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『英雄の因子』所持者の『異世界生活日記』  作者: 笠井 裕二
新しい世界
356/383

探り合い

続きです。



◇◆◇



カエサル達が、所謂“不老”になったのであれば、同じ様な条件で()()を果たしたアベル達も、当然同じく“不老”になっていたとしても不思議な話ではない。


しかし実際には、確かに他の者達に比べれば若々しさを保っていたものの、それでも彼らは確実に歳を取っていた。


これは何故かと言うと、カエサル達とアベル達では、そもそもの出自が異なるからであった。


そもそもの話として、()()はあくまで『限界突破』の下位互換でしかない。


以前にも言及した通り、『限界突破』が種としての、あるいは生命体としての限界を突破する事であるのに対して、()()はその“スタートライン”に到達する事に過ぎない。


『霊魂』の力、魂の力、『霊能力』などの超常的な力に目覚め、それを操る(すべ)に目覚める事が()()なのであって、それイコール『限界突破』ではないのである。

(そうした能力に目覚める事が『限界突破』だとしたら、セレウス達“能力者”達は、この惑星(アクエラ)に至る以前に『限界突破』を果たしていないとおかしな話になってしまう。)


それらに習熟し、理解を深めた上で“試練”を受け、それに打ち克たない事には『限界突破』にはならないのである。


では何故、『限界突破』も果たしていないのに、カエサル達が“不老”などという能力に目覚めたのか?

これは、あくまで偶発的な事に過ぎないのであるが、逆に何故アベル達は“不老”に目覚めなかったのかなら明確な理由が存在する。


それは、彼らが『()()()』だったからである。


以前にも言及したかもしれないが、彼ら『新人類』を生み出したのはセルース人類であり、遺伝子工学の専門家であったアスタルテが中心となって動いた計画(プロジェクト)の結果である。


それは、“魔素”に強い耐性を持つ存在を生み出し、セルース人類としての肉体を捨て、彼らに憑依する為であった。


セルース人類は、この惑星(アクエラ)の出自でなかった事もあり、“魔素”に対する耐性を持っていなかったのである。


まぁこれも、紆余曲折を経てセレウスらに阻止された訳であるが、当然ながら一度生み出された存在を()()する事など出来よう筈もない。

そもそも彼らは、出自は特殊とは言っても、立派な生命体の一種なのだから。


と、まぁ、そうした話はともかくとして、彼ら『新人類』は、ある意味すでに()()を施されていた訳である。

アクエラ人類の遺伝子をベースに、魔獣やモンスターの遺伝子を加えた、ハイブリッドな存在だった。


その過程で様々な形質を持つに至った訳であるが、言うなればすでに特殊な能力を持っていた訳である。

こうした事が影響したのか、アベル達は“不老”の能力には目覚めなかった訳であった。

(もちろん、先程も述べた通り、正式な『限界突破』だった場合はその限りではないかもしれないが、あくまで()()である以上、獲得出来る能力にも限界が存在したのだろう。)


そうした事もあり、幸か不幸か、彼らはカエサル達とは違い、“不老”という能力による弊害を受ける事はなかったのであったーーー。



・・・



「いいぞっ!中々良いスジをしてるなっ!」

「へ、へへっ・・・!」



以前は魔王軍が支配していた大森林地帯(後の世には“大地の裂け目(フォッサマグナ)”と呼ばれる、ハレシオン大陸(この大陸)最大の大森林地帯)のいち地方の集落にて、そんな豪快な声が鳴り響いていた。

ここは鬼人族が住む集落である。


魔王軍との戦争の後、戦略的に魔王軍に与していた『新人類』達は、この大森林地帯に追放されていた。

と、言っても、アベル達が魔王軍との戦争にて多大なる功績を挙げた事や、『新人類』達の事情も考慮した、比較的軽めの措置だったのであるが。


下手をすれば『新人類』達は、人間族に敵対した種として滅ぼされていた可能性もあったので、これが温情ある対応であった事は皆理解していた。


また、そもそも『新人類』の特性として、自然と共に生きる事を好む傾向にあった事もあり、特に不満も出る事はなくその措置は受け入れられた。

まぁ、人間族の思惑としては、『新人類』達、と言うかアベル達に恩を売っておきつつ、彼らを大森林地帯に配置しておく事で、魔獣やモンスターとの緩衝材とする、という狙いもあったのであるが。


