厄災
続きです。
◇◆◇
ーーードゴーンッ!!!
「な、何だ何だっ!?」
「地震か!?それとも噴火かっ!!??」
その日、夜半に予期せぬ大騒音が響き渡る中、現場にほど近い場所に集落を形成していたアクエラ人達が混乱しつつ外に飛び出してくる。
音の方を見やると、セルース人達の拠点の方からは、自然災害もかくやという現象のオンパレードであった。
それを見たアクエラ人達は恐れ慄く。
「な、なんだ、ありゃ・・・!」
「か、神々の怒りかっ・・・?」
アクエラ人達にとって、セルース人類はまさに雲の上の存在であった。
故に、一部の者達は所謂“カミサマ”の様に崇拝していたし、もう少し現実的な考え方を持っている者達も、彼らと敵対するよりも、その恩恵に与ろう、と友好的、協力的な関係を築き上げていた。
故に、これまで彼らが争う姿など見た事はなかったのだが(もちろん、突如として現れた彼らに警戒感を示し、所謂“縄張り争い”を仕掛けたグループが存在した事も知っていたし、その結末についても伝え聞いてはいたが。)、この日初めて、彼らはセルース人達の本気を目撃したのであった。
もちろん、これは限界突破を果たした“能力者”達と、人工“神化”を果たした超越者達の衝突であるから、いくら超技術を持つセルース人類と言えど、(兵器類を用いずに)この規模の戦闘が出来るのは彼らだけなのであるが。
しかし、そんな内情を知らない彼らにとっては、今見たものが全てであり事実である。
セルース人類は、神の如き知性と技術、そして恐ろしい力を持っている(←New)、という様に情報が更新されたのであった。
世界の終わりすら予感させる様な激突の中、むしろ慌てて逃げ出すでもなく、もはや茫然自失の体でその光景を彼らは震えながらただただボーっと見ていたのであったーーー。
・・・
ーーードゴーンッ!!!
〈・・・始まりましたか。〉
「ええ。ってか、せっかくの防衛機能でしたが、あんまり役に立ちませんでしたね・・・。」
〈まぁ、想定の範囲内ですよ。本来ならば非常に強力な守護者ですが、パワーアップを果たした“能力者”達の相手ではありませんでしたね。しかし、それでもキッチリと役割は果たしてくれました。彼らの足止めをし時間を稼ぐ、という役割を、ね。〉
「やはり、本命は我々の同胞だけ、と言う事になりますか。」
〈ええ。彼ら相手では、もはや多少の罠など大した意味を持ちませんからね。防衛機能で足止めをしつつ、超越者達が集結する時間を稼ぐ。これが、もっともベストな選択だと思われます。〉
「ふむ・・・。」
戦略的に見れば、罠を張り巡らす事はある種のセオリーでもある。
特に防衛側は、それをする事によって優位に立ち回る事が出来るからである。
しかし、元々“超能力”を持つ“能力者”達には、そうした罠は効果が薄い傾向にあるのだ。
罠の効果範囲外からそれを何とか出来る手段を持つからである。
もちろん、その為には、罠がどこにあるのかを事前に把握出来ている必要があるのであるが、セレウスほどではないにしても、限界突破を果たした事で危険なポイントを何となく察知出来る今の“能力者”達には、もはや罠などあってないのも同然なのである。
つまり、罠などでは、今現在の“能力者”達をどうこうする事は極めて困難だったのである。
そこで、自動防衛機能として突貫で組み込んだセシルと、そのブレーンであるマギの力の一部をコピーした人工知能をわざわざ用意したのであるが、それを本命が到着するまでの足止めにする、という非常に豪華な捨て石としたのであった。
結局のところ、限界突破を果たした今の“能力者”達をどうこう出来るのは、同じステージに立っている超越者だけしかいなかったのである。
「しかし、相手方は貴方の予測以上に少数の人数で攻めてきましたね。」
〈そうですね。パワーアップを果たした者達がそれだけしか存在しなかったのか、はたまた向こう側の調整が上手く行かなかったのか・・・。いずれにせよ、こちら側にとっては都合が良い事ではありますがね。〉
「それでも勝算がある、とは考えないのですか?」
〈ふむ・・・。いえ、それはないでしょう。おそらく彼らは、パワーアップした自身の力に絶対的な自信を持っている。マトモにぶつかっても、この人数でも勝てると踏んだのだと思います。〉
「・・・。」
マギの言葉に多少の不安を残しながら、しかしソラテスは無理矢理己を納得させて戦況を注視する。
どちらにせよ、自分達に優位な状況である事には違いないからである。
むしろ、ここで超越者達が敗退する事があれば、ソラテスらが一瞬でピンチとなる。
そうさせない様に、今や超越者の一人となったソラテスも、表向きは全体的な指揮を取っている立場であるが、しかし戦況が芳しくなくなったら、その指揮権をマギに譲渡して、自身も現場に赴く必要が生じるかもしれない。
そんな彼らの目の前のモニターでは、“能力者”達と超越者達の異次元バトルが繰り広げられているのだがーーー。
・・・
ーーードゴーンッ!!!
