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『英雄の因子』所持者の『異世界生活日記』  作者: 笠井 裕二
『リベラシオン同盟』発足

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『ドワーフ族』

続きです。

少し遅くなりました。



『ドワーフ族』は、ハレシオン大陸の中央部に広大な地下国家を持っている。

この地は、『ドワーフ族』に取っては欠かせない、『鉱脈』が多数存在するからである。

また、『ドワーフ族』は、他の『他種族』と違い、『人間族』とも友好関係を築いている。

それは、『ドワーフ族』の優れた『金属加工技術』による所が大きい。

その高い『技術力』に目を付け、『人間族』が『ドワーフ族(彼ら)』の『技術』を盗もうとしたり、『ドワーフ族(彼ら)』を支配下に置こうと画策したり、そう言った『歴史』もあったが、結局それらは上手く行かずに今日に至る。

なぜなら、『ドワーフ族』は『鬼人族』と『獣人族』に匹敵する『身体能力』を持ち、さらに『国家』を形成するほどの人口を有しているからである。

『ドワーフ族』は陽気で酒好きな者達が多いが、『鍛冶職人』としては頑固一徹であるし、『敵対者』に対する容赦は一切ない。

『戦争』で『ドワーフ族(彼ら)』を降し、占領するとしたら、膨大な資金と労力が必要になるし、万が一上手く事が運んだとしても、その『技術力』を吸収する事は、『人間族』にはほぼ不可能に近い。

その高い『金属加工技術』は、『人間族』の所謂『達人』と呼ばれる『鍛冶職人』でさえ、駆け出しの『ドワーフ族』の『鍛冶職人』の『作品』も容易には模倣出来ないほどだ。

これは、単純に『人間族』と『ドワーフ族』の『身体的特徴』の違いが関係する。

『ドワーフ族』は、背丈こそ成人男性でさえ、150cmにも届かないほど小柄な種族だが、美的センスに優れ、手先が器用で、その肉体は頑強で、さらに『熱』や『火』に耐性を持っている。

『金属加工技術』は、当然『鍛冶職人』自身の『腕』もあるが、()()を言ってしまえば、『炉』をどれだけ巧みに使えるか、『火』をどれだけ巧みに使えるか、と言う()()()かつ()()な話になるので、この差は意外と大きい。

もちろん、『人間族』の『達人』と呼ばれる『鍛冶職人』の中には、『ドワーフ族』にも一目置かれるほどの『腕』を持つ者もいるが、数はそう多くない。

『国』を持つ以上、物語や伝承とは違い、流石に『ドワーフ族』全員が『鍛冶職人』と言う訳ではないが、『鍛冶職人』はすべからく『人間族』の『達人』と同程度以上の『腕』を持つ、と言って差し支えない。

『戦争』で『ドワーフ族(彼ら)』を降すのは容易ではないし、万が一降したとしても、『ドワーフ族(彼ら)』の『誇り』に懸けても『人間族』に容易には協力しないのは目に見えている。

