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『英雄の因子』所持者の『異世界生活日記』  作者: 笠井 裕二
真・英雄大戦
343/382

覚醒

続きです。


年内最後の投稿となります。

今年もお付き合い頂きまして、まことにありがとうございます。

来年も、どうぞよろしくお願い致します。


皆様、良いお年を。



・・・“歌”が聞こえた・・・、様な気がした。

それが止むと、唐突に視界が開けた様な感覚を僕は感じていた。


・・・何が起こったのかさっぱり分からなかったが、ただ一つ理解出来(分かっ)たのは、どうやら僕達はこの化け物を倒せる、という強い確信であったーーー。



『霊魂』、すなわち“魂の力”とは、説明の難しい概念である。

それを説明したり、理解させる事は非常にハードルが高く、マギとネモでさえ、言語化する事は不可能に近い。


ただ、セレウスやハイドラスら、“能力者”らに課した様な、所謂“試練”という形で相手に理解させる術は確立しているし、また、“超越者”達の様に、人工“神化”という術も確立している。


ただ、“能力者”に関しては、そもそも“能力”、もっと大雑把に言ってしまえば“霊能力”という力に目覚めているという前提条件が必要であり、それを突き詰めた先にあったのが“限界突破”、すなわち『霊魂』や“魂の力”という概念だった訳である。


つまり、ある種の正規の方法でそこに到達する為には、まず“能力”(“霊能力”)というものに目覚める必要がある。


一方“超越者”達は、残念ながら“能力”(“霊能力”)に目覚めていないのでこの方法は使えない。

ただし、彼らには“能力者”達を解析・研究した結果、“霊子力エネルギー”というものを獲得していので、それを擬似的に再現する方法、すなわち人工“神化”が可能だった訳である。


もちろんその為には、“擬似霊子力発生装置”を用いたサポートが必要不可欠なのであるが、残念ながらこれも、“能力者”達との争いの結果封印されている。


つまり、アクエラ人類が『霊魂』、すなわち“魂の力”を獲得する事は、正規の方法であれ擬似的な方法であれ現時点では不可能に近いのである。


ただ、もちろんこれらにも抜け穴はある。

一時的に“高次の次元”とのチャンネルを開けば良いのである。


そこで重要になってくるのが、“歌”、というか“周波数”である。


“周波数”というのは非常に複雑怪奇なもので、特定の周波数帯域は我々が耳馴染みのある“歌”とか“音楽”となるが、それ以外は不快な音となる事もある。


また、場合によっては物質を破壊する音というものも存在するし、逆に超音波の様な、一種のレーダー的な役割を果たすものも存在するのである。


そしてその中に、形容しがたい“歌”も存在するのだ。

それが、“天上の歌”、である。


これは、神話や宗教などにも登場、あるいは内在しているものである。

天使が降臨する際に聞こえる、とされるものであったり、あるいは覚醒した者達が無意識の内に聞いた、とするものかもしれない。


言ってしまえば、“高次の存在”が主物質界に干渉する際に必要なプロセスの一つであり、それらに触れた者は、その存在、すなわち“高次の次元”を知覚した事によってその力に目覚める、という事かもしれない。


そしてあくまで“周波数”である以上、人工知能(AI)であるマギやネモでもそれらを再現する事が可能なのである。

もちろん、こちらもあくまで彼らが“アドウェナ・アウィス”が生み出した人工知能(AI)だったからこそ可能な事ではあるが。


いずれにせよこれによって、“能力”(“霊能力”)にも目覚めておらず、かつ“霊子力エネルギー”も獲得していない現時点でのカエサル達も、“高次の次元”を垣間見た事によって“魂の力”を手に入れたのであるがーーー。



◇◆◇



「・・・何だったんだ、今の?」

「さあ・・・?」


突如、(偽)ハイドラスの言葉が脳に直接響いたと思ったら、今度は聞いた事もない様な“歌”が脳内に響きた渡った訳である。

彼らが混乱するのも無理はないだろう。


しかし、呆けている暇はない。

彼の化け物は、その間もどんどんと封印された魔物達の『霊魂』を取り込んで進化・変質しているからである。

その事が、彼らの目にも()()()()()


