反撃
続きです。
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“能力者”同士の戦いにおいてもっとも重要な要素は、実は“シンプルさ”、なのである。
これが何故かと言うと、単純である。
そもそも“戦い”には、複雑な事は必要ないからである。
例えば、命のやり取りを主とする戦いでは、いかに素早く相手を殺傷出来るか、が重要になってくる。
例え相手がとてつもない使い手であろうとも、先に致命的な一撃を喰らわせればそれでおしまいだからである。
つまり、“色々な技を一杯持っている”よりも、“相手を確実に仕留める技を一つ持っている”方が、時に強いのである。
また、これと似たような話で、同じ組織を運用する上では、様々な戦い方や武術が入り乱れているよりは、統一的、規格的になっている方が様々な面で有利となる。
それ故に、これは以前にも言及した通り、今現在の“能力者”達の“能力”は、画一的なものとなっているのであった。
一方の超越者達には、当然ながらそんな考え方など存在していない。
故に、ただただデタラメな“力”を振るう事しか出来ないのである。
もっとも、その“火力”は非常に脅威である。
限界突破を果たした“能力者”達と、人工“神化”を果たした超越者達の力は、それこそ自然災害に匹敵するレベルだからである。
一個の人間が、あるいは組織が、地震や雷、台風に敵う筈もない。
それほどの力の前では、人などちっぽけな存在なのである。
故に、その力に増長するのは致し方ない事であろう。
今や超越者達は、それこそ“神”に近しい力を得たのだから。
しかし、当然ながら同程度の存在ならば、それらを防ぐ事が可能なのである。
超越者達が対峙している存在は、限界突破を果たした“能力者”達だ。
一見すれば押している様にも見えるが、超越者達のデタラメな攻撃の前に逃げ惑っていたのは、それは敵わないからそうしている訳ではなく、超越者達の攻撃をかわしつつ、あるいは防ぎつつ、超越者達の力や行動パターンを分析する為なのである。
再三述べている通り、情報の重要性など今更語るまでもない。
また、相手を確実に仕留める事の出来ない力など、今の“能力者”達には脅威でもなんでもないのである。
そして残念な事に、ネモの試練を受けた“能力者”達は、その思考力も超越者達とは桁違いに高まっている。
故に、セレウスの発言は強がりでもなんでもなく、ただ純然たる事実に過ぎないのであるが、増長した超越者達は、その事を理解出来ずにいたのであったーーー。
・・・
「喰らいなさい、『炎の暴風』!!」
「へっ!」
超越者の放った一撃は、ネモ(ドラゴン)のブレス攻撃に匹敵する強大な火球であった。
その中心温度な数千度、周辺温度も数百度に達する事だろう。
巻き込まれれば骨も残らない。
仮に上手く回避したとしても、その影響範囲は思いの外広いので、内部も身体も無事では済まない事だろう。
しかし、
「やはり無事ですか・・・。どうやら、私達と同様に、あなた方も“バリア”が使えるのですね・・・。」
「・・・。」
当然の如く無傷なセレウスに、対峙した超越者はそう結論付けた。
“バリア(シールド)”とは、障壁、防壁、防護壁の事であり、災害や攻撃から自身を守る為のものである。
また、特にサイエンス・フィクション(SF)におけるそれらは、主にエネルギーのフィールドを展開する事によって障壁を作る防御システムの事を指す場合もある。
で、セルース人類にとっては、これらは実はかなり馴染み深いものでもあった。
宇宙へと進出を果たした彼らとっては、“バリア(シールド)”はある種の生命線だ。
何故ならば、宇宙はかなり過酷な環境だからである。
宇宙空間には、様々な脅威が溢れている。
惑星内に居住していた頃は、大気という天然の“バリア(シールド)”が存在したが、当然人工物にはそんなものは存在しない。
浮遊している粒子やスペースデブリ、小惑星などの衝突、放射線などの自然災害から身を守る為には、強固な防壁だけではなく、エネルギーの力場の存在が必須となったのであった。
故に、スペースコロニーに衛星基地、輸送船などの宇宙船にも、この“バリア(シールド)”が装備される事となったのであった。
また、あまり効果は見込めなかったが、魔素に対する対策としても、セルース人類の拠点にある施設にもこの“バリア(シールド)”は当然の如く搭載されている。