「アハハハハッ!どうですっ?私達の力はっ!?」
「くっ・・・!奴ら、めちゃくちゃしやがるっ・・・!」
荒れ狂う現象を巻き起こす超越者達に、セレウスは愚痴をこぼしながら悪態をついていた。
以前にも言及したかもしれないが、移民船団には“軍隊”、という存在が明確には存在していなかった。
これは、彼らの元々の目的が移民、入植であり、他惑星への侵略ではなかったからである。
もちろん、だからと言っても全く危険がない訳でもない。
少なくとも、仮に入植可能な惑星を無事に発見したとしても、現地に知的生命体が存在し、こちらが友好的に接したとしても、相手がどう捉えるかは分からないし、そもそも対話する事すら出来ない可能性もあったからである。
それに、知性の欠片もない様な危険な生物が存在している可能性もある訳で。
それ故に、“能力者”という存在を同行させてその抑止力としたのであった。
(それに、こちらも以前に言及したかもしれないが、そもそも地場や電磁波などの影響によって、他惑星にてセルース人類の武器類が正しく機能しない可能性もあったのである。
そこで、どの様な環境であっても、最悪“能力”という力を行使出来る“能力者”達の存在は、セルース人類にとってはある種の切り札となったのであった。)
故に、もちろん軍事経験のある者達も存在していたし、“能力者”達も存在するのだが、あくまで傭兵扱いや抑止力としての側面が強く、明確な“軍隊”が存在しなかったのであった。
つまり逆に言えば、やや軍事色の強い“能力者”達が造反した以上、科学者グループの側には、所謂“戦いのプロフェッショナル”が存在しない事と同義なのである。
(もちろん、セルース人類の知識や、マギの知識などは存在するのだが。)
そして、当然ながら超越者達もその多くが、戦いの作法など知らない、所謂“素人”の集まりだったのである。
つまり、今回の戦いの構図として見てみると、“プロ”VS“素人”の戦い、という事となる。
じゃあ、“能力者”達の方が圧倒的に有利じゃないか、と思われるかもしれないが、実際にはそうではない。
“素人”というのは、時として思いもよらぬ行動を起こす事があるからである。
特に玄人になればなるほどまず排除する選択肢を、平気で選んでくる事もあるのだ。
当たり前だが、組織立って動く以上連携は非常に重要な要素である。
何故ならば、お互いに好き勝手に動いてしまうとお互いに足を引っ張ってしまう恐れがあるし、最悪同士討ちをしてしまう可能性もあるからである。
それに、ある程度統一性、規格性を持っていた方が、時として有利となる事もあるのだ。
歴史的にも、一騎当千の猛者が数多く存在するが、しかし、逆に返すと、彼らは換えの効かない存在でもある。
もし仮に、彼らの様な存在がやられてしまったら、その組織はあっという間に瓦解してしまう恐れがあるだろう。
あまりよろしくない例えだが、人材を部品だと仮定すると、一騎当千の猛者や英雄と呼ばれる人材とは、すなわち特別な部品に該当する。
特別な部品は、製造や加工に時間を取られてしまうので、すぐに換えが効かない事が多々ある。
そうなれば、修理するのに非常に時間を要してしまう可能性があるのである。
しかし、仮に壊れた部分が換えが効く、すなわち統一的、規格的な部分であれば、すぐに別の部品を用意する事が可能であるから、修理に用いる時間は非常に少なくて済む訳である。
これは、現実的、組織的な話だと、特殊な存在がいる、という事は、組織の再編や立て直しが非常に困難になる事と同義である。
が、逆に、特殊な存在がいない組織は、それらが非常にスムーズとなるのである。
当たり前だが、特に“軍隊”というのは、人的損失を初めから計算の内に入れておかなければならない。
戦いである以上、どれだけ安全策を用いたとしても、負傷や死亡のリスクから逃れる事は不可能だからである。
そうして考えると、“軍隊”という組織には、一人の“天才”は必要なく、全体的なレベルに重きを置く方がむしろ重要なのである。
実際、これも以前に言及したが、“能力者”達はやや軍事色が強いので、これらの事情も踏まえた上で、統一的、規格的な能力を操る様に訓練しているし、連携や全体の練度を高める方策を取っているのである。
だが、超越者達にはこうした常識がないし、ある意味換えの効く存在である事もあって、平気でセオリーを無視した行動を取ってくるのである。
具体的には、仲間をも巻き込んだ範囲攻撃、所謂“フレンドリーファイア”などである。
