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『英雄の因子』所持者の『異世界生活日記』  作者: 笠井 裕二
神話大戦
291/383

“魔法”

続きです。


本年最後の投稿になります。

また来年も、引き続きよろしくお願いいたします。

良いお年を。



現代地球において、大半の機械類は、所謂“コンピュータ”によって制御されている。

身近なところで言えば家電から、果ては金融システムまで、今現在の“世界”はこの“コンピュータ”とネットワークで支配されている、と言っても過言ではないのである。


もちろん、所謂“兵器”も、やはり“コンピュータ”が組み込まれている事が多い。

いやむしろ、ある意味では最先端の技術が必要である以上、民間よりも高度化が進んでいる事も珍しくないのである。


しかし、そうなってくると、当然ながらまた別の問題が現れてしまう事となる訳だ。

仮にハッキングやクラッキングなどのサイバー攻撃にさらされてしまうと、情報の流出やサーバーのダウンなど、身近な生活に悪影響を与えてしまう事例も少なくないし、仮に公共インフラ、軍事システムにそうした事が起こってしまえば、生活保障、安全保障の観点から多大な悪影響がもたらされてしまう危険性が高い。


もちろん、それらに関する対策は打っているので、物語なんかと違い、民間のハッカーなどが簡単にそうした事を引き起こせる訳ではないのであるが。

まぁ、それはともかく。


で、これらは当然ながら、“地球”の話であるが、その地球よりも更に高度な技術力を持ち、その居住範囲を宇宙にまで広げたセルース人類にとっても、実はこうした技術は非常に重要な立ち位置となるのである。


当然ながら、スペースコロニー、衛星基地など、それだけ大型の施設等を人の手()()()維持・管理しようとするととてつもない労力が必要となる。

となれば、効率の観点からも、この“コンピュータ”に大半の仕事を任せるのが現実的、かつ建設的な話となるだろう。


しかも、セルース人類は、それらを全て人の命令を必要せずに、ほぼ全ての判断を自らくだす高度な人工知能(AI)の開発にも成功していた。

つまり、もはや機械類の操作において、そのほとんどが全自動で済む状況にまでなっていたのである。


更には、古代先史文明の遺産たるマギを獲得した事によって、その技術は一種の完成形を見たのである。


具体的には、惑星アクエラに到達するに当たって、人工知能(AI)であるマギの功績は非常に大きかった。

何故ならば、これは以前にも言及していた通り、セルース人類はその寿命の観点からも、惑星間の移動の為に“コールドスリープ”を選択しており、つまり宇宙船の操作に関して、自動で航行する必要性が生じた為である。


その時に活躍したのがマギであり、宇宙船の安全な航行、トラブルが生じた際のトラブル解決から、経年劣化による各種機械類の保守・管理・修理、果ては“コールドスリープ”を安全に運用する事によるセルース人類の生命維持等において、多大な仕事をこなしたのである。

(まぁ、その一方で、これまで語ってきた通り、セルース人類の精神に洗脳を施した、という悪行もあるのであるが。)


同時に、マギが管理しているネットワークシステムを乗っ取る事などほぼ不可能に近いのである。

仮に、彼、あるいは彼女がアクセス権を認めた者達ならばともかく、非正規の手段でそれらにアクセスした瞬間、即座にカウンタープログラムが発動するし、仮に“魔法使い(ウィザード)級ハッカー”がいたとしても、“アドウェナ・アウィス”の遺産たるマギは、それらもものともせずに撃退する事が可能だからである。


つまり、セキュリティ面でも非常に強固な守りを実現している訳で、マギが管理しているシステムをどうこうする事は、それこそ物理的手段以外では不可能なのである。

ーーーそう思われてきた。


しかし今回、その常識が崩れ去ったのである。

何をどうしたのかは皆目見当もつかなかったが、事実、マギとソラテスらが共同で築き上げた“擬似霊子力発生装置”へのアクセスが、それを管理する筈のマギにすら不可能となったのだ。


