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『英雄の因子』所持者の『異世界生活日記』  作者: 笠井 裕二
新しい世界
360/383

魔石

続きです。



◇◆◇



「・・・って感じで、ボクらも昔は結構ムチャをやらかしてまして・・・」

「えぇ〜、そうなんだぁ〜!」

「意外ですわね。アルフォンス先生は、かなり理知的な方だと思っていたんですけれど。」

「ハッハッハ、私には分かりますよ。男の子同士で集まると、ノリでムチャをやらかすものですからな。私も、先生ほどではないにしても、子供の頃は大人の言いつけを守らなかったものです。」


結局流れでセレスティア宅でディナーを頂く事となったアルフォンスは、仕事から帰ってきたセレスティアの父であるノリスも加わって、にぎやかな夕食を過ごしていた。


その会話の中で、アルフォンスは昔の自分達の武勇伝、というか、悪ガキだった頃のエピソードを披露したのである。


これには、色々とルールから逸脱してしまうセレスティアを安心させる、という意図もあったのかもしれないが。


「あらアナタもそうだったの?」

「まあね。男の子は皆、冒険が大好きだからね。」

「・・・確かに。」

「いやぁ〜。しかし、今や“英雄”とまで呼ばれる先生達も、私と同じ様な子供時代があったのかと思うと、途端に親近感が増しますなぁ〜。」


酒が入っている事もあってか、ノリスは上機嫌で笑う。


結果としてこの移住は大成功となった訳であるが、当然ノリスやフレデリカに不安がなかった訳ではない。

こちら側に親戚や知り合いがいる訳ではなかったので、未知の社会に飛び込む事は、まさに()()だったからである。


それに、『新人類』達に思うところがなかった訳でもない。


そもそも、アスタルテが生み出すまでは、『新人類』という種そのものが存在していなかった事もあり、『新人類』を同一の“人類”と見る事が出来るか、という不安もあったのだ。


もちろん、以前にも言及した通り、魔王軍との戦いにて活躍を果たしたアベル達の存在、すなわち『新人類』達が人間族と協力したり、コミュニケーションを取る事が出来た、という事実があったからまだマシだったが、それがなかったら、“亜人”に対する見方はもっとネガティブ寄りだった事だろう。


しかし、彼らと共に暮らす様になって、その考え方は良い意味で覆された。


様々な事情もあったからとは言えど、悪意を持って接してきた人間族よりも、『新人類』、エルフ族の方が、より暖かく彼ら家族を受け入れてくれたのだから。


しかも、知れば知るほど、まぁ、もちろん、寿命や成長スピード、“魔素”に対する親和性の高さなど様々な違いがあるまでも、彼らも自分達と同じ()()なんだ、という思いが益々強くなっていったのである。


そこへ来て、アルフォンスも自分と似たような子供時代を過ごしていた、という事実が、ノリスの中で『新人類』達に対する親近感をより高まらせていたのであろう。

まぁ、それはともかく。


「けれど、冒険(それ)も悪い事ばかりではありませんよ。エルフ族(ボクら)の場合は、狩りの練習だったり、食糧の確保、森の生態系の把握など、今の生活に必要な事が自然と学べますからね。だから、むしろ今は、子供達には積極的に“森”での活動を推奨していたりします。・・・もっとも、あくまで“練習用の森”、に限定されますがね。」

「ほうほう。」


続くアルフォンスの話に、ノリスは興味深げに頷いていた。


もちろんそれは、人間族にとってもそうなのであるが、自然と共に生きるエルフ族、『新人類』達にとっては、“森の恵み”は非常に貴重かつ重要なものである。

(当然ながらある程度農耕などはするにしても)大人になれば、狩りや採取によって食糧を確保する必要が出てくるので、それならば、とある程度の年齢に達した時点で将来を見据えた準備として、今現在のエルフ族では森での活動の訓練を始めるのである。


特に農耕が普及した人間族(ラテス族)の基準では、無闇に森に立ち入るべきではない、というルールが出来るのも分からない話ではないが、状況や環境が変わればそれでは生きていけないのである。


