ターニングポイント
続きです。
◇◆◇
魔王・マルムスが討たれた事で、彼の能力(『魔眼』もどき)によって組織としての体を保っていた魔王軍は崩壊した。
もちろん、一部のオーガや知能の高い魔物も存在しており、単純に彼の思想や理想に共感、あるいは共鳴していた者達もいたので、所謂“残党”も存在していたが、ほとんどの場合は強制的に従わせられていた者達ばかりなので、大規模な戦争は終わった訳である。
魔王を討ち取ったカエサル達は、こうして名実共に“英雄”となった訳である。
が、それこそが魔王・マルムスが残した“呪い”であった。
“英雄”と聞くと、特に男子ならば一度は憧れるものかもしれないが、実際にはそこまで良いものではない。
何故ならば、もはや自由が効かない立場となるからである。
魔王軍が崩壊した以上、解放軍の役目も終わりだ。
いや、先程述べた通り、“残党”を壊滅させる必要性はあるものの、何度となく言及している通り、魔獣やモンスター自体は単純な悪ではないし、彼らを絶滅させるほどの力は人類側には存在しないからである。
いや、“英雄”たるカエサル達ならば可能かもしれないが、彼らはその主張を退けている。
何故ならば、それは生態系を破壊する行為であるからである。
当たり前だが、“自然”とは、時に人類に恩恵をもたらすものでもあると同時に、人類に厄災をもたらす事もある。
では、人類にとって理想的な環境を整えれば良い、と思われるかもしれないが、事はそう単純な話ではない。
人類も、あくまで“自然”の一部でしかないのである。
つまり、人類にとって理想的な環境が、必ずしも“自然”にとって理想的な環境ではないのだ。
例えば、人類が魔獣やモンスターを全て滅ぼす事に成功したとしたら、当然人類にとっての天敵がいなくなるので素晴らしい事の様にも思えるが、結果としてまた別の問題が発生するだけである。
有名な話が、向こうの世界にて非常に獰猛な肉食獣を駆逐してしまった結果、それに狩られていた立場の草食動物が天敵がいなくなった事で異常に繁殖してしまい、森林を食い荒らしてしまう、という事例が実際に報告されている。
森は人類にとっても非常に重要な資源である事はご承知の通りだが、自然のシステム的にも重要なものである。
それが失われてしまうという事は、当然ながらそこに暮らしていた生命も全て失われてしまう事になる。
そして、森林を復活させる事は当然ながら容易ではないのである。
この様に、“自然”は絶妙なバランスの上に成り立っているのである。
それに、考え無しに、あるいは軽率に手を加える事によって、結果的に人類自身に手痛いしっぺ返しがある事もままあるのである。
そしてカエサル達は、覚醒を果たした事によってそれらを理解していた訳であった。
それに、アベル、ヴェルムンド、フリット、アルフォンスの四人組は、どちらかというと魔獣やモンスターに近い立場にある『新人類』である。
まぁ、『新人類』達の立場はかなり微妙な訳であるが、それはまた後述するとして、魔王を討ち取った“英雄”にして、人間族以上に森や自然に精通している彼らの存在は、そうした小難しい理論よりもよっぽど説得力がある。
こうして、魔王軍崩壊後、魔物達を絶滅させる、というある種最悪のシナリオは回避された訳である。
それ故に、今日においても、魔獣やモンスターはハレシオン大陸に健在な訳であった。
まぁ、それはともかく。
とは言え、それで話は終わりではない。
少なくとも、事後処理や復興の話なども必要になるからである。
先程も述べた通り、『新人類』達の立場はかなり微妙であった。
何故ならば、再三述べている通り、それが彼らにとっての生存戦略だったとは言えど、彼らが魔王軍に与した事は事実だからである。
魔王軍と敵対していた解放軍からしたら、敵の味方は、すなわち敵な訳だ。
しかし、ここでもアベル達四人組の存在が意味を持ってくる。
彼らも『新人類』でありながら、魔王軍と戦い、しかも魔王を討ち取るという多大な功績をあげている。
少なくとも彼らなしでは、解放軍が魔王軍に無事に打ち勝つ事は困難だったかもしれない。
それは、解放軍上層部よりも現場の兵士達が一番肌で感じている事だろう。
何より、これはカエサル、ルドベキア、アルメリアもそうであるが、彼ら七人は兵士達から非常に慕われていたのである。
それはそうだろう。
強く頼りになる存在。
そのあまりの強さに嫉妬すら沸かず、憧れと共に、ある種の神格化さえされていたのである。