もちろん、何らかのシステムエラーの可能性は否定出来ないものの、状況的に考えれば、“能力者”達が何かしたと考える方が自然である。

それに、システムを管理しているのはマギなのだから、仮にシステム的なエラーだとしても、その原因を彼、あるいは彼女が特定出来ない事などありえないだろう。


彼らは大いに焦った。

彼らの余裕の態度は、自分達が圧倒的に優位な状況だったからこそであるからだ。


強固なサイバーセキュリティシステム、圧倒的な物量に人員、そして“擬似霊子力発生装置”の存在。

しかし、このセキュリティシステムが機能せず、ひいては“擬似霊子力発生装置”そのものが機能しなければ、いくら人員が豊富だとしても、そもそも人工“神化”が出来ない、すなわち、新たなる超越者を生み出す事が出来ないのである。


今の“能力者”達には、超越者しか対抗手段がない以上、今の状況は“詰み”の状況に近かったのであるがーーー。



◇◆◇



前線にこそ出ていなかったが、ソラテスも超越者の一人であるから、通常の人には不可能な速度で移動する事が可能であった。

その力をフル活用して、彼は“擬似霊子力発生装置”の中枢コンピュータ、“擬似霊子力発生装置”の全ての管理を司る制御装置のある場所へと一目散に駆けつけていった。


何らかの不具合で遠隔での操作が受け付けなかったとしても、その場所で直接操作する事が出来ればまだ何とかなる。

しかし、逆に言えば、その場所を敵に押えられてしまうと、完全に負けが確定する事となる訳である。


マギによる遠隔操作が不可能だった事から、ソラテスの頭には嫌な予感がよぎっていた。


“まさか、中枢コンピュータを敵に占拠されたのでは?”


、と。


それならば、マギの遠隔操作が受け付けなかった事も納得出来る。

しかし、ここでまた別の疑問も頭をよぎる。


“・・・しかし、アクセスコードも知らずにアクセス出来るものであろうか?”


、と。


当然ながら、機密性の高い施設やシステムに接触するには、正しいパスワード等を知っている必要がある。

そして当然ながら、それらを知っている者は、極限られた者達に限定されているのである。


もちろん、所謂裏切りがあれば、そうした情報が流出する恐れはある。

しかし、この時点での明確な裏切り者は、アスタルテ以外は確認されていなかった。


科学者グループの立場的には、アスタルテの立ち位置はある種ナンバー2に近かったが、しかし、彼女が裏切った時点では、まだ“擬似霊子力発生装置”は完成していなかったので、そもそも彼女には知りようのない情報である。


ならば、能力を使ったと仮定したらどうか?


ソラテスはそう考えた。

しかし、即座にその可能性も否定される。


確かに、能力を上手く活用すれば、本来知り得ない情報すら取得する事が可能である。

有名なところで言えば、“テレパシー”や“サイコメトリー”など、相手がいくら口を割らなかったとしても、直接脳内から情報を引き出す手段があるのだ。


しかし、それらが可能だとしても、そもそも()から情報を引き出すと言うのだろうか?


先程も述べた通り、機密性の観点から“擬似霊子力発生装置”へのアクセスコードを知っているのは、マギやソラテスなど、極限られた者達しか存在しない。

そして当然ながら、そうした者達は、マギとソラテスはともかく、戦場にすら出ていないのである。


つまり、そもそも接触するタイミングがないのである。

いくら能力が超常的な力とは言えど、相手も特定出来ない状況の中からピンポイントで必要な情報だけを取得する事は非常に困難だ。

故に、その可能性は否定され、ますますソラテスは原因が分からず泥沼にハマってしまっていた。

(もっとも、ソラテスのその考えは、半分正解で半分外れでもある。

限界突破を果した今のハイドラスらは、“アカシックレコード”へのアクセス権限を持っているので、本来知り得ない情報すらも取得出来てしまう可能性があったからである。

もっとも、その為には、とてつもない情報の渦に飲み込まれる可能性もあるので、己が廃人となるリスクもある。

そして、ハイドラスらは、今回に関してはこの“アカシックレコード”を利用してはいなかったのである。)


