『ルダの街』にて 3
続きです。
タイトル考えるのが地味に大変です。
続き物だと楽ですが、話も動かないし、悩ましい所。
「もう一回やって、もう一回っ!」
「お~い、アラン、エリーお待たせ~。終わったぞ~?」
「「ちょっと待っててっ!!」」
「えぇ~・・・?」
「子どもらの面倒見させて悪かったねぇ~。」
「いえ、大丈夫です。二人ともすっかりアキトの『マジック』に夢中になってましたから。」
『役場』にてドニさん、シモーヌさん、それに、『ドワーフ族』であるリーゼロッテさんが手続きをする間、アランくんとエレオノールちゃんははっきり言って退屈だった。
子どもに大人しくしていろっと言っても、それは無理な相談だ。
色々な事に興味を持って、知ろうとして、頭と身体を育てていくのだから、当たり前だろう。
故に、興味の対象をこちらで用意してやる事で、大人しく、とはいかないが、夢中にする事には成功した。
シモーヌさんの言う様に、ある意味『子守り』だが、子どもは好きなので僕としては大した面倒でもない。
まぁ、その方法が『マジック』と言う、ある種の『子供騙し』ではあるのがアレだが、これが意外と奥が深い。
この世界には、実際に『魔法技術』が存在するが、もちろん今は使っていない。
普通の『マジック』である。
それ故、当然『タネ』が存在する。
だが、これが中々見抜けない。
ま、見破られると、それで終わってしまう話でもあるけど・・・。
「じゃあ、これで最後だよ?よ~く、見ててね?」
「「うんっ!!」」
「おっ?何だ何だ?」
僕がやってるのは、『マジック』の基本である『コイン』を使った『マジック』である。
つーか、手持ちの物で使えそうな物が、『交易共通通貨』しか無かっただけなんだが・・・。
で、やってる事は『コイン出現』と『コイン消失』である。
あいにく浅学なモノで、そこまで上手くはないが、楽しむ分には問題ないだろう。
手を素早く動かしながら、『視線の誘導』、『意識の誘導』をしながら、『コイン』を出したり、消したりする。
アランくんとエレオノールちゃんは、頭に疑問符を浮かべながらそれを見ている。
この『ミスディレクション』は、結構応用範囲が広い。
それこそ、『戦闘』にも使える。
特に、『前世』の学生時代にやっていた『スポーツ』とも親和性が強く、ある意味僕の得意技とも言っても良いだろう。
人は一度に大量の『情報』を同時には処理出来ない。
『マルチタスク』が苦手なのだ。
前に、もちろん『前世』の事だが、プロのパフォーマーの映像を見た事がある。
『ミスディレクション』を応用した『スリ』の実演であった。
『スリ』自体は誉められた行為ではないが、パフォーマンスとして見た場合は、脱帽の一言であった。
端から見ていても、何だかよく分からない内に舞台に上がった『観客』の腕時計は盗られていた。
本人はもっとよく分からなかっただろう。
そのパフォーマーは、『観客』に早口で語りかけ、それとなくスキンシップをし、『大事な物』を盗られない様に促しながらも、『視線を誘導』し、『意識を誘導』し、『注意力』まで誘導してみせた。
そのパフォーマンスは圧巻だったが、『犯罪』としての『スリ』が使う『テクニック』はもっと直接的だ。
例えば、『旅行者』のフリをして『地図』を見せながら道を訪ねたとしよう。
当然訪ねられた人の『意識』と『視線』は『地図』に向く。
その隙に、バッグの中の財布をスルのだ。
単純かつ使い古された『テクニック』だが、これが意外と引っ掛かる。
さらに、この『目的地』が、分かりにくくはないが言葉で説明するには一旦頭の中で整理する必要がある場所なら、格段に成功率は上がる。
『視線の誘導』、『意識の誘導』に加え、『記憶を辿る』と言う『プロセス』が必要になり、『注意力』は散漫になる。
