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『英雄の因子』所持者の『異世界生活日記』  作者: 笠井 裕二
真・英雄大戦
340/383

そして化け物は悪魔になった 1

続きです。



◇◆◇



「ハハハッ!スゲェじゃねぇかっ!」

「うんうん、喜んで貰えてボクも嬉しいよ!」


一方その頃、ドレアムとヴァニタスは狂気的な笑い声を上げていた。


カエサル達がパワーアップを図っている中で、ドレアムもヴァニタスの手によってパワーアップを果たしていたのである。


元々オーガという種としては異常だったドレアムだったが、それによって更におかしな事になってしまったのであるが、その身に今まで感じた事もないパワーの前には、もはや細かい事はあまり気にしない様である。

いや、ヴァニタスにそういう風に()()()()()()()()()()()のかもしれないが。


「これなら、今度こそ奴らには負けんぞっ!」

「そうだろうね。キミは今、この世界(アクエラ)では誰よりも()()()()()。もはやキミに敵う生物など存在しない事だろう。」

「うむ・・・。」


にこやかにそう告げるヴァニタスに、ドレアムはやや姿勢を正して礼を述べる。


「感謝するぞ、小僧。そして、疑って悪かったな。」

「いやいや、別にいいんだよ。」


・・・別にキミの為、って訳じゃないしね。


内心でそう考えたヴァニタスだったが、もちろんそれを口に出す事はしなかった。


「それで?貴様の望みはなんだ?」


そう聞くドレアムに、ヴァニタスは頭を振った。


本来、物事はギブアンドテイクだ。

与えられたのならば、それ相応の対価を支払うのが普通なのである。


もっとも、世の中にはその原則を踏み倒したり無視したりする輩や現象も存在するが、まだ一応武人としての心が残っていたドレアムは、その原則を心得ていたのであろう。


「いや、ボクに対する謝礼なら必要ないよ。」


だが、ヴァニタスには金銭なりの受け渡しには興味がない。

それ故に、そういう返答になったのであった。


「ぬう、しかしだな・・・。」


なおも食い下がるドレアム。

彼にとっては、一方的に与えられるだけ、というのが何とも気持ち悪かったのであろう。


ヴァニタスはそれも見越していた。


「ただ、その代わりと言ってはなんだけど、確実にキミの(かたき)を葬ってくれないかい?」

「ぬっ・・・!?」


思わぬ提案に、しばしドレアムは戸惑った。


「実はボクにとっても、彼らは何かと目障りでねぇ〜。ただ、こっちの都合ではあるんだけど、ボクが直接出張(でば)る訳にも行かなかったんだ。そんな時、キミの存在を知ったのさ。彼らと因縁があって、なおかつ彼らを葬り去れる可能性のある存在。ボクにとって、キミの存在は渡りに船だった訳さ。」

「なるほど・・・。つまり、その為に俺に“力”を与えた、という訳だな?」

「そ。つまり、ボクにとってもキミに“力”を与える事にはメリットのある話だった訳。だから感謝される事はないよ。」

「ふむ・・・。」


ヴァニタスの告白に納得の表情を浮かべたドレアム。

ある意味利用されている訳ではあるが、それでも“力”を与えられた事もまた事実であるから、それに対して憤る事もなかったのである。


それに、そういう理由なら、確かにヴァニタスに対する謝礼も必要ない。

要はヴァニタスも自分の為にやった事であるから、これ以上ここで問答しても無意味だと悟ったのかもしれない。


「・・・承知した。もとよりそのつもりだったのだ。それで礼になると言うのであれば、俺自身の為にも奴らを確実に葬り去ると約束しよう。」

「うんうん、よろしくねぇ〜。」


切り替えが早く、話の早いドレアムはヴァニタスにとっても好ましい存在であった。

・・・まぁ、あくまで“駒”として、ではあるが。


「して、ついでに聞いておくが、奴らがどこに行ったかは小僧には分かるか?」


カエサル達を取り逃し、ヴァニタスと出会い、“改造(パワーアップ)”を施されて幾分か経つ。

ドレアム自身には一瞬の出来事の様にも思えたかもしれないが、正確にはおそらく二、三日はすでに経過しているのだ。


それだけ経つと追跡も容易ではない。

以前はカエサル達の目的地が分かっていたのでそこまででもなかったのだが、流石にいつまでも同じ場所にはいないだろう、と思い込んだドレアムはそう聞いた訳であるが、しかしヴァニタスの返答は思いがけないものであった。