と、まぁ、これほど身近な存在なのであるが、しかし一方で、個人の携行用としての“バリア(シールド)”は存在しなかったのである。
これは、当たり前だが、“バリア(シールド)”を発生させる為には、それなりにエネルギーが必要だからである。
居住区や宇宙船の様な大型のものであれば、当然エネルギー施設も存在するので、“バリア(シールド)”を発生させるに足るエネルギーの供給が可能である。
しかし、個人が携行出来る程度のものでは、それほどのエネルギーは生み出せないのであった。
ただし、そこに“能力”が関わってくると話は変わってくる。
“能力者”達は、個人でとてつもないエネルギーを扱う事が可能だ。
それらを、超感覚的知覚(ESP)や、サイコキネシス(念力、PK)として扱っているのである。
ならば、“バリア(シールド)”を作る事も、当然ながら可能である。
実際セレウスらも言及していた通り、超越者達は、仲間ごと巻き込んだメチャクチャな攻撃を行っていたが、この“バリア(シールド)”の存在によって無事であった。
まぁ、それが分かっているからこそ、仲間を巻き込んだ攻撃が出来たとも言えるのであるが。
超越者達に出来る事は、当然“能力者”達にも可能である。
そう考えて、そう結論付けたとしても不思議な話ではなかったのである。
もっとも、セレウスが行った事は、“バリア(シールド)”ではあるものの、また超越者達が考えていたものとはまた別物であったのだが。
「しかし、そうと分かれば話は簡単ですよ。貴方の“バリア(シールド)”を超える出力で攻撃すれば良いだけの事ですからね!」
そう断じた超越者は、不敵な笑みを浮かべていた。
当たり前だが、いくら“バリア(シールド)”とは言えど、絶対無敵の防御ではない。
少なくとも、“バリア(シールド)”の出力を超えるエネルギーをぶつけられたら、それが突破されてしまう恐れがあるからである。
もっとも、大型の施設に装備されたそれらは、安定的なエネルギー供給が可能なので、仮にそれらが突破されたとしても、すぐに再展開が可能である。
それ故に、スペースコロニーにしても、宇宙船にしても、ここまで大きなトラブルもなく無事にやって来る事が出来た訳である。
しかし、個人の“能力”に依存する“バリア(シールド)”では、そのエネルギーを自ら生み出すしかない訳で、それを超えるエネルギーをぶつけられたら、再展開は不可能に近い訳だ。
仮に可能であったとしても、再展開までにはかなりの時間がかかる。
それは、戦闘においては大きな隙となるだろう。
つまり、彼の言う攻略法は、ある意味理にかなっていたのである。
「・・・させると思うか?」
「反撃するおつもりですか?しかし残念ですが、我々も当然ながら“バリア(シールド)”を扱いますよ?貴方の攻撃がこちらに届く事はありえませんよ。さあ皆さん、一斉に攻撃しましょう!」
「・・・。」
押し黙ってしまったセレウスに、超越者達はニヤリと笑い、再び攻撃態勢に移ろうとした。
「・・・あれっ?」
「・・・どうした?」
しかし、異変はすぐに現れた。
彼らは力を振るおうとしたが、何故か能力が発現しなかったのである。
「おかしいですね・・・。力が発現しません。」
「っ!?わ、私もだっ!」
超越者の一人の言葉に、周囲の者達も力の発現を試してみたが、やはり結果は同じであった。
静かに動揺が広がる中、セレウスがニヤリと笑った事に気が付いた彼らは、
「・・・な、何をしたんですかっ!?」
と、問い質したが、
「答えるわきゃねぇだろ。むしろ、何でそれで答えが返ってくると思ったんだか・・・。」
呆れた様なセレウスの態度に、結局何も分からず終いであった。
むしろ気にするべきは、“何が起こったのか?”ではなく、“今はどういう状態なのか?”という事であろう。
能力が発現出来ない以上、今の超越者達には“能力者”に対抗する手段がない事を意味する。
遅ればせながらその事に気が付いた超越者達は、先程までの余裕の態度は消え去り、急に慌て出した。
「さて・・・。」
「ち、ちょっと待って下さいっ!い、一時休戦しませんかっ!?」
「・・・はぁ?」
「そ、そもそも、悪いのはそちらの方ですからね?私達が築き上げた施設を襲撃したんですから、こちらが防衛するのはむしろ当たり前の話だ。」
「・・・ま、そりゃそうだがな・・・。」
