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『英雄の因子』所持者の『異世界生活日記』  作者: 笠井 裕二
英雄大戦へ至る道
306/383

状況整理

続きです。



◇◆◇



ラテス族の集落を襲った複数の火災が収まったのは、陽が沈んでから1時間後の事であった。


ここら辺は、いかにラテス族の『魔法技術』が優れているかの証左となるだろう。


向こうの世界(現代地球)でも、これほどの規模の火災が発生したら、色々と準備をする必要もある(消防車両が出たり、消火する為の水の確保や、逃げ遅れた者達の確認などなど)ので、完全に鎮火するまでにはかなりの時間を要する事となるが、車両も道具も必要とせずに消火が可能な『魔法技術』は、逃げ遅れた人々の避難誘導さえ完了してしまえば、それらの準備を丸々短縮する事が可能だからである。


火災が収まった事で、ひとまず安堵していたラテス族の者達であったが、しかし当然ながらそれで話は終わりではない。


まず、被害者や被害人数の全容を把握する必要があるからだ。

一通りは見て回ったと言っても、それでも逃げ遅れた者達がいないとも限らない。


当然ながら、家族や関係者にとっては、自身の身内や知り合いの安全が確認出来ないと、不安で夜も眠れない事であろう。


そしてその夜であるが、火災によって複数の建物は被害を被っている訳であるから、そこに居住していた者達の居場所も当然なくなってしまう事となる。

つまり、少なくとも今夜の宿を失ってしまった者達の為に、簡易的なキャンプを設置する必要も生じるのである。


向こうの世界(現代地球)でも、これほどの規模の災害があった場合、災害対策本部が設置されて指揮を行う事となるだろう。

そして当然ながらその役割に担うのは、この集落の代表的な立場となる長老やその家族、つまり、セシリアらとなる訳であった。


「被害の全容の確認を急げ。それと、負傷者や被害人数の確認も忘れずにな。」

「ハッ!」

「避難した者達へのところにも、キャンプを設置する必要がある。小高い丘なら比較的安全な筈だ。今夜はそちらで寝泊まりしてもらうしかない。」

「承知しました。」


集落の中心部、大きな集会所の様な場所にて、次々と指示を飛ばす50代そこそこの男性の姿があった。


彼は、セシリアの父親であり、この集落の代表者である“長老”と呼ばれる人物である。


幸いな事に、彼自身も、そしてこの集会所も被害を免れたのであるが、その顔には疲労を色が見え隠れする。

向こうの世界(現代地球)の、それも先進国ではまだ若い部類に入る歳とは言っても、今現在のこちらの世界(アクエラ)では年寄りと言っても過言ではない年回りであるから、それも無理からぬ事ではあったが。


「セシリア。疲れてるところを申し訳ないが、お前は避難した人々の対応を頼む。私はここを動けんし、お前が顔を見せれば住人達も安心だろう。」

「承知致しました。」


それでも、テキパキと指示を出している事から、彼の指導力の高さが窺える、というものであろう。


しかし彼らはまだ気付いていなかったが、今回の件はただの災害ではなかった。

その裏には、ラテス族との交渉を有利に進める為に、他部族、他民族連合軍が人質を取る為に仕掛けた作戦が存在していたのである。


もちろん彼らとて、不自然なまでに同時多発的に火災があった事には違和感を抱いている。

しかし、火災による混乱と、連合軍が隠密で動いた事や目撃者を消し去った事で、その情報はまだ彼らのもとまで上がってきてはいなかったのであった。


いや、


「た、大変ですっ!」「セシリアッ!」


これは全くの偶然であったが、遠くから異変を感じてすぐに大急ぎで戻ってきたマグヌスと、連合軍の一部の部隊に遭遇した者が、ちょうど同じタイミングで彼らのもとに駆け込んで来たのであった。


