“悪夢”との出会い
続きです。
生物の中には、通常とは異なる形質、性質を持つ者が時たま現れる。
それらは、“異常個体”、“突然変異”などとも呼ばれる。
実際、向こうの世界の偉人伝、英雄譚には、そうした突然変異の様な者達も登場する。
当時の平均からは逸脱した体躯を持つ、とか、とんでもない怪力を持っている、とか、あるいは不可思議な力を持っていた、とかである。
もちろん、これらは伝承によって盛られている部分も存在するので何とも言えないのであるが、しかし科学的にも遺伝子的にも、そうした現象が実際に存在する事は確認されている。
まぁ、それはともかく。
ではこちらの世界ではどうか?
同然ながら、“地球”と似通ったこの星でも、そうした者達は存在するのである。
特に、こちらの世界には“魔素”と呼ばれる物質(?)が存在する分、その影響は向こうの世界の比ではないかもしれない。
さて、ここで一旦話は変わるが、今現在の魔王軍を率いる魔王・マルムス、そしてその同族たるオーガの面々は、ヴァニタスによる“強制レベルアップ”を施されている。
“レベルアップ”とは、通常様々な経験を経て、身体能力なり知能なりが高まっていく自然現象を数値化したものであり、科学的にも筋力や速力などとして測れるものであるが、“魔素”の影響によって見た目だけでは推し量れないものなども数値として示したものである。
(あくまで当初は、“魔素”の研究の為にセルース人類が便宜上作ったものであったのだが、いつしかそれが一つの大きな指標となったのである。)
そして“強制レベルアップ”は、“強制”とついている通り、本来ならば身体を鍛えるとか勉学に励む、などの過程を経て高めるものを、過程を丸々無視して引き上げるものであった。
ある種チート染みたものであるが、当然ながら代償もある。
簡単に力を手に入れる事が出来る反面、心身にかかる負荷は当然あり、失敗すれば命はないし、成功したとしても寿命を差し出す必要があるからである。
当たり前だが、うまい話には裏がある訳で、マルムス達もそこは覚悟の上の事であった。
ただ、ヴァニタスにとっても予想外の事はある。
それが、“突然変異”であった。
マルムスらがある種、正統に“レベルアップ”した結果の完成形だとしたら、ドレアムはそのどれとも全く別の方向に行ってしまった存在であった。
元々オーガは、これはこの世界の、特に魔獣やモンスター、野生動物に顕著なのであるが、“強さ”に固執する傾向にあった。
これは、種の存続を成り立たせる為にも必要な事であるのだが、ドレアムはそれがもはや生きる目的となっているのである。
自分がより強くなる為、強者と戦い、それを打ち負かし、その肉を食らう事を最上の喜びとしており、人間に近い社会性を持つ事となったマルムス達とは異なった、ある意味ではオーガらしいオーガ、野生の掟に忠実な種へと“進化”していたのだ。
そんなある意味オーガらしいドレアムであるが、人間に近い社会性を持ったマルムスら“魔王軍”からしたら、ハッキリ言って厄介な存在でしかない。
集団や組織を保つ為には、ある種の秩序や協調性が重要となってくる。
だが、ドレアムは“強さ”にしか従わないので、言葉や立場などによる圧力など通用しなかったのである。
“自分を従わせたいなら強さを示せ”、という訳である。
どこぞの戦闘民族か狂戦士の様な、ある意味シンプルな考え方であった。
当然ながら、マルムスにとってはドレアムは魔王軍に仇なす存在でしかない。
その結果、魔王軍の秩序を守る為に、マルムスはドレアムの排除を決定したのであった。
だが、ドレアムは強大であった。
ヴァニタスをして、オーガの中で一番“強制レベルアップ”したマルムスに匹敵する力を持ち、いや、マルムスが知能とか統率力、カリスマ性を持つ様になったのに対して事単純な“強さ”においては、魔王たるマルムスすら凌駕するほどであった。
ここら辺は、突然変異としての能力であろうか。
だが、あくまでドレアムの戦い方が脳筋一辺倒だった事が幸いし、両者の戦いはマルムスに軍配が上がる事となった。
もっとも、知略や搦手を駆使してようやく、と言ったところであったが。
(ちなみに、こうしたある種の内乱があった事によって、表向きは力を蓄える為、という名目であったが、本当はドレアムによって打撃を受けた魔王軍を立て直す為に、人間族への侵略が下火になった、という裏事情も存在していた。)
先程も述べた通り、ドレアムは“強さ”に従う。
自分を打ち負かしたマルムスに素直に敗北を認め、ようやくこの騒ぎは収束したのであった。
本来ならば、マルムスに反逆の意を示した以上、ドレアムは処刑されて然るべきであった。
組織の理論を鑑みるならば、内部に不和をもたらす存在は看過出来ないものだからである。
しかしマルムスは、その計算高さからか、ドレアムを幽閉する、という形で済ませたのである。
これは、今回の様に何かあった場合、ドレアムの力を利用する意図があったのであろう。
こうして、魔王・マルムスよりも強いオーガの突然変異である狂戦士が、これまで陽の目を見る事なく存在し続けたのであったーーー。
◇◆◇
「へぇ〜、中々面白い獲物が今はあるんだなぁ〜!」
ブンブンッ!