様々な不安が入り混じる中、ソラテスは現場に到着した。


「・・・どうやら、“能力者”達がこの場を押えた訳でなさそうですね・・・。」


周囲には何の人影もなかった事から、ソラテスはホッと一息吐いていた。

とりあえず、最悪の可能性を回避出来たのだから、その反応も当然の事であろう。


しかし、まだ終わった訳ではない。

中枢コンピュータが命令が受け付けなければ、やはり詰みの状態だからである。


ソラテスは急いで端末を操作する。

やはり歳を取っても手慣れた事なのか、淀みなくそれらの作業は進行していった。


そして・・・、


〈システムエラー。警告。アクセスコードが間違っています。〉


無機質な音声が流れる。


「何故だっ!!!???」


正しい作業、正しいパスワードを入力しているにも関わらず、中枢コンピュータは命令を受け付けなかったのである。


ソラテスは、焦りからか思わず苛立ちの声を上げた。

ここで、八つ当たりでコンソールなどを破壊しなかっただけ、まだ冷静さが残っていたのであるが。


〈・・・やはりダメですか?〉

「マギですか・・・。ええ、一体何が起こったのか・・・。」


うなだれるソラテスに、マギの声が聞こえてきた。


〈こちらも、引き続き命令を打ち込んでいますが、やはり結果は同じですね・・・。〉

「ハハハ、こんな結末ってありますかね・・・?」


諦めてモードに入ったソラテスは、自嘲気味にそう呟いた。


当初は余裕の態度を見せながら、しかし“能力者”達の機転で追い込まれてしまい、なおかつ頼みの綱である自ら作り上げた“擬似霊子力発生装置”も上手く機能しない。

まさに、戦うまでもなく勝手に自滅した様なものなのである。


もちろん、状況的に考えれば、不運が続いたというよりも、“能力者”達が何かしたと考える方が自然だ。

しかし、彼らの見識も持ってしても、それらが何故起こったのかが分からなかったのだ。


言うなれば、仮にこれが相手の作戦通りだとしたら、最初から相手の手のひらで転がされていた様なものだ。

こうなれば、もはや笑うしかなかった。


「そこまでですね。」

「大人しく投降しな。外の連中はあらかた片付いたぜ?」


と、そんな事を考えていると、タイミングをはかったかの様にハイドラスとセレウスがその場に現れた。

もちろん、ソラテスが何かしでかさない様に、セレウスが警戒状態であったが。


それを見ると、ソラテスは大人しく両手を上げる。

今更ここで抵抗したところで、彼一人ではこの二人に勝ち目がないからである。


「物わかりがいいな?それとも、何かまだ隠し玉があるのかね?」

「それはないよ。それに、マギがこれ以上介入する事もありえない。文字通り、チェックメイト、だな。」


そんなソラテスの反応に、訝しげな表情を浮かべるセレウスと、訳知り顔でそれを否定するハイドラス。

その言葉で、ソラテスは、やはりこの男が全ての盤面を操っていた事に気が付いた。


「・・・一つ、教えて頂けませんか?貴方はどの様な方法で我々を追い詰めたのか、を。」


すでに己の敗北を認めたソラテスであったが、しかし単純な知的好奇心からハイドラスにそう尋ねる。

もちろんソラテスとて、答えが返ってくる事を期待した訳ではないのであるが。


ハイドラスは首を横に振る。


「残念ですが、手の内を明かすつもりはありません。」

「ま、それはそうでしょうね・・・。」


故に、ハイドラスの返答にアッサリと引き下がったのである。



こうして、時間にして1日足らずの戦争は、“能力者”側の完全勝利で幕を閉じた。


もっとも、時間にしてはさして長くもない戦争であったが、その規模や影響力はアクエラ人類に大きな印象を残し、語り継がれ“伝説”へ、そしていつしかそれは“神話”へと成っていったのであったーーー。





















