『テポルヴァ事変』 5 終息~密談
『LOL』の物語が今回で一旦終わると言ったな?
あれはウソだ。
ゴメンナサイ。
結構説明やら会話が長くなってしまいました。
次こそはっ・・・!(フラグ?)
◇◆◇
すっかり精も根も尽き果てた虚ろな目をしたホンバとその取り巻き連中を捕縛し、そして『カウコネス人』達の『捕虜』となっていた女子供達を奪還したアラニグラが『テポルヴァ』に帰還したのは、あの『キノコ雲』の“大異変”が観測されてからしばらく経った後だった。
駐留軍、『テポルヴァ』の『市民』共に、『LOL』の活躍をその目で見ていただけに、あの『キノコ雲』を巻き起こしたのが誰か、すぐに察しがついた。
しかし、誰もがアラニグラの姿を見付けても、ざわつくだけで大声を上げる事を憚られた様子だった。
それもそのはず、女子供を救ってくれた『事実』はあったとしても、同時に『大惨事』を引き起こした可能性もある訳で、もしその『力』が自分達に向けられたら、と思う『恐怖感』から、口を開けば、『歓声』、ではなく『悲鳴』が上がるのではないか、との心理的な不安感が心を占めていたからであった。
「うおぉぉぉっーーー!!!『英雄』っ!!彼こそ『救国の英雄』だぁぁぁっーーー!!!」
「・・・そうだっ!!いやっ、彼だけではないっ!!!彼らは、俺達を救って下さったんだぁぁぁっーーー!!!」
「『野蛮人』共も投降したぞぉぉぉっーーー!!!」
「捕らえられた女子供達も無事だぞぉぉぉっーーー!!!」
「「「「「ワアァァァァッーーー!!!」」」」」
しかし、誰かが上げた『歓声』を皮切りに、次第にそれが『伝播』していき、『テポルヴァ』の街は、一転して熱狂の渦へと飲み込まれていくのだったーーー。
人々の“意識”を、ある『方向性』に誘導する事は、『集団心理』においては比較的簡単な話である。
例えば、“閉鎖的な”『環境』での“イジメ”もその一例だ。
そこには、『扇動者』や『集団心理』、『同調』や『同調圧力』などの『キーワード』も関係してくる。
『扇動者』を“クラスのリーダー的ポジション”の、すなわち“発言力の強い人物”とした場合、彼、あるいは彼女の『意見』は、そのまま“クラスの総意”に刷り変わる事が往々にしてある。
客観的な“視点”で見た場合、それがおかしな話、矛盾した話である事にすぐ気付くのだが、彼らは“閉鎖的な”『環境』にいる為に、誰もがその違和感に気付けない。
最初は『扇動者』が個人的に気に入らない人物を『ターゲット』にして嫌がらせが始まる。
やがて、その『扇動者』の取り巻き連中も、『同調』、ここでは自身の何気ないストレスの“捌け口”にする為の“便乗”と言った方が適切かもしれないが、によって一緒になって嫌がらせを行い始める。
これが段々エスカレートして、シャレにならない“イジメ”に発展していくのだが、彼らには自分が悪い事をしている“意識”はない。
むしろ、『集団』の“和”を乱しているこの『ターゲット』の人物こそが『悪』なのである。
少なくとも、彼らの中では。
当然、それを見かねた数人は、それを止めようと行動を起こすだろう。
しかし、彼らには悪い事をしている“意識”がそもそもないので、その“少数意見”を糾弾し始める。
「お前は俺(私)達の『敵』なのか?(そうならば次はお前が『ターゲット』だ。)そうでないなら口をつぐんでいろ。」
そう暗に圧力を掛けるのである。
これが、所謂『同調圧力』である。
その数人が、もし『力』のある人物なら、事態はここで急変する。
『扇動者』を打ち倒し、所謂『革命』が起こるのである。
しかし、もしその数人がそこまで『力』のない人物なら、『同調圧力』に屈して見て見ぬフリを余儀なくされる事だろう。
