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『英雄の因子』所持者の『異世界生活日記』  作者: 笠井 裕二
英雄大戦
312/383

ルドベキアとアルメリア

続きです。



◇◆◇



「いたぞっ!こっちだっ!!」

「くっ・・・!こっちへ、アルメリアッ!」

「こ、こわいよぉ〜!!!」



ラテス族側と連合側がなし崩し的に戦争状態に突入してから早数ヶ月。

当初の予測に反して、膠着状態が続いていた。


ラテス族側からしたら、圧倒的な『魔法技術』を有する自分達の方が当然ながら武力でも勝ると自負していたのであるが、もちろんそれは事実であるが、しかし、戦いはそう単純なものでもなかったのである。


実際、向こうの世界(地球)でも、所謂“正規軍”が民兵組織に苦戦する事は良くある話だ。

これは戦い方を工夫しているからである。


古来の戦争などは、軍と軍が、だだっ広い戦場にて激突する事がある種のセオリーであった。


が、時代が進むごとに、所謂“ゲリラ戦”も発達していく。


客観的な戦力差を鑑みれば、連合側がラテス族側と正面からぶつかるのはハッキリ言って不利でしかない。

ならば、地の利を活かし、機動力を活かして、“ゲリラ戦”によって相手を消耗させるのがもっとも効率の良い戦法な訳である。


元々森の中は、狩猟採集を営む連合にとっては庭の様なものだ。

対するラテス族は、『魔法技術』の発達により、一つ所に居住する生活スタイルとなっていた事から、森の中の行軍や生活に不慣れとなっていた。


こうした状況なども手伝って、ラテス族側の過激派や主戦派の予測に反し、両者は所謂“良い勝負”になってしまった訳である。


しかしそうなると、当然ながら彼らにしてみれば苛立ちが高まる要因となる。

さっさと連合側を駆逐し、ラテス族を中心とした支配体制を構築出来ると踏んでいたのだから、それも致し方ない事だろう。


ここで戦略を見直せば、もしかしたら争いが早期に解決出来た可能性もある。


思った以上に相手が強敵ならば、和睦を結んでお互いに痛み分けにする、という手法もなくはないのだから。


しかし、例の事件によって穏健派が衰退した事で、そうした発想の出来る者達がラテス族側にはいなくなってしまっていた。

そうなれば、ゴリ押し一辺倒になるのは想像に難くない。


そして、そんなフラストレーションが溜まった状態のラテス族側の部隊が、所謂“暴走”する事も良くある話である。


当たり前だが、連合側も一枚岩ではない。

様々な部族、民族が暮らす大森林の中には、連合側と距離を置いている部族、民族も存在するのである。


彼らにとっては、裕福な生活も『魔法技術』も興味はなく、ただ古来からの生活スタイルに則って、平和に暮らしたいだけなのである。


が、ラテス族側にとってみれば、それが連合側かそうではないかの区別などつけようもなく、大森林に住まう部族、民族は、全てが敵対勢力なのである。


無抵抗や反撃が少ない、というのは、ラテス族側にとっては攻め入る隙となる。

しかも、先程も述べた通り、彼らにはこれまで溜まりに溜まっているフラストレーションもある。


そうなると、どういう事が起こるかというと、所謂“虐殺”である。


いや、あえて彼らを擁護するのならば、部隊を存続する為には当然ながら兵糧が必要となる。

しかし、彼らが今現在作戦を遂行しているのは、ラテス族側の本拠地からは相当な距離の空いた、敵勢力の領域(テリトリー)だ。


そうなれば、補給物資の供給は乏しくなる。

この当時は、まだ街道も整備されていないし、車両や鉄道などの交通機関、飛行機などの航空手段もないので、それも当然と言えば当然なのだが。


本隊からの補給が難しいとなると、現地調達でしのぐしかない。

現地調達となると、そこら辺の集落を襲うのが、もっとも手っ取り早い訳である。


ここら辺は、以前にも解説した通り、ある意味理にかなってもいる。

ラテス族側からしたら、この大森林に存在する集落は、すなわち連合傘下であり、つまりは遠回しに連合の力を削ぐ事でもあるからだ。


それ故に、略奪や虐殺、凌辱といった行為が、ある意味正当化されてしまうのであった。


もっとも、先程も述べた通り、実際にはそれらの集落でも、連合とは無関係な者達である事も多いのだが、それらを確認する術はないし、ラテス族側の部隊からしたら、別にどうでも良い事でもある。