「ところでハイドラス。俺にはお前が何をしたのか教えてもらえんだろーな?」

「フッ、もちろんさ。」


ソラテスを拘束し、仲間達に引き渡したハイドラスとセレウスは、そんな会話を交わしていた。


「んで?結局何をどうやったんだよ?」

「意外と単純な手段さ。“魔法”を使ったんだよ。」


シレッとしたハイドラスの言葉に、セレウスは呆れた様な反応を返した。


「おいおい、おとぎ話の事を話してんじゃねーのよ。俺は大真面目にだなー・・・。」

「私も大真面目に話しているよ、セレウス。お前の判断力の速さは私も認めているが、しかし早合点はあまりよろしくないぞ?」

「・・・。」


八面六臂の活躍を果し、仲間内からは絶対的なエース、対外的にはもはや“英雄”とさせ目されているセレウスだったが、ハイドラスの前ではそれも形無しであった。


まるで自分を子供扱いするハイドラスに仏頂面になったセレウス。

それにハイドラスは苦笑しながら、ポツポツと解説を始めた。


「そもそもセレウス。戦いにおける“理想の展開”とはどういうものかを考えた事はあるか?」

「そりゃまーな。一番は、やっぱり戦わずして勝つ、ってのがもっとも理想じゃねぇ〜かな?ま、あくまで理想論だし、そんな事はありえないがなぁ〜。」

「その通り。もちろん、お前の言う通りそれはあくまで理想論だし、物語としてはやはり面白みに欠ける事ではあるだろうがな。」

「まーな。けど、一応戦いを生業にしている身としちゃ、変にドラマチックな展開があるより、粛々と終わる方が良いに決まってるさ。誰だって、死にたくはないからなー。」

「そうだな。」


戦争とは、究極的には殺し合いでしかない。

お互いの意見が対立した結果、暴力によって事を成す事でありからである。


しかし、誰だって死にたくないので、なるべくならばお互いに傷付かない方法を模索するものだ。

もちろん、それは理想論に過ぎないが、しかし現実的にも、なるべくならば兵士の損耗を抑えるのが、指揮官の役割の一つなのである。


「それ故に戦略や戦術がある。では次の質問だ。仮にお前が指揮官であった場合、どの様な戦略が有効だと思う?」

「そりゃお前。人聞きは悪いかもしれないが、相手がもっとも嫌がる事をするのが有効だよ。相手の弱点を突くのをあれこれ言うヤツはいるけどよ。それも立派な兵法の一つだぜ?」

「うむ。」


戦術の中には、“兵糧攻め”というものが存在する。

兵糧攻めとは、相手方を包囲する事によって食糧補給を断ち、相手方の戦闘力を弱めた上で、武力を用いずに相手方を屈伏させる方法である。

先程も二人が述べていた通り、理想としては戦わずして勝つのがもっとも良い方法であるから、こうした戦術も立派な兵法の一つなのである。


もっとも、相手方から見たら、まさしく地獄の様な一手であるから、あまり好ましく思わない者達もいるが、戦争は綺麗事ではないのである。


それに、現代地球においても、相手方の経済活動を減衰させる事や、相手方の生活に必須であるインフラ設備を壊すなどの手法が実際に行われている。


この様に、相手に取って、もっともやってほしくない事をやるのは、倫理的・道徳的な観点を無視すれば、非常に効率的な方法なのである。


「私も同じ考えだ。私達はお遊びで戦いをやっていた訳ではないからな。」

「ああ。」


そもそもの話として、一番は戦わない事がもっとも良い事ではあるが、相手が聞く耳を持たない事もある。

それでも、互いが互いに干渉しなくて済むならそれで良いのだが、残念ながらなんだかんだ“世界”は繋がっているので、どこかで衝突してしまう恐れもあるのだ。


「じゃあ、最後の質問だ。では、今回の場合、相手方にとってもっともやってほしくない事って何だと思う?」

「そりゃお前、例の“擬似霊子力発生装置”とやらを押さえられる事だろう。あれがなきゃ、そもそも奴らは人工“神化”が行えないからな。だからこそ、俺らもこの施設を狙った訳だし、それが分かっていたから奴らもこの施設を全力で守ってたんだろ?」

「そう。だが、それには、大きく分けて二通りの方法が存在するんだ。」

()()()に押さえるか、ハッキングで乗っ取るか、だろ?けど、後者はあまり現実的な話ではない。何故ならば、サイバー攻撃は奴らも当然警戒しているし、腐っても“アドウェナ・アウィス”の遺産である人工知能(マギ)を超えるほどの技術力を持った奴は俺らには存在しないからな。だから・・・」

