対立 1
続きです。
◇◆◇
「こ、これはっ…!?一体どうした事だっ…!?」
「…さぁ?」
ネメシス(セレウス)からある程度の事情を聞いたアベル達は、改めて彼に協力する事となった。
そして、女神・アスタルテの監視(牽制)や、『新人類』達の(実質的な)指導者的立ち位置にいる事で自由に動けないネメシス(セレウス)に代わり、彼らは“獣人族”達のもとで起こってるらしき問題を、事実確認をし、本当なら何とかする為に、こうしてやって来た、という流れであった。
(ちなみに、以前にも言及した通り、アスタルテの“封印”の選定地をハイドラス達に依頼したのも、ネメシス(セレウス)が自由に身動きが出来ない立場になっていたからであった。)
しかし、彼ら四人組が遠巻きから見たものは、壊滅した“獣人族”達の集落…ではなく、何事もなかったかの様に普通に生活している彼らの姿だったのである。
いくら、政治的には(アルフォンス以外)すでに他の者達に全権を譲っているとは言えど、情報自体は彼らのもとにも入ってくるし、ネメシス(セレウス)との会談でも、“獣人族”達の集落にて何者かが介入し、酷い有様になっていると聞いていた彼らの驚きは想像に難くないだろう。
まぁ、高度に情報が発展した向こうの世界でも、情報の行き違いや意図的な情報の改竄なども存在するので、聞いていた話と違った、という事は起こり得る事ではあるが、流石にネメシス(セレウス)が嘘を言っているとも、集めた情報が誤報であったとも思えなかった彼らは、まさしく“狐につままれた”様な状態なのであったーーー。
「…しかしまぁ、人々が生きているのなら、事情を聞き出す事も容易だ。とりあえず、それらしい者達のもとに行き、情報を聞き出してみよう。」
「あ、ああ…。そうだな。」
困惑するアベルとフリットに比べ、いち早く復帰したヴェルムンドの言葉に気を取り直した彼らは、意を決して“獣人族”達の集落に歩みを進めるのであったーーー。
「おや、珍しい。旅人ですかい?」
「あ、あぁ、その様なものです。」
以前にも言及かもしれないが、この四人組は、かつて魔王軍との大戦で活躍を果たし、その後、各種族、各部族を率いる立場となっていたが、だからと言って、全ての者達に面が割れている訳でもない。
そもそも、向こうの世界とは違い、いまだ明確なマスメディアが存在しないこの世界では、いくら有名人とは言えど、その名を知ってはいても、実際には顔を見た事がない、なんて事が起こり得るのである。
少なくとも、それっぽい服装やお供を連れているならばともかく、こうして一般人と変わらない身なりをしていれば、普通の人々にはその正体を悟られないのである。
「今のご時世、珍しいもんですなぁ〜。それも、色々な種族の集まりなど…」
「「「「・・・」」」」
若干訝しげな表情を浮かべた獣人族の男に、アベル達四人組は、素早く目線で会話を交わした。
こちらも以前に言及した通り、魔王軍台頭以前ならば、『新人類』はある意味一つであった為に、鬼人族、ドワーフ族、獣人族、エルフ族関係なく共に暮らしていた為、一緒にいても何ら不思議な話ではなかったが、今現在は大まかに、四つの種族は別々に暮らしている。
(まぁ、その中でも、獣人族の例にもある通り、更に種族、部族ごとに分かれて生活しているが。)
つまり、旅人自体は、珍しいが全く存在しない訳ではないのでまだ良いが、その編成が同一の種族でないとなると、珍しいを通り越して、かなり怪しい集団に映る訳である。
さて、どうしたものか…。
四人組はそう考え、それらしい言い訳を瞬時に導き出した訳である。
「…実は私達は、“連合体”から派遣された調査官でして…。あまり公には出来ないので、内密にお願いしたいのですが…」
「は、はぁ…」
アベル達の中で、一番口の回るヴェルムンドが代表してそんな事をのたまった。
それに、獣人族の男は、驚きと共に、ある種の緊張感を感じ取っていた。
まぁ、実際にはそんな肩書は存在しないのであるが、アベル達がやろうとしている事は似通った事であるし、彼らの隠しきれない存在感を持ってすれば、あたかもそれが事実であるかの様な妙な説得力があった。
それに、彼にも心当たりがあったのだろう。
「我々が得た情報によれば、こちらで何らかの問題が起こっている、との事でした。ご承知の通り、今現在の我々は、人間族との戦争の真っ只中です。いえ、実質的には停戦状態に近い感じにはなっていますが、それでも、当然、“連合体”も遊んでいる訳にも行きません。少なくとも、足元を盤石なものにしておいてこそ、再び戦火が広がった時に焦る事もなくなるのです。それ故に、仮に各種族、各部族で何か問題が起こったとしたら、素早くそれを解決する必要があるのです。その為に、我々はやって来たのです。」
「な、なるほど…」
「まぁ、見た限り、特に問題はなさそうなのですが、こちらとしては、それをそのまま“上”に伝えようものなら、大目玉を食らう事でしょう。ですので、こちらの代表者に詳しいお話をお聞きしたいのですよ。いえ、形だけの事なのですがね?」
「…ご苦労が多いのですな…」
「偉そうな肩書を持っていても、結局は小間使いの様なものですからね…。それで、代表者にお取次ぎ願いたいのですが…」
二人のやり取りに、特にあまり腹芸に通じていないアベルは半ば呆れていた。
…よくもまぁ、ある事ない事、次々に出てくるものだ…、といったところであろうか?
