影響
新年、明けましておめでとうございます。
本年も、どうぞよろしくお願いいたします。
あいかわらずゆる〜く続けていく所存ですので、引き続きゆる〜くお付き合い頂ければと思います。
さて、本作は、今回から過去編の第二章に突入します。
今回は導入部なので、多少短めです。
〜〜〜
なるほど・・・。
それが今日では語られる事のない、原初の“神話”、なのですね?
〈そうだ。〉
〈見事超越者達をくだした能力者達は、こうしてこの惑星の覇権を手に入れたのですよ。〉
ふむ・・・。
しかし、見ている限り、セレウス様とハイドラスの関係は良好の様に思えます。
方や、英雄と呼ばれるほどの能力者。
方や、叡智を備えた能力者。
非常にバランスも良いですし、ここから彼ら二人が仲違いする事は中々想像しづらいのですが・・・。
〈もちろん、そうなったのにも理由がある。ここまで語ってきた事は、むしろ前振りでしかないからな。〉
〈本題はここからです。セルース人類同士の争いに終止符が打たれ、“神話”と“歴史”が交錯する時、現代まで続く因縁が始まったのですよ・・・。〉
・・・。
◇◆◇
“魔素”の理解度で上回り、見事に科学者サイドをくだしたハイドラスらであったが、しかし、まだまだ“魔素”の深淵はこんなものではなかった。
あくまで“現象を引き起こす物質”として捉えていたソラテス。
あくまで“情報の伝達を媒介するもの”と捉えていたハイドラス。
しかし、“魔素”には、もっととんでもない可能性が眠っていたのである。
ここで、アーロスら『異世界人』達の存在を思い出して欲しい。
以前にも言及した通り、今現在の彼らは、あくまで“元の肉体”とは別の“仮の肉体”としてこの世界に存在している。
もっとも、その“魂”は元々向こうの世界に実在したものであるから、姿形は違えど、彼らがある意味で同一の自己を備えた存在である事は否定出来ない事実である。
まぁ、ここで重要なのは、彼らが“魂”だけとは言えど、時空間を超えてきた事ではない。
むしろ、その“仮の肉体”の存在の方である。
当たり前だが、彼らの“仮の肉体”は、あくまで電脳世界に存在したデータに過ぎない。
つまり、現実世界に存在したものではないのである。
ところが、この世界に喚び出させるに当たって、彼らの“仮の肉体”は、実際に存在する“物資”として顕現される事となった。
これを引き起こしたのも“魔素”である。
“失われし神器”の術式があったと言えど、元々存在しなかった“肉体”を、無から生み出したのである。
つまり、あくまで“現象を引き起こす物質”というだけでは説明がつかず、かと言って“情報の伝達を媒介するもの”というだけでも説明がつかない“魔素”は、常識では考えられない事すら可能にするものなのである。
もちろん、『異世界人』達や、『召喚者の軍勢』によって喚び出された存在は、元となるデータが存在している。
しかし、仮に“概念的存在”だったとしても、無から存在を顕現出来る“魔素”の要素があれば、もしかしたら生み出してしまう事すら可能なのではないだろうか?
