『ダガの街』にて
続きです。
「はっ!?し、侵入者だとっ!?ど、どこから入って来たっ!?」
「あれっ?この人には『イリュージョン』の効果が薄いのかな?たま~に変な『耐性』持ってる人いるよなぁ・・・。」
屋敷の『見張り』の私兵に発見された僕だが、特に緊張感なくそうぼやいた。
「主様っ!」
「主さん、騒がれたらヤベーぞっ!始末するかっ?」
僕とは正反対に、一気に緊張感を増したティーネとユストゥスが、そう指示を仰いで来た。
いや、物騒だなぁ。
まぁ、必要とあらばそうするけどね・・・。
しかし、現在の僕らの『レベル』なら、相手を死傷させなければ対処出来ない事はないので、そう言った意味での発言ではないと思うが・・・。
「問題ないよ。まだ他の人達には気付かれてないしね。・・・せっかくだから、僕の『新技』を披露してみようか?」
そう言って、僕は『ステイタス』由来の『身体能力』と、特殊な歩法を用いた『縮地』を披露した。
クロとヤミが使用していた、『覇気』を利用した『高速移動』の『魔闘気』を用いない簡易バージョンである。
彼らの場合は、その『瞬発力』で受け流せるこの『技』のキモ、『急制動』を『人間種』では受け流す事が難しい事から、僕とアイシャさんで考案した『技』である。
何も考えずに彼らの『高速移動』を再現しようとすると、止まれなくなるからなぁ。
まぁ、『突撃技』としては使えるけど、隠密行動中は、その派手さも相まって使用は避けるべきだしねー。
ついでに、ノリ的に一度はやってみたかった、ある『呪文』を唱えてみた。
「くらえっ!バ〇スっ!!」
と言って、『縮地』を使い、物理的に目潰し攻撃を加える。
ここでポイントなのは、目を突くのではなく、目を擦る様にする事だ。
こうする事により、バ〇スの成功率はかなり上昇する。
「いや、ただの『目潰し』だし・・・。」
「目がぁぁ、目がぁぁぁっ!ごふぅっ・・・。」
素晴らしい反応をくれた『見張り』の人を即座に昏倒させると、僕は満足気にドヤ顔を二人に向けた。
「あははっ・・・。」
「・・・。」
ティーネは愛想笑いを浮かべ、ユストゥスはジト目を僕に向ける。
いや、別に卑怯とは言うまいな?
ある程度の『使い手』の者なら、絶対に食らってはいけない攻撃、すなわち、『禁じ手』たる『金的』と『目潰し』に対する対処法は必ず持っている。
食らうと、どんな『達人』でも一発アウトだからな。
これは、『試合』ではないのだ。
どんな攻撃手段も肯定される。
まぁ、そんな事せずとも、『見張り』の人を眠らせる事は可能だったけどね・・・。
ただやりたかっただけである事は否定せんっ!
「さっ、遊んでないで、さっさと『目的』を達成しようか?」
「遊んでたのは主さんだけだけどな・・・。」
・・・。
最近ユストゥスが冷たいデス。
ま、まぁ、打ち解けてくれているとポジティブに解釈しよう。
多少騒がしくしたにも関わらず、こちらに気付いた者はいない。
『結界術』を使用した『イリュージョン』の効果は、しっかり出てるみたいだ。
でなければ、流石の僕もこんな緊張感のない事はしないけどね。
い、いや、う、うそじゃねーしっ!
