再会 3
続きです。
◇◆◇
「何あの魔法・・・。怖っ・・・!」
一方その頃、カエサル達の様子を遠巻きに眺めていた例の4人組も、くしくもカエサルと同じ反応を示していた。
ルドベキアとアルメリアが見せた魔法は、『魔法技術』の中でも高度かつ凶悪な一面であるから、それに対して畏怖や畏敬の念を抱いたとしても無理からぬ事であろう。
とは言えど、こうした事が出来るが故に、4人組の様な純粋な戦闘技術を持たない二人であっても、魔物達と戦える、という裏返しでもあるのだが。
それに、二人が見せた魔法は、確かに戦闘面では凶悪な代物ではあったが、また別の使い方、例えば建築とか生活面においては非常に有益でもあるので、一概に恐ろしいだけでもない。
要は、道具なんかも一緒であるが、使い方次第、なのである。
「ま、まぁ、とりあえず魔物達の襲撃は乗り越えたみたいだな・・・。その方法がちょっと予想外だったが。」
「魔法って恐ろしいんだな・・・。」
いつでも助太刀に駆け付けられる様な態勢を整えていた4人組であったが、そのカエサル達の予想外の実力に、終始観戦状態となってしまっていた。
終わってみれば、終始一方的な展開であった。
まぁ、カエサルらを襲った魔物達も、ある意味魔王軍からしたらはぐれもの達であるから、そこに組織立った動きがあまり見えなかった事もあるのだが、それでも多勢に無勢の状況でそれを覆したのは間違いなくカエサル達の実力であった。
いまだ茫然自失の状況から抜け出せずにいた4人組であったが、最初に我に返ったヴェルムンドがポツリと言葉を発した。
「・・・それで、どうする?」
「な、何が・・・?」
「だから、彼らに声をかけるかどうか、って事さ。」
「あ、ああ。」
その言葉に、残りの三人もハッと我に返った。
今現在の彼らの目的は、セレウスとハイドラスが眠っている“封印の大地”へと向かう事であった。
これは、アルフォンスが受けた予知とも予言とも神託とも分からないものを受けての事であるが、その道中に謎のパーティーと遭遇した訳である。
普通なら、彼らを助け、その流れで目的その他なんかを自然と聞いたりも出来るのであるが、カエサルらが予想外の実力を示した事で、彼らと接触するタイミングを失ってしまったのである。
もちろん、今から声をかけても問題はないのであるが、しかし、場合によっては敵対しかねない。
少なくとも、4人組は『新人類』と呼ばれる他種族・異種族であるから、今現在の人間族から見たら敵視させる恐れがあるのである。
とは言えど、ここでスルーしたとしても、もし目的地などが同じであったら、いずれまた遭遇する事もあるかもしれない。
そしてその時の状況によっては、本当の本当に敵対する可能性もある訳で、ならば今の時点で、お互いの存在をしっかり認識しておいた方が、色々と事故がなくなるかもしれないのである。
それを受けての発言だった訳であるが、案外答えはアッサリ決まった。
何故ならば、アルフォンスがこう言ったからである。
「普通に声をかけようよ。彼らからは悪い感じはしないしさ。」
先程も言及したが、アルフォンスには不可思議な能力があった。
元々エルフ族である彼は、抜きん出て“魔素”との親和性が高いのであるが、そのエルフ族の中でも彼は、更に“魔素”との繋がりが強かったのである。
その結果、セレウスの様な直感力、とも言うべきものが強く、それがハイドラスにとっても一つの指標となった様に、4人組にとっても一つの判断材料となっていたのであった。
そんな訳で、“アルがそう言うなら。”って事で、アッサリ方針が決まった訳であったがーーー。
◇◆◇
「おつかれ〜。」
「何とか片付いたっスねぇ〜。」
一方、ルドベキア達は、魔物達の襲撃を乗り越えて一息吐いていた。
その惨状は中々のもので、正に“死屍累々”、という感じではあったが、しかし、以前にも言及した通り、彼らも襲われたから対処しただけである。