さらに、その『技術力』だけ奪う事も実質上不可能だとしたら、そもそも『ドワーフ族(彼ら)』と『敵対』する事自体が愚策中の愚策である。

『戦争』と言う行為は、突き詰めて言ってしまえば、『自国』にどれだけ『利益』をもたらせるかに懸かってくる(もちろん、それだけではないが)。

そこに『非人道的』な行いが在ろうとも、『利益』がある内は、『人々』はその『事実』から()()()()()()()()だろう。

しかし、どれだけ優秀な『王』であろうと、どれだけ優秀な『為政者』だろうと、『自国』に『利益』をもたらせない者は、『国民』に取っては『無能』でしかない。

そうなれば、内側からの反発は必至であるので、『人間族』が『ドワーフ族』と友好関係を結ぶのは当然の帰結と言えた。

そうした訳で、今日まで『ドワーフ族』は『人間族』と対等以上の友好関係を結ぶに至ったのだったーーー。



◇◆◇



『ドワーフ族』の成人男性は、立派な髭を蓄えている。

これは、『種族』としての文化で、『髭』がない『男』は一人前の『男』として見られない風習的な事柄から来ている。

しかし、昨今の若者達からはウケが悪く、古臭い考えだとの議論も出ている。

まだ男性側にはこの風習を良しとする者も多いが、若い女性には、もはや『不潔』で『カッコ悪い』文化として見られる事も多い。

その他の『ドワーフ族』の特徴は、成人男性も女性も、150cmに届かない背丈と、浅黒い肌、頑強な肉体など様々あるが、基本的には『人間族』を小柄にした容貌である。

ただし、男性は筋肉隆々な肉体を持ち、女性は所謂『トランジスタグラマー』な肉感的な肉体を持っている。

物語や伝承によっては、『ドワーフ族』の女性は、男性と同じく髭を蓄えている事も多いが、 『この世界(アクエラ)』では『ドワーフ族』の女性には髭は無い。

前述の通り、『髭』は男性らしさの『象徴』でもあるので、『ドワーフ族』の女性は、嗜みとして、体毛を綺麗に剃る風習があるからだ(と言っても、別に『ドワーフ族』の女性の体毛が濃い訳ではないが)。

さて、そんな『ドワーフ族』には『鍛冶師ギルド』が存在する。

『鍛冶師ギルド』は、『国』からの依頼や、『他国』からの依頼などを請け負う所謂『仲介業者』で、基本的には『冒険者ギルド』と似た様なモノだ。

もちろん、『鍛冶職人』達個人で仕事を請け負う事もあるが、それで生活出来るのは、ある程度『名』が売れないと難しい。

そう言った理由もあって、駆け出しの『鍛冶職人』はまずは『鍛冶師ギルド』に登録する。

と、言っても、『鍛冶職人』は『親方』の所でまず修行を積むので、その時にはすでに登録を済ませているパターンが多い。

独立後に、『鍛冶師ギルド』からの仕事をこなしながら、『腕』と『名』を売り込んでいく。

そうして、認められていく事で、ランクを上げて行くのだ。

ランクは『冒険者ギルド』と違い、その『工房』のランクで、個人に対するランクは明確に区別されてはいないが、その見習い期間を『弟子(シューラー)』、修行期間を『職人(ゲゼレ)』、独立開業した者を『達人(マイスター)』と呼んでいる。

その『達人(マイスター)』達の中に、『達人の中の達人』と呼ばれる者がいる。

四年に一度、『国』や『鍛冶師ギルド』から、特に認められた一番の『鍛冶職人』に『ヴェルムンドの鎚』と、『偉大なる達人(グロースマイスター)』の称号を授けられる。

『ヴェルムンド』とは、『ドワーフ族』の『伝説的英雄』にして随一の『鍛冶職人』でもあった偉人の名で、嘘か真か、『ヴェルムンドの鎚』は、その人物が実際に使用していた物らしい。

まぁ、実際偽物だったとしても、授けられる『栄誉』は本物なので、あまり細かい事は皆気にしない様だ。

そんな、『偉大なる達人(グロースマイスター)』を数多く輩出している名家が、シュトラウス家であった。



シュトラウス家、現当主にして、『偉大なる達人(グロースマイスター)』・バルドゥルは頭を悩ませていた。

先代にして父親のアーデルベルトから受け継いだ『鍛冶職人』としての卓越した『腕』、『ドワーフ族』の『達人(マイスター)』達にも難易度が高いとされる『魔工』を高確率で付与出来るセンス、妻・マルゴットの内助の功などもあって、歴代のシュトラウス家でも珍しく親子二代で『偉大なる達人(グロースマイスター)』の称号を賜わり続けているバルドゥル。

しかし、そんな彼もここに来て『後継者問題』に頭を悩ませているのだ。

まぁ、実際には『後継者問題』自体は解決済みなのだが・・・。

バルドゥルは、妻・マルゴットとの間に巷でも評判の美人三姉妹を儲けている。

しかし、残念ながら男子を儲ける事が出来ずに、次代のシュトラウス家の跡継ぎをどうするかと言う問題が生じたのだった。

『ドワーフ族』の『鍛冶職人』に女性はいない。

これは、『伝統』とか『歴史』と言ったある種の『因習』も関わってくるのだが、単純な『身体的特徴』の違いも大きく関係する話でもある。

女性には、当然ながら『月経』が存在する。

身体能力的には、『この世界(アクエラ)』の特殊な『レベル制』上(同レベル帯であれば)ほぼ無いに等しいが、そう言った『バッドステイタス(あまり良い表現ではないが)』は、当然ながらその人物に影響を及ぼす。