「『情報』ではこちらです。参りましょう、主様っ!」
「はいはい。」
ティーネの先導で、僕らは屋敷の『目的地』に近付いて行くのだった。
◇◆◇
みなさん、ご無沙汰しております。
アキト・ストレリチアです。
早いもので、僕も10歳になりました。
こちらの世界に来て、もう10年も経つのですね。
さて、僕らは今、『ロマリア王国』の西側の領地『コロナエ領』の『ダガの街』にいます。
ここは、西側の隣国、『ヒーバラエウス公国』と『ドワーフ族』の地下国家とを結ぶ要所で、交易の盛んな『街』です。
一口に隣国と言っても、こちらの世界では、『地球』の国々と違い国境線が明確に別れている訳ではなく、所謂『空白地帯』、どちらの『勢力下』かよく分からない曖昧な地帯が存在したりします。
そう言った場所には、あまりよろしくない『組織』がハバを効かせているモノで、フロレンツ候から押収した諸々の『資料』からも、この領地の領主とその『組織』が裏で繋がっていたりする事が分かっています。
『エルフ族解放戦線(自称。僕の脳内でしか使用された事はない)』である僕らも、『人身売買』の『品』として捕らえられている『他種族』を『解放』すべく、とりあえず『コロナエ領』・領主である、レイモン・グラーフ・フォン・コロナエの屋敷に潜入している最中なのでした。
ちなみに、その『組織』・ランツァー一家は、この後に壊滅させる予定です。
こういったケースの場合は、『権力』側から先に(人知れず)潰した方が、『組織』の『逃げ道』や『再興』を防げますからね。
「さて、ここには囚われの『エルフ族』はいないみたいだな。ランツァー一家の方に居るのかね?」
レイモン伯は、フロレンツ候とは違い、あくまで『他種族』を『商品』として見ている感じだな。
フロレンツ候は、その歪んだ性癖と、無駄に高い『自尊心』から、自身の屋敷の『秘密の隠し部屋』に、アルマ達を囲っていたが、本来、違法行為である『他種族』の『奴隷』を自身の屋敷に置いておくなど、慎重な者ならあり得ない愚行だろう。
とは言え、レイモン伯もランツァー一家と手を組んで、私腹を肥やしているので、あくまでも慎重でずる賢いと言う事で、褒めている訳ではないのが・・・。
公に出来ない『機密文書』や『取引』などに関する『資料』や『リスト』を漁りながら、僕はそう意見を述べる。
「その様ですね。ここでは、『資料』だけ頂いて、素早く離脱してしまいましょう。」
「そーだね。」
僕らも、こう言った『潜入活動』を何度も経験しているので手馴れたモノだ。
まぁ、端から見たらただの『泥棒』なんだけどね?
ちなみに、レイモン伯や、他に潜入した『貴族』には、フロレンツ候の様に『隷属の首輪』を使用していない。
僕の手持ちの『隷属の首輪』には数に限りがあるし、そもそも僕は『隷属の首輪』があまり好きじゃない。
『古代魔道文明』の『遺産』の一つとして所持してはいるが、積極的に使用したい類の道具じゃないしねー。
それに、『重要証拠』となる『機密文書』や『取引』に関する『資料』は押さえているので、そう言った意味での『手綱』は、こちらが握っている。
潜入は誰にも気付かれない様行っているので、『機密文書』などをごっそり持って行かれると、相手は戦々恐々とするだろう。
身内の『裏切り』を疑ったり、ライバルの『貴族』からの間諜を疑ったりして、『疑心暗鬼』になるのだ。
そして、その後の関係先の『組織』の壊滅。
『権力』側を後回しにした場合、『組織』などを壊滅させ、首領や幹部、構成員を捕らえた所で、裏から根回しされ、うやむやにされるのがオチなので、先に『権力』側から潰しておくのだ。
そうする事で、『権力』側は手出し出来ない状況になる。
何かしら介入すれば、押収した諸々の『資料』が効果を発揮するだけだからな。
まぁ、僕らの主な『仕事』は『資料』の押収と、『他種族』の『解放』だけなんだけど。
後は、ダールトンさん達や『憲兵』や『騎士団』に丸投げである。
つーか、『この国』の意識改革までは面倒見きれないのが本音だ。