もっと単純な『イタズラ』なら、「あれは何だ!?」と叫ぶだけの『ミスディレクション』もある。
故に、指を鳴らすとか、手のひらをわざと見せるとか、『情報』を増やしていくと、『マジック』の成功率も上がる。
「はい、おしま~いっ!」
「「え~!!」」
「ほぇ~、見事なモンだ。」
「面白いねぇ~。」
『タネ』がバレる前に、早々に終わらせる。
何事も『引き際』が肝心である。
まぁ、手続きも終わった様なのでちょうど良い頃合いだったしね。
「手続きは終わりましたか?」
「ああ、悪かったな、アキト。二人の面倒を見させて。」
「いえ、そんなに手も掛かりませんでしたし。」
「アキト、アキトっ!それってどうやるのっ?オレでも出来るっ?」
「ああ、ちゃんと練習すれば出来る様になるよ。ちょっと『コツ』があるけど・・・。今度時間がある時に教えてあげるよ。」
「マジでっ!?やったぁっ!」
「エリーも!エリーもっ!!」
「もちろん、エレオノールちゃんも一緒にね。」
「わ~いっ!」
「すっかり仲良しだねぇ~。」
「主様は、子どもの面倒を見るのがお上手ですね。」
「ダーリンは、良いパパになれるねっ!」
「そうですか?ありがとうございます。」
リーゼロッテさんの発言の際、一瞬アイシャさんとティーネの目が光った様に感じたが気のせいだろうか?
結婚かなぁ~。
『前世』では、結局結婚する事なくその生涯を終えてしまった。
一応、結婚、とまでは行かなかったが、お付き合いしていた女性は何人かいたが・・・。
こちらの世界では、僕は結婚出来るんだろうか?
いや、まぁ、一応アイシャさんは『婚約者候補』ではあるし、好きか嫌いかで言えば好きだが、僕が第二次性徴前だからかは知らないが、恋愛感情かと言われると微妙だ。
まぁ、『前世』だと、小学校高学年くらいの時には好きな娘もいたような気もするが、今の僕は精神は大人であるから色々とアンバランスなのかもしれない。
そのバランスが取れてきたら、女性として意識する様になるかもしれない。
ただ、こればっかりは、今考えても仕方のない事だ。
その時になったら、改めて考える事としよう。
「さて、では簡単に挨拶回りをしてから『シュプール』に向かいましょうか?あんまり時間を掛けると遅くなってしまいますし、ドニさん達は『ルダの街』に着いたばかりですしね。少し落ち着いたら、改めて皆さんにご紹介しますよ。」
「ああ、何から何まですまねぇな。アキトに任せるわ。」
思いの外、用事はスムーズに進行している。
ドニさん達の書類上の手続きは、たった今終わった。
バッティオ親方には、僕の『依頼』への交換条件として、ドニさん一家の今後の住居になる、『自宅兼工房』を格安で建てる事で話は付いた。
ダールトンさんには会えなかったが、『人間族』側の被害者の方達は『リベラシオン同盟』に預けて来たし、その際ヨーゼフさんとヘルヴィさんがドニさん達と面識を持つに至った。
後は、『リベラシオン同盟』の主要メンバーであり、『冒険者ギルド』の『ギルド長』・ドロテオさんと、ドニさん達と同じ『鍛冶職人』の方達に挨拶回りすれば、とりあえずは問題ないだろう。
『冒険者』は、ある意味『鍛冶職人』にとってはお得意様だし、同じ『鍛冶職人』達は『仕事』におけるライバルでもあるが、しっかり『住み分け』をすれば軋轢も小さくて済む。
まぁ、今現在の『ルダの街』の状況を考えれば、腕の良い『同業者』は、『鍛冶職人』にとっては願ってもない『援軍』だろうが・・・。
『ルダの街』の発展に伴い、『鍛冶職人』の需要は大いに増している。
武器・防具に加え、生活用品・工業用品の『道具』が不足しているからだ。
