『現状説明』
続きです。
「ご紹介します。こちらがドロテオ・マドリッド。『ルダ村』の『冒険者ギルド支部』の『ギルド長』です。そちらがアキト・ストレリチア。『リベラシオン同盟』の『実行部隊』の『リーダー』を務めています。」
突如として現れた僕とドロテオさんを見て、驚愕の表情を浮かべるガスパールさんとオレリーヌさん。
まぁ、本当は最初から居たんだけど、余程の『使い手』でなければ、僕らの『気配』を察知するのは難しいだろうから、その反応も頷ける。
僕らはお二方の様子を特に気にする事もなく、出来るだけ丁重に挨拶をする。
・・・『交渉』は既に始まっているのだ。
「お初にお目に掛かります、ガスパール閣下。オレリーヌ侯爵夫人。私は、『ルダ村』の『冒険者ギルド支部』を預かるドロテオ・マドリッドと申します。以後お見知り置きを。」
「お初にお目に掛かります、ガスパール様、オレリーヌ様。アキト・ストレリチアと申します。」
「なっ・・・!?お、おいっ、フェルマンっ!衛兵っ!!侵入者だっ!!!」
「まぁっ!?」
ガスパールさんはそう叫んだが、異変を察知しフェルマンさんや『私兵』の皆さんが駆け付けるーーー、なんて事は起こらなかった。
既にこの『場』は、僕の『支配下』に置かれているからだ。
“設置をする”と言う準備作業があり、『精霊石』を破壊、排除されると『発動』しないと言う弱点もあるが、それでも『結界術』は応用範囲の広い『技術』である。
最近では、『古代魔道文明』の断片的な『資料』から、その弱点を補う『システム』を考案、改良していたりするんだけれど・・・。
まぁ、それはともかく。
僕の『魔法』と『結界術』の応用技術で、『応接室』で今、『異変』は起きていない。
そういう風に、周囲の人達は『認識』している(筈だ)。
『隠し部屋』の人達からは、ガスパールさんとオレリーヌさん、それにダールトンさんが楽しく談笑している『画』が見えている事だろう。
「どういう事だっ!?なぜ誰も来ないっ!!??」
軽く半狂乱になりながらガスパールさんは慌てふためき、オレリーヌさんを後ろに庇う。
咄嗟にそんな対応を取れるのは、なかなか出来る事ではない。
オレリーヌさんに至っては、かなり肝が据わっているのか、始めこそ多少驚いていたものの、今は静かに鎮座している。
僕はガスパールさん達の評価をさらに上方修正した。
「落ち着いて下さい、ガスパール様。我々はお二方に危害を加えるつもりはありません。お疑いでしたら衣服を全て脱いでも構いませんが?」
「落ち着きなさい、ガスパール。とりあえず、彼らの『お話』を伺ってみましょう?いずれにせよ、私達では抵抗するだけ無意味の様ですからね。」
ダールトンの呼び掛けと、オレリーヌさんの落ち着きを目の当たりにし、ガスパールさんも徐々に冷静さを取り戻していった。
「し、失礼しました、伯母上。・・・君達も悪かったね。歓迎はしないが、まぁよろしく。」
「ええ。」
「まぁ、当然でしょうね。」
「お二方もお座りになって?今日は『お話』にいらしたのでしょう?」
皮肉を込めてガスパールさんは僕らにそう言い、オレリーヌさんは僕らに牽制を込めながら、座る様促す。
う~ん、オレリーヌさんはかなりの『傑物』の様だな。
いざという時は、女性の方が『強い』のはどの『世界』でも同じだなぁ~。
「ありがとうございます。」
「失礼します。」
僕らも『争い』に来た訳ではなく、『交渉』に来たので、その言葉に素直に従った。
オレリーヌさんは、手慣れた様子ではないものの、丁寧な作業でお茶を入れる。
正直、『貴族』やら『侯爵夫人』と言われても『前世』の『記憶』を持っている僕からしたらいまいちピンとこないのだが、『企業』の会長夫人や社長夫人が自らお茶を振る舞うと考えると、なかなか無い事だろうから緊張してしまう。