となれば、そんな者達を冷遇する事は、解放軍上層部にとっては悪手である。
それは、兵士達からの反発を招く事となるからである。
しかし、彼らに主導権を取られる事も厄介な訳である。
そこで、上層部は必死に知恵を絞り出した。
アベル達の功績は認めたものの、『新人類』達が魔王軍に味方したのもまた事実である事から、アベル達が面倒を見る事を条件に、『新人類』を(後に“大地の裂け目”と呼ばれる)大森林地帯へ追放する事としたのであった。
これは、先程の魔獣やモンスターの監視や、ある種の緩衝材とする、という意味合いもあったのであるが、元々すでに森で暮らしていた『新人類』達にとっては実際には無罪放免である。
むしろ上層部の狙いは、“英雄”たるアベル達四人組を、体よく厄介払いする事であった。
当然ながらアベル達もその事には勘付いていたが、『新人類』が実質的に無罪放免になる事の方が重要であり、別に政治の話や“英雄”の立場に興味があった訳でもないのでその提案を素直に受け入れた訳であった。
こうして利害の一致もあり、こちらも今日のハレシオン大陸に見られる様に、人間族と他種族・異種族が距離をとって暮らす、という風潮が出来上がった訳であった。
(余談ではあるが、こうした事もあり、むしろ勝手に出ていっただけのアベル達四人組が各々の種族にとっての英雄的存在になった訳である。
彼らにとっては、取引相手だった魔王軍を滅ぼした事よりも、それを成した後に解放軍から咎められるのを未然に防ぎ、自分達に自由を与え、一族を率いた事が重要な部分だったのだろう。)
さて、こうして長らく冒険を共にしたアベル達四人組と、カエサル、ルドベキア、アルメリアは離れ離れになる事になったのであるが、解放軍上層部としてはまだ問題が残っていた。
そう、この少年少女の処遇をどうするか、である。
アベル達とは違い、カエサル、ルドベキア、アルメリアは立派な人間族である。
それ故に、アベル達に使った手は通用しない訳である。
先程も述べた通り、理由もなく彼らを追放なり冷遇すれば、内部から反発されるのは目に見えていたからである。
そしてその理由が、解放軍には思い付かなかった訳である。
いや、一応“残党”討伐を理由に現場に投入する事で、上層部に食い込む事は未然に防いだりはしたのだが、むしろそれは、現場の兵士達の人気をますます集めるだけの結果になってしまう。
で、当然“残党”もいつまでも存在する訳もなく、最後の生き残りと見られる“残党”が討伐された後、本当の意味で魔王軍との戦争の終結が宣言された訳であった。
さて、困ったのは上層部の者達だ。
その場しのぎの思い付きでカエサル達を上層部から引き離していた訳であるが、本格的に戦争が終結したとなると、当然彼らも戻って来る事となるからである。
そうなれば、魔王軍との戦争は終結したので解放軍は解体され、その後、ラテス族や連合、“パクス・マグヌス”などの人間族の部族達が後を引き継ぐ事となる。
まぁ、元々、解放軍自体、各々の部族からなる連合軍だった事もあり、解放軍上層部も各々の思惑が複雑に絡んでいた訳であるが、“魔王軍討伐”、という悲願の為に曲がりなりにも結束していたのが、それが終結した今、何処が主導権を取るか、という政治的な駆け引きが始まってしまった訳である。
そして、その鍵となるのが、カエサル、ルドベキア、アルメリアが何処の所属か、という問題であった。
結論から言ってしまえば、三人とも最後に所属していたのは“パクス・マグヌス”(の“ストレリチア荘”)であるから、“パクス・マグヌス”に所有権(これは人権とかそういつ事ではなく、国籍的に、という意味合いである。)がある。
が、よくよく考えてみると、カエサルはマグヌスとセシリアの子であるから、当然ラテス族出身であるし、ルドベキアとアルメリアも、今は親類縁者全てこの世には存在していないが、元々の出は連合側なのである。
この様に、生まれと育ちが別々だった事もあり、かなりややこしい話になってしまった訳である。
(まぁ、その原因は、ラテス族側と連合側が戦争を始めてしまったからであるから、自分達自身で今回の問題を引き起こしている、という、ある種よくある話、かつ滑稽な話でもあるのであるが。)
当然ながら、“英雄”たる三人を輩出した部族・民族となれば、当然影響力もそれだけ大きくなる、すなわち主導権を取りやすくなる訳であり、各々の勢力がこぞって三人の所有権(国籍)を主張した訳であった。
とは言えど、先程も述べた通り、ある意味何処の主張にもれっきとした根拠があるので、いくら第三者が話し合ったとしても結論は出なかった。