だが、特に営業関連の仕事をしている者や、“お話”がある種の仕事に直結する者などは、アドリブで話す事や、適当な話をでっち上げる事は結構重要なスキルだったりする。
それで、相手の信用を得られれば御の字だし、そうでなくとも、ある種の交渉事を有利に進める事も出来るからである。
もちろん、アベル達の様な、政治関連の仕事をしている者達にも、こうしたスキルは必要になってくるのである。(呆れてはいるものの、アベルもヴェルムンドほどではないにしても、これまでの経験から、それなりにそうした術を身に付けている。)
「あっしはただの民間人なのでね。案内が出来るほどのモンじゃないんですが、あそこにかなりデカい建物がありますでしょう?あちらが、お偉方の集会所です。そちらに直接、問い合わせてもらえやすか?」
「ああ、そうでしたか。わざわざご親切にどうも…。では、我々はそちらに向かってみます。」
「へい。では、あっしはこれで…」
そういうと、獣人族の男は、そそくさと行ってしまった。
「…様子が変ですね?」
「面倒事を避けただけじゃないか?少なくとも俺だったら、仮にお偉いさんがやって来て、案内してくれ、なんて言われたら、困っちまうだろうしな。」
「…それもあるだろうが、下手に探りを入れられて、ぼろっと口を滑らすのを嫌った可能性もある。どうやら彼の様子からも、確実に何かがあった事はまず間違いないからね。終始、目が泳いでいたよ。」
「自分の口から情報が漏れた、なんて事になったら、彼はここでは暮らしていけないからね。まぁ、当たり前か…」
狭いコミニティでは、噂が出回るのも早い。
そして、仮に何かしらの問題があった場合、“犯人”はすぐに特定されてしまうのである。
そうなると、狭いコミニティでは肩身の狭い思いをする事となる。
下手すれば、所謂“村八分”、なんて事態もありうるだろう。
だったら、自分は無関係である事をアピールした方が良い。
これは、彼なりの処世術なのであろう。
「…ともかく、彼が教えてくれた場所に行ってみよう。」
「だな。」
そう結論づけると、アベル達はぞろぞろと歩いていった。
…それを、遠巻きに眺めつつ、ヒソヒソと話し合う人々がいる事にも気付きつつ、ではあるが。
・・・
「これはこれは。お会い出来て光栄です。英雄殿。」
「…私達の事をご存知なのですね?」
「それはもう。『新人類』達にとってはあなた方は有名人ですからね。…もっとも、普通の者達では、お会いする機会すらないでしょうし、仮にお会いする事がかなったとしても、その事にすら気が付かない事もあり得るでしょうがね…」
「・・・」
その後、ヴェルムンドが適当にでっち上げたアンダーカバーを理由に、先程の獣人族の男が示した集会所にやって来たアベル達四人組は、意外な事にアッサリとお偉いさんとの面会がかなっていた。
どうやらこちらの方でも、彼らがやって来る事が分かっていた様である。
「では、私達がやって来た理由も、何となく察していらっしゃるのではないですか?」
「ええ、まぁ。何やら、“連合体”の調査官などという身分を偽っていらっしゃる様ですが、しかし、全くの嘘でもありますまい。あなた方ほどの方々が直々に動く、となれば、“連合体”の上層部、どころか、もっと上の者の指示である可能性が高い。」
「…ほぅ。」
アベル達を出迎えたのは、どうやら世代的にアベル達と(アベル達の見た目には若々しいので多少ややこしいが、年齢的に、という意味である)同年代の“ナボリ族”の老人であった。
彼は、訳知り顔でそう言った。
すでに、先程の会話の内容すら耳に入っている事から、彼らの持つ情報網はかなりのものである事が伺える。
「…お耳が早いですね。」
「いえ、何。我々“ナボリ族”は少数部族ですからな。こうでもしないと、やっていけなかったのですよ。」
「…なるほど。」
再三述べている通り、“情報”はある種の力の一つである。
特に、外部からの情報にアンテナを張っておく事で、いち早く危機に気付けたり、対処も容易になる。
