『アントム工房』
続きです。
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などと『回想』している内に、どうやらアイシャさんとティーネの『相談』が終わった様だ。
待ちくたびれたエレオノールちゃんは、シモーヌさんの腕の中で完全に寝入ってしまっている。
これは、早い所用事を済ませた方が良いだろうな。
ただでさえ、『ルダの街』に着いたばかりだと言うのに、色々と連れ回してしまったからな。
「ごめん、ごめん。お待たせ~。」
「申し訳ありません、主様。少々取り乱してしまいました。」
・・・何に?
いや、そこは敢えてツッコまない方が良いか。
話がややこしくなりそうだし・・・。
「じゃあ、早めに終わらせよっか。エレオノールちゃんも疲れて眠ってしまったし、アランくんも結構疲れているだろう。今日の所は、とりあえずタンリー爺さんのトコだけ顔を出して、『シュプール』に戻ろうっか。」
「「は~い(はっ)!」」
ドニさん達にお待たせした事を謝罪しながら、僕らは『郊外』の『鍛冶職人』・タンリー爺さんの『工房』に向かうのだった。
『ルダの街』の『中心部』は、『行政機関』や『市街地』が存在するので、騒音の出る『工房』などの、所謂『生産系』の建物は『郊外』に建設されている。
ドニさん達の『自宅兼工房』も、この『郊外』に建設される事になるだろう。
もちろん、場所はドニさん達とバッティオ親方が相談の上で、だが。
ちなみに、この世界における『土地』の『所有権』の定義は結構曖昧で、もちろん、大元を辿れば『ロマリア王国』の『土地』は、全て『ロマリア王家』の『所有物』となるのだが、それを『領地』として、各『領地』の『領主』が与えられ、各々『領地経営』をする。
言うなれば、『ロマリア王家』は『日本』における『中央政権(政府)』であり、『領地』・『領主』は、『都道府県』と『知事』にあたる。
さらにその下に、ダールトンさんの様な、『市長』・『町長』・『村長』が続く。
基本的に『領地』の『責任者』は『領主』であったり、または『領主家』なのだが、とは言え彼らが全ての『土地』の面倒を見きれる筈もなく、結果的に『現場責任者』たる『市長』・『町長』・『村長』がその『代行』をする。
もちろん、各『領主家』も『基本方針』には口出しするが、後は『現場』に『丸投げ』になるのが現状である。
さて、『土地』の話だったが、つまり、
『ロマリア王家』→『各領主家』→『市町村』→『個人・団体』
と言う流れで、最終的な『所有権』はその『家』の者達となる。
ここまでは非常にシンプルなのだが、何らかの理由、例えば『区画整理』とか『災害』とか『転居』などにより、その『土地』を手放す場合、一旦『市町村』が買い上げたり、『他者』に譲渡したりと、段々複雑化していき、最終的に、『行政機関』ですらその『土地』の『所有者』が誰なのか分からなくなったりするケースもある。
まぁ、これは、その『土地』の『行政』がしっかり管理しなかった場合に起こる現象なので、『ルダの街』では今の所問題ないのだが・・・。
ここまでは、『人の領域』の話だが、この世界には『モンスター』や『魔獣』が存在する関係で、『市町村』の外の『世界』も便宜上『その国』の『土地』だが、実際には危険なので管理をしている訳ではなかったりする。
それ故に、アルメリア様と僕の様に、『魔獣の森』に住居を構えていても特に問題はないし(まぁ、『グレーゾーン』だが)、所謂『ランツァー一家』の様な『犯罪組織』がそうした『空白地帯』に拠点を構える事もままある。
まぁ、当然『街』の外は危険と隣り合わせなのだが・・・。
それはともかく。
