野心』は、そう遠くない未来に成るーーー、()()()()



しかし、そこに『ライアド教・ハイドラス派』の介入と、()()()()()()()()()、突如介入してきたアキト達の存在によって、フロレンツ、ひいては『貴族派閥』の『命運』は一変する事となった。


以前にも言及したが、“例の一件”からフロレンツはアキトの『支配下』に置かれていた訳だが、『リベラシオン同盟』と『ノヴェール家』が『協定』を結んでからは、実はフロレンツに使用された『隷属の首輪』と『主人の指輪』、そしてその『所有権』をアキトは『ノヴェール家』に譲渡していた。

つまり、『ノヴェール家』がフロレンツを『解放』しようと思えば出来る状態だったのだが、しかし、フロレンツが『解放』されたのは、全ての『準備』が整った後であった。

『準備』、すなわち、各方面に対する『根回し』である。


アキトも『リベラシオン同盟』を介して『ノヴェール家』に使った手だが、大抵の『交渉』においては、そのテーブルについた時にはすでに全てが()()()()()()、と言う事が、事『交渉事』においては良くある話である。


以前にも言及したが、フロレンツの過去の『功績』は大変素晴らしいモノであった。

しかし、その『裏』で行った様々な『不正行為』は、残念ながらそれを持ってしても帳消し出来ないモノであり、アキトと『リベラシオン同盟』にその数々の『証拠』を握られてからは、『ノヴェール家』は完全にフロレンツを見限っていた。

これは、冷たい話、言わば『損得勘定』も関係してくる。


悪い言い方で表現すると、『ノヴェール家』はアキトと『リベラシオン同盟』にある意味『脅迫』されていた形になる訳だが、アキトの恐ろしいところは、その全ての『逃げ道』を塞ぐのではなく、あえて『逃げ道』を用意しておき、更にその『逃げ道』が一番“生存率”が高く、なおかつ、もちろん『ノヴェール家』の貢献次第ではあるが、将来的な『利益』はフロレンツの『価値』の比ではないところであった。

単純に『力』で従わせるのではなく、相手にも『メリット』を提示する事で、少しずつ『人心』を『掌握』する。

それが、一番賢いやり方だと理解していたのである。


しかし、これについては、アキトが特別優れているからではない。

アキトの『前世』における『知識』から、様々な『歴史』・『データ』を参考に、一番“成功率”の高い『ケース』を算出しただけに過ぎないからである。


『日本』においては、『切腹』と言うモノがあるが、実はこうした『形式』の『刑罰』は世界各国に存在する。

これを『賜死』と言うのだが、これはある種の『刑罰』でありながらも、『政治的』な『落とし所』でもあった。

良く勘違いされるのだが、別にこれらは「名誉ある死」とか、そう言う高尚なモノではなく、あくまでもっと『現実的』かつ『政治的』な話なのである。


例えば、とある『企業』において、優秀な『創業者』がいたとしよう。

長い年月をかけて、その『創業者』が『組織』を大きくしたのだが、その『創業者』の『経営スタイル』は『ワンマン経営』であった。

それで上手く回っている内は良いのだが、いずれはその『経営スタイル』だけでは『内部』から不満が出始めたり、業績が伸び悩んでしまう時期が来るだろう。

そうなれば、その『企業』の『幹部』達の頭に『創業者』の『退陣』がちらつき始める。

もちろん、『ワンマン経営者』である『創業者』がそれに納得する筈がないのだが、確かに彼が作り上げた『組織』ではあるものの、その『企業』はすでに『社会的立場』を持ち、なおかつ『企業』の『構成員』達全体の“共有財産”でもあるのだ。

『創業者』の“わがまま”で好き勝手やれる時期は、とっくに過ぎ去っていたのである。

そして、その『創業者』が、大きな『スキャンダル(火種)』を抱えていたとしたら・・・。

その『スキャンダル(火種)』は、『創業者』どころか『企業』全体も飲み込む可能性があるとしたら・・・。

普通に考えれば、『創業者』は排除されて然るべきであろう。

そうしなければ、『企業』自体の延命を図れないのだから。


それと似た様に、『日本』の『切腹』も、あるいは『賜死』も、所謂『死刑』ではあるものの、ある種の恩情でもあり、責任を取る形での『刑罰』であり、それを受け入れる事で、連座を免れる措置でもあった。