そういう事は、出来る人、やるべき人が成すべき事である。
『ライアド教・ハイドラス派』と事を構える事になったのは、不本意だが、僕にも責任の一旦は有る。
しかし、その『火種』はずっと燻っていた様子だ。
『この国』の一部『貴族』達の『腐敗』は、まぁ良くある話だが、『王家』や他『貴族』達『権力者』側の怠慢だし、そこら辺は割り切る事にしたのだった。
「それじゃ、撤収しますか。」
「はっ!」
「りょーかい。」
あらかたの『資料』を押収した僕らは、退路確保の為、外に待機しているチームと合流すべく、レイモン伯の屋敷を脱出するのだった。
◇◆◇
リーゼロッテ・シュトラウスは、ドニ一家、ドニとその妻・シモーヌのブリュネル夫妻と、二人の子供、兄のアランと、妹のエレオノールと共に、『ドワーフ族の国』を旅立ち、『ロマリア王国』・『ダガの街』を目指していた。
リーゼロッテの本心を言えば、シュトラウス家の『後継者』として、また一人の『鍛冶職人』として『ドワーフ族の国』や『鍛冶師ギルド』から認められる事が『理想』だったが、それが事実上不可能である事も同時に理解していた。
暗澹たる気持ちを抱えたまま、『魔工師』となり、何も出来ないままで一生を過ごすのだろう。
心のどこかで、そう思っていた。
しかし、祖父・アーデルベルトや、父・バルドゥル、そしてその仲間の親方連中は、自分が思っていたより、自分の事を考えてくれていたのだ。
さらに、ドニからこれまで思いもよらなかった提案を受け、彼女は霧が晴れた様な『希望』をそこに見出だしたのだった。
溢れる嬉し涙をそのままに、祖母・デリアや、母・マルゴット、長女・ジルケや次女・カテリーナに抱きしめられながら、自分はこの『道』を行こうと決めた。
それが、数週間前。
その後は、慌ただしく旅立ちの準備に追われていたので、あの感動シーンは何だったの?と笑いながら、これが『現実』なんだと改めて実感した。
ドニとは、実家の工房で何度となく顔を合わせていたし、実際に助言を受けた事は一度や二度ではない。
ドニは、祖父や父が認めたほどの『鍛冶職人』であり、『人間族』である事の不安は元々無かった。
ドニの妻・シモーヌと、二人の子供、アランとエレオノールとは会うのは今回が初めてだったが、やはり職人の妻だけあって、シモーヌはサバサバした気持ちのいい女だった。
すでに、ドニの弟子と言うより、娘の一人としてリーゼロッテを見ている節がある。
二人の子供とも、すぐに打ち解け、末っ子であったリーゼロッテは、弟と妹が出来たみたいに可愛がっている。
アランの方は、男の子ゆえに、少し照れ臭そうにしているが、エレオノールの方は素直にリーゼロッテに懐いていた。
さて、ではなぜドニ一家とリーゼロッテが『ロマリア王国』・『ダガの街』を目指しているのかと言うと、ドニが『冒険者』や『商人』から聞いた噂話が切っ掛けであった。
曰く、二年ほど前、『ロマリア王国』・『トラクス領』・『ルダ村』にて、未曾有の『パンデミック』があり、全滅の危機に瀕した『ルダ村』だったが、そこに一人の若者が『他種族』の仲間達を率いて現れた。
若者は、『伝説』の中でしか語られる事がない様な『大魔法』を使い、数千を越える『モンスター』や『魔獣』の軍勢を壊滅状態に追い込み、『他種族』の仲間と共に『厄災』を見事退けてみせたのだと言う。
無論、これはアキトとその仲間達の話なのだが、方々で噂になるにつれ、尾ひれはひれが付くのは良くある事だ。
もちろん、ドニはこの話を聞いて興味を持った訳ではなく(『鍛冶職人』としては『英雄譚』に惹かれなかった訳ではないが)、その後の『ルダ村』が著しく発展しているとの情報が決め手であった。
その若者に惹かれて集まったのか、『復興』を契機に発展したのかは分からないが、ここで重要なのは、人手が不足している事だろう。
ドニは、元々別の『国』出身だが、『ドワーフ族の国』に修行に出た身なので、いくらドニとリーゼロッテの『腕』が優れていても、ただ単純に『故郷』に帰ったとしても、仕事がない。