こうした事もあって、全く無関係な者達が、ラテス族側から(場合によっては、“接収”という名目で、連合側から搾取される事もあるが)虐殺される憂き目に遭ってしまっていた訳であった。


今も、とある集落にて、ラテス族側のとある部隊が、住人の虐殺に精を出していた。

(ちなみに、わざわざ殺さなくても、と思われるかもしれないが、これもある意味では理にかなっているのである。

当然ながら、食糧には限りがあり、住人を生かしておく事は、その食糧が必要となってしまう。

自分達が生き残る為に、わざわざ集落などを襲っているのに、得られる食糧(リソース)が少なくなってしまうのは、これはある意味本末転倒だ。


ならば、食い扶持を減らせば良い。

つまりは、食べる者がいなくなれば、奪った食糧が丸々自分達の物となる、という訳である。


それ故に、虐殺、なのである。


また、食糧の事だけでなく、住人が生き残ってしまうと連合側に密告される恐れもある。


もはや、ラテス族側の補給も上手く機能していない中で連合側に襲われては、孤立無援の中で彼らと戦わなければならなくなる。


それ故に、非常に自分本位ではあるが、自らの生存戦略もあって、他者の権利を蔑ろにする行為が横行する事となってしまっていた訳であった。)


そして話は冒頭に戻る。

上手く逃げおおせた二人の女の子を見付け、男達がそれを追いかける、という状況になっていた訳であるーーー。



「へっへっへ、追い詰めたぞっ!」

「くっ・・・!」

「ルドベキアセンパイッ!」


二人の女の子は、歳の頃、十歳に満たない少女達であった。

当然ながら、それくらいの年回りでは、いくら必死に逃げ回っても、大の男達から逃れるのは不可能に近い。


それに、この男達も曲がりなりにも軍属である。

故に、それなりに訓練された男達でもあった。


「あ〜あ〜、かわいそうに。震えてるじゃねぇ〜か。」


特にそんな事も思ってもいないくせに、同情する様な声を上げる別の男。


「黙ってろ。さて、お前らに恨みはないが、生き残られても厄介だからな。悪いが、ここで死んでもらうぜっ!」

「ま、今更生き残っても、この先生きて行けねぇ〜だろうからな。だったら、仲間達と一緒の場所に送ってやるのが優しさ、ってもんだろ?」


勝手な理論を述べる男達をキッと睨みながら、しかし事実この少女二人には、この状況をどうする事も出来なかった。


スラリッ、と抜けられた剣が、不気味なほど光り輝いている。

それが、今まさに、少女二人に向かって振り下ろされ様としていた。


「ハッ!!!」

「くそっ!!!」

「〜〜〜!!!」


ブンッ!!!


気合の籠もった声が発せられると同時に、鋭い風切り音が聞こえてくる。


それが、二人の少女の、人生最後に聞いた音ーーー、とはならなかった。


ガキンッ!!!


