先行き不安な旅立ち
続きです。
◇◆◇
その十年弱の間は、比較的平和な期間であった。
各方面の上層部が、魔王軍の脅威をその目で目撃した事により、もはや人間同士で争っている場合ではない、と悟ったからである。
急速に戦争は下火になり、“パクス・マグヌス”の仲介もあり、ラテス族側、連合側で停戦協定、休戦協定が結ばれた。
それだけでなく、魔王軍の脅威に対抗すべく、ラテス族、連合、“パクス・マグヌス”が協力し、特殊な連合軍が組織されたほどであった。
それほどまでに、魔王軍はアクエラ人類に危機感を与えた、という裏返しでもあった。
また、アクエラ人類にとっての痛手は、“英雄”不在となってしまった事も大きい。
すでに、姿を消して久しい“セルース人類”はもちろん、魔王軍強襲時に活躍を果たしたセレウスとハイドラス。
この二人も、アクエラ人類を救う為に犠牲となってしまった(実際には死んでいないが)からである。
ある意味、この二人は魔王軍討伐の大きな旗印となる器があっただけに、彼らがいなくなった場合、自然発生的にアクエラ人類が団結する未来は閉ざされた格好である。
そうなれば、アクエラ人類が自力で政治的、外交的な努力によって、軍を組織する他なくなる訳である。
こうした事もあり、大森林地帯周辺に住むアクエラ人類は、様々な思惑を持ちながらも、形だけは協力する体制を築き上げたのであった。
ところが、その魔王軍も、要人強襲の失敗の後、表立った動きは鳴りを潜めたのである。
要人強襲の為に侵攻した魔王軍は、かなりの規模ではあったものの、魔王軍の全てではなかった。
当然ながら、まだまだ戦力は存在する筈なのだが、アクエラ人類が団結する事は彼らにしてみても厄介極まりないものである筈なのに、彼らの活動は下火になってしまったのである。
そこに、どの様な思惑が存在したかは定かではない。
一説によれば、セレウスとハイドラスに脅威を感じた魔王軍が、弱腰になったのではないか?、とする見方も存在する。
また、別の主張では、やはり魔王軍は要人強襲を仕掛けた部隊が全てであり、後はろくな戦力がいないのではないか?、という、ある種楽観的過ぎる考え方もあった。
ただ、ここでそうした楽観論が蔓延し、再びラテス族側、連合側の戦争が勃発する事態とはならなかった。
静かである事は、逆に水面下で魔王軍が力を蓄えているからであり、アクエラ人類が再び分断する機会を窺っているからである、とする主張が大勢を占めたからである。
実際、先の強襲は、各勢力がバラバラの時に仕掛けられたものであり、ろくな連携も取れない状況だった事もあり(そもそもその時点では、まだお互いを敵勢力だと認識していたからである。)、魔王軍にとっては色々と有利な状況の中での事だった。
忘れてはならないのが、魔王軍がアクエラ人類に匹敵する知能を持つ何者かに率いられている、という点である。
であるならば、そこには何某かの考えがある訳であり、となればアクエラ人類側も、慎重にならざるを得なかったのである。
再三述べている通り、これは戦争ではなく、生物としての生存競争に近いものだ。
この惑星、とまでは行かないまでも、ハレシオン大陸の真の覇者は誰なのかを占っていると言っても過言ではなかった。
そして、油断すれば、それは魔王軍に一気に傾いてしまうかもしれないのだ。
それは、少なくともハレシオン大陸に存在するアクエラ人類の滅亡、というシナリオになってしまう恐れもあったのである。
とは言えど、高い緊張感をいつまでも維持し続ける事も困難である。
自然災害がいつか必ず起こる、と言われても、高い防災意識をずっと持ち続けるのが困難な様に、人々はこの仮初の平和に慣れつつあったのである。
もちろん、魔王軍に対抗する為のシステム自体は構築していたのであるが、先程述べた通り、内部では楽観論が出始めるくらいには、アクエラ人類側も浮足立っていたのであった。
それこそが、魔王・マルムスの狙いであったのであるがーーー。
◇◆◇
以前から言及している通り、もちろん国や地域によっても様々ではあるが、この世界の成人と見なされる年齢は比較的早かったりする。
これは、理由は様々であるが、やはり一番は魔獣やモンスターといった脅威が存在するからであろう。