もっとも、そんな事はおくびにも出さないのだが・・・。
「どうぞ。」
「恐縮です。」
「ありがとうございます。」
「それで?どういう事なんだね、ダールトン?」
オレリーヌさんの作業が終わると、ガスパールさんはタイミングを見計らって、そう切り出した。
ダールトンさんもそれを見越して応える。
「まずは、お二方は『書簡』に目を通されましたか?」
それについて言及されると分かりきっていたので、ガスパールさんもオレリーヌさんも無言で頷く。
「何が望みだ?」
「それについては僕から。フロレンツ侯から諸々の『資料』を『押収』したのは僕ですから。」
「はぁっ・・・!?」
「・・・。」
僕が発言をすると、ガスパールさんは話の腰を折られたと思い、呆れた様子で僕を一瞥した。
僕の『見た目』が10歳故、その反応も当然だろう。
「何の冗談だね?と、言うよりも、なぜこんな『子ども』を連れて来たのだね、ダールトン?」
「ガスパール様。恐れながら、彼を『子ども』と侮ると『痛い目』に合いますぞ?貴方も『ルダ村』を襲った『パンデミック』は御存知の事でしょう。その『厄災』を見事退けてみせたのが、『彼』と彼の『仲間達』なのです。」
「はぁっ・・・!?」
一体何の冗談だ?
そんな表情を隠しもせずに、ガスパールさんはしかめっ面をする。
「ダールトンへの評価を改めないといけないな・・・。」
そうひとりごちる。
「まぁその反応も当然でしょう。しかし、『話』は最後までお聞き下さい。お二方は『ニル』と言う人物を御存知ですか?」
「・・・『ニル』?誰だ、それは?」
「いえ、存じ上げません。」
とりあえず、『子ども』の戯言を聞く事にした様だ。
二人は淀みなく答えた。
ふむ、これは予想通り。
「では、フロレンツ侯が『国家転覆』を目論んでいた事は?」
「はぁっ!?伯父上がそんな事企むハズがないだろう!馬鹿も休み休み言いたまえっ!!」
「その様な恐ろしい事、流石にあの方でもないと思いますが・・・。」
ふむ、一応彼らもフロレンツ侯の行動には、注意を払っていた様だな。
その答えに淀みがない。
「いえ、これは確かに『嘘』です。しかし、全くの『嘘』と言う訳でもありません。フロレンツ侯が『ロマリア王国』の『貴族派閥』の『中心人物』である事は御承知であると思います。では、さらに質問です。フロレンツ侯が、『裏』で『エルフ族』を含む『他種族』の『人身売買』に関わっていた事は?」
「・・・『書簡』にはそうあったな。」
「・・・。」
「いえ、そういう事ではなく、『ノヴェール家』はその事実を既に知りながら黙認していたのかどうかと言う事なのですが・・・。」
「何が言いたいのだっ!?」
少しイライラしつつ、ガスパールさんは『結論』を求めた。
確かに少しまわりくどいだろうが、必要な事だからなぁ・・・。
「いえ、その『答え』はさして重要ではありません。『認知』していても『ノヴェール家』が『関与』していなければ、まだ『逃げ道』はありますからね。しかし、我々への『返答』によっては、『ノヴェール家』ごとツブさなければならないので・・・。」
まぁ、実は事前に『調査』して、『ノヴェール家』がその事に『関与』してないのは確認済みだけど。
そうでなければ、そもそも僕らも『交渉』になど訪れない。
「アーハッハッハッ!大きく出たなっ!お前の様な『子ども』に何が出来るっ!?」
僕の『大言壮語』に、ガスパールさんは可笑しそうに笑う。
まぁ、普通はそう思うよねぇ~。
