表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『英雄の因子』所持者の『異世界生活日記』  作者: 笠井 裕二
新しい世界
357/383

いざない

続きです。



◇◆◇



「・・・って感じだったんだわ。それで奴ら、お前らの方にも行ったのかと思ってな。それで連絡したんだわ。」

〈いや、こちらにはそうした者達が現れてはいないよ。〉

〈こっちもだ。アルの方はどうだい?〉

〈エルフ族にも、そうした人達が現れた噂はないね。多分、アベルのところが一番最初だったんだよ。〉

〈鬼人族は脳筋だからなぁ〜。相手も与し易いと考えていたんじゃないか?〉

「おい、ヴェルッ!」

〈一般論だよ、一般論。〉

〈〈ははは・・・〉〉


フィリップ達との邂逅の後、部族内の仲間達への説明と報告の後、アベルはもう一つの()()()であるヴェルムンド、フリット、アルフォンスに“念話”で連絡を取っていたーーー。



再三述べている通り、今更情報の重要性など語るまでもない事だろう。

当然ながらアベル達も、その事は重々承知していた。


それ故に種族ごとに別れた後も、こうして四人組は定期的に連絡を取り合っていたのであった。

辺境とも呼べる鬼人族の集落にいたアベルが、噂程度でも“三国同盟”について知っていたのはこの為であった。


もちろん、公式的な事は書簡(手紙)なり互いに使者を送るなりしていたのであるが、カエサル達と共に英雄と呼ばれ、()()を果たしているアベル達は、遠くの地にいる者達とも連絡を取れる、“念話”という、所謂“テレパシー”の様な能力を獲得していた。

(ちなみに、相手がこの能力を獲得していない場合は、一方通行の送信となる。

言うなれば、“テレビ”や“ラジオ”の様なものである。

ただ、お互いこの能力を獲得している場合、“電話”の様なやり取りが可能である。

で、当然ながらアベル達四人組は、全員この能力を獲得している。)


通信機器の存在しないこの世界(アクエラ)において、リアルタイムで情報をやり取り出来るこの能力が非常に有用である事は言うまでもない事であろう。

今も、フィリップ達の訪問から時を置かずして、その情報がアベル達の間で共有されていた訳であるーーー。



〈・・・しかし、冗談はともかくとして、おそらく向こう側もそのつもりで鬼人族を最初に狙ったんじゃないかな?だって、鬼人族の集落は人間族側から見たら一番()()()()()()にある。大森林地帯は危険な場所だし、効率性や安全性を考慮すれば、当然近い場所から攻めるのが定石だからね。〉

〈けど、もしかしたら、彼らが我々の居場所を知らなかった可能性もあるんじゃない?〉

〈だとしたら、逆に何故鬼人族の集落は知っていたのか?、って事になる。たまたま発見した、って事なら、なおさら不自然な話さ。つまり、最初からある程度、我々『新人類』の居場所は特定していた可能性が高い。軍か何かを使ってね。その上で、最初に接触したのが鬼人族だ。となれば、そこに何某かの狙いがあったとしても不思議な話じゃない。〉

〈もちろん、本来なら()()がこちらに知られる筈もないんだよね。人間族としても、僕達に繋がりがある事は把握しているだろうけど、まさか瞬時に情報のやり取りをする事までは想像していないだろうし。〉

「・・・ふむ。」


先程とはうってかわって真剣な声色に、今度はアベルも真剣な表情で耳を傾けていた。


〈まぁ、その狙いが具体的に何かは分からないけど、アベルも感じた通り、あまりよろしくない事である可能性は非常に高い。聞けばカエサル達も今はいないって話だし、ね。〉

〈・・・もしかして、僕らを属国化する事が狙い、とか?〉

〈まさか・・・〉

〈いや、可能性はある。今の段階では断定出来ないけど、やはり先の魔王軍との争いにて、『新人類』が魔王軍に与した、という事実がネックとなるかもね。これについてはもう話がついているけど、そうした古びた話を持ち出して、因縁をつける事はあり得ない話じゃない。そうした意味では、アベルが判断した様に、ある程度繋がりを持って向こうの出方を窺うのは正しい判断だろうね。〉

「・・・で、具体的にどうする?」


現時点では、全ての事は憶測に過ぎない。

それでも、最悪の可能性を常に考えて行動すべき立場であるアベル達は、より具体的な方策を話し合い始める。


〈とりあえず、今は全てが想像の域を出ない。それ故に、仮に私達のところにも彼らがやって来たら、鬼人族と同じく正式な国交を結ぶ、交易を始める、以上の事は保留とすべきだろう。そして各自で情報収集をしながら、相手の出方を窺うのがベターだと思うよ。〉