そんな事もあり、実質的には無罪放免で大森林地帯に送られた『新人類』達であったが、その後、種族ごとに分裂する事となる。


一口に『新人類』と言っても、大まかに鬼人族、ドワーフ族、エルフ族、獣人族に分類され、当然ながら彼らも、各々で考え方や生活(ライフ)スタイルが異なる。


元々はセシリアのもとで一緒くたに育てられた『新人類』達だったが、長い時を経て成長しており、種族としての特性を色濃くしていったのである。


当然ながら、生活(ライフ)スタイルや生活リズムなどが異なる以上、無理に一緒に居る事はない。

こうした事もあり、追放された事を契機に種族ごとに分裂し、それぞれ独自に集落を形成し、独自の文化を築きながら生活をする様になっていったのであった。


で、鬼人族であったアベルも、仲間だった他の三人とは別れ、英雄として鬼人族を率いる立場となっていった訳である。

そして若い鬼人族を鍛えながら、生活していたのであったがーーー。



「アベル様、“三国同盟”を名乗る使節団がお見えになっておりますが・・・」

「へっ・・・?」


以前にも言及したかもしれないが、鬼人族は強さを重視する傾向にあった。

所謂“族長”には、種族内で一番強い者がなるのが習わしなのであるが、これはこの時代に確立された風習だったのである。


こうして英雄から族長にシフトチェンジしていたアベルのもとに、ある日“三国同盟”の使節団が訪れていたのであった。

(ちなみに“三国同盟”というのは、ラテス族、連合、“パクス・マグヌス”が政治的、軍事的、経済的に連携して作られた新たなる組織、というか枠組みである。

向こうの世界(現代地球)でいう、“EU”がそれに近いかもしれない。)


アベルも一応は族長として、ある程度の政治的な話などには通じていたが、長らく交流のなかった人間族が訪ねていた事に、戸惑いと警戒感をあらわにしていた。


とは言えど、流石に無視は出来ない。


「おーし、今日の訓練はひとまず終了だっ!身体をよくほぐしておけよっ!」

「「「「「はいっ!!!」」」」」

「・・・んじゃ、とりあえず会ってみるかね。」

「ハッ、こちらでございます。」


若い鬼人族の訓練を切り上げて、アベルはその使節団に会う事にしたのであったーーー。



・・・



「お待たせした。俺が鬼人族の族長のアベル・アスラだ。」


部下の計らいで、族長の家、と言うかアベルの家に通されていた“三国同盟”の使者達に、アベルは開口一番そう言った。


それに、苛立たしげにしていた使者の男の一人は、不機嫌さを隠そうともせずに応える。


「ふん、鬼人族では客人を持たせるのが常識なのか?」

「ご挨拶だな、使者殿。突然やって来たのはあんたらの方だぜ?()()()()()()()()、事前に連絡をしておくのが普通だろ?」

「っ・・・!!!」


およそ使者とは思えない男の発言に、アベルは手痛いしっぺ返しをした。


“三国同盟”だか何だか知らないが、ある程度の立場を持つ者達がどこかに訪問するのならば、当然ながら事前にアポイントメントを取っておくのが普通である。

だと言うのに、いきやりやって来て横柄なこの物言い。

この男がアベル達を下に見ているのは明らかである。


そもそもの話として、何らかの交渉なり使命を担っているその組織の代表者がこれでは、“三国同盟”とやらの底も知れるというものである。


「口を慎みんか、ダルトンッ!」

「っ!も、申し訳ありませんっ!!」


しかし、そこに別の使者の男が、失礼な発言をした男を叱責した。


「失礼しましたアベル殿。おっしゃる通り、事前に連絡を入れなかったのはこちらの落ち度。ならびに暴言を吐いたこの者の発言についても重ねて謝罪致します。」

「・・・いや、こちらこそ失礼した。それで、貴方は?」


次いで男はアベルに謝罪をしたが、アベルの頭の中では“三国同盟”の評価はあまりよろしくないものとなっていた。

が、そんな事はおくびにも出さずに謝罪を受け入れ、アベルはそう水を向けたのだった。


「申し遅れました。私はこの使節団の代表を賜っております、フィリップ・バートンと申します。以後、お見知りおきを、英雄殿。」



若干気まずい雰囲気を仕切り直すべく、各々の挨拶の後、テーブルにお茶が置かれた。


「それで?この様な辺境の地までご足労頂いて何用なんです?」


口火を切ったのはアベルの方だった。


「その前に一つ。アベル殿は、“三国同盟”というものをご存知でしょうか?」

「“噂”程度はね。もちろん、さっきも言ったがここはド田舎だ。だから、流石に詳しい事までは知らないが、ラテス族と連合、“パクス・マグヌス”の三勢力が手を組んだらしい、って事くらいなら知ってるぜ。」


