密談 2
続きです。
・・・
「“神”、ですか・・・?」
「先程仰っていた、“アドウェナ・アウィス”とは別の、という事でしょうか?」
「お前らが混乱するのも無理はない。さっきから、“神”だ何だってのが、いっぱい出てきた訳だからな。まぁ、ここで俺が言っておきたいのは、神学的な話ではなく、もっと具体的で厄介な存在の事だ。分かりにくければ、とりあえず“アドウェナ・アウィス”は、この世界を創造した“創造主”、そして、今から話す存在は、その“創造主”が創り、この世界に自らの影響を与える為の尖兵、とでも思ってくれ。奴らは、基本、直接的にこの世界に干渉出来ないから、そうした間接的に影響を与える存在が必要なんだよ。」
「ふむ・・・?」「「「・・・」」」
実際の現場に、社長や幹部などの企業の経営陣がやって来る事はほとんどない。
彼ら経営陣の仕事は企業全体の舵取りであって、一つ一つの現場作業をこなす事ではないからである。
(もちろん、視察などの名目でやって来る事はあるかもしれないが、それもあくまで“視察”であって、現場のスタッフ達と肩を並べて働く、という事ではないのである。)
つまり、現場単位で考えると、それを管理、監督する存在は別に存在する訳である。
この構図を当てはめると、“アドウェナ・アウィス”と“神々”の立場の違いが見えてくる。
先程の例で言えば、“アドウェナ・アウィス”は企業のトップであって、当然ながら現場レベルで働く一スタッフではない。
逆に言えば、“神々”は現地(ここでは惑星アクエラであるが)を管理、監督する存在であって、(本人にそのつもりがあるかは定かではないが)あくまで“アドウェナ・アウィス”の息がかかった“駒”に過ぎないのである。
もっとも、“権限”というもので考えれば、現場のスタッフ達にとっては、“企業のトップ”であろうと、“現場監督”であろうと、自分達を使う側の存在、という意味では、そこに大した違いはないのであるが。
まぁ、それはともかく。
「まぁともかく、何だがとんでもない存在が現れた、と思ってくれ。ああ、それと例のヴァニタスって奴の事だけどな。アレはまた別枠だ。アレは、“アドウェナ・アウィス”が意図して創り出した存在じゃない。アクエラ人類が無意識的に産み出した、ある意味では“天然の神”、ってヤツだからな。」
「・・・もう、何が何やら・・・」
アルメリアの呟きに、口にこそ出さなかったがハイドラスやカエサル、ルドベキアも同意していた。
ネメシスもそれは感じ取ったのだろう。
「ま、色々言っちまったが、今はそれらの事は一旦忘れてくれ。問題となるのは、その人為的に産み出した神、すなわち“女神アスタルテ”が、非常に不安定で危険な存在である事の方だからな。」
「アスタルテ、だとっ・・・!?」「「「・・・???」」」
ここへ来て、思わぬ聞き覚えのある名前が出た事にハイドラスは驚愕の表情を浮かべていた。
もちろん、彼女の存在を知らないカエサル達は、何が何やらちんぷんかんぷんだったが。
ーそうだ、ハイドラス。彼女の事だ。自身の犯した罪の意識によって自責の念にかられた彼女は、自ら封印される事を望んだ…。ここまでは俺達も知っている話だったが、どうやらそんな彼女に目をつけた連中が、彼女を“神”に祀り上げちまった様なんだよ。ー
「聞いただけでも彼女の功績を鑑みれば、“神”になるには十分過ぎる資格を持っている。『新人類』を産み出した女傑。神話にある、女神そのものだろ?」
「・・・確かに。」
セレウスとネメシスの説明に、ハイドラスは今度は失念していた、といった表情になった。
「“神”が“神”たる所以は、その伝承やエピソードによるところが大きい。そうした意味で言えば、お前ら二人も“神”に担ぎ上げるには十分過ぎる素養を持っている。まぁ、お前らに関しては、そう簡単に奴らの言いなりになる様なタマじゃねぇだろうが、な。」
「・・・なるほど、それで・・・」
「「「???」」」
ネメシスの言葉に、ハイドラスはチラリとカエサル達を見やって納得していた。
これまで語った通り、セレウスとハイドラスは、『神話大戦』における英雄として名を馳せた過去がある。
この功績は、先程ネメシスが言った、二人が“神”となるには十分過ぎる功績となる訳であるが、それで言えば、『英雄大戦』の英雄たるカエサル達も、その資格を十分に満たす事となってしまう。
セレウスとハイドラスは、ハッキリとした確証まではなかったが、マギやネモを通じて干渉してくる存在、“アドウェナ・アウィス”の事を朧気ながらに認識しており、その対抗手段を講じていた事から彼らにとってはやりにくい存在だった。
