“魔王”誕生 3
続きです。
今回はかなり短めです。
◇◆◇
『我々の安寧の為にも、人間共をこの大森林地帯から排除せよっ!!!』
「「「「「「「「「「応っ!!!」」」」」」」」」」
一方その頃、人間達が各々の思惑の中で策謀と交渉を繰り広げる中、渦中の魔獣、モンスター混合軍の代表達が、ひとつところに集っていた。
その中心で演説を繰り広げていたのは、ヴァニタスによって“力”を授かった例のオーガであった。
彼は以前とは違い、豪華絢爛ながら、どこか禍々しい衣装に身を包んでいた。
やはり魔獣やモンスターと言えど、その見た目というのもかなり重要、という事であろう。
そして、そこに集っていた魔獣やモンスターは、多種多様な種で構成されていたが、どれもそのオーガに対して、盲目的、かつ熱狂的な信仰を持っている様にも見えた。
“人間”とは異なる異形の集団であったが、その様はどこぞのカルト集団の様な、一種異様な雰囲気を放っていた。
これは、グエルらの予測通り、このオーガがヴァニタスによって“力”を増強された事、プラス『魔眼』の様なスキルによって、部下達を所謂“洗脳”状態にしていたからこそであろう。
言うなれば、ゲームなんかでおなじみの、強大な力を持つ“魔王”が、その力と能力を背景に、魔物達を統率している、みたいな状況であった。
彼らの目的はただ一つ。
この広大な大森林地帯から人間達を排除する事、であった。
もちろん、その裏にはもっと大きな目的もあったのであるが、残念ながら彼の『魔眼』もどきでは、あまり複雑な“命令”を刷り込めない様であるし、そもそも知能に差がある事もあって、それを理解出来る、出来ない、という理解力の差があったのであるが。
それ故に、シンプルな目標設定を選択した格好であろう。
「よろしかったのですか、マルムス?我々の目的は、人間共を奴隷、兼食糧とする事ですよ?それを、ただ排除する、だなどと・・・。」
会合、というか、ある種の決起集会が終わると、例のオーガ、マルムスと呼ばれたオーガに耳打ちをする別のオーガが現れた。
彼も、やはりヴァニタスによって“強制レベルアップ”を受けた者の一人であり、かなり人間に近い知能を有している様であった。
「サバルか・・・。良いのだ。奴らには、そこまで説明しても理解は出来んだろうからな。まずは、この大森林地帯から奴らを追い出す事。こちらとしても地盤がためは大事だからな。」
「・・・ふむ。」
魔獣、モンスターの混成軍、いや、ここではあえて“魔王軍”と呼ぶが、の強みは、“魔王”マルムスのもと、完全なる一枚岩として機能するところである。
これは、先程も述べて彼の『魔眼』もどきによる効果であった。
だがしかし、逆に各々が独自の裁量で動いてしまうと、多種多様な種が混在する組織としては、その強みを失ってしまう可能性が高い。
先程も述べた通り、彼の『魔眼』もどきでは、複雑な命令を押し付ける事が出来ないのだ。(正確には、命令自体は出来ても、それを実行出来るかどうかはその者達の知能、理解力に依存するのだ。それ故に、場合によっては中途半端な事になってしまう可能性も高いし、最悪、ある種のバグが発生する可能性もあるのだ。)
ここら辺は、すでにマルムスも実験済みであり、結果として複雑な命令よりも、シンプルな命令の方が良いという結論に至っている。
仮に複雑な命令をくだすにしても、それはそれを理解出来るだけの知能を持つ種を選別し、また別に新たなる組織、部隊を立ち上げた方が効率が良い。
ならば、全体にくだす命令は“人間の排除”を優先すべきであり、そして、ある意味『魔眼』もどきで操られているとは言えど、それらの成功体験が、魔王軍の結束をより盤石なものとする=自身への忠誠度を上げる、という事にも繋がるのである。
「もちろん、サバルの言う事も理解出来る。その先を見据えるならば、“労働力”と“食糧”は重要だからな。それ故にお前達幹部には、彼らに同行し、監視と監督、そして選別を頼みたいのだ。」
「選別?」
「うむ。我々に近い知能を持つ種をピックアップするのだ。これだけの多種多様な種と対話をするのは骨が折れるが、行動を見れば知能の高さを一目瞭然だからな。」
「なるほど・・・。」