もちろん、生物を殺傷する事に対してある程度の葛藤はあれど、殺らなきゃ殺られる、という状況では、それにも慣れていくしかない。
少なくともそれが出来なければ、この世界で生き残るのは困難な道であろう。
そうした意味では、すでにカエサル達には、その覚悟が出来ているのかもしれない。
まぁ、元々そういう環境が普通なのだから、ある種当たり前の話かもしれないが。
「ふ、二人とも凄かったよ。」
「「・・・」」
そこに、しばらく茫然としていたカエサルが近付き、率直な感想を言った。
それに、言葉自体は発しなかったまでも、何とも満足気な顔(ドヤ顔ともいう)でルドベキアとアルメリアは頷いた。
彼女達からしたら、“私達は足手まといではないだろう。”、といった気持ちだったのかもしれない。
少なくとも、無理矢理ついてきてカエサルにおんぶにだっこ、という訳でない事を証明出来た事が嬉しかったのだろう。
カエサルも頷いた。
正直に言えば、二人が本当に戦力になるのかどうかは半信半疑だったのだろう。
もちろん、“ストレリチア荘”で一緒だったので、彼女達が優秀な事はカエサルも知ってはいたが、それイコール戦えるかはまた別問題だったからである。
しかし、それも杞憂であった。
今、彼女達が証明した通り、彼女達の実力は本物だったからである。
これならば、当初の予定よりも、ずっとハードルは低くなった、とカエサルも考えていた。
が、それよりもまず、今は優先する事があった。
「それはそうと、今は一旦この場を離れよう。」
「ふむ・・・。」
「どうしてっスか?魔物達は全員倒したハズっスけど・・・。」
「それは・・・。」
先程見せた戦闘力とは裏腹に、アルメリアはまだまだ経験の上では未熟である。
それ故に、森の環境、というものがまだよく分かっていなかったのであろう。
それは、ルドベキアも同じであるが、彼女の方はカエサルが言っている事が何となく分かったみたいだ。
カエサルがそれについて説明しようとしたタイミングで、そこに割って入ってきた影があった。
「魔物達の死肉に引き寄せられて、他の魔物達が来てしまうかもしれないから、ですね?」
「「「っ!!!???」」」
当然ながら、それは例の4人組であった。
言葉を発したのは、ドワーフ族のヴェルムンドか。
カエサル達は一瞬身構える。
そして、その姿を確認すると、更に緊張感を高める。
「『新人類』っ・・・!」
「・・・?」
「・・・」
以前にも言及した通り、今現在の『新人類』、すなわち人間族以外の亜人系の種族はあまり良い印象を持たれていない。
彼ら『新人類』達は人間族を裏切り、今や魔王軍側に寝返っている、という風に映ってしまっていたからである。
もちろんそこには、やんごとなき理由、自らの生存戦略を賭けた難しい判断があったのであるが、そんな事は大半の人間達には分からない事情である。
そんな訳で、今現在の人間族にとって『新人類』達は、魔王軍に次いで敵視される状況になっていたのである。
しかも、あまりタイミングもよろしくなかった。
先程まで、絶賛魔物達に襲われていたカエサル達の前に、その襲撃が終わったタイミングで姿を見せたからである。
つまり見方によっては、ともすれば彼らが魔物達をけしかけ、それが失敗したから姿を見せた、・・・様にも見えてしまうのである。
実際、カエサル以外のルドベキアとアルメリアは、4人組の姿を認識すると、即座に戦闘態勢に入っていた。
しばらく前までは平和に暮らしていた彼女達だが、すでにその姿は、歴戦の戦士のそれであった。
「ちょ、ちょっと待って下さい。私達にはあなた方と争うつもりはありませんよ。」
そんな剣呑な空気が向こう側にも伝わったのか、ヴェルムンドは慌ててそんな言葉を続ける。
「・・・では、魔王軍の犬が、一体私達に何用なのかな?」
それに対して、ルドベキアはそう冷たく言い放った。
以前にも言及した通り、ルドベキアとアルメリアは幼い頃に魔王軍、魔物達に家族や親しい者達を奪われている。
