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『英雄の因子』所持者の『異世界生活日記』  作者: 笠井 裕二
神話大戦
286/383

それぞれの思惑

続きです。



◇◆◇



「・・・本当に彼女は、その、信用出来るのかね?」

「それに関しては、そちらでももう確認したんじゃないですか?」

「う、うむ、それはそうなんだが・・・。」


アスタルテとの邂逅の後、ハイドラスは“能力者”グループの上層部との会合に臨んでいた。


本来は、若手グループの“パワーアップ”、すなわち限界突破の試練に関する結果などの報告の為であったが、ここに急遽アスタルテに関する事柄も議題に挙がっていたのである。


読心(リーディング)能力とセレウスの“勘”。これに勝る証拠はないでしょう?」

「・・・確かに。」


以前にも言及した通り、“能力者”の“能力”とは、すなわち“超能力”の様なモノである。

まぁ、正確に言えば、それは“魂の力”なのであるが、それ故、本来はその個人の資質によって得意な分野はそれぞれ異なるのだ。


もっとも、それらを利用する上では、ある種統一的、画一的な“規格”があった方が便利である、という事で、特定の方向性へと修正する事が行われた。

それが、訓練学校である。


これによって、個人の資質よりも全体としての精度が優先、重要視される事となり、結果として“能力者”達はその扱う“能力”が似たりよったりになっていったのである。


もっとも、それは比較的最近の話である。

当然ながら、古参の“能力者”達の中には、ハイドラスやセレウスなどの様に、所謂“戦う力”には適していないが、しかしそれ以外のある特定の分野に関しては突出している“能力者”達が存在していたのであった。


その中の一人に、精神感応系、すなわち超感覚的知覚(ESP)の、特に読心(リーディング)能力に特化した“能力者”が存在していたのであった。


今更語るまでもないが、情報は非常に重要な要素である。

あらゆる判断をする上で、情報(これ)が大きな比重を占めるほどである。


そして、それが、通常の方法では得られない情報だとしたら、その価値は更に高まる事となるであろう。

例えば、“人の心”、などである。


もちろん、非人道的な行為であれば、拷問などによって相手から情報を引き出す事も可能であろう。

しかし、それの“裏”を取らなければ結局は意味がないので、それを直接引き出せる“能力”は非常に有用なのである。


そんな事もあって、その“能力者”は“能力者”達のグループの中でも重要な立ち位置にいたのである。

その者の調査能力によって、今日に至るまで様々な判断を下していたほどに。


当然ながら、上層部にとってもその者の力は極めて信頼性が高い。

その者が調べた結果、アスタルテは“シロ”であると判断したのだ。

もはや疑う余地はないだろう。


(更には、その者には劣るまでも、セレウスの“直感”も、非常に精度が高い事を上層部も認識していた。

それが、“パワーアップ”を果たした事で、もはや神懸かりのレベルに達している事までは上層部は理解していなかったが、その者の力を補強する上では重要な指針である、と判断していたのであった。)


「ただ、皆さんの懸念も分かります。彼女自身が“シロ”だとしても、元々の彼女の立ち位置や重要性を鑑みれば、アッサリこちら側に寝返っている事自体非常に不自然な事ですからね。仮に私が向こう側の上層部にいたとしたら、何らかの理由で彼女が反発したとしても、まずは説得を試みるでしょうし、それが叶わずとも、彼女や彼女の持つ情報などを鑑みれば、ガチガチに拘束し、四六時中監視するのが自然です。もっと言ってしまえば、抹殺する事すら視野に入ってくる筈ですからね。もっとも、彼女の経験や技術、才能なんかを鑑みれば、殺すに惜しい、と思ったとしても不思議ではないのですが。」

「つまり、彼女はあえて泳がされているだけ、と?」

「可能性は極めて高いかと。」

「じゃあ奴らは、罠を張り巡らせてこちらがノコノコやって来るのを待ち構えてるかもしれんのか!?」

「私が向こう側の上層部なら、そうするでしょうな。」

「なのに貴様は、彼女の言葉に乗って、向こう側と本格的に衝突しよう、とっ!?こちら側は、例の“パワーアップ”がどうたらのせいで、貴重な戦力を失ってるのだぞっ!!!」


