唆す者 1
続きです。
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他者に物事を正しく伝えるのは、実は非常に難しい事なのである。
何故ならば、受け取る側にも当然ながら独自の考え方・捉え方があるからである。
それ故に、その受け取り方は千差万別なのである。
実際、宗教の教えから文学作品に至るまで、その受け取り方、解釈は人それぞれである。
そしてそれ故に、様々な軋轢を生む事もまたしばしばある事なのであるがーーー。
・・・
あくまでソラテスらとラテス族(ソラテスらが地上に降り立った際の拠点周辺に住み着く様になった人々)の出会いはただの偶然に過ぎす、別にそこに大した意味はなかったのである。
以前にも言及した通り、ソラテスらは“魔素”の研究と克服の為にこの地に降り立っただけであり、そしてラテス族は、そんな彼らに惹かれる様に、本来ならば不毛の大地(ソラテスらは外敵への対策と生態系への影響を最小限に留める為、わざわざその当時砂漠であった場所に降り立っている)であるこの地に、わざわざやって来たのである。
理由は色々と推察出来るが、セルース人類がやって来る以前は、この惑星の生態系のトップに君臨していたのは“魔獣”や“モンスター”であったから、それらの脅威から避難する目的だったのかもしれない。
そんな訳で、あくまで偶然の出会いであったのだが、ここに、“魔素”というファクターがあった事で、両者の関係を進展させる事となった。
すでに語った通り、ラテス族は独自の“魔素”の利用方法を持っており、当時“魔素”の研究に没頭していたソラテスらからしたら、彼らの持つ技術は何としても獲得しておきたいものであった。
それ故に、両者は友好関係を結ぶ事となり、ソラテスらは“魔素”に関する知識などを、ラテス族はその見返りに、(セルース人類にとっては)初歩的ではあったが、農業や建築などの知識や技術を与えられたのであった。
当たり前だが、何かを得る為には何かを支払う必要がある訳で、そもそも“魔素”という未知の物質(?)を学ぶ上では、奪い取る、という選択肢がなかった以上、この取引は当然の帰結と言えるだろう。
ただ、ここで両者には、ある種の食い違い、認識の齟齬が発生する事となった。
セルース人類からしたら、“魔素”を学ぶ事は非常に意義のある事である。
少なくともこの惑星に問題なく入植、適応する為には、“魔素酔い”と呼ばれる症状、“魔素”によって引き起こされる様々な悪影響を克服する必要があったからである。
それ故に、“魔素”という物質(?)を詳しく理解する必要があった。
そしてその為には、独自に研究するよりも、すでにある程度“魔素”を利用していた、つまりある程度は理解していたであろうアクエラ人類から学ぶのがもっとも手っ取り早く、そして、その為の見返りとして(本来ならば金銭のやり取りなどになるであろうが、この惑星におけるそうしたルールを知らなかったので)、自分達の持つ技術を教える事としたに過ぎないのである。
もちろん、当初からソラテスらもこの惑星の管理(支配)を企んでいた訳ではないのだが、急速な技術革新がアクエラ人類にもたらす悪影響、あるいは自らの優位性を確保しておく必要もあったので(場合によっては、自らが教えた技術によってアクエラ人類がセルース人類に牙を剥くかもしれないからである)、あくまで(セルース人類にとっては)初歩的な技術に留めた訳であるが。
しかし一方のラテス族(アクエラ人類)からしたら、当然彼らの文明レベルでは、まさかセルース人類が他の惑星からやって来た異星人である、などとは理解が及ぶ筈もないので、平たく言えば自分達の恩恵の方が大きい訳である。
この惑星に住む生命にとっては、(それを知っているかどうかはともかく)“魔素”と共に生きる事は普通の事であるから、まさかセルース人類にとって、“魔素”を学ぶ事が死活問題であるほど重要な事とは想像もつかなかったのである。