ダールトンさんが中心となって進んでいる『ルダの街』の『再開発』において、この『工房』などの『生産系』の建物が建ち並ぶ(実際には点在しているが)『工業団地』は、『区画』ごとに分けられている。
その『工業団地』の一画に、『ルダ村』時代から存在する年季の入った『工房』があった。
ここが、『鍛冶職人』・タンリー爺さんの『アントム工房』である。
「こんにちは~。」
「いらっしゃいっ!って、アキ坊かい。アイシャとティーネも一緒かね。なんだい、何か入り用かい?」
「こんにちは~。」
「こんにちは。モリーさん。」
タンリー爺さんの『工房』の表側の『店舗』では、日用品や武器・防具類を販売している。
そこに、50代半ばのお婆さん(『現代日本』では、その年代の女性にそう表すると怒られそうだが、この世界では『平均寿命』が短いので、こちらの呼称が一般的である。まぁもっとも、本人に面と向かってそうは言わないけれど・・・)が、店番をしていた。
タンリー爺さんの奥様で、モリーさんだ。
「こんにちは、モリーさん。こちらのドニさん一家が新しく『ルダの街』に『転居』してきますので、今日はそのご紹介とご挨拶ですよ。」
「ほ~、わざわざ『工房』に来たって事は、察するに『ご同業』かい?いや、今は何よりの『援軍』だねぇ~。あたしゃ、モリーってんだ。よろしく頼むよ。」
と、言っても、モリーさん(とタンリー爺さん)はこの世界の一般的な同年代に比べると随分若々しい。
『趣味』でも『仕事』でも、健康的に身体を動かす事は心身に良い影響を与えるのだろうか?
「ドニ・ブリュネルです。お察しの通り、『鍛冶職人』を生業としております。最近まで『ドワーフ族の国』で修行していました。『ルダの街』の事はまだよく分かりませんが、出来れば御指南下さい。よろしくお願いします、モリーさん。」
一歩前に出て、ドニさんはそう言った。
「何とっ!『ドワーフ族の国』でかいっ!そりゃ頼もしいね。って、よく見たらそっちの嬢ちゃんは『ドワーフ族』の娘じゃないかいっ!?」
目を見開いてドニさんを凝視するモリーさん、と思ったら、今度はリーゼロッテさんの存在に気付き、驚きの声を上げた。
一般的に、この世界の大半の人達は、生まれた『土地』を離れる事は少ない。
それは、『領地』の『税収』の観点から『人口』が減る事はその『土地』の『領主』・『領主家』にとったら困ると言う『政治的』な話もあるのだが、やはり大きいのは『モンスター』・『魔獣』の存在だろう。
普通に『生活』する者にとったら、『安全』が(もちろん絶対ではないが)『保証』されている『生活圏』を出る必要がそもそもないからな。
それ故、『他種族』を見るのは、歳を取っても初めてと言う事も珍しくない。
まぁ、もっとも、『ルダの街』の人達は、『鬼人族』や『エルフ族』で見慣れてはいるのだが。
「は、はいっ!『ドワーフ族』のリーゼロッテ・シュトラウスです。ドニさんの下で『鍛冶職人』の『修行中』です。よろしくお願いいたしますっ!」
「あ~あ~、堅苦しいのはいいんだよ。これから『ルダの街』の『仲間』になるんだろう?なら、アタシにとっちゃ、親戚みたいなモンさね。気軽にやっとくれよ。」
「は、はぁ・・・。」
リーゼロッテさんは、モリーさんの様子に困惑するが、僕は苦笑しながら、リーゼロッテさんに頷く。
『ルダの街』の人達は、程度の差こそあるが、とにかく大らかである。
『器』が大きいのか、はたまた『能天気』なのかはあえて追究しないが、おそらく『慣れ』の部分が大きいのかもしれないなぁ。
なんせ、大変不本意であるが(まぁ、最近はその自覚もあるが・・・)、『非常識の塊』と『認識』されている『アキト・ストレリチア』とは既に10年近い付き合いがあり、2年程前からは『鬼人族』や『エルフ族』も、普通にその辺を歩いているのだ。