『お上』からの依頼は『ドワーフ族』がほぼ独占しているし、農業用や生活用品、『冒険者』などからの依頼は、その『村』や『街』にすでに『鍛冶職人』がいたり、『生産系ギルド』があるので、『客』の取り合いになる。
ぶっちゃけ、ドニとリーゼロッテの『腕』なら、『客』を掻っ攫う事は可能だが、それだと『職人仲間』達からの評判は悪くなってしまう。
何をするにしても、『挨拶回り』や『根回し』をしっかりしておかないと、トラブルになったり、いらぬ横やりが出てしまう。
リーゼロッテの事もあり、悪い評判が広まるのは避けたいドニは、発展途上にある場所なら、そう言った心配が皆無とはいかないが、少なくて済むと考えたのだ。
何より、人手不足ゆえ仕事に困る事はないだろう、と。
実際、ドニと同じ様に、『ルダ村』の噂を聞き付け、仕事を求めて向かう者も少なくなかった。
そうした事もあり、『ロマリア王国』・『ダガの街』を目指す、商人達の隊商に便乗する形でドニ一家とリーゼロッテは『ドワーフ族の国』を旅立ったのだった。
そして現在、ドニ一家とリーゼロッテを含めた隊商は、『ダガの街』近郊の『権力』の『空白地帯』にて、ランツァー一家の襲撃に見舞われていたのだったーーー。
◇◆◇
ランツァー一家の首領・イザッコ・ランツァーは、所謂『小賢しい』タイプの男だった。
『盗賊団』から始まったランツァー一家だが、当然犯罪行為を繰り返していると、『憲兵』や『騎士団』、『冒険者ギルド』の捕縛・討伐対象となる。
大抵のそうした『犯罪組織』は、規模が大きくなり、構成員が増えるにつれて、気が大きくなり、何の対処もせずにいずれ壊滅する(『地球』の法治国家と違い、所謂『法整備』が整ってないのが現状なので、『犯罪者』に対する『人権』は無いに等しい。『裁判』をする事なく現場で処分される事もしばしばある)。
その事を理解していたのか、生来の小物ぶりゆえかは知らないが、イザッコは、レイモン伯に取り入ったのだった。
レイモン伯に『資金提供』する代わりに、自分達の仕事を見逃す様求めたのだ。
イザッコは、『小賢しい』上に、『運』も良かった。
もちろん、事前に下調べをさせていたが、レイモン伯は、所謂『腐敗』しているタイプの『貴族』であった。
レイモン伯は、フロレンツ侯とは違い、『貴族』としてはまぁ無難な執務能力(と言っても優秀な部下達にほぼ助けられているのだが)だったが、『ビジネスマン』としての商才はまるで無かった。
『貴族』が、所謂『副業』を持つのは結構一般的なのだが、中には当然そちらが上手く行かずに、『権力』を悪用した不正行為を働き、身を滅ぼす者もいる。
レイモン伯はまさにそうした『貴族』の典型で、無茶な『副業』に手を出した挙げ句に失敗し、多額の借金を抱えていたのだった。
もはや『横領』などの不正に手を染めるしかないかに思われた時に、イザッコからそうした打診が合ったのだった。
レイモン伯に取っては、願ってもない話で、しかも相手は『盗賊団』なので、切ろうと思えば、いつでも物理的に切れる。
こうして、『秘密』の関係が始まり、現在ではレイモン伯とランツァー一家が裏で繋がっているのは『ダガの街』の者達に取っては『公然の秘密』であった。
関係が続く中で、お互いの『秘密』を握り合い、今現在は切るに切れないズブズブの関係になっていた。
ランツァー一家は『権力』の『空白地帯』を巧みに利用し、隊商の襲撃や、『他種族』を含めた『人身売買』、『違法薬物』や『密輸』などで荒稼ぎし、ついには『ダガの街』の中に本拠地を構える大きな『組織』となった。
その巨額の資金の一部はレイモン伯に流れ、『憲兵』も『騎士団』も『冒険者ギルド』も、うかつには手が出せない状況にまでなっていた。
まさしく、自分達に『敵』はなく、この世の春を謳歌していたレイモン伯とイザッコであったが、栄枯盛衰は世の理。
破滅の足音がすぐそこに迫っている事には、気が付いていなかったーーー。