彼らの視点から言えば、とてつもなく高い技術力を持つ者達が突如現れ、見た事もない様な建造物を短期間で作り上げ、それに惹かれてやって来た自分達を拒否する事もなくむしろ友好的に接し、しかもその技術を惜しみなく与えてくれた訳である。
更には、セルース人類は彼らの持つ“魔素”の技術を知りたがったが、まさかこれが交換条件とは思わず、後により洗練された『魔法技術』・『魔法科学』として昇華した事によって、自分達が持っていた“魔素”の技術を修正、改良する為だったのだ、と理解(誤解)した訳である。
彼らからしたら、何の見返りを求めない、それどころか、自分達を導いてくれるかの様な高潔であり、高い知性と穏やかな心の持ち主である、と映る訳である。
これは、信仰の対象となったとしても不思議な話ではないだろう。
もちろん、後の“神話大戦”によって、その認識に若干のズレは発生したが、むしろその荒々しい様と力は彼らの想像を軽く超えるものであり、結果その事によって、セルース人類に対して、まるで“神”に向ける様な、畏怖と畏敬の念を抱くに至った訳である。
そうした意味では、ハイドラスの見立てはある種正解であった。
が、やはり自身がアクエラ人でなかった事によって、この両者の認識のズレを真には理解出来ていなかったのである。
そして、こうした経緯の後に、セルース人類はアクエラ人類との関係性などをリセット、仕切り直す意味合いで、一時的にこの惑星を去る事を決定した。
もちろん、伝承等に残ってしまう可能性はあるものの、今のまま入植をしても、歪な関係のまま、つまりセルース人類が上で、アクエラ人類が下、という構図になってしまう事を懸念しての事だった。
これは、最悪、自らが否定したこの惑星の管理(支配)に至ってしまうかもしれないからである。
その点、時が経てば、アクエラ人類の認識も薄れさせる事が出来るだろうし、そもそも次に姿を現した時に、自分達をセルース人類である、とは認識出来ないだろう。
そしてセルース人類には、“コールドスリープ”という、問題なく長い期間を過ごせる装置があったので、色々と紆余曲折はあったものの、最終的にはハイドラスの提案に賛同した訳であったーーー。
さて、問題なのは、残されたアクエラ人類、ラテス族らである。
当然ながら、彼らはセルース人類の都合などは全く知らない。
彼らの視点から言えば、自分達に彼らの持つ技術や、彼らが改良した『魔法技術』が継承され、なおかつ、彼らが産み出した子供達、『新人類』が自分達に託される事となった訳だ。
半ば信仰し、しかも“神話大戦”の折に、その恐ろしい力の片鱗を見せていた者達からのこれを、彼らは重く受け止めていた訳である。
つまり、“自分達は神々から重要な使命を授かったのだ”と認識したのである。
まぁ、端から見た分には面倒事を押し付けられたに等しい訳であるが、しかし彼らはそれを嬉々として受け入れ、それどころか、“我々は神々から選ばれた民族なのだ”という誤解すら生む様になっていたのであった。
まぁ、偶然から始まったに過ぎないが、結果としてセルース人類の(一部)技術や『魔法技術』の教えを受け、彼らの大切なもの(『新人類』達)を託された方としては、そう受け取ったとしても不思議な話ではないのである。
しかしその結果、ラテス族は所謂“選民思想”を持つに至り、そしてこの地上から去った神々=セルース人類に成り代わり、この地を平定、支配する使命がある、と徐々に解釈する様になっていった訳なのであった。
さて、そうなるとたまったもんではないのが、他の部族の者達(アクエラ人)である。
ラテス族とセルース人類の関係性を知ってはいても、流石に自らに従え、などと言われても、反発するのが人の心というものであろう。
しかも、他の部族の者達(アクエラ人)にとっても畏怖と畏敬の念を抱く存在であるセルース人類が不在となっている状況では、いくらセルース人類から目をかけられていた(誤解)とは言えど、同じアクエラ人に従う道理はない。
しかも、ラテス族以外の部族はいまだに魔獣やモンスターの脅威に怯えて暮らしているし、もちろん、独自の魔法技術や農耕などは始まっていたが、それでも彼ら(=セルース人類)ほど洗練されたものではなかった。