その為、『鍛冶職人』達は朝から晩までひっきりなしに働いている。
まぁ、その『報酬額』も相当なモノになっているだろうが、今はそれを使ってる時間もないだろう。
そんな事もあって、少しばかり自分達の武器・防具類の修理や新調を遠慮していたのだが(『年季』が入ってきたとは言え、手入れもしっかりしているので、そこまで危機感のあるモノではない。もっとも、僕らも『レベル』が低かったら無理を言ってでも良い物にしていただろうが・・・)、そこにドニさんとリーゼロッテさんが現れたので、これ幸いにと、言い方はアレだが、彼らを『囲いこむ』事にしたのだ。
僕らの『依頼』が完遂したら他の人達の『仕事』も請け負うだろうし、そこは大目に見てほしい所だが。
そうこうしながら、『役場』を出た僕達は、そこから程近い『冒険者ギルド』に足を向けたのだった。
◇◆◇
「木材が足りないけれど、『魔獣の森』にはあまり近寄りすぎないでよ~?今のあそこは、『上級』の人達でないと厳しいエリアだし、貴方達に抜けられると『ギルド』も大変なんだから~。」
「分かってますぜ、ケイラさん。大体、今回の『依頼』は『護衛』なんですから、無茶なんてしませんて。『探索』や『討伐』なら、そんな事も言ってられやせんが・・・。」
「分かってるなら良いのよ~。じゃ、気を付けるのよ~?」
「「「「「うっす!!!!!」」」」」
屈強な男達をにこやかに見送る『受付嬢(年輩)』。
その屈強な男達は、『ギルド』を出る際に僕らと鉢合わせした。
「おや、アキトの兄貴じゃないっすか?こんちゃーっすっ!」
「「「「こんちゃーっす!!!!」」」」
その屈強な男達は僕に気付くと、なぜか『マッスルポーズ』をしながら挨拶してくる。
「『ギルド』に何かご用事で?」
「え、ええ、こんにちは、ドルフさん、皆さん。何度も言いますが、その『兄貴』ってのは止めて貰えませんか?」
「いやいや、何を仰います、兄貴。『非公式』ながら『ギルド』で一番の『稼ぎ頭』である漢がご謙遜を。『ギルド』じゃ、兄貴に一目置いてない奴なんておりやせんぜ?」
そうなのである。
クロとヤミが『白狼』達に合流を果たした事で、『魔獣の森』の『力関係』が一変し、『難易度』が以前より上昇したのだ。
以前は『中級・上級冒険者』が頻繁に通っていた『狩り場』であったのだが、今は『上級冒険者』ですら油断すると痛い目に合うエリアに変貌している。
と言っても、『白狼』達もむやみやたらに人を襲う訳ではない。
彼らの『縄張り』、特に『聖地』である深部に行かなければ、森で出会ったとしても、せいぜい『威嚇(警告)』してくる程度だ。
まぁ、その『威嚇(警告)』を無視して撤退せずに、『戦闘』を仕掛けた場合は、その結果がどうなろうとそれはその人のある意味『自己責任』である。
僕も一応『人間族』ではあるが、だからと言って必ずしも『人間』の味方ではないし、クロとヤミとの関係から、『白狼』達とも知り合いではあるが、そちらの味方と言う訳でもない。
これに関しては所謂『生存競争』も関わってくる話なので、『自然の摂理』を尊重し、あくまで僕は『中立』の立場である。
もっとも、僕は『祖霊』・シルウァに認められているし、クロとヤミの『兄貴分』であるので、『白狼』達も襲ってくる事はない。
それどころかなぜか懐かれてすらいる。
どうやら、『白狼』の『序列』では僕は相当上位にいる様で、そんな訳で『魔獣の森』の『恵み』は取り放題なのであった(当然森の生態系を破壊する様な事はしない)。
そんなこんなで、『ルダの街』発展に伴い需要が高まっていた『薬草』や『各種素材』を、『難易度』の上昇に伴い追い付かなくなった供給の穴埋めを僕がした事により、いつの間にやら『ギルド』一番の『稼ぎ頭』となっていたのであった。