「別に僕がやる訳ではありませんが、既にフロレンツ侯と『ノヴェール家』は『詰んでいる』ので、このままではそうなりますよ?と、言っているだけです。では、『話』を進めましょう。ティーネ、“入室を許可する”!」
『キーワード』を唱え、ティーネを呼び込む。
新たな『登場人物』に、流石にガスパールさんとオレリーヌさんも息を飲んだ。
「『エルフ族』・・・。」
「っ・・・!」
「さて、ご紹介しましょう。僕の『仲間』で、『エルフ族』の、エルネスティーネ・ナート・ブーケネイアです。」
「お初にお目に掛かります、ガスパール殿、オレリーヌ殿。『エルフ族』のエルネスティーネ・ナート・ブーケネイアと申します。」
綺麗な銀髪を揺らし、手慣れた所作でキビキビと挨拶をする。
彼女は、基本的に『武人』である。
しかし、『エルギア列島』の『エルフ族の国』では『別の肩書き』も持っている。
「彼女は、かつて『ロマリア王国』で『迫害』を受けていた『エルフ族』で、『エルギア列島』に逃れた者達です。基本的に『エルフ族』は『部族単位』で『森』に点在している『種族』ですが、『人間族』に『対抗』する為、『エルギア列島』にて『部族連合』からなる『エルフ族の国』を興しています。彼女は、その『エルフ族の国』の『最高意思決定機関』、まぁ、『人間族』での『元老院』とか『議会』とかですね、の通称『十賢者』の内の一人の孫娘にあたります。」
「『エルフ族の国』だとっ!?」
「それは・・・。」
「お二方も御承知の通り、歴史的に『ロマリア王国』では『エルフ族』、それに『獣人族』もですが、を『奴隷』としていた『過去』があります。それ故に、『エルフ族』が『人類未踏』の『エルギア列島』に逃れた後、将来的な事を考え、『ロマリア王国』では『他種族』を『奴隷』とする事を禁じる『法案』が可決しているハズです。しかし、実際には一部の『貴族』や『組織』では、未だに『奴隷』は存在します。例の『書簡』の通り。」
「・・・。」
「・・・。」
ティーネの登場で、ガスパールさんもオレリーヌさんも『子ども』の戯言ではないと察した様だ。
やや緊張気味に僕の『話』を無言で聞いている。
「ところで御存知ですか?『エルフ族』はとても『長命』な『種族』なんですよ?こちらのティーネも、こう見えて100歳近いのです。まぁ、我々『人間族』に換算すると18歳前後なのですが・・・。」
「なんとっ・・・!」
「まぁっ・・・!」
これに関しては、この世界では結構知られている話なのだが、実際に見るとびっくりするだろう。
なんせ、ティーネは『見た目』美しい18歳前後の女性だ。
それが、実際にはこの中の誰よりも『年長』だと言うのは、にわかには信じられない話だ。
特に、女性であるオレリーヌさんは軽い『嫉妬』と言うか、『羨望』の眼差しをティーネに向けている。
『若さ』は、世の女性の『永遠のテーマ』だからな。
「後、こちらも御存知ですか?『エルフ族』は非常に『同胞』を大切にする『種族』でして・・・。それこそ、見ず知らずの『同胞』の為に、『戦争』を起こせるほどに『同族愛』に溢れているんですよ?」
「っ・・・!」
「っ・・・!」
ゴクリと生唾を飲むお二方。
こちらは世間的には知られてない『特徴』、あるいは『文化』の様だ。
『他種族』や『他文化』と交流してないと見えてこない事。
一方的な『支配』では見えてこない『本質』と言うのは思いの外多い。
僕がこの二つの『エルフ族』の『特徴』を提示した訳、それは、これが『エルフ族』に取っては、『現在進行形』の『話』であると暗に述べる為だ。
『人間族』に取っては、既に『歴史』の『話』になるほどに『過去』の『話』だし、ガスパールさん達の世代なら、彼らの父、あるいは祖父がやらかした『罪』だが、『エルフ族』側からすると自分達が実際に受けた被害である。
