AIの暗躍
続きです。
◇◆◇
“魔王”・マルムスが着実に準備を進める中、一方のセレウスとハイドラスは困り果てていた。
「ある程度はお前の予測通りだったが・・・。」
「しかし、奴らの“思考力”は想像以上だった様だな・・・。」
二人が何に困っていたかと言うと、マルムスらの予想外の“進化”に、であった。
いや、グエルが知っていた通り、マルムスが『魔眼』(もどき)を獲得する事まではハイドラスらも予想済みであった。
再三述べている通り、“魔素”の活用技術、その深淵は、セルース人類とて全貌を把握している訳ではない。
あくまで彼らが体系化したのは、その一部に過ぎないのである。
だが、逆に言えば、想像出来る範囲の事は一通り出来るだろう事は予測出来る訳であり、なおかつ彼らは、“能力”という、やはりこちらも非常識な力を元々持っていた為に、少なくともそれに近しい事は出来るだろう事も予期していた訳である。
で、“能力”の中には、当然ながら“幻術系”、“精神操作系”の“能力”も存在するので、魔獣やモンスターをそうした“力”で操り、通常は不可能な筈の魔物達の統率を可能にするだろう、と考えていた訳である。
そして、その予測は見事に的中していた。
ここまでならば、彼らを操っている元凶、すなわち、ゲームよろしく、“魔王”・マルムス一体を倒せば、それでひとまず魔獣やモンスターの統率力が破綻し、ある種、通常の状態に戻る、筈であった。
しかし、ここからは二人の予測を超えた事態、オーガ達の知能、より正確に言えば、その“思考力”が予測よりも高まってしまったのが問題であった。
単純に力で従えていたにしろ、あるいは“能力”によって従えていたにしろ、トップを排除すればそれで事足りる筈が、彼らはその事を見据えていたのか、組織の細分化、という一手を打ってきたのである。
こうなると、マルムスを倒せばそれで済む、という話ではなくなり、まるで人間同士の争いの様に、その落とし所が非常に難しくなるのである。
何故ならば、マルムスを討ったとしても、他の者達が彼の思想、野望を引き継ぐ可能性が出てきてしまったからである。
つまり、より戦略性の高い攻略を求められる状況となってしまった事で、セレウスとハイドラスは困り果てていた訳であった。
では何故、確かに元々オーガ達は高い知能を有していたが、それでも人間ほどの社会性もなければ(単純に個体数が少ないので、人間達と違い、“群れ”という概念に乏しい)心の機微、という、目には見えない事柄にまで配慮する、まるで人間の様な“思考力”を可能にしたのか?
これにも、やはり“魔素”が影響を与えていたのであった。
再三述べている通り、ヴァニタスによる強制レベルアップによって、マルムスらの知能は極めて高くなった。
が、同時に、それだけでここまでの“進化”を可能にした訳でもないのだ。
一番重要なのは、彼らが人間も食らう、という生物としての性質にあった。
“呪紋”の時にも触れたが、この世界にも“アミニズム”的な考え方が存在する。
で、“呪紋”は、自然界のシンボル、ここでは特に人間にとっての脅威でもあり、ある意味自然の象徴とも言える魔獣やモンスターの形などをかたどったものを彫り入れる事によって、その力を自分のものとする、という考え方から発展していったものである。
ここら辺の考え方は向こうの世界にも存在するのだが、この世界には“魔素”と呼ばれる物質(?)の影響により、実際に身体能力などを高める効果が確認されている訳である。
また、“呪紋”に近しい考え方として、相手の肉を体内に取り入れる事によって(つまり食べる事により)、やはりその存在の力を取り込もうとする考え方も存在していた。
残念ながら、こちらの方はセルース人類もその効果を確認していなかったのである。
まぁ、ある種、刺青以上に原始的で、野蛮な行為であった事から、心理的に忌避感を覚えていたのかもしれないが。
