愚者は全てを台無しにする
続きです。
◇◆◇
「マグヌス殿。中々良い感触でしたな!」
「ええ、そうですね。」
連合側との会合の後、一旦帰路についていたラテス族側の交渉団。
その一人がマグヌスに話しかけていた。
「いやぁ〜、はじめはどうなる事かと思いましたが、マグヌス殿には人心掌握の才がお有りの様だ。連中、すっかりマグヌス殿に心酔しておりましたぞ?」
「ハハハ、それはどうでしょうね。しかし、こちらの言葉が通じたのならば、私としても嬉しい限りですよ。」
謙遜するマグヌスに、いやいや、とその者は言う。
どちらかと言えば、マグヌスに心酔しているのはその者の方な気がするが、実際、マグヌスは一種のカリスマ性を獲得しつつあった。
もっともそれもその筈で、マグヌスは(まだそこまで長い歴史がある訳でもないが)ラテス族始まって以来の“天才”であるから、嫉妬とか色眼鏡さえなければ、憧れの的になったとしても不思議な話ではないからである。
まぁ、彼自身がこれまで他者にあまり関心を示さなかった事もあって、所謂“コミュ障”だったり、他者の評価に無頓着だった事が災いし、言わば“お高く止まっている”と誤解されてラテス族内の評価はあまり高くなかったのだが、セシリアとの出会い、そして『新人類』との交流やカエサルが生まれた事もあって一皮むけて、“頼れる人”という立ち位置を獲得していたのであった。
“人間”というのは、やはり人の間に生きる生物なのだ。
“社会”で生きる以上、やはり他者との関わり合いは重要であり、その事に遅ればせながらマグヌスも気付いていたのであろう。
と、まぁ、“天才”や優秀な者達がいる一方で、しかし中には凡人や愚者も存在する訳で。
世の中を(良い方向に)動かしているのは、そうした極々一部の賢人達ではあるが、また世の中を(悪く方向に)動かしているのはそうした圧倒的大多数の凡人や愚者でもあるのである。
「コラッ、暴れるんじゃないっ!!!」
「ウーッ、ウーッ!!!」
そんな会話をマグヌスらが交わしていると、後ろの方が騒がしくなっていた。
「・・・どうしたんでしょうか?」
「さあ・・・?」
気になったマグヌスと男は、会話を中断して騒ぎの様子を確かめる事とした様であった。
そこには、連合側から差し出された例の男達が、メチャクチャに暴れていた。
もちろん拘束されているので、何か出来る訳ではないのであるが、少なくとも連行するとなると、少々骨が折れる、という状況だった。
「どうしました?」
「こ、これはマグヌス殿。い、いえ、コイツらが、突然暴れ始めまして・・・。」
マグヌスが護衛の為に同行していたラテス族に話しかけると、そんな言葉が返ってくる。
先程までは大人しくしていたのに、とポツリと付け足していた。
遅ればせながら自分達の状況に気が付いた、とでも言うのであろうか?