体調が悪いとか、睡眠不足であるとか、疲労が溜まっているとか、そう言った『バッドステイタス』は、その人物に『弱体化』のペナルティを与える為、女性の『月経』も同じく『弱体化』のペナルティを与えられたのと同じ状態になる。

『鍛冶職人』は、(安全面も考慮して)基本的に二人一組で作業をし、場合によっては、数日間『工房』に籠りきりの状態になる事も珍しくない職業だ。

そう言った過酷な作業に従事するので、適材適所や効率を考えると、どうしても『男性の仕事』と言わざるを得ないのが実情なのである。

もっとも、『ドワーフ族』の中にも、迷信めいた『教え』があり、「女性は『穢れ』を持つ為、『鍛冶職人』にしてはならない。」と言う古くからの『格言(迷言?)』めいたモノもあり、それを信じ込んでいる古臭い考えを持つ者もいるが・・・。

そんな訳で、バルドゥルは跡継ぎの問題に直面していたのだが、幸いな事に、バルドゥルは弟子を数多く持ち、その中でも特に優秀なハインツと言う男がいた。

彼は、バルドゥルの長女・ジルケと恋仲になり、『達人(マイスター)』の『資格』を得て独立する事も可能なのにも関わらず、シュトラウス家に婿入りして跡継ぎになると申し出てくれたのだ。

ハインツは、アーデルベルトとバルドゥルの『偉大なる達人(グロースマイスター)』としての『名声』と『腕』に惚れ込んで弟子入りを志願した男の一人で、筋とセンスはピカイチだったのだが、『商売人』としての要領は悪く、良くも悪くも『職人』気質な男であった。

自身も、ハインツと同じく『職人』気質なバルドゥルは、『商売』に関する事は、妻・マルゴットにほとんど頼りきりだった事もあり、彼に親近感を覚え、大いに気に入り、可愛がってきた為、その言葉にはいたく感激したモノだ。

長女・ジルケも、妻・マルゴットの教育の賜物か、非常に『しっかり者』の『商売人』で、ハインツの『腕』もあり、次代のシュトラウス家はこれで安泰、に見えた。

ところが・・・。

三女にして末っ子のリーゼロッテが、突如として、自分が『後継者』となると言い出したのだったーーー。



『魔工』と言うのは、武器や防具、道具などの『物』に『魔法』の効果を付与する特殊技術の事である。

『ドワーフ族』は、『魔法』との親和性は『エルフ族』ほど高くはないのだが、『物』に『魔法』の効果を付与する『魔工』を先天的に得意としている種族なのだ。

と、言っても、現在の『偉大なる達人(グロースマイスター)』たるバルドゥルでさえ、数点の作品の中に、たまに『魔工』を付与出来る程度で、狙ってその効果を与える事はほぼ不可能に近かった。

シュトラウス家、次期当主候補のハインツも、バルドゥルよりもさらに確率は低く、十数点の中に一つくらいの割合だった。

偉大なる達人(グロースマイスター)』となるには、様々な選考基準があるのだが(それが公開される事はないが、『鍛冶職人』達は歴代の『偉大なる達人(グロースマイスター)』の顔ぶれに疑問はないので、選考基準自体は間違っていないと思っている)、『魔工』が優れているのも大きな要素の一つだろうと考えられている。

そして、バルドゥルの末娘、リーゼロッテはその『魔工』に天才的な才能を持っていた。

リーゼロッテは、父方の祖父母に特に可愛がられた娘で、父・バルドゥルは『偉大なる達人(グロースマイスター)』として、母・マルゴットはそのバルドゥルを支えて忙しく働いていた事もあり、幼少期を淋しい思いをしていた。

祖父にして、元・『偉大なる達人(グロースマイスター)』のアーデルベルトは、バルドゥルに家督を継いだ後も、一職人として町外れで小さな工房を営み、簡単な鍛冶仕事をしながら妻・デリアと悠々自適に暮らしていた。