そして、自らもその生命を奪われかけたタイミングで、間一髪セレウスとハイドラスに救われている訳である。
もちろんその後、“ストレリチア荘”にて保護され、比較的平和的に健やかに成長した訳であるが、その幼い頃のトラウマとも呼べる出来事によって、魔物達に対する恨み、みたいなものをずっと抱えてきたのだ。
それが、魔物達の襲撃では、相手に対して手心を加えない、という、ある種苛烈ではあるが、しかし戦いにおいてはむしろプラスに働く方向へと作用した。
が、逆に言えば、一度相手を敵と認識したら、もはや聞く耳を持たない、という悪い面にも作用してしまったのである。
再三述べている通り、思い込み、というのは非常に厄介なのである。
何せ、ルドベキアやアルメリアほどの才媛であったとしても、容易に視野狭窄を引き起こしてしまうからである。
だが、幸いな事に、この場にはカエサルが存在していた。
頑な態度のルドベキア達にどうするべきか、と考えあぐねていた4人組に、その場の空気を一変させる、半ば素っ頓狂な声が彼から発せられたのであった。
「も、もしかしてですけど、アベルさん達ですかっ!?」
「「「っ!?」」」「「???」」
「・・・何故、俺の名前を?」
自分はまだ自己紹介もしていないのに、ズバリと名前を当てられた事にアベルは怪訝そうな顔をした。
しかし一方のカエサルは、最近ではあまり見せなくなった、しかしこの年頃ならむしろ普通である無邪気な笑顔を見せていた。
「やっぱりっ!皆さん、あんまり昔と変わらなかったから、すぐに分かりましたよっ!僕ですよっ!マグヌスとセシリアの子、カエサルですっ!昔一緒に旅した事もあるでしょっ!?」
「「「っ!!!???」」」「「???」」
「えっ・・・!?カ、カエサルだってっ!?カエサル・シリウス、かっ!?」
「そうですっ!!!」
4人組が自分を覚えていてくれた事が嬉しかったのか、カエサルはニコニコとそう返事を返した。
一方の4人組は、まだ目を丸くしていた。
と、いうのも、以前にも言及した通り、4人組もマグヌスとセシリアの顛末については知っていたからである。
二人がすでにこの世を去った以上、いくら天才児とは言えど、子供一人が生きていけるほどこの世界は優しい環境ではなかった。
それ故に、何処か“カエサルももういないんだろうな。”という思い込みがあったのだ。
幸いな事にカエサルは、セシリアの仲間であったノイン・ストレリチアに保護されて、無事に生き残っていた訳であるが、それを知る術もなかったので、この思わぬ再会が信じられなかったのであろう。
だが、アベルの名を知り、『魔石』発掘の旅の事まで知っている以上、もはや疑う余地はない。
徐々にその事が頭に染み渡ると、4人組も笑顔を浮かべていた。
「マ、マジかよっ!で、デカくなったなぁ〜・・・。」
「良かった・・・。無事に生きていたんですね。」
「マグヌスさんとセシリアセンセイの事は伝え聞いていたので、半ば諦めかけていたんですよ・・・。本当に良かった・・・。」
「何か、ボクより大きくなっちゃって・・・。」
「ハハハ、アルさんはエルフ族ですもんね。」
先程の剣呑とした雰囲気とは打って変わって、一気に和やかな雰囲気が流れた。
が、今度はルドベキアとアルメリアが戸惑う番だった。
「・・・カエサル。キミの知り合いかい?」
「ああ。そういえば君達には話した事なかったかもね。元々ラテス族では、他種族を預かっていたんだよ。まぁ、実質的に面倒を見ていたのは僕の母さん達なんだけど、その流れで僕とも知り合いだったのさ。特に彼らとは、父さんと一緒に冒険もした仲でね。まさか彼らとまた再会するとは夢にも思わなかったよ。」
「ほぅ・・・。」
若干興奮した様にまくしたてるカエサルに、しかしルドベキアは冷静に頷いた。
ルドベキアもアルメリアも、ラテス族とは別の部族、民族の出身である。