「・・・えっ!?」


そう、映っていたのである。

一時的にも“高次の次元”とのチャンネルにアクセスした事によって、彼らは今まで見えなかったものが見える様になっていたのである。


「な、なんだ、ありゃ・・・?」


とは言えど、あくまで正規のルートでそこに到達した訳でも、事前に前提知識が与えられた訳でもないので、彼らはますます混乱する。


何せ、今まで見えなかったものが見えているのだから、正常な思考力を持っていれば、まず幻覚か自分の頭がおかしくなった、と思う方が普通だからである。


だが、幸い、というか何と言うか、それをした張本人が彼らの側にいた事によって、大混乱には陥る事はなかったが。


〈落ち着いて下さい皆さん。先程も述べましたが、今、あなた方を強制的に()()させました。まだ早いとは思ったのですが、このままではあの突然変異体を倒せない、と判断したからです。〉

「こ、これはなんなんスか、ハイドラス様っ!?」

〈説明するのは難しいのですが・・・、そうですね。“世界の真理に近付いた”、と思って頂けたら、と思います。“世界”には、思った以上に目には見えない力であふれているものなのです。不可視の光なんかもそうですし、人の耳では聞こえない“音”なんかもあります。重力もその内の一つですし、あなた方が見ているそれも、その内の一つです。〉

「・・・なるほど?」

「・・・正直よく分からないんですけど、あの化け物が取り込んでる、何かのモヤみたいなものが、奴の変質の要因、と考えても?」


(偽)ハイドラスの言葉に、やはり明晰な頭脳を持つルドベキアがいち早く現実に復帰してそう確認する。


〈そう捉えて頂いて結構です。あなた方の魔法エネルギーを取り込むだけでなく、そうしたカラクリがあった結果、彼の突然変異体の変質は進行してしまいました。事ここに至れば、もはや既存のシステムでは彼の突然変異体を倒す事は難しい。いえ、出来ない事はないですが、その為には彼の突然変異体を、少なくとも数十回、いえ、もしかしたら三桁分くらい殺しきらなければならないと思われます。〉

「さ、三桁っ!?た、ただでさえ強敵なのに、そんなに戦い続けたら、こっちの体力が保たないですよっ!!」


そこに、前衛組も加わって、もはや悲鳴に近い声を上げる。

特に彼らは、あの“化け物”と目の前で対峙しなければならない関係上、とてつもない集中力と精神力を要求される。


それでも、本来ならば一度倒しきれればそれで終わる訳だが、あの“化け物”は何度倒しても復活する、と明言されてしまった訳だ。


今でさえギリギリだというのに、これ以上の連戦に次ぐ連戦は、正直手に負えない、というのが本音だろう。


〈もちろんそれは分かっています。ですから、その為の()()なんですよ。先程も述べた通り、理論的には彼の突然変異体を倒す事は不可能ではないですが、ハッキリ言ってそれは現実的ではありません。あなた方に無限の体力や集中力、精神力が存在すれば話は別ですがね。あるいは、彼の突然変異体を、片手間に屠れるほどの圧倒的な実力がある、とかならばゴリ押しでも何とかなりますが、流石にそこまでのレベル差はない。〉