この世界に比べて比較的平和な向こうの世界、特に先進国では、成人年齢が二十歳前後であるのが主流ではあるが、発展途上国、特に紛争地域では子供の内から働く事も珍しくない。
これは、大人の男は戦いに赴いてしまうからである。
本来一番の働き手である男達を取られてしまえば、食べる為には子供であろうと働かない訳にはいかなくなる訳である。
これと似た様なもので、魔獣やモンスターという脅威が身近に存在する以上、戦える肉体、働ける肉体になった者達を遊ばせておく余裕はないのである。
実際、日本の過去の歴史においても、男児は元服、すなわち15歳になれば一人前として見なされた、という記録も残されている。
で、この惑星、この時代でも、成人年齢はかなり早かったのである。
後の時代のアキトは、15で成人を迎えたが、それよりももっと厳しい環境で暮らしていたカエサルらは、第二次性徴を迎えた頃には、成人と見なされつつあったのである。
もちろん、何らかの明確な法令や法律があった訳ではないのであるが、そこは風習や風潮というものであろう。
そうした訳もあり、周囲からの目や無言の圧力なども相まって、まだまだ精神的には未熟な少年少女達も、自然と自立する為の活動、言わば“就職活動”なり進路を早い段階で決めなければならないのであった。
で、当然ながらカエサルらも、いくら孤児とは言えど、その流れから逃れる事は出来ないのであった。
いや、むしろ親や親類縁者が存在しない彼らこそ、一般的な者達よりもその意識は高いと言えるだろう。
実際、カエサルの影響を受けた“ストレリチア荘”の子供達は、高い能力を身に付けた者達も多く、特に昨今の事情から言えば、魔王軍に対抗する組織、アクエラ解放軍に志願する者達も多かったのである。
当然、頭脳明晰で身体能力も申し分なく、若干人付き合いは悪いまでも、それを補って余りあるカリスマ性を有しているカエサルは、将来の幹部候補として、同じく解放軍に入るものと誰もが思っていた。
しかし、その予測を裏切り、カエサルはどこにも所属する事なく、忽然と“ストレリチア荘”から姿を消してしまったのであったがーーー。
◇◆◇
「・・・どこに行くんだい、カエサル?」
「・・・ルドベキア。それにアルメリアまで・・・。」
その日、人知れず長らく世話になった“ストレリチア荘”を出たカエサルは、ふいに自分達を呼び止めた者達と顔を合わせていた。
それは、ルドベキアとアルメリアであった。
「まさか定職にも就かず、行方をくらませるつもりじゃないだろうね?」
「・・・・・・・・・。」
ズバリと確信をついたルドベキアの言葉に、カエサルは無言になった。
実際、そのつもりだったのだから二の句が継げなかったのかもしれない。
別にこれは珍しい事ではない。
彼らは強制ではなかったが、例えば徴兵を嫌って他の国に行く若者も存在するからである。
争い事が嫌いであるとか、臆病風に吹かれたからであるとか、理由は様々であろうが、しかしカエサルはそんな人物ではなかった。
「・・・なんてね。キミほどの男が考えなしにそんな事をするとはボクも思っていないよ。」
「・・・・・・・・・。」
しかし、一転して先程の自分自身の言葉を否定するルドベキア。
彼女は、カエサルのその行動には何か裏がある、と理解していたのであろう。
カエサルが突出した才能を持っていたのは事実であるが、ルドベキアも幼い頃より聡明な少女である。
“ストレリチア荘”内では、勉学において彼に次ぐ優秀さを発揮していたルドベキアは、カエサルの真意の近いところを看破していたのかもしれない。
「ち、ちょっと待って下さいっス。」
しかし、二人の意味深な会話についていけなかった者がこの場には存在していた。
誰あろう、アルメリアである。
カエサル、ルドベキアよりも年下である彼女は、それでも“ストレリチア荘”内では優秀な部類に入る少女であったが、彼女の持ち味はどちらかというとコミュ力の高さと明るさの方であり、この時点での彼女は二人よりも明らかに知能や思考力においては劣っていたのであった。
「お二人が何を話しているのか、私にはサッパリ理解出来ないっスよ。はじめから教えてもらっても良いっスか?」