それ故に、ラテス族の内情を知らなかったのは無理からぬ話なのである。
(もっとも、まだまだ幼かった事もあって、仮に聞いた事があっても覚えていない可能性もあるが。)
それ故に、元々『新人類』達がラテス族によって保護されていた事は初耳だったのである。
しかしそういう事なら、カエサルの反応も頷けた。
カエサルがラテス族である事は、ルドベキアもアルメリアも知るところだ。
それ故に、またまた出会った彼らが、カエサルの知り合いだった事にも合点がいったのである。
「おっと、自己紹介が遅れたな。俺は・・・。」
今のタイミングなら良いだろう、とアベルがそう言いかけると、それにルドベキアは待ったをかけた。
「あ、いや、その前にこの場を離れないかい?」
「「「「「あっ・・・。」」」」」
先程自分達が言った通り、この場にはカエサル達に返り討ちにあった魔物達の死肉が転がっているのである。
こんな場所でノンキにおしゃべりをしていたら、当然ながら血や死肉の匂いに釣られた魔獣やモンスター、野生動物に囲まれる事請け合いである。
「・・・一旦、安全そうな場所まで退避しようか?」
ヴェルムンドの発言に、皆コクリと頷くのであったーーー。
・・・
「あぁ〜、改めて、俺はアベル。こっちのドワーフ族がヴェルムンド。こっちの獣人族がフリット。で、こっちのエルフ族がアルフォンスだ。」
「どうも。」
「よろしく。」
「へへへ・・・。」
場所は変わって、森の切れ目の小高い丘の辺り。
当然ながらいくら“大地の裂け目”が大森林地帯だとはいっても、ところどころ開けた場所や見晴らしの良い場所はあるものだ。
ちなみに、本来であれば見晴らしの良い場所は、逆に言えば襲撃者にとってはすぐに見つけやすい場所とも言えるのであるが、実力者集団であるカエサルらや4人組にとっては、何処から、誰が襲ってくるかが丸わかりであるから、むしろ下手に隠れるよりも安全、とも言えるのであった。
「よろしく。ボクはルドベキア・ストレリチアだ。こっちはアルメリア・ストレリチア。カエサルと共に、“ストレリチア荘”にて育った、まぁ、血の繋がりこそないが、兄妹、みたいなものさ。」
「ふむ・・・。」
「ちなみに、“ストレリチア”ってのはノインさんのファミリーネームから取ってるんですよ。覚えてますか?孤児院の職員をされていた、あのノインさんです。」
「ああっ!ノインセンセイかっ!・・・なるほど、じゃあカエサルは、彼女に保護されていたんだな?」
「ええ。幸いな事に、その頃には“パクス・マグヌス”が発足していましたから、それで戦火を免れたのですよ。ただ、それによって皆さんとは連絡の取れない状況になってしまいましたがね。」
「なるほどね・・・。」
自己紹介の流れから、その後の顛末を確認し合うカエサルと4人組。
ルドベキアとアルメリアも、それを遮る事なく黙って聞いていた。
「俺らの方も、ラテス族と連合の争いが勃発すると、戦火を逃れる為に孤児院から逃げたからなぁ〜。この広い森の中で散り散りになっちまったら、簡単には連絡の取りようもないしなぁ〜。」
「・・・それに、同胞達は、その後魔王軍に与する様にもなったしね。」
「そうなんですか?」
ヴェルムンドの発言に、ルドベキアの目がギラリと光った、様に感じられた。
が、それに気付いた様子もなく、カエサルは調子を合わせる様にそう返した。
ルドベキア達が知っているなら、当然カエサルも『新人類』達が魔王軍に加担している事は承知している筈であるが、そこはそれ、あえて知らぬフリをして彼ら自身の言葉から、どうしてそうなったのかを聞きたかったのかもしれない。
「・・・生き残る為には仕方ないさ。僕達は、人間達より森の奥に逃げ込んでいたからね。当初はまだ、魔王軍、なんて組織も存在せず、魔獣やモンスター、野生動物なんかとも時に敵対しつつ、時に共存しつつ、何とか生活していたんだ。しかし、それが魔王軍が台頭してきた事で、僕達の生活は一変した。僕達の集団は、数の上では大した勢力じゃない。となれば、彼らと敵対する事は、すなわち破滅を意味する訳だ。それ故に、僕達の同胞達は生存戦略を賭けて、彼らと友好関係、同盟関係を結ぶ為に動いた、って訳さ。」
