まるでゾンビ映画の如く
続きです。
突然だが、“先天性無痛無汗症”というものをご存知であろうか?
これは、読んで字の如く、先天的に痛みを感じず、汗もかかない、という疾患である。
一見すると、大した事ない様にも思われるかもしれないが(むしろ、痛みも汗もかかないなら良いのでは?、と思ってしまうかもしれないが)、もちろんそんな単純な話ではない。
当たり前だが、“痛み”というのは非常に重要なシグナルであったりセンサーだったりする。
これがあるお陰で、心身に異常がある場合に即座に分かる訳である。
しかし、この疾患を持っている者達は痛みを感じないので、骨が折れようが出血しようが平然としているのである。
ただし、痛みを感じないだけで身体には異常がある訳で、結果としてそれらの発覚が遅れ、重症化するケースもある。
また、痛みには“温度を感じる”、という側面もあるので、“暑い”とか“寒い”とかを感じる事が出来ずに、火傷や凍傷になっていて、それに気付かなかったりもするのである。
更には、発汗という、大切な体温調整機能も正しく機能していないので、運動などによって高まった体温を正常に戻す事も出来ない(その逆も然り)ので、健常者並みの身体能力、運動神経を持っていたとしても身体を動かす事が出来ない、というか命の危機になってしまう恐れがあるのである。
この様に、日常生活はもちろん、あらゆる場面で不利益が生じる上に、発病のケースは稀であり、なおかつ治療法なども確立していない指定難病なのであった。
さて、では話を本編に戻すとして、ドレアムの強さの理由、原因は何であろうか?
一言で言えば、彼の特異性は、“代謝機能の異常促進”である。
もっと簡単に言えば、“とてつもない回復力を持っている”という事であった。
元々生物には自然治癒力というものが存在する。
ちょっとした軽症であれば、放っておいても治ってしまうのはこの為である。
この生物が元々持っている自然治癒力を爆発的に高めたのがこの世界の回復魔法なのである。
ただし、あくまで自然治癒力を高めたものに過ぎないので、物語やゲームなどの様な、瞬時の回復は不可能なのである。
(一方で、全治一週間ほどの怪我をしたとしても、回復魔法を用いる事でそれを一日に短縮する事は可能。)
もっとも、これは以前にも言及した通り、あくまでも対象者、患者の自然治癒力に依存しているので、正しい知識なしに使うと、かえって危険な魔法ともなる。
体内の栄養素等、もっと言ってしまえば生命力を使う事もあり、場合によっては寿命を縮める事ともなりかねないし、最悪の場合は死に至るケースも存在するからである。
だが、これらのデメリットが全て存在しなかったとしたら、どうであろうか?
以前にも言及した通り、ドレアムは、もちろん“強制レベルアップ”という外的要因もあったのであるが、その結果として所謂“異常個体”、“突然変異”と呼ばれる存在になってしまったのである。
その結果もたらされたのが、先程も述べた“代謝機能の異常促進”なのである。
これの何が凄いかと言うと、もはや彼は、肉体の限界を考える必要がない、という事である。
先程も述べた通り、生物には“痛み”という防御機能が備わっている。
これによって、肉体の限界値を決められており、生活や生存に適した肉体の使い方が出来ているのである。
だが、“火事場のクソ力”の様に、実際には普段は抑えている“力”というものが存在するのだ。
だが、とてつもない力を発揮する代わりに、自身の肉体を傷付ける可能性があるので、それらを常時発動していてはとても長生き出来ないからである。
(特に肉体を酷似するスポーツ選手に顕著であるが、彼らは怪我や故障がつきものである。
これは、自身の持つ力の反動で自身を傷付けているからである。
あまりの速球を投げ過ぎて肩を壊すとか、肘をやるとかは、その結果なのである。)
だが、異常な回復力が存在するのならば、その限界を無視する事が出来る。
つまり、相手からのダメージも瞬時に回復出来る上に、自分自身の攻撃の反動で自身に蓄積するダメージもまるっと無視出来る、どころか、普通は抑えられる筈のパワーやスピード等も、限界を越えて常時使う事が出来るのである。
ただえさえ恐ろしい力を持つオーガと呼ばれら種が、更にそんな異常な力さえ持っていたら、これはもはや手がつけられないだろう。
なるほど、魔王・マルムスが苦戦するだけあって、ドレアムの存在自体、異常であった。
しかも彼は、それに加えて非常に好戦的な性質を持ち、何よりも強者との戦いに喜びを見出すタイプだ。
そんな、存在自体、厄災の様な存在に正面から戦り合うのは、あまりに無謀であった。
まぁ、カエサル達は、そもそもドレアムのターゲットとして最初からロックオンされていたし、状況的に逃げる事が困難であった事も否定はしないが、本来は逃げる、というのが最適解なのである。
さて、そんなまさに“化け物”の様な存在を相手に、カエサル達はどう切り抜けるのであろうかーーー?