つまり、神の寵愛を受けた(誤解)ラテス族に対するある種の嫉妬もあるし、彼らが神々から受け継いだ技術も、他の部族の者達からしたら自分達の安全性や生活を豊かにする上でも喉から手が出るほど欲しいものであった訳である。
これほどの条件が重なってしまえば、争いが起きない筈もない。
もっとも、だからと言って、すぐには大きな争いには発展しなかった。
他の部族の者達も、やはりセルース人類に対する畏怖があるからである。
ラテス族以上にセルース人類の動向を把握出来ていなかったそれらの者達からしたら、下手にラテス族にケンカを売ろうものなら、そのバックにいる(誤解)セルース人類が出張ってきたしまう可能性が高い訳である。
仮にセルース人類にやり合おうものなら、自分達が消し炭になる事は目に見えている。
故に、長らく仮初の平和が続いたのであった。
そして、時は流れ、ラテス族がセルース人類より預かっていた『新人類』、異種族・他種族が立派に成長した頃、とある変化が訪れたのであった。
そう、長らく鳴りを潜めていた他の部族達が、ラテス族に対して攻撃を仕掛けてきたのである。
その裏には、“混沌の神”であるヴァニタスの暗躍があったのであるがーーー。
・・・
「ようやく始まったねぇ〜。思えば、結構な年月が経ってしまったなぁ〜・・・。」
歳の頃、十二、三歳の東洋風の顔立ちをした黒髪の少年は、眼前に広がる戦火を前に感慨深げにそんな事を呟いていたーーー。
以前にも言及した通り、“神話大戦”の後に意図せずして生まれたヴァニタスであったが、彼が暗躍を始めたのは、実際にはかなりの年月が経過してからであった。
そもそもの話として、当初の彼は所謂“概念的存在”でしかないので、現世に直接介入する事は不可能だったのである。
もちろん、所謂“神託”を下す事で、間接的に介入する事は可能だったのだが、しかしここで、下手に“神託”という手段を用いると、少々面倒な事が起こる可能性があった。
セルース人類がこの惑星に現れる以前は、アクエラ人類の文明レベルはかなりの初期段階でしかなかった。
故に、もちろん、各部族に所謂“神様”的な信仰の対象はあったかもしれないが、本格的な宗教的概念が始まったのは、セルース人類が現れての事なのである。
つまり、神様=セルース人類、という構図が成り立っている以上、所謂“神託”を下したところで、それはセルース人類からの言葉となってしまう可能性があったのである。
そうなると、当然ながら色々と矛盾が生じてしまう。
セルース人類(特にハイドラスら)にはそのつもりはなかったが、ラテス族が彼らから目をかけられ、技術どころか、自分達の子供達(『新人類』達)を託されたほど信頼されていた事は、少なくともアクエラ人には周知の事実であるからである。
そんなラテス族に、“彼らを攻撃せよ”との“神託”が下れば、“自分達で庇護していた部族に対して、何故?”という疑問が生じてしまう。
もちろん、神々のやる事にいちいち理由や理屈はないのかもしれないが。
まぁ、それでも、ラテス族に対するある種の嫉妬を持っていた他の部族からしたら、それは体の良い口実にはなったかもしれないが、しかし、ここで一番の難題が立ちはだかってしまう。
客観的な事実としては、セルース人類から技術や『魔法技術』を学んだラテス族は、当然ながら他の部族とは一線を画した文明力を持つに至っている。
それは、当然ながら軍事力にも利用が可能であるから、マトモにやり合っても勝ち目は薄いのである。
他の部族も、もちろんただ単純に犬死にするつもりはない訳で、それだと上手く行かない可能性もあるのである。
当たり前だが、人を動かす為には利、つまり旨味がなければならないのである。
そして、生まれたてのヴァニタスには、それらを含めた権謀術数がまだ未成熟であったのである。
それらを学ぶ為、彼には時間が必要だったのだ。
まぁ、その結果として、膨れ上がった嫉妬心という負の感情によって、彼はこの世界に顕在化(実体化)するに至ったので、ある意味では結果オーライなのであるが。
