『英雄』の創り方
続きです。
自分で書いといて何ですが、ネトゲやソシャゲは少しかじる程度しかプレイした経験がないので、本編に登場するその手の知識は結構いい加減です(笑)。
ま、フィクションと言う事で。
◇◆◇
「おやぁ~?セレウス様がお目覚めの様だ。思いの外お早い『覚醒』だったなぁ~。」
『ロンベリダム帝国』の皇帝・ルキウスらや『ライアド教・ハイドラス派』が『失われし神器』・『召喚者の軍勢』にて、偶発的に『地球人』達を『召喚』していた頃 また、それを受けてアキトが『限界突破』の『試練』の為に『ノーレン山』に赴きエキドラスやセレウスとの邂逅を果たしていた頃、時を同じくして、謎の少年・ヴァニタスも『ロンベリダム帝国』の近隣諸国で暗躍していた。
「・・・何か仰いましたかな、ヴァニタス様?」
「いやいや、何でもないよぉ~、エルファス。それより、『ゲレ族』との“会合”は、もう済んだのかい?」
「ええ、滞りなく。とは言っても、我らの“役目”は背中を押してやる事だけですからね。『ゲレ族』には当然ながら『戦う理由』がある訳ですから。」
「アハハハッ、まぁ、そうだよねぇ~。」
ケラケラと無邪気に笑うヴァニタスと、彼にエルファスと呼ばれた40歳そこそこのむっつりした顔の陰気な雰囲気の中年男性は、そう言葉を交わしていた。
『ライアド教・ハイドラス派』の中でも一部の者しかその『存在』を知られていない裏組織・『血の盟約』の『番外』メンバーとして(本人も預かり知らぬところで)その名を連ねていたニコラウスから『魔眼』を剥ぎ取り、『神の眼』を回収したヴァニタスは、その後、アキトの『事象起点』の『力』の影響を避ける様に、『ロマリア王国』からちょうど真逆の位置に当たる、ハレシオン大陸北西部にある『強国』・『ロンベリダム帝国』の近隣諸国にまでやって来ていた。
ヴァニタスは本来、彼自身が『お母様』呼ぶ『存在』の為に動く『役目』を持っているのだが、肝心のその『お母様』から明確な『指令』を受けていない“状態”で目覚めている。
それ故、今現在のヴァニタスは、その『お母様』の『覚醒』を促すと共に、その『お母様』と何かしらの『因縁』のあるアキト、正確には、アキトに『宿って』いるセレウスの『監視』と、場合によっては、その『成長(?)』を促していた側面もあるのだが、そのほとんどが彼の独自判断での事だった。
とは言え、先程も言及した通り、アキト(セレウス)の『事象起点』の『力』は、ヴァニタスにも影響を与える為に、今現在はアキト(セレウス)からは一旦距離を置いているのであるが・・・。
さて、ではヴァニタスは何をしに“この地”にやって来たのだろうか?
それは、先述した通り『お母様』の為であり、アキト(セレウス)の『覚醒』を促す為の『試練』を用意する為、と言う『名目』もあるのだが、その『真意』は別のところにある。
と言うのも、ヴァニタスの『性質』は、ニコラウスと同様に『トリックスター』・『扇動者』としての部分を内包しているのだが、その『本質』は“他者の願いを叶える”と言う側面も有しているのである。
それ故、“この(キナ臭い)地”は、ヴァニタスの『本質』を満たす条件が色々揃っているのだった。
ヴァニタスとエルファスが現在いる場所は、『ロンベリダム帝国』から離れた南西部の大森林地帯で、『精霊の森』と呼ばれる場所だった。
ここには、『ロンベリダム帝国』の皇帝・ルキウスの発言では『蛮人』、正確には『ロンベリダム帝国』建国以前から『精霊の森』に定住していた『先住民族』が住む土地があった。
その『先住民族』・『カウコネス人』達は、当然ながら『ロンベリダム帝国』とは対立していた。
『先住民族』と、よそからやって来た『他民族』がぶつかり合うのは、まぁ、『歴史』的にはよくある事であろう。
しかし、『ロンベリダム帝国』の持つ圧倒的な『軍事力』と『魔法技術先進国』としての優位性は『カウコネス人』達には大変な脅威であり、勇猛果敢な『カウコネス人』の『戦士』達と言えど、数度の紛争でその多くが命を落としていった。