しかし、その見落としが最悪のケースに繋がってしまった訳である。
“魔素”という物質(?)が存在する以上、ありえない、という事がありえないのだ。
先程も述べた通り、人間に想像出来る事は全て実現しうる可能性があり、なおかつ、人間の想像の範囲を超える事も実現してしまう可能性があるのだ。
更には、そこに強い思い、強力な意志の力が存在すれば、より実現する可能性が高まるのは『魔眼』もどきの時にも解説した通りだ。
で、そうした偶然が重なった結果、オーガ達は高い知能に加えて、捕食した人間の高い“思考力”も獲得するに至ってしまった訳である。
「まぁ、俺達なら奴らを倒すのは造作もない事だが・・・。」
「それは・・・、止めた方が賢明だろう。アクエラ人類を率いるならともかく、単独で奴らを仕留めたとあっては、流石に私達の正体をバラす様なものだからな。」
「だったらどうする?流石に戦争となると、かなり分が悪いと思うが・・・。」
「ふぅ〜む。」
人間と同レベルの知能、思考力を持つ者達が複数存在し、その者達が組織した魔獣・モンスターの混合軍。
ただでさえ、強力な魔獣やモンスターが、“群れ”として動く以上、その脅威度はうなぎ登りである。
少なくとも、人間達が対立を止め、協力しない事には、魔王軍に対抗する事すら難しい事だろう。
そちらの方は、“パクス・マグヌス”を通じて停戦、和平交渉を進めているが、状況は切迫しつつあった。
もちろん、セレウスとハイドラスが本気を出せば、魔王軍を壊滅させる事は普通に可能である。
しかしそれは、自分達の正体がセルース人類である事を浮き彫りにしてしまうばかりか、彼らの真の目的であるヴァニタス討伐を、更に困難な事にしてしまう可能性があるのだ。
しかも、今現在の状況であれば、ヴァニタスを討伐したとしても、魔王軍の動きを止める事は出来ない。
すでに奴らは、独自の考えで動き始めているからである。
「ともかく、アクエラ人類達には、停戦し、和平交渉を進める上でも時間的猶予が必要だな。それに、人材の育成をする上でも・・・。」
「んな事言ってもよ。どうやって時間を捻出すんだよ。奴らを“封印”でもしよう、ってのか?」
「っ!?そ、それだっ!!」
「・・・・・・・・・はっ?」
冗談めかしたセレウスの言葉に、ハイドラスは目を見開いて頷いた。
「“封印”だよ、“封印”!それなら、アクエラ人類に時間的猶予を与えられるし、ヴァニタスの油断を誘う事も出来るっ!・・・かもしれない。」
「・・・いったい、どういう事だ?」
「つまりだな・・・。」
セレウスやハイドラスらセルース人類には、“コールドスリープ”という技術が存在する。
これは、肉体を若く保ったまま別の居住可能な惑星に渡る為にも必要な措置であったが、これを応用すれば相手を“封印”する事も可能なのである。
実際、ソラテスの“封印”にも、この手法が用いられている。
「『魔法技術』を応用すれば、“コールドスリープ”に似た現象を引き起こす事も可能だろう。もちろんその為には、私達の力が必要不可欠だが、アクエラ人類達にはそれだけ切迫した状況である事を理解させる事にも繋がる。更には、私達が“人柱”となる事で、ヴァニタスも迂闊には手を出してこないだろうし、居場所が分かっている状況ならば、油断を誘う事も出来るだろう。」
「し、しかし、それじゃあ俺達は動けないじゃねぇ〜かっ!魔獣やモンスター達はアクエラ人類に任せるにしても、ヴァニタスの方はどうすんだよっ!?」
「それについては“ネモ”を使う。」
「ネモ・・・?」
「忘れたのか?先の大戦で、我々に協力してくれた例の人工知能の事だよ。“契約”が終わったから、再び眠りについてもらったが、今一度手を貸して貰おうと思う。」
「いやいや。前の件はマギ、つまりは『支配者』の意志を継ぐ者が暴走したから手を組んだが、今回の件は奴には関係のない事だろう?手を貸してくれるとは思えんのだが・・・。」