リーゼロッテは、そんな家庭環境だった事もあり、祖父母の工房にほぼ入り浸りの幼少期を過ごしていたのだ。

だから、彼女の才能に気付いたのは祖父・アーデルベルトが最初であった。

アーデルベルトも、「女が工房に入るモンじゃないっ!」と若かりし頃は常々言っていた頑固者だったのだが、孫には甘かったのか、ただ単純に遊び感覚だったのかは分からないが、リーゼロッテに単純な鍛冶仕事を教えていた。

祖母・デリアは、そんな夫の様子に呆れながらも、彼の『腕』は本物なので、特に心配もしないで見守っていた。

なので、アーデルベルトが血相を変えて工房から母屋に駆け込んで来た時は、「この人に限ってまさかっ!?」との思いがよぎったのだった。

しかし、話を聞いてみれば、


「あ、あの()は『天才』じゃぞっ!勘やセンスはもちろんじゃが、『魔工』に対する天性の才能を持っとるわいっ!!」

「ア、アナタ、落ち着いて下さいなっ!」

「こ、これが落ち着いていられるかっ!!」


との事で、リーゼロッテはシュトラウス家の歴代でも類を見ない才能の持ち主である事が判明したのだ。

しかし、よくよく落ち着いて考えてみると、これほどの才能を持っていても、『ドワーフ族』の文化的にも、元・シュトラウス家当主としても、彼女を『鍛冶職人』とする事は出来ない事をアーデルベルトは思い出した。

だがしかし、彼女の才能を惜しいと考えたアーデルベルトは、散々悩んだ挙げ句、『ドワーフ族』の歴史としても、初の『魔工師』を目指す道を彼女に示したのだった。

現在の『ドワーフ族』での『鍛冶職人』とは、ぶっちゃけ何でも請け負う『何でも屋』で、『ドワーフ族』の卓越した『金属加工技術』があって初めて成立する。

しかし、地球での『鍛冶職人』は、その歴史上、難しい技術が確立していくほどに、『職人』も細分化していき、作業は専門分野に特化していった『流れ』もある。

『魔工師』とは、出来上がった『作品』に『魔工』を施す専門職で、構想自体は歴史的にも古くから存在したが、実際に成れる者がいない『幻の職業』であった。

これならば、灰色ではあるが、需要は引く手あまたにあり、女性が成っても問題ない(そもそも成れた者がいない)ので、リーゼロッテも素直にアーデルベルトの助言に頷いたのだった。

もっとも、彼女自身は幼かった事もあり、「これで大好きなおじいちゃんとおばあちゃんと一緒にいられるっ!」くらいの、軽い気持ちだった様子だが・・・。

『魔工』を施すには、金属を打つ作業が必須になってくるので(どのようにして『魔工』が施されるかは解明されていなかったが、リーゼロッテの存在により、『金打ち』作業時にその兆候がある事が判明した)、アーデルベルトは一通りの鍛冶仕事をリーゼロッテに仕込んだ。

リーゼロッテは、シュトラウス家やアーデルベルトが長年かけて確立していった『技術』を、ものすごい早さで吸収していった。

そして時は流れ、リーゼロッテが15になる頃、父・バルドゥルは、姉・ジルケと恋仲であったハインツを『後継者』にすると宣言したのだった。

リーゼロッテ自身も、ハインツの『腕』が自分よりも数段上である事は認めていたし、姉・ジルケとの仲睦まじい様子から、二人の邪魔をする気は毛頭なかった。

しかし、彼女も成長するにつれ、女の身では『鍛冶職人』と成れない『ドワーフ族』の現状に不満を持っていたのだ。

自分の『腕』は、すでに『達人(マイスター)』クラスである。

そういう自負みたいなモノもあり、ただ諦められずに声を上げたのだった。


「ボクが、シュトラウス家の跡継ぎになるよっ!」


彼女自身も、これは自分の我が儘であると分かっていたが、こうして、アーデルベルトとバルドゥルが頭を抱える事態と相成ったのだった。



◇◆◇



「ワシがリサ(リーゼロッテ)に鍛冶仕事など教えなければ良かったんじゃっ!」

「親父、それは違うさっ!忙しさにかまけて、リサを構ってやれなかった俺ら夫婦がわりーんだっ!あの()の才能は俺だって惜しいと思うよっ!親父が『魔工師』の道を示したのは間違ってないと俺は思うっ!」