「・・・そういえば、その冒険によって、先生達は『魔石』を発見されたとか。」

「ええ、そうです。懐かしいですね。」

「それが、回り回って皆さんの、そして私達の生きる糧となっているのですから、何だか不思議な縁ですね。」

「・・・確かに。」


ノリスとアルフォンスは笑い合った。


以前にも言及したかもしれないが、『魔石』、『精霊石(せいれいせき)』とかアルフォンス達の間では“光る石”と呼ばれた鉱物は、“魔素”を蓄積したり引き寄せたりする特徴があった。


アベル達悪ガキ四人組がルールを破って森に赴いたのも、これを見付ける為、という側面もある。


で、後にマグヌスの研究(『魔道具(マジックアイテム)』)に活用出来る事が分かった事で、その価値が一気に高まった訳である。


当然ながらマグヌス亡き後も、『魔道具(マジックアイテム)』の研究は益々盛んに行われている。


当然だ。

『魔法技術』を学ばなくとも、誰でも“魔法”が使える便利な道具。

需要が高まるのも無理からぬ事であろう。


しかし、その為に絶対必要不可欠な物が『魔石』であり、それを発見する為には、エルフ族の才能が、絶対ではないが必要になってくる。


そうした意味では、魔王軍の台頭の折に、『新人類』達、エルフ族達は魔王軍寄りの立場となってしまった事で、『魔道具(マジックアイテム)』の生産は一度頭打ちになっている。


もちろん、ラテス族、連合、“パクス・マグヌス”の三国も、独自に『魔石』の採掘に乗り出していたので、ある程度の供給は可能であった。

それが、三国の発展に大きく貢献した訳であるが、今以上、これ以上の発展に繋げる為には、やはりどうしてもエルフ族の協力が必要不可欠だったのである。


こうした背景も、『新人類』達との国交回復を後押しした一因だったのである。

(ちなみにノリスは、人間族とエルフ族の交易の仲介をする仕事をしており、これによって巨万の富、とまでは行かないまでも、フレデリカとセレスティアを十分以上に養っていく事を可能としていた。)


最初は、悪ガキ四人組が偶然発見した鉱物が、今やセレスティア家族だけでなく、三国や“三国同盟”にとっても重要な物になるとは、まさに世の中何が起こるか分からないものであった。


「そういえば、ノリスさんは『魔石』の仲介業をなさっているんですよね?」

「ええ。元々商売をしていた身としては、『魔石』の売買に関わる事は大きな夢でしたからね。とは言っても、人間族の間では供給量の問題で、一部の特権商人の専売特許となっていましたから、私の様な者が携わる事はなかったのですが・・・。」

「・・・へぇ。」


ノリスの言葉に、アルフォンスは一瞬目が光った様に見えた。


先程も述べた通り、ただの人間に『魔石』を見付ける事は非常にハードルが高い。


『魔石』は一見何の変哲もない鉱物であり、なおかつおそらく生成のメカニズム的にも、特殊な環境でしか採掘が出来ないからである。


『魔法技術』を学び、“魔素”の扱いに慣れた者でなければ、これが『魔石』であると判別すら出来ないし、そもそも『魔石』のある場所は魔物達が闊歩する場所である事がほとんどであるから、とにかく危険なのである。


つまり、仮にも首尾よく『魔石』の鉱山を発見出来たとしても、今度は労働力の問題が出てきてしまったのである。

それほど危険な場所で従事出来るとなると、『魔法技術』の扱いに慣れていて、なおかつ戦闘もこなせて知識も豊富な人材でなければならないからである。


当然ながらそれほどの人材を、ただの炭鉱夫として使うのはあまりにも効率が悪い。

そもそも、それほどの実力があるのならば、もっと良い職業がある事であるし。


もちろん、三国や“三国同盟”にとっても経済的にも戦略的にも重要な鉱物であるから、これらは国家プロジェクト的な立ち位置に該当する事柄なのであるが、逆にハードルが高過ぎる事もあり、間口が広がらない=供給量が増やさない、というジレンマに陥ってしまう訳であった。