事実、『貴族』やそれに近しい『家臣』が一身に責任を取る形で『切腹』を受け入れ、結果的に『爵位』や『御家』・『領地』を守る事が出来た例も多数存在する。

もちろん、それを拒否した場合は、『御家取り潰し』、となる訳だが。


そして、前述の通り、フロレンツの様に見苦しくもそれを拒否する者も一定数いる。

これは、フロレンツが中途半端に優秀な上で、それまでの『経験』に裏打ちされた無駄に高い『自尊心(プライド)』があるからであった。

しかし、過去に優秀であったからと言っても、自身の行いで晩節を汚す例は枚挙に暇がない。

フロレンツは、すでに“引き際”を読む『能力』さえ失っている、と『ノヴェール家』は判断していた。

そしてそれは、冒頭のセリフからもその判断は正しい。

故に、『ノヴェール家』はフロレンツを『解放』しないまま、『外堀』を完全に埋める事としたのだ。

フロレンツに好きに動かれる事で、最後の“悪あがき”をされない様に。


『ノヴェール家』がまず行ったのが、同じ『貴族派閥』に対する『司法取引』であった。

フロレンツは狡猾な男で、『貴族派閥』・『王派閥』に関わらず他の『貴族』の弱みを多数収集していた。

もちろん、自分に逆らえない様にである。

特に、『裏』で『エルフ族』や『他種族』の『人身売買』に関与していたフロレンツと同じ穴の狢には、より一層念入りに『調査』させていた。

その事で、『裏切り』を未然に防いでいたのである。

それをそのまま流用し、『ノヴェール家』は『貴族派閥』を掌握したのである。

もちろん、アキトに倣って、相手にも『メリット』を提示して。

フロレンツと共に『心中』するか、『社会的制裁』は受けるものの生き永らえるか、どちらが『得』か、普通に考えれば天秤に掛けるまでもないだろう。


そして、その後は『王派閥』に『裏取引』を持ち掛け、表向きは『対立』しながらも、『裏』では繋がっていると言う状況にまで持っていったのである。

マルセルム公爵が、現・元老院議長を務めているのも、その一環であった。

元老院議長とは、『ロマリア王国(この国)』においては、『王』に次ぐ『権力』の持ち主である。

そこの長にマルセルム公爵が就いた事で、『王家』と『王派閥』は完全に息を吹き返したのだった。


もちろん、今度は『王家』が、あるいは『王派閥』が腐敗する事はあるかもしれないが、アキトもそこまで考えて設立した訳ではないのだが、それを是正する『第三者機関』としての『リベラシオン同盟』の存在があるので、『リベラシオン同盟』自体が腐敗でもしない限り、現状のロマリア王国(この国)の『政治』が悪い方に行く事はもうないだろう。


とまぁ、こんな感じで全ての『根回し』が終わり、冒頭の様に、フロレンツが『解放』されたと同時に元老院議事堂にてフロレンツの『結末』の決まっている『形式上』の『裁判』が開始されたのであったーーー。



◇◆◇



「父上、なぜフロレンツ候ごと『ノヴェール家』を罰しないのですかっ!?確かに『王家』や『王派閥』が『政権』に返り咲けたのは『ノヴェール家』の貢献は大きかったとの“噂”は聞き及んでいますが、それでも、フロレンツ候の行いは『重罪』でしょうっ!?何せ、『()()()()』の『疑い』まであるのですよっ!?“見せしめ”としても、フロレンツ候の『処刑』と『ノヴェール家』の『御家取り潰し』は妥当だと自分は考えますがっ?」

「ティオネロよ、『政治』とはそんな単純なモノではないのだ。お主はまだ若いから分からぬかもしれんが、『為政者』には時に清濁併せ呑む度量も必要なのだよ。ロマリア王国(この国)の将来の為には、『ノヴェール家(彼の家)』の『力』は絶対に必要だし、すでにこの件は、フロレンツ候を『処罰』する事で“幕引き”とすると各方面とは話はついているのだ。いくら私の『権限』を持ってしても、それを覆す事は出来んし、するつもりもない。『大局』を見誤り一時の“感情”で早急な行いをすると、手痛い“しっぺ返し”があるモノなのだよ。まさに今のフロレンツ候の様にな・・・。」

「・・・ふんっ、『政治』とは、とんだ“茶番”なのですねっ!!」

「だが、そうした“茶番”も時に必要なのだ。()()納得は出来ないかもしれないが、頭には入れておきなさい。」

「・・・。」


元老院議事堂の一画には、現・『国王』のマルク王と、その第一王子にして、王位継承権一位のティオネロ皇太子の姿もあった。

『貴族派閥』が『権力』を掌握していた頃は、“お飾り”に成り下がった『王』であったが、『王家』と『王派閥』が息を吹き返してからは、その『権威』も復活していた。

もちろん、『統治機関』としての元老院は存続しつつも、『王』の『威光』は正常化し、マルク王はティオネロ皇太子にはそう言ったものの、彼の()()『権限』なら、その『結論』を覆す事は可能だった。