『非日常』も慣れれば『日常』になる。
今現在の『ルダの街』の人達で『他種族』を忌避する者は、ほぼいないだろう(他の『土地』から来た人達は別だが)。
それ故、モリーさんの様に非常にフレンドリーな人達が多いのだ。
「フフフ。ドニの妻のシモーヌです。お世話になります、モリーさん。」
「こんにちは。アラン、八才ですっ!」
「それと、今は寝入ってしまっていますが、娘のエレオノールです。」
「ああ、よろしく頼むよ。おや、これは可愛らしい坊とお嬢ちゃんだ。」
孫を心待ちにしている(タンリー爺さんと)モリーさんは、優しく微笑んでアランくんの頭を撫でた。
アランくんは、それを照れ臭そうに受け入れている。
「ところで、タンリー爺さんは『工房』にいますか?」
「ああっ、そうだったね。ちょっと呼んでくるから、待ってな。」
「いいんですか?今のタンリー爺さん達は、休む暇もないほど忙しいでしょうに。」
「それはそうなんだがねぇ。休憩くらいしないと、身体が壊れちまうさ。それに、『ご同業』の、それも『ドワーフ族の国』で『修行』してた若者と、『ドワーフ族』の娘に会えなかったら、後であたしゃオトーチャンに文句言われちまうよ。」
豪快に笑いながら、モリーさんはタンリー爺さんを呼びに奥に引っ込んで行った。
「俺ぁ、若者って歳でも無いんだが・・・。」
「モリーさんにかかれば、皆子ども扱いされますよ。なぁ、ティーネ?」
「いえ、別にいいんですよ?『人間族』と『エルフ族』とでは、『成長速度』が違いますからね。」
「その口振りだと、ティーネさんって結構長く生きてるって事?」
リーゼロッテさんは、興味深そうにそう聞いた。
僕は、いたずらっぽく答える。
「ティーネはこう見えて、100歳近いんですよ。もっとも、『人間族』換算だと18歳前後なんですけどね。」
「えぇっ~!!??」
「まぁっ、何て羨ましいっ!」
「・・・ふぇっ?」
やはり、女性陣にとっては、ティーネの年齢は『鉄板ネタ』だな。
と言っても、ティーネはあまりその話題を好まないので、僕も話す人は選ぶのだが・・・。
リーゼロッテさんとシモーヌさんの驚愕の声に、エレオノールちゃんはビクッと身体を動かして、目を覚ました。
ちょっと、悪い事をしたなぁ。
「どこ、ここ~?」
寝ぼけ眼でぼけぇ~としているエレオノールちゃんは、キョロキョロと周囲を窺いながらシモーヌさんにそう聞いた。
「お父さんと同じお仕事をしているお爺さんの『工房』だよ。」
「ふ~ん。」
そんなやり取りをしていると、奥からガヤガヤと騒がしい声が響いてきた。
「なんでぇ、カーチャンっ!今は忙しい時期だっつーのによぉ。」
「まぁ、いーじゃねぇか親方っ!休憩くれぇいれねぇと身体を壊しちまうからよ。本当なら俺ぁ休日が欲しーくれぇなんだぜ?嗚呼っ、ヴィアーナさんに悪い虫が寄り付かなきゃいーんだが・・・。」
「あんな気の強そうな娘っこのどこがいーだか・・・。まぁ、確かに美人だがなぁ・・・。」
「分かってねぇな、親父は。そこがいーだろーがよ。気の強そうな娘が自分だけに見せる従順な姿とかっ!それだけで、ご飯三杯はいけるなっ!」
「勝手に言ってろっ!後、仕事中は『親方』だっつーのっ!」
「ほらほら、アンタ達、お茶淹れてやるから、少しは黙ってなっ!」
「・・・。」
「へぇ~い。って、何だよっ、アイシャちゃんにティーネちゃんじゃんっ!来てたのかいっ!?いや~、会えて嬉しいよっ!うんうん、今日も二人とも綺麗だねぇ~!」
「ハハハッ・・・。」
「ど、どうも、恐縮です・・・。」
モリーさんは、奥の『工房』に籠っていたタンリー爺さんと、息子で弟子のポールさんを引き連れて戻って来た。