実はアルメリアは、ルドベキアに引っ張られてここにいるだけだった。
訳知り顔の二人とは、スタート時点が違った訳である。
しかし、そんな無邪気な彼女の存在は、場の雰囲気を弛緩させる効果はあった。
最近では仏頂面、というか、あまり感情を表に出す事も少なくなっていたカエサルも、フッと微かに笑い、ルドベキアの方を見やった。
目が合うと、ルドベキアはコクリと頷いた。
それを見ると、ややあってカエサルは事情を語り始めた。
「・・・僕の目的は単純だよ。魔王軍を何とかする事。その為に、僕は“ストレリチア荘”を出ていくのさ。」
ポツポツと語ったカエサルの言葉に、しかしアルメリアは疑問符を浮かべていた。
「・・・???だったら、魔王軍に対抗する為の軍隊が組織されてるって話っスから、そちらに参加されれば良いのでは?カエサルセンパイほどの実力なら、向こうも大歓迎っスよ?」
そうなのだ。
普通に考えれば、個人でどうこうするよりも、何処かしらの組織に属した方が、カエサルの目的には適っている。
それ故に、アルメリアの発言は間違いではない。
しかしカエサルの意見は違った様である。
「・・・それも一つの選択肢だろうけど、それだと“魔王軍”はどうにか出来ても、“魔王”の方は難しいだろうね・・・。」
「はっ・・・???」
「・・・・・・・・・。」
困惑するアルメリアと、やはりといった表情を浮かべるルドベキア。
“ストレリチア荘”は、セレウスとハイドラスとも親交のあった数少ない施設である。
それ故に、かなり詳しい情報が出回っていたりする。
もちろん、グエルら“パクス・マグヌス”上層部には伝わっている事なので、最重要な情報ではないのであるが、それでもそれは、カエサルやルドベキアの様な高い知能を持つ者達には重要な考察材料となっていた。
再三述べた通り、魔王軍の裏には魔王・マルムスの存在がある。
(まぁ、その更に裏にはヴァニタスの存在があるのだが、それは流石にこの時点でのカエサル達は知らなかったし、それをどうこうする事も出来なかったが。)
そして、彼(と幹部である他のオーガ達)をどうにかしない事には、魔王軍を完全に止める事は実質的には不可能なのである。
「セレウス様やハイドラス様のお話では、魔王は不可思議な能力を持っているそうだ。あらゆる者達を強制的に従えさせるスキル。つまり魔王を倒さない限り、魔王軍を止める事は不可能なんだよ。」
「仰る事は分かりましたが、それなら尚更軍隊に入って、それから魔王討伐を提案されたらいかがっスか?」
アルメリアは、ある意味もっともな発言をする。
わざわざ単独でそれをするよりも、皆で協力した方が成功率が上がる、・・・様に見えるからである。
しかし、カエサルは首を横に振った。
「キミはまだ、“組織の理論”というものが真に理解出来ていない様だね。そんな事は出来ない。・・・いや、より正確に言えば、そうする為には非常に時間を食う事となるんだよ。」
「・・・???」
「つまりだな・・・。」
物語やゲームにおいて、主人公=プレイヤーが、単独、ないしは少数の仲間だけで、魔王なり大魔王、つまり、諸悪の根源を成敗する、という流れがある。
しかしこれは、考えてみればかなり無茶な事を要求されている訳だ。
倒すべき敵が分かっているのならば、いくら強いといっても、主人公や仲間達だけでなく、人類全体、あるいはもっと現実的に、軍隊を投入した方が良いに決まっているからである。
そう疑問に思った者達も多い事であろう。
もちろん、メタ的な要素だったり、あるいは選ばれた存在でなければそれらの相手が務まらない、という理由があったりもするが、しかし一方で、これも案外理に適っていたりもするのである。
そもそもの話として、“軍隊”というのは、国、ないしは何らかの組織が持つ暴力装置である。
それらの目的は、第一が国を防衛する事、だからである。
もちろん、他国や他組織を侵略する為に用いられる事もあるのだが、それでもあくまで国などの機関の一つに過ぎないのである。
それ故に、彼らには、“自由”というものが認められていない。
当たり前だ。
仮に何処かの国の軍隊に自由な裁量が認められてしまえば、彼らは容易に自国に牙を剥く事もある。
実際、軍によるクーデターによって、国が乗っ取られる事も往々にしてある。