追放されてそれなりに年月が経つが、アベルも元々は魔王軍打倒の為にカエサル達と行動を共にしていたので、人間族の事にはそれなりに明るかったのである。


それに、曲がりなりにも一部族を率いる者としては、ある程度の情報には精通している。

ここら辺は、カエサルやルドベキアの影響かもしれないが。


「そういえば、アベル殿は元々こちらでも活動をされていましたか。それならば、人間族の事情に詳しいのも頷けます。」


小さくフィリップはそうひとりごちた。


「それならば話は早い。まさにおっしゃる通り。我々“三国同盟”は、その三勢力が手を結び、政治的、経済的、軍事的に結び付いた新たなる組織なのです。もちろん、各々の国ではそれぞれ自治権を持っていますし、政府機関が存在します。ですから、我々は三国の上位に存在すら機関ではありません。どちらかと言えば、三国の仲介や交渉などを代行する、“便利屋”、みたいなものとお考え下さい。」

「ふむ・・・」


脳筋と思われがちであるが、アベルは頭もそれなりに回る。


流石に正確に“三国同盟”がどの様な組織であるかまではおぼろげながらにしか理解出来ていなかったが、少なくとも“三国同盟”が三勢力の小間使いの様な立ち位置にいるらしい事までは把握していた。

今のところは、であるが。


アベルは、目線でフィリップに先を促した。


「では、そんな我々が、何故この様な場所までやって来たのか?、ですね?それは、鬼人族の皆さんと交渉をする為です。」

「・・・交渉?」

「ええ。先程も述べた通り、今現在、ラテス族、連合、“パクス・マグヌス”の三国は、政治的、経済的、軍事的に連携しております。これには、三国の争いを未然に防ぐ、という狙いもある。国交を持たずに三勢力がそれぞれバラバラに発展していったら、その内各々の領土なりを狙った軍事侵攻が起こる可能性もあった。それならば、最初から協力関係を結んでおけば、そうした軍事衝突が防げるのではないか?、という考え方から、“三国同盟”の構想に至ったのです。これは、アベル殿と同じ英雄たるカエサル様、ルドベキア様、アルメリア様の発案で始まりました。」

「ほぅ、アイツらが、ね。」

「ええ。残念ながら、御三方は、とある理由によって我々のもとを離れましたが、我々は御三方の志を受け継ぎ、それを更に発展させたい、と考えているのです。その為に、この“三国同盟”に、『新人類』の皆様にも参加して頂きたい、と考えています。」

「なるほど。じゃあ、その勧誘の為に今回やって来た、って事か。」


フィリップの説明に、アベルは納得した様に頷いた。

が、フィリップはそれを一部否定する。


「いえ、もちろん最終的にはそうなれば良いとは思いますが、流石にいきなり訳の分からない組織に参加しろ、なんて言われても難しいでしょう。ですから今回はその前段階。とりあえず国際交流を持つ事と、経済的な繋がりを持つ事を目指しているのです。」

「・・・だから()()、か。」

「ええ。」


一旦言葉を区切ったフィリップ。

アベルはその瞬間に、頭の中でメリットとデメリットを素早く計算していた。


現状、鬼人族が生活的に困っている事はない。

鬼人族の力であれば、魔獣もモンスターもそこまでの脅威ではないし、セシリアのもとに居た時に学んだ様々な知識によって、衣食住も満たされている。


もちろん、もっとより良い暮らし、というものもあるかもしれないが、質を求めればキリがない訳であり、そこに対する欲が鬼人族は薄い傾向にあった。

(己を鍛える事。強者と戦う事。酒。これさえあれば、生活の質を向上させる事を特に求めてはいなかったのである。)