「ちょっ、ドレアム殿、こんな場所で振り回さないで下さいよっ!」
「おお、わりぃわりぃ。」
隔離施設から出たドレアムは、支給された武器を振り回して上機嫌であった。
以前にも言及した通り、今現在の魔王軍は『新人類』達と友好関係、同盟関係を結んでいる事によって、彼らの持つ技術を取り入れる事に成功している。
とは言っても、彼らの技術力を吸収したというよりかは、あくまで彼らが作った武具を輸入している、という方が正しいのであるが、それでも、強力な装備品が魔王軍全体に採用されれば、それだけで魔王軍の戦力の増強にも繋がる訳である。
まぁ、そうした事もあり、ドレアムがかつて暴れ回っていた時にはなかった“魔道具”、“魔法武器”、が存在しており、カエサル達を排除する為という名目で、それがドレアムにも支給された訳であった。
とは言えど、ぶっちゃけ不安がなかった訳ではない。
ドレアムの場合は純粋な反乱とはまた違ったものではあったが、一度は魔王軍に仇なした者である彼に、強力な武器を与えると、それでまた暴れられたら、という懸念が存在したからである。
しかし、それはマルムスに否定されている。
色々と厄介な存在ではあるが、ドレアムの思考は単純明快だからである。
強い者と戦いたい。
それを倒して(肉を食らい)もっと強くなりたい。
そういう思考回路だからこそ、一度交わした約束を違える事はないだろう、という判断からである。
ドレアムにしても、一度は自分を打ち負かしたマルムスとの再戦が約束されている以上、無意味に暴れる理由もない。
先程も述べた通り、戦闘狂な部分が存在する反面、あくまで強者との“死合い”を求めているドレアムにとっては、その辺の有象無象など今は興味もないからである。
それに、マルムスの事はもちろんであるが、ドレアムに課せられた任務の対象であるカエサル達にも興味を覚えていた事もある。
あくまでマルムスがブラフもかねてカエサル達の事を“強敵”と評したに過ぎないのであるが、しかしドレアムは、そこに何か予感めいたものを感じ取っていたのである。
それは、戦う事に特化した進化を遂げたドレアムが持つ、ある種の第六感だったのかもしれない。
まぁ、それはともかく。
素直に武器を納めたドレアムに、マルムスの部下はホッとした様に続けた。
「し、しかしドレアム殿。防具の方はよろしいのですか?今は、軽くて丈夫な物も存在するのですが・・・。」
「応っ!獲物だけで十分よっ!それに、俺にはこの肉体が防具みたいなもんだからなっ!ゴテゴテしたもんは、逆に動きづらくてかなわん。」
ガッハッハ、と豪快に笑うドレアムに、マルムスの部下は呆れながらも、それ以上は何も言えなかった。
今は上機嫌であるが、何らかの地雷を踏んで再び暴れられでもしたら少なくとも自分の命はない、と理解しているからである。
オーガ達ほどではないにしても、高い知性を獲得した者達が己の保身に走るのは、これは致し方ない事であろう。
「・・・分かりました。では、後はターゲットの情報だけ、分かっている範囲でご説明致します。」
「応っ!よろしく頼むぜっ!!」
◇◆◇
一方その頃、自分達が狙われている事を知らないカエサル達は、“封印の大地”の目と鼻の先にまで到達していた。
「後もう少しですね。」
「改めて、この森って広いよなぁ〜。」
「そうだな。」
以前にも言及した通り、後に“大地の裂け目”と呼ばれるこの大森林地帯の総面積は、向こうの世界の“アマゾン熱帯雨林”に匹敵する規模であるから、広いのは当たり前である。