しかし、『ロンベリダム帝国』には他にも強力な『敵対勢力』があり、ルキウス以前の『帝国』は『国内』にも『敵』を数多く抱えていた為、決定的な勝敗が決しないまま、『ロンベリダム帝国』と『カウコネス人』達の対立は長らく小康状態、事実上の停戦状態となっていた。
しかし、小規模の散発的な争いは後を経たず、その背景には『ロンベリダム帝国』の急速な発展に伴う『人材不足』の補填の為に、『略奪』や『奴隷狩り』・『人身売買』が横行し、『ロンベリダム帝国』と『カウコネス人』達との間の確執は相当に根の深いモノとなっているのだった。
そこに目を着けたヴァニタスは、『部族単位』で『精霊の森』の奥地に散り散りになっていた『カウコネス人』達を再び纏め上げ、『ロンベリダム帝国』に対して『攻勢』に出る様に『扇動』しているのだった。
とは言え、彼自身が表立って活動する事はほとんどない。
ヴァニタスの代わりに主に活動しているのは、彼に賛同する同志・『セレスティアの慈悲』だったのである。
『セレスティアの慈悲』は、『ライアド教』の中で『平民』達に数多くの『信仰』を集めている『慈愛の乙女セレスティア』の名を冠してはいるが、所謂『ハイドラス派』に対しての『セレスティア派』とは一切関係なく、しかし、その『ネームバリュー』故にその名を騙っているのである。
エルファスはその『セレスティアの慈悲』の一員でリーダー格でもあった。
「ところで、僕が上げた『魔眼』も随分馴染んだ様だねぇ~?」
「ええ、確かに便利ですよこの『力』は。まぁ、もっとも、今回の件ではあまり意味はありませんでしたけどね。我らの“役目”は、“願いを叶える事”であって、“願いを歪める事”ではありませんからな。」
「けれど、君なら上手く活用出来るだろう?尻込みしている連中には、その『力』は有効だよぉ~。」
「ま、それは否定はしませんがね・・・。」
ニコラウスから剥ぎ取った『魔眼』は、今現在エルファスに『移植』されていた。
ヴァニタスにとっては大して『価値』のある『能力』ではなかったが、『セレスティアの慈悲』のメンバーにとっては強力な『武器』となりうる。
もっとも、『セレスティアの慈悲』のメンバー達も、ニコラウスとは違い高い『実力』を有しているので、あくまで“実力の強化”程度に考えていて、特殊な『能力』に頼りきる事はなかったが。
「さて、それで“種”は撒き終わった訳だけど、エルファスはこれからどうするんだい?」
「もちろん、見届けますよ。この愚かな“願い”の行く末を、ね。」
「アハハハッ。うんうん、君もいい感じに『壊れて』いるよねぇ~。けど、“引き際”はしっかり弁えておきなよ?ここからが面白いんだからさっ!」
「もちろんです。私も『カウコネス人』共と『心中』するつもりは毛頭ありませんからな。」
ヴァニタスはエルファスのその言葉に満足そうに頷いた。
「結構結構。そんじゃ、またねぇ~。僕は他の所に行くからっ!何かあったらまた『連絡』してよっ!」
「畏まりました。」
そう言ってヴァニタスは虚空に消えるのだったーーー。
◇◆◇
[意外と平和そうな『世界』ですよねぇ~、この世界は。僕らが滞在している間に、『ロンベリダム帝国』でも目立った“事件”は起こってない様ですし。]
[まぁ、表面上はの。しかし、どんな『世界』でも『国』や『組織』、あるいは『人』にも、後ろ暗い事はある筈だから、まだまだ油断は出来んがのぅ~。]
[ま、そうですね。]
『ロンベリダム帝国』にて『客分』として滞在している『LOL』のメンバー、ティアとエイボンは、皇帝・ルキウスの居城『イグレッド城』の空中庭園から、帝都・『ツィオーネ』を眼下に望みながらそんな会話を交わしていた。
『LOL』が『ロンベリダム帝国』、こちらの世界に『召喚』されてから、早いモノで、すでに半年近い時間が経過していた。
その間に、『LOL』の『生活』も様変わりしており、大半のメンバー達は最初は戸惑っていたのだが、徐々にこの世界の『生活』にも慣れつつあった。
今現在『LOL』は2チームに別れており、『ロンベリダム帝国』に滞在し、皇帝・ルキウスらを『監視(牽制)』するチームと、『ロンベリダム帝国』周辺を『捜索』・『情報収集』するチームとに別れて活動していた。
