表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『英雄の因子』所持者の『異世界生活日記』  作者: 笠井 裕二
『リベラシオン同盟』発足
50/383

『伝道師』の誤算 3

続きです。



◇◆◇



なぜバレないと思ったのか?

何かしらの『不祥事』が起こる度に、おそらく毎回皆が思う事であろう。

高度な『情報化社会』となり、昔は一方通行だった『情報』も、今や双方通行、所謂()()()()ですら『情報』を発信する事が可能となった『現代地球』でも、こうした事例は後を絶たない。

例えば、『政治家』の汚職やら、『芸能人』の薬物所持・使用、『警察官』・『教職者』などによる未成年者淫行などなどである。

もちろん、これはその中の極一部の人間が起こした事例であるが、『閉鎖された狭い社会』にいると、こうした『視野狭窄(しやきょうさく)』に簡単に陥ると言う事でもある。

前述の通り、『インターネット』により『世界の人々』と繋がっていると言っても、結局は自分の目の前の現実(リアル)が全てであり、その事を忘れてしまいがちになると言う事だ。

その結果、そうした『不祥事』を起こす人は、そうした『ニュース』は自分に取っては他人事で、何の根拠もないのに自分()()は大丈夫と思い込んでしまうのだろう。

さて、『現代地球』ですらその様な状況であるのだから、今だに『情報化(そうした面)』では遅れを取っているこの世界(アクエラ)の『権力者』達が、自制を働かせるのはより困難となるだろう。

それ故、フロレンツの様な『貴族』が台頭するのである。

もちろん、彼らも一応『セキュリティ(私兵)』を持っている。

そして、その事に安心してしまい、反省や自戒をする事もなく漫然と『悪事』に手を染めていくのだった。

確かに、この『セキュリティ(私兵)』は強力で、『ロマリア王家』や『他貴族』からの『間諜(スパイ)』、『反社会勢力』からの横やりを未然に防いできたのだから、油断するのも無理はない。

しかし、これらを軽く突破出来る『スキル』を持つ『存在』の事までは予測していないのが実情と言った所か。

まぁ、そもそも悪い事はするなと言う話であるが・・・。

だが、もちろん擁護する訳ではないが、こうした『権力者』や『政治家』の『仕事』となると、『利権』に関わる話が多くなるので、必然的に『誘惑』も多くなると言った側面もある。

『欲』のない人間などいないのだから、その『誘惑』に負けてしまうのも、ある意味無理からぬ事でもあった。


「落ち着きましたか、ジュリアン?」

「ええ、母上。頭の中の霧が晴れた様な気分ですよ。」


ジュリアンは、とても晴れやかな表情だった。

フロレンツや『ノヴェール家』、ニコラウスによって()()()、あるいは()()()()()()()()()『人格』・『正義感の強い、清廉潔白な理想的な貴族』ではなく、一人の人間として、自分の短所も受け入れた上で『理想』に邁進していく『本来のジュリアン』に戻った、いや、覚醒した、と言った方が適切だろうか?

そもそも、人には様々な側面があるのは当たり前の話だ。

それ故、以前のジュリアンは、()()()()()ではあったが、どこか不自然な感じがする所もあった。

いうなれば、『善』に片寄り過ぎていたのだ。

それ故に、『グレー』な事も含めた『悪』に嫌悪感を抱き、今回の様な暴走を引き起こしたのだった。

まぁ、ニコラウスに()()()()()()のだが、ここで、アキトが以前オレリーヌに贈っていた『アイテム』が状況を好転させた。

アキトがオレリーヌに贈ったのは、『精神安定系ポーション』だった。

これは、ガスパールにも贈っているのだが、以前にも言及した通り『薬師』としての研鑽も積んでいるアキトが、『ノヴェール家』との『協定』が成立した事で、御近づきの印として贈った物だ。

『元・社会人』かつ『元・役人』でもあったアキトが、「偉い人はストレスも尋常じゃないくらい溜まるんだろうなぁー」と、何の気なしの思いつきと善意で作製した物で、元々は『ストレス軽減』にでもなれば良いと考えていたのだが、アキト自身も今だにその全容を解明していない『英雄の因子』の『能力』のひとつ、『事象起点(フラグメイカー)』が発動し、ジュリアンの『暗示(呪縛)』をアッサリ解いてしまったのだった。

