マッチポンプ 7
続きです。
ご承知の通り、今現在のこの世界には、“水晶”は二つあった。
一つは、かつてプトレマイオスが所持し、今現在はカエサルのもとにある物。
そしてもう一つは、イアードが所持していた訳であるが、それがそのまま、イアードのもとにあったーーー、訳もない。
そもそも、プトレマイオスとイアードに“水晶”が渡った経緯も、“アドウェナ・アウィス”が人間族VS『新人類』達との戦争を引き起こす為であり、つまりは、別にこの二人に味方する為ではない。
プトレマイオスは政治家として、イアードは宗教家として、人々に与える影響力が大きいからまたまた白羽の矢が立っただけで、別に立場が違ったのなら、別の誰かでも良かったのである。
つまり、“アドウェナ・アウィス”にとっては、この二人に執着する理由が、そもそもないのである。
(逆に、プトレマイオスやイアードにとっては、自分に力や知識を与えてくれる存在として、“水晶”に強い依存や執着があったが、だからと言って、彼ら程度の力では、“アドウェナ・アウィス”をどうこうする事は不可能であるから、手放したくなくとも、それは不可能だったのである。)
そうした事もあり、紛争の口火を切る、という役割を終えたとみて、“アドウェナ・アウィス”はアッサリ二人を見限った訳であった。(まぁ、正確に言えば、見限ったとか裏切った、という事ではなく、最初から彼らに対する支援は一時的なものでしかなかったのだが。)
まぁ、元々そこまでの人物ではなかった二人が、“アドウェナ・アウィス”の力や知識を借りて成り上がっただけの話ではあるので、その力がなくなった事で、元の状態に戻っただけの話だ。
それで、二人にとって過酷な現実や未来が待っていようと、それは所謂“自業自得”でもある。
過ぎた野心や野望を持ったツケが己に返ってきただけの話である。
まぁ、それはともかく。
そうした訳で、イアードが所持していた“水晶”も何処かに流出した訳であるが、ここまでの流れから、その行先はすでに分かりきった話であろう。
そう、すなわち、“獣人族”の手に渡った訳である。
再三述べている通り、いくら人間族に比べたらスペック的に上位に来る『新人類』、“獣人族”ではあるが、とは言え、それで“アドウェナ・アウィス”に抗う事など出来る筈もない。
それ故に、あっという間に“獣人族”達は“アドウェナ・アウィス”の操り人形になってしまった訳であるが、とは言えど、別に“アドウェナ・アウィス”は“獣人族”を使って何か仕出かそうとしていた訳ではない。
むしろ、“獣人族”達は、カエサルを手に入れる為だけに、体の良い生け贄にされてしまったのであった。
シナリオはこうである。
まず、二つの“水晶”を、それぞれ別の者の手に渡る様に仕向ける。
一つはカエサルに。
もう一つは“獣人族”達に。
だが、当然ながら見た目的には二つ存在しているとは言えど、それらの大もとは、全て“アドウェナ・アウィス”に繋がっている。
つまり、いつぞやにも言及した通り、所謂“マッチポンプ”が成立する条件が、実際には最初から整っていたのである。
で、コレルを使ってカエサルを孤立させた上で、彼を“獣人族”達の集落に誘導した、という訳である。
一方の“獣人族”達に渡った“水晶”は、カエサルが救った中年の獣人族が語った通り、人間族に対抗する為の手段として、能力の“超強化”を研究させる様に仕向ける。
これは、別に理由は何でも良かったのである。
自分達が仕向けた事とは言えど、たまたま人間族VS『新人類』達の戦争が巻き起こっており、もちろん、これまで述べた通り、今現在は小康状態、事実上の停戦状態だったとは言えど、いつ、また戦火が広がるか分からない状況だった事を利用して、それっぽい理由をでっち上げたのだ。
その理由は簡単だ。
カエサルに納得させる為である。
実際、当事者の証言だった事もあって、“獣人族”達が引き起こした災害に、実は“アドウェナ・アウィス”が関与していた事までは、流石にカエサルも想像もしていなかった。
あくまで、“獣人族”達自身が無茶な研究の結果、巻き起こった事だと信じて疑わなかったのである。
(逆に言えば、あまりに適当過ぎる、かつ、唐突な理由によって、“獣人族”達が何かを引き起こしたとしても、カエサルを納得させる事は出来なかったかもしれない。
そうした意味では、“アドウェナ・アウィス”の適当にそれっぽい話をでっち上げる詐欺師としての才能は、流石の一言に尽きるだろう。)
こうして、カエサル自身のトラウマや潜在的に持っていた願望を刺激する事により、自ら力を欲する様に仕向けた、という流れであったがーーー。
◇◆◇
ー…やれやれ。思いのほか、苦労させられたな。ー
ーそうですな…。しかしその甲斐あって、こちらの望み通りの“駒”が手に入りました。ー