しかし、それははっきり言って悪手でしかない。

今の『ハレシオン大陸(この大陸)』の情勢を鑑みれば、一国の小さな『権力争い』など、ただの時代遅れの足の引っ張り合いでしかないのだから。


ちなみに、ティオネロ皇太子は、アキトの双子の兄であり、もちろんあらゆる意味で“特殊”なアキトとは比ぶるべくもないが、13歳と言う年齢を考えれば、非常に優秀な部類に入る少年に成長していた。

しかし、少年特有の“潔癖”とも言える『正義感』、と言うか、己の中の絶対の『正義』と言う“幻想”にとらわれ過ぎて、こうした大人、あるいは『政治』の汚ない話に対してある種の『嫌悪感』を抱いていた。

ある意味では、しばらく前の『ノヴェール家』のジュリアンと同じ様な感じである。

しかし、それは裏を返せば真っ直ぐ成長している、と言う事でもある。

皮肉にも、『王家』の『権威』が低下していた事で、汚ない『権力争い』に晒されずに来た事がティオネロ皇太子の健全な成長に一役買ったのである。

だが、彼はこれからはそうした『海千山千』の『狸親父』達と渡り合っていかねばならない『立場』だ。

そうした事もあり、経験を積み重ねる上でも、今回、ティオネロ皇太子はマルク王と共に、フロレンツの『裁判』を見届けているのであった。



「………異論はない様ですな。では、フロレンツ殿の『処罰』を持って、この『裁判』を結審とする。なお、フロレンツ殿の剥奪された『爵位』と『権限』は、そのまま『ノヴェール家』のジュリアン殿に譲渡する事とする。その決定に、異論のある者はおりませんかっ!?」

「「「「「「「「「「・・・。」」」」」」」」」」

「・・・どうなっているんだっ!?おいっ、貴様らっ!!!裏切ったのかっ!!??」


すでに“出来レース”と化したフロレンツの『裁判』だったが、当のフロレンツ(本人)以外にはそれぞれの『思惑』はともかく、異論が出よう筈もなかった。

()()()()()()、『()()()()()()()()()

フロレンツは何やら喚いている様だが、それもすでに誰の耳にも届く事はなかった。


「………異論はない様ですな。では、ジュリアン殿には『侯爵』の『爵位』と『権限』を譲渡する事とする。」

「謹んで拝命致します。」

「うむ。では、これにて『裁判』は閉廷とする。本日の審議は以上。散会。」


滞りなく『裁判』が終わり、アッサリとフロレンツの『処罰』が決定された。

突然の“結末”に茫然自失の(てい)となったフロレンツを尻目に、元老院議員の『貴族』達は、ガヤガヤと議事堂を後にする。

マルク王とティオネロ皇太子もフロレンツを一瞥してその場を去った。

ティオネロ皇太子は、何事か言いたそうだったが、自身の発言の持つ『重み』は理解しているのか、それを表に出す事はなかったーーー。



◇◆◇



ジュリアンは、近衛兵に引き連れられた、もはや魂の抜けた状態のフロレンツを伴い、元老院議事堂の会議室の一室に移動していた。

そこには、ガスパールとオレリーヌ、そして、マルセルム公爵の姿もあった。


「お疲れ様でした、マルセルム公爵閣下。」

「おお、ジュリアン卿。貴殿もな。」


二人は『敵対派閥』ではあるものの、すでに『裏』で手を結んでいる彼らは和やかな雰囲気であった。


「ガスパール様とオレリーヌ様と今後の打ち合わせですか?」

「うむ、フロレンツ殿の『処分』結果を元老院で『確認』してから、“例の件”へと持ち込まなければならんからな。それの経過の確認に。」

「そちらの“件”でしたら、ご心配には及びません。本日、元老院議会にて、伯父上の『処罰』が()()に決定致しましたので、話を進めたいと思います。後日、ロマリア王国(この国)にも、正式に『エルフ族』の使者が訪れる事でしょう。」

「『エルフ族』と正式に『友好関係』が結べれば、『トロニア共和国』の心証も良くなるでしょう。長らく国家間の交流の途絶え気味だった『トロニア共和国(彼の国)』とロマリア王国(我が国)の『国交回復』が、より一層現実味を帯びてきた訳ですわね。」