「分かるよぉ〜。彼ら、まだ“封印の大地”にいるみたいだねぇ〜。そんなに長居して何をしているのかは知らないけど、何か調べ物でもあるんじゃないの?」

「ほぅ、そうかそうか。」


何でそんな事がヴァニタスに分かるのかはドレアムは知らないが、彼が只者ではない事はすでに知っていただけに、それを疑いもせずにドレアムは頷いたのだった。


細かい事は気にしない。

少なくともドレアムにとっては、自分に敗北を味あわせた者達との再戦の方が重要なのであろう。


「では、早速征ってくるぞっ!朗報を楽しみにしておけっ!!」

「いってらっしゃ〜い。」


鉄塊の得物を片手に、その巨躯には似合わぬスピードで駆けていくドレアム。

ヴァニタスは、それをにこやかに見送ったのであったーーー。











「・・・さて、どうなるかな?せいぜい暴れ回ってくれると面白いんだけど。」


ドレアムの姿が見えなくなってから、表情の抜けたヴァニタスの呟きだけが虚空に消えていったーーー。



◇◆◇



〈〈っ!!!???〉〉

「・・・?どうかされましたか?」


一方、カエサル達は修行に勤しんでいると、(偽)セレウスと(偽)ハイドラスの息を呑む様な“声”が聞こえた。

それを不審に思い、カエサルがそうたずねたのであるが・・・。


〈お前らっ!今すぐこの場を離れろっ!!〉

「「「「「「「はっ・・・!?」」」」」」」


あまりに突然の事に、カエサル達はポカーンとする。


〈・・・いえ、もう遅いでしょう。むしろ今、我々と離れる方がかえって危険かもしれません・・・。〉

〈チッ・・・!〉

「・・・あの、もしかして良くない事があったんですか?」


流石に様子がおかしいと悟ったカエサルは、皆を代表してそう聞いた。


〈・・・例のバケモンだよ。かなり近くまで迫っている。よもや、俺らにすらその存在を悟らせないとは・・・。〉

()が何か仕掛けていたのでしょう。もしかしたら、“ジャミング”みたいなものを使ったのかもしせません。それならば、今まで我々にその存在を悟らせなかったのも納得がいきます。〉

〈チッ、こざかしいな・・・。〉


偽物の二人の()()は中々のものであった。

すでに本物のセレウスとハイドラスが会話しているのではないか、という程度には真に迫っていた。


「奴か・・・。しかし、慌てる必要はないのでは?確かに以前の私達ならばヤバかったかもしれませんが、ここ数日で確実にレベルアップしていますし・・・。」

〈そう、なんだが、どうも嫌な予感が、な。曖昧な表現で悪いんだが・・・。〉

〈あなた方がパワーアップしている事は、おそらく()も承知している筈。なのに、このタイミングで例の突然変異体をあなた方にぶつけにくる、という事は、それなりに勝算あっての事かと思われます。もしかしたらあなた方と同様に、その突然変異体にもパワーアップを施しているのかもしれません。〉

「まさか・・・。」

()を侮るな。嫌がらせに関しちゃ、()はピカイチだろうよ。それで何度となく煮え湯を飲まされているからな。しかも、自分が直接出張(でば)る事もないから、中々尻尾も掴ませない。〉

「・・・厄介ですね。」


話には聞いていたが、いざ自分達がその毒牙にかかろうか、という場面になって、ようやくヴァニタスの厄介さを思い知ったのだろう。

フリットはそうボソリと呟いた。


「・・・だが、いずれにせよやるしかないんじゃないかい?逃げるにしてももはや時間はないみたいだし、そうなれば、生き残る為にも今度こそ奴を撃破するしかない。もちろん不安要素があるまでも、ボク達()()なら、きっと乗り越えられる筈さ。」

「そっスよっ!覚悟を決めるっス!」

「「「「「「「っ!!!」」」」」」」


いざという時は、案外女性の方が度胸が据わっているものだ。

ルドベキアとアルメリアの言葉に、カエサル達も覚悟を決めた様であった。


〈そう、だな。〉

〈そうですね。きっと我々の力なら、乗り越えられると信じましょう。我々も出来る範囲でサポートしますよ。皆さん、頑張って下さいね!〉

「「「「「「「はいっ!!!」」」」」」」



・・・



「ハハハッ!見つけたぞっ!」

「来たーーー!」


ほどなくして、“封印の大地”に一体の“化け物”が姿を現した。


その姿は、四肢を切断したにも関わらず、その凄まじい回復力、再生力によってすっかり元通りとなっていた。


だがそれだけだ。

他には、見た目的に変わった事はない。


以前に遭遇した時と何ら変わらない姿がそこにあっただけなのだが、しかしその見た目には分からない、何とも言えない禍々しさがその“化け物”を覆っている事をカエサル達は幻視していた。


