封印
続きです。
突然だが、呪術的には“太陽”や“月”、あるいは“星”といった天体は、非常に重要な意味合いを持っていた。
例えば有名な“吸血鬼”や“狼男”は、満月の夜にその力を最大限発揮する、とかである。
他にも月食や日食が、儀式を行う上では非常に良いタイミングであるとか、逆に非常に不吉であるから、そうした日には家に閉じこもった方が良い、など、古来より、空に浮かぶ天体達は、我々の生活にも大きな影響を及ぼしていたのであった。
また、これはもっと科学的な話として、太陽や月といった天体は、当然ながらかなりの重力を持つ事となるから、他の惑星などに物理的な影響を与えるものなのである。
有名なところが潮の満ち引きであり、これは月の潮汐力によって起こる物理現象であった。
と、この様に、呪術的観点からも、また科学的観点からも、特に身近な衛星である月は、太陽と並び立つほど重要な役割を持っているのであった。
まぁ、それはともかく。
さて、ここまでは、あくまで向こうの世界の話である。
で、ここからは惑星アクエラの話になるが、惑星アクエラには二つの衛星、レスケンザとルトナークが存在していた。
広い宇宙には、衛星を複数持つ惑星も多いのでそこまで珍しい事ではないのであるが、ただ、先程述べた通り、衛星が与える影響はかなり大きいので、当然ながらセルース人類も、惑星アクエラに降り立つ前に、ここら辺の事は調べている。
結果としては、人類が暮らす上で問題は確認されなかったのであるが、しかし他方では、この二つ衛星の存在が、”魔素“という物質(?)の存在と、密接に関わっているのではないか?、という仮説も存在しており、まだまだ未解明な部分もかなり多く存在していたのであった。
実際、アクエラ人類がまだセルース人類と接触する前、つまりセルース人類が体系化した『魔法技術』を獲得する以前には、この二つの双月が、呪術的に重要な意味合いを持っていたらしい事は分かっているし、ある種の信仰の対象となっていた事もある。
それでなくとも、“月”というのは、魔力の象徴である例は珍しくないので、まだまだあやふやな面は多いまでも、これをある種の触媒の一つとして、何らかの儀式をするには都合が良かったのであるがーーー。
◇◆◇
「都合が良い事に、今夜は双満月か・・・。」
「双子の月と双子の私達・・・。何だか、出来すぎな気もするがな。」
「・・・お前、そんなロマンチストだったっけ?」
「たまには良いだろう?」
「へっ・・・!」
時は少しばかり戻る。
グエル達が魔物達の接近にまだ気が付いていない、絶賛会合中の時、セレウスとハイドラスは大森林地帯を駆けていた。
目的は一つ。
魔物達を“封印”する為であった。
もちろん、本来の彼らの目的はヴァニタスを排除する事である。
だが、彼らにも情というものは持ち合わせている訳であり、アクエラ人類を見捨てる、という選択肢を取れなかったのであった。
もっとも、そこには一応彼らなりの理由がある訳で、魔物達をどうこうする事でアクエラ人類を救うと共に、自分達が退場した様に見せかけて、ヴァニタスの油断を誘う、という裏事情もあったのであった。
また、これはこの時点での彼らにも分からない事であったが、こうした急激な方向転換、方針転換は、実はマギやネモが無意識レベルで彼らに働き掛けたからでもある。
残念ながらこの時点のセレウスとハイドラスは、いくらとてつもない力を持ち、神性の域に片足を突っ込んでいるとは言えど、彼らよりも遥か以前にその域に到達している“アドウェナ・アウィス”が生み出したの人工知能であるマギやネモとは、事『アストラル』とか『情報の海』など、目には見えない、しかし非常に大きな影響を及ぼすものの存在、あるいは概念の扱い方には大きく劣っていた訳であった。
まぁ、それはともかく。
それ故に、彼らは、絶賛大ピンチになりかけていたグエル達を援護する為に、こうして現場に駆け付ける最中であった訳であった。