それ故、今のジュリアンはその『善』の部分を残しつつ、より『人間的』な、もっと言えば『政治家的』な『本来のジュリアン』に立ち返ったのであった。

元々『権力者』や『政治家』は、清濁併せ呑む度量が必要だ。

そうでなければ、『国』や『組織』や『市民』を守れないからである。

『権力者』や『政治家』の『相手』は、一筋縄ではいかない海千山千の猛者達だ。

そんな者達に対抗するのが『正義感の強い、清廉潔白な理想的な貴族』では、軽く捻られて、あるいは利用されて終わるのがオチである。

そう、()()()()()()()()()()()()()

もちろん、だからと言って『不正』や『悪事』を容認・擁護すると言う話ではないが、『政治の世界』は綺麗事だけではやっていけない。

要は、そうした『バランス感覚』と『視点』を持つ事、『指導者(リーダー)』として、時には残酷な『選択肢』を論理的に取る必要があると言う話である。


「父上の事は、今でも『尊敬』していますが、事がこれほど大きくなれば『ノヴェール家』の代表としては父上を()()()()()()()()()()()は、その事を冷静に判断する事が出来ます。」


少し表情を曇らせたジュリアンであったが、その眼には確固たる意思、『覚悟』が見てとれた。

オレリーヌは、それを確認し、ジュリアンの『回復』を確信した。

冷たい様だが、現実の『指導者(リーダー)』ならば、大を生かす為なら小を切り捨てなければならない事も往々にしてある。

感情論を無視し、論理的に考えれば、確かにフロレンツの遺した功績は素晴らしいが、それと数々の問題行動は分けて考えなければならない。

かつてガスパールやオレリーヌも同様に結論付けた様に、フロレンツを処罰をしなければ、『ノヴェール家』ごと倒れかねないからである。

しかし、ニコラウスに()()()()()()ジュリアンは、その『原因』を『リベラシオン同盟』にあると強引に曲解させられ(まぁ、ある意味間違いではないが・・・)、『掃除人(ワーカー)』を使いこれを排除しようとした。

だが、()()()()()()今のジュリアンなら、これが間違った判断であったと理解している。


「自分でやらせておいて何ですが、『リベラシオン同盟』の方々が御無事だと良いのですが・・・。」

「それなら心配いらないでしょう。貴方を()()()この『ポーション』も、かの『英雄』が(わたくし)に贈って下さった物ですわ。あの方なら、この程度の『難事』は物の数に入らないのでしょう。もちろん、ジュリアン。貴方の行動は『リベラシオン同盟』に報告させて貰いますけど・・・。」

「もちろんです。私自身も記憶があやふやではありますが、確かに私がやらせた事。その責任から逃れるつもりはありません。」

「奥様っ・・・!」


ニコラウスに()()()()()()とは言え、『掃除人(ワーカー)』チームをジュリアンがアキト達に差し向けたのは事実。

今のジュリアンが、その事実から目を背ける事は無かった。

沈痛そうな面持ちのライルが思わずオレリーヌに声を上げたが、オレリーヌはそれを片手で制した。


「けれど、多分大丈夫ですわ。・・・フフフッ、(わたくし)ともあろう者が随分曖昧な理由でモノを言っていますが、この『ポーション』の存在がそうさせるのね。あの方はどこまで予測されていたのでしょうか?・・・本当に恐ろしい御方。」

「・・・『英雄』殿の事ですか?」

「ええ、貴方も噂くらい耳にしていないかしら?『魔獣の森の賢者』の弟子にして、2年前の『ルダ村』の『パンデミック(モンスター災害)』を見事に退けてみせた()()の話を。まぁ、実際にお会いした時は、本当に若すぎてびっくりしてしまったモノだけどね。」

