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『英雄の因子』所持者の『異世界生活日記』  作者: 笠井 裕二
英雄大戦へ至る道
305/383

誘拐

続きです。




一方その頃、地上を去って眠りについていたセルース人類の一部は、この異常事態を()()していた。


ー・・・まさか、こんな事になるなんてな・・・。ー

ーいいのかよ、ハイドラス?こんな事を放っておいて。ー

ー・・・。ー


誰あろう、それはセレウスとハイドラスであった。


元々“能力者”達は、以前のソラテスらの暴走時においても“コールドスリープ”についていたにも関わらず、世の中に起こっている事を知覚していた。


今や彼らは、限界突破も果たしており、更にその精度を増していたのであった。


ただ、そうは言っても、彼らの制限はむしろ増えていた。

少なくとも、遠因が彼らにも存在するとは言えど、あくまでアクエラ人類同士の諍いに、彼らセルース人類が干渉するのはお門違いでもある。


ー・・・今は、物事の流れを見守るしかない。ー


故に、ハイドラスはそう判断する。

自分達が出張(でば)っていって、更に状況をややこしくするのは得策ではない、と考えたのであろう。


ハイドラスの意見はある意味正しい。

今現在のセルース人類の目的は、惑星アクエラへの再入植の為に、アクエラ人類のセルース人類(彼ら)への認識や記憶が薄れるのを待っている状態だからだ。


仮にここで下手に介入してしまおうものなら、それが全て御破算になってしまう事となるからである。


なし崩し的にセルース人類の代表的な立場に立ってしまったハイドラスは、まず第一にセルース人類の利益を考えなければならないのである。


ー・・・けどよっ!ー


しかし、性根の真っ直ぐなセレウスは、その事に納得していなかった。

何であれ彼は、争いが起こる事をよく思っていなかったのかもしれない。


ー堪えろ、セレウス。私とて争い事は好まないが、今私達が出張(でば)っていっても、状況は更に複雑化するだけだ。ー

ー・・・・・・・・・。ー


強めのハイドラスの言葉に、セレウスは口を閉ざした。

セレウスとて、その事は理解していたのであろう。


しかし、それと“感情”はやはり別物でもある。

物事の最適解が、常に心情にマッチするか否かはまた別問題なのである。


そんな、ハイドラスとセレウス(神々)の葛藤をよそに、ラテス族と他部族、他民族連合の衝突は進行していったのであるがーーー。



◇◆◇



「きゃあぁぁぁ〜〜〜!!!」

「うわあぁぁぁ〜〜〜!!!」

「皆さん、落ち着いて下さいっ!まずは落ち着いて避難をっ!!!」

「お母さ〜ん!どこぉ〜〜〜!」

「子どもは、子どもはどこだぁ〜〜〜!!!」


一方セシリアは、突如として起こった複数の火災への対応に追われていた。


彼女はこの集落の代表的な立場でもある。

ならば当然、彼女には人命を守る義務がある訳である。


それ故に彼女は、逃げ惑う人々の避難誘導に努めていた訳であった。


「下手に火の手を消そうとしないでっ!この場に留まらないでっ!」


彼女は叫ぶ。


当たり前だが、火災などの災害があった場合、さっさと現場から避難するのが正解である。

何故ならば、色々と邪魔になってしまうからである。


以前から言及している通り、ラテス族は一人一人が『魔法技術』の使い手であるから、こうした事に対応()()()()()()


しかし、下手に手を出す事は、かえって他の者達の邪魔になる事もしばしばあるのである。


例えば、向こうの世界(現代地球)において、火災などが発生した場合、初期消火は現場にいる者が行えばボヤ程度で済む=大した被害を出さなくて済む可能性もあるが、これが消化器やバケツリレーでは歯が立たないレベルになると、余計な手出しはせずに素直に待避した方が良い。


何故ならば、二次被害の危険性があるからである。


当たり前だが、消防隊の仕事は火事を鎮火させる事である。

が、要救助者がいた場合は、それを助ける必要もある。


工程が増えれば増えるほど、彼らの任務は難しいものとなる訳で、結果として彼らの殉職の危険性を引き上げる事となる訳である。


故に、この判断は非常に難しいのであるが、あえて“何もしない”という事が、時に彼らの助けとなる事もあるのである。


今回のケースも同じである。

さっさと全員逃げてくれた方が、一々要救助者を確認する必要がなくなる=鎮火に全力を注げるので、この場は大人の男達に任せて、女子供は現場からいち早く待避するのが望ましい訳である。