しかも、人間族が整備した街道もあるにはあるが、それはあくまで極一部の話であり、基本的には舗装されていない道なき道をひたすら進まなければならない。
更には、野生動物や魔獣やモンスターとも遭遇する可能性を鑑みると、想像以上に移動には時間を取られてしまうのであった。
カエサルらが、ある種感慨深い感じになるのも無理からぬ話なのである。
そんな彼らは、最近はギクシャクする部分もあったが、表面上は普通に接している様にも見えた。
が、若者特有の助言を素直に受け入れられないところから、内心の温度差はあったのである。
しかし、それでもここまで特に問題なく進行している。
とりあえずの目的地にも近づいて来た事で、“そんなにビビる事なかったじゃん。”という思いと、“そんなにビビらせる必要もなかったかな?”という思いが交差していたのであった。
・・・だが、物事は最後まで何が起こるか分からないものである。
その日現れた魔物によって、その事をカエサル達は思い知る事となったのである。
「・・・おお、ようやく追い付いたぜぇ〜!」
「「「「「「「っ!?」」」」」」」
静かな森に、突如として響き渡る声。
そちらを見ると、3メートルを有に超える巨大な体躯と、アベルの様な特徴的な角が生えたフォルム。
引き締まった筋骨隆々な肉体に、申し訳程度に覆われた衣服。
そしてその背中には、もはや武器とは呼べないほど無骨な鉄の塊を背負った魔物が存在したのである。
「オーガッ・・・!!!???」
「「「「「「っ!!!」」」」」」
絞り出す様に呻いたのは誰の声だったのだろうか。
以前にも言及したかもしれないが、オーガは巨躯を持ち、二足歩行する生物であり、トロールの近親種であるとされている。
だが、トロールとは違いその知性はかなり高く、人間に匹敵するレベルであった。
ただ、その個体数はそこまで多くなく、その生息域も森林の奥まった方である事から、人間が出会う確率はかなり低いのである。
しかし、トロールもそうであるが、人間はもちろん、『新人類』達よりも遥かに大きな彼らは、ハッキリ言って魔物の中でも別格の危険性を孕んでいる。
残念ながらこの世界における序列で言えば最強種たる竜種には一歩劣るまでも、少なくとも純粋な“陸上”においては、魔物の中でもトップの実力を兼ね備えていた。
アベル達もカエサル達も、実際に目撃した事はこれまでなかったが、当然ながらその存在は認知していたし、その危険性についても理解していた。
「ひい、ふう、みい・・・七匹か。何だ、メスも混じってるじゃねぇ〜か。」
落胆した様なドレアムとは対照的に、カエサル達の緊張感は一気に高まった。
「・・・見逃してくれる感じじゃなさそうだな。」
「ええ・・・。むしろ、僕らを探していた様にも感じました。」
ドレアムから目線を外さずに、短くカエサルらは会話を交わす。
その危険性から言えば、逃げられるなら逃げるに越した事はない。
だが、すでに向こう側はこちらを認知している。
野生動物でもそうであるが、この局面で背を向けるのはハッキリ言って悪手であった。
ならばどうするかというと、このオーガを倒さない事には生き残る事は難しい、と彼らは瞬時に判断したのである。
それは、ある意味では無謀であった。
そもそもの生物としてのスペックが違い過ぎるので、仮に一対一ならばいくらカエサル達とは言えど、勝算かなりは薄いからである。
だが、彼らはパーティーであり、これまでもピンチを何度も切り抜けている面々だ。
相手は、見る限り一人(?)であり、集団としてならば、勝てる見込みはかなり高かった。
「戦うのか?」
「・・・そうしなければならないだろうね。」