誰もが自分の身がやはり一番カワイイのだから。
そうなれば、後は『扇動者』の独壇場だ。
後に、『第三者』が“介入”するか、『ターゲット』となった人物が『退場』、この場合は、“不登校”か“自殺”かは分からないが、する事でしか終息しえないのである。
残念ながら、『最悪の結末』を迎えても、“イジメ”を起こした側が最後まで『反省』するケースは数少ないであろう。
なぜなら、彼らには自分が悪い事をしている“意識”がそもそもないのだから。
と、この様に、人は何処かしら異端な人物を、排除しようとするか、取り込もうとするかを無意識的に『選択』する。
当然、その人物に圧倒的な『力』があった場合は、取り込んで『味方』につけてしまった方が得策であろう。
そんな心理作用も働いて、『テポルヴァ』の住人達は、都合の悪い『事実』から目を逸らし、都合の良い『事実』だけを拾い上げる事を『選択』したのだったーーー。
その熱狂に、目をパチクリさせて、アラニグラは照れ臭そうに手を振って応える。
先程の“意識”の誘導によって、この“場”は、一種の“凱旋パレード”に様変わりしたからだ。
ある種の『覚悟』を決めていたアラニグラは、非難や批判を受ける事も『覚悟』の上だった。
しかし、それでも人々からの『歓迎』や『歓声』を受けるのは、率直に悪くない気分だった。
「『手柄』を横取りしてしまって申し訳ない、ツェッチーニ殿。」
「ああ、いや・・・。」
“凱旋パレード”もそこそこに、アラニグラは、駐留軍の“現場指揮官”たるツェッチーニを見つけ、そう謝罪の言葉を述べた。
それには、ツェッチーニも困惑しながらそう言葉を返す事しか出来なかった。
ツェッチーニには、『LOL』に対する『指揮権』・『命令権』が与えられてはいない。
と、言うより、『LOL』を従わせる事は、ルキウスとて完全には不可能である。
もちろん、ある程度の誘導は可能だが、今回の様に、独断で『武力介入』されてしまったら、『LOL』を『力』で押さえ付ける術を持たないのである。
とは言え、『LOL』の『力』をただ遊ばせておくには勿体ない。
そうした事もあり、ルキウスは『LOL』には、“平和維持活動”の『名目』で、独自の裁量で動ける『特権』を与えていたのだった。
もちろん、これは、ルキウスの『計算』あっての事である。
ルキウスが収集した『情報』から、『LOL』が高い『教養』を持ち、『理性的』であり、なおかつ『集団主義』的な思想を内包している、とルキウスは『分析』していた。
それ故、必要以上に『特権』を振りかざして好き勝手に動く事はないだろう、と踏んでいたのだ。
ルキウスの、『観察力』や『分析力』・『洞察力』による“人を見る目”は確かであり、曲がりなりにも『強国』たる『ロンベリダム帝国』を治める皇帝としての『力量』を、彼は備えていた。
事実、『LOL』も当初はそうした“スタンス”であった。
しかし、そんなルキウスをして読みきれなかった誤算が2つ存在した。
一つは、前述の通り、『アバター』が『LOL』の『本来の肉体』ではなかった事である。
それ故に、『アバター』の『データ』と『カルマシステム』の影響を受けて、『LOL』の『人格』・『性質』そのものが“変質”しまうなどと言う『現象』が起こる事は、想像もつかなかっただろう。
そして、もう一つは、ヴァニタスの存在であった。
ヴァニタスは、曲がりなりにも『神性』故に、ルキウスらはその存在を掴んではいなかった。
もちろん、『セレスティアの慈悲』と言う謎の『組織』が暗躍している『情報』自体は掴んでいたが、そちらも全容は今だ解明されていなかったのである。