流石はマグヌスのパートナーであるセシリアは、その聡明な頭脳故にその事を理解していたのであった。


「おいでっ!」

「いやぁあ〜〜〜!お母さ〜〜〜んっ!」


だが、混乱している者達は好き勝手な行動をしてしまう。


逃げ遅れた子どもの手を引いたセシリアであったが、その子どもは母親を探してその手を振り払う。


ここら辺は子ども故に仕方ない部分もあるだろう。


「坊やぁ〜〜〜!どこだぁ〜〜〜!!」


そしてこちらも、我が子を探して無闇に駆け回る者が一人。

子どもを持つ親としては、それはある意味当然の行動なのであろうが、やはりこれも悪手である。


「皆さん、落ち着いて下さいっ!まずは落ち着いて避難をっ!!!」


再び同じ文言を叫ぶセシリア。

しかし混乱した人々の耳には届かなかったのである。


「仕方ありませんね・・・。」


セシリアはひとりごちる。

彼女はひとまず、この場を鎮火して人々の混乱を落ち着けようとしたのであろう。


「セシリア・シリウスの名において命じる・・・。」

「「「「っ!!!???」」」」」


セシリアが呪文を紡ぎ、優雅な所作で印を描いていると、周囲の者達の注目が集まった。


当たり前だが、同じ『魔法技術』と言っても、その習熟度によって効果は段違いだし、そもそも“魔素”に干渉する力も、これも個人差がある。

セシリアはラテス族でも上位に入る『魔法技術』の使い手だ。


何でもそうであるが、技術力の高い者達の一挙手一投足というのは、えも言われぬ“華”があるものなのだ。


「大気と水の精霊よ。

盟約に基き、火の精霊を鎮めよ。

『ウォーターウォール』!!」

「「「「「おおっ・・・!!!」」」」」


呪文を唱え終えると、セシリアを中心とした周囲に“水の壁”が出現した。

それによって周囲の火災は一気に鎮火の方向に向かう。


もちろん、それで全て解決する訳ではない。

火の手はそこかしこに上がっている訳であるから、本格的な鎮火を目指すのであれば、連続で“魔法”を使用する必要があるからである。


しかし、彼女の目的はあくまで避難誘導であり、そうした意味ではそれは劇的な効果をもたらした、と言っても過言ではなかった。


少なくとも、とりあえず周囲の安全はひとまず確保出来た訳であるし、セシリアの優雅な所作から、混乱していた人々の精神を安定させる効果もあったからである。


「さあ皆さん。とりあえずこの場は一時的に安全になりました。逃げ遅れた人がいないか確認しながら、安全な場所に待避して下さいっ!」

「「「「「は、はいっ!!!」」」」」


時間的猶予も出来たので、ようやく彼らもセシリアの言葉が耳に入ってきたのか、彼女の言葉に素直に頷いた。


そして彼女の言葉通り、皆で助け合いながら、火の手のない、周辺に燃える物のない集落を出た小高い丘へと向かうのであったーーー。



「・・・ふぅ。」


集団を統率して動かす事は非常に難しい。

少なくともこうした事態の場合、仮に訓練していたとしても、思い描いた通り事を進めるのは非常に困難なのであった。


まぁここら辺は、セシリアの機転と彼女の存在感によって事なきを得たが、しかしこれで終わりではない。


彼女達の集落は、そこまでの規模ではないものの、そうは言ってもそれなりに人口が存在するからである。


今逃げていった者達はその一部に過ぎず、まだまだこの集落の中には、逃げ遅れた人々が存在するのだ。


「よしっ・・・!」


気合いを入れ直したセシリアは、その者達を救出、避難誘導するべく、再び火の海と化しつつあった集落の中心へと踏み込んで行くのであったーーー。



・・・



セシリアの奮闘によって安全な場所に待避していくラテス族の人々。


「・・・良いぞ。奴ら、上手い事こっちにやって来やがる。」

「ラッキーだな。」


しかし残念ながら、確かにそこは災害現場からは遠く離れる事が出来る場所ではあったが、本当の意味での安全圏とは言えない場所でもあった。


いくつかの他部族、他民族の突入部隊の中の一つに、あえて逃げてくる者達を待ち構えていた部隊が茂みの中に存在していたからである。


しかしこれは、セシリアの落ち度ではない。

何故なら彼女は、他部族、他民族連合軍が今回の件を仕掛けた事実を知らなかったからである。