◇◆◇
「な、何だコイツッ!ビクともしやがらねぇっ!」
「ダメージは届いてるハズなんだけどっ・・・!」
「一体、どうやってるんだっ・・・!?」
ドレアムとの戦闘は引き続き継続中であった。
流石に歴戦の猛者であるアベル達は、今のところ大きな崩れもなくドレアムと渡り合っていたが、それも今の内だけである。
ドレアムの持つ“代謝機能の異常促進”は、当然ながら“疲労”にも効果があるので、戦いが長引けば長引くほど、アベル達にはダメージと疲労が蓄積し、ドレアムはその逆となる。
どちらが有利かは言うまでもなく、ある意味ジリ貧状態なのであった。
(ちなみに、ドレアムはこの“代謝機能の異常促進”を成立させる上で大量のエネルギーを必要とする。
つまりは、大量の食糧が必要となるのである意味非常に燃費が悪いのであるが、しかしそれをしなければ彼はその自らの異常な回復力故に自らの肉体を維持する事が出来ない、という弱点が存在するのである。
言ってしまえば、ドレアムに有効な手段は、“兵糧攻め”、という昔から存在するありふれた手法なのであるが、いずれにせよこれは長期的な戦略であり、現時点ではあまり意味を成さない情報であった。)
それに、焦りは思った以上に精神力を消耗させるものだ。
いくら叩いても(一見)全く効いていない様に見えれば、アベル達の心が先に折れたとしても不思議な話ではない。
そして、諦めた瞬間、彼らの運命は決定づけられてしまう。
すなわち、純粋な死、である。
アベルはゾッとした。
確かに彼らは、死と隣り合わせの生活には慣れている。
少なくとも、魔物達と渡り合うという事は、食うか食われるか、という事だからである。
しかし、カエサル達に言った事は、図らずもアベル達自身にも当てはまる事であった。
今現在のアベル達は、ハッキリ言って圧倒的な強者の部類に属する存在であり、長らく“死”というものから遠ざかっていたのである。
少なくとも、自分自身の死に関しては。
それが、油断や慢心に繋がる事は以前にも述べた通りであるが、“終わり”というのはどこに潜んでいるか分からないものだ。
それが、もしかしたら今日かもしれない、という事を久しく忘れていたのだが、突如現れた目の前のオーガ(ドレアム)が、その死の恐怖を思い出させていた。
焦りに加え死の恐怖感は、当然ながらメンタルに多大な悪影響をもたらす。
オーガ(ドレアム)と打ち合う度に、急速にしぼんでゆく“希望”が、徐々に彼らの中に“絶望”を広げていったのであった。
「いいねいいねっ!こんなにつえぇ奴は、マルムス以来だぜっ!!もっと俺を愉しませてくれよっ!」
ますますギラギラと燃え上がるドレアムに、ついにアベル達はたじろぎ始める。
・・・だが、幸いな事に、彼らはあくまで“パーティー”であった。
確かに、一対一なら勝敗はすでに決していたかもしれないが、仲間の存在があった事がここで大きな意味を持ってきたのである。
「皆離れてっ!」
「「「っ!!!???」」」
「むっ・・・!?」
聞き馴染みのある声に突き動かされて、アベル達は反射的にドレアムとの距離を取った。
ここら辺は長年の付き合いからくる阿吽の呼吸だったのだろう。
「精霊よっ!」
「なっ・・・!?」
それを確認するや否や、ドレアムの身体を炎が包み込んだ。
時間にすれば、アベル達が離れてから数秒もしないくらいの間隔である。
流石にアベル達に意識が向いていたドレアムには、これを回避する事は出来なかった。
「おまっ!こんな森ん中でっ・・・!」
「心配しないで!僕の制御は完璧だからっ!」
「「「・・・」」」
抗議の声を上げるアベルに対して、アルフォンスは自信満々にそうのたまった。
そう。
何度となく言及しているが、この世界の魔法にはフレンドリーファイアが存在するのだ。
という事はつまり、当然ながら周囲にも影響を及ぼす、という事でもある。
特に火系の術式は、仲間達への直接的な誤爆を免れたとしても、それが木々に燃え移ったとしたら、間接的に仲間達を追い込む事ともなりかねない。
それ故に、周囲の地形や状況を考慮した魔法を選択する必要があり、森林地帯での火系の魔法はある意味御法度なのである。