もっとも、ヴァニタスがアラニグラに接触したのは、ただの彼の“気まぐれ”によるモノだったのだが。
しかし、その“気まぐれ”がアラニグラに与えた影響は大きかった。
とまぁ、そんな訳で、個人的に思う事はあっても、ツェッチーニにはアラニグラや『LOL』を罰する『権利』を有していないのである。
突然アラニグラから『謝罪』されても、褒め称える事も叱責する事もツェッチーニには出来なかった。
「ありがとうございますっ、アラニグラ殿っ!!!いやぁ~、やはり素晴らしいですねぇ~、皆さんの『お力』はっ!!!『捕虜』の“奪還作戦”どころか、敵首魁まで捕らえてしまうなんてっ!!!『紛争』の早期解決っ!!!まさに『英雄』に相応しい『偉業』ですよぉっ~!!!」
「またっ!!お前はっ・・・!!!」
困惑していたツェッチーニをフォローする訳ではないだろうが、またしても勝手にトロメーオが喋り出し、矢継ぎ早にアラニグラを称賛し始めた。
何事か言いかけたツェッチーニだったが、彼はその言葉を飲み込む。
その事に関しては、トロメーオの発言の方が“正しい”からだ。
“場”の雰囲気、『LOL』に対する扱い、アラニグラがもたらした『戦果』を鑑みれば、駐留軍としては全て“黙認する”、その『選択肢』しか取れないのだから。
「・・・いえ、助かりました、アラニグラ殿。」
「とは言え、勝手に動いたのは事実ですからね。俺の処分は如何様にでも。」
「いえいえっ、何を仰いますっ!!??称賛や褒美を与えられこそすれ、一番の『功労者』たる貴方を罰する『法』など、『帝国』にはありませんよっ!!!ねぇ、ツェッチーニ隊長っ?」
「・・・トロメーオの言う通りです。敵指導者を捕らえ、『捕虜』を奪還した『功績』は大きい。アラニグラ殿は何も気にする必要はないのです。後の処理はこちらで行いますので、どうか疲れを癒して下さい。」
「そう、ですか。」
ツェッチーニとトロメーオの「お咎めなし」の判断に、アラニグラとしては少し意外そうな顔をしたが、こうした所もむこうとこちらで、やはり違うのだなぁ、と妙に納得していた。
しかし、すぐにアラニグラは頭を降って気を引き閉め直した。
彼には、もう一つ問題が残っているからだ。
こちらを訝しげに眺めている、『LOL』の存在が。
・・・
「ふぅっ~!!!一瞬ヒヤッとしたけど、どうやら上手くいった様ねぇ~・・・。」
物陰から熱狂し『歓声』を上げる『テポルヴァ』の住人達と、それに応えるアラニグラを眺めながら、エナはそうひとりごちた。
最初にアラニグラに対して『歓声』を誘導したのは、エナであった。
もちろん、これはアラニグラに対する、ある種の“ご機嫌取り”の為である。
前述の通り、アラニグラの『力』は異質であった。
そうした場合は、排除するか、取り込むかを無意識的に人々は『選択』する訳だが、今回のケースでは、『選択』を誤ると『帝国』、ひいては『ライアド教・ハイドラス派』にまで被害が及びかねない。
「『強い』とは言っても、たった一人、いや、たった十人程度の極少数の集団に何が出来ると言うのだ。」
そう、『異邦人達』の『力』を直に見ていない者達は口を揃えてそう言うだろう。
ただ『市民』が危機を救われて、誰もが大袈裟にもてはやしているだけだ、と深く考えないかもしれない。
しかし、エナは、『S級冒険者』クラスの『実力』を誇り、『伝説上の領域』にまで踏み込んでいる彼だけは、『異邦人達』の『力』を“正しく”認識していた。
大袈裟でも何でもなく、客観的な『事実』として、そのたった十人程度の勢力で、『強国』と名高い『ロンベリダム帝国』を攻め滅ぼす事が可能である事を。
ならばどうするか?