(まぁその結果、彼らの遺した遺跡を罠にして、わざとネメシスの封印を解かせ、“物語”の中心から遠ざけようとした訳であるが。)
しかしカエサル達は、そもそもその存在を知らなかった訳であるから、下手をすれば彼らもいいように騙されて、あるいは操られて、彼らの尖兵に仕立て上げられた可能性が高かったのである。
だから例のセレウス達の発言、
“本来ならばカエサル達まで巻き込むつもりはなかったんだが、仕方なかったとは言え、コイツらも相当“深いところ”まで関わって来ちまってる。逆にこのまま何も知らせない方がヤバい、って判断だよ。”
に繋がるという事に、今更ながら気付いたのであろう。
ま、それはともかく。
「じゃあ、何でそんな存在をわざわざ産み出す必要があったのか?って話だ。さっきもチラッと触れたが、別に自然発生的にもこの“神”は発生する。だが、その場合、当然奴らとは無関係であるから、奴らの思惑通り動いてくれるとは限らねぇ。むしろ、場合によってはこの惑星そのものに、あるいはアクエラ人類そのものに壊滅的な被害を与える可能性もある。例のヴァニタス、って奴みてぇにな。そりゃ、奴らにとっても何かと不都合なんだよ。さっきも話したが、奴らはとある目的の為にとあるものを探している。その為には、適度に人々を争わせ、適度に安定した“世界”が必要なんだ。そして、その為には、それを程よく管理してくれる存在が必要だったんだよ。」
「・・・何故、わざわざ人々を争わせる必要があるので?」
ふと気になった事を、カエサルは尋ねる。
「その答えは至ってシンプルだ。その方が、生命の進化、あるいは文明の発展が早まるからさ。例えば、我々知的生命体に限って話をすれば、知性、あるいは感情を持つ事によって、所謂“平和”を望む事がしばしばあるが、しかし同時に、これは矛盾する様だが、この“平和”が必ずしも良いとは限らないのさ。当たり前だが、本来自然界は弱肉強食の世界だ。当然ながら、天敵が存在するのが当たり前であり、しかしその事によって、彼らは進化をする訳だ。生き残る為に、強力な爪や牙を獲得する、とか、逆に毒を持つ事によって、捕食させる事を免れる、とかだな。つまり、進化や文明の発展の為には、適度にストレスを与えてやる必要があるんだよ。逆に言えば、“平和”という、ある種知的生命体にとって理想的な環境というのは、この進化や文明の発展の妨げになる可能性が極めて高い。」
「なるほど・・・。しかし、必ずしもそうならない可能性もあり得ますよね?」
「もちろんそれはそうだ。しかし、さっきも言ったろ?奴らは、この惑星だけじゃなく、無数の“実験場”を創り出している、と。って事は、当然ながらそうした観点での実験はすでに済ませている、って事さ。そしてその結果、“平和”というものは、知的生命体にとっては怠惰や傲慢を産み出す温床にしかならない、という結論に至っている。そして、そうした環境では、奴らの求めるものは現れなかった。つまり、奴らにとっちゃ、今更それをするだけ無駄なんだよ。まぁ、お前らにとっちゃ迷惑な話だろうがな。」
「「「「・・・」」」」
ネメシスの説明に、カエサル達は複雑な表情を浮かべていた。
何故なら、その説明に納得出来るところもあるからである。
ネメシス(というか、正確には“アドウェナ・アウィス”の考え方)の発言通り、我々生命にとっては“平和”はある種の理想的な環境ではあるが、しかしそれでは、ある意味ぬるま湯につかっているだけなのである。
よく“平和ボケ”などという言葉を耳にする事もあるが、ある程度の緊張感や危機感を持っているか否かによって、問題に対する対処能力は全く違うものになる。
以前にも言及した通り、“モンスターペアレント”の子供がこうした能力に欠けているのも、過度に守られる環境によるところが大きいのである。
だが、頭で分かってはいても、感情論としては、やはり“平和”を求める心があるのも事実である。
それ故に、理解は出来ても、納得は出来ない、といった複雑な思いを持ったのであろう。
「だがな。ここからは奴らにとっても計算外の事だったんだろうが、その“女神アスタルテ”は、奴らの思惑とは全く別方向に舵を切っちまったんだよ。まぁ、ここら辺は、奴らが人間の、特に女性の気持ちを軽んじた結果だろうがな。」
「・・・それは、どういった事なのですか?」
ゴクリッ、の唾を飲み込んで、カエサルは聞き返した。