「・・・確かに。」

〈そこで、それらを一度で済む方法を考えました。〉

「それが・・・、()()?」

〈ええ。今のあなた方なら()()()筈です。『霊魂』というものが。そしてであるならば、彼の突然変異体の“核”となるものも見える事でしょう。〉

「「「「「「「・・・」」」」」」」


「う、ウギィィィ!ガアァァァッーーー!!!」


一時的に魔物達の『霊魂』を取り込んだ影響で、身体や『精神』、『霊魂』が変化・変質している元・ドレアムだった“化け物”はその動きを止めていた。

それ故に、そんなのんびりとした会話が成り立っていた訳であるが、今はその事はいいとして、カエサル達はじっとこの“化け物”を観察する。


すると、この“化け物”の胸の辺り、より一層輝く()()、が目に入ったのであった。


「っ!!あれかっ!!!」

「あれは一体・・・?」

〈あれは『永久原子』、と呼ばれるものです。“魂”を持つ者ならば全ての者が持っているものであり、先程も述べた通り、全ての“核”となるものです。あれを破壊されると、たとえ“高次の存在”とは言えど存在を保つ事が出来ません。逆に言えば、あれを破壊されない限り、“高次の存在”はたとえ肉体を破壊されようとも復活する事が可能となる。まぁ、今のあなた方には小難しい話かもしれませんがね。〉

「・・・つまり、あれさえ何とか出来れば、あの“化け物”も一撃で葬る事が出来る?」


流石に理解力が高いのか、カエサルは(偽)ハイドラスにそう確認した。


「そうかっ!確かにそれなら、あの“化け物”を何度も倒す必要はない、って事ッスねっ!?」

〈その通りです。ただ、もちろんそれも一筋縄では行かないでしょう。彼の突然変異体も当然それを全力で防ごうとする事でしょうし、逆に彼の突然変異体も、あなた方の『永久原子』を()()事が出来る可能性がある。当然、()()事が出来るなら破壊する事もおそらく可能でしょう。まぁ、今のあなた方では、仮に『永久原子』が無事だとしても、やはり『肉体』を破壊されれば死を免れない、と思われます。あくまで()()()()だけですからね。まぁ、あなた方には忠告するまでもないでしょうが。〉

「「「「「「「・・・」」」」」」」


当たり前だが、どんな分野も奥が深いものだ。

あくまでカエサル達は、“高次の次元”に一歩足を踏み入れた、どころか、正確にはそれを垣間見たに過ぎないのである。

故に、元・ドレアムだった“化け物”を殺す力を得た、だけであり、『霊魂』、すなわち“魂の力”が何たるかを真に理解した訳でもない。


少なくともそんな状態では本物の神、ここではヴァニタスとなるが、をどうこうする事は出来ない。

何故ならば、彼は最初からその領域に存在する存在なので、全ての経験値が圧倒的に違うからである。


例えるならば、その道のプロに、ようやくその道に踏み入れただけの素人がケンカを売る様なものだ。

これはハッキリ言って無謀でしかない。

その事を(偽)ハイドラスは、一応釘を刺しておいたのである。


まぁしかし、(偽)ハイドラスが忠告しなくとも、すでに彼らは以前と違いヴァニタスをどうこうする事は無理だと悟っていた。

これは、彼らがヴァニタスに近付いたからこそである。


“強くなる”事で、今まで分からなかった相手の“強さ”を理解出来る様になる事がある。

案外、これは珍しく事ではない。


そして彼らは、仮にもヴァニタスと同じ領域に足を踏み入れたからこそ、逆に今の状態ではワンチャンもない、という事を直感的に理解していたのである。


結局は、本物であれ偽物であれ明言している通り、ヴァニタスの事はセレウスとハイドラスに任せるのが無難、という結論に帰結した訳である。

そうした意味では、色々と懸念していたものの、彼らへの()()が全て良い方向に向かったと言えるかもしれない。


だがしかし、この“化け物”はまた話は別である。

もちろん、(偽)ハイドラスの言う通り決して油断は出来ないものの、ヴァニタスに比べたらこの“化け物”ならば、自分達でも十分に勝機がある、という結論に至ったからであろう。


「・・・分かってるッスよ、ハイドラス様。もう、ヴァニタスをどうこうする、とか無茶な事は言わないッス。今の俺達は、ハッキリ言って壁どころか足手まといにしかならない。それは、お二方の邪魔でしかないッスからね。」