「その『英雄』殿が、『リベラシオン同盟』のリーダーで?」

「いえ、『リベラシオン同盟』の『盟主』は、現『ルダの街』の町長、ダールトン・トーラス殿よ。あの方では、見た目で侮られるからとか・・・。」

「それほどまでに『英雄』殿はお若いのですか?」

「ええ、実際見たらびっくりするわよ。何せ、まだ()()()()()ですからね。」

「「へっ??」」


オレリーヌの言葉に、ジュリアンとライルの主従コンビは思わず間の抜けた顔で声を漏らしていた。


「貴方達も、今回の『謝罪』も含めて一度面会してみなさいな。その見た目は幼いながらも美しい少年ですが、その中身は歴戦の猛者達とも対等に渡り合う知性を持ち、様々な人を惹き付けるカリスマ性を持ち、そこにいるだけで圧倒的な『雰囲気(オーラ)』を持っているわ。さらに(わたくし)達では及びもしない『武力』を持ち、高度な『魔法技術』まで持っているし、まさに『神々に選ばれた存在』とはこういう方を言うのね、と、一目見て気付くと思うわ。もっとも、見る人の()が曇っていれば、その限りではないのだけれど・・・。」

「母上がそこまで仰るほどですか・・・。」

「なんとまぁ・・・。」


ジュリアンとライルの主従コンビは、オレリーヌの感想を鼻で笑う事は無かった。

本来なら、そんな『荒唐無稽』な『存在』など信じるに値しないのだが、事オレリーヌの発言なら無視は出来ない。

これまでの『ノヴェール家』を支えてきた一人であるオレリーヌの発言には、その程度には重みがあるからだ。


「さて、ジュリアンも回復した事だし、(わたくし)達も事の経緯だけ見ている訳にもいきませんわね。なるべくこうなった『原因』を洗い直してみましょう?」

「そう、ですね・・・。」

「畏まりました。」


こうして、思わぬ形でニコラウスが仕掛けた『暗示(呪縛)』を解いたジュリアン達は、『リベラシオン同盟』への『お詫び』も兼ねて、今回の件の再調査を開始するのだったーーー。



◇◆◇



「何がどうなってやがるんだっ!!!???」


ニコラウスは、『ルダの街』の自身の『拠点』にて、苛立った様に辺りの物を蹴飛ばしていた。

先程までニコラウスは、かつて『催眠術』と『魔眼』を利用して、とある『貴族』から巻き上げた『秘宝』、『失われし神器(ロストテクノロジー)』の『模倣品(レプリカ)』・『神の眼』と呼ばれる水晶で、ジュリアン達の動向を眺めていた。

『神の眼』は、言わば『魔素』を利用した『監視カメラ』の様な物で、その場に居なくとも遠くの『動画』を見る事が出来る『超激レアアイテム』である(もっとも、その『貴族』もニコラウスも知り得ない事であったが、この『神の眼』とその元となった『失われし神器(ロストテクノロジー)』の利用価値と重要度は、『動画』を見れる程度では無いのだが・・・)。

かつてのこの『神の眼』の所持者の『貴族』は、これを利用して『街』や『村』などの女性を物色し、お気に入りの女性を見付けては、部下を使ってそうした女性達を(さら)わせる下衆だったが、現所持者(ニコラウス)の利用法も、それに負けず劣らず下劣であった。

今回の様に、わざと『対立』を煽り、その『争い』を自身は『安全圏』から高みの見物を決め込み、それを嘲笑いながら眺めるのだ。

この『トリックスター』・『扇動者(アジテーター)』は、これまでもこうやって、人々に『不和』や『悪意』をばら撒いてきた。

今回も、彼が『演出』した『リベラシオン同盟』VS『ノヴェール家』の『舞台』を、『登場人物(アキト達)』の慌てふためく様子を()()して眺めていたのだが・・・。

とにかく、彼の()()はことごとく()()()()()()()

これは、ニコラウスもジュリアン達も、当のアキト本人も知らない事だったが、アキトの持つ『英雄の因子』の『能力』・『事象起点(フラグメイカー)』には、アキトに対して某かの行動に出るとそれを増幅(ブースト)して反射して返してしまう『性質』があったからである。