「でしょう?しかし私達は寛大なので、貴方がここで投降するならば、これ以上の攻撃はしないでおいてあげますよ。」
「ま、出来ないんだけどな・・・。」
そして、口に出したのは、上から目線でありつつの、遠回しな命乞いであった。
ただ、彼らの言い分も半分は間違っていない。
襲撃を仕掛けたのは“能力者”達の方であるから、彼らからしたら防衛は当たり前の話なのである。
しかし、その施設は、おぞましい所業によって出来上がったものでもある。
彼らの暴走を止めるのが目的である“能力者”達からすれば、この施設を奪取、あるいは破壊する事が、ひいてはセルース人類の為でもあるのである。
それに・・・。
「えっと、何か勘違いしてるみたいだから一応行っておくけど、どんな理由であれ、一度戦場に出た以上、自分も殺られる覚悟は当然持ってなくちゃならないぜ?それと、散々これまで嬲り殺し、みたいな事をしておいて、今更その言い分は虫が良すぎやしないか?」
「そ、それはっ・・・!」
「後、最後になるが、戦いに派手さは必要ないんだぜ?殺れる時にキッチリと殺る。それで話は終わりだ。」
「な、何をっ・・・!うっ・・・!!」
「ど、どうしたっ!?・・・がはっ!!」
セレウスの発言の後、超越者達が次々とその場倒れ伏した。
「な、何をっ・・・!」
「生憎、俺はチャンスを見過ごすほどお人好しじゃねぇからよ。ま、恨むんなら、テメェの大して考えなかった選択を恨むんだな。」
その言葉を最後に、数名の超越者達は物言わぬ躯となった。
こうして、先程の激しい戦闘がまるで嘘かの様に、アッサリと決着がついたのであったがーーー。
・・・
「・・・流石だな、セレウス。」
一方、必死で術式を組み上げていたハイドラスは、それでも仲間達の動向は把握していた様である。
ここで、セレウスが何をしたかを簡単に解説しておこう。
まず、大前提として、これまで何度となく言及した事でもあるが、彼ら“能力者”達と超越者達が扱う力は“魂の力”、つまり超常的な力なのである。
つまりは、通常の物理現象とは異なるのだ。
もちろん、発現した時点から、通常の物理現象へと移行していくので、超越者達が勘違いしていたのも致し方ない部分も存在するのだが。
では、超越者達が何を勘違いしていたかと言うと、“バリア(シールド)”に対する認識であった。
先程も述べた通り、“バリア(シールド)”は、外部からの現象、すなわち、浮遊している粒子やデブリ、小惑星や放射能、それらを含めた攻撃から身を守る防御機能の事である。
逆に言えば、その内部を守る事は、当然ながら不可能でもある。
(“盾”を想像すれば分かりやすいと思うが、飛んできた弓矢や銃弾などを弾く事は出来ても、その“盾”の内側にいきなりそれらが現れたら、当然それらを防ぐ手段はないのである。)
もっとも、通常ならば、そうした状況を想定するだけ無駄だ。
何故ならば、いくら“超能力”、“魂の力”と言えど、所謂“テレポート”や“アポート”は非常に難易度が高いからである。
少なくとも、無機物ならばともかく、生物を特定の座標に送り込むのは不可能に近い。
(もちろん、その対象者、なおかつ術者が人間としての限界を超えていた場合はその限りではないが。)
しかし、ここで、先程も述べた“シンプルさ”が重要になってくるのである。
先程も述べた通り、“能力者”達や超越者達が扱う力は、つまり超常的な力なのである。
つまり、遠くからでも物体などに干渉する事が可能なのだ。
しかも、“テレポート”や“アポート”など出来なくとも、そこには超越者自身が存在する。
彼らに干渉してしまえば何の問題もないのである。
もちろん、それには微細なコントロール技術が要求される。
“バリア(シールド)”の効果範囲に触れない様に、なおかつ超越者自身の干渉力を超える必要があるからである。
しかし、セレウスらは“自己強化”を達人の域で収めており、なおかつ、ネモのアドバイスに従って、他者に対する所謂“弱体化”についても研鑽を重ねている。
しかも相手は、無駄話をする隙さえあったのだから、その難易度は更に下がる事となる。
先程は“魂の力”と言ったが、やはりそれを制御しているのは脳機能である。
ならば、その脳を揺らして脳震盪を引き起こせば、当然ながら“能力”を上手く発動出来ない状況となる。
後は簡単だ。
相手の血管なりを詰まらせたり、空気を送り込めば良い。