「グハハッ、心ゆくまで死合おうぞっ!」

「はやっーーー!」


“化け物”がカエサル達を認識すると、その巨体には似合わぬスピードで突っ込んで来る。

明らかに、以前に比べてスピードは格段に上がっている事が分かった。


だが、カエサル達もただこの地で遊んでいた訳ではない。

たった数日の修行期間ではあったが、七人が七人、しっかりとレベルアップを果たしていたのであった。


「雷よっ!」

「ぬぅっ!?」


アルフォンスがそう叫ぶと、“化け物”に向かって一筋の電撃が走った。


電気が伝わる速さはほぼ光速に近い、と言われている。

少なくとも、人間やその他の生物が、落雷を認識してそれを避ける事は不可能である。


つまり、“速さ”に関しては、電撃に勝るものはほぼ存在しないに等しいのである。


そして、身体能力的な“速さ”で言えば、フリット、そして『魔闘気』を習得したアベル、“術式”を無事に改良したカエサルと、超スピードで移動する事が可能な存在はパーティー内に三人も居るが、流石にこの先制攻撃よりも“速い”者はいなかった。


「グワアァァァッ〜〜〜!!!」


当然、いくらこの“化け物”でも、ほぼ光速で進む電撃を避ける事など出来よう筈もなく、モロにその直撃を受ける。


電撃の恐ろしい点は、内部の神経もやはり電気信号でやり取りしているから、全身に麻痺を引き起こすと共に、その余剰エネルギーが火傷の様な症状を引き起こす点である。


だが、重要な臓器がダメージを受けるとそれだけで命取りとなるのであるが、この“化け物”にとっては一瞬行動不能にされるだけ、という程度でしかなかった。


「・・・やってくれるわっ!」

「せいっ!」

「ぬっ!?」


本当にとんでもない回復力である。

初見の者であったなら、最初の一撃で終わりと判断し、ある種の油断をしていた事であろう。


だが、この“化け物”と出会うのはカエサル達は二度目である。

それ故に、その驚異的な回復力は織り込み済みであるから、アッサリと復活した“化け物”に驚く事もなく、それどころかそれを見越した上で更なる追撃、連携攻撃が繰り出される。


“瞬動術”をマスターしたアベルとフリットの超速攻撃。

それに、(偽)ハイドラスとの共同で改良を施した風の魔法を身にまとったカエサルの合わせ技である。


ザシュッ!

ガキンッ!

ガキンッ!!


「チッ!」

「受け止めたっ!?」

「浅いっ・・・!」


流石に電撃に比べればまだ遅い攻撃であるが、さりとて生物なら中々反応出来ないタイミングである。


しかし、“化け物”も流石である。

カエサル達は容赦なく四肢、あるいは首を狙ったにも関わらず、致命傷はしっかり鉄塊の獲物で受け止めたのであった。


種明かしをすると、実際にはただ()()()()()()だけである。


カエサル達にとっても二度目であるが、この“化け物”にとってもカエサル達との戦闘は二度目でもある。

つまり、彼らが追撃、連携攻撃をする事は分かりきっていたので、その攻撃範囲を予測し、致命傷になる場所にあらかじめ鉄塊を構えていたのである。


いくら“速い”と言っても、物理的な攻撃なら来る場所が分かっていれば受け止められるのである。

もちろん、この“化け物”のパワーがあってこそ成立する防御なのであるが。


それに、普通ならいくら浅くとも、ダメージの蓄積は後に深刻になってくるのであるが、致命傷さえ避けられればこの“化け物”にとって少しの傷などすぐに回復する。

自身の特性をしっかり把握した立ち回りと言えるであろう。


が、波状攻撃はこれで終わりな訳ではない。

“前衛組”のターンが終われば、次は“後衛組”のターンである。


「離れろっ!!!」

「「「っ!!!」」」

「どりゃあぁ〜!!」

「フンッ!」


ガキンッ!