こうして、様々な事を学んだヴァニタスは、いよいよ本格的にこの世界に混乱をもたらす為に動き始めたのである。
□■□
「やあやあ、こんにちは。」
「・・・。」
にこやかに接するヴァニタスと、訝しげな表情を浮かべる老齢の男性とその取り巻き。
まぁ、ヴァニタスは見た目少年であるから、それも致し方ない事であろう。
彼らは今、とある事柄を協議する為に集まっていた。
「さてさて、話は大体伝わってるかもしれないけど」
「あ、いや、その前に一つ。お主が“神の末裔”というのは、その、本当の事、なのだろうな?」
「なぁにぃ〜?ボクを疑ってるのぉ〜?」
「い、いや、そうではないが・・・。」
ヴァニタスが話し始めたタイミングで、その話の腰を折る様に老齢の男性はそう質問する。
それに、剣呑な雰囲気を漂わせながら、ヴァニタスがそう返した。
もちろん、ヴァニタスが“神の末裔”、つまり地上から姿を消したセルース人類の末裔である、などという事実はない。
そもそも彼は、ある意味ではアクエラ人類が生んだ“神”だからである。
ただ、その出自、つまり“神性の存在”である事は嘘ではない。
そして、ハイドラスらにその意識はまだなかったが、彼らも“神性の存在”に至っているのは事実であるし、少なくともアクエラ人類の認識としては、彼らセルース人類が、所謂“神”に等しい存在である事もまた事実である。
故に、事情を知らなければ、ヴァニタスがそう騙ったとしても、それを看破する材料がないのである。
もちろん、“私は神です”と言ったところで、それを簡単に信じてしまう様では、それはそれで問題がある。
故にこの老齢の男性の反応は、ある意味では至極真っ当な反応と言えるだろう。
「なんてね。ウソウソ。そんな事突然言われても、とても信じられないよねぇ〜?分かる分かる。」
「そ、そうそう。」
ヴァニタスもそれは分かっているので、すぐに剣呑な雰囲気を四散させ、その意見に同意を示した。
それにホッした表情で、老齢の男性もコクコクと頷く。
「じゃあ、まずはその証拠を見せよう。って言っても、何か証明書を持ってる訳じゃないけど、まぁ、すぐに分かるでしょ。」
「は、はぁ・・・。」
どこまでもマイペースなヴァニタスに、すでに老齢の男性達はペースを狂わされていたのであったーーー。
ここで、改めてセルース人類とアクエラ人類の容姿について触れておこう。
まず、初めに、両者には外見的な違いはほとんど存在しなかった。
もちろん、肌の違いや個々の違いは存在するものの、例えば『新人類』ほどの、明確な違いは存在しなかったのであった。
(例えば『新人類』の1種族であるエルフ族は、外見的に長くやや尖った“耳”という特徴がある。
また、ドワーフ族は全体的に小柄で浅黒い肌をしているのが特徴だし、鬼人族は“角”、獣人族は“ケモ耳”や“尻尾”といった分かりやすい特徴があるが、セルース人類とアクエラ人類にはそうした違いが存在しなかったのである。)
これはただの偶然なのか、はたまたヒューマノイドの進化としては、こういう風に近しい形質を持つのか、それとも、“アドウェナ・アウィス”による介入があったのかは定かではないが、つまりは両者を見た目で見分ける事はかなり困難な事なのである。
もちろん、その“中身”は全く別物だ。
再三語っている通り、今はある程度克服しているとは言えど、セルース人類は“魔素”によって“魔素酔い”という症状を発症してしまう事があるからである。
一方、当然ながらこの惑星で生まれ育ったアクエラ人類は、元々“魔素”と共に生きている訳だから、そうした事が起こる事はないのである。
まぁこれも、言ってしまえば見た目では分からない事なので、ここでは割愛しておこう。(逆に言えば、それほどお互いが似通っているからこそ、正体を隠して入植する、という方法が成り立つ訳でもある。)
では、それほど類似した容姿を持つ両者が、お互いをどの様にして区別していたかと言うと、それは着ているものによって、であった。
セルース人類は宇宙にすら進出するほどの文明力、科学力を持っているし、それに伴い、服飾についても非常に洗練されていた。