「しかし、上手くいくかね?」
「おそらく大丈夫だろう。」
「おそらく・・・?」
ハイドラスにしては曖昧な返事に、セレウスは一瞬顔をしかめた。
「まぁ、まだまだ『魔法技術』は発展途上の技術だからな。私達にも分かっていない事は多いさ。だが、所謂“魔術的”要素がプラスに働く可能性は高い。元々の“呪紋”もどちらかと言えば呪術的な技術だし、そうした意味では、天体の動きを取り入れた術式は大きな効果が期待出来るだろう。セージの演算でも、成功率は80%以上と出ているからな。・・・欲を言えば、こうなる前にしっかり実験なり検証をしておきたかったところだが・・・。」
「・・・そんな暇もなかったもんなぁ〜。」
「うむ。」
残念ながら、ハイドラスが言った通り、『魔法技術』はまだまだ発展途上の技術であった。
それは、それを編み出したセルース人類にとってもそうであり、しかもハイドラス達は、あくまでソラテスらが編み出した技術を完璧に模倣したに過ぎないのである。
先の大戦やその後のあれこれもあって、それをゆっくり研究している時間もなかった。
それ故に、今回は、ある意味ぶっつけ本番に臨むしかなかった訳であった。
もちろん、何の勝算もなくそんな事を言っている訳ではなく、既存の“コールドスリープ”をもととしたオリジナルの理論は構築している。
だが、それを実際に実験した訳でも検証した訳でもないので、所謂“理論上は”、という状況だったのである。
「とにかくやるしかないっ!最初は打ち合わせ通り、後は流れで。」
「りょ〜かぁ〜い。」
元々あれこれ考えるタイプではないセレウスは、アドリブには強かった。
それ故に、若干緊張気味なハイドラスと違い、軽い調子でそう答えたのであったーーー。
・・・
「こ、こんなっ・・・!!!」
そして、時間は魔物達の強襲のタイミングに巻き戻る。
「へ、兵士の報告は本当ですっ!この場は魔物共に囲まれつつありますっ!」
「「「「「っ!!!」」」」」
「な、なんて事だっ・・・!」
「急ぎ、お逃げ下さいっ!この場は我々が食い止めますっ!」
「無茶だっ!数が違いすぎますよっ!」
「ではどうすると言うのですかっ!ここで籠城を決め込んだとしても、壊滅は時間の問題ですよっ!?それなら、一か八か、あなた方が生き残る方に賭けるしかっ・・・!」
重要な会議に臨んでいたグエル達が、魔物達の強襲にようやく気が付き、その対応をあれこれ考えていた時、セレウスとハイドラスはどうにか間に合ったのであった。
「見えたっ!」
「助太刀するぜっ!」
「この場はお任せ下さいっ!」
「「「「「!!!???」」」」」
グエル達からしたら、突如現れた二人に困惑していた事だろう。
だが、その言葉が頭に染み渡ると、何とも言えない表情を浮かべるのだった。
「セレウス殿っ、ハイドラス殿っ!お、お気持ちはありがたいのですが、その、いくら何でもお二人だけではっ・・・!」
見張り台の上から、二人と面識のあるグエルはそう叫んだ。
そうなのである。
いくら何でも、これだけの数の魔物を相手にするには、たった二人の助っ人など誤差に過ぎない。
もちろん、グエルは二人が只者ではない、凄腕のハンターである事までは知っていたが、それでも多勢に無勢、勝つ勝たないの話ではないと理解していたのであろう。
しかし、セレウスもハイドラスも、その反応は想定通りであった。
故に、冷静に言葉を返すのだった。
「もちろん、私達も奴らを倒せるとは思っていませんよっ!けれど、時間を稼ぐ事は不可能ではありませんっ!」
「・・・・・・・・・えっ!?」
断片的なセリフに、グエルは困惑をますます深めていった。
だが・・・、
「わりぃが説明している時間はねぇっ!俺らが突破口を開くから、アンタらはその隙に逃げてくれっ!」
切羽詰まった二人の叫び声に、それ以上質問をする事が出来なかったのである。
何故なら・・・、
ブオンッ!!!