非難や批判を受けて、アラニグラや『LOL』が、『ロンベリダム帝国』に対して『悪感情』を高める事が一番の懸念すべき点であろう。
『ロンベリダム帝国』を見限って、『国』を去るだけならまだしも、もし『敵対勢力』や他の『国』に鞍替えされてしまったら、前述の通り『ロンベリダム帝国』が、『ライアド教・ハイドラス派』が滅びかねない。
そうなれば、取れる『選択肢』は『LOL』をどうにか“囲い込む”事しかないのである。
たった一つの『魔法』、たった一人の行動で、“シナリオ”の大幅な『修正』を余儀なくされたのである。
「ニルなら、アタシの言いたい事は理解出来ると思うんだけど・・・。問題は、皇帝がどう判断するか、よねぇ~。ニルが上手く説得出来ればいいんだけど・・・。」
どんなに卓越した『観察眼』を持っていても、結局その『事実』が相手に伝わらなければ意味はない訳で、不安気にエナは呟いた。
とは言え、帝都・『ツィオーネ』から遠く離れた『テポルヴァ』の地にいるエナには、ルキウスを直接説得する事は不可能である。
それ故、すでに連絡を送った『同胞』・ニルに、半ば祈る様に全てを託すのだったーーー。
◇◆◇
「陛下、私の『同胞』からの連絡が入りました・・・。」
「ふむ・・・。『帝国民』の『テーベ』への避難が完了した、と言ったところか?『援軍』も、まだ到着していない筈だし、『蛮人』共の『一斉放棄』鎮圧には、もうしばらく掛かるだろうからな。」
「いえ、それが・・・。」
謁見の間にて、一人静かに黙考していたルキウスのもとに、どこからともなくニルが現れてそう報告した。
それに、ルキウスはそう応えたが、ニルは答えづらそうに言葉を言い及んだ。
「なにぃっ!!??すでに『一斉蜂起』を鎮圧しただとっ!!??しかも、『異邦人達』が主導したと言うのかっ!!??」
「その様です。」
「・・・うぅむ。・・・いや、しかし、別に良いのか?これは、想定外だったが、『異邦人達』が『帝国』に“協力”したのは紛れもない『事実』だ。もちろん、駐留軍や『テポルヴァ』の『市民』もそれを『目撃』している筈だから、当初と『目論見』は大分違うが、『異邦人達』を引き入れる『下地』は完成しつつある、と見るべきか・・・?」
驚愕から一転して、すぐにルキウスは“シナリオ”の『軌道修正』を高速で思案する。
ブツブツと呟きながら、『情報』を整理するが、そこにニルが待ったを掛けた。
「あいや、暫し、陛下。『異邦人達』を下手に刺激するのはまだ時期尚早だと愚考します。」
「・・・ふむ。それはなぜだ?申してみよ。」
「それでは・・・。」
そのニルの発言に、ルキウスは一旦思考を中断してそう促した。
『結論』を出すにしても、より多くの『情報』が必要だ。
そうした他人の『意見』を参考にする『柔軟性』が、ルキウスには備わっていた。
コホンッと一息吐いて、ニルは己の『見解』を述べる。
「まず、陛下の『目論見』が、『異邦人達』の『力』を上手く『利用』して、陛下の『覇業』に協力させるのが“狙い”であると私は考えています。その為に、様々な安全策を講じつつ、協力せざるを得ない、そうした状況や『心理状態』に持っていこうとしている、と。」
「・・・続けろ。」
続きを促すルキウス。
暗にニルの考えが“正解”であると言っているのである。
「私もそれは可能だと思っておりました。『異邦人達』は我々に対しては警戒している節が見受けられますが、『政治的』な事の『裏事情』には大して通じていない様子。そこを上手く突けば、結果的に操る事は可能である、と。少なくとも、今回の件があるまでは、ですが。」
「・・・ふむ。」
「しかし、今回の件は些か違和感があります。あれほど『争い』に対して“忌避感”を持ち、あくまでこの世界の“事情”には深入りするつもりがない“スタンス”だった『異邦人達』の、不自然なほどの“路線変更”・・・。“何か”があったと見るべきでしょう。」
「うむ・・・。確かにそうだな・・・。」
ニルの『見解』を聞きながら、ルキウスも己の考えを再度整理し直していた。
「それが“何か”?それは残念ながら分かりませんでした。『同胞』からの報告でも、急に人が変わった様になったとありますし、少なくとも、目に見える形では“何か”と接触した『事実』は述べられておりません。もしかしたら、我が主の様な『高次』の『存在』と接触した可能性は否定出来ませんが、それも推測の域を出ませんしねぇ。」