(言うなれば、事業の寡占化である。

もっとも、参入条件が厳し過ぎるが故の寡占化だったのであるが。)


そこで目を付けたのが、それらの条件を全て満たす『新人類』達、エルフ族だった訳である。


以前にも述べた通り、アルフォンスはまた特殊だったが、エルフ族は“精霊(魔素)”を色とか感覚として認識している。

実際、アルフォンス達は、『魔石』の事を“光る石”と呼んでいる。


つまり、エルフ族なら、『魔石』の鉱脈を探し当てる事は比較的容易なのであった。


更には、自然と共に生きるエルフ族は、当然ながら戦闘能力も高く、森における知識も豊富である。

『魔石』を探り当てる、発掘する上で、これ以上の人材はいないだろう。


もっとも、こちらも以前にも述べた通り、エルフ族を含めた『新人類』達は、先の魔王軍との同盟関係、協力関係を理由に“追放”、すなわち人間族との国交が断裂した状態であったから、交易によってそれらを交換する事も出来なかったのだ。


しかし、ブルータスの新たなる政策、施策として、三国や“三国同盟”の更なる発展の為に、『新人類』達との国交が回復。

その狙いの一つが、『魔石』の獲得にあったのである。

(まぁ、悪しき者達は『新人類』達を属国化し、『魔石』の利益を独占し、私服を肥やす事を企んでいる様であるが。)


逆に言えば、『魔石』はエルフ族にとって人間族との交渉を有利に進める事の出来るカードでもある。

アルフォンスはその事にいち早く気付いていたのである。


「しかし、ここへ来た事で、状況は一変しましたよ。それもこれも、エルフ族との間を取り持ってくれた先生のお陰です。」

「いえいえ、こちらこそ。こちらとしても、外貨を獲得する手段がある事はありがたい事ですからね。国交が回復した以上、以前の様に引きこもってばかりもいられませんが、しかし急に人間族の皆さんと交渉をするのは少々不安もあった。言い方は悪いですが、ボク達は『魔石』の適正な取引価格を知りませんからね。仮に安く買い叩かれたとしても、それに気付かない可能性もある。それならば、元々商売をされていて、なおかつ交渉事にも慣れたノリスさんが窓口になって頂ければ、こちらとしても安心だったのですよ。」

「ハハハ、商売は綺麗事ばかりじゃありませんからな。向こうもこちらも“商売”である以上、なるべく良い条件を得ようとするのは仕方のない事。まぁ、私は、お世話になっているエルフ族の皆さんを裏切るつもりはありませんから、そこは信用して頂いて結構ですよ。商売の基本は“信用”、ですからな。」

「ハハハ、それは疑っていませんよ。」


とは言えど、そこで英雄たるアルフォンスが矢面に立つと、エルフ族としては交渉を有利に進められる可能性はあったが、少々都合の悪い事が起こりかねない。

本音を言えば、向こう側の油断を誘いたい、という思惑もあったのだ。


少なくともアベル達英雄四人組は、人間族の良い面も悪い面も理解している。

いや、より正確に言えば、これは『新人類』達もそうであるが、良い人もいれば、悪い人もいる、という、ある種当たり前の事をしっかりと把握していたのである。


人間族が『新人類』達に接触してきたのも、そこに何某かの思惑、額面通りに受け止めればただ単純に、“仲良くしよう”、という事なのであるが、悪しき者達の考えそうな事を予測した結果、不平等な契約や条件を提示する事によって、最終的には“採掘権”なり利権なりを掠め取るつもりだと判断したのである。