「だから我々は直接的に施設を狙った。そう、彼らも考えた筈だ。」

「・・・違うのか?」

「いや、お前の言う通りだ。少なくとも“電脳戦”でマギに勝つ事は不可能に近い。しかし、あくまで“()()()”においては、だ。そこで私が着目したのが、第三の選択肢、って訳だ。」

「第三の選択肢?」

「“魔法”だよ。もちろん、先程も述べた通り、おとぎ話の事ではなく、この惑星(アクエラ)で発見された技術である『魔法技術』・『魔法科学』の事だな。」

「ふむ・・・。しかし、それって奴らが築き上げた技術だろ?俺らに勝てる要素がない様に思えるが・・・。」

「いやいや、そんな事はないさ。そもそも『魔法技術』や『魔法科学』は、彼らにとっても日の浅い分野だ。発見されてから、まだ大した時間は経過していないからな。少なくとも、科学技術なんかに比べたら、発展途上の分野である事は間違いない。」

「ま、そりゃそーだ。」

「それ故に、彼らは“魔法”、いやもっと言ってしまえば、“魔素”がどういうものかがハッキリと理解していないんだよ。」

「・・・なるほど?」


分かった様な分からない様な表情のセレウスに、ハイドラスは再び苦笑する。

この男、得意な分野では無類の才能を発揮するわりに、興味のない事には結構無頓着なのだ。


「“魔素”のもっとも本質的な部分は、“情報の伝達を媒介するもの”である事だ。それによって引き起こされる“現象”なんかは、その一部分に過ぎないんだよ。もっとも、その“現象”の方に目を奪われて、彼らはその本質に辿り着いていないのだがな。」

「そうなのか?」

「ああ、まず間違いない。でなければ、今回我々がアッサリ勝つ事はまず不可能だった事だろう。」

「ふ〜む・・・。」


“魔素”はこの惑星(アクエラ)の大気に広く存在している。

つまり、この惑星(アクエラ)に存在する以上、“魔素”の影響を逃れる事は出来ないのである。


実際、セルース人類は、この惑星(アクエラ)に辿り着いた時点で、この“魔素”の影響を色濃く受ける事となった。

所謂“魔素酔い”である。


もちろん、それで生命活動が閉ざさせる様な事態にはならなかったのだが、しかし、風邪の様に体調を崩す者達も続出した為、生活や生産活動に多大な悪影響をもたらす事となったのであった。


後にこれは、“魔素”がセルース人類の構成情報、つまり遺伝子情報を書き換えようとした結果起こったらしい事が判明している。

脅威的な生物である“魔獣”や“モンスター”が実在するのは、その影響の為である。

その果てで、アクエラ人類との接触を経て、“魔素”を別の方向に利用する事で、“魔素”の悪影響から逃れる手法を確立したのであった。

それが、『魔法技術』・『魔法科学』であった。


これは、一見すれば“魔素”を克服、あるいは完全に理解した様にも見えるが、しかしその実、それを利用する方法を一部獲得しただけであり、ハイドラスがいう“本質”に辿り着いた訳ではないのだ。