〈それならば、これまで以上に連絡は密に行う必要があるかもね。〉

〈ああ。何もなくとも、最低一日一回は、お互いに定時連絡をする事にしよう。〉

〈OK。〉

〈了解。〉

「分かったぜ。」


とりあえず、“念話”による情報交換をする事で一旦話は落ち着いた。


〈はてさて、今度はどんな事件が起こる事やら・・・〉

「〈〈・・・〉〉」


追放されてからは、大変な事もあったがある意味平和な期間でもあった。


それが、再び人間族が関わる事で、どの様な変化が訪れるのか?

それはまだ、誰にも分からなかったーーー。



◇◆◇



ジジジッ・・・。


ー・・・?ー



惑星アクエラには、二つの衛星が存在している。


一つは、衛星レスケンザ。

もう一つは、衛星ルトナークである。


これによって、惑星アクエラには二つの“月”が存在する訳であるが、ここで重要なのはそこではない。


実はこの二つの衛星には、セルース人類が築いた拠点が存在したのである。


しかし、これも考えてみれば不思議な話ではない。

セルース人類が遥か他の銀河、他の惑星からやって来た事はこれまで語った通りであるが、ようやく見付けた惑星アクエラに、“魔素”という未知の物質(?)が存在した事により彼らの入植を困難なものとしたからである。


その対策の為には、“コールドスリープ”状態であったセルース人類を起こす必要があったのであるが、残念ながら旗艦である『エストレヤの船』や移民船団には、必要最低限の生活環境しかなく(あくまで宇宙船は移動用の代物でもあり、気の遠くなる様な長い期間を移動する為に“コールドスリープ”が必要不可欠である。つまり、セルース人類が()()()状態で稼働する事を想定しておらず、むしろ余計な機能を省く事でコストの削減を行っていたのであった。)、彼らが生活する為の住環境などを用意する必要があった。


当然ながら、“魔素”の存在もあり、惑星アクエラで暮らす訳には行かず、先程述べた通り宇宙船内には必要最低限の生活環境しかないので、ある程度の人数を目覚めさせたとしても受け皿がない。

そうした訳もあり、惑星アクエラへの進出の足掛かりとする為に、惑星アクエラの衛星だったレスケンザとルトナークに各々拠点を築き上げていたのであった。


セルース人類は、すでに宇宙環境で生活する技術を確立していたので、これも難しい話ではなかったのである。

むしろ、衛星とは言えど、豊富に資源の存在したレスケンザとルトナークは、一時的な前哨基地としては十分過ぎるほどであった。


こうしてレスケンザやルトナークを拠点とし、“魔素”の研究や解析をし、後に惑星アクエラ自体に拠点を移して行った訳であるが、これらの拠点が失われた訳ではない。


本来であれば、これらの拠点の痕跡は消す必要があったかもしれないが、最終的にセルース人類は一時的に惑星アクエラへの入植を断念しているし、現時点ではアクエラ人類が宇宙に進出するほどの技術力はなかった。

それ故に、ある種の保険としてこれらの施設はそのままにされており、後にソラテスの暴走などを受け、ある種の隔離施設として再び使用される様になったのであった。


で、その衛星ルトナークの施設には、『新人類』を生み出した罪として、(彼女自身が望んだ事でもあったが)アスタルテ・キャンベルが幽閉されていたのであった。



先程は“幽閉”と言ったが、正確には“封印”に近い。

何故ならば、彼女の存在については非常に取り扱いが難しいからである。


ここで、アスタルテについて、少し深掘りをしておこう。


実は彼女、かなり特殊な立ち位置にいるのだ。


以前にも言及したかもしれないが、彼女自身は“能力者”ではない。

それ故に、当然ながら『限界突破』を果たす事は不可能である。


逆に元々はソラテスら科学者サイドに所属していた訳だが、『新人類』達の取り扱いについての罪の意識か、はたまた愛情かは定かではないが、途中で彼らとは袂を分かつ事となり、“能力者”サイドに鞍替えした訳であるが、つまり科学者サイドの者達が“能力者”達に対抗する為に人工的に()()する事、すなわち“超越者”になる事もなかったのである。