「ならば先手必勝っ!どれだけ強くても、何もさせなければ良いだけの話っスよ!」
「「「「「「・・・。」」」」」」
案外脳筋なアルメリアの言葉に、仲間達は呆れながらも一理ある、と頷いた。
そうなのである。
戦いには流れがあり、一度主導権を握られると、その流れを変えるのは困難なのである。
場合によっては完封される可能性もあるが、逆に上手くすればこちらが完封する事も可能なのである。
それ故に、先制攻撃は悪くない判断であった。
そして、それだけの火力がこちらにはある。
「では、ボクが露払いをしよう。その後、怯んだ相手を一気に攻め立ててくれ。」
「了解。」
「「「「「・・・。」」」」」
ルドベキアの提案に、皆一斉に頷いた。
彼女の“魔法”は、ハッキリ言って乱戦には向かない。
場合によっては味方をも巻き込む可能性が高いからである。
しかし、ある程度距離が離れている今の状況ならばむしろ有効打となるし、場合によってはそれだけで終わる可能性もあった。
その事を理解していた仲間達は、ルドベキアの提案を“良い作戦だ”と頷いたのである。
「ルドベキア・ストレリチアの名において命ずる。
大地と大気の精霊よ。
古いにしえの盟約に基づき、敵を殲滅せよ。
『ストーンショット』!」
スドドドドッ!!!
「っ!!!???」
「行くぞっ!!!」
「「「「「応っ!!!」」」」」
ルドベキアがそう唱えると、無数の石つぶてがドレアム目掛けて射出された。
いきなりの事で、当然ながらドレアムはそれに反応出来ずにモロに食らう。
それを確認すると、カエサル達は一斉に動き出した。
ここ最近で洗練された、いつもの“形”である。
前衛にアベルとフリット、それにヴェルムンド。
そのやや後ろに、アベル達をサポートすべく遊撃としてカエサルが陣取る。
最後方はルドベキア、アルメリア、アルフォンスの“砲台”組だ。
もっとも今回の場合、相手が一体であるから、ほとんど待機である。
先程も述べた通り、魔法でもフレンドリーファイアが存在するからである。
しかし、待機も重要である。
少なくとも、今の時点では相手は一体に見えるが、場合によっては伏兵が潜んでいる可能性もあるから、周囲への警戒も大事になってくるからである。
石つぶての影響により、視界を遮る土煙が晴れるのを待ちながら、アベル達は臨戦態勢を維持しつつ観察を続ける。
・・・流れは非常に良かった。
少なくとも、カエサル達に落ち度と呼べるものはなかった。
いや、あえて言うのであれば、やはり“油断”と“慢心”があったのは否定しない。
常識的に考えて、これで無事な生物が存在するとは思わなかったからであろう。
しかし、特にこの世界では、ありえない、なんて事はありえない。
“魔素”という不可思議な物質(?)が存在する以上、“普通”ではありえない“魔法”という現象が引き起こせるのと同様で、ありとあらゆる可能性が内在しているからである。
「ガッハッハッ!おっかない力を持ってるんだなぁ〜!いや、メスと侮った事を詫びよう。」
「「「「「「っ!!!???」」」」」」
「無傷、だとっ・・・!?」
土煙が晴れて最初に見えたのは、いかにもピンピンとしているドレアムの姿であった。
思わず、ルドベキアも驚愕の表情を浮かべていた。
それが良くなかった。
一瞬、あまりの出来事に思考停止状態に陥ったカエサル達とは対照的に、逆にドレアムのボルテージは上がっていたからである。
以前にも言及した通り、彼は強者との戦いを何よりも好んでいるのだ。
そんな彼が、先制攻撃をされたのなら、それを返さない筈もない。
「どれ、俺も真似してみようかな?」
ブンッーーー!!!