「・・・なるほど。」「「・・・。」」
「幸いな事に、我々の容姿や特徴なんかが魔獣やモンスター達との形質と似通っていた事からか、比較的スムーズに友好関係を結ぶ事に成功した。これによって、我々は魔王軍の脅威から逃れる事が出来た訳だ。もちろん、タダで、って訳じゃない。彼らとの協定で、こちらからは加工品や食糧などを提供し、あちらからは安全が提供される。言わば、金で安全を買った、とも言えるかもね。」
「「「・・・」」」
国家同士で同盟を結ぶ事は珍しい話ではない。
向こうの世界でも、例えば日本とアメリカが日米安全保障条約を結んでいる。
対外的に軍事力を有していない日本(もちろん、防衛の観点から“自衛隊”なる組織は存在するが)にとっては、米軍の存在は非常に重要なのである。
少なくとも日本に攻め入る=アメリカにケンカを売る、という事になるから、一種の抑止力となっているからである。
もっとも、その結果起こっている別の問題もあるので何とも言えないのであるが、日本という特殊な国家の在り方を鑑みた場合、この安保条約は国家戦略として非常に重要な立ち位置にあるのである。
では、『新人類』達の国家(集団)はどうか?
もちろん彼らは、自らを守る軍隊、他勢力を攻撃する軍隊を持たない“縛り”などないのであるが、言ってしまえば所謂小国である。
それに対して、魔王軍は一気に膨れ上がった新興勢力であり、今や人間族の他の勢力ともやり合えるだけの軍事力を有している組織である。
当然ながらそんな勢力とマトモにやり合っては壊滅は目に見えている訳であるから、ここで、先程の日米とはまた別の方面で、相手の庇護を求めて同盟関係を結ぶのも国家戦略としてはある種当たり前なのである。
国家同士、勢力同士には正義も悪もない。
確かに魔王軍は、アクエラ人類にとっては脅威ではあるが、だからといって、いくら『新人類』達が人間族に恩義や義理があったとしても、明確な後ろ盾や支援がある訳でもない中で、彼らにすり寄るな、というのは虫の良い話なのである。
結果として、魔王軍に味方した、という一方的な考え方から人間族側は『新人類』達を敵視するに至り、しかし一方の『新人類』達は、自らの生存を賭けて選択したに過ぎないので、そこにある種の葛藤やジレンマもあったのだ。
物事はある一面から見ただけでは全体が見えてこない事も往々にしてある。
少なくとも、人間族側からの観点だけでは、結果は見えても、何故そうなったのか、そうなるに至って『新人類』達はどういう葛藤があったのか、なんかは見えてこないものなのである。
聡明なルドベキアの事である。
自嘲気味な4人組の発言から、『新人類』達も、何も好き好んで魔王軍に加担している訳でない事が理解出来たのであろう。
彼女の中の『新人類』に対する敵愾心は、急速にしぼんでいった。
「・・・では、皆さんは何故こんなところへ?」
元々4人組に対して親愛あっても敵愾心のないカエサルは、至極当然の質問をした。
良いか悪いかはともかく、『新人類』達と魔王軍が上手くいっているのなら、わざわざこんなところまで来る必要はないからである。
少なくとも、仮に資源発掘などを目的として活動範囲を広げるにしても、少数で動く事ではないからであろう。
もちろん、資源調査の先遣隊として動いている、という可能性もあるし、逆に人間族側の動向を把握する為の一種のスパイとして動いている可能性もあるが。
しかしその質問に対して、彼らの回答はカエサル達にとっては意外なものであった。
「無論、魔王を討伐する為、さ。」
「「「っ!!!???」」」