結局は、三人が何処に肩入れ、とはまた違うかもしれないが、選ぶかが焦点になった訳である。
元々のルーツを重要視するのか、あるいは育った土地を重要視するのか。
それらを、三人は選ばされる事となった訳であった。
さて、たまらないのはカエサル達である。
魔王軍との戦争が終結したと思ったら、今度は人間同士の政争に巻き込まれてしまったからである。
先程も述べた通り、その一環で(彼ら自身も納得していたとは言えど)仲間として長らく連れ添ったアベル達と引き離された事もあり、人間族に対してある種の不信感を三人は募らせていた訳である。
そしてここへ来て、更に“何処の所属か選べ”、という圧力を受けたとしたら、全てが面倒くさくなったとしても不思議な話ではないだろう。
いや、むしろ虚しささえ感じていたかもしれない。
必死になって魔王軍と戦ったというのに、平和が訪れた瞬間、人間同士の主導権争いとかいう、バカバカしい話になっているのだから。
そうした事もあり、密かにカエサルはこの地から出奔する事を決意した訳であるがーーー。
・・・
「・・・何処に行くつもりだい、カエサル?」
「ルドベキア・・・。それにアルメリアまで・・・。」
こうした事もあり、話は元に戻る訳である。
全てに嫌気が差したカエサルが行方をくらませようとした矢先、それを察していたルドベキアとアルメリアに止められたのだ。
「いや、そのぉ〜・・・」
しかし前回と違うのは、そこにカッコいい理由がある訳ではない事である。
前回は、独自に魔王軍を討伐する為、という、ある種の大義名分があったのだが、今回の場合は、あくまで全てが面倒になったから、というひどく個人的な理由からである。
ゴニョゴニョと言い淀むカエサルに、ルドベキアとアルメリアは苦笑する。
流石に彼女達も、カエサルの気持ちくらい分かっているからだ。
というか、“英雄”という立場を持つ者同士、この三人だけが、ある意味ではお互いの事を真に理解していた。
生暖かい目を向ける二人にバツの悪くなったカエサルは、素直に自分の心情を吐露し始めた。
「・・・ここを出て行こうと思ってね。魔王軍の問題が解決したのは喜ばしい事だが、今度は部族同士の主導権争いとか、バカバカしいだろ?」
「・・・まぁ、気持ちは分かるよ。」
「っスね。」
「もう、僕達は必要ないだろ?ってか、ぶっちゃけると僕らの存在が問題を更にややこしくするだけだ。なら、さっさと消えた方が皆の為でもある。」
「・・・残念ながら、その点においてはボクの意見は違うね。」
「何・・・?」
カエサルの言葉に、ルドベキアは一転して真剣な表情でそれを否定した。
「確かに、魔王軍との戦争が終結した以上、ボクらの“戦う力”は必要じゃないかもしれない。逆にボクらの存在が、新たなる争いの火種になる可能性すらあるだろう。しかし、ここでボクらが揃って消えたとしても、おそらく問題は解決しないよ。いや、むしろ更にややこしい事になる可能性もある。」
「そ、そんな事は・・・」
「ない、と言い切れるかい?そもそも魔王軍が台頭する以前は、人間同士が戦争をしていたんだよ?」
「・・・・・・・・・」
ルドベキアの指摘に、カエサルは二の句が次げなかった。
実際、その事が原因で、カエサルは両親二人を失っているのだから。
しかし、魔王軍の台頭によって、人間同士で争っている場合ではなくなり、一致団結して魔物達と戦う流れになった訳である。
が、その時の禍根なりが完全に消えた訳でもないのだ。
それは、魔王軍が壊滅した今、再び顕在化した訳である。
流石にすぐに衝突するほどではないかもしれないが、すでに水面下ではどこが主導権を取るかで牽制が始まっている訳だし、それにカエサル達が巻き込まれているとは言えど、それもあくまで手札の一つでしかない。
逆に、彼かが消えたとしても問題が解決するどころか、むしろ事態は一気に悪化する可能性すらある。
「結局のところ、彼らは不安なのさ。いつ自分達の寝首をかかれるか分からない。だから、相手に首輪をかけて安心したい、ってところだろう。」
「・・・くだらないな。」
「それについては同感だね。しかし、それが“人”というものさ。誰もが強くはないんだ。」
訳知り顔で頷き合うカエサル達。
世間一般的にはまだまだ若造に過ぎない彼らだが、覚醒を果たした事により、多くの事を理解していたのである。
それ故に、ある種老成しているのであるが、実際にはそこに経験はない。