「しかしのぅ・・・。」


ここは『黄金の輝き亭』。

『鍛冶職人』の親方連中御用達の店で、宿屋兼食堂として、少しグレードの高い店だ。

しかし、『ドワーフ族』の大酒飲み連中からすると、美味いメシと上質な酒を出す店として認識されている。

実際、初めは宿屋メインの店だったのだが、現在では食堂兼飲み屋としての売上の方が主で、宿屋はついでみたいな感じに成り果ててしまったが・・・。

まぁしかし、連日連夜賑わいを見せる繁盛店である。

しかも、親方連中御用達の店なので、ある種の社交場でもあり、『情報』や『噂』の飛び交う店でもあった。

ある者が言うには、『ドワーフ族』の『鍛冶職人』の現状を知るには、工房を訪ねるより、『黄金の輝き亭』に行った方が早いとの事だ。


「おうっ、シュトラウスのご隠居に旦那じゃねーかいっ!聞いたぜっ!リサ嬢ちゃんの話っ!」

「もう、ここまで話が広がってんのかいっ!?」

「そりゃーそうだろっ!アンタんトコは、『ドワーフ族』じゃ知らねぇヤツはいねぇほど名の知れた名家で、アンタは現在の『偉大なる達人(グロースマイスター)』じゃねーかっ!そんな有名人の噂話は、すぐに広まるぜっ!?」

「はぁっ、頭が痛くなるなぁ~。」

「おや、頭痛かいっ?そいつは良くねぇやっ!酒でも煽って、痛みを吹き飛ばしなっ!」

「そーゆーんじゃねぇよっ!」


ガッハッハッと豪快に笑い、声を掛けた男、バルツァー商会の親方『達人(マイスター)』・アイロスは、「しかし」と真剣な口調で続けた。


「リサ嬢ちゃんには悪いが、結論はもう出てんだろ?女じゃ『鍛冶職人』にゃあ成れねぇし、ハインツのヤツは俺から見たって並の『腕』じゃねぇ。ご隠居と旦那が頭を抱える事態でもねぇだろうよ?」


酒飲みとしてではなく、一人の『職人』としてアイロスは真剣に語った。

気が付けば、店内の親方連中も、談笑を止め、真剣な面持ちでバルドゥル達を見ていた。

『ドワーフ族』の『鍛冶職人』達は『仲間意識』が強い。

同じ馴染みの店に集まる連中は、特にその傾向にある。

バルドゥルとアーデルベルトは、一度赤ら顔を見合わせて、その心情を吐露したのだった。


「お前さん達とは、普段はライバルだが、この店にいる時、そして『ドワーフ族』の面子に関わる時は、ただの『職人』仲間じゃったな・・・。」

「そうだな・・・。皆も聞いてくれっ!確かに、バルツァーの親方の言う通り、結論は出てんだ。『後継者』はハインツ。これを曲げるこたぁねぇ。ただ、事はそう単純な話じゃねぇんだよ。」

「・・・リサ嬢ちゃんの才能の話だな?」


アイロスの相槌に、バルドゥルは頷く。


「ああ。皆も聞いた事くれぇあるかもしれねぇが、リサのヤツは、『魔工』に天才的な才能を持っている。『偉大なる達人(グロースマイスター)』の称号を賜ってる俺や親父でさえ、十点に一点『魔工』を施せたら御の字なんだが、リサのヤツは、()()()()『魔工』を施す事が出来る。」


バルドゥルの言葉に、店内の親方連中はざわめいた。


「っ!そ、そいつはっ・・・!」

「す、すげぇ才能だな・・・。」

「その才能に気付いたワシは、『鍛冶職人』には成れんでも、『幻の職業』・『魔工師』の道ならあるのではないかと思ったのじゃ。グレーゾーンじゃが、伝統も歴史もないのじゃから、女が成っても構わんだろうと・・・。」


続くアーデルベルトの話に、頷く親方連中もちらほらいた。


「ああ、確かにな・・・。」

「それほどの才能じゃあな・・・。」

「んで、親父がリサに一通りの鍛冶仕事を仕込んだんだ。『魔工』がどのように施されるかも分からなかったしな。リサの話だと、『金打ち』作業時に『魔素』とやらを()()()()に打つと出来るらしい。抽象的過ぎて、俺にはさっぱり分からんかったが・・・。」