タンリー爺さんは、(話すとそうでもないが)『ザ・職人』って感じの気難しそうな頑固一徹親父って雰囲気なのだが、息子のポールさんはそれに相反して、所謂調子の良い『チャラ男』っぽい青年であった。
アイシャさんとティーネの姿を見付けるなり、即座に『褒める』のは、『元・日本人』の僕からしたらちょっと真似できない部分である。
もっとも、大抵の女性達から相手にされないのがポールさんであり、悲しい『三枚目』って雰囲気で、僕はわりと彼には親近感を持っている。
と、言うのも、『前世』の友人に、ポールさんに似たタイプの男がいたのだ。
彼も(ポールさんほどでは無かったが)、顔は悪くないし、ノリも良いし、友人は多いのだが、なぜか女性にはモテない男であった。
『軽い感じ』・『遊んでる感じ』に見られるのが、女性としては「ちょっと・・・。」ってなってしまったのだろうし、事実美人やカワイイ娘と見るとすぐ声を掛けるのは、僕もどうかと思ったモノだが・・・。
しかし、そんな彼も奥さんと出会い(これが清楚で大人しそうな女性だった)、結婚した後は落ち着いて、結構良いパパをしていた。
アイツ、元気にしてるかなぁ~?
まぁ、それはともかく。
ポールさんも、僕の見立てではそのタイプの男性だと思う。
良い女性に出会えれば、自ずと落ち着いて、『鍛冶職人』としても全うにやっていく事だろう。
だから、タンリー爺さんもモリーさんも、そんな呆れた顔をせず、気長に待っていてやってくれ。
その内、孫の顔も見れると思うから・・・、多分。
「お~う、アキトも一緒かぁ~。オメーはこ~んな美女引き連れて、カッ~羨ましいったらねぇなぁ、おいっ!って、ソッチの娘もちっこいのに、色々とスゲーし、またまたカワイイじゃねぇかっ!アキト、オメーホントいい加減にしろよっ!?」
ナニガ?
リーゼロッテさんに気付いたポールさんは、血涙を流す勢いで謎の怒りを僕にぶつけてきた。
そんなポールさんを、モリーさんは無言でぶっ叩いた。
ゴンッ!
・・・何か、スゲー音したけど?
「ッテェ~、何すんだよ、カーチャンっ!?」
「やかましいっ!ちっとは落ち着けんのかいっ、アンタはっ!」
ギャーギャーとやかましくやりあうモリーさんとポールさんを呆れた様に見ていたドニさんとシモーヌさん、それにリーゼロッテさん(アランくんとエレオノールちゃんは、その様子を面白そうに見ていたが・・・)に、タンリー爺さんはボリボリと頭を掻きながら、
「おう、ワリーな。す~ぐ収まるからよぉ。」
と、言った。
「ほぉ~、『ドワーフ族の国』でなぁ~。俺も、死ぬまでに一度はこの目で『本場』の『職人』達の『技』を見てみてぇモンだぜ。」
「いやいや、タンリーさん。アンタの『腕前』も相当なモンだぜ?この『一振り』なんざぁ、中々の代物よっ!こういう独自の『技術』が伝承されてんのも、その土地土地の『鍛治職人』のおもしれぇ所だよなぁ~!」
「おうっ、分かるかいっ?わけぇのに相当な『目利き』じゃあねぇか。これは『ウチ』に代々伝わる『製法』で、まぁ、もちろん詳しくは言えねぇーが・・・。」
「ほうほう・・・。」
挨拶もソコソコに、お互いの『作品』を見せ合いながら、すっかり意気投合したタンリー爺さんとドニさん。
『職人』は、自分の『作品』が『名刺』代わりなんだろうなぁ。
『元・勤め人』として『男』として、『腕前』一本で食っている『職人』達には多少憧れがある。
まぁ、もっとも、実際には色々大変なのは重々承知しているが、それでも生き生きとしている印象がある。
「へぇ~、リーゼロッテちゃんって言うんだな。俺ぁ、ポールってんだ。これでもガキの頃から『鍛治仕事』してっから、リーゼロッテちゃんも何かあったら俺に聞いてくんなっ(キリッ)!」