つまり、『好意』や『善意』を向けてくれる人にはそれ以上の『良い影響』を、『悪意』や『害意』を向けてくる人にはそれ以上の『悪い影響』を与えてしまうのである。

ただ、これにも難点があり、と言うより、『英雄の因子』の『能力』全般に言える事だが、アキト自身には自覚がなく制御出来ないのである。

なので、アキトの預かり知らぬ所で、ジュリアンの『暗示(呪縛)』を解いてしまったり、その事を『策略』と誤解したオレリーヌに『過大評価』されたりと、知らない内に様々な『フラグ』を立てて、ある意味所持者本人(アキト)すら振り回すのだった。

もっとも、アキト以上に彼に『悪意』や『害意』を向けた者達の末路は悲惨なのだが・・・。


「いやぁ~、凄いねぇ~、()()()()の『能力』、いや、『英雄の因子(『彼』)』の『能力』かな?まぁ、どっちでもいいけど、まさか()()()にまで『影響力』を及ぼすなんてねぇ~。」

「だ、誰だっ!」


ジュリアン達の様子を眺めていたニコラウスは、ジュリアンの『暗示(呪縛)』がアッサリ解けてしまい、目論見が外れた事に激昂して物に当たり散らしている所に、不意に()()から声が響き渡り、ニコラウスは慌てて誰何(すいか)した。

そこには、『ハレシオン大陸(この大陸)』では珍しい、東洋系の顔立ちをした年の頃十二、三歳の黒髪の美しい少年がおり、ケラケラと笑っていた。


「はじめまして、ニコラウスくん。僕はヴァニタス。()()()君と接触するつもりは無かったんだけどさぁ~。君の持つ『能力』と『神の眼(これ)』はちょっと気になってねぇ~。君とハイドラスのヤツが持つには過ぎた『オモチャ』だから、回収しに来たんだよぉ~。もっとも、君が()()()()にちょっかいかけなければ、僕も気付く事は無かったんだけどね?」

「な、何を言っているんだ、このガキがっ!どっから入ってきたっ!?クソッ、“ここで見た事は忘れて、とっとと出ていけっ!”」


ニコラウスは、この少年に不気味なモノを感じ、すぐに得意の『催眠術』と『魔眼』を駆使して追い払おうとした。


「クソッ、この『拠点』も変えなきゃならねぇじゃねぇかっ!何だか知らんが、御坊っちゃんの『暗示』も解けちまうし、せめてあの『監視対象(ガキ)』が痛い目にでも遭ってくれねぇと、俺の気が済まねぇぞっ!」

「う~ん、それは難しいんじゃないかなぁ~?君や『掃除人(ワーカー)』くん達の想像以上に、()()()()達はぶっ飛んでいるからねぇ~。君がちょっとした悪戯程度で止めておけば、もう少し混乱させられたかもしれないけど、『観測者効果』も相俟って彼の『能力』の『反発力』も強まっているしね~。」

「・・・はっ?」

「おや、どうしたんだい、ニコラウスくん?」


しかし、ヴァニタスはケロッとした様子で相も変わらずそこにおり、ニコラウスの『力』の影響を受けていない様だった。


「な、何で俺の『力』が・・・?」

「・・・ああっ!そっか、そっか。君、今まで自分の『力』に頼りきっていたんだね?だからろくに努力した事ないし、想定外の事態に弱いんだねぇ~。ゴメン、ゴメン。残念だけど、その()()の『力』じゃ、僕には通用しないよ?」


ヴァニタスは納得顔でニコラウスの疑問に応えた。

ニコラウスはその発言に更に激昂し、血走った『眼』をヴァニタスに向けた。


「バカにしてんじゃねぇよっ!面倒だから『手加減』してやったのに調子に乗りやがってっ、クソガキがっ!“今すぐ死ねっ!”」

「ハハハッ、愚かな人だなぁ~。通用しないって言ってるじゃないか。」


『魔眼』を『フルパワー』で使用したのに、ヴァニタスには全く通用しなかった。

当然ながら、何事に置いても物事には『メリット』と『デメリット』が存在する。

ある種『チート』染みたアキトの『英雄の因子』の『能力』も彼自身には制御が効かない仕様であり、ある意味彼自身をも振り回す『天災』並みに厄介だったり、『魔法技術』には『魔素』と言う外部の『エネルギー』を必要であり、更にそれを扱う為には『知識』・『技術』が必須であったり、と言ったモノである。