「結論から言えば、彼女は人間族を全て滅ぼすつもりなのさ。」
「「「なっ・・・!?」」」
「・・・人間族を、ですか?つまり、『新人類』に関してはノータッチ、だと?」
ネメシスの爆弾発言に、カエサル達は驚愕の表情を浮かべる。
だが、ハイドラスだけは、ネメシスが“アクエラ人類”とは言わず、“人間族を”、と言った意図を正確に汲み取っていた。
「流石に頭がキレるな、ハイドラス。セレウスの言ってた通りだぜ・・・。その通り。彼女にとっちゃ、『新人類』達は自らが産み出した子供同然の存在だ。それ故に、子供達に危害を加えるつもりなど毛頭ないのさ。だが逆に言えば、その子供達を苦しめる者達には、彼女の慈悲は向けられない。いや、むしろそんな奴らは、彼女にとっちゃ滅ぼすべき敵にしか見えない。それ故に、彼女の中では、子供達が平穏無事に暮らす為には、人間族が邪魔である、という結論が出ちまった様なんだな。」
「・・・なるほど。」
ハイドラスは納得していた。
ネメシスをして、“厄介だ”と言った理由が理解出来たからであろう。
「し、しかしそれなら、先程のご説明ではその“アドウェナ・アウィス”って人達にとってもそんな事は望んでない訳ですよね?で、その女神様があくまで彼らの尖兵であるなら、女神様の暴走は彼らも止めるのではないですか?」
混乱しながらも、しっかり要点を押さえていたカエサルは、やはり頭の良い男であった。
カエサルの発言を受けて、ネメシスもコクリッと頷く。
「その通り…、なんだが、ここら辺がややこしいところなんだよ。確かに彼女は、ある意味奴らの息のかかった“駒”、あるいは尖兵とは言ったが、だからと言って、別に奴らに絶対服従、って訳じゃない。あくまで彼女は、独立した存在なのさ。むしろ、下手に“神”としての権限を与えた結果、奴らでさえ容易に手を出せない存在に成っちまってる。ま、ここら辺は、部下に権限を与えた過ぎた結果、反旗を翻された王様、ってな感じの構図になっちまってる訳だな。」
「はぁ…」「「・・・」」
口にこそ出さなかったが、カエサル、だけでなく、ルドベキアとアルメリアも、“何ともマヌケな…”、と思っていた。
しかし、得てしてこういう事は起こり得るのである。
そもそもアスタルテは、“アドウェナ・アウィス”と直接的に面識がある訳でもない。
彼女の存在が“使える”と思った“アドウェナ・アウィス”が、勝手に彼女を“神”に祀り上げただけなのだから。
そして、本来ならば非常に聡明な女性であるアスタルテ自身も、セレウスやハイドラスの様な“能力者”、あるいはソラテスらの様な“超越者”と違い、あくまでベースが“人間”であった事もあり、神化の過程で精神が半分くらい壊れた結果、誰が自分にこんな力を与えたのか、という、ある意味ごく当たり前に抱く疑問にすら、それを不思議に思わなくなったのである。
彼女にとって一番大事なのはあくまで『新人類』の事であって、他の事はもはやどうでも良い、という様な心理状態になっていたのであろう。
当然ながら、こういう直接的に契約を交わした訳でもない状況であるから、“アドウェナ・アウィス”の思惑から外れた行動を起こす事は特段不思議な話ではないのである。
むしろ、こんな当たり前の話を失念していた“アドウェナ・アウィス”に、ある種の問題があった、と言ってしまえばそれまでなのである。
だが、“アドウェナ・アウィス”は“アドウェナ・アウィス”で、肉体を持ってい頃が遥か昔の話になっていた事もあって、人には感情がある事を忘れていたのである。
それ故に、“役割”を与えてやれば勝手にその“役割”にそった行動を起こすものと思い込んでおり、実際には、この感情によって、その“役割”を超えて暴走する可能性を失念し、結果としておマヌケな事となってしまった訳である。
(とあるキャラクターのセリフではないが、“論理が支配出来るのは機械だけ”、なのである。
当たり前だが、“人間”は様々な感情などが存在するので、完璧で完全な論理通りに動くとは限らないのである。)
「まぁ、奴らの事はこの際どうでも良い。奴らが飼い犬に手を噛まれ様が、そりゃ自業自得だからな。しかしここで問題となるのは、彼女の暴走の矛先がアクエラ人類に向けられちまった事の方だ。さっきも言ったが、奴らは直接的にこの世界に干渉出来ない。いや、より正確に言えば、出来るは出来るが、それをすると、この世界の終焉を意味するのさ。つまり、奴らが出張ればこの“実験”の失敗であり、この“実験場”を放棄する事と同義なんだよ。奴らにとっちゃ、それは最終手段だ。大きなコストや時間をかけた“実験”だからな。失敗するにしても、何かしらの成果が欲しいと考える事だろうよ。よって、奴らの今のところの方針は、“傍観”って事になる。」