むしろ言ってしまえば、ラテス族全体が情勢を見誤っていたのだ。

まさか他部族や他民族が、ラテス族(自分達)に仕掛けてくるなどとは夢にも思っていなかったのだから。


つまり、ラテス族は自分達が様々な理由から優位である事から、そこまでの危機感がなかった事が今回の件の最大の要因でもあったのである。

まぁ、それはともかく。


そんな訳で、奇しくもセシリアの行動は彼らのアシストをする形にもなってしまったのである。

もっともこれは、この部隊の者達の作戦勝ちでもあるが。


相手の行動を、予測したり誘導したりする事で先手を取る事が可能だ。

これが上手くハマれば、少ない労力で効率的な成果を上げる事が可能でもある。


今回の場合、ラテス族の集落のあちこちに、火の手を上げている訳である。

となれば、そこから待避、避難する者達が現れる事も簡単に予測出来る。


そして、その“避難ルート”というのも、ある程度は予測が出来る訳だ。


火災を逃れるならば、水辺や延焼の心配がない場所。

川沿いか、森林の少ない丘、などになるだろう。


そして川沿いは、この世界(アクエラ)でも水生生物の領域(テリトリー)である。

当たり前だが、水辺にも魔獣やモンスターは存在するので、基本的に水の中では生きられない、呼吸の出来ない人間族では、圧倒的に不利な条件となる。


もちろん、再三述べている通り、ラテス族は一人一人が『魔法技術』の使い手であるから、そうした者達にも遅れを取らないが、やはり人間の心理としては、なるべくなら安全な場所を目指すものだろう。


そうした事を鑑みて、彼らは小高い丘方面へと当たりをつけて、集落とそこを結ぶルートの森林付近にて、じっと潜んでいたのである。


他の部隊の者達が、密かに潜入している中でのそれは、ある種の焦りもあった事だろうが、そんな彼らの行動は無駄にならずに済んだのであった。

まぁ、逃げてきたラテス族側からしたら、たまったものではないのであろうが。


そしてちょうど今、彼らの目前を、早足で避難してきたラテス族の一団が通過するタイミングであった。


「行くぞっ!」

「「「「「応っ!!!」」」」」

「「「「「えっ・・・!?」」」」」


指揮官らしき男の号令に、部隊の者達は小気味よく返答し、一斉に動き始める。


一方の避難してきたラテス族からしたら、それは完全なる予想外の出来事であった。


もちろん、彼らの名誉の為に名言しておくが、この一団のほとんどが女子供で構成されていたとは言えど、流石に集落の“外側”である事は理解しているので、魔獣やモンスターへの警戒はしていたのである。


だが、それが統率の取れた“人間”の一団となれば、話も変わってきてしまう。


魔獣やモンスターなら、彼らも躊躇なく攻撃を加える事が出来ただろう。

しかし、それが同じ“人”であったなら、よっぽど訓練された者でもなければ、いきなり攻撃する事も躊躇われてしまう。

何故ならば、やはり人を傷付ける事に対する忌避感が存在するからである。


まぁそもそも、自分達(ラテス族)に手を出す人間はいないだろう、という思い込みもあったのかもしれないが。


一方の他部族、他民族の連合軍の者達は、すでにその辺りの覚悟や葛藤を済ませている。

もちろん、今回の目的は“人質を取る”事であるから、むやみやたらに殺傷するつもりはないのであるが、それでも相手を、それも同族である人間族を傷付ける可能性がある事も前提に動いているので、そこに一切の躊躇がないのである。


再三述べている通り、一瞬の判断力はこうした場面ではその後の命運を左右する。


「きゃあぁあ〜〜〜!!」

「うわぁあ〜〜〜!!」

「おらっ、痛い目に遭いたくなけりゃ、大人しくしろっ!!」


これも、ある意味“奇襲”となった。

連合軍の部隊の容赦無い攻撃に、驚き戸惑うラテス族の一団。

すでに反撃どころの騒ぎではない。


そうこうしている内に、一人、また一人と捕らえられていった。


「な、何すんだっ!ぎゃっ!!」

「黙ってろ、ガキがっ!」

「口の聞き方に気をつけるんだなっ!」

「ひ、ひどいっ!あがっ・・・!」

「・・・黙ってろと言ったぞ?」

「・・・。」コクコクッ!