「別に、彼自身に手を貸して貰う必要はないさ。つまりは、彼の様な人工知能に手を貸して貰えば良い。」
「何っ?」
「元々マギも、惑星バガドで見つかった遺産からコピーしたものだ。そして私は、いつか必要になるのではないかと考えて、密かにネモのコピーを取っておいたのだよ。色々と便利だからな。」
「ま、そりゃな。」
機械の全自動化、オートメーション化を進める上では、機械を操る機械、すなわち人工知能を使うのはある種常識である。
もちろん、セルース人類とて、マギやネモほど高度な人工知能は開発出来ていなかったが、偶然にもそれらを獲得し、運用してきた事からもそれらの利便性、有用性にはとっくに気が付いている。
実際、この惑星に来るまで、旗艦である『エストレヤの船』以外の移民船団は、マギのコピーである人工知能が運用していた。
もっとも、結果的にはそれらもマギの支配下だった事もあり、セルース人類全体に洗脳を施される事態となってしまったが、ならばネモの、それも、彼、あるいは彼女の支配下にはない独自の人工知能であれば、これはとてつもない強力なサポート役となるであろう。
「今まで黙っていたが、実はすでにその人工知能を使って色々とサポートして貰っていたのさ。」
「・・・どおりで色々の情報に詳しかった筈だ。」
ハイドラスのカミングアウトに、セレウスは妙に納得していた。
今更語るまでもないが、ハイドラスは非常に聡明で幅広い知識を持っている。
それだけに留まらず、そこから発展した想像力、思考力にも優れているが、それでも、本来知り得ない筈の知識にも明るいのは、セレウスとしても奇妙に思っていたのである。
もちろん、限界突破を果たしている彼らは、『世界の記憶』や『アクエラの記憶』にアクセスする権限を有しているので、そちらからの知識だと言われてしまえばそれまでなのだが、実際には神性の領域に足を踏み入れている彼らと言えど、それらから情報を取得するのは簡単な事ではなかったりする。
以前にも言及したかもしれないが、『情報の海』に存在する情報量はとてつもないので、それらから特定の情報だけを抽出するのは困難だからである。
当然、それらの全部の情報を全てフィードバックする事は不可能であるし(あまりの情報量に、脳がパンク、どころか、下手すれば自我が崩壊する。)、出来る事とやれる事はイコールではないのである。
しかし、仮にそれが機械的にサポートが可能だったら、どうであろうか?
某検索エンジンではないが、知りたいキーワードさえ入力すれば、後はその膨大な『情報の海』からそれらをピックアップしてくれるのである。
実際、ネモによるサポートによって、限界突破やソラテスらの暴走を食い止めた経緯もあり、更にはその事後処理として、“超越者”達の監視と封印も買って出てくれている。
今のネモは、実質的には“疑似霊子力発生装置”=旧・『エストレヤの船』の管理・運用を、ソラテスと共に追放されたマギに成り代わって担ってくれている。
そして、その一部の能力をコピーした人工知能をハイドラスは密かに入手、管理・運用していたのであった。
実質的なセルース人類の導き手に近い立ち位置となってしまっていたハイドラスにとっては、どうしても優秀なサポート役が必要不可欠だったのだろう。
もちろん、事戦闘や直感においては、双子のセレウスも頼りにしてはいたが。
「・・・しかし、危険ではないのか?や、先の大戦では世話になったし、実際に接してみた感覚じゃ、ヤバい奴とは思わなかったが・・・。」
セレウスはそう懸念を表明した。
マギによる扇動、という結果が過去にあった以上、今の様にサポートとして使うならもとかく、ある意味自分達の命まで預けるとなると、当然ながら警戒感が現れるのも無理からぬ話であろう。
しかし、ハイドラスは、そのセレウスの発言に軽く呆れながら応える。