そうさせない為にも、軍隊はガチガチに規則を設けられるのである。
もちろん、魔王軍に対抗する為の軍隊、アクエラ解放軍の目的は一般的な軍隊とは異なるかもしれないが、それでもあくまで“組織”としての理論、ラテス族側、連合側、“パクス・マグヌス”からなる意思決定機関の承認を得ない事には、これらの組織を動かす事が出来ないのは同じ事なのである。
自由に動けない立場になってしまうと、どうしても動きは鈍化するものだ。
即応性が求められる魔王との戦いにおいて、軍隊に入る事はデメリットでしかないのであった。
それに、軍隊の強みは、多数と多数でぶつかり合う時に発揮される。
魔王軍対解放軍、という構図であるならば活躍も出来るのであるが、他方では、“魔王”、あるいは特定の誰かを打ち倒す、という点においては、軍隊の存在が逆に足枷になる事もある。
ならば、アルメリアの言う通り、その組織内にまた独立した組織、つまり魔王討伐に特化した部隊なりを用意すれば良い様にも見えるが、いずれにせよ、何処かに所属する以上、自由な裁量、超法規的措置を与えられる事は容易ではないのである。
もちろん、不可能ではないかもしれない。
だが、いずれにせよ説得には時間が掛かる訳で、それならば、最初から何処にも所属しない方が、自由に動ける、というものなのである。
しかし、当然ながらどちらにもメリットとデメリットがある。
軍隊などに所属すれば、先程述べた通り、自由は制限されるが、バックアップ、補給なり装備なりを支給される、というメリットはある。
一方で、何処にも所属しなければ、自由ではあるが、全ての事は自分達で賄わなければならないというデメリットはある。
実際、ゲームにおいては、金策にかなり悩まさせる事となる事も多い。
まぁ、それはともかく。
「何故、セレウス様やハイドラス様ほどの方々が、傭兵まがいな事をしていたのか?お二方の実力と知識ならば、何処でも引く手あまただっただろう。実際、士官の話は結構あったみたいだしね。しかし一方で、そうすると行動が著しく制限される事となる。お二方はそれを嫌ったのだろう。逆に言えば、それほどの力があった、という裏返しでもある。実際、彼らが生活に困った様子はなかった。何処かの組織のバックアップなしに、食べる事も生きる事も出来ていたんだ。普通なら、それが出来ないからこそ、何処かに所属する訳だからね。」
「なるほど・・・。」
元々頭の悪い少女ではないのだろう。
カエサルの理路整然とした説明に、アルメリアは納得した様な声を上げていた。
「つまりキミも、セレウス様やハイドラス様に倣い、独自に魔王を討つつもり、だと?」
「そのつもりだよ、ルドベキア。もちろん、僕も自分の力を過信していない、つもりだ。そもそもの話として、セレウス様やハイドラス様でさえ道半ばで倒れられた話を鑑みると、当然当時の彼らの足元にも及んでいない僕が、今突っ込んでも返り討ちに遭うのが関の山だからね。だから、まずは力を付ける事から始めるつもりさ。」
「ふむ・・・。」
もちろん、これはカエサルの勘違いである。
この時点でのカエサルがセレウスやハイドラスの足元にも及んでいないのは事実であるが、二人が(一時的に)退場したのは実力不足からではなく、自分達の都合の為だったからである。
二人が本気を出せば、魔王も魔王軍も即座に壊滅させる事は可能だった。
しかし、再三述べている通り、彼らの真の目的は、“セルース人類の末裔”を騙るヴァニタスを討ち取る事であり、だがその過程で、せっかく薄れかけつつある“セルース人類”の記憶を、自分達で再び想起させる事は本末転倒でもある訳だ。
こうした事もあり、本来は良い悪いはともかくとして、魔王軍に関してはスルーしてヴァニタスを討てば良かったのだが、ここでマギやネモの(無意識への)干渉もあって、彼らは最終的にアクエラ人類の為に自分達を犠牲にした訳であった。
ただ、こうした内情を知らなければ、二人ですら魔王軍には敵わなかった、という誤解を生み出してしまう訳で、もっとも、それが逆に功を奏して、彼らの後を引き継ぐ決意を固めたカエサルが、しかし慎重に事を進める事とした訳でもある。
