そして、『掃除人【ワーカー】』達は動き出す
続きです。
◇◆◇
まぁ、大変申し訳ないが気付いてるんですよね~。
確かに、以前の僕なら見過ごすほどのかなり高い『隠密技術』なんだが、その『悪意』や『害意』と言った所謂『悪感情』までは流石に隠せない様子であった。
ここで重要なのは、この『掃除人』(推定)は、『殺気』を一切出してない事であろう。
僕がこの『悪意』や『害意』と言った『淀んだ空気』(こう表現するのが一番感覚的に近い)を感知出来る様になったのは、本当にごく最近の事であった(『精霊石』を利用した『結界術』を用いればその限りではないが、諸々の事情により『ルダの街』には『結界術』を常時張ってはおけない。そもそも、『結界術』を『常駐』させておくには、『コスト』の問題で高くついてしまうからなぁ)。
しかし、この『空気を読む力』自体は意外と誰でも持っている感覚だったりする。
例えば、『学校』の『クラス』でも、『職場』の『部署』でもどこでもよいのだが、その『場』の誰かが非常に『不機嫌』であったり、誰かと誰かが『ケンカ』中だったりした場合、大抵の人は、
「何だか『空気』が悪い(重い)なぁ~。」
「何だか『雰囲気』が悪い(重い)なぁ~。」
と感じる事があるだろう。
それは『事情』を知らずとも感じる類のモノである。
まぁ、この場合は、全体的な『情報』、例えば『表情』だったり、『声色』だったり、『挙動』などを含めて総合的に判断するモノなので、本当の意味では『空気』を読める訳でも『テレパシー』的な『能力』がある訳でもないが、集団で生活する『動物』にとっては、この『力』はある種必須の『スキル』と言えるだろう。
この『力』がない、『空気の読めない人』は、反感を買ったり、要らぬ怒りを買うので、周囲から『孤立』する危険性があるからだ。
ま、それはともかく。
しかし、この場合は、当然ながらその『現場』にいないとその『空気』は分からないので、例えば、離れた場所の『空気感』までは分からない。
それが普通であるし、僕もそうだった。
ただ、最近はその『悪意』や『害意』と言った『悪感情』を離れた場所からも、何故か感知出来る様になったのだった。
言うなれば、(『悪感情』限定の)『精神感応』みたいなモノだろうか?
流石に、『心の声』までは聞こえてこないので、それはある意味助かっている。
一人の『人間』が、他者の『心の声』まで聞こえてしまったら、僕はとっくに『頭』と『精神』をやられて『廃人』になっているだろうからなぁ~。
さて、では気になるのが、この『能力』の『発現』した経緯である。
思い当たる事があるとすれば、アルメリア様の『領域干渉』の『効果』の事や、僕の『英雄の因子』の『能力』くらいしか思い当たらないが、ぶっちゃけ理由までは分からん。
まぁ、こちらの世界に来てからは『地球』の常識が通用しない事がままあるので、僕はすでに諦めている所である。
深く考えても『答え』は出ないし、この『能力』に問題があればどうにか『封印』する事も視野には入れているが、今の所は問題なさそうであるし・・・。
ただし、『殺気』であれば(まぁ、当然ながらこの世界で生活し始めてから体得したのだが)、もっと早い段階で感知する事が出来ていた。
また感覚的な話になってしまうのだが、『殺気』を向けられると物凄く嫌な感じが全身を駆け巡り、肌が粟立つ感覚に陥り、「蛇に睨まれた蛙」の如く、全身に『恐怖感』や『緊張感』が走る。
これは、『動物』が『本能的』に持つ『生命維持』に関わる事柄、つまり『死』に対する『恐怖』そのものなので、本人の『レベル』によらず感じる類の『恐怖感』である(いくら『レベル』が高くとも、『不死』と言う訳ではないからなぁ)。
特に、『強者』の『殺気』は、それだけで『判断力』を鈍らせる『効果』があるし、それを受けたのが心の弱い者であれば、それだけで失禁・失神するし、最悪『ショック死』する可能性すらある。