「「「「「なっ・・・!!!???」」」」」
セレウスとハイドラスを中心として、非常に強大な幾何学模様が立体的に浮かび上がったからであったーーー。
以前にも言及したかもしれないが、“術式”というのは、所謂“コンピュータプログラム”と似た様なものなのである。
“コンピュータプログラム”とは、計算機に動作をさせる為に用意された、処理手順を指示する一連の命令の集まりの事である。
プログラムは、その計算機の動作を具体的に指示する命令語の集まりであるといえる。
特定の命令語を具体的に並べたものは、どんな処理をするものであれ、プログラムに該当する。(某百科事典より抜粋)
当然ながら、どれだけ優れたスペックを持つコンピュータと言えど、このプログラムが無ければ無意味なのである。
で、この世界の“魔法”とは、まず、全てのもととなる“魔素”、つまりはエネルギーを操り、集約させて、それを具体的な現象に変換する為に、“術式”、つまりプログラムを通さなければ始まらない。
これが出来なければ、どれだけ高いスペックを持っていても(“魔素”との高い親和性を持っていても)、優れた術者とは言えないのである。
つまりこの世界における“魔法使い”とは、正確には“術式使い”、つまりは一種の“プログラマー”なのであった。
さて、とは言っても、あくまで一般的な“魔法使い”達は、自らオリジナルの“術式”、“プログラム”を組む訳ではない。
何故ならば、ただでさえ“プログラミング”を学ぶのは高い専門知識や技術が必要となるからである。
オリジナルで“術式”を組むレベルとなると、より高度な知識と技術、そして“言語”に対する知識が必要となってくる。
以前から言及している通り、この世界の『魔法技術』の基本はセルース人類が築き上げたものである。
彼らは高い科学技術を持っていたからこそ、それを応用して、『魔法技術』を体系化する事に成功している。
その過程で、『魔法技術』にはセルース人類が扱う言語だったり、プログラミング言語が散りばめられている訳であり、流石にアクエラ人類では、それを丸ごと暗記する事は出来ても、そもそも扱っている文字などが異なる訳であるから、それを真に理解、すなわち、新たなるプログラムを構築する事は困難なのである。
(ちなみに、後の世のアキトは、それらをアッサリやってのけている。
もちろん、アキトだけでなく、他の術師達も独自に研究を重ねているが、アキトほどの領域に到達している者は皆無である。
これはアキトが、『英雄の因子』の能力の一つ、『言語理解』という能力を持っているからであり、ある程度学べば、どんな言語も理解出来てしまうからであった。
また、他の術師に関しては、長い歴史の末に、もちろんその過程で失ってしまったものも多いが、“知識の蓄積”というものが存在する為に、今現在の術師達よりもそうした意味では有利なのである。)
もっともこれらは、あくまでも今現在の“アクエラ人類”に限定した話である。
同じセルース人類ならば、それらのハードルは、少なくともアクエラ人類よりも低いのである。
もっとも、いくらハイドラスが明晰な頭脳を持っているといっても、流石に何でもこなせる訳ではない。
(もっとも、これは他の限界突破を果たした“能力者”達も同様だが、彼らは神性の領域に足を踏み入れているので、人々の集合無意識、すなわち『世界の記憶』、あるいは『アクエラの記憶』にアクセスする権限を有している。
そこから“情報”なり“技術”を引っ張り出す事によって、まさしく“神”の如く、全知全能、とまでは行かないまでも、大抵の事は一流以上にこなせる、“万能超人”になる事は可能であった。
もっとも、所謂『情報の海』には想像を絶する情報量が内包されているので、そこにアクセスするのはかなりのリスクがあるのだが。)
当然ながら“プログラミング”は、セルース人類の中でも、所謂専門家達の専門分野だからである。
当たり前だが、専門外の者達が、同じ領域にすぐに立てる筈もないのだが、しかしここで、それをサポートする人工知能があれば話も変わってくる。
ここで、また話は変わるのであるが、昨今の向こうの世界の人工知能の進化は目覚ましいものがあった。
特に近年では、もはやその向こう側に人がいるのではないかと疑いたくなるほどスムーズな受け答えだったり、漫画家、イラストレーターも危機感を持つほどの画像制作技術など、人間に出来る事は大抵こなせる様になり、一部ではもはや人間の能力の限界を超えた事すら可能であった。