それ故に、鬼人族側としては、“三国同盟”に参加する事、経済的な連携を持つ事のメリットはあまりないかの様に見えるのだが、ここでアベルはこの話の裏を考える。


先程の使者の男の一人の態度。

そして、鬼人族が置かれている現在の状況。

そこから鑑みれば、この話を断る事で、最悪鬼人族が攻撃される可能性もあるのである。


そんなバカな、と思われるかもしれないが、得てしてこういう事は起こり得る。

“仲間”にならないのなら“敵”だ。

そう考える者達は、どこの世界でも一定数いるからである。


そして、追放した筈の鬼人族、『新人類』達に今更接触してきたという事は、もしかしたらこれを理由にして、彼らを攻撃する為の口実にするつもりなのかもしれないのである。


もちろん、鬼人族の強さは折り紙付きである。

個々の戦闘力では人間族を大きく上回っている事であろう。


しかし、再三述べている通り、戦争は数がものをいうのもまた事実である。

“三国同盟”、あるいはそのバックにいるラテス族、連合、“パクス・マグヌス”がどれだけの兵力を持っているかは定かではないが、少なくとも鬼人族の総人口を上回る数がいる事は明らかである。


つまり、いくら英雄たるアベルがいたとしても、現時点で彼らと争う事にでもなれば、まず間違いなく鬼人族は敗北する事となるのである。


それ故に、鬼人族を預かる身であるアベルとしては、ここですげなく断る、という選択肢を選ぶ事が出来なかったのである。


とは言えど、流石に諸手をあげて参加するには、現状ではあまりに情報が少ない。

場合によっては、参加を表明した時点で所謂“隷属化”される可能性もある。


これらの事を総合的に考えると、フィリップの提案通り、国際交流を持ちながら、交易などを通じて彼らの真意を推し量るのかもっともベターな選択となる。


(・・・中々食えない奴だな。このフィリップという男・・・)


アベルはそう思った。


自分がそう考えると分かった上で、先手を打ってそういう提案をした、と理解したからである。


少なくとも、先程の暴言を吐いた男が代表だったならば、いくらでもやり込める事が出来たのであるが、冷静で慎重な相手というのは厄介極まりない。


が、当然ながらアベルは、そんな事はおくびにも出さずに口を開いた。


「・・・いいだろう。“三国同盟”に参加するかどうかはとりあえず保留とされて貰うが、国際交流についてはこちらとしても拒否する事ではない。」

「おおっ!それでは・・・」

「ああ。鬼人族はあなた方と国交を結ぶ事を受け入れるとここに宣言する。」


アベルはフィリップ率いる使節団にそう明言した。


もちろん、本来であればこうした重大な事柄は、いくら族長であるアベルとは言えど独断で決定してしまう事ではない。

故に、ここは一旦持ち帰って仲間内で協議する、という流れに持って行ったとしても何ら不思議な事ではなかった。


だが、アベルはあえてこの場である種愚策とも言える独断専行で事を推し進めたのである。


これには、むしろフィリップ側が戸惑うレベルであった。


「・・・我々が口を挟む事ではありませんが、本当によろしいので?お仲間の皆様と話し合ってからでも遅くはないと思いますが。」

「配慮はありがたいが、別にこの程度では特に問題ではないよ。ところで、早速交易について話し合いたいのだが・・・」


いつの間にか話の主導権(イニシアチブ)を握るかの様に、アベルがそんな事を提案する。

これには、フィリップ達の方が焦りの色を滲ませた。


「い、いえ、それには及びません。と、言うのも、今回はご挨拶がメインでしたので、ここまでトントン拍子に話が進むとはこちらも思っていなかったのですよ。ですから、正直に言えば、こちらには現状では提案出来るタネがない、と申しますか・・・」