もっとも、やはり火系の魔法は、特に戦闘には非常に有用な魔法であるので、対象だけを完璧に捉えるスキルが存在するのであれば使わない手はない。
まぁ、それでも、火薬庫で火を取り扱うくらい危険な行為でもあったのであるが。
「ぐあぁ〜〜〜!あ、アツいっ!!!」
「お、おいっ!見ろっ!!」
「「「っ!!!」」」
だがその甲斐あって、アベル達にも、ドレアムの異常な回復力が明確に判明したのであった。
当然ながら全身を炎に包まれたのならば、火傷を負うのが普通である。
だがドレアムは、確かに火傷はしたのであるが、それがまるで映像を逆回しでもするかの様に、あっという間にその痕跡が消え去ったのであった。
「ふ、ふぅ・・・。やってくれたなぁ〜!!」
まさに一目瞭然。
先程までは乱戦であった事もあり、ドレアムの能力について全く分からなかったのであるが(それに、そんな能力があるとは想像もつかなかった事もあるかもしれないが)、それをその目で見た以上、もはや疑う余地もない。
不意討ちに激昂したドレアムは、アルフォンスを見据える。
「うっ・・・!」
「やらせるかよっ!」
「ぬうっ!?」
その足で、アルフォンスに襲いかかろうとするも、当然ながらそれはアベル達に阻まれてしまう。
色々とショッキングな事が連発したが、そのお陰で色々と判明した以上、先程までの全く何も分からない状況とは違い、精神的な余裕が少し戻ってきたのであろう。
とは言えど、ネタが割れてもそれで解決した訳ではない。
むしろ、状況は何一つ好転していないのだが、そこはそれ、自分達には更に別の仲間がいる事を改めて思い出していたーーー。
・・・
一方その頃、ドレアムの反撃によってダメージを負ってしまったカエサルの治療を終えたカエサル、ルドベキア、アルメリアの三人も、アルフォンスによるネタバレを目の当たりにしていた。
「な、何スか、あれっ・・・!?」
「・・・そういう事か。」
「・・・ああ。」
驚愕の声を上げるアルメリアとは対照的に、カエサルとルドベキアの頭の良い組は、むしろ納得の声を上げていた。
「お二人は、何か分かったんスかっ!?」
「ああ、何となくね。」
「それと、絶望的な事実も、な。」
「・・・???どういう事っスか?」
治療明けという事もあり、あまり顔色が芳しくないカエサルはともかく、ルドベキアの顔にも不安の色が滲み出ていた。
「結論から言えば、奴を倒すのは実質的に不可能だ。もちろん、生物である以上あの回復力にも限界が存在するだろうが、その前に我々の方がやられる可能性の方が高い。」
「実際、アベルさん達に比べたら奴の動きは一切衰えていない。あの回復力は、体力にも関係しているんだろうな。」
「そ、そんなっ・・・!」
流石に高い知能を持つ二人は、アルフォンスによるネタバレによって、ドレアムの能力の一端にすぐに気付いていたのだ。
そして、それが全く良い情報ではない事も。
「それ故に、戦闘が長引けは長引くほどこちらに取っては不利となる。つまり、この場における最適解は、逃げる、という一手だけだ。あんな化け物と正面からやり合っても意味はないからな。」
「・・・だったらっ!」
そんな簡単な方法があるのか、とアルメリアは目を輝かせた。
「・・・だが、それも難しいだろう。奴はこちらを認知している。ボク達がここで逃げる事は不可能ではないかもしれないが、その場合、アベルさん達を囮にする事となる。しかし、誰かに注意を向けない事には逃げる事も不可能・・・。せめて、奴を一度戦闘不能状態に持ち込めれば、な。」
「なんだ、あるじゃないッスか、そんな簡単な手段が。」
再びそれを否定したルドベキアだったが、アルメリアは事も無げにそう言った。
カエサルとルドベキアは一瞬ポカーンとする。
「いや、話聞いてた?奴を追い込むのは現時点では不可能・・・。」
「出来るっスよ。まぁ、見てて下さいっス!」
自信満々にそうのたまうアルメリアに、半信半疑ながら二人はこの場を彼女に任せる事とした。
いずれにせよ、二人には解決策を導けなかったのだ。
これで、何とか出来れば儲け物、くらいの感覚だったのかもしれないーーー。
・・・
「はあ、はあ、くそっ!こんなところで殺れらてたまるかよっ!」
ガキンッ!