この『意識の差』は、明示しておかないと、判断を誤る可能性が高い。
対応を誤った結果、『エルフ族』の『怒り』がさらに高まる可能性がある事は、このお二方なら分かると考えての事だ。
「それでは、もう一度聞きます。『ノヴェール家』は、フロレンツ侯が『裏』で『エルフ族』を含む『他種族』の『人身売買』に関わっていた事を御存知でしたか?」
「・・・。し、知っていたっ。し、しかし、誓って『ノヴェール家』はその事に『関与』していないっ!それどころか、再三に渡って伯父上には止めるよう打診もしていたほどだった!!」
「あの方の『力』は『ノヴェール家』においても絶大ですわ。今は、半ば『隠居』して『実権』はガスパールと我が息子のジュリアンが握っていますが、未だにその『影響力』を我々としても無視出来ません。」
『エルフ族』の登場に途端に饒舌になるお二方。
それはそうだろう。
『ノヴェール家』の『関与』をしっかりと否定しておかないと、後々大変な事になる。
少し考えれば分かる事だが、現時点で、『ロマリア王国』と『エルフ族の国』はいつ『戦争状態』に突入してもおかしくない『情勢』なのだ。
まぁ、これは僕らとしても望んでいる訳ではないので、『リベラシオン同盟』が『エルフ族』(を含む『他種族』など)を『解放』する事を条件に、ティーネ達を介して『エルフ族の国』にはしばらく様子を見て貰っている。
『エルフ族』の一番の望みは、何よりも『同胞』の『解放』にあるからだ。
いち組織の発言を鵜呑みにする事など、本来有り得ない事だが、ここで僕の『英雄』の『肩書き』が意味を持ってくる。
以前にも言及した通り、『エルフ族』において、『英雄』の『名』は絶大な『影響力』を持つ。
もちろん、『エルフ族の国』の内部でも様々な意見、『主戦派』・『反戦派』など様々存在するが、それ以上に『英雄』の『影響力』は大きい様子である。
さて、ここまでは『二国間』の話だが、『戦争』となると、当然他の『国』も黙ってはいない。
『ロマリア王国』の北側の隣国『トロニア共和国』は、『他種族』とも『共生』する『国』であり、『リベラシオン同盟』が『解放』した『エルフ族』以外の『他種族』の受け入れにも積極的な事から、『国』の中枢にも『他種族』がいる事が窺える。
『平時』なら『内政干渉』になる事でも、『戦争時』は『国』も混乱するので、いくらでも『干渉』する機会はあるだろう。
『ロマリア王国』の西側の隣国『ヒーバラエウス公国』は、もっと直接的だろう。
一応『ロマリア王国』と『ヒーバラエウス公国』は『不可侵条約』を結んでいるが、『ロマリア王国』の豊かな資源や農作地を虎視眈々と狙っているのは周知の事実である。
と、言うのも、『ヒーバラエウス公国』は『領土』の半分以上が荒れ果てた山に覆われているからである。
『開拓』をすれば良い事だと思うだろうが、話はそう簡単ではない。
当然ながら、『開拓』をする為には多大な『労力』が必要になってくるし、前にも述べた通り『地球』と違い『大型重機』などこの世界には存在しない。
その代わり、『魔法技術』は存在するが、『特権階級』や『魔術師ギルド』が『独占』しているし、何よりも、『ヒーバラエウス公国』の山々は農作地としては適しているとは言い難い。
その一方で、『鉱脈』は無数にあるので、『ヒーバラエウス公国』は『ロマリア王国』や『ドワーフ族の国』との『交易』と、やっとの事で『開拓』した農作地で何とかやりくりしている。
面白いのは(と言うのは失礼かもしれないが)、『交易』により『ヒーバラエウス公国』は莫大な『富』を持っている。
しかし、猫の額ほどの農作地の為、また『冷蔵技術』が発展していない為、『富』はあれど『食糧』が慢性的に不足気味なのだ。