連合側からラテス族側引き渡された以上、これから先、明るい未来が待っている事などありえない話だというのに。
それとも、そう実感し始めるたからこそ、今になって抵抗を始めたのかもしれないが。
いずれにせよ、全てが遅きに失している訳であるが、しかしこの場で暴れまわれ続けると、行軍に支障をきたすのは確かでもあった。
「・・・何か言いたい事があるのかもしれません。猿轡を外してやって下さい。」
「・・・よ、よろしいので?」
「ええ、責任は全て私が負います。」
それ故に、マグヌスがそう指示を出した。
少しためらった末に、マグヌスの言う通り、連行されている一人の男の猿轡を外した交渉団の男。
すると拘束されていた男の一人は、堰を切ったようにまくし立て始める。
「ふざけやがってっ!!あいつら、自分達の保身の為に俺等を売り渡しやがったっ!!」
「あの、暴れられると迷惑なのですが・・・。」
「ハッ!アンタらも俺等を最終的には殺すつもりなんだろっ!たかが女を犯した程度でご苦労なこって。だがな!それが分かってて、大人しくしてるわきゃねぇだろっ!!」
「・・・。」
それは、一種の侮辱であった。
その証拠に、ラテス族側はその男の発言に、交渉の時には押し込めていた怒りが爆発しかけていたからである。
だが、マグヌスは、自分でもびっくりするくらい冷静であった。
もはやこんな小物の言葉には何の意味もない、という事なのかもしれないが。
「貴様っ・・・!!」
「何としてでも逃げおおせてみせるぞっ!猿轡を外した事を後悔しやがれっ!!」
いうと男に、急激に“魔素”が集まっていった。
曲がりなりにもこの男にも、他の連合軍と同様に“呪紋”が施されていたのである。
「「「「「っ!!!???」」」」」
一度刻み込まれた刺青を除去する方法はない。
それ故に、ある意味武器を持った状態で拘束されていた様なものなのだ。
それが、口が解放された事で、いつでも“魔法”が発動可能となってしまったのである。
咄嗟の事に、大半のラテス族達は呆気に取られる。
が、腐っても『魔法技術』の使い手達であるから、すぐに対抗する為の“魔法”を唱え始める。
しかし、それももう遅かった。
「おせえっ!火の球をくらえっ!!!」
「「「「「くっ・・・!!!」」」」」
以前にも言及した通り、発動スピードという意味では、ラテス族側が使う『詠唱魔法』は連合側が扱う『無詠唱魔法』、すなわち“オートマチック方式”に劣るところがあった。
しかも、今回の場合は、相手の方がすでに先手を取っていた状況だ。
どうあっても、その男が“魔法”を使う事を阻止するのは難しい状況だった。
・・・シーンッ!
「・・・・・・・・・あ、あれっ!?」
「「「「「・・・???」」」」」
しかし、自信満々に叫んだものの、何事も起こらなかった。
何が起きたか分からぬまま呆然とする男とラテス族側だったが、マグヌスだけは落ち着いた調子で呟く。
「・・・ふむ。その文様が一種の“術式”になっていたんですね。確かに、あらかじめ“術式”を仕込んでおけば発動は容易ですね。」
興味深そうに男の腕に仕込まれた刺青をマジマジと眺め回し、そんな感想を言っていたほどである。
「・・・な、何をしやがったっ!?」
得体のしれないをマグヌスに、先程までの自信満々っぷりは鳴りを潜め、急に怯えた様にマグヌスに問い掛ける。
「別に何も。・・・いえ、失礼。嘘をつきました。これから何かするつもりはあります。“ウォーターカッター”!!」
「・・・・・・・・・へっ???・・・・・・・・・ぎゃあぁぁぁ〜〜〜!!!」
「「「「「っ!!!」」」」」
「また“魔法”を使われては厄介ですからね。だったら、“術式”を先に潰しておけば良い。」
軽い口調で言うマグヌスの前には、刺青ごと腕を撃ち抜かれた男はのたうちまわっていた。
流石にその行為には、マグヌスの仲間達も軽く引いていたが、しかしそれは理にかなってもいた。
再三述べている通り、“呪紋”、あるいは“オートマチック方式”の利点は、“術式”をあらかじめ仕込んでおく事で、いちいち構築する必要がない点であった。
しかし逆に言えば、その“術式”の一部でも破壊しておけば、所謂“エラー”を起こし、“魔法”が正しく発動しないのである。