ただし、僕はまだ13歳になってないので、正式な『冒険者』ではない。
なので、あくまで『非公式』扱いである。
ちなみに、このドルフさん達は、以前『シュプール』でアイシャさんに狼藉を働こうとした『冒険者パーティー』である。
まぁ、それも未遂で終わったし、『冒険者ギルド』に突き出した後、罰則と反省の為に『社会貢献』に従事し、今では立派に更正している。
と言っても、『パンデミック』時まではそれは表向きだけの話で、いつか僕やアイシャさんに『仕返し』してやると逆恨みに近い心情だったと後に本人達から聞かされた。
しかし、『冒険者』である彼らは、『パンデミック』時に討伐部隊に参加させられており、その時初めて『モンスター』や『魔獣』の大群を前に心の底から恐怖したそうだ。
普段から『モンスター』や『魔獣』を相手取っている『冒険者』ですら、千を越える数は、なまじ危険性を知っているだけに、その絶望感も相当なモノだった様だ。
しかし、そこに僕らが介入した。
まぁ、こちらにはこちらの事情もあったのだが、彼らに取っては助けられたと思っても無理からぬ事かもしれない。
そんな訳で、『パンデミック』後は、僕らに盛大に謝罪(ジャパニーズ土下座)し、本当の意味で心を入れ替えて、『ギルド』にはなくてはならない人材にまで成長を遂げている。
『上級冒険者』の仲間入りも、そう遠くはないだろう。
ちなみに、『社会貢献』先がバッティオ親方達、所謂『土工』の『公共事業』であった関係で、彼らも『体育会系』の口調が移ってしまったのだとか。
それと、『パンデミック』時に感じた無力感をバネに、『肉体改造』に着手し、見た目も屈強な感じに仕上がっている。
今では、会う度に、その自慢の肉体を『ポージング』しながら魅せ付けてくる。
ま、元々そうした『素養』があったらしく、本人達も割と気に入っている様子だが、それに付き合わされるこちらは辟易としてしまう。
しかし、意外と子どもウケは良い様で、今もアランくんとエレオノールちゃんは、面白そうに彼らの『ポージング』を真似ている。
「みんな元気そうだね~?これからお仕事?」
「ちーっす!アイシャの姐さん。そうっす!明日から木材の調達に向かう『土工』の皆さんの『護衛』の任務に就くっす!」
「そうなんだ~?」
「今日は、これから武器・防具類の点検と手入れをしてから英気を養う予定っす!」
「へぇ~、そうなんだ。楽しんできてねっ!」
「いや~、しかしあいかわらずアイシャの姐さんはお美しい!」
「ありがと。嬉しいけど、あんまり調子良い事言ってると、奥さんに怒られるよ~?」
「自分は、ティーネの姐さんも美女の名に恥じないと思うっす!」
「そ、その、恐縮です。」
「おや、アキトの兄貴。そちらの方達は見ない顔ですが、お知り合いですかい?」
「え、ええ、『出張』の時に知り合ったドニさん一家です。ドニさんは『鍛冶職人』をされているそうです。」
「へぇ?転入希望の方達ですかい?しかも『鍛冶職人』っすか。今の『ルダの街』にゃ、ありがたい『援軍』っすね。」
「そうなんですよ。ところで、ドロテオさんは『ギルド』にいらっしゃいますかね?」
「親父さんですかい?いやー、俺らは見てないっすね~。ケイラさんに聞けば分かるんじゃないっすか?」
「そうですか・・・。分かりました。」
「そんじゃ、アキトの兄貴、それから皆さん。俺らはこれで失礼しやす。明日の準備もありますので。」
「ええ、ありがとうございました。今の皆さんなら大丈夫だとは思いますが、くれぐれもお気を付けて。」
「「「「「うっすっ!!!!!」」」」」
「失礼しやーす!」と言いながら、『C級冒険者パーティー』・『ムスクルス』は立ち去った。