少なくとも、この惑星に降り立った当初は、所謂“宇宙服”を身にまとっていたし、“魔素”をある程度克服してからは、彼らにとっての普通の服を身にまとっていた。
一方のアクエラ人類は、所謂“初期文明”に該当する状態であるから、かなり原始的な格好をしている。
もちろん、民族的な装飾品などで身を飾っているので、ある意味ではオシャレでもあるのだが、加工技術で言えばまだ未成熟なのである。
つまり、容姿などでは区別は付けづらいのであるが、その身につけている衣服によって、両者はお互いを区別していたのである。
では、ヴァニタスはどうかと言うと、確かにアクエラ人類とは違い、東洋風の衣服を身にまとっているが、しかし明らかにセルース人類が身につけていた衣服とは異なるのである。
そうなれば、アクエラ人類がヴァニタスを“神の末裔”、すなわち、セルース人類に連なる者である、という事を、パッと見では認識出来ないのは無理からぬ事なのである。
ではどうやって、その証を立てるのかと言えばーーー。
「じゃあ見ててねぇ〜。今から雷を落とすから。」
「は、はぁ・・・。」
そう、彼が示した方法は、もう一つのセルース人類の特徴である、“力”を示す方法であった。
先の“神話大戦”の能力者と超越者の激突から、アクエラ人類はセルース人類全員が超常的な力を持っていると誤解しており、その誤解をヴァニタスは利用しようとしていたのであった。
もちろん、現代でアキトもやっていた様に、ある程度は『魔法技術』でも自然現象の再現をする事は可能であるから、すなわち超常的な力を持っている事がセルース人類に連なる者達である証とはなり得ないのであるが、この時点での『魔法技術』は、あくまでテクロノジー方面に特化していたので、能力と『魔法技術』を区別する事は不可能である。
まぁもちろん、神性の存在であるヴァニタスは、『魔法技術』など用いなくとも超常的な力を再現する事は可能であったが。
半信半疑ながらも、自信満々のヴァニタスの様子に彼を見守っていた老齢の男性達は、すぐに変化を感じていた。
「おおっ・・・!」
「そ、空がっ・・・!」
ヴァニタスが手を振ると、先程まで晴天だった空に、突如として厚い雲がかかり始める。
そして、ゴロゴロとした音と共に、光が見え隠れしていた。
「あの木とか分かりやすいかな?じゃ、あの木に雷落とすねぇ〜。えいっ!!」
ズガアァァァァーーーンッ!!!
「「「「「っ!!!」」」」」
軽い調子でヴァニタスが言ったかと思うと、ここから見えていた小高い山の頂上ら辺にあった、少し背の高い木に稲光が炸裂した。
耳をつんざく様な轟音と共に、激しい発光現象が発生し、その木は炎上し始める。
客観的に見ればこれも偶然と見る事も出来たかもしれないが(例えば、向こうの世界の現代の気象予報では、かなり正確に気象の予報が可能である。それを知っていれば、急に黒い雲がかかり始める事もあるし、それを予測する事も可能だ。まぁ、その積乱雲から雷が発生し、それが特定の対象に落ちる事までは流石に予測出来ないだろうが)、一連の流れから見れば、これがヴァニタスがやった事である、というのは疑い様がなかった。
「あぁ〜、けど、あれじゃ山火事になっちゃうかなぁ〜?鎮火させておこっと。」
続くヴァニタスの言葉に、ポツポツと雨が降ってくる。
いつの間にか雷は鳴りを潜めて、件の木が鎮火すると、すぐに雲は去っていった。
この光景を目の当たりにした老齢の男性達は、その場で頭を垂れる。
「ん・・・?」
「疑って申し訳ありませんでした。ぜひ、お話をお聞かせ下され。」
「いいよぉ〜。まあまあ、頭を上げてよ。」
他者に物事を正しく伝えるのは、実は非常に難しい事なのである。
何故ならば、受け取る側にも当然ながら独自の考え方・捉え方があるからである。
しかし逆にこれを利用すれば、相手が勝手に勘違いする事もある訳だ。
真実を伝える事が目的ではないヴァニタスからしたら、こうした人間の心理は、実は非常に都合の良い事でもあったーーー。
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