残念ながら、そのドワーフ族特有の小柄さから、“瞬動術”とは相性の悪かったヴェルムンドは、その習得を諦めていた。

それ故に、スピードにおいてはアベル、フリット、カエサルに大きく水をあけられる事となったのであるが、逆にそのドワーフ族の特性である頑強さを伸ばし、所謂“タンク”としての役割に振り切った様である。


実際、ヘイトコントロールは非常に重要だ。

パーティーの中には、後衛組の様に、所謂“打たれ弱い”者達も存在するからである。


以前にも言及したかもしれないが、基本的に“魔法使い”と呼ばれる者達は(カエサルや後の世のアキトは例外中の例外であるが)近接戦闘を不得意としている。

これは、才能云々以前に、技術を習得するのに時間がかかるからである。


当然であるが、『魔法技術』を習得し、それを使いこなし、更にはオリジナルの魔法を作り出すともなれば、それこそかなりの専門的な知識や研究が必要となる。

少なくとも、一朝一夕で身に付くほど簡単なものではなく、どれほど才能のある者であっても、十年くらいの時間が確実にかかる訳である。


それと同様に、武術と呼ばれる技術も一朝一夕で身に付くものではなく、これらを同時進行で習得しようとするならば、相当効率的な時間配分が求められるし、両方を教えられる師の存在が必要不可欠である。

(アキトの場合、その二点をクリアしている。

アルメリアという師の存在に、赤子の頃からの鍛錬。

だが、そんな環境は普通はありえない訳である。)


当然ながら、“魔法使い”は『魔法技術』の専門家であり、武術に関しては門外漢である。

もちろん、セレウスやハイドラスはどちらも一流以上に扱えるが、残念ながらカエサルやルドベキアやアルメリアは彼らにずっと師事していた訳ではない。


つまり、『魔法技術』はともかく、武術は習得しているとは言い難い状況な訳である。

(もちろん、これまでの魔物との戦いによって、ある程度の立ち回りは覚えているが、あくまで一般人よりマシ、という程度であり、流石にアベル達の様な一流の使い手の足元にも及んでいないのである。)


要は、後衛組は近接戦闘技術を修めていないのである。

そしてここで重要なのは、回避技術、である。


先程は“打たれ弱い”と表現したが、だからと言って、別に前衛組が“打たれ強い”という意味ではない。

もちろん、ある程度タフである事は否定しないが、彼らは武術の基本として、相手の攻撃を避けたり、いなしたり、あるいは正面から受け止めたり、という技術を習得しているのである。


そして仮に相手が一人の場合、そうやって相手の行動を封じ込める事により、他に攻撃の手が及ばない、つまり安全性が確保される、という訳である。


特にこの“化け物”の様な強敵の存在には、ヴェルムンドの様な“タンク”がいるかいないかで難易度が全く異なってくるのであった。


アベル達の離脱の時間を稼いだヴェルムンドだが、今度は彼が逃げ遅れる事となる訳である。

このまま“後衛組”の魔法が炸裂すると、当然ヴェルムンドも巻き込まれる事となる訳であるがーーー。


「『真空』!」

「っ!?」

「今ですっ!ヴェルムンドさん、離れてっ!」

「応っ!」


すかさずそこへ、“前衛組”、かつ“魔法使い”であるカエサルの魔法が“化け物”を襲った。


風系術式を得意とするカエサルは、“風”、つまりは“大気”をある程度コントロールする事が出来る。

そしてその中には、限定的な一部の場所に、“真空状態”を作り出す技術も存在していたのである。


“真空状態”、すなわち空気が存在しない状態な訳であるから、生物にとって重要な“呼吸”をさせない、という状況を作り出すのが可能なのである。


もちろん、あくまで惑星上であるから完全なる“真空状態”を作り出す事は不可能である。

しかし、それでも酸素濃度を調整して酸欠状態を作り出す事自体は可能であるから、正式には『真空』でななく『酸欠』なのであるが、それによって“化け物”の動きを制限した訳であった。


戦いにおける数秒の時間は非常に貴重である。

これによってヴェルムンドも余裕で離脱する事が出来た訳であり、その瞬間を待っていたかの様に“後衛組”の魔法が解き放たれた。


「ルドベキア・ストレリチアの名において命ずる。

大地と大気の精霊よ。

古いにしえの盟約に基づき、敵を捕縛せよ。

『クリエイティブ・クエイク』!」

「ブハッ!ゼッー、ハッー!・・・ぬっ!?」


ゴゴゴッ!