しかし、この『恐怖感』を上手く使いこなせれば、驚くべき精度の『センサー』として機能する。
『森』に入って『狩り』をする上では、ある種必須の『スキル』と言える。
ただし、これにも弱点があり、ある一定レベルの『使い手』ともなると『殺気』を隠す事も上手くなる傾向にあるので、この『センサー』に頼りきるのも危険ではある。
今回の、この『掃除人』(推定)の様に、『殺気』を感じないからと言って油断するとエライ目に合うだろう。
ま、それも今は昔の話なんだけどね。
僕も、順調にこの世界に慣れ、どんどん『人間離れ』しているなぁ~(遠い目)。
「どうしたの、アキト?」
「ゴメンゴメン。何でもないよ、ケイア。」
レイナードと交代し、僕と『魔法』の『訓練』に打ち込んでいるケイアが不思議そうな表情で僕の様子を窺っていた。
『悪感情』を感知した事で、一瞬にして色々考えを巡らせてしまっていた様だ。
端から見たら急にボーッとした様に見えたのだろう。
いかんいかん、あくまで『自然体』でいなければ。
先程、レイナードに教えた『フェイント版縮地』・『散心』(ぶっちゃけると、ただの『フェイント』と『ミスディレクション』の応用なのだが、『技名』を付けた方がそれっぽいと僕とレイナードで盛り上がった結果の産物だ。はやくも、僕はかなり後悔している・・・)の『成功率』を上げる上でも、『発動者』本人が如何にも何かやると言ったわざとらしさが出ない様に気を付けろと、訥々と語ったにも関わらず、僕がこれでは説得力がないじゃないですか~、やだ~。
まぁ、当のレイナードは、テオとリベルト相手に早速『散心』の『訓練』に励んでいる様子で、僕の変化に気付いていなかったのが不幸中の幸いだ。
それに、『悪感情』を向けてきた『相手』にも何か勘付かれる懸念もあるし。
『監視』を受けている状況下で、自身の『情報』を多く開示するのは愚かな行為だ。
『腹の読み合い』はもう始まっているのである。
「そう?ならいいんだけど・・・。それよりさ、やっぱり『初級』以上の『魔法』は教えて貰えない、かな?私、もっと皆の役に立てる様になりたいな~、とか・・・。」
「前にも言っただろ?ケイアには申し訳ないけど、ダメだよ。『魔法技術』も結局は『力』だから、『力』を持つならそれ相応の『覚悟』が必要になってくる。その『熱意』や『覚悟』が本物であるなら、(今現在は)正規のルートである『魔術師ギルド』に直接直談判した方がまだ賢明だよ。言い方は悪いけど、僕もアルメリア様も、そう言った意味では『モグリ』だから、そんな奴に教わったら、ケイアの為にならないしね。」
『魔法技術』に関わらず、突出した『能力』を持つ者は、羨望を向けられたり尊敬されるだけでなく、嫉妬の対象となったり、脅威と見なされる事も往々にしてある。
当然、その『力』を取り込もうとか利用しようとする輩も出てくるので、それに対する『自衛手段』なり『覚悟』なりを持っていなければ、結果的に不幸な事になる事は想像に難くない。
ケイア本人も、その事は(全て納得している訳ではないだろうが)理解している筈である。
母親にも、その事は諭されている筈だからな。
ただ、彼女の中には『焦り』の様なモノも見え隠れして、非常に危うくはある。
まぁ、『思春期』頃の子どもにはありがちな事ではあるんだけど、どうも心配だなぁ~。
そんなに焦らんでも良いのだが・・・。
「ま、まぁ、何にしても、ケイアは『初級』の『四大属性』の『魔法』はケイラさんに教わっているんだろ?それだけでも随分な『アトバンテージ』だから、焦る事はないって!『初級』クラスだって、工夫次第では強力な『武器』にもなるし、人々の役にも立つしさぁ。」
「うん・・・。」
あからさまにガッカリするケイアに、慌ててフォローを入れる僕。
そこ、ヘタレとか言わない様にっ!