にも関わらず、彼女はセレウスやハイドラス、あるいはソラテスと同じく、所謂“高次の存在”となっていたのである。


この答えは意外と単純である。

彼女が“()”だからである。


もちろん、彼女は元々はただの人間(セルース人類)だ。

しかし、ここで彼女が成し遂げてしまった事を思い出して頂きたい。

彼女は、『()()()()()()()()のである。


生命を創造する御業は、本来、“神”の領域である。

とすれば、少なくとも『新人類』達からしたら、彼女は間違いなく“神”に等しい存在な訳である。


こうして事によって、意図せず“信仰のエネルギー”を受け取る事となった彼女は、“能力者”達や“超越者”達ともまた別の方法で(いや、本来はこちらの方がある意味自然なシナリオなのだが)、“高次の存在”へと()()してしまっていたのであった。


こうなってしまっては、彼女をただ処刑しても意味はなく、いや、むしろ肉体を失う事で本物の“神”となってしまう可能性もあり、かと言って放置する事も出来ない。

故に、ソラテスと同様に、隔離と“封印”をする事によってそれらのエネルギーを四散させる必要があったのである。


こうした事情や彼女自身が望んだ事もあり、衛星ルトナークのセルース人類の施設にて、彼女は他のセルース人類とも当然アクエラ人類とも引き離される形で、セルース人類ともまた別の理由で“封印”、“コールドスリープ”される事となった訳であった。


で、しかし、そんな静かに眠りについていた彼女に()()する影があったのである。

いや、より正確に言えば、ただの画像が送られただけなのだが、その事により、事態は更に混迷の度合いを深めていく事となるのであるがーーー。



・・・



ジジジッ・・・。


ー・・・?ー


長い、静かな眠りについていたアスタルテの目の前に、その日突然一つの映像が送られてくる。


その事がキッカケとなり、意識を覚醒したアスタルテ。


ー・・・これは・・・?ー


当然ながら、答える者は誰もいない。

ここは彼女一人しか存在しない隔離施設だし、その管理・運用に関しても、人工知能(AI)が全て一括で管理している為、時々誰かが訪ねてくる、などというイベントも発生しないのだから。

(逆に人工知能(AI)であるマギやネモならばこうした事が可能でもあるが、彼らとしてはすでに()()を終えたセルース人類に必要以上に関わる事はない。

むしろアクエラ人類になるべく干渉しない様に、積極的にセルース人類の“コールドスリープ”を推し進める筈である。

その点においては、セルース人類とマギ達の思惑は一致していたのである。)


誰も答える者はいなかったが、彼女はその映像に釘付けとなった。

そこには、彼女の()()とも呼べる『新人類』達が、生き生きと暮らしている姿が映し出されていたからである。


ーおおっ・・・!ー


感嘆の声を上げた彼女は、まるで我が子を慈しむ様な表情でその映像に魅入っていた。


ついぞ、子を成す事がなかった彼女だが、女性としての母性は存在していた。

その行き場を失っていた母性が、自らが生み出した『新人類』達に向けられた訳であるが、その事がキッカケとなり、マギの()()を自力で解いている。


まぁ、逆に科学者としての倫理観や罪の意識からか、決着がついた後は自ら罰を受ける事を望んだ訳であるが、それでも『新人類(我が子ら)』の行く末は当然気に掛かっていた訳である。

(もっとも、セレウスやハイドラスに任せておけば悪い様にはしないだろう、というある種の信頼はあったのであるが。)


それが、こうした“映像”という形で見れたのである。

その喜びもひとしおであった事だろう。


ー皆、立派になって・・・。あっ・・・ー


プツンッ。


感慨深げに呟いていると、突然その映像が途切れ、再び静寂が訪れた。


わずかばかり残念な気持ちはあったものの、そもそも再び会う事は叶わない、成長を見守る事も出来ないと思っていただけに、『新人類(我が子ら)』の()()()がわずかな時間でも見られた事は、彼女の心をほんの少し暖かくしてくれた。


