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『英雄の因子』所持者の『異世界生活日記』  作者: 笠井 裕二
新しい世界
355/383

そして新時代へ

続きです。



◇◆◇



「助かったよ、ブルータス。」

「いえいえ、カエサル様。私はただ本心を語っただけの事でございます。皆さんが認めてくれたのも、内心このままで良いのか、という思いがあったからでございましょう。そうした意味では、今回の件はちょうど良い機会だったのですよ。」

「そう言って貰えるとありがたいが・・・」


大きな決め事をする前にすでに“仕込み”が済んでいる事も往々にしてある。


カエサル達も、自分達が抜ける事に対する会議を開く前に、自分達の協力者を事前に仕込んでおり、それが(くだん)の挑発めいた発言をし、会議の結論を決定付けた男であったのである。


彼の名前はブルータスと言った。

カエサルに師事した者の一人であり、その中でもとりわけ優秀で、なおかつカエサルの半ば盲目的な信奉者でもあった。


人選としては若干の不安もあったが(むしろ、カエサルを送り出す側よりも引き止める側に回りかねないと思われたのだが)、それらの予測に反してブルータスは見事にカエサル達の思惑を汲んだ行動と結果をもたらしたのであった。


「いずれにせよ、キッカケはともかくとして我々全員で決めた事です。後の事は我々に任せて、カエサル様達はご自身の本来の“使命”にお戻り下さい。」

「あ、ああ、うん。ありがとう。」


真っ直ぐ見つめてくるブルータスに、カエサルは若干戸惑いながらもそう答えた。


カエサルはブルータスが苦手だった。


いや、苦手というか、正直疲れる、といった方が正確か。


と、言うのも、先程も述べた通り、彼はカエサルの事を半ば盲目的に信仰しており、カエサルのやる事成す事全てを肯定する癖があったからである。


カエサルが“英雄”である事も1ミリも疑っておらず、今回の件に関しても“英雄”としての使命の為に旅立つ、という、ルドベキアが適当にでっち上げた作り話を大真面目に信じていたのである。


身近に冗談の通じない、堅苦しい者がいたとしたら、当然ながら気の休まる暇もない事だろう。

まぁ、仕事は出来るので重宝していた訳であるが、正直カエサルとしては、今回の件でブルータスと離れる事が出来る事が、実は一番の収穫だったのかもしれない。

まぁ、それはともかく。


「・・・しかし、具体的にはどちらに赴かれるつもりで?」

「そうだねぇ〜。流石に“夢”の情報だけでは特定する事は難しいけど、着ていた衣服や文化の様子からもおそらく他の大陸の出来事だと考えられる。とは言えど、ボクらもハレシオン大陸(この大陸)の全てを知っている訳じゃないから、もしかしたらハレシオン大陸(この大陸)のどこかで起こっている事かもしれない。だから、まずはハレシオン大陸(この大陸)からくまなく捜索してみるよ。他の大陸に渡るにしても、それからでも遅くはないだろうし。」

「なるほど。」


ブルータスの質問に、カエサルではなくルドベキアが答える。

カエサルほどでないにしろ、ブルータスはルドベキアとアルメリアも“英雄”として信奉しているので、カエサルとの会話に横槍を入れられた形になってしまったが、その事に特に不快感を示さなかった。