「ど、どうしたっ!?」「どうしたの、マグヌスッ!?」

「誘拐ですっ!」「人さらいだっ!」

「「「「「えっ・・・!?」」」」」

「おそらく、他部族の者達がっ・・・!」「どこの者達かは分からないが、女性や子ども達がっ・・・!」


当然ながら、かなり優秀な長老やセシリアらであるが、同時にまくしたてる様にしゃべりだす二人の言葉を正確に聞き取れる筈もない。


ややあって長老は、コホンッ、と咳払いをしつつ、


「とりあえず落ち着け、二人とも。・・・それと、同時に話されても、ワケが分からんぞ?」

「「あっ・・・!」」


と、言った。



・・・



「なるほど・・・。確かにおかしいとは感じていたのだ。いや、火災自体はあってもおかしくはないのだが、それが同時多発的に起こるのは、偶然にしてはあまりに出来すぎているからな。逆に言えば、それが人為的に起こされた事ならば納得もいく。」

「そ、そんな落ち着いている場合じゃないですよ、長老っ!すぐに攫われた人々を救出しませんとっ!」

「落ち着け。その意見には賛同するが、それは今の状況では厳しい。こちらは例の火災によって、少なくとも相当な数の建物がやられている。そちらの対応を済ませない事には、捜索部隊なりを派遣する事は出来ん状態だ。」

「し、しかしっ・・・!」

「・・・では、せっかく助かった者達はどうする?自分達で勝手に生きろ、と?」

「そ、それはっ・・・!」


長老と一人の男が、そう言い合いをする。


確かに男の主張はもっともである。

同胞がみすみす攫われたのなら、それを助けたいと思うのが人情というものだろう。


しかし、その為には当然ながら捜索部隊なり救出部隊を派遣する必要がある。


常駐の軍隊など存在しないラテス族には、つまりラテス族の有志の中からそれを編成する必要がある訳であるが、しかし、複数の火災によって建物や人々にも少なくない被害が出ている状態では、それをするのは中々厳しい状況なのだ。


言うなれば、人員(リソース)が限られた中で、復旧・復興部隊と捜索、救出部隊の二つを作れ、と言ってる様なものなのだ。


ハッキリ言って、今のラテス族の状況では、強引に二つの部隊に分かれたとしても、どちらも中途半端な状況になりかねない。


だったら、まず復旧、復旧に全力を傾けて、ある程度足場が固まってから(落ち着いてから)、そちらの方に注力した方がまだ現実的なのである。


ここら辺は良いとか悪いとかの話ではない。

人の上に立つ立場の者達は、時として冷静なまでに冷静に、冷徹なまでに冷徹な判断力も必要不可欠なのである。


「まずは復旧、復興が最優先事項だ。それから捜索部隊の事は検討すべき事であろう。」

「し、しかし、それでは攫われた同胞達の安否がっ・・・!」

「・・・もちろん、それは非常に気掛かりだが・・・、しかし状況から推察するに、おそらく命の心配はいらんだろう。」

「な、何故そう言い切れるのですかっ!?」

「こんな大層な事を仕出かした連中が、ただの野盗の類である筈がないからだよ。」

「っ!!!???」


残念ながら今現在のこの世界(アクエラ)においても、人から物や命を搾取する存在、というものがいる。

自分で働くよりも、人から物を奪った方が早い、と考えているからである。


もちろん、それは誤った考え方だ。

そもそもの話として、その為には結局労力をかける事となる訳だから、そんな事をしなくとも、最初から働けば良いだけの話だからだ。


再三述べている通り、この世界(アクエラ)は基本的に魔獣やモンスターなどの脅威がそこかしこに闊歩する世界であるから、特に野盗の類というのはある意味で命がけの“仕事”でもある。

命を賭けてまで人から嫌われる様な事をするのは、ハッキリ言ってとても合理的とは言えない。


まぁもっとも、これは後のこの世界(アクエラ)でも、そして向こうの世界(現代地球)でも、そうした類の人種は一定数存在する訳であるが。


しかし、とは言えそうした連中も、全く頭が回らない訳でもない。

少なくともラテス族などという強者の部族にケンカを売る事が、いかに愚かで無意味な事かを分かっているし、そもそもそこまで大掛かりな作戦が出来るほどの人員がいる筈もないのである。


「考えてもみろ。二人の情報から分かる事は、これがしっかりと準備されていた作戦である、という事だ。そして、その為に少なくない人員が投入された事となる。しかも、こちらに気付かれない様に、細心の注意まではらっている。有象無象の集まりでは、そんな事は不可能だ。となれば、そこには何某かの利害による強い結びつきがあるだろうし、それなりに訓練された者達である、と考えるのが自然だろう。では、その利害とは?そして、ここまでの事をしておきながら、我々を攻撃するのではなく、あくまで人さらいに徹していたのは何故か?」

