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『英雄の因子』所持者の『異世界生活日記』  作者: 笠井 裕二
神話大戦
290/383

読み違い

続きです。



◇◆◇



“能力者”同士の戦いにおいてもっとも重要な要素は、実は“シンプルさ”、なのである。


もちろん、セレウスが“能力者”達の中でもその戦闘センスや能力の使い方において、頭一つ飛び抜けた存在である事はまず間違いないのであるが、しかし、統一的、画一的な訓練を受けている“能力者”達は、そのメカニズムを理解さえ出来れば同じ事を()()する事が可能でもある。

ここら辺が、同一組織に属する者達の強みであろうし、(本来ならば、能力の方向性は個人の才能なんかに由来するのであるが)あえて画一的な能力の使い方に統一した“能力者”達の強みでもあった。


有効な対策手段が編み出されれば、それは同一組織において共有され、その後伝播していくものだ。


そして限界突破を果した“能力者”達は、お互いに情報を共有出来る能力として、“テレパシー”、所謂“念話”という、ある意味では通常の通信機以上に深く情報を共有出来る能力にも目覚めていた。


これによって、セレウスが編み出した超越者達の攻略法があっという間に広がっていき、マギやソラテスの予想を遥かに上回る速度で、戦況は“能力者”側に傾きつつあったのであるーーー。



・・・



「何故だーーー!俺達も奴らと同じ力を有しているというのにーーー!グハッ・・・!」


今、また一人の超越者が、そんな疑問を抱きながら絶命していった。



確かに、一見すれば超越者達は、“能力者”達と同じ能力を有している様にも見える。

しかし超越者達(彼ら)は、もっとも基本的な事を理解していなかったのである。


当たり前だが、仮に同じ武器、武装を装備していたとするならば、当然、全体的な習熟度や練度の高い方がその強さは上という事となる。


例えば、彼らが同一の性能の“銃”を持っていると仮定すると、超越者達がそれをメチャクチャに乱射しているのに対して、“能力者”達はムダ弾を使わずに、確実にヘッドショットを狙ってくる、という違いが存在するのである。


もちろん、無差別に攻撃する乱射は非常に危険性が高いし、予測しづらいし防ぎにくい、という側面がある。

しかも超越者達のその力の規模は、所謂“銃乱射事件”よりももっと広範囲に及ぶ。

自然災害規模の力を振るう超越者達はやはり脅威であるし、その事によって相手を圧倒していると()()したとしても不思議な話ではないだろう。


しかし逆を返すと、力の使い方が大雑把であるという事の裏返しでもある。

であるならば、当然、力のコントロールに勝る方が、より有利となるのはある意味では自明の理なのである。


再三述べている事ではあるが、力は()()()()()()()ではあまり意味がないのだ。

それを使()()()()()()()()、初めてその真価を発揮する。


つまり、超越者達は確かに“能力者”と同一のステージに立っているが、それはようやく“スタートライン”についただけでもあるのだ。

能力者(彼ら)”に並び立とう、上回ろうとするならば、“能力者(彼ら)”以上の“能力”に対する深い見識とコントロール技術を持つ必要があるのである。


そして残念ながら超越者達は、そんな見識も技術も持ち合わせていなかったのであった。

故にこの結果は、ある意味当然の帰結とも言えるのである。


それが分かっていたからこそ、ハイドラスらは(科学者グループに比べて)少人数でも作戦を遂行出来ると踏んでいたし、逆にマギやソラテスらは、その事が分かっていなかったからこそ、ろくな作戦もなくハイドラスらを迎え撃ってしまったのである。


もっとも、再三述べている通り、数の上での優位はまだソラテスらの側にある。

いくら“能力者”達がとてつもない精鋭であったとしても、その“能力”の扱い方が卓越していて無駄な行動を一切しないと言っても、やはり“人”である以上はいずれ疲労が現れてしまう事となる。


短期決戦を諦めて、消耗戦に移行すれば、まだソラテスらにも十分に勝機はあったのであるがーーー。



・・・



〈解析データが挙がってきました。〉

「っ!!!聞かせて下さい。」

〈ええ。おそらくですが、“能力者”達の快進撃の秘密は、その“能力”の扱い方にある様です。死亡した超越者達の状況を確認したところ、どうやら皆、急激な()調()()()によってその命を落としている事が判明しましたからね。〉

「体調変化・・・?」

〈そうです。心機能、あるいは脳機能への血流が途絶えた事によるものですね。当たり前ですが、血流が途切れ、各重要器官に酸素が供給されなければ、“人”は生命を維持出来ません。もちろん、一人や二人ならば、元々の持病が悪化したものによる可能性もありますが、これほどの人数が一斉に同じ様な症状で亡くなる可能性は極めて低い。となれば・・・。〉

「それは“能力者”達が人為的に引き起こした可能性が高い、と?」

〈ええ、そう考えるのが自然でしょう。考えてみれば非常に効率的な方法ですよ。対象を倒すのならば、外部から攻撃するか内部から破壊すれば良い。もちろん、本来ならば内部への攻撃となると、何らかの接触、例えば毒を盛るとかですね、が必要となりますが、“能力”を上手く使えば、直接接触する事なくそれを実行する事が可能となりますからね。〉