「・・・けど、お二人の露払いくらいは出来ます。少なくとも、あの“化け物”くらいは、私達で倒してやりますよ。」

「ここまでお膳立てして貰いましたからね。それくらいは当然ですよ。」

〈・・・ふ、頼もしいですね。では、この場をお任せします。流石に我々も力を使い過ぎました。くれぐれも、気をつけ、て・・・。〉


そう言うと、(偽)ハイドラスの“声”が急速に遠ざかっていった。


これは演技ではない。

そもそもカエサル達に力を与えるならば、最初からこの方法を用いれば良かったのにも関わらずそうしなかったのは、確かに彼らにその資格がない、あるいはアクセス人類がそのレベルに達していない事も理由の一つではあるが、余計なエネルギーを使ってしまうから、というのも大きな理由であった。


先にも述べた通り、『限界突破』の試練であれ、人工“神化”であれ、それには大掛かりな下準備が必要ではあるが、それはすでに用意されていた。

(『限界突破』の試練に関しては、惑星アクエラの地脈を利用した大規模な装置が最初から用意されていたし、人工“神化”に関しても、“擬似霊子力発生装置”が急ピッチで用意されていた。)


その点、カエサル達の()()に関しては、最初から予定されていたものではないので、事前の準備が不足した状態だったのである。

もちろん、マギとネモは、セルース人類の宇宙船と紐付けされた状態であるから、彼らからエネルギーを拝借する事は可能だったが、それは流石に本物のセレウスとハイドラスが許さない、かもしれない。


まぁ、カエサル達の為であれば二人も目をつぶったかもしれないが、二人が自分達に不信感を持っている事はマギもネモも承知していたので、あえてセルース人類の“霊子力エネルギー”に手を出さなかったのであろう。


こうした裏事情もあり、カエサル達に力を与える代わりに彼らのサポートが出来なくなってしまった訳である。

あるいは、今の彼らならば、この危機を乗り越えられると確信したからかもしれないが。


カエサル達も、それを至極当然と受け止めていた。

メリットがあればデメリットもある。

そんな当然の、しかし案外分かっていない事も多い真理を彼らは理解していたからかもしれない。


そんな訳で、実質的に(偽)セレウスと(偽)ハイドラスの心強いバックアップを失いながらも、彼らに約束した通り、この“化け物”を打ち倒す決意を新たにしたのであったがーーー。



・・・



一方の元・ドレアムは、急速に失われていく“自分自身”、言うなれば“自我”が塗りつぶされていくのを感じながら、激しく後悔をしていた。


確かにヴァニタスの言う通り、圧倒的なパワーは手に入れた。

だから、彼の言う事は嘘ではなかったのだが、かと言ってこれは自分が求めていたものではなかったからである。


案外よくある話なのであるが、“願い”というものは望み通りにならない事も往々にしている。

彼が求めていたのは、あくまで“ドレアム”として強くなる事、言うなれば個人としての武を極める事にあったのであるが、ヴァニタスはそれをあえて曲解する事によって、“強くなる事”を中心に捉えて契約したのである。


故にそこに“個”というものは含まれていないのであるが、しかし“強くなる事”は達成しているので、嘘は言っていない=契約が成立している、という訳である。


まぁしかし、これも安易に力を求めた結果である。

本当に彼の理想を体現するのであれば、結局は遠回りの様ではあるが、地道な修練や学びこそが最大の近道だったのだ。


気付いた時には後の祭りである。

急速に膨れ上がるパワーに、『肉体』も『精神』も、そして『霊魂』さえ塗りつぶされて、生ける者全てを憎む、ただの怪物、悪霊、悪魔の様な存在に成り果ててしまったからであった。


・・・だが、そんな彼にも、唯一の救いがあった。


ー・・・あれ、は・・・ー


それは、“光”であった。


正確にはそれは、()()を果たしたカエサル達が発していた“魂の力”であり、直感的に元・ドレアムは、それが自分を殺し得る力だと察したのである。


望まぬ変化・変質を遂げた彼は、このまま“化け物”として生き恥を晒すよりかは、己の認めた強者の手によって終わる事を最後に望んだのであったーーー。



誤字・脱字がありましたら御指摘頂けると幸いです。


いつも御覧頂いてありがとうございます。

よろしければ、ブクマ登録、評価、感想、いいね等頂けると非常に嬉しく思います。

よろしくお願い致します。

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