ランジェロやルキウスの発言通り、『LOL』の『力』はこの世界の者達に比べて群を抜いており、確かにフルダイブ型『VRMMORPG』・“The Lost World~虚ろなる神々~”時とは様々な点で『変更点』があったモノの、概ねそこら辺の“すり合わせ”も済んでいて、この世界で生き抜く事が可能であると判断し、ある意味『LOL』の『心』にも余裕が出来た、と言う“事情”もあるのだが。
ちなみに、『監視』チームのメンバーは、
タリスマン、ウルカ、ククルカン、ティア、エイボンであり、
『捜索』チームのメンバーは、
N2、キドオカ、アラニグラ、アーロス、ドリュースであった。
若干、『LOL』の中では『頭脳派』であるククルカン、ティア、エイボンが『監視』側に偏るチーム分けではあったが、『TLW』時の『職業』はこの世界においても“引き継がれて”いるので、『政治的背景』や『戦力バランス』を考えるとこうせざるを得なかったのである。
(ちなみに、残りの『頭脳派』はキドオカとアラニグラである。)
『名目』としては、『近衛騎士』であるタリスマンが皇帝・ルキウス近くに付き従いつつ、『大司教』・『暗黒神官』であるウルカとククルカンが『ライアド教』に『外部協力者』として出入りし、『巫女』・『大賢者』であるティアとエイボンがその『地球』の『知識』を駆使して、『ロンベリダム帝国内』の『内政』に協力していた。
一方の『捜索』チームの、『砲撃手』であるN2、『忍者』であるキドオカ、『暗黒魔道士』であるアラニグラ、『竜騎士』であるアーロス、『召喚士』であるドリュースらは『冒険者登録』をして、手始めに『冒険者』として『ロンベリダム帝国』周辺の幅広い『情報収集』を行っていた。
もちろん、『LOL』としてもこれらの活動にはメリットがあり、『LOL』が活躍する事によって、少しずつ人々の認知度を高め、支持を集めつつ、この世界、『ロンベリダム帝国』での『立場』や『地位』を盤石なモノとしようとしているのだった。
よく『異世界転生・転移』モノでは、“目立つ事”は悪手であるとされる風潮もあるが、それは“状況”によって変わってくる。
例えば、『LOL』が皇帝・ルキウスらや、『ライアド教・ハイドラス派』に『召喚』されていなければ、つまり、“誰か”の『思惑』が介入しない偶然でこちらの世界に飛ばされたとしたら、“目立つ事”ははっきり言って悪手だろう。
『LOL』ほどの『圧倒的強者』なら、“目立つ事”で様々な『情報』は集める事は可能だろうが、いらぬ面倒事も数多く引き寄せてしまう可能性が高いからである。
しかし、実際には『LOL』は、何らかの『思惑』があって皇帝・ルキウスらや、『ライアド教・ハイドラス派』に『召喚』されている。
この場合は、“目立たない事”の方がかえって危険である。
なぜなら、この場合はすでに面倒事に巻き込まれる事がほぼ確定している訳だから、様々な『ソース』をルキウスらに頼りきるのでなく、独自の『情報網』を確保・構築しておかないと、『情報』や『物資』を意図的に制限・封殺されて、気付いたら体よく使われるのがオチだからである。
また、『貴族』や『国民』から支持を集める事で、簡単に『LOL』に手出し出来ない状況にしておく必要もあった。
いくら皇帝と言えど、『独裁者』と言えど、『国民』無くして『王』はありえない訳で、『世論』を完全に無視する事は難しいからだ。
『歴史』を紐解けば似たような事例は数多く存在するが、『為政者』に取っては『国民』の『反乱』ほど恐ろしいモノはない。
それ故、『LOL』は、あえて“目立つ事”で『世論』を味方につけ、間接的に自分達の身を守ろうと考えたのである。
しかし、その程度の『目論見』は、稀代の『ペテン師』らに取っては何ら痛痒を感じないモノであったので、あえて泳がせされていた訳であるが・・・。
ーティアさん、エイボンさん、“緊急事態”ですっ!すぐに『謁見の間』まで来てくれませんかっ!?ー
すると、突然何とも形容しがたい“何か”が繋がる感覚がして、ティアとエイボンの脳内に直接“声”が響き渡った。
ーっ!?タリスマン殿かっ!?『DM』をこんな真っ昼間っから使わないでくれんかのぅ~?いや、“緊急事態”と言ったか?ー