「なっ!!!???」

「ったく、このクズ野郎共がっ!」

「「っ!!!???」」


何故ならば、いつの間にかその間に割って入った者の存在があったからである。


誰あろう、“アクエラ人類”に扮したセレウスであった。


「誰だっ!?・・・ガッ!?」

「しー。大きな声を出さないで下さいよ。女の子達が怯えてるでしょーが。」


軽口を叩いていたもう一人の男も、セレウスの存在に声を荒げるが、と同時に、気づかぬ内に背後に近付いていたハイドラスにアッサリと意識を刈り取られる。


「な、何なんだ、テメェらっ!?ま、まさか、連合の手の者かっ!!??」

「お前が知る必要はねぇ〜よ。いいから寝てなっ!」

「グハッ!!!」


二人の少女達の命を奪おうとした凶刃を受け止めたセレウスの剣は、男の剣を弾き飛ばしながら柄の部分で男の鳩尾を強かに殴打する。


まぁ、ハッキリ言えば殺してしまった方が早いのだが、流石に年端もいかない少女達の目の前でやる事ではない。

故に、セレウスは、あえて意識を刈り取る、という面倒な手続きを踏んだ訳である。


もっとも、この男達にとっては、ただ単に死ぬのが先送りされただけの話でしかないのだが。


「無事か、嬢ちゃん達?」

「あ、は、はいっ!」


剣を鞘に納めながら、セレウスは少女達にそう声をかける。

それに弾かれた様に、おそらく6、7歳ほどの利発そうな女の子が答える。


「そりゃ良かった。」


ニカッと笑うセレウスに、もう一人のおそらく3、4歳くらいの可愛らしい女の子も、ホッとした様に笑った。


どうやらセレウスは、子供受けするタイプの様だ。


ハイドラスあたりに言わせれば、“精神年齢が近いからだろう。”とかいう皮肉を言いそうだが、幸いな事に、今はそんな軽口を叩いている状況ではなかった。


「んで、集落の方は?」(ヒソヒソ)

「ダメだ。その子達以外、全滅だよ。」(ヒソヒソ)

「・・・そうか。」(ヒソヒソ)

「「・・・???」」


何故ならば、おそらくこの少女達の暮らしていた集落の者達は、全て殺されていたからである。


もちろん、二人には聞こえない様にセレウスとハイドラスは配慮したが。


「男達は?」

「全員眠らせたよ。後は、連合にでも任せておこう。」

「あのぉ〜、パパやママは〜?」

「「っ!!」」


続けて会話するセレウスとハイドラスに、年下の方の女の子が尋ねた。


まぁこれは、至極当然の反応だろう。

命の危機を脱した今となっては、自分の家族の事が気になるのは当たり前だからである。


しかし、その問いに対して、セレウスとハイドラスは言葉をつまらせる。


流石に、“死んだよ”と簡潔に言い渡す訳にもいかない。

かと言って、事実は変わらない訳で。


言葉に窮する二人の様子に、年上の方の女の子は何かを察した様に小声で尋ねる。


「・・・あの、もしかして、死んじゃったんですか?」(ヒソヒソ)

「「っ!!」」


ズバリと確信に迫った質問に、セレウスは困った様な表情となる。


一方、ハイドラスの方は、この少女には隠し事をするだけ無駄だ、と判断したのか、回りくどい事は言わず、彼女の質問に答える。


「・・・そうだよ。キミ達のご両親だけじゃない。キミ達以外、全て全滅だった。」(ヒソヒソ)

「お、おいっ!ハイドラスッ!」(ヒソヒソ)

「・・・いいんです。多分、そんなんじゃないかなぁ〜、とは思っていたので・・・。」(ヒソヒソ)

「・・・。」


幼いながらも気丈に振る舞う少女に、セレウスは何も言えなくなる。

が、その手は震えているし、涙を必死に堪えている感じでもあったーーー。



・・・



その後、しばらくの後、二人の少女の面倒をセレウスに任せて、この集落を襲った連中を拘束したハイドラス。


戻ってきた時には彼女達の様子も落ち着いたのか、はたまたセレウスの子守が上手かったのかは定かではないが、時折笑みもこぼれていた。


「お待たせ。中々楽しそうだな。」

「おう、お帰り。」

「お帰りなさい。」

「おかえりぃ〜。」


ハイドラスに気付くと、三者三様にそう反応を返す。


「さて、じゃ、いつまでもここにいても仕方がない。そろそろ出発するとしようか。」

「だな。」

「・・・あの、どちらに行かれるんですか?」


そう言ったハイドラスに、年上の少女は至極当然の質問をした。


「連合のところだよ。彼らはここに放置でも良いが、キミ達はそういう訳にはいかない。けど、私達は事情があって、キミ達の面倒を見る事は出来ないんだ。よって、キミ達の事は連合に任せるのが一番良いと考えている。」