カエサルは、ルドベキアとアルメリアが納得しただろう事を察して、再び歩を進めようとした。
「待ちたまえ。」
「・・・まだ何かあるのかい?」
しかし、またしてもルドベキアがそれに待ったをかける。
訝しげな表情を浮かべ、カエサルはそれに振り返った。
だが、そんなカエサルに、ルドベキアは予想外の言葉を投げかけて来た。
「いや、何。元々ボクは、キミを引き止めるつもりでここにやって来た訳ではない。むしろその逆さ。ボクも連れて行って貰おうと思ってね。」
「えっ・・・!?」
「ルドベキアセンパイッ!?」
涼しい顔でそう言ったルドベキアに、カエサルはもちろんだが、何故かアルメリアも驚きの表情を浮かべていた。
「キミが優秀なのはボクも知っているところだ。しかし、流石に独りでは、目的を達成するのは難しいんじゃないかな?ならば、仲間は一人でも多くいた方が心強いだろう?」
「それは・・・、まぁそうだが、しかし、いくら何でも女のキミを連れて行く訳には・・・。」
「そ、そうっスよ、ルドベキアセンパイ。」
「・・・。」
残念ながら、この当時は、男女平等などという概念はなかった。
いや、男尊女卑が蔓延していた、という事ではないが、やはりその性差の役割として、女性は子供を産み、育てる、というのが一般的な考え方で、セシリアの様に、政治的な立場を持つ家系に産まれたから政治的な役割を持つ事はあっても、大半の女性は、誰かと結婚し、家庭に入るのが普通だったのである。
それが、女の身でありながら戦いに赴く、と言っているのだから、一般的な感覚も合わせて、カエサルが難色を示すのはむしろ当然だった訳である。
しかし、ルドベキアはその応えに不満を持った。
もちろん、カエサルやアルメリアに悪気がある訳ではない、というかむしろ彼女への心配からそういう反応が出た事は理解していたが、かなり革新的な考え方を持っていたルドベキアにとっては、それは聞きたかった答えではなかったからであろう。
「キミ達の言う事は分かるがね。ボクは、自分が大人しく家庭に入る事が想像出来ないね。」
「「・・・。」」
男勝り、とまでは行かないまでも、ルドベキアは男性的なタイプであり、その頭脳も強さに関しても、“ストレリチア荘”内ではカエサルに次ぐレベルであった。
元々天才児であり、セレウスやハイドラスから多少なりとも指導を受け、ノインらの尽力もあり、高い教育を受けたカエサルに食らいついていけるだけでも、彼女が優秀である事の裏返しでもある。
そんな彼女が、こういう言い方は何だが、それを活かす事もなく、家庭に入って一生を終える事は、ある意味でな非常にもったいない事でもある。
世間一般的な風潮ではそれも仕方ない事なのであるが、良くも悪くも彼女達は、その流れとは一線を画す立場に立っていた。
(孤児であるが故に家族からの圧力などがないので、自分達の生き方を自由に選べる立場にあったのである。)
仏頂面で腕組みしたルドベキアに、カエサルは溜息を吐いた。
こうなれば、彼女がテコでも動かない事をそれなりの付き合いから理解していたからであろう。
それ故に、先に折れたのはカエサルの方だった。
いや、カエサルからしても、正直独りでは不安もあったのであろう。
女である事を除けば、ルドベキアは旅の仲間としては申し分ない人材である、と考え直したのであろう。
「はぁ〜・・・。分かったよ、ルドベキア。キミの同行を許可しよう。」
「本当かいっ!」
カエサルの言葉に、ルドベキアはパッと明るい表情を浮かべていた。
正直、それは見る者全てを魅力するほど素晴らしい笑顔であったが、兄妹やライバルとしての関係に近いカエサルにとっては、やれやれと呆れただけであった。
「・・・なら、私も同行するっスよ。ルドベキアセンパイだけじゃ心配っスからね。」
「っ・・・!?」
「ほう。」
ようやく話がまとまりかけた、とカエサルが思っていると、今度はアルメリアがそんな事を言い始めた。
カエサルは今度は、どんな言葉でアルメリアを説得するかに頭を悩ませながら、再び溜息を吐くのであったーーー。
こうして、全く締まらない旅立ちを迎えたカエサルであったがーーー。
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