(余談だが、僕らと揉めていた当時は、『初級~中級』くらいのうだつが上がらない『冒険者』だった彼らは、当然ながら女性と縁が無かった。
ただでさえ、男所帯の『冒険者パーティー』であるし、稼げないし、モテないし、と不満を抱えていた時にアイシャさんを発見したのだ。
前にも述べたが、この世界の村や街の『外』の世界では『犯罪』が横行している。
擁護出来る事ではないが、人気のない所で美しい女性を発見したフラストレーションの溜まった男所帯の『冒険者パーティー』の脳裏を、「ヤっちゃってもバレないんじゃね?」とよぎってもある意味仕方のない事かもしれない。
まさに、魔が差したのだろう。
まぁ、その後は知っての通り、僕に捕縛され、連行され、『社会貢献』に従事し、『パンデミック』を迎える事となる。
その後は、心を入れ替えて真面目に働き始め、そうした様を見てくれていた今の奥さん達と出会い、心にも余裕が生まれた。
単純な話だが、男と言うのは、愛する女性、愛してくれる女性がいるとしっかりするモノである(まぁ、中にはそれでもダメな男もいるが・・・)。
女性の存在が男の人生を左右する、まさに典型的事例であった。)
「えらい暑苦しい連中だったなぁ~。」
「それに関しては同感です。なんでも『筋トレ』にハマったらしく、会う度にあんな感じです。と、言っても『動ける筋肉』なので、本人達が満足なら良いじゃないですかね?『実力』もそれなりにありますし、盾兼壁役としては中々のモノだと思いますよ。攻撃力も、見た目に違わずありますからね。まぁ、その分スピードに難がありますが・・・。」
「そう言った意味だと、『護衛』は彼ら向きの『仕事』だと思うわ~。自分達の特性を活かせるのが、良い『冒険者』だからねぇ。」
ドニさんと感想を言い合っていると、ケイラさんがこちらにやって来た。
「はじめまして、『冒険者ギルドルダの街支部』の『受付』を担当している、ケイラです~。よろしくお願いいたします~。」
「あ、どうも、ドニ・ブリュネルです。こちらが妻のシモーヌ、息子のアラン、娘のエレオノール、弟子で『ドワーフ族』のリーゼロッテです。俺は『鍛冶職人』を生業にしてます。『ギルド』の方達とは『仕事』でお世話になると思いますので、どうかよろしくお願いします。」
「妻のシモーヌです。お世話になります。」
「こんにちは。アラン、八才ですっ!」
「こんにちは。エレオノール、四才ですっ!」
「『ドワーフ族』のリーゼロッテ・シュトラウスです。よろしくお願いします。」
にこやかに挨拶を交わすケイラさんとドニさん一家。
ケイラさんは嬉しそうに微笑んだ。
「ま~ま~、よろしくねぇ。『鍛冶職人』さんだなんて、今はなによりの『援軍』だわ~。お住まいはもう決まったのかしら~?」
「バッティオ親方に頼んで『自宅兼工房』を建ててもらう予定ですが、ドニさん達は『ルダの街』には来たばかりですからね~。当分は『シュプール』に滞在して頂く予定ですよ。」
僕の言葉を聞くと、ケイラさんは少し残念そうにする。
「そうなの~?それは残念だけど、まぁ、仕方ないわねぇ。ケイアに新しいお友達が出来るし、私にもママ友達が出来ると思って嬉しくなったんだけど~。」
「まぁ、『シュプール』は結構離れてますからね~。それに関しては、ドニさん達の『自宅兼工房』が完成してからのお楽しみと言う事で・・・。ちなみに、『シュプール』にはアイシャさんの『工房』がありますので、『鍛冶仕事』に関する『依頼』がありましたら、『シュプール』までご連絡下さい。」
「まぁ、それはありがたい話だわ~。支部長とも話をして連絡させてもらうわねぇ。」
「ああ、そうだ。ドロテオさんは今こちらにいらっしゃいますか?」
今の時間帯は、『ギルド』も込み合う時間帯ではない。