故に、そういう者達をあえて泳がせておいて、後の布石とする為にノリスを利用する事を画策したのであった。


もちろん、ノリスにとってもこれは悪い話ではない。

単純に十分過ぎる生計が立てられるし、エルフ族人間族双方にある種の恩を売れるからである。


先程ノリス自身も言っていたが、商売は綺麗事だけではない。

それ故に、ノリスもエルフ族がそうした思惑がある事は重々承知していたのであった。


その上で、セレスティアの件もあってエルフ族側(彼ら)に協力する腹積もりなのだろう。

まぁ、それはともかく。


「ねーねー、さっきから難しい話ばっかでつまんなーい。」

「そうですよ、アナタ、先生。お食事中くらい、お仕事の話は止めて下さいな。」

「「あっ・・・」」


しかし、どれだけ重要な話であろうとも、まだまだ子供であるセレスティアにはつまらない話であるし、少なくとも、子供の前でする話ではなかった。


フレデリカの指摘に、ノリスとアルフォンスはバツの悪い顔を浮かべて、また別の話題にシフトするのであったーーー。



◇◆◇



「どうなっておるんだっ!!」


一方その頃、ラテス族の国のとある大きな屋敷にて、老齢の男が苛立たしげに声を荒げていた。


「お、落ち着いて下さい、旦那様。」

「これが落ち着いていられるかっ!せっかく莫大な資金を出してきたと言うのに、その結果がこれだぞっ!?フー、フーッ・・・。」


なおも激昂する男に、使用人らしき初老の男は心配げな表情を浮かべていた。


以前にも言及したかもしれないが、現時点でのこの世界(アクエラ)の人間族の平均寿命は割と短い。

まぁ、バランスの取れた食生活だったり、生活習慣、医療が充実していない事もあるので、それも当然の事ではあるのだが。


つまり、この激昂している男や使用人らしき男は、向こうの世界(現代地球)、特に先進国ならばまだ若い部類に入るのであるが、今現在のこの世界(アクエラ)の常識的に言えば、かなりの高齢、晩年と言っても差し支えない年齢感な訳であった。


そんな年齢の人物が、興奮して良い事はあまりないだろう。

使用人が心配するのも無理からぬ事なのであった。

まぁ、それはともかく。


とは言えど、この老齢の男が興奮するのにも理由があった。

それは彼は、所謂“実業家”だったからである。


今現在のこの世界(アクエラ)、特にハレシオン大陸の北側、“大地の裂け目(フォッサマグナ)”周辺の国々(つまりはラテス族、連合、“パクス・マグヌス”の三国)では、まだ支配体制が明確ではない。


もちろん、昔から(まつりごと)に携わっている者がいて、その流れを受けた者達が、所謂“政治家”になっていたり、その者達が国の方向性を決めていたりする、などの体制は出来上がりつつあったが、所謂“貴族制度”が存在していないのである。


もっとも、その代わりではないが、国の指針を決める政治家が権力を握っていたり、三国の交易によって莫大な資産を築き上げた者、所謂“豪商”が現れた事により、その走りが見え始めた頃ではあるのだが。


で、彼、名をマドク・バートンと言う老齢の男も、商売が成功し、莫大な富を築き上げた“豪商”の一人だったのである。


しかし、当然と言うべきか、商売を当てたのならばそれで満足するか、と言われれば、答えはNOである。

むしろ、彼は更に野心を燃やしており、バートン家の更なる発展を望んでいたのである。


そこで目を付けたのが、先程から散々述べている『魔石』だったのである。


今や三国では、『魔道具(マジックアイテム)』は生活をする上で必需品であり、つまりは発売すればする分だけ売れる物だった訳である。


しかし、その為に必要不可欠である『魔石』の供給量は需要に全く追い付いていないのが現状である。

しかも、先程も述べた通り、新規に鉱脈を探す事は並大抵の事ではないのである。


そこでマドクは、例の元・“反カエサル派”、現・“ブルータス派”の男達、ブルータスの周辺にいるタヌキ親父達に接触、賄賂などを贈り、自分の都合の良い政策、施策を打ち出す様に働き掛けたのである。


すなわち、『新人類』達との交易の再開。

もっと言えば、『魔石』を見付ける事に長けた、エルフ族との交易を再開させる事であった。

(もっとも、バートン家の資金力があれば、独自にエルフ族を探し出す事も、また『魔石』の交易を交わす事も不可能ではなかったのだが、それはある意味公式には認められていない“密輸”となるので、それは断念している。