「俺らも同胞達の選択に思うところはあるが、それも否定はしない。ハッキリ言って、魔王軍と敵対する事は、ある種自殺行為だからな。勝てる見込みのない戦いほどアホらしい事もない。だから、上の連中の判断も間違ってるとは言えないって訳さ。」
「けれど、それはある種の希望的観測にしか過ぎないのもまた事実。今はまだ、同盟関係が維持されていますが、魔王軍がいつ同胞達に牙を剥くとも限りませんからね。」
「それで私達は、独自に魔王を討つ為にこうして旅をしている、って訳さ。」
「驚いたな。まさか、僕達と目的が一緒だったなんて・・・。」
カエサルの発言に、4人組も納得の表情を浮かべていた。
「とすると、やはりお前達も?」
「ええ、まぁ。もちろん、人間族側では魔王軍に対抗する為の組織が編成されつつあるのですが、関係筋の話では魔王は特殊なスキルを持っているらしいので、どちらにせよ魔王を討伐しない事には元の木阿弥です。それで僕達も、独自に魔王討伐の為に動いていたんですよ。」
「ほぅ、なるほどな・・・。」
初めて聞く情報もあったが、4人組はカエサルも同じ様な目的である事をなんとなく察していただけに、むしろ彼らが確固たる確信があって動いている事を理解していた。
そして自分達の判断が間違っていなかった事をより確信したのである。
4人組は目配せをした。
そして、お互いコクリと頷きあった。
「ならば話は早い。お互いの目的は一致している訳だし、俺らも仲間に入れてくれないか?」
「一人よりも二人。三人よりも七人の方が、色々と都合が良いとは思いますが・・・。」
そういうと、4人組はじっとカエサル達の返答を待った。
カエサル自身は、その提案は大歓迎であった。
何せ昔一緒に旅した仲だ。
彼らの実力は知っている訳だし、昔より更に実力を高めている可能性を鑑みると、これほど頼れる仲間は他にはいないからである。
まぁ、軍隊的な組織となると話は別であるが、ヴェルムンドの言う通り仲間は多ければ多いほど良い。
しかし、そこでカエサルは今現在のパーティーメンバーの存在を思い出していた。
チラッとルドベキアとアルメリアを窺い見るカエサル。
先程彼らを敵視していただけに、彼女達が否定するのであれば、また考え直さなければならないからである。
ルドベキアもそれは察したのだろう。
すぐにコクリと頷いた。
「君の思う通りにすれば良いさ。リーダーは君だ。ボク達は君の判断に従うよ。」
「っス。」
仲間達のお墨付きも頂いたので、カエサルの答えは決まった。
「ぜひ、よろしくお願いいたしますっ!」
「「「「「「・・・。」」」」」」
こうして、後に魔王・マルムスを打ち倒し、“七英雄”として語り継がれる者達が“仲間”となったのであったーーー。
「しかし、意外だったよ。さっきの雰囲気からみれば、絶対断られると思ったのに・・・。」
話がまとまると、アベルは一気に砕けた様にルドベキアに話しかける。
「先程は失礼した。しかし、あなた方の話を聞いて、自分の間違いに気付いたのでね。」
それにルドベキアも、彼女なりに砕けた感じに返答を返した。
「・・・だけど、私達があなた方を騙している可能性もありますよね?」
「ちょっ、フリットッ!」
言わなくても良いセリフを吐いたフリットに、珍しくヴェルムンドが突っ込みを入れる。
「ハハハ。ここであえてそう言うなら、むしろ信用出来ますよ。わざわざ言う必要のない事ですしね。それに・・・。」
「・・・それに?」
「あなた方が私達を騙しているのなら、それならそれで良いのですよ。カエサルには申し訳ないが、情けをかけなくてすむ。」
「・・・」
「「「「「・・・。」」」」」
冗談めかした発言と表情であったが、その目は笑っていないルドベキアと、終始無邪気な笑顔を浮かべるアルメリア。
その様子を見て、4人組とカエサルの気持ちは一致していた。
“““““・・・彼女達だけは怒らせてはいけないっ!!!!!”””””
と。
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