「うむ。後は『ヒーバラエウス公国』だが・・・。」

「そちらもお任せ下さい。(くだん)の『英雄』殿が直接赴いております。吉報を持ち帰るのも、そう遠い未来ではありますまい。それまでに、我らは我らでロマリア王国(この国)を磐石なモノとしておけば、即座に対応が可能でしょう。」

「ほうっ!?噂の『ルダ村の英雄』殿が、ですかなっ?」


マルセルム公爵は、アキトの名を匂わされてピクンッと反応した。

ロマリア王国(この国)の『貴族』達には、すでにアキトの“名”と『リベラシオン同盟』の存在は無視できないモノとなっていた。


「ええ。何でも、調査も兼ねて『ヒーバラエウス公国(彼の国)』が抱えてる『問題』の解決に乗り出す様でして・・・。」

「彼の『英雄』殿は、そんな事も可能なのかっ!?」


驚愕の表情を浮かべるマルセルム公爵に対して、苦笑を浮かべるガスパールと、すでに『英雄(アキト)』を信奉してやまないオレリーヌとジュリアンはさもありなんと頷いた。


「彼の『英雄』殿は、『知性』においても群を抜いております故。彼が言うには、『ヒーバラエウス公国(彼の国)』の“食糧事情”さえ解決してしまえば、『ヒーバラエウス公国(彼の国)』をロマリア王国(我が国)の味方につける公算は高いとか。『貿易』がどうとか言っていましたな。」

「っ!!!なるほど、『ヒーバラエウス公国(彼の国)』が持つ様々な『鉱石類』の事ですなっ!?『ドワーフの国』はもちろんですが、ロマリア王国(我が国)でも『魔術師ギルド』の“新事業”により、『鉱石』の需要は増加傾向にある。“食糧事情”さえ改善してしまえば大口の『取引相手』を自ら潰す愚か者はいない。つまりは、そう言う事ですかっ・・・!!!」

「なるほどっ!!!だから彼は『魔術師ギルド』とも『技術提携』をしたのですわねっ!!!『平民』達の生活を豊かにする事が目的とばかり考えていましたわっ!!!」

「もちろん、それも理由の一つなのでしょうが、それすらも『布石』に過ぎなかったのでしょう。それに、単純に『平民』達の生活が豊かになれば、それだけ税収も上がる訳ですから、『国』や『貴族』達にとっても大きな利点となります。彼の『英雄』殿の『視野』は、我々では想像がつかないほど『広い』様ですなっ!!!」


興奮した様に早口になるマルセルム公爵。

それに、完全に『英雄(アキト)』の信奉者となったオレリーヌとジュリアンがうんうんと頷いた。


・・・もちろん、これはただの『()()』である。

アキトの持つ『事象起点(フラグメイカー)』の『能力』が、何やらいい感じに“辻褄”を合わせてしまうが、もちろん、多少計算する事はあっても、アキトはそこまで先を見通す『眼』は持ち合わせていない。

一つ一つ問題にぶつかる度に、「これ、前の件を利用できるんじゃね?」って感じで、対応しているだけに過ぎないのだ。

まぁ、その『応用力』と『柔軟性』は評価に値するかもしれないが、結局は全て行き当たりばったりの『産物』なのである。

しかし、その事実を知らない者達にとっては、その意味が大きく変わってくる。

何せ、短いスパンで、様々な根深い問題を一挙に解決している、()()()()()()()()()

本人は、割と自由気ままに生きているだけなのだが、何やらとんでもない“偉業”を次々と成功させる『人物』である様に()()()されてしまうのであった。

まぁ、『結果』が伴っているので、あながち間違いである、とも言えないのだが。


「ますます興味深い『人物』ですな。私も一度お目通りを願いたいモノです。」

「う~ん、それは難しいかもしれませんなぁ。私共も、何度か御会いした程度で、後の事は『リベラシオン同盟』に一任している様なのです。と、言うのも、彼には某かの『使()()』がある様なのですよ。それが何なのかは、私共は知りませんが、『リベラシオン同盟』の盟主によれば、この世界(アクエラ)を揺るがす“何か”と戦っている、のだとか。まぁ、『旧・ルダ村』の件もありましたから、あながち“絵空事”ではなさそうですし、『ロンベリダム帝国』の台頭もありますから、どちらにせよ、『ハレシオン大陸(この大陸)』に『戦乱』が巻き起こる可能性は高いと思われます。それ故に、彼の『英雄』殿は、一つ所に留まっても居れない様ですな。」