「と、とりあえずそういう事だから、後の事は君達に任せたよ。“より良い世界”の為に、皆で協力して頑張ってみてよ。僕らも頑張るからさ。」

「ハッ!お任せ下さいっ!!」


今回の件の謝意と今後の労いの言葉をかけたカエサルは、そそくさとブルータスのもとを離れる。

やれやれと言った表情でルドベキアとアルメリアもそれに続いた。


ブルータスは、彼らの姿が見えなくなるまで、それを頭を下げたままで見送ったのであったーーー。



「・・・行かれましたね。」

「皆さん・・・。」


それを見計らったかの様なタイミングで、複数の男達が姿を現した。


「・・・お見事な()()でしたな、ブルータス殿。すっかり騙されていましたよ。」

「いえいえこの程度。腹芸も出来ないと、政治家などやっていられませんからね。」

「・・・確かに。」


この男達、所謂“反カエサル派”の者達であった。


いくらカエサル、ルドベキア、アルメリアが優秀だと言っても、いや、優秀だからこそ、つまらない妬みや嫉みを持つ者達も多くなるものだ。


彼らからしてみたら、カエサル達の存在は目の上のたんこぶであり、彼らがいるから自分達の評価が低い、と勝手に思い込んでいたのである。


得てしてこういう者達は、自身を過大評価しているものだ。

そもそも本当に彼らが優秀なのならば、カエサル達がいようといまいと関係なく、見ている者達は見ているものだ。


そういう話がない、という事は、つまりはそういう事だ。

だが、そうした者達は非常に厄介であり、自分の事は棚上げにして、とにかく周囲の足を引っ張る事しか考えていない訳である。


で、今回の件だ。

自分達の手を煩わす事なく、自らカエサル達は姿を消す、という流れになった。

内心、彼らからしたらそれは喜ばしい事であったが、こうした者達は自らの保身には長けているので、逆に出ていかれると困る、などという心にもない事を言って反対した訳である。


しかし、それに対してブルータスがその反対意見に更に反対意見を述べた訳である。


結果としてブルータスの言葉もあって、議会はカエサル達の退任と出奔を全会一致で可決した。

まさに、自分達の望み通り。


で、それを決定付けたのは、ブルータスの説得だった訳である。

それもあって彼らは、ブルータスも自分達と志を同じくする同志である、と()()()したとしても不思議な話ではなかった。


一方のブルータスは、確かに()()はした訳であるが、それはあくまで会議中の“パフォーマンス”の方であって、今のカエサル達とのやり取りなどは()()である。


先程も述べた通り、ブルータスは特にカエサルの信奉者なので、彼を騙そう、などという頭ははなっからなかった。


しかしそれを、この男達はカエサル達を追い落とす為の()()であった、と誤解した訳である。

そこに、認識の齟齬が生じていた。


だが、現実にも良くある話ではあるが、微妙に話が噛み合っていないにも関わらず、話が進んでいってしまう事はままある事であった。

特に政治の世界では、お互いに腹を割って話す事は皆無と言っても良いので、こういう現象が起こってしまいがちであった。


「それで?彼の方々を無事に()()()()訳ですが、ブルータス殿は今後どうされるおつもりで?」

「そうですね・・・。まずは、カエサル様達が抜けられた穴を早急に何とかする必要があります。まぁ、皆さんにご協力頂ければそれも難しい話ではないでしょうけれどね。問題となるのはその先。もちろん、三国の関係性を盤石にする事は絶対条件ですが、それだけでは流石に能が無い。」

「・・・何かお考えがあるので?」

「今は私の頭の中にしかない構想なのでここではあえて明言しませんが、そうですね・・・。少しだけ明かすとしたならば、経済圏を拡大したい、とは考えています。」

「「「「「おおっ・・・!!!」」」」」


ブルータスの中では、カエサル達に見限られない為に、カエサル達の後継者を胸を張って名乗れる様に、という純粋な思いがあったのだが、勘違いをした男達は、カエサル達の影響力を削ぎ、完全に彼らの居場所を奪い取る為の策だと思い込んだ。


男達は、自分達の利の為にブルータス(この男)と懇意にすべきである、と考えてこう言った。


「ぜひ、我々にも協力されて下さいっ!」

「ありがとうございますっ!共により良い未来を作っていきましょうっ!」

「「「「「はいっ!!!」」」」」


彼らも自分と同じくカエサル達の信奉者だったのか、とこれまた勘違いしたブルータスは、志を同じくする同志が増えた事を純粋に喜んだ。


がっしりと力強く握手を交わしたブルータスと男達。

そして、今はもう見えなくなったカエサル達の方を見やるのであった。



こうして、カエサル達なき後、ブルータスを中心とした集団が三国を主導していく立場となっていくのであるが、最初からお互いに誤解したままの状態であった為、この事が後に大きな歪みとなっていくのであるがーーー。



◇◆◇



「・・・ようやく二カ所目か。こりゃ、先は長そうだな。」

「ふむ、そのようだな・・・。」


一方その頃、表向きは“追放”の処分を受けていたセレウスとハイドラスは、“化身(アヴァターラ)”の姿でそんな会話を交わしていたーーー。



仲間達と内密に会話を交わしていた通り、マギやネモ、ひいては彼らの(あるじ)である“アドウェナ・アウィス”の事を調べる為、二人は彼らが遺した遺産の調査に赴いていた。