ドレアムは、自分に向けられて(一部)無力化した石つぶてを拾い上げ、逆にルドベキア目掛けて思いっきり投げたのである。
それはただの投石だった。
だが、人間でさえ早ければ時速150kmで投げられるのだから、人間以上の身体能力を持つドレアムから投じられるそれは、人間の比ではない速度と破壊力が秘められていた。
「「「「「っ!?」」」」」「ちっ!!!」
「くっ!!!」
残念ながら、身体能力はそこまで高くないルドベキアはそれに反応出来なかった。
死ーーー。
そんな一文字が浮かんでくる。
しかし幸いな事に、それに反応出来た者が一人だけいた。
いや、正確には二人(圧倒的なスピードを誇るフリットとカエサルである。)なのだが、位置的にフリットはドレアムに近すぎたので、反応出来ても対応は出来なかったのだ。
そうした訳もあって、遊撃としてドレアムからある程度距離を取っていたカエサルだけが、それを何とか出来る位置にいたのであった。
“魔法”のサポートもあって、とてつもない速度で放たれた石つぶてに何とか追い付いたカエサルは、持っていた剣でまるでバッティングの如くそれを弾き飛ばしたのであった。
ガキンッ!!!
「ガハッ!!!」
「・・・カエサルッ!?」
「・・・ほぅ。」
・・・だが、無傷とはいかなかった。
野球の打者も超速球を打ち返す時、そのあまりのスピード故に手や腕が痺れる事もある。
カエサルが弾き飛ばしたのは、その比ではない速度の、しかも硬い石つぶてだ。
幸い剣自体は壊れなかったものの、カエサルの腕や手には鈍い痺れが走り、いや、もしかしたら骨にヒビが入っていたかもしれない。
「この野郎っ!」
「ふっ!」
「せいっ!」
そこに追撃されたら、今度は防げなかったかもしれないが、流石にそれを許すほどアベル達もマヌケではない。
とりあえず、ルドベキアとカエサルが無事な事を確認すると、お返しとばかりに前衛三人組がドレアムに同時攻撃を敢行したのである。
「うごっーーー!!」
「どうだっーーー!?・・・げふっ!」
「えっーーー!?がはっ!」
「何っーーー!?ぐふっ!」
ドレアムへの攻撃は完全に決まっていた。
だが、ここでまたまた驚くべき事が起きた。
ドレアムはその攻撃をものともせず、即座に反撃したのである。
「いいねいいねっ!聞いた通り、強者揃いじゃねぇ〜のっ!!!」
むしろドレアムは歓喜の声を上げるほどだった。
驚くべきタフネスを発揮しているドレアムに、しかしルドベキアは違和感を感じていた。
「み、妙だな・・・。」
「どうしたっスか、ルドベキアセンパイ?」
ダメージを受けたカエサルの回復を図っていたアルメリアは、ルドベキアの呟きにそう反応した。
(ちなみにアルフォンスは、前衛三人組の援護をカエサルに代わって務めていた関係で、今は少し離れた位置にいる。)
「いや、いくら何でも頑丈過ぎる。ボクの攻撃やアベルさん、フリットさん、ヴェルムンドさんの攻撃をマトモに受けたにしては、あまりにダメージがなさすぎるんだ。」
「・・・確かに。」
アルメリアも、ルドベキアの言葉に頷いた。
流石にドレアムも生身の肉体である。
もちろん竜種の様に、外皮が異常に硬い、という可能性もありえなくはないが、観察した限りその大きさを無視すれば、自分達とそう大差ない肉体の様にも見えた。
もっとも、見た目からは判断出来ない事は、特にこの世界では多々ある。
自分達に近しい見た目を持つヴェルムンドでさえ、自分達とは比べ物にならないほど頑丈な肉体を持っているので、このオーガ(ドレアム)もそうである可能性もあるからである。
どちらにせよ、現時点ではあまりに情報が少ない。
むしろ今大事なのは、そんな驚くべきタフネスさえも備えた存在が、絶賛自分達と交戦中である、という事実の方であった。
ブルッーーー!
ルドベキアは、最近は感じる事もなくなっていた身体の震えを自覚していた。
それは“恐怖”である。
目の前の存在に対する“畏れ”。
死を間近にした時に感じる“畏れ”。
そのどちらともつかない感情がブレンドされた様な、ある意味全く未知のものであった。
それと同時に、自分達がいかに浅はかだったのかも自覚していた。
“世界”は広い。
自分達が強い様な錯覚を起こしていたが(実際、カエサルらが強者である事は事実ではあるが)、それを上回る生物はまだまだ存在していたのだから。
はたして、カエサル達はこの“悪夢”から脱し、生き残る事が出来るのであろうかーーー?
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