「『鍛冶師ギルド』には登録出来んし、『鍛冶職人』を名乗る事も出来んが、ワシの所で修行させる事自体は問題ないからな。まぁ、そこら辺は、その工房主の裁量じゃしな。」


「なるほどねぇ」と、納得の声が上がる。


「しかし、リサの心情的には、成長するごとにある疑問が去来したんだよ。なんで女の身では『鍛冶職人』と成れないのか、と。」

「そいつは・・・。」


アイロスは、親方連中を代表として答えようとしたが、アーデルベルトがそこに制止を掛ける。


「リサもホントは理解はしとるさ。しかし、()()()()()()()()()。ある意味、『職人』らしい理由じゃな・・・。」

「んで、シュトラウス家の『後継者』に名乗りを上げたんだ。で、話は冒頭に戻る。『後継者』はハインツで決まり。それはもはや決定事項だ。しかし、それをそのままリサのヤツに突き付けて、『魔工師』として生きろとは俺達にゃあ言えねぇ。」

「それで完全に納得出来るなら、そもそも『後継者』に名乗りを上げる事もないからのぅ・・・。そう言った場合、最悪、その才能を完全に潰しかねん。中途半端な覚悟で続けられるほど、『職人』って仕事は単純じゃない。お前さん達も、同じ『職人』なら分かるじゃろう?」


アーデルベルトが重々しく言うと、店内はシンッと静まり返った。

その後、ポツポツと、「まぁそうだなぁ」、とか、「ソイツは難しい話だなぁ」とかの声が上がり始めた。

「どうしたモンか?」、店内の親方連中は酒を煽りながら頭を捻っていた。

と、そこへ、一人の男が質問を投げ掛けた。


「・・・先代とバルドゥルの親方。『人間族』の俺には、イマイチ要領を得ねぇんだが、『この国(ドワーフの国)』じゃ、女が『鍛冶職人』を名乗れねぇんだよな?んで、リサ嬢ちゃんはその事に不満を覚えて、『魔工師』としてではなく、『鍛冶職人』として『後継者』に名乗りを上げた。しかし、女の身では『伝統』やら『歴史』上ほぼ不可能に近く、このままでは彼女の才能が潰れかねぇ。だから、先代と親方は頭を抱えてる。その認識で、合ってるかい?」


その男は、ドニ。

『人間族』の『達人(マイスター)』と呼ばれた男で、『ドワーフ族』の親方連中も一目置く、数少ない『人間族』の名工だった。

少々革新的な男で、『人間族』の『鍛冶職人』達の常識である『ドワーフ族』の『金属加工技術』には敵わない、と言う従来の考えに疑問を持ち、『鍛冶職人』の本場たる『ドワーフ族の国』にまで修行に来た男だった。

そして、彼はシュトラウス家の『工房』に身を置き、メキメキと『腕』を上げていった。

最初は、珍しい『人間族』の『鍛冶職人』がいるって事で話題になったが、近年では彼の存在は、()()()『腕』の良い『鍛冶職人』だった。

これは、ドニに取っては最高の栄誉で、『ドワーフ族』・『人間族』の区別なく、『鍛冶職人』として認められている事の何よりの証だった。


「・・・そうじゃが、お前さんはドニじゃないかっ!なぜここに?」

「おや、先代はバルドゥルの親方に聞いちゃいねぇかい?俺ぁ、十年間の修行を終えて、近々『人間族』の国に戻るつもりなのよ。そんで、挨拶回りをしてる途中で、『黄金の輝き亭(ここ)』にも立ち寄ったんだけどよ・・・。わりぃとは思ったが、立ち聞きさせてもらったぜ。」

「そうかい。・・・やっぱり帰っちまうんだな。」

「惜しいのぅ。お前さんさえその気なら、ずっと『この国(ドワーフ族の国)』でその『腕』を奮う事も出来るじゃろうに。」

「わりぃな、親方、先代。俺の夢でよ。『人間族』の貧しい連中にも、俺の『腕』と『技術』を使って貰いてぇのよ。道具は使ってなんぼだろ?俺みてぇな変わりモンでも、何かの役には立つんじゃねぇかと思ってよ。」