「ふんっ!グハハハハッ!良いぞ良いぞっ!俺をもっと愉しませてみろっ!」
「調子に、のるなっ!」
「舐めるなよっ!」
ドゴンッ!!
「グフッ!・・・つぅ〜!」
「皆、離れてっ!」
「「「っ!!!」」」
流石に4人組の連携は一朝一夕のものではない。
ドレアムの能力により、どんどんとその差は広がっているにも関わらず、いまだに粘り強く生き残っていたからである。
だが、ネタが割れてもジリ貧である事には変わりない。
少なくとも、ここで一旦仕切り直す事さえ出来れば、彼らほどの使い手であればドレアムを倒す方法も思い付くかもしれない。
しかし、それが出来れば苦労はしない。
“この世界”は、所謂“初見殺し”の連続なのである。
「敵を知り己を知れば百戦危うからず」とはいうものの、常にそうした事が出来る訳ではないのが現実なのである。
ーーーだが、手札があれば、話も変わってくる。
少なくとも彼らには、各々得意分野がそれぞれ異なる“仲間”の存在があった。
先程の焼き増しの様に、アルフォンスの叫びによって一旦ドレアムから離れたアベル、ヴェルムンド、フリットの三人。
そこに、やはり先程の焼き増しの様に、アルフォンスの炎の攻撃がドレアムを捉える。
ーーーだが、それが無意味な事は彼らも知っていた。
本来ならば、必殺である筈のこの完璧なコンビネーション技も、ドレアムの回復力の前には少しの時間を稼ぐだけに過ぎないからである。
だが、だがしかし、そのわずかな時間が、その後の展開に大きな意味をもたらしていた。
「・・・そのまま下がって下さいっスッ!!!」
「「「「っ!!!???」」」」
「ぬうっ・・・!?」
先程とは違い、ここで更に声が響き渡る。
誰あろう、アルメリアの声であった。
その声に導かれる様に、その後、再びアベル、ヴェルムンド、フリットによる波状攻撃に雪崩込むところを、咄嗟に4人組はドレアムから距離を取ったのである。
一方のドレアムは、4人組に対する警戒感からか、ほとんど棒立ちのまま、その場を動けずにいたのであるーーー。
ここで、改めてアルメリアの得意分野を解説しておこう。
彼女は、水系の術式を得意とする“魔法使い”である。
もちろん、一流の魔法使いともなると基礎である四大属性は使えて当たり前なのだが、その先、上級や上位の属性まで含めて、全てを網羅する魔法使いは皆無である。
これは当たり前の話で、『魔法技術』を学問も捉えると、つまりは専攻する分野がそれぞれ異なるのと同じだからである。
一つの学問を極めるとなると、それこそ人生をかけた長い研鑽が必要なのと同じで、『魔法技術』もある程度のレベルに到達すると、術師はそれぞれの専門分野に分かれるのである。
(例えば、一口に“陸上”と言っても、短距離の選手なのか長距離の選手なのかで全く異なる。
もちろん、まだそこまでの差異が存在しない幼年期であれば、どちらも速い、という事もありうるが、どんどん専門性が高くなってくると、長距離において、短距離専門の選手は長距離専門の選手には敵わなくなってくるし、その逆も然りなのである。)
以前にも言及した通り、カエサルは風系の、ルドベキアは土(地)系の、アルメリアは水系のスペシャリストであって、同じ“魔法使い”であっても、事各々が専攻する分野にはもはや敵わない、という状況になっているのである。
実際、知能も高く、幅広い知識を持つカエサルとルドベキアであるが、アルメリアが自信満々にしている根拠が全く想像がつかなかった。
これは、水系の術式にはアルメリアほどに精通していないからである。
いや、ある程度の知識があれば、もしかしたらこの場面で、アルメリアは以前にも披露した“マイクロウェーブ”を放つつもりなのかもしれない、と考える事は出来ただろうが、しかし、もちろん彼女はこの場面でそれを使うつもりはなかった。
そもそも“マイクロウェーブ”は、以前にも言及した通り、対象の体内に存在する水(水分子)を、加速、回転させて、それらを熱する、あるいは沸騰させる術式である。
いくら驚異的な回復力を有するとは言えど、内部から破壊されれば保たないので、それも有りと言えば有りなのだが、これは他の魔法も同様であるが、非常にコントロールが難しい、という弱点を持っているのである。
以前の場合は、対象である魔物達が固まっており、なおかつ仲間達と相当距離が離れていた事もあって何事もなかったが、今の様な乱戦に近い形であると、下手するその魔法は仲間達にも影響を与える可能性がある。
特に“マイクロウェーブ”は、視認性の極めて悪い魔法だ。
“ストーンショット”の様に、目に見える魔法とは違い、あくまでミクロのレベルを扱う魔法であるから、誤爆を避けるには術師のコントロールだけが頼り、という極めて危険性の高い魔法なのである。
では、この場面で彼女はどうするつもりなのか?