「ほほぅっ!!??まさに、『伝説』や『英雄譚』に語られる様な『人物』なのですなっ!!!いやはや、お恥ずかしい話ですが、今でこそ一介の『政治家』に過ぎませんが、私も幼い頃は『英雄譚』に憧れを抱いたクチでして。それが、この歳にしてその様な『人物』の、間接的とは言えお手伝いが出来る事を、年甲斐もなく嬉しく感じておりますよっ!!!」

「それは、私も、いや、私共も同じです、マルセルム公爵閣下。彼の『英雄』殿に恥じない様に、我らも手を取り合ってロマリア王国(この国)を盛り返していきましょうっ!!!」

「うむ、ジュリアン卿。貴殿らと『協定』を結ぶ事が出来た事を、『セレスティア』様と彼の『英雄』殿に感謝しよう。」


力強く握手を交わすマルセルム公爵とジュリアン。

この日、ロマリア王国(この国)の『敵対派閥』の中心人物同士が、『歴史的和解』を非公式ながら果たしたのだったーーー。



「何をごちゃごちゃやっておるっ・・・!マルセルム、ガスパール、オレリーヌ、ジュリアンッ・・・!!よくも私を嵌めてくれたなっ・・・!!!よくも私を()()()()()()()()っ!!!!」」


半ば惚けた様になっていたフロレンツが、鬼気迫る面持ちとゾッとする様な声色でそう言葉を吐いた。

だが、すでにその程度ではその場に動じる者は居なかった。


「これは異な事をおっしゃる、父上。()()()()()()貴方の方ではありませんか。」


以前のジュリアンからは想像もつかないほど、真っ直ぐで力強い眼差しでジュリアンはフロレンツを見据えた。


「そうですよ、伯父上。貴方の“失策”によって、『ノヴェール家(我ら)』は窮地に立たされてしまったのですよ?しかし、貴方を『利用』する事で、『ノヴェール家』を存続する道筋は見えましたが。」


かつては、『政治関連』の『師』でもあったフロレンツの落ちぶれブリを哀れみながらも、ガスパールはそう述べた。


「永遠に“支配する方”でいたかったですか、アナタ?ならば、アナタは『現実』が見えていない『愚か者』でしょう。『時節』は刻一刻と変わっているのです。中途半端な事を為さらずに、全て掌握してからお好きになされば良かったモノを・・・。まぁ、今さら言ったとて栓無き事ですわね。しかし、ご安心なさい、アナタ。アナタの『愚かさ』が『ノヴェール家』をより強靭にし、ジュリアンを強い『後継者』として生まれ変わらせる事が出来ましたわ。安心して『ノヴェール家』とロマリア王国(この国)の『礎』となって下さいな。」


オレリーヌは、蔑んだ様にフロレンツを見やり、冷たくそう言い放った。


「お三方とも、手厳しいですな。しかし、私もかつての『政敵』がこんな『小物』であった事に驚きを禁じ得ないが、えてして『悪習』をつくるのは『小物』と、言う事かもしれませんな・・・。私も肝に命じておこう。フロレンツ殿の『死』は、『貴族』達の『教訓』となるだろう。けっして無駄にはなりませんぞ。」


皮肉にも、一番の『政敵』であったマルセルム公爵の言葉が、一番慈悲に溢れていた。


ある種の慰め、フロレンツが望んだ通り、『ノヴェール家』とフロレンツの『後継者』たるジュリアンは、アキトと『リベラシオン同盟』に出会った事でロマリア王国(この国)の『歴史』にその“名”を刻まれる輝かしい未来をフロレンツに口々にそう述べたのだった。

もっとも、フロレンツの“名”は、『ノヴェール家』の『恥』として永遠に抹消される事となるだろうが。


「クソオォォォォッーーー!!!クソクソクソクソクソォッーーー!!!」


虚しく絶叫し悪態をつくフロレンツだったが、今さら後悔したとて遅いのである。

因果応報、自業自得。

少なくとも、アキトに関わった者達は、その『(ことわり)』から逃れる事はかなわないのだから。



後日、フロレンツはロマリア王国(この国)の『大貴族』とまで呼ばれた者としてはあっけないほど、人知れずアッサリとその生涯を閉じたのだったーーー。



誤字・脱字などありましたら、ご指摘頂けると幸いです。


また、今後の参考の為にも、ブクマ登録、評価、感想等頂けると幸いです。よろしくお願いいたします。

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