これは『魔眼』とて例外ではない。

『フルパワー』で無ければさして影響はないのだが、『フルパワー』で使うと『強力な力』を使用可能だが、同時に『持ち主』の肉体、下手をすれば精神や魂にまで負荷が掛かる恐れがあるのだ。

ノーリスクで『強力な力』が使える訳ではないのである。

『フルパワー』の反動で、身体の力が抜けるのを感じながら、ニコラウスは愕然としていた。


「う、嘘だっ・・・!」

「まあまあ、落ち着きなよ。まだ結果が出てないんだから、『物語』は最後まで見届けないとね!」


パチンッとヴァニタスは指を鳴らすと、逆にニコラウスが()()()()()()大人しく『神の眼』の前に再び移動するのだった。


「な、何をした・・・!?」

「えっ?君の『力』を()()しただけだよ?この()()の『力』なら本来『魔眼』なんて必要ないからねぇ~。それよりも、()()()()達の『物語』の続きを一緒に見ようよ!その結果、君がどういう影響を受けるのかも興味あるしねぇ~。」


ゾクッ!

ニコラウスは、何とも言い表せない悪寒、怖気(おぞけ)を感じていた。

相変わらずケラケラと人懐っこい笑顔を振り撒く目の前の少年の、『実験動物』を見る様な『眼』に、ニコラウスは得も言われぬ恐怖感を感じたのだった。

しかし、これもニコラウス自身がもたらした結果である。

因果応報、自業自得。

少なくとも、アキトに関わろうとすると、その『(ことわり)』から逃れられないのであった。



◇◆◇



※『掃除人(ワーカー)』・シュマイトの場合



シュマイトは、レイナード達を監視していた。

シュマイトの『ターゲット』はアキトであるが、先日の『下調べ』で、アキトの『実力』が自身より上である事を認識し、バカ正直に『ターゲット』に挑んでも返り討ちに遭う事をシュマイトは素直に認めていた。

しかし、だからと言って『対抗手段』がない訳でもない。

『戦略的』に言っても、相手の弱点を突くのは間違った『手』ではない。

『プライド』も何もない『掃除人(ワーカー)』としては、『人質』を取る事に何の躊躇も無かった。

ただ、アキトと違い、レイナード達は基本的に普通の子どもであるので、その活動時間も一般的な範囲に限定される。

つまり、『掃除人(ワーカー)』達の『セオリー』的に都合の良い時間帯、夕方や夜間にはそれぞれの家に帰ってしまうのだ。

ただでさえ『人質』に取ると言う『ハードル』の高い事をするのである。

シュマイトも、アルファー・ドゥクサス同様に高い『隠密技術』と『気配遮断技術』を持っているが、万が一にもレイナード達の家族に気付かれるのは悪手だ。

まだ、そう言った意味では『ターゲット』を直接狙っていたアルファーとドゥクサスの方がマシで、ここで重要なのはシュマイトの『ターゲット』はレイナード達ではなく、アキトである点である。

それ故、万が一気付かれても『ターゲット』さえ始末出来れば良かったアルファー達とは違い、レイナード達の家族に気付かれると、『ターゲット(アキト)』の警戒心を引き上げてしまう懸念がある。

それでは『人質』の『効果』が半減してしまう。

相手が『人質』を取っている事を知っているのと知らないのでは、その『対処法』に雲泥の差が出てしまうからだ。

シュマイト自身も認めた様に『ターゲット(アキト)』は高い『実力』を持っているので、その相手が『人質』を取られた事を知れば、可能な限り捜索するだろうし、こちらに気付かれない様に『人質』を奪取する作戦を考えるのは想像に難くない。