「そ、そんな、無責任な・・・」
「奴らにとっちゃ、あくまで“実験”だからな。誰がどんな目に遭おうと、その結果にしか興味がないのさ。それに、この世界やアクエラ人類は自分達が産み出した存在だ。自分達が産み出した存在なら、どう扱おうが自分達の勝手である、って考え方が奴らにはあるのよ。」
ー「「「「・・・・・・・・・」」」」ー
稀にワンマン経営者は、こうした考え方を持つ事がしばしば報告されている。
この会社を創ったのは自分であるから、この会社をどう扱おうが自分の勝手である、と。
もちろん、それも間違った考え方ではないだろう。
少なくとも、そこに所属している者が自分や身内だけだったのなら、という前提条件がつくが。
しかし、当然ながら会社がある程度の規模になると、そこには様々な責任が伴う事となる訳である。
少なくとも、社員やその家族の生活、人生を背負う事となる訳であるから、自分達だけの勝手が許される範疇を軽く超えてくるからである。
これと同様に、本来ならば“アドウェナ・アウィス”には、この世界やアクエラ人類、あるいは他の“実験場”もそうであるが、を産み出した責任が存在するのである。
だが、彼らにはそんな倫理観や道徳心など皆無なのである。
実験動物がどうなろうと、彼らにとっては知ったこっちゃないのだ。
こうした傲慢な考え方が、ネメシスと合わなかったのだろう。
故に、ネメシスは彼らと敵対するに至ったのかもしれない。
まぁ、それはともかく。
「つまり、奴らには期待出来ない。かと言って、彼女の暴走を止めなければ、マジでこの世界の『新人類』達以外の種族が滅ぼされかねない。それで、今回こうして、お前らに協力を仰ごうと思って、回りくどい手を使った、って訳さ。一応俺、表向きは彼女の協力者、って事になってるからな。」
「・・・なるほど。状況は理解出来ました。」
「ってか、ネメシス殿なら何とか出来るんじゃないですか?先程の発言では、ネメシス殿もその“アドウェナ・アウィス”、なのですよね?」
話のまとめに入ったネメシスに、カエサルは至極真っ当な意見を挙げた。
「ぶっちゃけて言えば、確かに俺一人でも、彼女を止める事自体は可能だ。ただ、その場合の手段、選択肢ってのが、彼女を滅ぼす事しかないのさ。曲がりなりにも彼女が“神”である以上、こちらも手加減してやれるほどの余裕はないからな。しかし、この方法には問題点があるんだ。」
「・・・一体それは何です?」
ケロッとした表情で、“神”にも勝てると豪語したネメシスに驚きながらも、ルドベキアは言葉の続きを促した。
「言わば、“神の不滅性”、って奴だな。“神”ってのは、他の知的生命体とは違い死ぬ事がないのさ。もちろん、先程言った通り、俺の力なら倒す事は不可能ではないが、それじゃあ終わらないのよ。矛盾する様だが、」
「仮にこのままアスタルテを倒したところで、再び復活してしまう、という事ですね?しかもその場合、他者に倒されたという記録やら記憶が残ってしまうので、もっとマズい存在になってしまう可能性がある・・・」
「そう、その通り。あくまで今現在の俺は、“アクエラ人としてのセレウスの身体”をベースにしている。つまり、彼女の憎む人間族に滅ぼされた、という事になるから、ますます人間族に対する憎悪が激しくなるだけなんだわ。なら、また倒せば良いと思うかもしれないが、それって所謂“永遠のいたちごっこ”でしかない。少なくとも、その場合、俺が永遠に彼女を倒し続けるしかなくなる。もちろん、セレウスも巻き込んで、な。」
「「「・・・・・・・・・」」」
ネメシスの説明に、ようやくカエサル達は彼をして厄介だ、と言った本当の理由を朧気ながらに察していた。
永遠に終わらない戦い。
それはまさしく、生き地獄の様なものだろう。
「だが、お前らの協力を得られれば、そんな状況にもならずに済む。」
「・・・話が見えてきましたよ、ネメシス殿。」
流石に聡明なハイドラスは、ここまでの話を聞き、ネメシス(セレウス)が何を考えているのかを察した様であった。
ネメシスもそれを悟ったのだろう。
目線だけで、ハイドラスにその言葉を促した。
「・・・つまり、ネメシス殿は、“女神アスタルテ”を封印されようとお考えなのですね?」
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