非常に痛ましい惨状であったが、この場においては暴力と恐怖は有効な手段でもある。


有無を言わさぬ理不尽な暴力は、自分達の置かれた立場を理解させるには十分過ぎる効果を発揮するからである。


しかも、早めに心を折ってしまえば、抵抗する気力もなくなる。

事、“人質を取る”という意味では、この場においては最適解でもあった。


「くっ、何をするんですかっ!」

「子ども達を離してっ!」

「そいつは聞けない相談だなぁ〜。悪いがこっちにも事情があるんでね。ああ、別に酷い目に遭わせてやろう、なんて気持ちはこれっぽっちもない。コイツらは“交渉”を有利に進める為の大事な人質(コマ)なんでな。」

「せいぜい、丁重に扱ってやるさ。死なれたら人質の意味がねぇ〜からな。」


そうこうしている内に、ようやく事態を飲み込めた者達が連合軍に食ってかかるが、もはや後の祭りであった。

少なくない人数の女子供が人質に取られ、下手に手出し出来ない状況だからである。


故に説得、という形で問答する訳であるが、当然ながら相手は聞く耳を持たない。

彼らには彼らの目的があるからである。


「交渉・・・?」

「おっと、下手に動くんじゃねぇ〜ぞ?コイツらがどうなっても良いのか?」

「ぐっ・・・!!!」

「大事な大事な人質だが、一人二人ならこっちもいなくなっても問題ねぇ〜からな。」

「っ・・・!!!」


睨み合う形となった両者であるが、人質がいる以上、ラテス族は下手に動けない。


そうこうしている内に、連合軍はジリジリと撤退を始める。


「待てっ・・・!」

「ついてこられても面倒だからな。おいっ!」

「応っ!」


バッ!

バシュ〜〜〜〜!!!


「うわっ!!!???」

「し、視界がっ・・・!?」


連合軍の男達が腕を振るうと、突如として大量の()()()が残されたラテス族の視界を奪った。


火は水で消火する事が出来る。

しかし時と場合によっては、それが裏目に出る事もあるのだ。


有名な例が、火のついた油に水をかけてしまう事である。

この場合、燃えているのは油であるから、水をかけてしまうと逆に一気に燃え広がってしまう事もある。


適切な方法で消火しないと、かえって危険になる事もあるのである。


それを逆手に取って彼らは、火と水を“魔法”をあえて衝突させる事によって、大量の水蒸気を発生させたのである。


霧などを思い出して頂きたいが、大量に発生した水蒸気は視界を悪くする。

見通しの効かない、しかも普段生活している集落の外、つまりあまり土地勘のない場所でそうなってしまうと、素早く撤退する連合軍の男達を追う事は困難となるだろう。


「ハハハハハッ!じゃあなっ!」

「ま、待てっ!!!」


遠くなっていく男達の声に、残されたラテス族はそう叫ぶ事しか出来なかったのであったーーー。



・・・



この様な“誘拐事件”が各地で多発する中、集落の異変を感じ取っていたマグヌスは大急ぎで集落へと戻っていた。


もちろん、いくら彼が強者の部類に入る男とは言えど、物理的に距離の離れた場所へと移動するのはそれなりに時間がかかる。

まだ幼児であるカエサルを連れていたら、その時間はもっとかかっていた事であろう。


事態は一刻を争う、かもしれないのだ。

そういう判断もあって、信頼出来る4人組にカエサルを任せて、単身で戻る事を選択した訳であった。


「ギィギィッ!!!」

「邪魔をするなっ!」

「ギャッ・・・!」


途中、他の魔獣やモンスターが異変を感じ取って姿を隠したのとは対象的に、空気の読めないゴブリン達があいかわらず現れたりもしたのだが、それを瞬殺してマグヌスは焦る気持ちを抑えつつ、先を急いでいた。