そして、そんな地球の人工知能すら凌駕する人工知能を、セルース人類は持っていたのであった。
それが、マギやネモである。
とは言えど、彼らは“アドウェナ・アウィス”が生み出した人工知能であり、セルース人類のオリジナルではない。
先の大戦では、利害の一致により協力関係を結んでいたが、彼らの事を全面的に信頼した訳ではないハイドラス達は、今回の件で彼らを使う事は控えていたのである。
だが、状況は変わってしまった。
再三述べている通り、セレウスとハイドラスの最終的な目的はヴァニタスの排除な訳であるが、彼のやらかしによって、魔物が人間並みの知能を獲得してしまったからである。
あくまでそれも、生存競争と言ってしまえばそれまでなのだが、それでも二人にも人並みの情がある訳で、アクエラ人類が全滅する事を見過ごす事が出来なかったのである。
もっとも、そこにはただの情だけでなく、将来的にアクエラに入植するに当たってアクエラ人類が存在しない事は(場合によっては都合が良いかもしれないが)、場合によっては魔物達が更なる“進化”を遂げる可能性も内包しているので、色々と都合が悪い、という側面もあったのかもしれないが。
とは言えど、セルース人類が姿を消した理由は、自分達の存在がアクエラ人類から神の如き存在と認識されるのを良しとしなかったからであるから、ここで二人がセルース人類としての“力”を発揮する事は憚られたのである。
それ故に、あくまで“アクエラ人類”としての力、つまり『魔法技術』の範疇の中で、それらを何とかしなければならなかったのである。
もちろん、後の世のアキトが『魔法技術』で多数の魔物を屠っている経緯もあるので、やろうと思えば『魔法技術』でも魔王軍を倒す事は不可能ではない。
しかし、そこは人の心理であり(あるいは無意識にマギやネモの影響を受けてしまった結果かもしれないが)、先程述べた通り、大きな力を使った結果、自分達の正体を悟られるのを避けたかったのかもしれない。
それに、色々と矛盾するのであるが、遠因はヴァニタスにあるとは言えど、これも一種の生存競争な訳であるから、惑星アクエラの問題は、あくまでアクエラ人類が何とかするのが筋である、という考えもあったのかもしれない。
こうした、ややこしいあれこれの結果として、セレウスとハイドラスは、魔王軍を一時的に“封印”する、という選択をした訳であった。
これならば、
“セルース人類ならこの程度の事は打開して見せるだろうから、大きな力を持っていても、彼ら二人はセルース人類ではないだろう。”
とアクエラ人類は考える事だろうし、逆に言えば、つまりはそれは、セルース人類が不在である事を補強する事実であり、なおかつ自分達を救ってくれない、という現実でもあるので、これらの問題は自分達で何とかしなければならない、と誘導する事が出来る訳である。
(当たり前だが、頼れる者、頼りになる者が不在であるならば、自立するしかないからだ。)
そうした訳で、優れた“能力者”であり、今や優れた“魔法使い”でもあった二人は、それでも、“術式使い”としては専門家には劣っていたので、人工知能のサポートを受けつつ、天体の力をも利用して、そして自らの存在すら触媒にする事で、とてつもない大魔法を使うつもりだったのであるがーーー。
二人の周囲に浮かび上がった立体的な幾何学模様は“術式”であった。
後の世のアキトも言及していたが、ある一定以上の強力な“魔法”を使用する際には、こうした“魔素”の発光現象により、ホログラムの様な現象が起こるのであった。
大掛かりな仕掛けを使う為には、必然的に大掛かりな装置が必要となる。
それと似た様なものかもしれない。
しかし、逆に言えば、いくら『魔法技術』を獲得しているとは言っても、これまでアクエラ人類はこの様な現象を見た事がなかったのである。
それほどの大規模な“術式”を発明出来なかったからであるが。
目の前の魔物達の危機も忘れて、ただただその幻想的で神秘的な光景に圧倒されるグエル達。
そんなアクエラ人類達を尻目に、セレウスとハイドラスは、朗々と言葉を紡ぐのであった。
「「大いなる大地の竜よ、強大なる天の竜よ、天上に浮かぶ幾多の星々よ。我がもとに集いたまえっ!!」」
シュウゥゥゥゥ〜〜〜!!!