あくまで“知識”として、人間が欲望に弱かったり、権力に執着したりする、という事を理解しているだけなのである。
そして逆に、そうした意味ではまだまだ未熟者でもあるので、それを何とかする、という事を早々に諦めて、見切りをつけてしまう、という選択肢を選ぼうとしていたのであった。
ここら辺は、天才や偉人にも見られる傾向である。
彼らの中には、人間関係に嫌気がさして、半ば世捨て人の様になる者達も珍しくなかった。
もちろん、それはそれで、間違った生き方ではないだろう。
少なくとも彼らが、他者の尻拭いをしてやる義理はないのだから。
だが、どうやらルドベキアの考えは、少し違った様である。
「だが、今ならそれを止めるチャンスだと考えている。もちろん、ボクらがそれをやる必要はないかもしれないけど、セレウス様やハイドラス様の事を鑑みれば、ここで動く事は意味があると思う。」
「・・・どういう事だい?」
流石に尊敬する二人の名前を出された以上、カエサルもルドベキアの言葉を無視出来なかった。
コクリ、とルドベキアは頷いた。
「キミももちろん覚えているだろう。ヴァニタスの事を。では、奴はどの様にして生じたのかは覚えているかな?」
「・・・確か、アクエラ人類の“集合無意思”から生まれた・・・、あっ・・・!!!」
「気付いたかい?キミからの報告で、奴自体はお二方が滅ぼした事は承知している。だが、再び生じる可能性は否定出来ない。何故ならば、すでにその前例があるからだ。」
「・・・・・・・・・」
そう。
ヴァニタスを生み出したのは、他ならぬアクエラ人類自身なのである。
もちろん、そうした意識はなかった事だろう。
セルース人類の力を目の当たりにした結果、そこに羨望やら畏れの様な感情がアクエラ人類の中に複雑に絡み合い、“セルース人類”に対抗出来る存在としての“ヴァニタス”を妄想してしまっただけなのだから。
それが実際に顕現しまったのは、未知の物質(?)である“魔素”が存在するこの世界ならではの事だったのかもしれない。
まぁそれが、全てを無に帰す、という“混沌の神”としてであったのはある種の皮肉であるが。
だが、散々裏で暗躍していたヴァニタスも、セレウスとハイドラスの手によって排除されている。
しかし、だからといって、復活しない保証はどこにもないのである。
すでに一度はこの世界に顕現した以上、二度目があるかもしれない。
そしてそれは、そう遠い未来ではないかもしれないのである。
少なくとも、人々の心に負の感情が蓄積すれば、その可能性はグッと上がるかもしれない。
そして今まさに、魔王軍との戦争が終わった事である種のタガが外れて、人々の心にそうしたマイナスの感情が高まる事はほぼ確定、というか、すでに部族・民族同士の主導権争いによってその兆候は高まっているのである。
セレウスとハイドラスでさえ手を焼いたヴァニタスは(もちろん、今度現れる存在は全く同一の存在ではないかもしれないが)、覚醒を果たした事で彼に対抗する手段を持つカエサル達でも、荷が重い事は言うまでもないだろう。
少なくとも、彼が暗躍を好む性質がある事から鑑みれば、単純な力技でどうにかなる相手ではないのである。
それを回避するとしたら、ある意味今が絶好のタイミングなのであった。
「・・・それで?僕にどうしろって言うんだい?」
「何、簡単な話さ。キミが人々をまとめ上げれば良い。そうすれば、人々の心からマイナスの感情が生まれにくくなる。=奴が生じる機会を封じる事にも繋がる、って寸法さ。」
「本当に簡単に言ってくれるね・・・。けど、僕にそんな事が出来る訳・・・。」
「出来るさ。いや、むしろキミ以外に適任はいないと言っても過言ではない。」
「えっ・・・?」
魔王軍との争いでは、パーティーの実質的なリーダー的存在だったカエサルだが、ここら辺はマグヌスの血筋もあったのか(つまり生来自身を“陰キャ”だと思い込んでいる)、自分がリーダーに向いているとは露とも思っていなかったのであった。
だが、それをルドベキアはアッサリ否定した。
「キミは“英雄”の一人であると同時にラテス族であり、なおかつ今やラテス族の間では英雄的存在となっているマグヌス殿、そして“慈愛の聖女”とも呼ばれるセシリア殿のご子息だ。少なくともその立場は、ラテス族に大きな影響力を持つ事は言わずもがなだね。」
「・・・・・・・・・」
そう。
カエサル自身も“英雄”としての功績を残しているが、その血筋もあって、ラテス族への影響力はかなりのものなのであった。