「なるほど・・・。しかし待って下さい。超越者達は、当然ながら“バリア(シールド)”で身を守っている筈ですよね?あれは、外部からの干渉を阻害する事が出来る筈です。」

〈確かにそうですが、しかし()()()()()までは“バリア(シールド)”も機能しませんし、“バリア(シールド)”の効果範囲も、全てをカバー出来る訳でもありません。そして“能力”は、通常の物理法則を無視した超常的な力でもあります。故に、“バリア(シールド)”を無視して、対象者に影響を与える事も不可能ではないのですよ。もちろん、その為には非常に精密なコントロール技術が要求される訳ですが・・・。〉

「・・・。」


セレウスから始まった“能力者”達の反撃がかなり進んでいた頃、ようやくマギとソラテスは、その場で何が起こったのかを理解していた。


「・・・そうなると、全ての条件を無視して攻撃が可能であるならば、実質的にはこちらに防ぐ手段はないのでは・・・?」


しばしの黙考の後、ソラテスはあまり認めたくない事実を口にした。


そうなのだ。

直接内部に攻撃される以上、それを防ぐのは不可能に近い。


もちろん、逆に超越者達が“能力者”達以上に“自己強化(バフ)”に優れていたら、血流を更に再操作すれば、実質的にそれを防ぐ事は可能だ。

言わば、力を力で上書きする干渉力、である。


しかし残念ながら、超越者達は、まだ力を持っただけの素人に過ぎない。

故に、その力の使い方は大雑把であり、精密なコントロール技術はもっとも苦手とする分野なのである。


しかし、マギの意見は違う様であった。


〈いえいえ、そんな事はありませんなよ。防ぐのが難しいのならば、そうさせなければ良いだけの話です。〉

「・・・と、申しますと?」

〈先程も述べた通り、この手法には精密なコントロール技術を要求されます。いくら力の扱い方に長けた“能力者”達と言えど、簡単な事ではありません。しかし、現状では、こちら側はそれでやられている。何故か?それは、こちら側に油断があるからです。〉

「あっ・・・!」


先程自分で言った事を、ソラテスは思い出していた。


〈そうです。“バリア(シールド)”があるから、身の安全は守られていると勘違いしてしまっているのですよ。故に、その油断の隙を突かれて、“能力者”達の自由を許してしまっているのです。〉

「“能力者”達が何をしてきても、“バリア(シールド)”があるから大丈夫、と?」

〈ええ。実際、超越者同士は、お互いの無差別攻撃をそれによって防げてしまっている現状もあります。おそらく、その状況も踏まえて“能力者”達はその心理を利用しているものと思われます。〉

「・・・なるほど。」


これは、一種の思い込みであった。


そもそもの話として、超越者達、ひいては科学者グループは、“能力”については詳しくないのである。

もちろん、その秘密の一つを解き明かし、“霊子力エネルギー”を獲得した実績はあるものの、“能力”の全体像となると、これは多岐に渡るからである。


実際、以前から言及した通り、“能力者”達の“能力”は、所謂“超能力”として理解出来るのだが、大まかに分けて超感覚的知覚(ESP)と、物体に力を及ぼし得るサイコキネシス(念力、PK)の二つに大別出来てしまう。


が、それを細分化していくと、より細かい“能力”の種類があり、それを科学者グループは、全て把握出来ていないのである。


これは何故かというと、実は“能力者”自身にもそれが分かっていないからであった。


再三述べている通り、現在では規格的に統一する方向に調整しているものの、そもそも“能力”は個人の才能やらに由来するものであり、その中には、一見すれば“超能力”とは関係ない様なものも含まれている。

例えば、“獣人化”などが挙げられる。


“能力者”達の中には、所謂“狼男”の末裔、とされる者達もいる。

しかし、実際にはそうした存在が実在した訳ではなく、彼らがそういう“能力”を持っていただけに過ぎないのである。


現在では、これは“複合能力”と呼ばれ、怪力や超スピードの正体は“自己強化(バフ)”であり、そういう風に見えるのは“幻術”によるものであり、感覚が鋭敏になる(例えば、嗅覚が敏感になる等)などは、超感覚的知覚(ESP)の応用だろう、などが分かっている。


しかし、それが分からない、そもそも“能力”というものが表向きは明るみに出ていなかった時代には、彼らは怪物の末裔として迫害されてきた過去もある。

まぁ、それはともかく。


つまり、“能力”の種類は多岐に渡り、それを全て把握する事は困難であるし、仮に出来たとしても、その知識を正しく活用出来るとも限らないのである。

(数学の公式を全て暗記出来たとしても、いざそれを活かせるかどうかはその人次第、という訳である。)


超越者達にしてもそうである。

彼らは、それなりに高い知識や知能を有していたし、“能力”に関してもそれなりの知識を有していたが、流石に“能力者”達以上には理解もしていなかったし、扱い方も分かっていなかった。