もし『時代』が違えば、この世界でも『ヒーバラエウス公国』は有数な『金持ち国家』であったかもしれない。
まぁ、それはともかく。
故に、これまた『平時』では問題となる事でも、『戦争時』なら『干渉』し放題である。
色々な『大義名分』を掲げて、『ロマリア王国』の『領地』を『占領』する事は大いに考えられる。
その他にも、『干渉』してくる『国』もあるだろうが、一番大きな『勢力』はその二つだろう。
『地球』と違い、この世界では『航空技術』が全くと言って良いほど発展していないので、『軍』を派遣するには地上を行くか、海上を行くしかない。
故に、その『影響力』も微々たるモノになってしまう。
いくら『精強』な『軍』を持っていても、この世界には『モンスター』や『魔獣』と言う『脅威』があるので、その事にも留意しなければならないし、そこまでの『犠牲』を払ってまでの『旨味』が『ロマリア王国』にはあるのか?と、言う話だ。
まぁ、それは『ロマリア王国』にも言える事だが・・・。
『エルフ族』と争う事で得られるモノは何か?
『領地』・・・は、『ハレシオン大陸』から離れた『エルギア列島』にある。
高度な『海洋技術』、『航海術』、『造船技術』・・・これは、『精強』な『海軍』を手に入れる為には欲しい『技術』かもしれない。
『エルフ族捕虜・奴隷』・・・これは、前述の通り、『トロニア共和国』が黙ってないだろう。
様々なメリット・デメリットを考えれば、『ロマリア王家』としても、『エルフ族』との『戦争』は出来れば避けたいだろう。
勝っても負けても、(『他国』の『干渉』で)『国力』が下がるのは目に見えている。
それ故、かつて『他種族』の『奴隷』の廃止を決定したのだ。
さて、この場には『エルフ族』の『重鎮』の関係者がいるのだ。
当初は、僕らを何とかする事で、フロレンツ侯の『スキャンダル』を握りつぶそうとガスパールさんもオレリーヌさんも考えていた事だろう。
もっとも、僕らが『ノヴェール家』に接触した事に違和感を持つべきだったが・・・。
それ故、ある意味で『金』で解決するのか、『武力』で解決するのか、それを見極める為にダールトンさんとの面会に臨んだのだろうが、見積りが甘過ぎた。
もし『ロマリア王国』と『エルフ族の国』が『戦争状態』になれば、勝っても負けても『ノヴェール家』の責任を追及する声が上がるだろう。
身も蓋もない事を言うと、『戦争』により疲弊した『国庫』を補填する為に、『ノヴェール家』は格好の餌食だからだ。
なにせ、『国家転覆』の疑いがある。
フロレンツ侯が『ロマリア王国』の『貴族派閥』の『中心人物』なのは『政界』では有名な話だ。
しかも、『裏』では『エルフ族』を含む『他種族』の『人身売買』に関わっていた動かぬ『証拠』がある。
この『証拠』が『エルフ族』から『ロマリア王家』に渡れば、事の発端であり、穿った見方をすると『国家転覆』を企ててわざとそんな事をしていたのではないかとの『嫌疑』が出るだろう。
そこに弁解や弁明の余地はない。
体よく『理由』まであるのだから、尚更である。
そうして、『ノヴェール家』は『御家取り潰し』の憂き目に合う事になるだろう。
「『詰んでいる』と言うのは、そういう事かっ・・・!?」
ガスパールさんは、『ノヴェール家』の置かれている状況を理解し、うめく様にそう呟やいた。
「ご理解頂けた様ですね?あなた方の取れる『選択肢』は、
1、僕らを『排除』して『証拠』ごと握りつぶす。
2、我々に協力する。
この二択しかありません。
もっとも、フロレンツ侯と共に『心中』したいのならその限りではありませんが・・・。」