『ダガの街』の一等地に拠を構えたイザッコは、奥の間で女達を侍らし、気分良く酒を煽っていた。
しかし、突如として、手下達の喧騒が聞こえて来た。
「何だ~?どこの『アホ』が喧嘩売ってきたんだっ!?」
口調とは裏腹に、イザッコは余裕綽々であった。
『犯罪組織』である以上、イザコザは日常茶飯事だからだ。
勘違いした『正義感』の強い若造か、『他組織』の刺客だかが襲撃して来たのだろう。
しかし、ランツァー一家はここら辺一帯を仕切っている『大組織』だ。
腕っぷしの強い手下達に、強力な『用心棒』まで取り揃えている。
数分もしない内に、騒動は収まるだろう。
いつもの様に。
しかし。
その日は違った。
イザッコの考え通り、数分もしない内に喧騒は収まり、ドアが開く気配がした。
「『襲撃者』は始末したか?」
「いや、貴方の目の前にいますけど・・・。」
「お仲間達は皆グッスリ眠ってるよ~!」
「はっ?」
てっきり入ってきたのは手下だと思っていたイザッコは、改めて部屋に入って来た人物を確認する。
そこには、長い黒髪を後ろに束ねた、年の頃10歳ほどの子供の姿があった。
その周囲には、今の今まで気が付かなかったが、フード付きのマントに身を包み、顔を隠した怪しげな人影が数人。
「だ、誰だっお前らっ!お、おいっ、誰かっ!!誰かいないのかっ!?」
「・・・ここにも囚われた人達はいないみたいだね。やっぱり、元・アジトの方かな?」
「その様ですね。」
「強い人いなくてガッカリしちゃった~!私弱い者イジメは嫌いなんだよねぇ~。そっちには強い人いるかな?」
「あまり期待出来ないと思うよ?」
巷では『大物』で通っているイザッコが慌てふためき喚き散らし、アキトとティーネとアイシャは緊張感なく会話を繰り広げていた。
イザッコが侍らしていた女達は、部屋の隅で固まってガクガクと震えている。
なおも喚くイザッコに、アキトはうんざりとした様子で、一応声を掛ける。
「あの~、イザッコさん?そんなに喚いても誰も来ませんよ?皆さん眠っていますから。」
「はっ!?な、何を言ってやがるっ!い、命知らずの子供と怪しい野郎共がっ!だ、誰に手を出したか分かってんのかっ!?」
「う~ん、この手の人達は、『危機感』と『判断力』がいまいち鈍いなぁ。あのね、イザッコさん。時は常に流れているのですよ?貴方は、今まで『勝者』だったかもしれませんが、今この時点を持って『敗者』となったのです。その事をご理解下さい。あ、後、レイモン伯に期待しても無駄ですよ?彼も、自身の身が危ういので、貴方に構っている余裕などないですからね。」
「な、何を言って・・・。」
「まぁ、別に無理に理解してもらわなくても良いのですが・・・。『終わり』ってのは、本当に突然来ますしね~。」
一瞬遠い目をしたアキトだったが、すぐに行動を再開する。
イザッコは、今の今まで距離を置いて対峙していたアキトが、自身の懐でそう呟くのを認識した。
それが、イザッコが気を失う前に最後に見た光景だった。
「裁きはしっかり受けて下さいね。まぁ、間違いなく『死罪』だとは思いますが・・・。」
何の痛みも衝撃もなく、意識が遠のいて行くのをイザッコは感じた。
ー・・・『死神』がいるとしたら、こんな奴なのかもしれない。ー
事ここに来て、ようやくイザッコはその事を理解したのだった。
「さて、それじゃあジークはこの人とレイモン伯の『資料』の一部と、ランツァー一家の『資料』の一部を『騎士団』の所に投げ込んで来てくれ。それで、『騎士団』も動けるだろう。僕らは元・アジトの方に向かうからね。」
「はっ!」
「主様。この者達はどうされますか?」
「う~ん。ここにいる以上関係者だろうから、見逃す訳にもいかないなぁ。とりあえず、眠らせておこうか。取り調べは『憲兵』や『騎士団』がするでしょ。」
「はっ!」
ティーネがそう了承すると、次の瞬間には部屋の隅で震えていた女達が気を失って倒れ込んでいた。
いやぁ~、『素早さ』に磨きが掛かってきたなぁ。
恐ろしく速い手刀。
オレじゃなきゃ見逃しちゃうねっ!