『前世』では結局結婚せずに終わったので、子どもがいた経験がないのだ。
ましてや、『思春期』頃の女の子の扱いなど知る由もない。
結局、『中級』・『上級』は教えられないけど、僕は甲斐甲斐しくケイアに『助言』をしたりするのだった。
「以前出会った『冒険者』パーティーにも、魔法使いの青年がいたんだけど、言い方は悪いが『冒険者』故に彼も『初級』くらいしか使えなかった様子だったな。しかし、その事を感じさせない、それは見事な『使い手』だったよ。特性を理解して、それを最大限に利用出来る様に工夫する。その事の『重要性』をきちんと理解しているんだね。例えば・・・。」
◇◆◇
「お~お~、ケイアも大変だよなぁ~。想い人が『英雄』様だと。」
「追い付く為に必死だよね。ま、俺らも似たようなモンだけどさっ。」
「大丈夫かなぁ、ケイア・・・。」
「おんやぁ~?リベルトくん、ケイアの事が心配かい?」
「からかうなよ、レイナード。僕はただ無理してないかなぁって・・・。」
「まぁ、正直無理してると思うけどね~?こればっかりは本人が決める事だから何とも言えないけど、アキトの事は諦めた方が良いと私は思うけどねぇ~。確かに私達『幼馴染み』だけど、やっぱりアキトだけ『別次元の存在』だもん。友達として付き合うのは良いけど、それ以上を望むといつか壊れちゃうと思うんだよね・・・。」
「バネッサ・・・。」
「もちろん、私はアキトもケイアも両方大切で大好きだけど、『パンデミック』の時にこうも思っちゃったんだよね。ああ、アキトは私達とは『住む世界』が違うんだなぁって。」
「・・・確かに、な・・・。」
「・・・。」
「・・・。」
バネッサの発言に、それぞれ思う所のあったレイナード達は、無言で頷いた。
レイナード達にとっては、『パンデミック』は強烈な印象に残る体験であった。
もちろん、生の『魔獣』や『モンスター』に対する『恐怖感』もあったのだが、それ以上に、『幼馴染み』のアキト・ストレリチアの『本当の姿』を垣間見たのがやはり大きかった。
レイナード達にとっては、それまでは確かに普通の子どもとは違った面や、大人びた言動、醸し出す雰囲気、頼もしい姿を感じてはいたのだが、それでも、アキトはただの『幼馴染み』の友人と言う『認識』だった。
それは、レイナード達がそれまで『危険』に合わなかったと言う幸運な理由もある。
大人達が『ルダ村』の危機を未然に防いでいたお陰で、『争い事』と無縁に生きてこられたから、こそである。
しかし、この世界は一度『安全地帯』の外に出ると熾烈な生存競争の場でもある。
『魔獣』や『モンスター』は言うに及ばず、『盗賊団』などの『無法者』も跳梁跋扈する『世界』だ。
そこで生きてきたアキトの、それもそれらを軽く凌駕する『実力』を、『パンデミック』時に初めてレイナード達は『認識』したのだった。
始めは単純な『憧れ』だった。
『幼馴染み』の友人が、まるで『物語』の『英雄』の様に『ルダ村』の危機を救ってくれたのだ。
その『英雄』が自分達の友人である事に、ある種の『誇らしさ』さえ感じていた。
しかし、レイナード達も成長するにつれて、自分達とアキトの『差』を、否が応でも感じ始めていた。
それは、次第に『憧れ』やら『劣等感』やら『嫉妬心』やらが入り混じった複雑なモノになっていくのには、そう時間は掛からなかった。