そして、部族間、民族間の争いにおいて一番厄介なのも、そのラテス族なのだ。
ここら辺は、以前にも言及した通り、彼らが“セルース人類”に見初められた、というある種の選民思想があるが故であるし、なおかつ今現在ではかなりハードルは下がっているものの、『魔法技術』を保有している、というある種のアドバンテージがあるからこそ、他の部族、民族は自分達に従うべき、という強い思想があるからであった。
彼らがそういう態度だからこそ、連合や“パクス・マグヌス”も頑なな態度になってしまう、という悪循環に陥ってしまう訳であった。
「しかもキミは、“ストレリチア荘”で過ごした事もある。つまり、“パクス・マグヌス”側の立場も持っている訳だ。」
「・・・」
ルドベキアの言葉に、カエサルはコクリと頷いた。
戦争の影響とは言えど、マグヌスとセシリアを失ったカエサルが身を寄せたのが、何の因果か“パクス・マグヌス(ストレリチア荘)”であった事もあり、言ってしまえばカエサルは、ラテス族、“パクス・マグヌス”から自分達の味方である、と思われている訳である。
客観的に見れば面倒くさい事この上ないが、しかし他方では、この両者を仲介、あるいは架け橋になるには、まさにうってつけの人材なのである。
「仮にだよ?仮に、ラテス族、連合、“パクス・マグヌス”、この三勢力を統一し、その指導者となるのならば、キミをおいて他にはいないんだよ。」
「・・・・・・・・・。し、しかし待ってくれ。確かにそれはその通りかもしれないが、それを言ったらキミやアルメリアも“英雄”の一人だし、連合の出で、その後“パクス・マグヌス(ストレリチア荘)”で過ごした、という経歴がある。別に僕じゃなくても・・・」
「それはダメさ。こういう言い方はどうかとは思うけど、残念ながらボクらの身内は大した人物じゃなかった。それに、連合の出である事は否定しないが、それで連合への影響力は発揮出来ても、ラテス族には皆無だ。仮にボクやアルメリアが名乗りを上げたところで、むしろ状況を悪化させるだけなのさ。キミだけが、それをクリアする事が出来る。」
「・・・・・・・・・」
先程も述べた通り、やはり一番のネックはラテス族である。
ルドベキアとアルメリアは、連合と“パクス・マグヌス”からは歓迎されても、その出自的には、ラテス族からは疎まれるだけだ。
それは、下手をしたら三勢力の溝を決定的に広げるだけの結果に成りかねないのである。
カエサルは逡巡した。
ハッキリ言って、彼が全てを背負う必要はない。
それこそこういう事は、大人同士で解決すべき話だからである。
しかし、そうする事が出来たのならば、こういう状況にはなっていない訳で、少なくともそれを出来た可能性のある人物は、すでにこの世には存在しないのである。
まさにルドベキアが言った通り、今現在においてはカエサルしかいないのである。
「もちろん、キミに全て押し付けるつもりはない。キミほどではないにしろ、さっきキミが指摘した通り、ボクらにもそれなりに影響力があるからね。だから、もしキミが立つつもりがあるのなら、ボクらがキミのサポートをするつもりだよ。」
「ウッス。」
「・・・・・・・・・何で・・・」
そんな覚悟があるのか?
言葉を詰まらせたカエサルは最後まで言えなかった。
だが、ルドベキアはそれを正確に察したのか、彼女達の過去から鑑みれば、至極当然の言葉を返した。
「・・・誰にも、ボクらのような思いをして欲しくないからね。」
「・・・・・・・・・」
「っ!!!」
ポツリとルドベキアが呟いた言葉が、カエサルに衝撃を与えた。
マグヌスもセシリアもそうであるが、彼女達の親類縁者も、戦争によってその命を散らしているのだ。
しかも、マグヌスとセシリアがある程度政治的な立場を持っているのとは違い、普通に、平和に暮らしていただけの彼女達は、それこそ争い事などに対して強い怒りや憎しみを抱いていても不思議ではないだろう。
下手をすれば、その強力な力もあって“復讐者”となっていてもおかしくない立場でもあるのに、彼女達の望みはある種純粋なものであったのだ。
時に女性の方が精神的に成熟しているものでもあるが、彼女達の場合はもはや悟りの境地なのかもしれない。
カエサルは、自分の矮小さをひどく恥たのであった。
そして、
「僕は・・・。」
誤字・脱字がありましたら御指摘頂けると幸いです。
いつも御覧頂いてありがとうございます。
よろしければ、ブクマ登録、評価、感想、いいね等頂けると非常に嬉しく思います。
よろしくお願い致します。