ところ変わって、何処かの宇宙。
“アドウェナ・アウィス”の意識の一つが、そんな会話を交わしていた。
ー…しかし、この“実験場”はイレギュラーな事ばかりですな。ー
ー…うむ。まぁ、例の異星人達の存在もあるが、それだけに限らず、ことごとくこちらの思惑とは違う事が次から次へと起こる。ー
ー…では、さっさとこの“実験場”は見限ってもよろしいのではないでしょうか?我々がここまて苦労をする必要もありますまい?ー
ー…そう考えている者達も多いが、私の個人的な意見は少し違う。ー
ー…と、申しますと?ー
ーむしろ、これほどこちらの思惑が外されるという事は、特別な“何か”がこの“実験場”にはある、という裏返しかもしれない、という事だ。ー
ー…なるほど…。そういう考え方も出来ますな…。ー
以前にも語ったかもしれないが、“アドウェナ・アウィス”も一枚岩ではない。
その中には、様々な相反する考え方が存在しており、実際には様々な矛盾も存在しているのであった。
(まぁ、その最たる例がネメシスであるが、彼は、“アドウェナ・アウィス”の中でも先鋭的であり、“アドウェナ・アウィス”よりも、“実験動物”達に肩入れする変わり者であったが。)
とは言えど、目的自体は同じであるからある程度行動原理は一貫しているのだが、実際には主導する意識がその時々で入れ替わったりもするのであった。
ーそもそも、他の意識達は、実験の中断、放棄を考えている者達も多いが、私からすれば、それはナンセンスな話だ。これまでの我々のやり方では、目的の物を発見、獲得出来なかった訳だから、同じやり方を踏襲しても無意味だろう。むしろ、想定外な事や、こちら側からしたらイレギュラーな事態が発生するという事は、それだけ新たなる可能性が広がった、と考えるべきなのだよ。まぁ、意識が古くなればなるほど、変化を嫌うものだろうが、ね。ー
ここら辺は、知的生命体の世代間のギャップに似通った事であった。
人類も、一般的には歳を取れば取るほど、所謂“保守的”な思考に傾倒する事でも知られている。
それによって、現状を良しとして、変化を嫌う傾向にあるのである。
逆に若者からすれば、変化や新たなる刺激こそ正に“正義”な訳で、変化を好まない老人達とは、相容れない訳である。
組織が長らく同じ考え方ややり方で突き進むと、いずれ壁にぶち当たる様に(所謂、“組織の新陳代謝”が落ちる、という状態である)、何処かのタイミングで、新しい風を呼び込む必要がある。
これは、たとえ“アドウェナ・アウィス”と言えど例外ではない様で、こうして新しい意識が、定期的に交代、主導する事によって、所謂“組織の動脈硬化”を防ぐ、という予防策が組み込まれているらしかった。
まぁ、それはともかく。
ー…つまり貴方のお考えでは、“実験”は続行、という事で?ー
ーむしろ、止める理由がない。まぁ、イレギュラーが多い事は否定しないが、それも我々が積極的に介入すれば、どうとでもなる。…まぁこれも、お歴々の方々には不満なのかもしれないが、ね。ー
ー…これまでは、その結果、望みの物は見つからなかった訳ですからね。少なくとも、この“実験場”では、あまり介入しない方針だとは聞いていますが…ー
ーそれも、やり方次第さ。私も、現地の、特に一般的な知的生命体達に接触するのは時期尚早だとは思う。少なくとも、それだけの資格がまだない状態だから、下手をすれば、全てかご破産になる可能性が極めて高いからね。しかし、例の異星人達や、“英雄達”は別だ。私個人の見解では、むしろ彼らの存在こそ、ある種の鍵ではないか、と思っている。我々に近しい力を獲得しながらも、こちら側に同調する訳でもなく、それでいて、現地の知的生命体達とも一定の距離を置いている。これほどの力の差があれば、普通なら支配する方が楽にも関わらず、彼らはそれをしない選択をした。まぁ、他の意識からしたら彼らはイレギュラー中のイレギュラーだから、排除したい考えは分からなくもないが、下手に彼らを物語の外に追い出すよりも、むしろこちらに敵対的な事を利用して、上手く踊ってもらう方が良いと思うのだよ。ー
ー…それは、その、危険では…?ー
ー…かもしれないね。けど、あくまでこれは“実験”な訳だから、色々な可能性を試してみた方が良いと思うがね。慎重になり過ぎても、これまでと結果は変わらないと思うし。ー
ー…ふむ。ー
永い、それこそいくつもの知的生命体や文明が生まれては滅んでいくほどに永い時を経て、“アドウェナ・アウィス”の中にもある種の閉塞感が生じていた。
それでも、一縷の望みを賭けて“実験”を繰り返している訳であるが、中には、“やはり目的の物など、何処にも存在しないのではないか?”、という疑念を持つ意識達も少なくなかった。