炎や氷、暴風や電撃など、好き勝手な攻撃を繰り出して、味方ごと巻き込む超越者達に、“能力者”達は呆気に取られる。
彼らからしたら、常識にはありえない攻撃を繰り出してくるからである。
いくら戦い方に関しては玄人とは言えど、思わぬ行動の数々に混乱したとしても不思議ではないだろう。
もちろん、だからと言って、それでやられるほどヤワな者達ではないが、しかし、思わぬ苦戦を強いられる事となってしまったのは紛れもない事実である。
「チッ・・・、オメェら、一旦距離を取れっ!」
「「「「「お、応っ!!!」」」」」
セレウスの叫びに、他の“能力者”達はハッとしてそう返事を返した。
「アハハハハ、どこに行こうと言うのですかっ!?」
「チッ・・・!まるでデカい子供みてぇだな・・・。」
子供の予測不能っぷりは今更語るまでもないだろう。
彼らには“経験”というものがないので、危ない事も非常識な事も平気で行ってしまう。
しかしそれは、様々な経験と成長と共に、徐々に世の中の理なんかを学んでいく重要なプロセスなのであるが、しかし仮に、そんな“子供”が強力な力を持っていたとしたら、それは危険極まりない事であろう。
いきなり大きな力を得たとしたら、増長するのはある意味では当然の流れであろう。
しかも彼らは、戦いの素人故に無茶苦茶な戦い方をする一方で、元々それなりの学を持っていた事もあってか、無駄に頭の回る者達でもある。
一見すれば無茶苦茶な戦い方、セオリー無視の行動ではあるのだが、しかし一方で、そこには仲間達がその程度では傷付かない、という計算もあってか、下手に常識を持っていた“能力者”達に対する、ある種の特効が上手く機能していたのであったーーー。
・・・
「押されているな・・・。ま、あれほど無茶苦茶な行動を取られたら、さばくだけで一苦労だろうが・・・。」
一方、思わぬ苦戦を強いられている仲間達の状況を確認していたハイドラスは、指揮官として一歩後ろから全体の状況を見守っていた。
当たり前だが、指揮官である彼が最前線に立つ訳にはいかない。
何故ならば、指揮官が倒されてしまったら、それでも負けが確定する訳ではないのだが、まず間違いなく部隊に動揺が広がるからである。
そうなれば、最悪全滅、という結果になりかねないのである。
それ故に、普通指揮官は、もっとも最後方におり、そこで全体の指揮を取るのである。
それと、これは誰にも言っていない事ではあるが、彼自身もとある作戦を水面下で進行させつつあったのである。
「ま、しかし、セレウスや仲間達なら大丈夫だろう。こちらはこちらで、一刻も早く術式を完成させてしまわないと・・・。」
彼はそう判断し、ポツリと呟いた。
端から見れば、それは指揮官としての仕事を半ば放棄している事と同義であるが、しかし、仲間達もそれは承知していた。
当たり前だが、現実はゲームではないので、いくら指揮官と言っても仲間達の行動を逐一指示出来る訳ではない。
スポーツなんかと一緒だ。
全体的な作戦などは初めに示す事は出来ても、事態が進行している中では、後は現場の兵士、プレイヤーに判断を委ねるしかないのである。
故に、退く、攻める、現状維持、などの総合的な判断以外は、仲間達の裁量に任せていたのであった。
それに、この程度の難題は、セレウスらにとっては大した問題ではない、という信頼感もあった。
まがりなりにも彼らは、ネモの試練を生き延びた者達なのだから。
超越者達も、予測不能、という意味では負けていないが、ネモの試練はそれ以上に厳しいものであった。
まず、その時点では、真っ向勝負では何をどうしても敵わない力の差がネモことドラゴンと“能力者”達の間にはあった。
それを覆すには、自分の持てる全ての技術、思考をフルで活用しない限り不可能だったのである。
そして、まがりなりにも今この場に立っている“能力者”達は、(一応はネモの忖度があったとは言えど)その厳しい条件を生き延びた者達なのである。
その“経験”、プラスパワーアップも果たしている事から、今は押されている様に見えても、それで即やられるほどヤワな者達ではないのである。
仲間達を信頼し、自分は自分で別方向からの戦略を考えていたハイドラスであったがーーー。
・・・
〈ハハハ、圧倒的ではないですか。〉
「そう・・・、ですね・・・。」
〈おや?何か不安でも・・・?〉
「あ、いえ、別に・・・。」
〈ふむ・・・。〉
一方の超越者達の指揮官たるマギとソラテスは、両陣営の激突を見ながら、そんな会話を交わしていた。
確かに一見すれば、凄まじい力を持ちつつ、素人故の予測不能な行動によって、“能力者”達が苦戦を強いられている状況である。