ーええ、すぐに誰かが呼びに行くと思いますが、先に伝えておいた方が良いかと思いまして。ー
ー了解した。しかし、危険だからすぐに切るぞ?そちらに合流した時にでも詳しい話は聞く。ー
ー分かりました。ー
プツッと“何か”が切れた感覚がして、ティアは一息吐く。
『DM』とは『TLW』の『プレイヤー(フレンドのみ)』同士の“連絡手段”であった。
本来は、『プレイヤー(フレンドのみ)』同士が『通信』や『メール』などをやり取りする“機能”なのだが、こちらの世界では所謂『UI』・『ステータスオープン』・『コンソール』と言った、視覚的に操作をするモノが全てなくなっていたので、ダメ元で色々試行錯誤したところ、『通話』、この場合は一種の『テレパシー機能』として再現している様だと判明した。
これにより、『LOL』の仲間内限定ではあるが、遠く離れた者とも連絡が可能となった。
距離的には、今現在『ロンベリダム帝国』周辺で活動している仲間達にも問題なく届く様なので、かなり遠距離とも『通話』が可能であると思われるが、その一方で、この世界にはそうした“連絡手段”がない事を知り、この事は『LOL』だけの『秘密』としているのだった。
『情報』の『伝達スピード』は、時に生死を分ける。
万が一の場合は、『DM』は『LOL』の『命綱』となりうるかもしれないからである。
[さて、どんな面倒事が起きたのやら・・・。]
[とりあえず、『同調の指輪』を装着し直して、そしらぬ顔で“ティータイム”を楽しんでいる風を装いましょうか?“事情”を知っていると知れたら怪しまれますしね。]
[そうだのぅ。]
数分後、タリスマンから連絡があった様に、メイド達がティアとエイボンを呼びに来るのだったーーー。
◇◆◇
「すまぬ、ティア殿、エイボン殿。余に『力』を貸してはくれまいかっ!!!」
『謁見の間』にて数名を残し人払いがされてから、開口一番ルキウスはそう2人にそう頭を下げた。
それには、ティアもエイボンも流石に面食らったが、とにかく話を聞く事にした。
「待ってくれんかのぅ、皇帝陛下。儂らは“事情”が飲み込めておらんのだ。いや、何やら相当な事が起きている事は理解したが・・・。」
「あ、ああ、そうであったな・・・。すまぬ、余も少し焦っている様だ。ルドルフ。」
切羽詰まった表情をルキウスは一旦正すと、一息吐いて“宰相”の名を呼んだ。
「はっ!すでにタリスマン殿にはお伝えしたのですが、『蛮人』共が『一斉蜂起』し、我が国の南西部の国境にある『インペリア領』・『テポルヴァ』を攻撃している様なのです。南部に駐留している軍からの『緊急通信』がありました。」
「・・・なるほどのぅ。」
「なんとっ!?」
冷静な様子のティアと、驚愕の表情を浮かべるエイボン。
まず頭をよぎったのが、仲間達の安否であった。
「それで、その『暴動』を鎮圧する為に儂らの『力』を貸してほしい、と?」
「・・・いや、そうではない。そなたらが『戦争』に対して“忌避感”を持っている事はすでに余も承知しておるし、何よりそなたらは余の『客分』だ。本来なら関係のない『争い事』にそなたらを巻き込むのは『道理』が違うであろう。しかし、ヤツらは『作法』も知らぬ『野蛮人』共だ。何の罪もない我が『帝国民』達が、戦火に巻き込まれる可能性が十分にあるのだっ!」
「なるほど・・・。」
憂いと憤慨がない交ぜになった様な表情で、必死に訴えかけるルキウス。
・・・もちろん、これは『演技』である。
いや、腹立たしい気持ちは本当だろうが、ルキウスは本物の“皇帝”でどこまでも『政治家』だった。
それ故に、人々の『生命』を客観的な『数』として、冷静に冷酷に『損得勘定』の天秤にかける事が出来る。
今回の『カウコネス人』達の『一斉蜂起』は、もちろん『ロンベリダム帝国』としては望ましい事態ではなかったが、両者の対立の『歴史』からその兆候は以前からあった訳で、しかし、ルキウスは『LOL』に対する“布石”として、あえて何の対処もせずに見過ごさせてきたのである。
『LOL』を『救国の英雄』として祭り上げる為に。