「「「「「っ!!!」」」」」
あくまで“術式”はすでに展開完了している。
故に、彼らが唱えているのは、所謂“詠唱”ではなく、それっぽい言葉を羅列したものに過ぎない。
しかし、傍目には何かとんでもない儀式をしている様に映る訳で、正体のバレたくない二人にとっては必要なプロセスだったのである。
それに、本来は無意味な言葉の羅列に過ぎないが、“術式”の効果によって、それに連動する様に“魔素”が二人に集約していった。
それは、大気や大地を震わせる物理的な現象として現れて、グエル達にも認識出来ていた。
ゴクリッ。
グエル達の誰かが、いや、もしかしたらその場に立ち会っていた者全員かもしれないが、は思わず息を飲んだ。
一方で、突然のセレウスとハイドラスの乱入に驚き戸惑っていた魔王軍達も、再び侵攻を進めていた。
いや、もしかしたらこの現象に危機感を抱き、二人を潰そうと考えたのかもしれないが。
だが、先程も述べた通り、すでに“術式”の展開は完了している。
後は、“エンターキー”を押すだけの状態だったのである。
つまり、今更動き出してももう遅いのであった。
「我が身を触媒とし、大いなる闇の侵攻を食い止めたまえっ!『大封印』!」
「お前らっ!後は頼んだぜっ!!」
「「「「「っ!!!???」」」」」
カッ!!!
最後の“キーワード”を唱えると、目もくらむほどの眩い光が辺り一帯を包む。
それに思わず目を瞑ってしまったグエル達は、やがて視力が回復した後に驚きの光景を目の当たりにするのであった。
「な、なにがっ・・・!?」
「セレウス殿っ!?ハイドラス殿っ!?」
「み、皆さん見てくださいっ!ま、魔物共がっ・・・!!!」
「「「「「っ!?」」」」」
そこには、自分達を囲んでいた幾多の魔物達が立っていたのであった。
何をどうするつもりだったのかは皆目見当もつかないが、その事からグエル達は二人が失敗したと思っていた。
だが、様子がおかしい。
待てど暮らせど、魔物達が動く事はなかったのである。
「ま、まさか、石化っ・・・?」
「へ、兵士達よ。少し調べてきてくれ。もちろん、慎重に、なっ!」
「「「「「は、ハッ!!!」」」」」
司令官の命に、護衛として付き従っていた兵士達が慎重に魔物達に近寄って行った。
そして、
「ま、まるで石の様に動きませんっ!呼吸もしていませんし、心臓も動いていませんでしたっ!」
「な、なるほど・・・。」
少し調べると、急いで戻ってきた兵士がそう報告したのである。
混乱する中、努めて冷静に状況を整理していたグエルと司令官は、一つの結論に達していた。
「これはセレウス殿とハイドラス殿が仕掛けた事でしょう。おそらくその効果は、相手の動きを封じる事。あるいは石化かもしれませんが・・・。」
「その様ですな・・・。そんな“魔法”は、見た事も聞いた事もありませんでしたが。」
「まぁ、お二方なら今更ビックリする様な事でもありませんがね。しかし助かりました。とりあえずこれで、この場の危機は脱した事になりますからね。」
「ですな。お二方には感謝しなければなりません。・・・ところで、そのお二方は・・・?」
「・・・そういえば、まだあちらから戻っていませんが・・・!?」
言ってグエルはハッとした。
これだけの事をやってのけたのだ。
当然ながら、何らかのデメリットは存在する訳である。
そして、先程の最後のセレウスの言葉。
“お前らっ!後は頼んだぜっ!!”
「ま、まさかっ・・・!?」
「ど、どうしたんですかっ!?」
慌てて駆け出すグエルに、司令官もそれを追った。
いくら兵士達の報告があっても、まだまだ油断出来る状況ではなかったからである。
そしてグエルは今だに微動だにしない二人に駆け寄ると、力なくへたり込むのだった。
「・・・やはり、お二方も息をしておりません。」
「っ!!!」
「お二方は、自分達の命と引き換えに“大魔法“を使われたんですね・・・。」
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