例えば、“神”とかであるーーー。
・・・
セルース人類同士の争いは、時間にして1日足らずのものに過ぎなかったが、それでもアクエラ人類に強烈な印象を残すに至っていた。
まぁ、彼らからすれば、自然災害規模の力を振るう能力者達と超越者達は、まさしく神の如き存在であるから、それも当然と言えば当然なのだが。
これまでも様々な点で自分達では考えられない様な奇跡を生み出してきたセルース人類に対して、アクエラ人類は、ある種信仰に近い感情を持っていたのであるが、あくまで優れた種族として、つまりは“人”として認識していたのである。
(まぁ、この時点でのアクエラ人類に、別の銀河からやって来た宇宙人であると理解出来る筈もないからである。)
しかし、“神話大戦”を経て、アクエラ人類は、セルース人類を同じ“人”としてではなく、完全に“神”と認識する様になっていったのである。
それ故に、セルース人類を題材とした神話体系が形成されていった。
しかし同時に、セルース人類に対する恐怖心も芽生えていったのである。
先程も述べた通り、その神の如き力が自分達に振るわれたらひとたまりもないからである。
こうして、おおよそ地球人類が所謂“神様”に対して抱く様な、尊敬と畏怖をアクエラ人類はセルース人類に対して抱く様になっていた。
そして、この恐るべき“神の種族”に対抗出来る、アクエラ人類側の“神”を夢想する様にもなっていたのである。
その結果、期せずして生み出されたのが、混沌を司る神・ヴァニタスだったのである。
“魔素”は、意図的に使おうとすると、それをコントロールする術、すなわち、具体的な術式が必要となる。
例えば、ソラテスが発見した“呪紋”は、身体に直接刻み込んだ“刺青”がその術式の役割を担っており、これによって、脅威的な身体能力を発揮する事が可能である。
ソラテスらは、これを詳しく解析・分析し、更には既存の科学技術と組み合わせて、独自の技術体系である『魔法技術』・『魔法科学』を築いていったのであった。
しかしその一方で、“魔獣”や“モンスター”達も、この“魔素”の影響によってその独自の生態を持つに至っている。
ここで重要なのは、(中にはある程度の知能を有する種も存在するが)人類とは違い、“魔素”を意図的に扱う術を持たない者達も、別方向から“魔素”を利用していたかもしれない、という事実である。
つまり要約すると、“魔素”を操る上で、必ずしも術式が必要ではない、という事である。
もちろん、先程も述べた通り、“魔素”を上手く活用するには、その方向性を決める術式が必要となるが、もっと大雑把な“願い”、例えば、“他の種族よりも強くありたい”、“生存競争で優位に立ちたい”という、ある種の動物としての本能に近いものにすら、“魔素”は応える可能性があるのである。
その結果、“魔獣”や“モンスター”が生まれたと考えれば、これは不自然な流れではないであろう。
そして、だとしたら、“魔素”を操る術のない部族、あるいは“魔素”を初期段階でしか操る術のないアクエラ人類であったとしても、その“願い”が一つの“像”を形作る事があるかもしれないのである。
ただし、当然ながら様々な人々の“願い”がブレンドされてしまうと、それは非常に混沌な事となる事は目に見えている事でもある。
何故ならば、人々の考え方は一つではないからである。
故に、ヴァニタスが混沌を司る神として、必ずしもアクエラ人類の味方としてではない性質を備える事となったのである。
いや、あるいは、彼が生み出されたのはアクエラ人類とは別の、“誰か”の意思だったのかもしれないがーーー。
◇◆◇
ー人々の“集合的無意識”からボクは生まれた。
おそらく、アクエラ人類が初めて生み出した、オリジナルの“神”がボクだろう。
しかし、その“願い”はてんでバラバラであり、ボクの“役割”が何であるのか、それはボク自身も分かっていなかったのである。
・・・いや、むしろ、世の中に“混沌”を生み出す事自体が、ボクの役割か?
望まぬ“秩序”。
誰かが支配する世界。
そうしたものを否定する為に、ボクが存在するのかもしれない。
・・・ならば、その“願い”通り、ボクはやってみる事とした。
手始めに、アクエラ人類同士を争わせてみよう。
何、つい最近まで、大きな戦争があったばかりだ。
これを利用すれば、比較的簡単に戦乱を拡大する事は可能だろう。
・・・さて、何から手を付けるかな?