それが、(“能力者”達と同じ)自分達の力を自分達自身で防げたのだから、“能力者”達の“能力”も防げる筈だ。

という風に思い込んでしまったのであった。


まぁ、ここら辺はよくある話である。

あまりに知識がありすぎると返って物事の本質を見失う事もあるし、一度思い込んでしまうと、中々その考えから抜け出せない事も往々にしてある。


超越者達は、その思い込みと増長を“能力者”達に利用され、その隙を突かれてやられている状態であった。


が、


「つまり、“能力者”達がその技術を使えない様にすれば良い、と?」

〈ええ。そもそも“能力”を発動させなければ、防ぐ必要もなくなります。そして、その“能力”を使う為には、高い集中力が必要な筈です。ならば、そうさせない様に、とにかく攻撃し続ければ良いのですよ。〉


そうなのだ。

攻撃は最大の防御、とも言われる。

理論的には相手を攻め続けてさえいれば、相手は防戦一方となりこちらを攻める事は困難となる。


もちろん、カウンターなどによって反撃させる事もありうるのだが、ここでソラテスらの強みが大きな意味を持ってくる。


〈物量はこちらが圧倒的に優位な状況です。故に、“能力者”達に単独、あるいは複数名で挑むのではなく、圧倒的多対一の状況に持ち込むのです。そして、とにかく攻め続ける。これならば、相手は反撃する事が困難となります。〉

「更には、相手も疲労が蓄積する事となる。“能力者”達とは言えど、その力は無限ではありませんから、力量ではこちらが負けていたとしても、いずれ倒しきれる、と?」

〈そうです。〉

「なるほど・・・。」


正確には、“能力”は“魂の力”であるから、生きてさえいれば理論上は無限に扱う事が可能なのだが、人間である以上は身体や脳は徐々に疲労していくので、彼らの作戦は理にかなっていた。


「そうと決まれば、早速新たなる超越者達を生み出す事としましょう。」

〈よろしいので?〉

「先程も述べましたが、ここで負ける方が問題ですよ。後の事はまた後に考えるとして、まずはこの場を乗り切る事が先決でしょう。」

〈ま、そうですね・・・。〉


思わぬ反撃によって、状況は不利になったソラテスらであったが、しかし、素早く相手の情報を分析した事によって、また希望の芽が出てきたーーー、と思っていた。


しかし残念ながら、すでに全てが後の祭りであった。


ソラテスの承認を経て、マギは“擬似霊子力発生装置”を介して人工“神化”の準備に取り掛かった。

これで、新たなる超越者達が再び誕生するーーー、筈であった。

しかし、


〈・・・・・・・・・あれ?〉

「・・・?どうしました?」

〈お、おかしいですね。“擬似霊子力発生装置”にアクセス出来ません。〉

「・・・・・・・・・は?」


そう、()()()“擬似霊子力発生装置”にアクセス出来なくなっていたのであった。


当然ではあるが、いくら装置があったとしても、それに命令を入力する事が出来なければ何も起こりようがない。


仮に“擬似霊子力発生装置”が、自動で人工“神化”を行い超越者達を生み出すプログラムを持っていたらまた話は違うのであるが、しかし、無制限に超越者達を生み出す事は当然ながらソラテスらにとっても色々と都合が悪い。

故に、任意でそれらを承認する様にしており、そのアクセス権はマギやソラテスなどの一部の者達が持っていたのである。


もちろん、所謂“ハッキング”の様に、外部から違法にアクセスする可能性も考えられるのだが、しかし当然ながらそれに関する対策を打っているし、そもそも今現在セルース人類が使用している機械類は全て人工知能(AI)であるマギが統括しているので、本来そんな事は起こり得ないのである。


それが分かっているからこそ、“能力者”達は()()()にこれらの施設を狙った訳であるし、そう考えると、ますます原因が分からなくなってしまう。


しかも問題なのは、このままでは“能力者”達の快進撃を止める手段がない、という事である。

彼らの作戦は、前提条件として新たなる超越者達を生み出せるからこそ立てられるプランである。

だが、その前提条件を覆られてしまうと、途端に全てがご破産になってしまうのだ。


〈も、もう一度っ・・・!〉


当然ながら、マギらもその事は理解している。

努めて冷静さを保ちながらも、焦りがにじんだ声色で再びアクセスを試みる。


「ど、どうですかっ・・・!?」

〈・・・・・・・・・、やはりダメです。私の命令を受け付けません。何が原因なのか・・・?〉

「・・・遠隔操作が受け付けないのであれば、手動に切替えては?私が直接行って、入力するというのはどうでしょうか?」

〈・・・残る手段はそれだけですが、はたして手動も受け付けるかどうか・・・。〉

「試してみるしかありませんよっ!このままでは、こちらがやられてしまいますっ!!」

〈そうですね・・・。では、ソラテスさん。お願いできますか?〉

「ええ、もちろんですっ!」


最後の望みとばかりに、ソラテスは“擬似霊子力発生装置”の中枢へと急ぐのであったーーー。



誤字・脱字がありましたら御指摘頂けると幸いです。


いつも御覧頂いてありがとうございます。

よろしければ、ブクマ登録、評価、感想、いいね等頂けると非常に嬉しく思います。

よろしくお願いいたします。

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