「・・・もしくは、『戦場』の『現実』を目の当たりにし、『価値観』が変わった可能性もある。時に『新兵』には起こりうる現象だ。」
「ああっ、その可能性もありますねぇ。『カウコネス人』達の所業が、『異邦人達』の逆鱗に触れた、とかですねぇ。」
「うむ。」
確かにそれもあった。
『LOL』は、『平和』な『国』で生まれ育っている。
それ故、当然『戦場』を目の当たりにしたのは、今回が初めてであった。
「まぁ、いずれにせよ、今回の件で、『異邦人達』が『帝国』に対して不信感を持つ事はまずないでしょう。客観的に見れば、『歴史的背景』はともかく、今回攻め込んで来たのは『カウコネス人』の方であり、陛下はその対処の為に駐留軍を動かし、“平和維持活動”の『名目』で『異邦人達』に協力を要請したーーー。少なくとも今回の件では、『帝国』が『悪者』であるとは思わないでしょうねぇ。」
「当然そうではなくては困る。そう誘導したのだからな。」
「そして、その活動を通して、『異邦人達』を『英雄』に祭り上げる『下地』は完成しつつあります。こちら側に“共感”している者も現れ始めていますしねぇ。」
「うむ、その通りだ。もちろん、まだまだ慎重に事を進める予定ではあるが、余の『見解』では、もう一押しと言った感触だった。が、どうやらお主は少し違う様だな?」
「ええ、『異邦人達』の『力』は、想像以上でしたから。いえ、むしろ想像通りだった、と言った方が適切かもしれませんがねぇ~。」
「・・・。」
回りくどいニルの発言に苛立った様に、ルキウスは鋭い視線で先を促す。
「失礼。先程も述べた通り、『異邦人達』に“何か”あったのは、推測の域を出ませんが、まず間違いないでしょう。しかし、一番問題視しなければならない点は、『異邦人達』の『力』です。」
「ふむ。しかし、それは元々分かりきっていた事ではないのか?確かにたった十人程度で、『紛争』を解決したのは驚異的であるが。」
「いいえ、陛下。それだけではまだまだ『認識不足』です。私も『同胞』からの報告があるまでは、『異邦人達』の“立ち居振舞い”からかなり懐疑的ではあったのですが、『異邦人達』の『力』はやはり常軌を逸しています。それこそ、その『力』は、あの『ルダ村の英雄』に匹敵するかもしれません。」
「『ルダ村の英雄』・・・?ああ、『ロマリア王国』の片田舎でお主が引き起こした『パンデミック』を鎮圧した者であったか?確か、お主らが『帝国』に来る“キッカケ”となった者でもあったな。」
「ええ。上手くフロレンツ侯を唆して、『失われし神器』・『召喚者の軍勢』を手に入れたまでは良かったのですが、どうやら『ルダ村の英雄』にはそれを事前に察知されていた様でして。『妨害』どころか、危うく私も捕まるところでしたよ。まぁ、『召喚者の軍勢』を『暴走』させて、何とか私は難を逃れたのですが、その鎮圧の一部始終を見ていたからこそ、私達は『ロマリア王国』から手を引かざるを得なかったのです。そして、その『ルダ村の英雄』の『力』を目の当たりにしていたからこそ、今回の『同胞』の『報告』にあった『異邦人達』の『力』も、私にはある程度想像がつきました。比喩でもなんでもなく、『異邦人達』の『力』は、扱い方を誤ると、『帝国』や『ライアド教・ハイドラス派』すら滅ぼしかねない『力』である、とね。」
ルキウスはそのニルの真剣な表情に、ゴクリッと息を飲んだ。
何をバカな、と流石のルキウスも言えなかった。
なぜなら、胡散臭い男だが、ルキウス自身ニルの『実力』は高く評価しているし、実際ニルはこの世界でも数少ない『S級冒険者』クラスの『力量』を持つ者の一人だからである。
その彼をして、自分達でも手に負えないと明言したのだ。
「それほど、か・・・?」
「むしろそうでなくては困ります。私達が『召喚者の軍勢』を『帝国』に持ち込んだのも、元々『ルダ村の英雄』に対抗する為でしたから。そうした意味では、『異邦人達』の『力』は期待通りだったとも言えます。『ルダ村の英雄』に対抗出来る『手札』を手に入れる事には成功した事になりますからねぇ。」
「しかし、それ故に扱いもより一層難しくなった、と言う訳か。こうなると、『隷属の首輪』を使用出来なかった事が悔やまれるな・・・。」
「ランジェロ殿率いる、この世界最高峰の“魔道技術研究者集団”である『メイザース魔道研究所』ですら予測出来なかった事です。それは仕方ないでしょう。それに、失敗した訳ではありませんし、長期的に見れば、『隷属の首輪』を使用しなかった事はむしろ良い方向に働くかもしれません。『異邦人達』の『力』を鑑みれば、『隷属の首輪』も効力をしっかり発揮したかも些か疑問ですし、『他国』に付け入る隙を与える事にもなりかねませんでしたからね。」