「は、はぁ・・・。」
それに比べ、ポールさんはこの調子である。
アランくんとエレオノールちゃんは、ポールさんの『キメ顔』を真似して喜んでいるが・・・。
確かに(僕は素人同然だが)ポールさんもひとかどの『職人』だが、タンリー爺さんの域にはまだまだ達しているとは贔屓目に見ても言えない。
モリーさんにこっそり教えて貰った事があるが、タンリー爺さんの批評では『腕』こそ悪くないんだが、まだ『何か』足りないらしい。
まぁ、『家業』である『鍛治仕事』を幼い頃から仕込まれていても、若いポールさんとしては、若者特有の他の『生き方』に対する憧れもあるのだろう。
周りがとやかく言っても、結局本人がどう向き合うかだから、これに関しては暖かい目で見守ってやろう。
ポールさん的には、『子ども』の僕にそう見られているのは、何だか腹立たしいだろうが・・・。
「へぇ~、モリーさんが『装飾』もなさるんですかっ!?」
「まぁ、あたしゃ『鍛治仕事』に関しちゃ素人だからねぇ~。とは言え、『商品』にする以上『金属部分』だけって訳にもいかないから、お義母様に教わって色々と細かい『仕事』をちょっとねぇ~。まぁ、『装飾』ってほどのモンじゃないんだけどさ。」
「でも、目の付け所は素晴らしいと思います。日用品であろうと、武器・防具類であろうと、取り回しの良さは重要な要素ですからね。」
「確かにねぇ~。私は武器は使わないからアレだけど、防具とか日用品は自分達で『布』を巻いたり、『皮』を巻いたりするんだけど、モリーさんの所の物ならその必要もないしねぇ~。」
一方こちらは、モリーさんの『装飾』の話で盛り上がっているモリーさん・シモーヌさん・ティーネ・アイシャさんの女性陣である。
モリーさんも言及しているが、『装飾』ってほど大したモノでは確かに無いのだが、これがかなり重要だったりする。
この世界では、服から仕事道具に至るまで、基本的に手作りである。
それ故に、特に女性は『手芸(機織り・刺繍・編み物など)』全般を習得している。
それを応用して、タンリー爺さんの所の『商品』は、鞘とか持ち手部分(所謂『グリップ』)などに滑り止め用の『布』や『皮』が巻かれていたり、ホルダーなどの『アクセサリー』などもセットで販売している。
『地球』の『スポーツ用品店』で言う所の、『素』の『商品』だけが売られているのが一般的な『工房』で、後は各自で使い易い様に『加工』、とまではいかないが、アレンジを加えるのが通常なのだが、タンリー爺さんの所の『商品』はその手間を省いているのだ。
しかも、長年培った『経験則』で用途に合った『最適化』も施されていて、非常に使い勝手が良い。
『道具』を使った『スポーツ』の経験があれば理解し易いと思うが、この『滑り止め』が案外重要だったりする。
もちろん、他の『工房』でも、『木材』や『モンスター』・『魔獣』などの動物の『皮』などで『加工』が施されているが、それだけだと手汗や血や油で滑ってしまったりする事も往々にしてある。
日常生活でも、それで思わぬ怪我をしてしまう事もあるし、『戦闘』の最中にそんな事態になれば、命の危険もありうる。
そんな事もあり、この細かい『工夫』も含めて『アントム工房』には『愛用者』も多く、タンリー爺さんの『仕事』をここまで支えてきた一因でもあるのだ。
同じ境遇のシモーヌさんにとっては、目から鱗だった様で、モリーさんに弟子入りする勢いで色々と教えて貰っている。
『内助の功』とは、まさにこの事だろうなぁ。
生憎と『結婚生活』をした事の無い僕としては、タンリー爺さんもドニさんも幸福者だなぁなどと思ってしまう。
リア充爆発しろっ!