とは言えど、その調査は非常に難航していた。

何故ならば、そもそもヒントがほとんどないからである。


いや、ネモを発見した時の様に、現地のアクエラ人類の間で何某かの信仰なり伝承として伝わっている事もあるにはあるが、それは案外レアなケースなのである。


ほとんどの場合はノーヒントであり、地道な調査、発掘が必要になってくるのであった。

(まぁそもそもの話として、以前にも言及したかもしれないが、“アドウェナ・アウィス”の遺産はある程度の技術力、文明レベルを持たない事には発見出来ない様に配置されている。

これは、初期の文明レベルではそれらの遺産を使いこなせない事もあるが、下手に力を得た結果、同族同士で争う事となり、その種が絶滅する事を回避する為でもあった。

実際、セルース人類が“アドウェナ・アウィス”の遺産と出会ったのも、外宇宙に進出する様な技術力を持った後である。

が、どうやらこの世界(アクエラ)は、他の惑星からの移民を想定していたのか、あるいは“魔素”という物質(?)の存在によるものかは不明だが、“アドウェナ・アウィス”の遺産が惑星上に存在していた。)


いくら『限界突破』を果たしているとは言えど、いくら“高次の存在”に足を踏み入れた存在になっていたとは言えど、たった二人での調査が難航するのも無理はない。


こうした事もあり、ネモに続き二カ所目の遺産を発見・発掘を果たすまでに、セレウスとハイドラスと言えどかなりの年月を費やしていたのであった。



「ここには、ネモみたいな人工知能(AI)はないのかね?」

「・・・かもしれん。そもそも、以前ネモを発見したのは、今考えるとかなり出来過ぎていた様に思う。追放された先に、()()()()“アドウェナ・アウィス”の遺産がある。それによって、我々はソラテスらに対抗する(すべ)を得た訳だが、それさえも仕組まれていた、と考えた方が良さそうだな。」

「・・・二カ所目を見付けるのにこれほど苦労した事を考えりゃ、確かにその線はあり得そうだな。マギの奴がセルース人類(仲間達)()()してたのはほぼ間違いないし、それならある程度の誘導は可能、か。」

「そうだ。奴らの計画を鑑みれば、我々を争わせるのが目的だった訳だが、片方がいなくなっては意味がない。だから、あえて“追放”という(てい)にして、すでに用意してあった遺跡(ネモ)に誘導した。おそらく、この惑星(アクエラ)に到達した時から、密かにネモとはコンタクトを取っていたんだろう。」

「それで、あらかじめ遺跡の位置を特定していた、と?」

「それもあるが、ここの事を鑑みれば、遺跡よりも、ネモ自体に引き合わせる事の方こそ重要だったのだろう。“ネモ”という名の“インターフェース”が存在する事によって、我々は遺跡の知識や情報をスムーズに取得出来た。逆に言えば、“インターフェース”が存在しなければ我々は遺跡を一から調査、解析する必要があった訳だ。いくら我々の技術力がかなり進んでいるとは言えど、未知の文明の技術を理解するにはかなりの時間がかかる事だろう。」

「ああ、なるほど。じゃあ、さっきの疑問はそれで解決、って事か。」

「そうだな。遺跡には、必ずしも人工知能(AI)が存在しないのかもしれない。もちろん、機能を維持する為にそれらを管理する存在は必要なのかもしれないが、それらを総合的に管理していたのがネモだったのだろう。そもそも、全ての遺跡が自律式(スタンドアローン)で存在するのは効率が悪いからな。」


ここら辺は、現実的にも良くある話であった。


遺跡の機能がそれぞれ独立していたとしたら、それらの保守、管理も、それぞれ独立して行う必要がある。

その為には、人工知能(AI)が遺跡の数だけ必要になってしまう。


もちろん、“アドウェナ・アウィス”の技術力なら大した問題ではないかもしれないが、どちらにせよ、複雑にすればするほど、話がややこしくなるのは目に見えている。


言うなれば、組織図や関係図の様なものだ。


指揮系統、命令系統が複雑に乱立してしまうと、情報の行き違いが発生する確率が当然上がる。

現実の組織でも、あっちとこっちで言っている事が違う、なんて事も良くある話だ。


機械の場合は、それはエラーという形になるだろう。

場合によっては、正しい機能を発揮する事が出来なくなる事も往々にしてある。


遺跡の力から言えば、これはかなりの問題である。

下手をすれば、知的生命体に良きにしろ悪いにしろ多大なる影響を与えかねないのだから。


マギ達、ひいては“アドウェナ・アウィス”の本当の目的は未だ謎に包まれてはいるが、いずれにせよ過度な干渉をしない方針である事はこれまでの経緯からも明らかである。


となれば、未然に事故を防ぐ上でも、最初からの一括でまとめておいた方が効率が良いし、あるいは問題が起こったとしてもすぐに対応が出来る。

それ故に、こうしたシステムになっているのではないか、というのが、ハイドラスの仮説な訳であった。


「ってなると、ある意味この遺跡はハズレ、って事か?」

「いや、そんな事はないだろう。むしろマギ達の様な人工知能(AI)が存在しない分、こちらとしては安全性が確保出来る。まぁその分、自力での解析が必要になるから良し悪しだが、私達には時間だけはあるからな。」