それでも、流石はパワーアップを果たしている事もあってか、まだ“能力者”達の数が減っている訳ではないのだが、明らかに戦況は超越者側に有利なのである。
様々な知識や技術を有しているとは言えど、あくまで戦闘特化の人工知能ではないマギが勝利を確信したとしても不思議ではない。
しかしソラテスは、“能力者”達の底力を知っているからこそ、これほどまでにこちらに有利な状況と言えど、不安を払拭する事が出来なかったのである。
科学を信奉する者としてはそれこそナンセンスかもしれないが、彼には嫌な“予感”があったのである。
そしてそれは、大当たりであった。
だが・・・、マギは続ける。
〈まぁ、戦いは終わるまで確かに分からないものですよね。しかし、例えこの場は乗り切られたとしても、最悪こちらはまだまだ戦力を投入出来る状況です。まぁ、貴方としてはあまり望むものではないかもしれませんが・・・。〉
「・・・。」
“擬似霊子力発生装置”が健在であれば、新たなる人材に人工“神化”を施し、超越者を誕生させる事が出来る。
つまり、数の上での優位は、そのまま戦力の再投入が可能という事に直結するのである。
これなら、当然ソラテスらに負けはなくなる。
もっとも、ソラテスからしたら、力を持つ者達が多くなればなるほど、当然ながら自身に歯向かう可能性もそれに比例して高くなってしまうので、なるべくならその手は使いたくない、という事情もあるのだが、ここで負ける事はあってはならないので、渋々と頷く他なかったが。
「・・・今は個人的なわがままを言っている状況ではないでしょう。将来の事を不安視するよりも、今は目の前の出来事を乗り切るのが最優先事項ですからね。そうなったら、貴方の意向に従いますよ。・・・まぁ、なるべくならそうならない事を祈りますが、ね。」
〈結構。まぁ、私の見立てでは、上手くすればこのまま押し切れそうな気もしますがねぇ〜。〉
「・・・。」
・・・
行けるっーーー!!!
マギと同様に、“能力者”達と相対していた超越者達は、そんな事を思っていた。
実は“能力者”達に対する憧れや嫉妬心みたいなものを、所謂“非能力者”達は抱いていたのである。
これは当然であろう。
人は自分にはないものに憧れを抱く生物だからである。
もちろん、“能力者”の過去の境遇から鑑みれば、力がある事が幸運であるとは限らないのであるが、持たざる者達からしたらそんな事は分からないものである。
そして紆余曲折を経て、今、超越者達は、“能力者”達と同じ様な力を手にする事となったのである。
ハッキリと言って、超越者達は調子に乗っていた。
これは当然であろう。
憧れていた力を、自身も扱う事が出来る様になったからである。
しかも、その力によって、“能力者”達を圧倒している無双状態なのである。
これで増長しない方が、中々難しい事であろう。
しかし、
「・・・よっしゃ。何となくパターンは見えてきたな。」
「・・・・・・・・・はぁ?」
散々逃げ惑っていたセレウスが、そんな事をポツリと呟いたのを耳にすると、超越者の一人は小馬鹿にした様な表情で聞き返した。
「もしかして、私に勝てるつもりですか?」
「勝てるも何も、百パー俺が勝つに決まってんだろ?」
「・・・フッ。」
そんな世迷い言を言い始めたセレウスに、いよいよ頭がおかしくなったのだな、と超越者は考えていた。
「今まで散々逃げ回っていたくせに。」
「いやいや。戦力の分析は基本中の基本だろ?未知の相手に、いきなり正面切って戦う方がどうかしてると思うけどなぁ〜。」
セレウスの発言はもっともである。
これは、チンピラ同士の諍いではなく、あくまで戦争なのである。
故に、どれほど無様であっても、逃げるのも戦略の一つなのである。
彼は知っていた。
確実に勝つ為には、情報の蓄積が必要である事を。
それ故に、もちろん超越者達がめちゃくちゃに攻撃していた為もあるのであるが、力を温存しつつ、相手の戦力を冷静に分析していたのであった。
そして、今、相手を丸裸にした事を確信して、反撃に転じようとしたのである。
一方、頭も良く、知識も持っていた超越者であったが、そうした戦いのイロハを全く知らないが故に、セレウスの発言の真意が分かっていなかったのである。
「ま、やれるものならどうぞ。」
「言われるまでもねぇよ。」
不敵に笑う両者。
こうして、戦いは第二ラウンドに突入していくのであったーーー。
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