「・・・もしかして、奴らの目的は、我々の『魔法技術』、でしょうか?」


それまで黙って話を聞いていたマグヌスは、ようやく落ち着いたのか、長老の話にそう相槌を打った。


「うむ、おそらくな。『魔法技術』を持たない他の部族や他の民族にとっては、我々の生活は非常に羨ましく見える事だろう。少なくとも、魔獣やモンスターに怯え暮らす必要がなくなるからな。そして、その羨望が、何らかのキッカケで嫉妬に変わり、そして結託して我々から『魔法技術』を奪おうとする考えに至ったとしたら・・・、一連の流れも分かってくる。」

「我々と直接やり合うよりも、より安全に交渉を進める為に。つまり、こちらが断れない状況を作る為、ですね?」

「うむ、そうだ。ただの争い事ならば、叩き潰して終わりだが、ここに人質がいるとなると、こちらもそれを無視は出来ないからな。」

「逆に言えば、そうする為にわざわざ人質を取ったのだから、無茶な真似はしないだろう、と?」

「うむ、その通りだ。人質は、生きているからこそ交渉の道具となる。ここまで大掛かりな仕掛けをした者達が、それが分からない筈もないだろう。故に、同胞達の生命は、まず無事だろう、という訳だよ。」


“・・・もっとも、命を奪う以外の事はするかもしれんがな。”


と、長老は誰にも聞こえない様な小声でポツリと呟いた。


「おそらく、いずれ向こうから接触してくるだろう。理想を言えば、その前に同胞達を全て奪還作出来れば良いのだが、それは難しいだろう。が、いずれにせよ、こちらの態勢を素早く立て直せれば、それだけ向こうと相対する時、有利な状況には持ち込めるかもしれん。それ故に、まずは素早い復旧と復興、なのだよ。理解出来たかな?」

「・・・はい。」


最終的には諭す様な言い方で男に言い聞かせる長老。

男も、渋々といった感じではあったが、それに頷いた。


「結構。もちろん、私とて同胞の奪還を諦めた訳ではない。ここからは時間との勝負だ。素早く復旧、復興が済めば、それだけ探索部隊を編成し、派遣する時期も早くなるからな。」

「っ!!??」


だが、長老とてやられっぱなしを良しとはしておらず、男だけでなく全員に、あるいは自分自身に言い聞かせる様にそう言った。


様々な判断や可能性を考えておかなければならない立場と言えど、だからといって、全く人の心がない訳ではないからであろう。


「皆の尽力に期待する。・・・だが、くれぐれも無理はしない様にな。」

「「「「「はいっ!!!」」」」」



・・・



「お義父さん、お呼びでしょうか?」

「うむ、来たな、婿殿。」


その後、各自各々の仕事に向かった人々を尻目に、長老とマグヌスは密かに密会していた。


あまり人には聞かれたくない話があるのだろう。


「それで、お話というのは?」

「うむ。聡いお主の事だ。すでにある程度は察しがついているだろうが、連中との交渉における準備を進めておかなければならない。」

「・・・。」


先程はああいう形で皆を鼓舞していたが、政治的には常に最悪の可能性も考えておかなければならないのである。


「理想を言えば、先程も述べた通り、素早く態勢を立て直し、向こうが何かしてくる前に全て解決出来ればそれが一番良いだが、流石にそれは些か虫の良い話だ。」

「・・・まぁ、そうですね。」


マグヌスもそれは理解していたのか、打てば響く様にそう頷いた。


「となれば、最悪、交渉に応じる必要も出てくる。同胞を救う為にはそうしなければならないだろう。だがその為に、みすみす我々の『魔法技術』を差し出す、というのは・・・。」

「・・・。」


人質を取られた以上、すでにラテス族が不利な状況である。

とは言え、信仰的な話はもちろんの事、政治的背景からも、(おそらく)彼らが狙っている『魔法技術』を譲渡する、という事は、ラテス族の生命線を差し出す事に等しいのである。