しかし、刺青を除去する方法はないので、皮ごと刺青をなくすか、“術式”に穴を開けるしかない。
そこでマグヌスは、後者の方法を実行。
“ウォーターカッター”で腕に穴を開けて、物理的に“呪紋”を無効化したのであった。
まぁ、冷静な中にもマグヌスの内心の奥底には、同胞の女性を侮辱した怒りもあったのかもしれないが。
(更に余談ではあるが、“ウォーターカッター”使用前にこの男が“魔法”を発動しようとして失敗したのは、実は“魔素”の働きを妨害したからでもある。
そもそも“魔法”の発動に必要な“魔素”がなければ、当然ながら“魔法”は発動しないのだ。
ある意味それは、『魔法技術』の基本にして奥義でもある技術であった。
“魔素”の扱いに長けたマグヌスだからこそ出来た、所謂“ジャミング”である。)
「“ヒール”。」
「うぎゃあぁぁぁ〜・・・?」
「叫び続けられてもうるさいですから、傷は治しましたよ?ま、あくまで傷を治しただけに過ぎませんがね。」
「・・・・・・・・・。」
次いでマグヌスは、男に回復魔法を施す。
回復魔法は、自己修復機能を高めた“魔法”であり、所謂“リジェネ”の様な、徐々に回復する効果がある。
しかし、それはあくまで対象者に配慮した形だ。
体内のエネルギーや、寿命というものを気にしなければ、一瞬で傷を癒す事も可能であった。
まぁ、そんな事実は男は知らなかったのだが。
しかし、そうした意図がマグヌスにあったのかどうかは定かではないが、この一連の流れは、騒ぎ立てていた男や、その仲間達を黙らせるには効果的に働いた様である。
つまり、見方によっては、永遠に終わらない拷問が可能だからである。
傷つけては治し、また傷つけては治す。
そんな鬼畜の所業がマグヌスには出来るのである。
急に黙ってしまった男に、マグヌスは言った。
「・・・もう、逃げおおせる気力もないでしょうね。さ、大人しくなりましたし、少しばかり時間を取られましたが、移動を再開致しましょう。このままでは陽が暮れてしまいますからね。」
「え、ええ。」
素早く事態を収めたマグヌスに、ラテス族側は再起動し、再び男に猿轡をかませようとする。
「・・・へ。油断したなっ!?」
「・・・・・・・・・えっ?」
だが、男はそれだけの事をされてもまだその目に光を失っていなかった。
ある意味、中々の根性ではあった。
「表面的に刻まれている“呪紋”だけが、“呪紋”じゃないんだぜっ!?」
「っ!?」
□■□
「くそっ!何であんな程度の事で、とっ捕まらなきゃなんないんだっ!?」
「・・・いやいや、災難だったねぇ〜。」
「ヴ、ヴァニタス様っ!!??」
場面は、連合側の協議の後に巻き戻る。
ヴァニタスの密告によってラテス族側の人質の女性に対する暴行が発覚し、ほどなくして捉えられた下手人達。
その一人の例の男が、納得いかない様に捕まった事に対して文句を言っていたのであった。
(何故ならば、彼らにとって、略奪や凌辱などは当然の権利だと思っていたからである。
ここら辺は、意識や方針をしっかりと共有出来ていなかった連合側の落ち度でもあるが。)
そこに自分で密告しておきながら、しれっと現れるヴァニタス。
もっとも、この男はヴァニタスが密告した事実は知らないのであるが。
「お、お願いします、ヴァニタス様っ!助けて下さいっ!」
男は、ヴァニタスに懇願する。
少なくとも頭の固い連合上層部の連中よりも、ヴァニタスの方が話が分かると判断した結果であろう。
しかし彼の淡い期待は、いとも簡単に崩れ去ってしまうが。
「残念ながら、そういう訳にはいかないよ。あくまで連合を指揮しているのは上層部の人々だからねぇ〜。僕が勝手な判断で君を逃がしたとしたら、僕の立場も危うくなっちゃうし。」
「そ、そんなっ・・・!!!」
この男も、愚か者ではあるが全く頭が回らない訳じゃない。
ここでヴァニタスに見逃してもらえないとあれば、自分の命がもはや風前の灯火である事くらいは理解出来ていた。
絶望感に陥る男。
もっともこれは、むしろ当たり前の話でもある。
少なくとも上層部の意向を無視し、自分勝手な欲望によって事を起こしたのは彼自身だからである。