「けどお前は、その本質に自力で辿り着いた、と?」

「いやいや、流石に私はそこまでの才能はないよ。もちろん、科学者グループが確立した技術程度ならば即座に吸収する事は可能だったけどな。」

「・・・。」


十分凄い才能だろ、とセレウスは思ったが、話を腰を折るのもあれだと思い、あえて口に出さなかった。


「私にその助言を与えてくれたのはネモだよ。」

「ネモが・・・?」


何でここで、人工知能(AI)の名前が出てきたのかセレウスは疑問に思ったが、続くハイドラスの言葉に納得の表情を浮かべていた。


「ああ。ネモは、()()()()()()()()()()人工知能(AI)だ。当然ながら、セルース星系で発見されたマギとは出自が異なる。」

「ああっ、なるほどっ!つまり、この惑星(アクエラ)に関する事は誰よりも詳しく知っている、って事かっ!」

「そう。そして当然ながら、その中には“魔素”の事も含まれている。そして、そんなネモの助言に従って、私はとある()()を密かに研究していたんだよ。」

「“術式”・・・?もしかして、“擬似霊子力発生装置”を乗っ取る術式かっ!?」

「いやいや、そこまで複雑な事じゃない。ってか、それをやるには時間が足りなすぎるさ。」

「じゃあ、何で奴らは“擬似霊子力発生装置”を使えなかったんだよ?」

「そこで、さっきの話にまた戻るのさ。“魔素”の本質は“情報の伝達を媒介するもの”、と言ったな?つまり簡単に言えば、条件次第では情報そのものを書き加えたり消したりする事が出来るんだ。で、私達の目的は、“擬似霊子力発生装置”を彼らに使()()()()()()()これを奪う事だ。しかし、サイバー的にこれを行う事は実質的には不可能であり、物理的に占拠する方法で来た。そう彼らも思った事だろう。しかし、彼らは分が悪くなると、これを使用するだろう事は事前に予測出来た事であるから、術式を介して“擬似霊子力発生装置”にシステムプログラムに介入。後は簡単だ。システムプログラムの一部分でも適当に書き換えておけば、機械類は正しく作動しないからな。」

「なるほど・・・。だから、奴らは“擬似霊子力発生装置”を使用出来なかったんだな?」

「そう。しかもこれを防ぐには、彼らも『魔法技術』・『魔法科学』で対抗するしかないのだが、彼らはその本質部分を理解していなかったから、それ自体をやっていなかったんだ。だから簡単に成功した。もっとも、あくまで私がやったのはシステムプログラムの一部改ざんでしかないので、乗っ取るには至っていなかった。なので、物理的占拠の方法も同時で進行させていたんだ。“擬似霊子力発生装置”さえ使用させなければ、戦力を増強させる事も実質的に不可能だからな。」

「ふむ・・・。」


どんな優れた機械が存在しようと、それを使えなければまさしく“宝の持ち腐れ”である。

ハイドラスは、“魔素”というこの惑星(アクエラ)の大気に広く存在する物質(?)を利用する事によって、ソラテスらにとって戦略的に非常に重要な施設である“擬似霊子力発生装置”を実質的に使えない様にしたのである。


当然ながら、これは物理的な攻撃でもないし、サイバー的な攻撃でもないので、ソラテス側も『魔法技術』・『魔法科学』によって対処するしかなかったが、彼らは“魔素”の本質的な部分を理解していなかったので、この対処をろくに行っていなかったのである。

故に、軍配はハイドラスらに上がった、という訳であった。


「しかし、それなら事前に知らせてくれても良いんじゃねぇ〜の?」

「そういう訳にも行かないよ。彼らの力を鑑みれば、情報を部隊で共有した結果、それが事前に露見する可能性もあった。少なくとも、マギの存在はやはり警戒すべきだったからな。故に、私とネモ間のみでこれを水面下で進行させていたのさ。」

「ああ、ま、それもそうか。」


多少不満を漏らすセレウスであったが、ハイドラスの言葉に納得の表情を浮かべていた。


情報の共有は、組織的に非常に重要な要素ではあるが、情報漏洩の観点からも、これは慎重に推し進める必要がある。

仮にこの裏の作戦が事前に相手方にバレてしまっていたら、ここまで上手く事を運ばなかった可能性を鑑みれば、実質的にはハイドラスだけが理解し、独自に実行していた事は納得出来た話なのである。


「ま、とりあえず、これで一段落、ってところか?」


一通り説明を聞き終えた、セレウスは改めてそう言った。


「ま、とりあえずは、な。これから色々と調整が大変だとは思うが、ひとまず我々の勝利だ。」


そうハイドラスが締めくくると、セレウスは頷き、二人は“中枢コンピュータ”のある部屋から出ていくのであったーーー。



誤字・脱字がありましたら御指摘頂けると幸いです。


いつも御覧頂いてありがとうございます。

よろしければ、ブクマ登録、評価、感想、いいね等頂けると非常に嬉しく思います。

よろしくお願いいたします。

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