何だか、非常に“愉しみ”になってきたな。ー
◇◆◇
「ソラテス・ウィンザー、並びに彼に賛同した者達を、“幽閉”とする。」
“神話大戦”が終結し、その事後処理を経て、本日、そんな宣言がくだされたのであった。
マギの洗脳があったとは言え、ソラテスらがこの惑星の管理(支配)を目論んだ事は否定出来ない事実である。
もちろん、ソラテスらの側にも言い分はあるだろうし、必ずしも彼らの考えや行いが悪い、とも言い難いのであるが、しかし一方で、彼らのある種独善的な正義の為に、アクエラ人類の自由を奪おうとした事もまた事実だ。
これに異論を唱えたのが“能力者”達であり、両陣営は結果争う事となった。
そして、その結果として、“能力者”側が勝利を収める事となったのである。
となれば、彼らの処遇を決める権利は、当然ながら勝利者である“能力者”側が握る事となる訳だ。
とは言えど、流石に同胞である彼らを、処刑するのはあまりに忍びない。
今や、この広い宇宙に散り散りになってしまっているので、現存するセルース人類は、ある種彼らだけなのだから。
それに、“能力者”達も一時的に“幽閉”で済まされていた以上、いくら戦争の勝者とは言えど、容赦なく処刑しては、“能力者”側の中にもそうした判断に異議を唱える者が現れるかもしれない。
つまり、再び不和が生じてしまう恐れもあった。
だがしかし、流石にお咎めなしという訳にもいかない。
そこで、特に中心的な役割を担ったソラテス、そして彼に近しい者達だけを“幽閉”する事で、多少グレーではあるが、所謂“落としどころ”としたのであった。
「・・・いいのかよ、ハイドラス?流石にちょっと優し過ぎんじゃねぇ〜の?」
納得出来ない、という態度でそれを聞いていたセレウスは、やはり渋い顔をしていたハイドラスに問い掛けた。
「・・・お前の言う事も分かるが、これは皆の総意だ。ここで私らがごねたところで、新たなる争いの火種を与える事にもなりかねないのだよ。」
「・・・面倒なこった。」
軍属に近しい、特にセレウスなどは、その程度の処罰で済ませようとした事に納得していなかった。
特に規律を重んじる組織に身を置く者としては、組織の足並みを乱す者はハッキリと“悪”なのである。
何故ならば、彼らの行動の結果、部隊全体がピンチに陥ってしまう恐れもあるからである。
故に、ソラテスらの処遇については、もっと重い処罰を与えるべきだとの考え方があったのである。
ハイドラスとて、その考えを理解していた。
しかし同時に彼は、ここでごねたところで、全く無意味、どころか、あらぬ疑いすら持たれると懸念していたのである。
“神話大戦”の英雄は、間違いなくセレウスでありハイドラスであり、そしてハイドラスが率いた若手“能力者”達であった。
しかし、そんなある種影響力の高まった彼らが強い主張をしてしまうと、主導権を取ろうとしている、引いては、セルース人類の実権を握ろうとしている、と思われかねないのである。
セレウスとハイドラスの立場は、やはり軍人に近しい事もあって、所謂“軍事政権”が誕生する事を懸念する者達は当然存在する。
彼らにそのつもりはなくとも、ここで口を挟んでは、そう捉えられかねないのである。
故に、彼らは沈黙を貫いた。
ソラテスらの処遇を決めるのを、他の者達に任せたのである。
それに・・・、
「それに、これはある種正解に近い判断でもある。」
「と、言うと?」
「この手の話というのは、無闇に処刑してしまうと、返って危険な事もあるんだ。」
「???」
訳の分からない事を言い出したハイドラスに、セレウスは怪訝な表情を浮かべる。
「ソラテス・ウィンザーの行動は、まず間違いなく誤った判断だったと断じる事が出来る。少なくとも私達は神ではないのだから、どれだけ技術力に優れていたとしても、この惑星を維持・管理する事は実質的には不可能だからな。仮に人工知能がいたとしても、それは変わらない話だ。仮に、遠い未来、何かのキッカケで歯車が狂ってしまったら、それが“破滅”へと歩を進めないとも限らないからな。」