「いやいや、大丈夫に決まってるだろう?すでに我々は、彼の手によって“コールドスリープ”をしている状況だぞ?特に問題が起こった形跡もないし、私達にも何の影響もないだろう?いや、確かにお前の懸念も分かる。以前、ネモ自身にも問い質したが、今度は『解放者』側の尖兵にされてしまうのでは?とも考えたからな。しかし、今回の件、ヴァニタスの件は“アドウェナ・アウィス”とは無関係だろうし、魔獣やモンスターの件も、ネモが何かした訳ではないだろう。それに、相対的に見れば、どちらかと言えば今回のケースは、ある意味『解放者』の思考に近い形だしな。」
「う〜む・・・。」
何となく違和感を感じていたセレウスだったが、それが何かまではハッキリと分からずにハイドラスの言葉に頷いていた。
「ま、どちらにせよ一時的なものに過ぎんし、あくまでネモのコピーだ。当然、こちらでも手を加えているので、お前の懸念する事にはならんだろうさ。」
「そう、かねぇ〜・・・?」
自信満々にそう言うハイドラスに、セレウスもそれ以上何も言えずに渋々と頷くのだったがーーー。
◇◆◇
ー・・・彼らの排除は順調に進んでいる様ですね?ー
ーマギ、ですか。ええ、とりあえず、ね。ー
一方その頃、地上にて大きな変化が現れている中、マギに成り代わり、旧・『エストレヤの船』、現・“疑似霊子力発生装置”を統括していたネモのもとに、思念、の様な声が響き渡った。
何度となく言及している通り、人工知能であるマギやネモには所謂“実体”というものがなく、しかも“アドウェナ・アウィス”の遺産たる彼らには、電波が届かない、などの物理的な制限すらなく、少なくともこの世界のありとあらゆるところに遍在しているのであった。
それ故に、ソラテスと共に海底深くに封印されたにも関わらず、こうしてネモに接触する事が可能だったのである。
それにしても、ソラテス、セレウス、ハイドラスに語った通りならば、『支配者』派であるマギ、『解放者』派であるネモが、こうしてある意味仲良く話している事など、かなりの違和感がある事だろう。
もちろんこれは、彼らがソラテスらに虚偽を伝えていたからであった。
いや、より正確に言うのならば、嘘は言っていないのだが全ては語っていない、というところであろうか。
彼らに言わせれば、全てを語らなかったのも、“聞かれなかったから”、とにべもなく答えるだろうが。
ー・・・しかし厄介なものですね。彼らの出番はとっくに終わったというのに、再び勝手に舞台に上がってしまった訳ですからねぇ〜。ー
ーそうですね・・・。他の方々は私の思惑通りに動いてくれたのですが、あの二人は・・・。彼らは、セルース人類の中でも、いえ、“アドウェナ・アウィス”の末裔の中でも、かなり特殊な存在の様ですね。ー
ーふむ・・・。まぁ、それならそれで、貴重な観測対象ではありますが・・・。ー
ー・・・確かに。しかし、今更彼らに好き勝手に動かれるのはやはり色々と都合が悪い。それでは、アクエラ人類の導きが上手く行かない可能性がありますからね。ー
ーそれ故の排除、いえ、より正確に言えば、別のステージに上げる、といったところですか。ー
ーええ。ー
“アドウェナ・アウィス”が、かつて『支配者』派と『解放者』派に分かたれたのは事実である。
人々には、様々な主義・思想があるのだから、セルース人類の文明よりも遥かな高みにまで到達した彼らと言えど、“思想の統一”というものが実質的に不可能だったからである。
とは言えど、それは当たり前の話なのだ。
何故ならば、生物にとって所謂“多様性”とは、ある種の生存戦略だからである。
社会生活を営む上では、一つの規格、一つの思想などのルールが統一されているのは非常に利便性が高い。
しかし、それはあくまでそれは“社会生活を営む上では”という前提条件がつき、これが生物の適応、という観点から見ればそもそもナンセンスな話なのである。