結果として孤児となってしまった二人の少女。

だが、ヴァニタスを追っているセレウスとハイドラスには、当然ながら子供の面倒を見ている余裕はない。


ならば、この集落の者達は連合とは距離を置いていたかもしれないが、(ラテス族に対して)他部族、他民族である彼女達の事は、連合に任せるのがもっともベターな選択肢であった。


集落を襲った連中はここに放置だ。

彼女達を引き渡す為に連合側と接触した時、一応彼らの事は報告するつもりだが、それまでに何かあったとしても、それはハイドラスらの預かり知らぬ事である。


まぁ、色々と事情があるだろうが、他者に危害を加える様な者達にかける情けはないのであろう。

そこら辺は二人とも、中々にシビアな考え方の持ち主であった。


「そう、ですか・・・。」

「おじちゃん、どっかいっちゃうの・・・?」

「おじっ・・・!?お、お兄さん、な?」

「・・・プッ!」


すっかり打ち解けた様子の年下の少女からおじさん呼ばわりされるセレウス。


彼らはまだまだ青年といって差し支えない年齢だが、これくらいの幼女からみれば確かにおじさんだろう。


「ハイドラス、笑うなっ!いやいや、どっか行く訳じゃねぇ〜んだ。お前らと一緒に、ちょっくらお出かけを、な。」


実際には連合に引き渡した時点で別れが待っているのだが、そんな事を言っても理解できないだろうし、(認識しているかは怪しいが)家族を失ったばかりの子供に、今この場でまた別れを告げるのは酷と考えたのだろう。

セレウスは、そう言って誤魔化した。


「おでかけっ!?」


しかし、意外なほどその言葉は少女に刺さった様であった。


まぁ、危険という事もあり、まだまだ幼い女の子がこの集落の“外”の世界を見た事がないのは当たり前の話だろう。

一方で、この年頃の子供が目新しい事に興味を惹かれるのも、また当たり前の話だ。


降って湧いた様な話に、年下の少女は目をキラキラさせながら興奮していた。

が、すぐにその表情も鳴りを潜める。


「あ、けど、パパやママにおこられる・・・。」

「「・・・。」」


当然ながら少女にとっては、家族の許可なしに行動する事は躊躇われたのだろう。

もっとも、すでにその両親もこの世には存在しないのだが、それがまだ理解出来ていないのだ。


「・・・大丈夫だよ、アルメリア。このおじ、お兄さん達と一緒に行こう。」

「だいじょーぶ?」

「うん。オジサマもオバサマも、もうそっちに行ってるからね。」

「そーなの?ずるいっ!」


何も言えなくなっていたセレウスとハイドラスを尻目に、ある程度事情を察していた年上の少女は、そんな事を言いながら年上の子を説得していた。

この場に残っても仕方ないと分かっていたのだろう。


彼女の言葉に、少々憤慨しながらも、しかしこれで大手を振っておでかけ出来ると理解したらしい女の子は、言葉とは裏腹にどこか嬉しそうだった。


顔を見合わせたセレウスとハイドラスに、年上の少女は二人に向き合い、改めてお願いをする。


「という訳ですから、申し訳ありませんが、私達をそちらまで連れて行って貰えませんか?」

「おねがいしまーす!」


ペコリと頭を下げた年上の女の子に倣って、年下の子もペコリと頭を下げた。


当然、セレウスもハイドラスも元々そのつもりだったので、ここで断る選択肢はなかった。


「ああ、任せときなっ!」

「しばらくの間、よろしくね。」

「はい、ありがとうございますっ!・・・あ、申し遅れました。私はルドベキア。こっちの子はアルメリアです。」

「俺はセレウスだ。」

「私はハイドラスだよ。」



こうして、後に長い付き合いになる四人が出会う事となったのであるがーーー。



誤字・脱字がありましたら御指摘頂けると幸いです。


いつも御覧頂いてありがとうございます。

よろしければ、ブクマ登録、評価、感想、いいね等頂けると非常に嬉しく思います。

よろしくお願いいたします。

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