もちろん、これまでの経験則から略奪や凌辱は当然の権利だったのかもしれないが、あくまでそれは“これまで”という過去の話でしかない。
状況は常に変化しているのだ。
“これまではそれでよかったのだから、これからもそれでいい”、とはならないのが世の常であるから、物事を深く考えず、勝手な判断や解釈をした、彼自身の言わば“自業自得”なのである。
「まあまあ落ち着いて。あくまで僕が言ってるのは、この場で逃がすのは無理、と言っただけだよ?」
「・・・へっ?」
しかし、彼にとっては幸か不幸か、ヴァニタスは彼を利用しようとしていた。
故に、まだ希望が残されている状況だった訳である。
「まず、客観的な事実として、君達は人質となったラテス族の女性達に暴行を働いた。これは間違いないよね?」
「そ、そうですけど、それはっ・・・!」
「ああ、いいよ、いいよ。僕に弁明してもしょうがないし、話が進まないからね。んで、それは、連合側からしたら困った事なんだよ。何故なら、彼らはこれを口実に、ラテス族側から責められたり、最悪戦争になる事を避けたいからだ。」
「・・・へっ、腰抜け共がっ・・・!」
「まぁ、それについては僕も君と同意見だが、確かに彼我の戦力差を鑑みると彼らの言い分も理解出来る。そんな訳で、君達をとっ捕まえて、ラテス族側に差し出す事で、ある種の筋を通そうとしているんだね。“今回の件は連合側の総意ではない。一部の者達の暴走だった。”っていう事にしようとしているんだよ。ま、中々苦しい言い訳だけどね。」
「・・・。」
「まぁ、正直かなり厳しい状況だとは思うけど、おそらくこれはラテス族側も受け入れると思うよ。向こうとて、全面的な争いに発展するのは避けたいだろうからね。・・・もっとも、向こうも一部過激派が存在するんだけどね。(ボソ)」
「・・・?」
男は、後半のヴァニタスの言葉が聞こえなかったので、若干不思議な顔をしていたが、ヴァニタスはそれを説明するつもりはないのか、更に先を続ける。
「で、無事に君達の引き渡しが完了した時点で、もはやこの話は連合側の手を離れた事となる。さっきも言ったけど、すでに筋を通した後だからね。だから、その後君達が逃げ出したとしても、あくまでそれはラテス族側の責任になるんだよ。」
「なるほど・・・。し、しかしちょっと待って下さい。流石に奴らから逃げ出すのは、そんなに簡単な話じゃないんじゃないですか?」
「もちろんその通りだ。ラテス族側が手練れが多いからね。普通に逃げ出すのは、ハッキリ言って不可能だと思っておいた方が良い。」
「そ、そんなっ・・・!」
ヴァニタスの冷たい言葉に男は絶望する。
「まあまあ、話は最後まで聞きなって。僕は、普通にやったのでは、と言ったんだ。やりようによっては、それも不可能ではなくなるんだよ。」
「そ、それはどんな方法ですかっ!?」
「“魔法”を使うんだよ。ああ、先に言っておくけど、今君が持っている“呪紋”の事じゃないよ?見えない様に、“魔法”を仕込んでおくのさ。」
「・・・見えない様に?」
「ああ。あくまで“呪紋”ってのは、身体の外側、つまりは表面上に“術式”を刻み込む技術だ。それでも“魔法”は発動するんなら、身体の内側に刻み込んだとしても同じ事が起こる筈だよね?」
「ちょ、ちょっと待って下さい。身体の内側、って、まさか内蔵とかそういう話じゃないですよね?」
「うん、当たらずとも遠からずだね。流石に内蔵なんかに刺青を施すのは現実的じゃない。そもそもそれだと、場合によっては命に関わるだろうからね。けど実は、別に刺青を施さなくても、“魔法”は発動するんだよ。そもそもラテス族側は、“呪紋”無しでも“魔法”が使えるからねぇ〜。」
「なるほど・・・。」
ラテス族側が扱う『魔法技術』は、一々“術式”を構築する必要はあるものの、逆に言えば身体に刺青を施さずとも“魔法”を発動出来る。
あくまで連合側が使っている“呪紋”は、ラテス族側が扱う『魔法技術』の簡易的なバージョンなのである。
これは、連合側が幅広い知識などが必要となる『魔法技術』を習得する事が困難だったからであり、手っ取り早く“魔法”を使わせる為にヴァニタスが考案したものであった。