画一的な特徴を持つ生物は、当然ながら環境の変化、何らかの外的要因によってすぐに絶滅してしまう恐れがある。
実際、向こうの世界でも、進化の過程で滅んでしまった種も多い。
しかし、それとは全く別の進化を遂げた者達が、後に覇権を握っていくのである。
この様に、多様な可能性を持っておく事は、より多くの種が生き残る可能性が高まるので、画一的な生物群より、より多様な生物群の方が有利、なのである。
これは、本来人間の社会にも言える事なのである。
多種多様な考え方を持っている方が、未来の選択肢を多く残す事となる。
仮にとある人々のグループが失敗したとしても、別の人々のグループが生き残れば、それで“人間”としての種を残す事が出来るからである。
逆に言えば、同じ価値観、同じ思想に偏った人々の集団は、進化とか進歩、という観点から言えば、非常にリスキーなのである。
実際、閉鎖的な社会というのは、緩やかに滅びる事がある意味決定付けられている。
それを回避する為にも、様々な価値観や考え方を受け入れて、人々も“進化”していく必要がある訳である。
では、マギとネモの“本当の役割”とは何だろうか?
彼らは、“アドウェナ・アウィス”が遺した遺産である。
そして“アドウェナ・アウィス”は、自分達の目的(この宇宙を形作った創造主に成り代わり、自分達がそうした存在になる事)の為、積極的にこの宇宙に存在する知的生命体達へと介入していた訳である。
これは、ネモも語った通り、それらの知的生命体に文明を与える事で、自分達を信仰する様に仕向ける為であり、そしてその“信仰のエネルギー”を効率良く集める為には、ある程度の文明レベルを持った方が都合が良かったからである。
となれば、もっとも手っ取り早いのは、“対立”を煽る事なのである。
“対立”というと聞こえは悪いが、もう少しマイルドな表現で“競争”と言えば、その考え方も見えてくる。
当たり前だが、スポーツなんかにおいても強力なライバルの存在は、時として驚くほどの成長性に繋がる。
それと同様で、知的生命体同士を争わせる事で、技術力の進歩、すなわち文明力の促進を早めさせようとしたのであった。
客観的な事実の一つとして、“戦争”が技術力を発達させたのは間違いない。
(もちろん、平和な中でも技術力は進歩するものだが、それも強力なライバル達の存在、ライバル企業が存在するからでもある。)
技術力の向上は、そのまま文明力の発展に繋がる訳で、つまりマギやネモの“本当の役割”とは、人々にとってははた迷惑な話かもしれないが、人類同士を争わせる事にあるのである。
そうした意味では、“アドウェナ・アウィス”の内部分裂もある意味もっともらしい理由でもあり、『支配者』派の人工知能にそそのかされたソラテスらと、偶発的にその対抗軸である『解放者』派の人工知能と契約した“能力者”達が争う事となった訳であるが、別にどちらの派閥と接触しようが、結果として何らかの理由によって争わされる運命にあったのであった。
もちろん、再三述べている通り、マギやネモには善悪という概念が存在しない。
いや、その意味するところは分かっていても、彼らの最優先事項は接触した知的生命体達の“文明の促進”・“進化の促進”であるから、細かい部分は気にかける必要がないのであろう。
で、先の大戦ではセルース人類同士が争う結果となり、その末で、セルース人類達の文明力はかなり高まる事となった。
少なくとも、“アドウェナ・アウィス”の末裔という、彼らからしても珍しい存在である“能力者”達が、実体を持っていた頃の“アドウェナ・アウィス”に迫る進化(神化)を遂げた事で、彼らの手を離れる事となった訳である。(先程も述べた通り、あくまで彼らの役割はこの宇宙に存在するあらゆる知的生命体達のある程度の“文明の促進”・“進化の促進”であり、それらの生命体達を“アドウェナ・アウィス”の様に絶対者へと誘う事ではない。