確かに派手さは一切ないし、やっている事はえげつないが、しかしこれは魅せる試合ではなく、あくまで生の戦いなのである。
相手に己の力を誇示する必要性がそもそもなく、必要なのは、確実に相手を仕留める手段と方法だけなのである。
セレウスは、ある意味戦いのプロであるからこそそれが分かっており、また、超越者達はあくまで戦いの素人だからこそ、その事が分かっていなかったのである。
(もちろん、セレウスとて人でなしではないので、相手を殺傷する事に関して全く葛藤がない訳でもないのだが、科学者グループ、あるいは超越者達を放っておく事は、ひいてはその後に多大な人々に被害が及ぶ事が見えていたので、すでにそこら辺は割り切っていた。)
それに、セレウスの言葉がある意味では全てである。
理由はどうあれ、戦争に参加する以上、己の生死が賭ける覚悟が必要だ。
それは、相手を殺す覚悟でもある。
残念ながら超越者達は、素人故にその覚悟が全くなかったのであった。
「こちらも負けてはいられないな・・・。それに、他の仲間達も反撃に転じている。向こうも慌てだすタイミングだろう。完成を急がなければっ・・・!」
・・・
〈・・・・・・・・・へっ?〉
「・・・・・・・・・い、一体、何が起こったのですか?」
一方、余裕の観戦モードに入っていたマギとソラテスは、セレウスと超越者達の戦いの結末を、ボケッと見ていた。
ハイドラスは即座に理解したが、“能力”の事を表面上しか理解していないマギとソラテスでは、押している戦いから一転して、いきなり超越者達が倒れた様にしか見えなかったからである。
(そんな感情があるのかは定かではないが)マギは慌てて超越者達の状況を確認する。
〈・・・呼吸、脈拍、熱反応、確認出来ず。・・・生命反応、ナシ。・・・間違いなく、死んでいます。〉
「そ、そんなっ・・・!」
突然の超越者達の死という結末に、ソラテスはそう叫び声を上げた。
もちろんソラテスとて、これが戦いである以上、命のやり取りである事は理解していた。
しかし、(彼らから見れば)突然何の前触れもなく死ぬ事は、流石に想定外だったのである。
(もっとも、逆にそれがあまりに不自然故に、セレウスが“能力”を使って何かをした事までは察する事が出来たが、何をどうしたのかはサッパリ想像がつかなかったのであった。)
「・・・彼の固有の能力、でしょうか?」
それ故に、ソラテスは見当外れな仮説を言葉にした。
もっとも状況的にみれば、セレウスが所謂“即死能力”を持っていると思ったとしても不思議な流れではないのであるが。
〈分かりません。正直、私は“能力”については詳しくないですからね。あくまでサポート用の人工知能ですから・・・。〉
「ふむ・・・。」
もちろんマギも、“アドウェナ・アウィス”が遺した遺産であるから、様々な知識やデータは持ち合わせているし、それらを組み合わせて新たなる物事を創造する事は可能だが、創造力や発想力においては、人類の足元にも及ばないのである。
逆に、“能力”に関する知識やデータについては、ネモの方が遥かに優秀である。
ただその反面、ネモにはマギほどの技術力に関する知識やデータは持ち合わせていない。
ここら辺は、各々の役割の違いによるところであろう。
「・・・いずれにせよ、彼には最大級の警戒が必要でしょうね。同胞達にはそう警告を発しておきましょう。」
結局、何の結論も得られずに、場当たり的な対処を述べるに留まるソラテス。
しかし、本来はそれが当たり前なのだが。
〈そうですね・・・。それと、先程も述べた事ですが、こうなればやはり新たなる人員を投入する事を本格的に視野に入れる必要性が生じてくるかもしれません。〉
「それは致し方ない事でしょう。まだこちらに不利な状況になった訳でもありませんが、万が一の場合を考えると、そうするのが妥当な判断だと思います。」
〈結構。では、いざという時の為に、人工“神化”の準備はこちらで進めさせて頂きますよ?〉
「了解しました。」
先程の楽勝ムードから一転し、思わぬセレウスの反撃に焦ったマギとソラテスは、そんな対策を話し合ったのだった。
しかしそれでも、彼らはまだ何とかなると思い込んでいたのである。
だが、彼らは完全に読み違えていた。
すでに、この決戦の決着はつきつつあった事に気付いていなかったのであるーーー。
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