ルドベキアの詠唱により、“化け物”の四方を囲む様に地面が隆起した。

イメージ的には、“土の牢獄”に閉じ込めた感じである。


もっとも、その天井はガラ空きであったから、この“化け物”ほどの体躯があれば脱出は非常に容易ではあったが。


「アルメリア・ストレリチアの名において命ずる。

水と大気の精霊よ。

古の盟約に基づき、潤いで満たせ。

『クリエイティブ・ウォーター』!」


ザバーンッ!


「ぬおっ!?」


が、続けざまにアルメリアの魔法が“化け物”を襲った。

ちょうど“土の牢獄”でせき止められる形で、その場を水が満たしていったのである。

所謂“水責め”であった。


先程の呼吸云々の話と同様に、溺れさせられると呼吸が出来ず溺死してしまう。

が、先程も述べた通り、その形は中途半端であり、あいかわらず天井はガラ空きだ。


当然ながら、この“化け物”もそこから脱出を図る。

が、更に更に、ここでアルフォンスが追い討ちをかける。


「雷よっ!」

「な、何っ!?ガアァァァッーーー!!!」


先程の焼き増しの様に、再び電撃を浴びせたのである。


しかも先程とは違うのは、“水”という“導体”が存在する事である。

(本来、“水”というのは電気を通さない“絶縁体”なのだが、それは不純物を取り除いた場合にそうなるのであって、実際には“水”は電気を通す“導体”となる。)


これによって、先程は地面に逃げていった電気が、常に“化け物”を襲う状況が作られた訳であった。


さしもの“化け物”も、驚異的な回復力を上回る攻撃を受け続ければいつかは絶命する。

各々の得意技を組み合わせた、ある意味完璧な罠の完成であった。


悲痛な咆哮を上げる“化け物”に、カエサル達の脳裏に“終わりだ”、という言葉が浮かんで来た事だろう。


・・・だが、ヴァニタスがこの“化け物”に施した()()は、彼らの想像を容易く打ち砕いたのであった。


「・・・なんちゃって。」

「「「「「「「・・・は?」」」」」」」

「フンッ!」


バリンッ!


“化け物”が不意に苦悶の表情から余裕の表情に変わると、電撃もものともせずに“土の牢獄”がアッサリ壊されたのであった。


いくら驚異的な回復力を持つとは言えど、あまりの事にさしものカエサル達も一瞬思考が停止した。


〈バカっ!ほうけてる場合かっ!もう一度だっ!〉


が、脳内に(偽)セレウスの言葉が木霊すると、カエサル達はハッとして再び動き始める。


その間、“化け物”が抵抗するかに思われたが、全くの棒立ちであり、それが彼らに誤解を与えたのであった。


“本当は効いてるのに、フェイク(強がり)だったっ!”

といったところか。


()()()に考えれば、彼らの判断は間違いではなかった。

いくら驚異的な回復力があるとは言えど、だからと言って“死なない”という事ではないからである。


だが、ただ一人、(偽)ハイドラスだけは、おそらくこの“化け物”に同じ攻撃が効かないだろう事を何となく察していた。

・・・察していたが、その正体までは分からなかったので、その正体を見極める上でも、あえて(偽)セレウスの言葉とカエサル達の行動を止める事もなかったのである。


そして・・・。


再びコンビネーション魔法が完成すると、今度こそ、という思いからアルフォンスは力強く言葉を発した。


「雷よっ!」

「!!!」


ドゴンッ!

ズバンッ!


アルフォンスの思いに応える様に、先程よりも威力の上がった電撃が再び“化け物”を襲った。

それは、アルメリアの“水”を吹き飛ばす勢いであり、図らずも“水蒸気爆発”が起こるほどのものだった。


耳をつんざく様な轟音の後、もくもくと上がる水煙としばしの静寂。


誰もが、固唾をのんでそれを見守っていた。


が、そこには一つの影が平然と立っている姿が見えた。


「ふぃ〜。デッカイ花火だったなぁ〜・・・。」

「こ、攻撃が、効かないっ・・・!?」


その言葉は、誰が呟いた言葉だったのだろうかーーー?



誤字・脱字がありましたら御指摘頂けると幸いです。


いつも御覧頂けるとありがとうございます。

よろしければ、ブクマ登録、評価、感想、いいね等頂けると非常に嬉しく思います。

よろしくお願い致します。

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