「・・・ふむ。まぁ、確かにそこまで急ぐ事でもないな。では、それについてはまた後日、という事になるかな?」

「ええ。再度ご提案出来る事を取りまとめて、再びお話をさせて頂ければ、と思います。」

「了承した。鬼人族の門戸はいつでも開いているが、今度は事前に連絡して頂けるとありがたいな。」

「っ!!!」


アベルの何気ない意趣返しに、アベルに失礼な態度をしたダルトンと呼ばれた男は顔を真っ赤にした。


「ダルトンッ!」


次いで何かを言い放つ前に、機先を制してフィリップがダルトンの名を呼ぶ。

それに渋々ダルトンは席に座り直した。


「・・・そうさせて頂きます。これからは鬼人族の皆様は、我々の大事な取引相手となりますからね。」

「結構。」


フィリップとアベルはにこやかにそう締めくくった。


しかし当然ながらその腹の中は、互いに様々な思惑が内在していたのであるーーー。



・・・



「よろしかったので、アベル様?国際交流の件、皆の意見を聞かずに推し進めてしまいましたが・・・」


使節団を見送った後、アベルを呼びに来た鬼人族の男、今現在のアベルの右腕とも呼べる男がそう尋ねた。


「かまわんさ。奴らにも言ったが、あくまで今回俺が決定したのは国交を持つ事だけだ。流石に“三国同盟”とやらに参加するのを勝手に決めたとしたら問題となるが、この程度ならば俺の裁量でどうとでもなる。例えば商人なりが、ここで商売をしても良いか?、とお伺いを立てて来たのを、仲間達で決めるから、と追い返す様なものさ。もちろん規模は段違いだろうが、それくらいは俺の権限で決められるし、逆に仲間達に聞いて回ったとしたら、そんな事、そっちで決めてくれ、って話になる。」

「・・・しかし、おっしゃる通り、規模が段違いですが・・・」


男は、アベルの言葉に半分納得していたが、やはり相手方の規模の事が気になっている様子であった。


「ああ、それも分かっている。が、どうもキナ臭くてな・・・。今になって人間族がやって来た事。使者の一人の態度。そのくせ、こちらに擦り寄る様なあまりに不気味な対応。もしかしたら、奴ら、何か裏があるんじゃないのかな、とな。」

「・・・考え過ぎでは?」

「かもな。でも、それを判断するにはとにかく情報に不足している。それ故に、あえて奴らの懐に飛び込む事にした、って訳さ。戦闘でもそうだが、いざって時は思い切りも必要なんだぜ?」

「・・・そういうものですか。」

「そうだ。そういや、お前はあまり人間族に詳しくなかったか。奴らの戦闘力は大した事はないが、とにかく頭が回る。それ故に、こちらもある程度頭を使えないと、この先厳しい立場に追い込まれるかもしれないぜ?覚えておけ。」

「ハッ!」


基本脳筋である鬼人族には、政治的なあれこれは不得意な分野であるが、部族を率いる立場にある者である以上、頭も使えないとならない。

アベルはこの男にそう諭し、次いで呟いた。


「んじゃ、ひとまず()()()への説明と相談も考えにゃならんな・・・」


面倒くさそうにボリボリと頭をかいたアベルは、しかしその態度とは裏腹にその目は爛々と輝いていたーーー。



・・・



「・・・やはり一筋縄では行きませんか。」

「フィリップ様?」


鬼人族の集落を離れた後、フィリップはそうひとりごちた。


彼らの狙いはおおむねアベルが看破した通りだ。


もちろん、アベル達に語った通り、“三国同盟”としての政治的、経済的、軍事的な勢力圏を拡大する、というのも嘘ではないのであるが、それもあくまで“三国同盟”やラテス族などの国に有利な条件で、である。


つまり『新人類』達には、最終的には属国化してくれた方がありがたい訳である。


それ故に、あえて部下の男の暴言をスルーして様子を見ていた訳であるが(いや、むしろこんな男を使節団のメンバーに据えているのも、この男の浅慮さが使()()()からこそである)、こちらの挑発には乗らず、むしろしっぺ返しをしてくるほどだ。


その後も、こちらの話を精査した上で、自分達の不利にならない様に立ち回っていた。


フィリップは頭の中で、『新人類』達の評価を上方修正した。


「鬼人族を最初に訪ねたのも一番与し易いと思ったからですが、鬼人族があれでは、他の『新人類』達も望みは薄いですね。やはり少々プランを変更する必要があるかもしれません・・・。」

「は、はぁ・・・」


フィリップは、別に部下達に語っている訳ではない。

これは自分の考えをまとめる為の、彼の癖であった。


暴言を吐いた男以外は、それを熟知していたのだろう。

フィリップの独り言に、特に反応を示さなかった。


「しかし、やりきってみせますよ。“より良い未来”の為に、ね。」

「は、はいっ!」


自分に言われたと思った例の男が返事をするが、それをスルーして、フィリップはこの()を見据えていたのだったーーー。



誤字・脱字がありましたら御指摘頂けると幸いです。


いつも御覧頂いてありがとうございます。

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よろしくお願い致します。

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