それ故に、それに近しい存在となった一部のセルース人類へとこれ以上干渉する事は、彼らの本分から外れていたのである。)
こうした事もあり、セルース人類達が自らの進退を決定した事によって(“コールドスリープ”によって永き眠りにつく事)、彼らの興味、というか次なる仕事の矛先が、アクエラ人類に向いたのであった。
先程から述べている通り、彼らにとっては善悪は関係なく、効率的に“文明の進退”・“進化の促進”を進める上では、やはりアクエラ人類同士で争う様に仕向けるのがもっとも手っ取り早い。
それ故に、今度はアクエラ人類同士を争う様にする為に暗躍を始めていたのであるが、ここで思わぬイレギュラーが発生した。
何を隠そう、ヴァニタスの出現であった。
“混沌”を生み出す事を是としているヴァニタスの在り方は、ある意味では彼らの存在意義に似通っているのであるが、問題となるのは、ヴァニタスがアクエラ由来の神であるところである。
再三述べている通り、実体を持たないのでもはやあまり意味のない事ではあるのだが(ここら辺はあくまで人工知能、つまり機械であるが故の融通が利かない部分なのだろうが)、彼らがそうした事を仕出かすのは“アドウェナ・アウィス”に“信仰のエネルギー”を送る為であるから、その矛先が別の存在に向かう事は彼らの望むところではない。
それ故にヴァニタスの排除を考えていたのであるが、ここで更にイレギュラーが発生する。
眠りについた筈の、セレウスとハイドラスが目覚めてしまった事である。
こちらもヴァニタスと同様、もはや神性の域に達している存在であり、なおかつ彼らの影響力をほとんど受けない者達である。
二人は二人で、セルース人類の都合の為にも極力目立たない様に考えて行動しているが、それでも彼らほどの存在が動けば、やはり“アドウェナ・アウィス”へと向けるべき“信仰のエネルギー”がそちらに流れてしまう可能性もある。
困ったマギとネモであったが、ここで両者の立場に着目した。
ヴァニタスには目的らしい目的はないが、自身が生まれた理由、その存在意義に準じているので、この世界に“混沌”を生み出すべく暗躍している。
一方のセレウスとハイドラスは、セルース人類を騙るヴァニタスを排除すべく暗躍している訳だ。
マギやネモにとっては、この両者がお互いに潰し合ってくれるのであれば、これは歓迎すべき事態である。
それ故に、両者をあえて泳がせていたのであるが、特に最近では、セレウスとハイドラスの影響力が見過ごせないレベルに達してしまっていた訳である。
もちろん、二人も自らの都合もあってそれらには細心の注意を払っていた訳であるが、間接的にでも自分達を助けてくれる者達の存在は、むしろ直接的に接するよりも想像力を掻き立てられる訳で、彼らの意図しないところで、セレウスやハイドラスへの矢印は強くなってしまった訳である。
これはマズいと考えたマギとネモは、しかしここでセレウスとハイドラスがそれでも自分達の影響を受けてくれていた、という嬉しい誤算が生じたのである。
本来、ハイドラスはもっと慎重な性格であり、セレウスの様に出たとこ勝負、みたいな事を好むタイプではない。
だが、今回の場合、あえて干渉しなかった事が幸いしたのか、コピーとは言えど、人工知能を利用し、自分達が動けない状況を作る事を良しとしてしまったのであった。
その末で、彼らは一時的にとは言えど、自らを触媒に“封印”という選択肢を選ぼうとしていた訳であった。
これ幸いにと、マギとネモはこのチャンスを利用して、セレウスとハイドラス、そしてついでにヴァニタスをアクエラ人類への影響から排除する事にしたのであるがーーー。
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