「まぁな。」


そうなのである。


カエサル達と同様に、セレウスとハイドラスは“不老”であった。


いや、二人の場合は今現在の肉体が“化身(アヴァターラ)”である事も大きいのだが、『エストレヤの船』に残している“本体”も、所謂“不老不死”となっている。


これは、『限界突破』を果たした事によるある種の弊害であったが、こういう時間がいくらあっても足りないであろう調査や研究をするにあたっては、またある意味では便利な能力であった。


「さぁ~て、んじゃ、どこから手をつけるか・・・」

「まずは何とか言っても言語の解読だろうな。“アドウェナ()アウィス()”が扱う言語などを理解しない事には、そもそも何が書いてあるのか、この遺跡にはどういう機能があるのかも分からないからな。」

「マジかぁ〜。俺、お前と違って頭のデキには自信がないんだけど。」

「嘘つけ。以前ならともかく、今のお前の知能が低い訳がないだろう。面倒くさがらずキリキリ働け。」

「へーへー。・・・っつかお前、キャラ変わってね?」

「お前相手に今更気を使う必要もないだろう?」

「まーね。」


確かに考えてみれば、ハイドラスはセレウスに対してだけは遠慮のない物言いをする、とセレウスは思っていた。

普段の丁寧な口調と態度は所謂“よそ行き”のものであり、こちらの多少くだけた感じの態度の方が、本来は素なのだ。


とは言えど、大人としてはこれも当たり前の話だ。

むしろセレウスの方が、普段もよそ行きも大して変わらない態度でありながら、それでもあまり他者に嫌われない、というある意味得な性格をしていたのである。

まぁ、それもともかく。


かくして二人は、そんな軽口を叩き合いながらも、“アドウェナ・アウィス”の遺した遺産の地道な解析・研究に打ち込む事となったのであるがーーー。



???



ー・・・未だ“カギ”となる存在は見付かりませんか・・・ー

ーええ。やはりそう簡単なものではないのでしょう。()()を果たした我々とて、獲得出来なかったものですからね・・・ー

ーふむ・・・ー


一方、惑星アクエラで様々な変化が起こっている中、この宇宙のどこか、いやあるいはこの宇宙そのものとなっていた“アドウェナ・アウィス”の思念の様なものがそんな会話を交わしていた。


彼らの目の前には、この宇宙に無数に散りばめた人工知能(AI)から送られてくる映像モニターの様なものが存在していた。

もっともそれは、あくまで物質的に存在するものではなく、言うなれば“幻想”の様なものであったのであるが。


ー・・・やはり、“特異点”など存在しないのでは?少なくともそれを、“低次の存在”が獲得するとは思えせんが・・・ー

ーそれについては散々議論をしたであろう?“特異点”は存在する。でなければ、この宇宙が誕生した事の説明がつかんのだ。・・・もちろん、それがどの様な形であったかまでは分からんが、な・・・ー

ーだったらっ・・・!ー

ーそれも散々議論しましたよ?何も彼らを誘導しているのは、“カギ”や“特異点”を探し出す為だけではありません。彼らの“信仰エネルギー”を起爆剤にして、我々を更なる高みに押し上げる為でもあり、それによって我々自身が“カギ”、“特異点”となる可能性も考慮した上での事です。多少時間がかかっても、無駄ではないと思われますがね。ー

ー・・・ー

ー何、焦る必要はない。我々には無限とも呼べる時間が存在するのだからな。ー

ー・・・ー


意味深な会話を交わす思念達。

その傍らには、マギやネモを通じて、セレウスやハイドラス、カエサル達の姿が映し出されていたのであったーーー。



誤字・脱字がありましたら御指摘頂けると幸いです。


いつも御覧頂いてありがとうございます。

よろしければ、ブクマ登録、評価、感想、いいね等頂けると非常に嬉しく思います。

よろしくお願い致します。

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