ただ、レイナード達とアキトは様々な事情もあって、四六時中一緒にいる間柄ではない事が幸いしてか、彼らの『精神』は致命的に歪む事も無かった。
周りの大人達も、アキトが『特別』である事を理解していたからか、露骨に比べられる事も無かったからである。
それどころか、結果的にその複雑な感情は、この『英雄』に可能な限り近付ける様に努力する、ある種の『発奮材料』にすらなったのだった。
ただし、ケイアだけは違った。
ケイアは、アキトの事が好きなのである。
ただ、ここで言う『好き』とは、淡い初恋の様なモノで、大人から見たらまだまだ『恋愛感情』にも達していない幼いモノであったが、この年頃の子どもには、大きな比重を占めるものでもあった。
もう少し成長し、女性としての本当の想い人が出来れば、この頃の自分の少しの気恥ずかしさと淡い想いを、『初恋の思い出』として大切にしまっておけるのだろうが、今のケイアにとっては、目の前の事が全てであった。
それ故に、アキトに必死に追い縋るのだが、当然ながらその『差』は簡単には埋まらない。
『身分』や『能力』、『収入』やその他諸々の所謂『格差』とは、意外と根深い問題になる。
それこそ、『物語』の様な『王子様』、あるいは『お姫様』の様な『特別な立場』の者と、『身分差』を覆して結ばれる為には、お相手本人もそれ相応の『立場』になれる様努力しなければ、いずれ破綻してしまうからだ。
本人同士が良いならそれで良いではないか、とは現実問題そうもいかない。
それこそ、『周囲』が反対するし、燃え上がっている本人達も、いずれ『バランス』が取れてない事に徐々に不満を持ち始めてしまう。
そうして、行き着く果ては破滅である。
ただの『関係』の破綻ならまだマシだが、相手を責めてしまったり、自身を責めてしまったりして心を壊してしまったりしたら最悪である。
そうした事態は、本人達も含めて『周囲』にも『遺恨』を遺してしまう可能性がある。
もちろん、全てが全てそうであるとは限らないのだが、それほどまでに、『格差』を埋めるのは並大抵の事ではないのだ。
それ故、バネッサはケイアがケイア自身をいずれ壊してしまうのではないかと心配しているのだった。
それこそ、『精神』に異常をきたしてしまう恐れもあるのだ。
しかし、バネッサのこの懸念も思わぬ形で徒労に終わる。
それは、最善の方法ではなくケイアが傷付く結果にもなったが、『英雄』と呼ばれる人物をどこか『劣等感』を感じながら想い続けるよりかは、幾分マシな事かもしれなかったーーー。
◇◆◇
「ただいま~♪」
「ご苦労。首尾は?」
「まぁ、何とかなるかなぁ~ってトコ。ただ、リーダーの『力』も少し貸してほしい~んだけどね♪」
「・・・『噂の英雄』はそれほどか?」
「そっ♪まぁ、俺も実際に見るまでは半信半疑だったけど、リーダーの慎重さを普段見てなかったら、今頃俺はここにいないかもねぇ~ってレベルでヤバい。少なくとも、ただのガキだなんて侮って良い相手じゃあないねぇ~♪」
「ふむ・・・。」
シュマイトの発言に、ギールは静かに目を見開いた。
基本的にギール達は、どこか頭のネジが飛んでいる連中で、自分以外の他者をその辺の虫か、あるいは遊ぶと面白そうな玩具にしか見えていない。
それ故に、冷酷な事も残虐な事も平気で行えるのだ。
『精神的』に無邪気な子どもの様な『残酷性』を持ちながら、身体だけ大きくなった感じだろうか?