「ま、そりゃそーだ。世の中には絶対はありえないからなー。」
「しかし一方で、そのカリスマ性は本物であり、数多くのセルース人、並びにアクエラ人達を惹きつけた魅力は否定しがたい事実だ。」
「・・・確かにな。」
「お前も知ってるとは思うが、所謂大罪人、犯罪者の中にも、一般大衆から支持を集めてしまう者達もいる。それこそただの犯罪者が、後に神格化されるケースには枚挙に暇がないだろう。」
「・・・。」
歴史的人物を語る上でもっとも重要なのは、その人物の“人格”などではなく、その人物が何を成そうとしたのか、の方である。
故に、所謂“偉人”や“英雄”と呼ばれる者達の中には、それこそ大罪人や犯罪者なんかも存在するのである。
世間一般的に“良い人”かどうかは関係ないのである。
そしてそのもっとも恐ろしいところは、伝説となり、やがて神話となってしまう点だ。
仮にここでソラテスが、所謂“非業の最期”を遂げる事でもあれば、その物語性もあって、彼を神聖視する者達が現れないとも限らないのである。
そして、彼の意思を(勝手に)受け継いで、別の事件へと発展していくケースもあるかもしれないのである。
「それに、ネモによると彼も人工“進化”を果たしている超越者の一人であるから、下手に信仰を集めてしまうと、“本物の神”に成ってしまう可能性もあるそうだ。故に、そこら辺も含めて、あらゆる点から彼の“力”を奪う上では、“幽閉”という判断は合理的だと私は考えている。」
「ふむ・・・。」
この時点での彼らは、限界突破、あるいは人工“神化”が、神性へと至る第一歩である、という事は理解していなかったが、ここで言う“本物の神”とは、後に神格化する事を指している。
少なくともハイドラスは、そう判断していた。
「故に、ソラテス・ウィンザーらの処遇については、ここら辺がベターな落としどころだろう。・・・むしろ問題となるのは、私達の方だ。」
「はっ・・・?いやいや、俺らは戦争の勝者だろ?」
続いたハイドラスの言葉に、セレウスはまた早合点をする。
「違う違う。私達“能力者”達の事だけを指した言葉ではない。文字通り、セルース人類全体の話さ。」
「・・・と、言うと?」
「色々と問題は重なったが、私達の当初の目的はこの惑星への入植だ。理想を言えば、粛々と、特に大きなトラブルもなく入植し、溶け込めればそれがベストだった。いずれは“セルース人類”という名前も捨て去れれば、もっとな。しかし、ソラテスらの行動の結果、我々の存在はアクエラ人類に広く認識される様になってしまった。少なくとも、謎の部族、ただの隣人、という段階ではなくなってしまったのだよ。」
「そりゃそーだ。」
「つまり期せずして、立場の違いを認識させてしまった、という事だよ。こうなると、ただ入植する事は難しくなってしまう。アクエラ人類は我々を恐れるだろうし、逆に変に頼ってしまう事にもなりかねない。そうなると、対等な立場は望めずに、遠回しにソラテスが目指した管理・支配という構図となってしまうかもしれないんだ。」
「・・・確かに。」
「それは、当然私達が望むものではない。となれば、我々の今後の身の振り方を改めて考える必要が出てくるだろう。」
「ふむ・・・。」
あくまでセルース人類は、この惑星においては一番の新参者に過ぎない。
本来は、この惑星の未来は、あくまでアクエラ人類が形作ったり選択していくべきにも関わらず、下手に技術力がある結果、その主導権がセルース人類に流れてくる事をハイドラスは懸念しているのである。
「ま、そっちはお前の管轄だろ?上手い具合に取りまとめてくれよ。」
「・・・簡単に言ってくれるなぁ〜。」
一つの行動の結果は、時として様々な方向へと影響が波及してしまう事もある。
ソラテスらが起こした行動は、間違いなくそうした類の話であった。
そしてそれは、何もセルース人類に限った話ではないのであったーーー。
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