ー・・・お節介な人達の贈り物、でしょうか・・・?ー


彼女の言葉に答える者はやはりいなかったが、それも一瞬の事であった。

睡魔の様なものが押し寄せてきて、彼女は再び眠りについたからである。


・・・だが、今の映像の影響もあり、良い夢が見られる、そんな気が彼女はしていたのであったーーー。



・・・



その後、不思議な事に『新人類』達の映像が毎日決まった時間に映し出される様になっていた。


最初は戸惑っていたアスタルテだったが、徐々に疑問も抱く事もなくなり、純粋にこの映像を楽しむ事としたのである。


現状の彼女には娯楽と呼べるものは皆無であり、この映像が唯一の楽しみとなり、なおかつ、その時間だけ覚醒を果たす、というルーティンが出来上がりつつあったのであった。


ーフフフ、どこにでも跳ねっ返りはいるのですね・・・ー


今日の映像は、例の四人組が大人とのルールを破って森に探検に出かけた時のものだった。

多少、心配や困惑はあったものの、それでも何とか解決していく様子は、子供達の成長と頼もしさを感じられる良いイベントであった。


プツンッ。


ーあっ・・・ー


良いところでいつもの様に映像が途切れ、アスタルテは思わず小さく声を漏らしていた。


が、すぐに睡魔が襲ってきて、彼女が何か思考する事が出来なくなる。

・・・いや、そのわずかな時間に、明日はどんな映像が見れるのか、という淡い期待を持つに至っていたのであるがーーー。



・・・



ー・・・戦争、ですか・・・。いえ、それも仕方のない事だとは分かりますが・・・ー


その日の映像は、ラテス族と連合との間に発生した戦争の様子であった。


当然ながらセルース人類も、争いの歴史を多く持っている。

彼女自身はまだこの世に生を受ける以前の事ではあったが、直近で言えば『資源戦争』をしているし、彼女自身が関わっていたという意味では、科学者サイドと“能力者”サイドとの紛争も戦争の一つに数えられる事だろう。


それ故に、アクエラ人類同士が争う事を否定するつもりはないが、しかし、やはり気掛かりだったのは『新人類(我が子ら)』の事である。


まぁ、これについては幸いな事に、セシリアやノインの尽力により、『新人類』達はこの紛争には巻き込まれる事はなかった。

・・・少なくとも、()()()()では、であるが。


当然ながら、戦火が広がってしまった以上、多少の犠牲は『新人類』達にも出ている。

だが、この映像では、()()()()その事実を隠蔽しているかの様であった。

(もっとも、その程度の事は少し考えれば分かる事なのであるが、この時には『新人類(我が子ら)』の事となるとアスタルテは盲目的になる兆候が見られたのである。)


アスタルテはあからさまにホッとしていた。


プツンッ。


そして、そこで映像が途切れる。


ーはやく戦争など終わってくれたら…良いのです…が・・・ー


それと同時に、いつもの様に意識も途切れるのであったーーー。



・・・



ー・・・戦争が終わったのは良いのですが・・・ー


次の映像は、魔王軍の台頭の映像であった。

確かに、これによってラテス族と連合との争いはうやむやになった訳であるが、今度は魔物達と覇権を争って戦う日々の始まりでもあった。


もっとも、彼女にとっては一番の気掛かりは『新人類(我が子ら)』の事であるから、彼らさえ平和に生きていてくれたらそれで良かったのだが、当然ながら彼らも、魔王軍との争いに巻き込まれている。


もちろん、これまで述べた通り、『新人類』達は己の生存戦略として、魔王軍と友好関係を結ぶ事によって、ある種の中立を確立していた訳であるが、アスタルテの目から見れば、『新人類(我が子ら)』が魔物達の言いなりになっている様にも見える訳である。


ピシッピシッ!!!


この頃になると、彼女の感情と連動する様に、彼女に大きなパワーが集まりつつあった。


と、言うのも、先程も述べた通り、彼女の立ち位置的には『新人類』達の創造主であるから、彼らがピンチに陥れば陥るほど、ある種の祈り、救いを求める心が、“信仰のエネルギー”となって彼女に流れ込んできてしまうからである。


これによって、せっかく長い期間を経て四散させていたエネルギーが再び戻り、いや、それどころか以前に比べても彼女自身、パワーアップを果たしつつあったのである。


とは言えど、流石にその程度では施設は壊れる事もなかったし、そもそも『新人類(我が子ら)』が具体的な被害を被っていた訳ではない事が幸いし、彼女の理性がまだ働いた事もあって、何か異変が起こる事もなかったのである。


ーとにかく、生き残ってくれたら…。平和に生きて…くれたら…ー


多くの子を持つ母親が抱く様な、高望みはしないまでも、平和に平穏に、子供達が過ごしてくれる事だけを祈りつつ、再び彼女の意識は途切れていくのだったーーー。











・・・だが、実際にはそれがすでに高望みだったのである。

“平和で平穏”な世の中など、特にこの世界(アクエラ)では、あり得ない理想(幻想)だったのだからーーー。



誤字・脱字がありましたら御指摘頂けると幸いです。


いつも御覧頂いてありがとうございます。

よろしければ、ブクマ登録、評価、感想、いいね等頂けると今後の励みになります。

よろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