どデカい軍事力を有する大国(ここでは、大きな集団という意味だが)が、ドーンと構えていられるのとは違い(そもそも軍事力の大きな意味合いの一つに、他者に対する抑止がある。物々しい雰囲気の場所に手出しするのは、よっぽどの自信家か、よっぽどのバカしかいない訳で、軍隊とは、そこに存在するだけで一種の牽制になる訳である。見た目がゴツくて強そうな者に、わざわざケンカを売るバカはいないのと一緒である。)、小国はそうしたものを持つ事は難しい。
それ故に、それに成り変わる“力”を持っておく必要があるのだ。
それが、彼らにとっては“情報”、という事なのだろう。
「ならば、腹の探り合いをするだけ無駄ですね。では、単刀直入にお聞きします。こちらで何があったのか、ご説明頂けませんか?」
「………」
一瞬、渋い顔をしたナボリ族の男は、しかし、事ここに来て、しかも相手が英雄である以上、誤魔化すのは悪手だ、と考えたのだろう。
それ故に、ポツリポツリと語り始めた。
「…まず、初めに断っておきますが、これからお話する内容には、とても信じられない内容も含まれています。ですが、これらは全て本当の話です。我々が嘘を言っている、などという事はありません。…もっとも、どう判断を下すのかはあなた方次第ではありますが…」
「………」
男が大層な前振りを入れると、ヴェルムンドは目線で先を促した。
「では、結論から申し上げます。この集落に住まう者の大半は、実は一度命を落としているのですよ。」
「「「「・・・・・・・・・はっ???」」」
男の言葉に、アベル達は揃って間抜けな表情と声色でそう答えるのだったーーー。
〜〜〜
「…僕に力をくれ。」
時は、『泥人形』災害時に巻き戻る。
獣人族達に渡った“水晶”にそそのかされて、能力の“超強化”を研究していた獣人族達は、結果としてそれを制御出来ずに能力が暴走。
まだ、自身の能力の“超強化”だったなら最悪自身の命を落とす程度で済んだところだが、魔獣やモンスターを使役する『竜人族』や『泥人形』を使役する“ナボリ族”の場合、その対象が自分自身ではなく、魔獣やモンスター、『泥人形』になるので、それこそそこからは地獄絵図であった。
“超強化”によって、通常とは比べ物にならない強力な力を得たそれらが、命令も制御を利かずに、それどころか(『泥人形』はまた別ではあるが)、本来ならば、生存本能などによる自身を傷付けない様にしているある種のリミッターも外れてしまった事で、文字通り死ぬまで暴れ回ったのである。
もちろん、獣人族達も、ただそれを静観していた訳ではなく止めようとはしたが、先程も述べた通り、ただでさえ強力なそれらが、更に強力な力で得ている訳であるから、いくら人間族に比べたら身体能力的にスペックが上である獣人族達であっても、止める事はかなわなかった。
いや、言い方はアレだが、下手に手出しをせず、さっさと避難をした方が、まだ被害も最小で済んだかもしれない。
だが、そうしたある種の倫理観故に、獣人族達は、建物も人も、壊滅的な被害を受ける事となってしまったのである。
カエサル達が到着したのは、正にそうした嵐が去った後なのであった。
(それ故に、カエサルは当初、原因を特定出来ずに戸惑っていた訳である。
もちろん、魔獣やモンスターによる災害はこの世界では常に起こり得る危険性はあるが、それでもこれほどの規模となると、先の魔王軍の侵攻レベルの事でもない限りあり得ない事を、彼は経験から知っていたからである。)
もちろん、これは“アドウェナ・アウィス”が意図的に誘導した結果でもある。
ここら辺は、ある種完璧なタイミングであった。
カエサルの到着がもう少し早ければ、災害そのものを何とかしてしまった可能性もあるからである。
いくら“超強化”で強力になってはいても、もはや知能の欠片も存在しない魔獣やモンスター、『泥人形』程度なら、先の大戦の英雄であり、覚醒をも果たしているカエサルの敵ではない。