先程も述べた通り、長老はラテス族全体の利益を考えなければならない立場だ。

仮にそういう交渉話であった場合、ラテス族全体の安全か、それとも、囚われた同胞達の生命か、と問われれば、まず間違いなく前者を取らなければならない訳である。


ここら辺は、良いとか悪いの話ではない。

百人の命と一人の命では、理想を言えば、どちらも助けられればそれに越した事はないのであるが、それが難しい場合、百人を取らない指導者は、指導者失格だからである。


とは言えど、彼とて人の心がない訳ではない。

故に、自分の義理の息子にして、天才と名高いマグヌスの知恵を借りよう、という訳であった。


そしてマグヌスには、実は一つの答えがあったのである。

もっともこれは、当初想定していた事とは違う未来になってしまっていたのであるが。


「お義父さん。僕に一つ、考えがあります。」

「本当かっ!?それは何だね?」

「お義父さんもすでにご承知かもしれませんが、実は僕とセシリアは、『魔法技術』を利用して、他部族、他民族と取引をするつもりでした。」

「うむ、それは聞いている。まぁ、他の集落の者達からの反発もあって、調整が中々難航していた様ではあるが・・・。」

「そうですね。神々から授かった『魔法技術』を、自分達の生命線とも言える『魔法技術』を、ある意味流出させる事ですからその反応も当然だとは思います。しかし、あくまで僕が想定しているのは、それらを加工した“アイテム”としてなんですよ。」

「と、言うと?」


一旦言葉を区切ると、マグヌスは原動機(モーター)と“魔石”を取り出した。


「重要なのは、技術や理論などのキモとなる部分です。それらが知られる事は、確かにラテス族の優位性を損なう事にもなりかねませんが、仮に『魔法技術』を使わずに、『魔法技術』を再現出来る“アイテム”があれば、その点をクリアする事が可能です。」

「『魔法技術』を使わずに『魔法技術』を再現・・・?些か、矛盾している様にも聞えるが・・・。」

「ええ、確かに。当初は僕も、研究家仲間からそんな夢みたいな話があるか、と批判されたものです。しかし、僕はそれを実現する事が出来たのですよ。」

「なんとっ・・・!?」


すでにマグヌスの研究成果は、一部のラテス族達は知っている事ではあった。

しかし、どんな事でもそうではあるが、新たなる試みというのは、それがしっかり理解されるまで、浸透するまでには、それなりに時間を要するものなのである。


少なくとも、原動機(モーター)+“光る石”の組み合わせによって生み出された『魔法科学』は、それについていまだ懐疑的な目を向ける者達もいるし、そもそもそうした新たなる技術が生まれた事すら知らない者達も少なくないのである。


もちろん、セシリアの父親であり、長老の立場にある彼は知ってはいたのであるが、具体的にそれがどの様な利便性があるのかは、おぼろげながらにしか理解していなかったのである。


「これがそうです。これに“キー”を差し込むと・・・。」

「おおっ・・・!」


マグヌスが実演すると、そこから水が生まれた。

生み出された水は、飲料水用として設置してあった水瓶の中に収まった。


「いかかですか?」

「・・・確かに、お主が『魔法技術』を使用した形跡は確認出来なかったな・・・。」

「そうです。もちろん、『魔法技術』をベースにしていますから、この“アイテム”にも『魔法技術』が組み込まれていますが、必ずしも使用者が『魔法技術』を使える必要はないのです。そのキモとなるのが、この“魔石”と呼ばれる鉱石の存在でした。」

「ふむ・・・。」


以前にも言及した通り、『魔法技術』の主なメカニズムは、“魔素”と呼ばれる物質を利用した物理現象の再現である。

その為にはまず、“魔素”そのものを操る技術が必要となり、それが『魔法技術』を扱う事のハードルの高さとなっているのだ。


しかし、“光る石”、“魔石”の存在によって、その“魔素”を操る工程が丸々省略出来るので、後は“術式”、すなわち再現したい物理現象に合わせた触媒を用意出来れば、使用者が『魔法技術』を()()()()()()、『魔法技術』を使う事が出来るのである。