もっとも、先程の『ムスクルス』みたいに『指名』などの場合はその限りではないが、ドロテオさんもこの時間ならいるんじゃないかと踏んだのだが・・・。
まぁ、『ギルド』の『窓口』たるケイラさんとドニさん達が面識を持てたので、最低限の用事は済んだけど。
「支部長なら、今は来客中よ~。なんでも、『ノヴェール家』の遣いの方が見えているとか何とか・・・。」
「えっ!?そ、そうですか・・・。分かりました。じゃあ、僕らが来た事だけお伝え下さい。お邪魔してもいけませんので。」
「そう?分かったわ~。」
「では、今日はドニさん一家をご紹介する挨拶回りだけでしたので、これで失礼します。今度は、『薬草』や『各種素材』を持って来ますよ。」
「ええ、お願いねぇ。アキトちゃんも忙しいだろうけど、たまにはケイアとも遊んであげてね~。」
「はい。ではまた。」
『ノヴェール家』の単語を聞いて、今日はドロテオさんと会わない方が良いと判断した。
僕らだけならともかく、今はドニさん一家が一緒だからな。
そんな訳で、最低限の用事が済んだので『冒険者ギルド』を出る。
最後に、『鍛冶職人』達にドニさん達を紹介して、今日の所は引き上げるとしよう。
◇◆◇
「アキト殿が『出張』からお戻りの様ですね。」
「ああ。しかし、オタクがいたし、無関係の『連れ』もいたからここには来なかったみたいです。行き違いですが、仕方ないでしょうな。まぁ、アキトなら滅多な事じゃ問題ないとは思いますし、それはダールトン町長も同じです。後で、オタクからの『情報』は送っときますわ。」
『冒険者ギルドルダの街支部』の『ギルド長室』に、二人の男が机を挟んで対面していた。
一人は、この部屋の主、ドロテオギルド長である。
もう一人は、『ノヴェール家』の遣いで、名をフェルマンと言った。
フェルマンは、立派な身形の四十代ほどの紳士で、かなり高貴な雰囲気を放っている。
「しかし、御曹司にも困ったモノですな。まさか、『掃除人』を雇っちまうとは・・・。」
「それに関しては、本当に申し訳ありませんっ!ガスパール様も、その事には心を傷めておいでです。折角皆様に『恩情』を頂いたと言うのに、恩を仇で返す形になってしまって・・・。しかし、言い訳に聞こえますが、ジュリアン様には正確に『情報』が伝わってない可能性もございます。出来る限り穏便に事を済ませて頂ければと思うのですが・・・。」
「オタクも大変ですなぁ~。まぁ、アキトやダールトン町長じゃなきゃ、無理な相談ですが、あの二人なら何とかなるでしょう。俺もこれでも『元・上級冒険者』ですし、こちらとしてもオタクらとは争うつもりはないですぜ?」
「そう言って頂けるとありがたいです。くれぐれもお気を付け下さい。」
「ああ。分かりました。『情報』ありがとうございました。」
フェルマンは、話が済むと何度も頭を下げながら『ギルド長室』を辞した。
これには、ドロテオも恐縮してしまったが、フェルマンの気持ちも分かるので、丁重にお帰り頂いた。
「ふぅ。親が子を想う気持ち、子が親を想う気持ちは分かるが、先走り過ぎだぜ、御曹司さんよ。『フロレンツ』と『家』どっちが大切なんだっつー。ま、フェルマンさんの言う通り、『情報』が正確に伝わってない可能性もあるが・・・。」
ブツブツと言いながら、ドロテオは執務机の引き出しを漁る。
「アキトのヤツ、こんな事も想定して、『コイツ』を預けてったのかねぇ~。ま、考え過ぎかもしれんが、アイツの事だからなぁ~。」
ドロテオが取り出したのは、アキトから預かっている『通信石』であった。
誤字・脱字がありましたら、ご指摘頂けるとと幸いです。
今後の参考の為にも、よろしければ、ブクマ登録、評価、感想等頂けると幸いです。よろしくお願い致します。