そうなると、彼自身のトラウマや願望を別の形で満たすだけの結果となり、少なくとも、“アドウェナ・アウィス”に何かを求める事もなかった事だろう。
逆に、あまりにも遅過ぎた場合、ある種の諦めの方が先行してしまった可能性もある。
彼とて、魔獣やモンスターによる災害だけに限らず、自然災害で命を落とす人々がいる事は当然理解している。
それはある種仕方のない事であり、流石にそれらを全て救う事など、考えもしなかった事だろう。
だからこそ、正に、終結するタイミング。
カエサルに大きな衝撃とストレスを与えると同時に、今正に状況が動いている、という緊迫感から冷静な判断力を奪い取り、そこで決断しなければ全てが手遅れになる、という瞬間こそ、“アドウェナ・アウィス”にとってベストなタイミングだった訳である。
まぁ、以前にも語った通り、“水晶”は全て“アドウェナ・アウィス”に繋がっている訳だから、こうした微妙なタイミングを合わせる事は、“アドウェナ・アウィス”にとっては造作もない事だっただろうが。
結果として、その策略は見事にハマった。
カエサルが、自らの意思で“アドウェナ・アウィス”に力を求めたからである。(まぁ、向こうの世界の精神鑑定ならば、おそらく本人の意思だった、とは認められない可能性もあるが。)
こうなれば、もはや“アドウェナ・アウィス”の思うままである。
いくらカエサルが覚醒を果たした影響で強固な精神防壁、精神障壁を獲得していたとは言えど、“アドウェナ・アウィス”に協力を仰ぐ=“アドウェナ・アウィス”を受け入れる事と同義な訳であるから、自らその壁を取っ払ったのと同じだからである。
こうして、“アドウェナ・アウィス”は、アスタルテに成り変わる強力な“駒”を手に入れる事が出来た訳であるがーーー。
「…分かりました。全てを受け入れ、心静かにしていて下さい。」
「…ああ。」
カエサルの口から出た欲しかった言葉に内心ほくそ笑みながら、コレル(“アドウェナ・アウィス”)は慎重な顔でそう言った。
「はぁっ…!!!」
「っ………!!!???」
コレル(“アドウェナ・アウィス”)がそう気合を入れると、コレルから(正確にはカエサルが所持していた“水晶”から)、膨大な“力”がカエサルに流れ込む。
様々な知識、技術、力、それらがカエサルの頭の中にビジョンとして浮かんでは消えていき、その果てにカエサルはハッキリと理解した。
自分は今、人類を超越した存在になったのだ、と。
「は、ハハハ…。なんだ、こんなに簡単な事だったのか…」
「ご気分はいかがですか、カエサル殿?」
「…ああ、いい気分だぜ。万能感、って言うのかな?今なら、全てが思い通りに出来そうな気がするよ。」
「…それは良かった。」
力を得た影響か、カエサルの口調や人格に多少変化が見られた。
だが、現時点では、カエサル自身、自らの意思や自我に変異や変質はないと判断していた。
…もっとも、すでに“アドウェナ・アウィス”を受け入れた影響によって、もっとも警戒すべき“アドウェナ・アウィス”を、昔からの仲間であるかの様な感覚を持っていた、という看過できない事実はあったのだが。
「それで?この先どうされるのですか?」
「そうだなぁ〜。とりあえず、死んじまった者達をもとに戻してやんねぇとな。今の俺なら、それも十分に可能だろう。」
「………」
コレル(“アドウェナ・アウィス”)は、その言葉にほくそ笑んだ。
人の生死を思い通りに出来る、というある種の傲慢さ、人間性の欠落は、“アドウェナ・アウィス”が求めていた“理想像”に近かったからである。
「では、お供致します。」
「おう、頼んだぞ。」
かくして、強大な力を得たカエサルは、『泥人形』災害で亡くなった、コレルでは生き返らせる事の出来なかった者達、壊れた建物などを全て元通りに戻す、という、正に“神”の如き奇跡を大いに発揮したのであるがーーー。
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