それ故に、当然ながら連合側の者達が“呪紋”以外で“魔法”を使う事は不可能であるが、しかしヴァニタスが使う分には、その辺は問題ない訳である。
「曲がりなりにも僕も“神々の末裔”だからね。一応は、ラテス族側の扱う『魔法技術』を僕も使う事が出来る、って訳。んで、それを発動手前の状態で君の“内部”に仕込んでおく。後は君が、それをとある“キーワード”を唱えれば、“呪紋”無しでも君は“魔法”を扱う事が出来る、って寸法だ。」
「おおっ・・・!」
実はこれは、『魔法技術』の中でも極めて高度な、『遅延魔法』と呼ばれる技術であった。
まぁ、ヴァニタスは曲がりなりにも“神”の一柱であるから、人間が扱える程度の技術なら、簡単に再現出来てしまうのである。
「ただ一点、注意してもらいたいのは、これは一回こっきりの使い捨て魔法である、って事だよ。もっとも、『魔法技術』を扱う事が出来る者なら再び仕込む事も出来るけど、君達は純粋な『魔法技術』は習得出来ていないからねぇ〜。だから、威力は保証するけど、チャンスは一度きりなんだ。使いどころには、くれぐれも注意してくれよ?」
「分かりました。」
「うんうん。じゃあ、手を貸せるのはここまでだけど、君達の武運を祈っているよ。もうこちらには戻ってこれないだろうけど、ま、生きていればまた運も巡ってくるだろうしね。」
「色々と、ありがとうございました。」
「うんうん、それじゃ、元気でね。・・・あ、ごめんごめん。“キーワード”を伝えるのを忘れてたよ。あ、くれぐれもその時までは口には出さないでよ?せっかくの仕込みが台無しになっちゃうからね。」
「了解です。」
「じゃあ、その“キーワード”なんだけどね・・・?」
男に“キーワード”を伝えつつ、ヴァニタスは微かに、ほんの微かにほくそ笑むのだったーーー。
□■□
「くらえっ!“オーバードライブ”っ!!!」
「「「「「っ!!!???」」」」」
例の男は、このタイミングだと判断していた。
“呪紋”を潰し、完全に油断したこのタイミングだと。
実際、マグヌスらは完全に油断しきっていた。
まさか、まだこの男が“魔法”を発動させる事が出来るとは思っていなかったからである。
そういう意味では、奇襲としては完璧なタイミングであったと言えるだろう。
もっとも、ヴァニタスがわざわざこんな男を逃がす為だけに、手の込んだ仕込みをする訳がない。
「な、なんだっ・・・!!!???」
「み、皆さん伏せて下さいっ!!!」
咄嗟にそう叫んだマグヌス。
例の男も、何が起こったのか分からず、ただただ困惑していた。
ズガアァァァァ〜〜〜ンッ!!!
一瞬、例の男に向かって空気が吸い込まれる様な錯覚を起こした後、耳をつんざく様な音と、まばゆいほどの閃光、そして、脅威的な爆発が起こった。
そう、ヴァニタスが男に仕込んでいたのは、所謂“自爆”の“魔法”だったのである。
正確には、爆裂や炸裂の類に属する“魔法”なのだが、それをこの男の命を触媒にする事によって、その威力を数倍跳ね上げていたのであった。
爆発が恐ろしい威力を持っている事など、今更語るまでもない事であろう。
その威力も然る事ながら、それによって発生したソニックブームや、弾き飛ばされた石などの飛翔物が人体に降り注ぐからである。
もちろん、“土”の“魔法”によって遮蔽物を作るなり、強力な“風”の“魔法”によってそれらの威力を減衰させる、などの対処方法もあるにはあるが、それを咄嗟に作り出す事は困難であろう。
「・・・な、なにが・・・!?」
マグヌスに心酔しつつあった交渉団の男が気が付いた時には、辺り一面更地になっていた。
それだけ、“自爆”の威力が凄まじかったのであろう。
「み、みんなぁ・・・!」
必死に呼びかける交渉団の男だったが、返ってきた声は皆無であったーーー。
「・・・なるほどね。愚者はこうやって使えばいいのか・・・。」
遠くの地で思惑が上手く行った事を感知していたヴァニタスは、ひとりごとを呟きながら、ウンウンと頷くのであったーーー。
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