ガスパールさんやオレリーヌさんにも、『家族』や『親族』に対する親愛の情はあるだろう。
しかし、『ノヴェール家』を預かる者として、フロレンツ侯を助ける為だけに、『ノヴェール家』に関わる全ての人達を不幸にする事など出来よう筈がない。
『地球』の『企業』で言えば、『トップ』が問題を起こし、握りつぶせる内はその様に対処するだろうが、その許容範囲を越えた場合は、『トップ』を排除、処罰しなければ、『企業』自体が倒れかねないのと似た状況だ。
「実質的には、私達にはあなた方に協力するしか『道』が残されていませんわね・・・。どうあがいてもあなた方を『武力』で排除する事は、私達には出来そうにありませんし・・・。」
諦めた様にオレリーヌさんは呟く。
事前の準備の差が、ここに来て明確になったのだ。
もちろん、フロレンツ侯も『ノヴェール家』も、その他数多くの『貴族』達も、当然ながら自衛手段、所謂高い『セキュリティ』を持っている。
『政治』に関わる事なので、望むと望まざるとに関わらず、『敵』も多くなるからな。
しかも、フロレンツ侯と『ノヴェール家』が持つ『セキュリティ』は『ハレシオン大陸』でも屈指のレベルの高さを誇っている。
実際に、『ロマリア王家』や他の『貴族』達からの『間諜』の『諜報活動』をこれまで未然に防いできた。
まぁ、それ故にフロレンツ侯も油断・過信していたのだが・・・。
例外なのは、ニルやアイシャさん、ティーネ達、レルフさんの様な『S級冒険者』クラスの『実力』を持つ者達の存在だが、これも難しいが対処のしようはある。
ニルも高い『隠密技術』と『魔法技術』を持っていたが、さりとてその『痕跡』までは流石に消せない。
『襲撃』に気付けば、人員を投入する事で、倒す事、は難しいかもしれないが、追い返す事は可能だろう。
いくら、高い『レベル』や『実力』を持っていても、『数の力』はやはり脅威だし、体力面の問題もあるからな。
まぁ、その場合でも、多大な犠牲を払う必要があるだろうが。
しかし、ある種『チート』的な『技術』を持つ僕には、それすら通用しない。
僕自身も現時点で『S級冒険者』クラスの『実力』を持ち、しかも、そもそも一切気付かれる事もなく『潜入』が可能だからだ。
『痕跡』が無ければ、当然対処のしようが無い。
それほどまでに、『魔法』と『結界術』を組み合わせた『技術』はとんでもない『技術』なのである。
ガスパールさんもオレリーヌさんも、その事は先程体験済みだし。
「さて、『現状』はご理解頂けましたね?では、ここからは、『交渉』の『話』に移りたいと思います。」
「へっ・・・!?」
「えっ・・・!?」
諦めムードを漂わせていたガスパールさんとオレリーヌさんは、間の抜けた声を漏らす。
・・・少し精神的に追い詰め過ぎたかな?
「いやいや、我々は『ノヴェール家』をツブしたい訳ではありません。そうでなければ、わざわざ出向く事などありえないでしょう?それに、我々に協力して頂ければ、悪い様にはしません。もっとも、フロレンツ侯の処罰は免れないでしょうが・・・。」
何だかセリフだけ聞くと胡散臭いが、どうして『リベラシオン同盟』が『ノヴェール家』の協力を必要としているかを説明すれば納得する事だろう。
ガスパールさんとオレリーヌさんは、目線で言葉を交わす。
静かに頷き合ったお二方を見て、とりあえず、『交渉』の第一段階はクリアした事を確信した。
「『話』を続けてくれたまえ。」
「ありがとうございます。では、ここからはダールトンさんとドロテオさんにお任せします。」
誤字・脱字がありましたら、ご指摘頂けると幸いです。
今後の参考の為にも、よろしければ、ブクマ登録、評価、感想等頂けると幸いです。よろしくお願い致します。