そうした事もあり、他者を見下す傾向にあり、さらに、ギール達は、これまで色々な事柄から生き延びてきた自負もあるので、傲慢にも成りやすいのだった。
結論を言うと、自分達の『力』を過信しているのだ。
ただ、その中では、比較的マシな部類の知能を持つギールだけは、他者を見下すのを咎める事はなかったが、侮ると危険な事を理解していた。
もちろん、ギール自身も己が『強者』である事に疑いはないが、物事に『絶対』はない。
それ故に、『仕事』に掛かる際には、まず『下調べ』する事を徹底していた。
ぶっちゃけてしまうと、ギールにとっては『仲間達』がいくらヘマしようと、死のうとどうでも良いのだが、その結果、『依頼』が失敗してしまう事、自分自身に『危険』が及ぶ事の方が遥かに問題だったからだ。
ただ、運が良い事に、これまでの『対象』は、自分達よりも遥かに格下ばかりであった。
これは、『対象』が『依頼主』の『敵対者』、つまり、相手も『貴族』が大半であった為で、『能力的』に戦闘に特化している存在ではなかった事が主な理由だ。
もちろん、そうした『貴族』達は『セキュリティ』で身を守っているが、そうした者達の目を盗むのはある意味ギール達『掃除人』の『十八番』でもあった。
しかし、今回シュマイトは、自発的にギールに『力』を貸してほしいと言った。
これは、これまで無かった事で、もちろん、これまでも『知恵』を貸してほしい、とか、『意見』を求めた事はあったが、具体的な『行動』を求める事は皆無だったので、ギールはシュマイトと同じく自身の『警戒レベル』引き上げたのだった。
しかし、それと同時に嬉しい誤算でもあった。
ギールの『闘争本能』に火を着ける『存在』。
そうした『強者』を叩き潰す事は、ギールにとってはこの上ない愉悦であった。
「手を貸すのは吝かではないが、具体的な『プラン』はあるのか、シュマイト?」
「あるよ~♪『人質』。簡単で効果的でしょ?」
「・・・なるほど、『下調べ』が役に立った訳だ。」
「そっ♪」
「戻った。」
「同じく、戻ったぜ。」
「ご苦労さ~ん♪」
「ご苦労。首尾は?」
ギールとシュマイトが相談している所に、アルファーとドゥクサスも潜伏拠点に戻って来た。
ギール達は一旦話を打ち切り、アルファーとドゥクサスに問い掛けた。
「こちらは問題ない。『対象』の周りに厄介そうなヤツらはいたが、想定の範囲内だ。いつも通りイケる。」
「ふむ。」
それにアルファーがまず答えた。
アルファーの『対象』はダールトンである。
ダールトンは優秀な男だが、事戦闘においては、アキトとドロテオには及ばない。
それ故、アルファーは問題ないと言い切った。
この判断に、ギールも異論は無かった。
事『暗殺』に掛けては、ギールはその程度にはアルファーを信用しているからだ。
「多分、俺が一番キツいんじゃねぇかなぁ~?俺の『対象』は、元とは言え『上級冒険者』だったバリバリの武闘派だぜ?まぁ、逆に、アルファーと違って周りに護衛らしき存在は確認出来なかったから、不意を突ければ何とかなんだろ~が・・・。」
「ふむ。ドゥクサス、『サポート』が必要か?」
ドゥクサスの発言に、ギールはそう聞いたが、ドゥクサスはニヤリと笑って首を降った。
「いや、大丈夫さ、リーダー。久々の上等な『獲物』だ。殺りがいがあるってモンさ。」
「そうか・・・。」
ドゥクサスは、どちらかと言うとギールに近しい『闘争事』が好きな男だった。
口ではそう文句を言うが、その表情はひどく明るかった。
一種の『戦闘狂』なのである。
「ならば、このまま進めよう。俺は、シュマイトからの要請でサポートに回る。」
「っ!リーダーがサポートに回るほどか?」
「そんなにヤバいのか?ただのガキにしか見えなかったが・・・。」
「俺も実物を見るまではそうだったぜぇ~?いやいや、『世の中』には、とんでもない『バケモン』がいるモンだねぇ~♪」