「『戦闘』はもちろん我が『帝国軍』が行う。しかし、戦火に巻き込まれる『帝国民』達の『護衛』や『避難』に人員を割く余裕は、正直ない。そこで、そなたらの『力』を貸してほしいのだっ!」
「陛下っ・・・!」
『国民』の安全を憂いそう懇願するルキウスに、心打たれた様にタリスマンはそう呟く。
それには、エイボンは少し顔を歪め、表面には出さなかったものの内心ティアも舌打ちをするのだった。
いくら『TLW』を共に戦いぬいた『LOL』と言えど、元は他人同士であるから、当然個人個人の『主義』や『主張』はそれぞれ異なってくる。
そして、その『主義』・『主張』はこちらの世界でも様々な影響を受ける訳で、『LOL』の個人個人の『意見』にも少しずつ変化が現れ始めていた。
例えばタリスマンであるが、元々そうした『気質』があったのか、はたまた、だからこそその『職業』を『選択』したのかは定かではないが、彼は元来少しばかり『正義感』と『依存心』の強い男でもあった。
しかも、こちらの世界で出逢ったルキウスの『カリスマ』は本物であり、タリスマンは少しずつルキウスに心酔しつつあった。
『騎士』としては、仕えるべき“主”が『優秀』で『人格者』ならば言う事はないだろう。
他の者達も同様に、大なり小なり、その『職業』に“引っ張られる”様に、その“考え方”にも変化が生じていた。
これは、以前にも言及した『肉体』と『精神』が密接に関係している事にも通ずる事柄なのだが、それによって、少しずつだが『LOL』の“足並み”にも乱れが生じているのだった。
ティアは無言でエイボンにアイコンタクトをとった。
エイボンは、少し考えた後、ややあって無言で頷いた。
ティアは、内心溜め息を吐きながら、こちらも無言で頷く。
先述した通り、今や『LOL』にとっても、『国民』を見捨てる事は出来よう筈がないのだから。
「分かりました、皇帝陛下。『国民』の救援には向かいましょう・・・。」
「おおっ!ではっ!」
「ティアさんっ!エイボンさんっ!」
「ただしっ!申し訳ありませんが、『争い事』には一切関知しない事をここに明言しておきます。もちろん、『一般人』が危険に晒されたらその限りではありませんが、それもあくまで迎撃だけです。そこのところ、何卒御了承下さい。」
「もちろんだともっ!先程申した通り、『戦闘』は我が『帝国軍』が行うともっ!これで“後顧の憂い”が消えると言うモノ。そなたらには感謝をっ!」
「ありがとうございますっ!」
「流石はティアさんとエイボンさんだっ!」
ティアの決断に諸手を挙げて喜びの表情を浮かべ、ルキウス、ルドルフ、そしてタリスマンらは感謝と称賛の言葉を述べる。
それを、何とも言い知れぬ“気持ち悪さ”を感じつつも、ティアとエイボンはただただ受け入れる事しか出来なかったーーー。
「それでは、タリスマン殿、ティア殿、エイボン殿は、ウルカ殿とククルカン殿とも合流し、『現地』に赴いて貰いたい。通常なら数日は掛かる距離ですが、貴殿らの『力』なら半日と掛かりますまい。」
ここまで、事の経緯を静かに見守っていた“軍務長官”であるマルクスは、そう言葉を発した。
「一応こちらの方でも『緊急通信』を飛ばし、『冒険者』として余の『力』の及びにくいところにて活動をしてくれているN2殿達にも協力を要請しておるが、連絡が取れるのがいつになるか分からぬからな。もし、彼らと合流を果たせたら、そなたらから“事情”を話して同じく協力をして貰いたい。」
「お任せ下さい、陛下っ!」
「うむっ、頼りにしておるぞ、タリスマン殿っ!」
「はっ!」
まるで、すでにルキウスの傘下に収まった様なタリスマンの言動を尻目にティアとエイボンは『情報』を確認していく。
「それで、『戦況』はどの様な感じなのでしょうか?」
「今のところ駐留軍が何とか抑え込んでいる様なのですが、それも何時まで保つか分かりませんな。もちろん、我が軍が『攻勢』に出られれば鎮圧も時間の問題なのですが、南部の駐留軍だけでは抑え込む事が限度でしょう。」
「防戦一方ではな。『国民』の事もあるしのぅ・・・。」
「援軍を送るにしても、やはり時間が問題なのだ。それ故、そなたらの『力』をアテにさせて貰った。『帝国民』の『避難』が済めば、駐留軍も『攻勢』に出られるであろうしな。」