視認性が良く、なおかつ十分な破壊力を持つ魔法。
答えは、これであった。
「アルメリア・ストレリチアの名において命ずる。
水と大気の精霊よ。
古の盟約に基づき、我が敵を貫け!
『ウォーターカッター』!」
「があぁっ!!!???」
ウォーターカッターは、後の世でエイルが使用する古代語魔法である。
古の『魔法技術』が失われる以前である今現在においては、当然ながら存在する魔法であった。
もちろん、一流の、それも水系術式を極めた魔法使いだけが会得出来るものでもあるし、そもそもこれは、アルメリアのオリジナルの術式であったので、今現在、使い手は彼女しかいないのであるが。
これの効果は、水系術式で顕現させたただの水に超高圧を掛ける事によって金剛石すら容易に貫く事が出来る、というもので、言ってしまえば防御力無視で貫通攻撃が出来る魔法である。
しかもこれの利点は、“目に見える”ので誤爆の危険性が低く、しかも破壊力と貫通力も抜群である、という点である。
顕現したウォーターカッターは、容易にドレアムの四肢を切断した。
当然であるが、いくら驚異的な回復力を持ち合わせているとは言っても、流石に手足がもがれても生えてくる、なんて事はなく、ドレアムを一時的に行動不能状態に陥らせる事が可能だ。
もっとも、彼の異常な回復力であれば、手足をくっつければまた回復してしまう可能性もあるが、いずれにせよ、それにもかなりの時間を必要とするので、逃げるには十分な時間を稼げた事になる。
「今っス!逃げるっスよっ!!」
「「「「「「っ!!!」」」」」」
「ま、待てぃっ!ぐっ・・・!!!」
あまりの惨状に、一瞬ポカーンとする面々であったが、アルメリアの言葉にハッとして、脱兎の如くその場にドレアムを残し、カエサル達は逃げて行ったのであった。
こうして、突然の遭遇戦を辛くも乗り切ったカエサル達であったがーーー。
「・・・しかし、恐ろしい魔法だったな。まるでパンみたいに手足がちぎれたぞ。」
「へへへぇ〜。」
危険域から脱したカエサルは、隣を走っていたアルメリアに称賛と畏怖を含めた賛辞を贈っていた。
それには、アベルとヴェルムンド、フリットとアルフォンスもうんうんと頷いていた。
褒められて満更でもないアルメリアは、それに照れながら笑う。
が、ふと、ルドベキアの呟きに、一瞬その場が凍り付いた。
「・・・しかし、あの貫通力なら、わざわざ手足をもがなくても、脳や心臓を貫けばそれで終わっていたんじゃ・・・?」
「あっ・・・。」
そうなのだ。
いくらドレアムの異常な回復力とは言えど、重要な器官が再生不可能なほど破壊されれば、流石に回復は出来ない。
つまり、彼を倒そうと思えば、アルメリアの魔法ならばあの時点で倒す事は不可能ではなかったのである。
ただ、アルメリアは彼を行動不能にする事だけを考えていたので、その事を失念していたのだ。
「ま、まぁ、終わり良ければ全て良しっスよっ!それに、ネタが分かったんスから、皆さんなら今度はやりようがあるっスよねっ!?」
「うん、まぁ・・・。」
「・・・ま、確かに逃げられただけでも良しとするべきだね。」
あちゃぁ〜、という表情を浮かべたアルメリアだったが、それを誤魔化すようにそう言った。
それに、アベル達も曖昧に頷くのであったーーー。
それと同時に、以前にもルドベキアとアルメリアに感じていた“彼女達を怒らせるのは危険”という共通認識が、ますます強まったのである。
特に、頭は良いがややおバカなアルメリアと、それを補強する事が出来る冷静なルドベキアは、まさに“混ぜるな危険”という関係性であったからである。
“““““・・・やっぱり彼女達だけは怒らせてはいけないっ!!!!!”””””
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