「ふむ、それもそうだな。『同調の指輪』の件もあるし、一応『隷属の首輪』は『国際法』上、禁止されている類の『魔道具』だからな。しかし、ではどうするべきか・・・。」
ルキウスはニルの『見解』をしっかり受け止め、『LOL』の評価を更に『上方修正』した。
実際、ルキウスやニルらにとっては、『異邦人達』の存在は、超強力な『武器』を手に入れたに等しい。
それが、フタをあけて見ると『国』すら滅ぼせるほどの『力』を持っていた訳だが、ここでやはり『ネック』となるのが、『異邦人達』に『自由意思』が存在した事である。
ただでさえ、強力な『武器』は扱いを誤ると自身の身を滅ぼす事が往々にしてある。
それに加えて、『異邦人達』の『意思』を尊重せずに『反感』を持たれては、文字通り“身の破滅”となるのである。
ルキウスほどの人物をしても、これはなかなか難解な状況だった。
しかし、ここでニルは、先程とはうってかわって、あっけらかんとした意見を述べた。
「簡単ですよ。『各個撃破』。つまり、一人ずつじっくりと『攻略』して行けば良いのです。」
「・・・先程と言っている事が矛盾している様に感じるが?」
「陛下に『異邦人達』の『力』の『大きさ』を正しく認識して頂きたかったので・・・。しかし、『同胞』からの報告でも、そして私の感触からも、『異邦人達』が『分裂』する可能性は非常に高いと考えています。『異邦人達』が結託している内は、手出しするのは事実上不可能だったかもしれませんが、一人一人ならばむしろ与し易いでしょう。陛下御自身も、それは感じておられますよねぇ?」
「・・・うむ。『異邦人達』の『中』でも、当然様々な『意見』の違いが存在するのだろうからな。先程お主も言ったが、こちら側に傾いている者もいるしな。」
「そうなれば、当然『異邦人達』には“拠り所”になるモノがなくなります。『異邦人達』の『力』を鑑みれば、そんなモノなくともこの世界で余裕で生きていけると思うのですが、どうも『個』としての『能力』、自身で何かを“切り開く”のが苦手と言いますか・・・。それ故、十中八九、何処かしらと接触をしようとするでしょう。」
「ふむ、なるほど。つまり、我々から『求める』のではなく、『異邦人達』から『求められる』事を待つべきだ、と?その為の『帝国中』に『根回し』をして。」
「ええ、その通りです。後は陛下の『得意分野』ですよね?上手く『手綱』を握れば・・・。」
「・・・ふむ。確かにどうにかなるかもしれんな。ま、後は『異邦人達』の出方次第だがな・・・。」
「そうですねぇ。」
ニルの“策”は単純明快だ。
ただでさえ『強大』な『力』を持つ『異邦人達』に、真っ向から挑むのは愚か者のする事である。
しかし、『異邦人達』にも『意見』の違いが存在する訳で、当然『分裂』の火種は常に抱えている。
しかも、今回の件でそれが現実味を帯びる可能性は非常に高い。
となれば、『LOL』と言う『枠組み』を一度『解体』してもらった方が、ルキウスらにとっては都合が良い。
『異邦人達』が結託していれば非常に厄介だが、個人個人ならば、その『力』はともかく、『交渉』においては与し易くなる。
当然、様々な『アプローチ』はさせるが、最終的に各勢力と接触するのは『異邦人達』の方からとなる訳で、ルキウスらは、ただ手を広げて待てば良いのである。
こうする事によって、『LOL』と言う『枠組み』で引き入れた場合は『暴走』された時の対処は事実上不可能だったが、個別の場合はお互いに牽制する事ともなり、その『力』の『暴走』を未然に防ぐ事も可能なのである。
実際には、『裏』で全て繋がっていて、ルキウスらがそれを掌握する事となる訳だが。
「となると、目に見える形での『褒賞』や『称号』なども有効か?」
「そうですねぇ。『帝国』に対する『帰属意識』を植え付けられるかもしれませんし、少なくとも悪い感情は抱かないでしょう。」
「・・・そうだな。おいっ、ルドルフとマルクスを呼べっ!!!」
方向性の見えたルキウスは、早速『謀略』を巡らせながら、そう指示を飛ばすのだったーーー。
誤字・脱字がありましたら、ご指摘頂けると幸いです。
今後の参考の為にも、ブクマ登録、評価、感想等頂けると幸いです。よろしくお願いいたします。