「ふむ、なるほどのぅ。」
足枷がある状態では、いくら精強な『帝国軍』と言えど、その『力』を十全に発揮する事は難しいだろう。
それを見越して、ルキウスは『LOL』に協力を要請したのだとティアとエイボンは再認識した。
「後、先に明言しておくが、そなたらの協力に対する対価を支払う用意もある。今話す事ではないかもしれぬが、こうした事はうやむやにせぬ方が良いかと思ってな。」
「そんな、陛下っ!我らは当然の事をするまでっ!」
「いやいや、タリスマン殿。これは『礼節』の問題だよ。余はそなたらとは『対等』でありたいと思っておるのでな。」
「陛下っ・・・!」
ルキウスの一挙手一投足にいちいち感激するタリスマン。
それを内心呆れながら、ティアは話に割って入った。
「申し出はありがたいが、それは問題が解決してから改めて協議しよう。それよりも、儂らが活動する為の『親書』やら『手形』やらの『証文』などの方を今は用意してくれんかのぅ?儂らが『帝国軍』に『敵』と認識されたら厄介じゃからのぅ。」
「もちろんだとも。」
当然ながら『LOL』は『帝国軍』とは別の『集団』であるから、『現地』で活動していたら、どちらの『勢力』からも攻撃される恐れが大いにある。
それ故、『友軍』である『証明』は必要不可欠であった。
「簡易的であるが、余と『ライアド教』・最高司祭の連名の『親書』と『紋章』をすぐに用意させよう。形式的には、そなたらは“平和維持活動”をする部隊となるので、あくまで『帝国軍』の支援をするだけとなる。そこら辺の認識は、こちらもしっかり徹底させる。」
「『物資』も頼むぞ。後、『国民』達の『避難先』だが・・・。」
「とりあえずは『テポルヴァ』から程近い帝都側の『テーベ』へと移動させるのが最善でしょう。幸いと言うのはアレですが、人口はそこまで大きくないとは言え、数千、数万の『帝国民』を一斉に大移動させるのは現実的に難しいですからな。」
「まぁ、そうじゃな。了解した。」
「『テーベ』の方にも受け入れの『緊急通信』を回しておこう。他には何かないかな?」
「ふむ、とりあえずはそんなところかのぅ・・・。エイボン殿はどうだ?」
「そうですね。後は実際に『現地』に行って対応するしかないでしょう。“初動”の遅れは取り戻せませんが、その他の事は最悪後回しでも構いませんからね。」
「っ!そういえば、エイボン殿はっ・・・!あ、いや、そうだな。そちらの準備が出来次第すぐに出立する事としよう。」
「すまぬっ!よろしく頼むぞっ!」
ルキウスの言葉に、タリスマン、ティア、エイボンは真剣な表情で力強く頷くのだったーーー。
・・・
その後、ウルカとククルカンに直接“事情”の説明と出立の準備に取り掛かる為にタリスマン、ティア、エイボンは出ていき、ルドルフとマルクスもそれぞれ“宰相”や“軍務長官”の『立場』から、各関係機関に『緊急通信』を回す為に出ていって、一時的に『謁見の間』にはルキウスのみが残されていた。
そこに、『血の盟約』のニルが静かに現れた。
「・・・『監視』はつけますか?」
「ニルか。ふむ、そうだな、一応な。もっとも、問題ないと思うがね。」
「・・・全ては陛下の“シナリオ通り”、と言ったところでしょうかねぇ?」
「なんの事かな?余も『LOL』も『帝国民』を守る為に行動するだけの事。もちろん、危険はあるかも知れぬが、『LOL』なら問題ないだろうし、『LOL』にとってもメリットのある事だろう。『帝国民』の支持を得られるのだからな。」
「そうして『LOL』の『思惑』を逆手に取るつもりなのですよねぇ?『帝国民』の“期待”と言う『麻薬』と『手綱』を使って・・・。」
「ふん、少しおしゃべりが過ぎるぞ、ニル。さっさと行かんか。」
「これは失礼。では、こちらも準備に掛かります。」
ルキウスがぞんざいに手を振ると、ニルは静かに消えていった。
豪華絢爛な“玉座”にて、ほの暗い笑みを浮かべて、ルキウスはひとりごちる。
「ふん、食えない男だ・・・。」
誤字・脱字がありましたら、ご指摘頂けると幸いです。
また、今後の参考の為にも、ブクマ登録、評価、感想等頂けると幸いです。よろしくお願いいたします。