ギールの発言に、アルファーとドゥクサスが驚愕を露わにした。
シュマイトは、ギール達の中では一番若手だったが、少なくともその『技量』が足りてないと感じる事は無かった。
でなければ、曲がりなりにも『チーム』を組む事はない。
それ故、シュマイトの判断をアルファーもドゥクサスも嘲笑する事は無かった。
「まぁ、しかし、それならそれでやり様はある。シュマイトの『プラン』も納得出来るモノだ。俺達は、それをもう少し詰める。アルファーとドゥクサスは、そのまま進めてくれてかまわないが、今日の所は一旦休め。ただ、決行日時は足並みを揃えてくれよ?バラバラに殺って騒ぎになると、撤退が面倒になる。」
「りょ~か~い♪」
「了解した。」
「ああ、分かったぜ。」
「よし、では決行日時は・・・。」
今回の『仕事』はいつもよりかは多少『難易度』が高いが、それでも自分達の手に負えないレベルではない。
総合的にギールはそう判断したが、それは完全な勘違いだった。
フロレンツも似た様な所があったが、想定が甘過ぎるのである。
これは、『経験則』と言う、一種の『バロメーター』が完全に裏目に出た結果である。
まず前提条件として、アキトの一番厄介な所は、その『英雄の因子』に由来する『能力』でも、『高レベル』故の『ステイタス』由来の『身体能力』でも、『魔法技術』や『結界術』でもなく、『見た目』と『中身』に解離がある事である。
他者から見たら、「『見た目』に反して優秀だ」とか、「『見た目』に反して強い」と見えるだろうが、そうではなく、『中身』が40オーバーのおっさんなのである。
つまり、『前世』に本格的な『戦闘経験』がなくとも、それに準ずる『経験』があるし、『社会人経験』・『人間関係』で培った『腹の探り合い』ももちろんの事、『情報』の『重要性』を理解し、それをいかに見せるか、あるいは見せないかもある程度理解している。
さらに、こちらでの『経験』も加味されるので、『見た目』に騙されるとか、騙されないのレベルではなく、単純に『S級冒険者』クラスの『実力』と『計略』を持つ『古強者』として『認識』して『対処』しなければ危険なのだが、この『見た目』の『印象』を覆すのは中々難しかった。
今回、シュマイトはアキトの『力量』を少なくとも自分より上と想定して、『プラン』を『搦め手』に切り替えたまでは良かったのだが、はっきり言ってそれだけでは全然足りてなかった。
単純に『情報収集』不足なのである。
これは、『掃除人』達の状況も大いに関係する話なのだが、彼らは『プロ』であると同時に『犯罪者』でもある。
それ故、ひとつ所に留まるのは当然『リスク』がある。
なので、一番『ベスト』なのは、『対象』を確認したら、即抹殺して即撤退する事だが、当然ながらそれを成す為には、綿密な『情報収集』が必要不可欠である。
故に、『対象』を四六時中『監視』し、その『力量』や『生活パターン』・『人間関係』などを徹底的に調べ上げる『現地協力者』が『掃除人』とは別に必要なのだが、そこまで『組織的』な仕組みが出来上がっていないのが『掃除人』達の現状だった。
そうした事もあり、ギール達は自分達で一応の『情報収集』をしてから、『仕事』の決行を決めたのだが・・・。
すでに、『掃除人』の『存在』をアキトが掴んでいたのまでは完全に想定外だったーーー。
◇◆◇
「ってな訳で、どうやら『掃除人』達はもう近くにいると思われます。近日中に『襲撃』される恐れがありますから、各々注意して下さいね~。」
〈うん、どういう訳から知らないが、了解したよ。〉
〈まっ、アキトだしなぁ~。こっちも了解したぜっ!〉
いやぁ~、『通信石』って、マジ便利だよね~。
誤字・脱字がありましたら、ご指摘頂けると幸いです。
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