その課程で、様々な人に『情報』が広がるのは、『掃除人(ワーカー)』としては避けたい事態だ。

それ故、シュマイト達としては秘密裏に一気に事を進める『電撃作戦』が望ましい。

素早く『人質』を取り、『ターゲット(アキト)』に考える隙、『対処』する時間的・精神的余裕を与えずに『罠』を設置した『指定場所』に誘き寄せる事が何より重要なのだ。

その為にも、シュマイトが『人質』を取り、同時間帯に『サポート役』のギールがアキトに『メッセージ』を送る段取りとなっている。

そうした訳で、シュマイトは現在『人質』を取る為にレイナード達を監視しながら、その機を窺っていたのだった。

とは言え。


「早く戻ってくんねぇかなぁ~?こんなだだっ広い所で襲撃したら、俺の『存在』を喧伝しちゃう様なモンだし~♪」


現在レイナード達がいる場所は、いつもの『雑木林』の『秘密基地』であった。

人目につきにくいと言う点では襲撃には適した条件だが、同時にシュマイトにとっても隠れる場所が限定されると言う『デメリット』がある。

重ねて言うが、シュマイトはレイナード達を殺したいのではなく、『人質』としたいのだ。

『秘密基地』に押し掛け、誰か適当な一人以外始末して『人質』を手に入れると言う『プラン()』もあるが、その場合も、人目につきにくいとは言え、『ルダの街』のすぐ近くであり、周辺で働く『農民』達の存在もある(レイナード達はバレてないと思っているが、彼らを目撃している『農民』は結構な数いる。もっとも、子どもの遊びの範疇として黙認しているが・・・)。

街中と違い、隠れられる場所があまりないこの場で襲撃したら、『人質』を連行している所を見られる可能性も十分にある。

それ故、シュマイトとしては、レイナード達がいつも使用している『街側』の『抜け道』付近が襲撃には一番望ましかった。

この場所は、街中であり、なおかつ人目のつかない場所だ。

隠れられる場所はいくらでもあり、『人質』を運搬する手筈もギールが整えてくれている。


「おっ?ガキども戻って来やがったなぁ~♪」


『抜け道』付近で張り込んでいたシュマイトは、レイナード達が『街中』に戻るのを確認していた。

タイミングは、『街側』に戻った瞬間だ。

レイナード達としても、一応禁止されている『街の外』への無断外出している自覚がある。

そうした訳で、『街側』に戻った瞬間は、多少の精神的隙が生まれやすくなると言う計算である。


「ふぅ~。大分『散心』も上手く使える様になったなぁ~。」

「アキトが言ってたけど、レイナードも含めて私達確実に強くなってるってさ。」

「う~ん、そうかなぁ~?アキトに比べればまだまだだし・・・。」

「それは比較対象が悪いだろ?アキトは父さんやドロテオギルド長、バドさん達も認める規格外の存在だぞ?僕なんて、今だに『パンデミック(モンスター災害)』の時に見た光景が忘れられないくらいだし・・・。」

「あれは凄かったよねぇ~。まぁ、その後もアキトはアキトのままだったから、俺達もアキトに『恐怖感』を感じなかったけど、普通なら忌避されてもおかしくないくらいだよなぁ~。」

「私もそれは心配だったけど、アキトを知っていれば彼がその『力』を悪い事には使わないって分かるからね。まぁ、逆に私は、『魔法技術』を母さんに学び始めてから、アキトとの差を改めて思い知らされたけどね・・・。」


ガヤガヤと賑やかに戻ってくるレイナード達を眺め、シュマイトはその瞬間を待っていた。

しかし、シュマイトは気が付いていなかった。

アキトの『影響』を受けたレイナード達が、すでに『ただの子ども』レベルからは逸脱している事に。

そして、シュマイトや他の人達にも知らず知らずの内に『影響』を及ぼしている事にーーー。



誤字・脱字がありましたら、御指摘頂けると幸いです。

以前御指摘頂いた方には、この場を借りてお礼申し上げます。

修正させて頂きました。ありがとうございました。


今後の参考の為にも、よろしければ、ブクマ登録、評価、感想等頂けると幸いです。よろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