・・・なんて、思ってないよ?
アキトウソツカナイ。
「あのぉ~、盛り上がっている所大変恐縮なのですが、そろそろ・・・。」
「「「「「「「「「「ん?」」」」」」」」」」
恐る恐る僕はそう切り出した。
タンリー爺さんに軽く挨拶をするだけのつもりで訪れたのだが、タンリー爺さん達とドニさん達が思いの外意気投合して盛り上がってしまった為、随分日も落ちてきてしまっている。
タンリー爺さん達も、休憩がてら顔合わせするぐらいのつもりだったのだろうが、思いの外時間を食ってしまい、溜まっている『仕事』にも支障をきたしかねないからな。
「いかんっ、もうこんな時間かっ!?」
「僕らも『シュプール』に戻らなければならないので、そろそろお暇しようかと・・・。」
僕が声を掛けた事で、随分時間が経った事に気付き、タンリー爺さんも泡を食った。
「おうっ、そうだなっ!俺らも『仕事』に戻らにゃならんっ!オメェさん達も気を付けてなっ!」
今だにリーゼロッテさん相手にマシンガントークを繰り広げているポールさんの首根っこを掴んで、タンリー爺さんは慌ただしく奥へ引っ込んで行った。
僕らもお暇しようと席を立った。
「いや、ちょっと待ったっ!ドニっ!オメェさんの『工房』はいつごろ完成するんだいっ?」
と、思ったが、重要な事を思い出したのか、タンリー爺さんは再び戻って来た。
「んっ?いや、まだ『ルダの街』にゃ着いたばかりだから何とも言えねぇなぁ。バッティオ親方には話が着いてるから、間違いなく『工房』は建てられんだろーが・・・。」
短い時間だったが、タンリー爺さんとドニさんは随分親しくなった様子である。
「まぁ、そうだわなぁ~・・・。」
「タンリー爺さん、ドニさん達もしばらくは『シュプール』に滞在しますよ。『シュプール』にはアイシャさんの『工房』もありますので、『工業団地』に『工房』を建てるまではそちらを使用して貰う予定です。」
「それを早く言えやっ!んじゃ、また数日後にでもアキ坊とドニで顔出してくれやっ!ちっと手伝って欲しい事があっからよ。後、アキ坊、『鉱石』がありゃ持って来てくれ。ストックが足りねぇのよ。」
「分かった。」
「分かりました。」
「んじゃ、今度こそ気を付けてなっ!」
「アイシャちゃ~ん、ティーネちゃ~ん、リーゼロッテちゃ~ん!また遊びに来てねぇ~!坊主達もまたなぁ~!」
「いいから、『仕事』再開すっぞ、アホ弟子がっ!」
「「バイバ~イ!!」」
奥からひょっこり顔を出して別れの挨拶をするポールさんを押し込んで、タンリー爺さん達は今度こそ奥へと引っ込んで行った。
「悪いねぇ~、慌ただしくて。」
「いえ、押し掛けたのはこちらの方ですから。また、後日ゆっくり伺わせて貰いますよ。」
「モリーさん、私もお邪魔させて貰ってもよろしいですか?もっとモリーさんの『装飾』のお話を伺ってみたいですわ。」
「ああ、もちろんだよ。あたしゃオトーチャン達と違って、基本的に店番をしながら細かい『仕事』をしてるから時間があるからねぇ~。」
モリーさんとシモーヌさんも、同じ『鍛治職人』の奥様同士話が合ったのか、そんな約束をしながら、僕らもモリーさんに別れを告げ『工房』を出た。
さて、それじゃ『シュプール』に戻ろう。
こうして、『ルダの街』での一日は終わりを告げたのだったーーー。
誤字・脱字がありましたら、ご指摘頂けると幸いです。
今後の参考の為にも、よろしければ、ブクマ登録、評価、感想等頂けると幸いです。よろしくお願い致します。