そしてマグヌスは、その『魔法技術』から派生した『魔法科学』によって、その理論を確立しつつあったのである。


「先程も述べた通り、『魔法技術』のキモとなるのは、その技術と知識の方です。そしてこの“アイテム”には、それらが結集されていますが、だからと言ってこれを模倣(コピー)する事は実質的に不可能なのです。“術式”は再現する事が可能かもしれませんし、“魔石”も集める事が出来るかもしれません。が、その“加工技術”は、私や一部の者しか知らないからです。条件さえ揃えれば再現可能ではない以上、技術の流出にはならないでしょう。」

「ふむ、なるほどな・・・。確かにそれなら、他部族、他民族にも『魔法技術』の恩恵を授けつつ、重要な部分は我々が握っている、という状況を作れる訳か。」

「ええ。そして今回の件の場合、仮に人質開放条件として彼らが『魔法技術』を求めてきたとしても、これを差し出す事で条件をクリアする事が可能だと思われます。『魔法技術』が使える“アイテム”。嘘は言っていませんし、そもそも『魔法技術』を本気で習得するとなると、少なくとも十年以上の時が必要となる。彼らの思惑が何であれ、『魔法技術』を極める事ではないと思われますので、むしろ効率を考えれば、こちらの方が合理的であると言えますし。」

「なるほどな・・・。」


あくまで他部族、他民族が『魔法技術』を求めているのは、ラテス族に対する嫉妬などからである。

つまり、(ラテス族の様な)生活水準になれればそれで満足な訳であるから、『魔法技術』に変わる物があれば、それでも構わない訳である。


いやむしろ、マグヌスの言う通り、ラテス族の『魔法技術』を完全にマスターするには少なくとも十年以上の時間が必要となる。

その点、この“アイテム”は、使い方さえ理解出来れば、そんな期間も必要ではないのである。


すぐに生活水準を豊かにする“アイテム”があるのならば、わざわざ面倒な事に時間を費やす必要はないだろう。

そしてこれは、ラテス族にとっても大して痛くもない出費なのである。


もちろん、本来ならばこうなる前に交易の道具として利用するつもりだったので、その利益が丸々なくなってしまう事となってしまうが、人の命には変えられないし、上手くすればこれら“アイテム”を駆使すれば、当初の想定通り、彼らをラテス族に()()させる事も可能かもしれないのだ。


失ったものをいくら考えても無駄である。

大事なのは、今後の事、なのであった。


「・・・ひとまず、もし交渉、という事態に陥った場合は、それで対応する事としよう。・・・だが、良いのか、婿殿?せっかくお主が長年かけて開発した物だろうに。」

「元々これは、取引に使う為に用意したものです。当初の想定とは違ってきてしまいましたが、それで仲間達が助かるのならば、惜しくはありませんよ。・・・それに、上手くすればこの事が、ラテス族と他部族、他部族とのわだかまりを解消するキッカケともなるかもしれません。」

「ふむ・・・。」


長老も、マグヌスやセシリアの思想は理解している。

もちろん、再三述べている通り、ラテス族の利益を最優先に考えなければならない立場である以上、“アクエラ人類全体にも『魔法技術』の恩恵を与えるべきである”、という考えを大手を振って認める訳にはいかなかったが、今、マグヌスから説明を受けた内容ならば、ラテス族の不利益とならないだろう事が理解出来ていた。


「分かった。婿殿、感謝するぞ。」

「いえ。」

「で、だ。とは言え、これはラテス族全体にも関わる事であるから、被害を受けたのは我々の集落ではあるが、他の集落の者達にも了解を取る必要がある。面倒だろうが、今説明してくれた事をもう一度説明してはくれまいか?もちろん、私も助力するが。」

「・・・ええ、分かりました。」


一応、ここで話はまとまっていたが、とは言え、『魔法技術』を流出する事には変わりない。

流石にそれを、一集落の代表が勝手に決める訳にもいかなかった。

それ故に、他の集落の者達、すなわち、ラテス族全体にも了解を得る必要があったのである。



こうして、やや面倒な政治的な話に巻き込まれてしまったマグヌス。

彼は、ラテス族上層部を説得し、無事に人質を救出する事が出来るのであろうかーーー?



誤字・脱字がありましたら御指摘頂けると幸いです。


いつも御覧頂いてありがとうございます。

よろしければ、ブクマ登録、評価、感想、いいね等頂けると非常に嬉しく思います。

よろしくお願いいたします。

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