・・・冗談はともかく。
やはり女性相手は僕もやりにくいから、ティーネの存在はありがたい。
アイシャさんは『鬼人族』の特性なのか、『強者』との戦闘は嬉々として行うのだが、弱い者イジメを嫌う傾向にあるし、メルヒとイーナは、現在アルマ達やその後『解放』した『エルフ族』達を『エルギア列島』に護送中だしね。
メルヒとイーナの実力は、現在はS級冒険者に匹敵するし、アルマ達もリハビリを経て、かなり強くなったので戦力的には問題ない。
心身共に(アルメリア様のおかげで)回復し、僕らやクロとヤミの影響か、鍛錬を開始したのだった。
しかし、『シュプール』も、『解放』した『エルフ族』で溢れかえってきたので、ここらで一旦『エルギア列島』に送る方が良いと判断したのだった。
アルマ達は、『シュプール』に残ると主張したのだが、強くなったとは言え、ティーネ達の『レベル』にはまだ程遠い。
僕はその現場に立ち合っていないのでよく知らないが、女性陣の説得の末、『エルギア行き』を了承したそうだ。
ゆえに今現在、対女性相手は、もっぱらティーネ頼りである。
まぁ、必要とあらば、僕らも普通に対処する事はするのだが・・・。
「いやぁ~、ティーネがいてくれてホント助かるよっ。」
「い、いえそんな。も、勿体無いお言葉・・・。」
先程までの凛とした表情から一転して、モシモジと顔を赤らめるティーネ。
はい、カワイイ。
う~む、これがギャップ萌えか。
「では、主様。私は行動を開始します。」
「ああ、ジーク。頼むよ。」
「はっ!」
荷物を担いでジークは重さを一切感じさせない身のこなしであっという間に消え去った。
もはや慣れたけど、やっぱりとんでもないよなぁ、この世界の『ステイタス』由来の身体能力ってのは。
『地球』ではありえない事が実現可能だからな。
まぁ、それはそれとして。
僕らは、ランツァー一家の元・アジト、隊商襲撃などをしていた『盗賊団』時代の『ダガの街』郊外の方に向かう事にしよう。
『人身売買』や『違法薬物』・『密輸』に関するモノは、おいそれと街中に持ち込めない。
そうしたモノがあるとしたら、そちらの方にあるだろう。
「じゃあ、僕らも元・アジトの方に向かおうか。」
「うんっ!」
「「「はっ!」」」
こうして、僕らはランツァー一家の本拠地を呆気なく壊滅させ、『ダガの街』郊外の元・アジトの方に向かった。
そこで、初めて『ドワーフ族』のリーゼロッテさんと邂逅したのだったーーー。
誤字・脱字がありましたら、ご指摘頂けると幸いです。
今後の参考の為にも、よろしければ、ブクマ登録、評価、感想等頂けると幸いです。よろしくお願い致します。