「大将、エールと何かツマミをくれや」、とドニは注文しながら、アーデルベルトとバルドゥルの席に腰掛けた。


「でよ、さっきの話を聞いてて思ったのよ。まぁ、リサ嬢ちゃんに確認しないとアレだけどよ。・・・俺に、彼女を預けてみる気はねぇかい?」


ドニの言葉に、アーデルベルトとバルドゥル、そして店内の親方連中も顔を見合わせて疑問符を乱立させた。


「どういう事だい?」

「『ドワーフ族』の『鍛冶職人』の事情は分かったし、先代と親方の話ももっともだとも思う。『この国(ドワーフ族の国)』や『鍛冶師ギルド』の伝統や歴史を()()()じゃあ変えられないってんなら、()()()も方法の一つだろ?『人間族』側の『鍛冶職人』は、『ドワーフ族』側の存在により、『お上』からはそこまで需要がねぇ。つまり、そこまで()()()()もねぇのさ。だから、『人間族』側なら女の身で『鍛冶職人』になる事もそこまで難しい話じゃねぇ。もちろん、俺みてぇな変わりモン扱いされる覚悟は必要だろうがよ?」

「ふむ・・・。」

「んで、『人間族の国』でその『腕』を存分に奮って貰うのよ。『この国(ドワーフ族の国)』や『鍛冶師ギルド』が無視出来なくなるくらい『名』が売れりゃ御の字だな。『他種族』の文化や伝統にケチをつけるつもりはねぇけど、『人間族』のヤツらからしたら、なぜそれほどの『腕』のヤツを性別の違いで『鍛冶職人』と認めないのか?って疑問は当然出てくるだろうよ。俺らが生きてる内に、伝統や歴史を簡単に変えられるとは思っちゃいねぇけど、何もしなけりゃ、何も変わらねぇ。このまま『この国(ドワーフ族の国)』で、ただ才能を潰していくよりかは、思い切って飛び出してみるのも、俺ぁ一つの手だと思うがね?」


ドニの話は納得のいくモノだった。

何より、ドニ自身がそう言った『常識』を打ち破ってきた『体現者』なのだ。

だからこそ、彼は『常識』に囚われない思考が可能なのだった。

『ドワーフ族』は、大抵の者がその一生を『この国(ドワーフ族の国)』で過ごす。

だから、選択肢として、『他文化圏』に行くと言う思考がないのだ。

しかし、今、ドニから示された選択肢は、『ドワーフ族』の者達に取っては、新たな可能性だった。


「興味深い話だな。まぁ、決めるのはリサだから、俺が言うこっちゃねぇけど、俺は、ドニにリサを預けてみても良いかと思うが。ドニの『腕』は信頼してるし、何よりリサの未来に新たな可能性があるってだけでも、『この国(ドワーフ族の国)』にいるよりかははるかにマシだしな・・・。親父はどうだい?」

「・・・ワシも同じじゃ。ただ、心情的には孫が遠くに行くのは淋しくもあるが、このままじゃリサの為にならんしのぅ。」

「決まり、だな。まぁ、後はリサ嬢ちゃん次第だがよ?・・・ああ、それと先代と親方の心配の種を一つ減らしておこう。俺ぁ、これでも妻子持ちだからよ。可愛い娘っ子に手を出すつもりは毛頭ねぇから安心して良いぜっ!!」

「・・・その発言を聞いて、途端に心配になったんじゃがのぅっ・・・!?」


ゆらりと立ち上がったアーデルベルトを、バルドゥルが慌てて制止した。

アーデルベルトは、所謂『孫バカ』であった。


「親父っ!落ち着けよっ!ドニがそんな事する訳ねぇだろう!アイロスっ!オメーさんも笑ってねぇで手を貸せやっ!」

「おっ、なんだい?ケンカかいっ?」

「シュトラウスの先代も、まだまだ元気だねぇ。」


店側としては非常に迷惑な話だが、ようやく普段の活気が『職人』の皆に戻ってきたのだった。



こうして、ドニ家族とリーゼロッテは、『この国(ドワーフ族の国)』を旅立つ事となったのだった。



誤字・脱字がありましたら、ご指摘頂けると幸いです。


今後の参考の為にも、よろしければ、ブクマ登録、評価、感想等頂けると幸いです。よろしくお願い致します。

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