流石に国を敵に回す様なマネは出来ない、との判断からであろう。)


そして、時を同じくして、ブルータスによる『新人類』達との国交回復を推し進める政策が提案される。

もちろん、これはただの偶然だったのだが、構想が現実のものとなった以上、マドクとしてはどちらでも良かったのである。


こうして、単純に三国や“三国同盟”の益々の発展の為(あるいは、カエサルの後継者として相応しい実績を求めた為か)の経済圏の拡大を目指したブルータスと、それに伴うあれこれによって、自分達の利となる可能性を敏感に感じ取っていたタヌキ親父達、バートン家(言うなれば“会社”)の拡大を狙っていたマドクの思惑が一部一致して、国交回復、交易の再開が叶った訳であった。


しかし、喜んだのもつかの間、マドクの思惑は初っ端から挫かれる事となる。


マドクの思惑では、あの手この手を使い、エルフ族をこき使い、『魔石』を安く仕入れ、あわよくば“採掘権”そのものを奪い取る算段だったのである。

長らく他者との交流のなかった『新人類』達なら、交渉事や契約には疎いだろう、というある種の計算高さの表れだったのであるが、そうは問屋が卸さなかった。

残念ながら、彼はアベル達を甘く見積もり過ぎたのである。


アベル達は、使節団が接触してきた時点で、人間族側が何かしらを仕掛けてくる事を読んでいたのだ。

その上で、特にアルフォンスは先程も述べた通り、先手を取ってノリスに、エルフ族との『魔石』の取引を一任した訳である。


つまり、ノリスを窓口に立てたので、当然ながらエルフ族との『魔石』の取引には、一度ノリスを介さなければならないのである。

そうなれば、当然ながら『魔石』を安く買い叩く事は出来ないし、そもそも“採掘権”に関してはノリスはノータッチであるから、それもどうこうする事は不可能なのである。


いずれにしても、別の業者が入ってしまう事により、当初想定していた計画が全てご破算になったのである。

マドクが腹を立てるのも無理からぬ事であった。


しかし、これもある意味では当然の事であった。


“豪商”になった事で忘れていたかもしれないが、商売には競合他社がいるのが当たり前だからである。


そして、ノリスの場合はセレスティアの事もあった結果ではあるが、新たなる市場にライバルが出現したとしても、それは予測出来る範疇の事でもある。

(まぁ、本来ならば、マドクはタヌキ親父達に取り入った事によってそれらの市場を独占する事が出来る立場だったのだが、どんな事にも例外は付き物である。)


こうなってしまえば、シェアを奪い取る為には、マドクはノリスより相手にとって良い条件、つまりは、エルフ族にとって有利な条件(ノリスより『魔石』を高く買いますよ、などである。)を提示するしかない。


しかしそれでは、当然ながらバートン家の利益は小さなものとなってしまうのである。

(それでも、長年かければこれまで“投資”した資金は回収出来るかもしれないのであるが。)


だが、残念ながらマドクは、すでに“商売人”ではなく、ただの野心にまみれた老害であった。

そうした者が、ある種合法的な手段に出る筈もなく、


「・・・。とりあえず、情報を集めろ。」

「は・・・?」


荒い呼吸を整えると、マドクはそう呟いた。

それに、使用人の男が疑問符を浮かべると、


「“マーティン商会”の情報を集めろ、と言っとるんだっ!さっさとせんかっ!」

「は、はいっ!ただちにっ!!」


反応の悪い初老の使用人に苛立ちながら、再びマドクは声を荒げた。


それを受けて、バタバタと動き出した使用人を尻目に、マドクはひとりごちる。


「フー、フー・・・。このままでは済まさんぞっ・・・!」


顔色も相まって、その瞳には狂気の色が滲んでいたのであったーーー。



誤字・脱字がありましたら御指摘頂けると幸いです。


いつも御覧頂いてありがとうございます。

よろしければ、ブクマ登録、評価、感想、いいね等頂けると非常に嬉しく思います。

よろしくお願い致します。

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