ところで話は少し変わるのであるが、ラテス族は基本的に集落の外には出ない事がほとんどである。

まだ、“冒険者”という概念の存在していない今現在のこの世界(アクエラ)では、未知を求めるよりも、まずは生活基盤を安定させる事が重要だからである。


もちろん、それでもラテス族の生活圏は徐々に拡大してはいるが、それも単独(ソロ)ではなく、仲間達と協力して、であった。

そんな中にあって、マグヌスは“冒険者”めいた活動をする、非常に珍しいラテス族であったのだ。


つまり何が言いたいかと言うと、他部族や他民族の者達も、ラテス族の者達が基本的に自分達の領域(テリトリー)に引きこもっているものだとの認識を持っていたのである。


故に、無事に任務が終了し、追手も撒いた事で安堵していた事で油断が生じてしまう事となったのである。


「・・・!」

「・・・!!」

「・・・?何だっ・・・???」


すでに周囲は陽が沈んだ頃である。

そんな時間帯に、複数の人の声がする事などありえない事であった。

・・・普通なら、であるが。


当然ながらマグヌスもそれに疑問を感じて、手慣れた感じに茂みに隠れながらその異変の正体を探り始める。


「っ!!!」


「うぅ〜、おウチに帰してぇ〜・・・。いたっ・・・!」

「黙って歩けっ!!!」

「くっ・・・。」


「へへへ、コイツ、中々いい女じゃねぇ〜?」

「ひっ・・・!」

「やめとけやめとけ。コイツもラテス族なんだぞ?」

「それに、人質を傷付けると利用価値が下がんだろ。」

「いやいや、ちょっと味見するぐらいならへーきだって。」

「ったく、飢えてんなぁ〜・・・。」

「「「「「ギャハハハッ!!!」」」」」


そこには、理不尽な暴力を子どもに向けて振るいつつ、若い女性を下卑た目で見る男達の姿があったのである。


当然ながら、ラテス族を人質に取って無事に逃げおおせた他部族、他民族の連合軍の姿だった。


「っ!?」


マグヌスは一瞬状況が理解出来なかった。

だが、すぐに女子供達に見覚えがある事を思い出していた。


ラテス族の集落、とは言っているが、それでもそこに住まう者達皆が顔見知りであるほど狭い集落ではない。

しかし、以前は人付き合いの悪いマグヌスであったが、カエサルが生まれてからは、必然的に子ども同士の繋がりもあって、ご近所付き合いが増えていたのである。


故に、謎の集団に連れられている子どもの中に、カエサルの友達が含まれている事が分かったのである。

そしていまだに事情は分からないまでも、ある程度は状況を察していた。


つまり彼らは、人さらいか何かであるのだ、と。


「な、なんて事をっ・・・!」


その事が頭に染み渡ると、ギリッと口唇を噛み締めた。


そして咄嗟に、彼らを助けるべく一歩足を進めかける。


「・・・いや・・・。」


だがマグヌスは、怒りを何とか抑えつつ冷静に頭を振った。


マグヌスの力量ならば、まだ気付かれていない事もあって、不意をつけば彼らを一掃する事はおそらく可能である。

しかし同時に、それは知り合いの子ども達を危険にさらす行為でもあった。


しかも、見えない範囲にも敵がいたとしたら、女子供だけでなく、最悪マグヌス自身も命を落とす可能性がある。


感情のまま行動する事は人としてある意味当たり前の行為でもあるが、しかし大局から見れば、それは愚かな行為でもある。


そしてマグヌスは、感情よりも理性を優先して判断出来る人物であった。


それ故に彼は思い留まり、歯を食いしばりながらも情報収集に努める事としたのである。


「しかし、まさかこんなに上手くいくなんてなぁ〜。」

「ああっ!それもこれも、ヴァニタス様のお陰よ。」


「・・・ヴァニタス?」


聞き覚えのない名前にマグヌスは顔をしかめる。

しかし疑問に感じている余裕もなく、気分の高揚している男達の会話は続いていく。


「ラテス族共は、俺等との交渉に応じるかね?」

「大丈夫だろ?何せこっちには、こんだけの人質がいるんだからよぉ〜。断ればコイツらの命はねぇ。そんくらいは分かんだろ。」

「だよなぁ〜。」


「交渉・・・。」


そんな会話の断片から、マグヌスはおぼろげながらにも彼らの正体に気が付きつつあった。


だが、それもこれまでだった。


パキッ!


「・・・ん?何の音だ?」

「ま、まさか、魔獣かっ!?」


「くっ・・・!」


会話の内容に集中するあまり、足元がおろそかになってしまったのだ。

落ちていた枝を踏んで、音を立てるという初歩的なミスをやからしてしまう。


「ちょっと見てこいよ。大丈夫だ。俺等もいるからよ。」

「お、おうっ!」


当然ながら連合軍の者達にとっても、魔獣やモンスターは警戒すべき相手であるから、それを確認する行動に出る。


マズい。


マグヌスはそう思った。

ここで見つかる訳にはいかないからである。


そう判断し、後ろ髪をひかれる思いを振り切って、マグヌスはその場を一目散に離れていった。


先程聞いた会話の内容を、頭の中で反芻しながらーーー。



誤字・脱字がありましたら御指摘頂けると幸いです。


いつも御覧頂いてありがとうございます。

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よろしくお願いいたします。

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