そうした意識達こそ、ある種の保守的、消極的な層になっていった訳であるが、世代交代したこの意識は、何か予感めいた事を感じ取っていた様である。
ー…では、今後の方針はどうされますか?ー
ーそうだね…。まずはとりあえず、お歴々の方々の尻拭いはしておきたいね。ー
ーふむ…。例の女神、ですか…。ー
ーああ。彼女の存在は非常に危険だ。確かに、資格はあったが、資質があったかどうかはハッキリ言って疑わしいね。実際、彼女の精神性は、彼らに比べたら非常に脆弱で不安定だ。そのくせ、力だけはその信仰の後押しもあって、彼らを凌ぐほどだ。彼女が一度暴走を始めれば、それこそ強制的に“実験”は中断せざるを得ないだろう。ー
ー…そもそも、この“実験場”を壊されてしまいますからね。ー
ーうむ。故に、ここは一旦彼らに協力し、彼女の“封印”を最優先とするべきだろう。ー
ーなるほど…。しかしそうなると、“抑止装置”がいなくなってしまいますが?ー
ーその為の、“駒”だよ。現地に生じた神は、彼女と並んで非常に危険だ。いや、まだ例の人造生命体達に執着があるだけ、彼女の方がマシかもしれないね。彼の者達に対する想いがあるからこそ、まだギリギリのところで踏みとどまっているが、逆に現地に生じた神には何もない。まぁ、多少は“遊び”を好む幼児性は見て取れるが、その中身が虚無である以上、その気になればアッサリ全てを無に帰す事だろう。そういう風な役割を与えられたからだがね。かと言って、先程も述べた通り、彼女をそのまま使う事はあり得ない。下手すれば、その二柱が協力する事もあり得なくはないからね。故に、まずは彼女を“封印”した後、例の“駒”を人柱にして、現地に生じた神の“抑止装置”とする。ー
ー…ふむ。しかし、そう上手く行きますかね?例の異星人達や“英雄達”が、それを黙って見ている事もないと思いますが…ー
ーむしろそれで良い。どうせ、これまでの経緯からも、こちらの思惑通りに事は進まないだろうからね。だったらいっその事、彼らにはせいぜい場を引っ掻き回してもらいたい。信用出来る、と言ったら少し変な話かもしれないが、少なくとも彼らならば、例の二柱とは違い、“世界”を壊すまでは行かないだろう。ー
ー…まぁ、確かに。ー
ーもしかしたら、対立するかもしれない。また、もしかしたら、どこかで妥協点を見出すかもしれない。しかしいずれにせよ、彼のイレギュラー達が導き出す未来の果てに、我々の求めていた答えがある様な予感がするのだよ。ー
ー………ー
予感。
色々不可思議で超常的な力を持つ“アドウェナ・アウィス”ではあったが、流石に未来視や予言めいた力は持っていなかった。
いや、正確に言えば、ある事はあるのだが、“未来”というのは非常に不安定で不確定な要素が多い為、ちょっとした事ですぐに結果が変わってしまうものなのである。
故に、いくら鮮明なビジョンが見えたとしても、その通りにならない事の方が多いのである。
故に、“アドウェナ・アウィス”はその力をアテにしていないのであった。
(そもそも、“完全なる未来視”の様な力を持っていたのならば、気の遠くなる様な“実験”を繰り返す必要すらない訳であるし。)
だからこそ、この意識が言った事は、ある意味ナンセンスな訳であったが、不思議と謎の説得力があったのであった。
ー…予感、ですか…。えらく曖昧でいい加減な理由ですね…ー
ーまぁな…。だが、だからこそ面白い。“予定調和の物語”よりも、“先の展開が読めない物語”の方が、新たなる刺激があるだろう?ー
ー…ふむ。ー
限りなく“創造主”に近付いた“アドウェナ・アウィス”は、全知全能に近い存在であった。
しかし、そんな“アドウェナ・アウィス”でさえ、全てを思い通りに、あるいは予想通りに行かない事は、ある種の劣等感ともなっていた訳である。
しかし、“分からない事”、“予測出来ない事”が多ければ多いほど、まだ“アドウェナ・アウィス”も完成していない、つまりは、まだまだ“進化”の可能性が残っている事の裏返しでもあった。
“伸び悩み”と考えるのか、“伸びしろ”と考えるのかで結果が変わる様に、この新たに生まれた意識は、ある種の閉塞感を感じていた“アドウェナ・アウィス”にとっては、新たなる風となってくれる様な予感がしていた。
ー…とりあえず、やってみましょうか。何、仮に失敗したとしても、またやり直せば済む話ですからね。ー
ーああ。その通りだね。ー
…だが、“アドウェナ・アウィス”が前向きで新たなるモチベーションを高めるという事は、それに巻き込まれる者達、すなわち“実験動物達”にとっては必ずしも良い事ではなかった。
少なくとも、ほとんどの生命体にとっては、人生は一度きりで、やり直しなど効かないのだからーーー。
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