マルムスの説明に、サバルと呼ばれたオーガは納得していた。
魔王軍は大所帯である。
多種多様な種が混在する組織だからである。
それ故に、それらの者達といちいち対話を繰り返す事に時間を費やすよりも、よーいドンで同じ行動をさせた方が、知能の高さを見極める上では非常に効率的なのである。
実際、こうした試験は実在するらしい。
あえて多くを説明せずに現場に放り込み、その対応力や思考力などを見極めるのである。
頭の良い者ならば、言われた事の裏を考えたり、何を求められているのかを考えたりするものだ。
逆に頭が回らない者達は、言われた事をただ愚直に実行するだけ。
つまりマルムスは、“人間を排除する”事と部下達の結束を盤石なものにする事、更にその裏に、使える人材をピックアップする事、の三重の意味を持つ一手を仕掛けていたのであった。
なるほど、魔獣やモンスターとは一線を画した高い知能を、マルムスらは獲得している様である。
「・・・中々の策士ですな。」
「これくらい出来なければ、人間共には対抗出来んさ。」
サバルの称賛の言葉に、マルムスはそう答えた。
マルムスは知っていたのだろう。
ただ力が強いだけでは、人間をどうこうする事は難しいのだと。
人間の強みは、やはりその知能である。
そして、そこから繰り出される様々な想像力こそ、人間のもっとも警戒すべき点だ。
だからこそ、もちろん『魔法技術』を獲得したからこそでもあるが、これまでの立場が逆転した経緯がある。
ならば、こちらも彼らに対抗すべく、頭を使った作戦などが必要不可欠なのである。
相手を過大評価するでも過小評価するでもなく、正当な評価をくだせてこそ、優秀な指導者と言えるだろう。
そうした意味ではマルムスは、その野望とは裏腹に、中々優秀なリーダーの様である。
まぁ、人間からしたら、非常に厄介極まりないのであるが。
「さて、無駄話は終わりだ。これから忙しくなる。人間共も、我々が奴らの部隊を壊滅させた事には薄々勘付いておるだろう。ただ、それで即座に反撃に転じる事はないと思われるが、時間を与えれば、自ずと奴らも結束してしまうからな。そうなる前に、こちらに有利な形にしておきたい。頼んだぞ、サバル。」
「かしこまりました。」
「他の者達にも、お前から伝えておいてくれ。それと、これは今の時点で言うべき事ではないだろが、その働きによってはお前達に“領地”を与える用意がある。」
「“領地”?」
「お前達が支配する土地の事だ。残念ながら私だけでは、今の様に全てを面倒見きれない。それ故にお前達のサポートが必要不可欠だ。で、その働きに報いる意味でも、“報奨”というものは必要だろう?」
「なるほど・・・。」
更にマルムスは、特に同族であるサバル達に対する楔を考えていた。
ヴァニタスの発言によれば、オーガ全体に施された強制レベルアップであるが、マルムスだけは頭一つ分飛び抜けている。
それ故に、単純な力においては、マルムスには敵わない様になっているのだが、これはマルムスも同様であるが、強制レベルアップをした事により、ただでさえ高い知能が更に高まっているのだ。
つまり、他のオーガ達が結託すれば、マルムスを引きずり降ろす事は不可能ではないのである。
仮に、マルムスが独裁的な動きに終始してしまえば、それによって他のオーガ達からの反発を招きかねないのである。
ならば、彼らの裏切りを抑止する為にも、彼らをないがしろにせず、彼らの自尊心や欲望を満たしてやれば良いのである。
複数の意味を持つ策略といい、内部を統制する為の人心掌握術といい、まるでマルムスは“人間”の為政者の様でもあった。
(ここら辺は、高い知能を有する様になると、最終的には“人間”に近しい性質を持つからかもしれない。)
マルムスの発言に、サバルは再びニヤリと笑った。
「やはりマルムス。貴方は中々の策士の様ですね。」
「・・・お前に認められるのは悪い気はせんな。」
サバルも、マルムスの思惑は理解出来たのか、上手い手だと思ったのだろう。
先程の焼きましの様な発言をし、今度はマルムスも率直な彼の言葉を受け入れるのであったーーー。
「う〜ん、参ったなぁ〜・・・。」
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