・・・来たな。

ハイドラスはそう思った。


どんな組織でも、世代間のギャップはあるものだ。

それは当然ながら、“能力者”達のグループにも存在していた。


残念ながら“能力者”達の上層部は、ある種の保守派であった。


もちろん、それ自体は悪い事ではない。

客観的に見れば、“能力者”達がいくら強力な力を持っていると言っても、数の上では圧倒的に不利だからである。


それに、すでに過去の『資源戦争』の折に、個々は強力な存在にも関わらず、“能力者狩り”と評して“能力者”達が捕らえられたという歴史的事実もある。


当たり前だが、どれだけ強い力を持っていても、組織的に統率が取れていないと有象無象の集まりに過ぎないのである。


そうした教訓から、『資源戦争』後に“能力者”達は、自分達の立場や権利を守る為に、“能力者”達による組織を創設していったのである。


これが功を奏して、“能力者”達の立場は劇的に改善した。

母星(惑星・セルース)を実質的には失い、資源の確保が難しくなった事もあって、セルース人類は、“霊子力エネルギー”に頼らざるを得なかったからである。


皮肉な事に、戦争に利用する為にかき集められて、非人道的な扱いをしてきた者達が、セルース人類の生命線へと早変わりしてしまったのである。

(もちろん、“霊子力エネルギー”自体は、その後“魂の力”であると判明したので、つまりは絶対に“能力者”でなければならない、という訳でもないのであるが、しかし、やはり“能力者”達の方がエネルギー効率が良い事もまた事実であるから、彼らの存在の重要性が損なわれる訳でもない。)


そうして、両者の思惑が一致した結果、“能力者”達の立場や人権、労働環境などが保障される事となり、その見返りに、“能力者”達はある種の“燃料”となる事を容認した過去があるのである。


この様に、現在の“能力者”達は、自分達の権利などを自身の力で勝ち取ってきた経緯がある。

が、逆を返すと、勝ち取ってきたモノに執着するあまり、次第に保守的な、ある意味日和見主義に傾倒した流れもあるのであった。


そうでなくとも、年を重ねる事によって、冒険より安定を望む様になるのは良くある事である。

こうして訳もあって、他のセルース人類と敵対する道を選んだものの、“能力者”グループの上層部では慎重論が根強く残っているし、科学者グループらとの和解や和平への道を望んでいる者達も数多いのである。


故に、徹底抗戦を主張するハイドラスやセレウス、つまり若手グループに対する風当たりも強いのである。

もちろん、どちらの意見もある種の正論ではあるのだが、しかし、現実的には、本当に和平を模索するとしても、その裏に存在しているマギの()()をまずどうにかしなければならないので、どちらにせよ戦う必要があるのであるが。


「もちろん、それを含めた作戦を立てていますよ。もしかして、私が勝ち目のない戦いを主張する愚か者に見えていましたか?」

「・・・ふんっ!」

「それと、そちらに関しては私自身も思うところはありますが、しかし、力を得る為には、当然ながら代償も必要となります。彼らも覚悟の上での事でしたし、結果としては8割の者達が成功した事実もご理解下さい。逆に言えば、何もしなければ、そもそも現状を変える手立てすらなかった事も踏まえて、ね。」

「くっ・・・!!」


ハイドラスの意趣返しに、上層部の者達は顔を真っ赤にしつつ、二の句が告げなかった。


ハイドラスも、もちろん煽るつもりはなかったのであるが、文句だけは一人前の上層部に嫌気が差していた事もあった。


何度となく言及しているが、“能力者”達がいくら強力な力を有しているとは言っても、数の上では圧倒的な不利な状況に変わりはなかった。

また、この惑星(アクエラ)においては、“能力者(彼ら)”の価値は、以前とは全く異なるモノとなっている。


すでにご承知の通り、この世界(アクエラ)母星(惑星・セルース)とは違い、資源が潤沢に存在するし、また、“魔素”という不可思議な物質によって、新たなるエネルギー源を確保しつつある。

しかもこれは、再生可能エネルギーであるから、もはや“霊子力エネルギー”に頼る必要もなくなってしまう可能性もあるのであった。


つまりは、仮に反乱を起こさなくとも、そう遠くない内に、“能力者”達の価値が下がってしまう恐れを内包していたのである。


当たり前だが、時代は常に変化するものだ。

かつての栄光にしがみつき、現状を変える事を放棄した瞬間から、時代に取り残される事など良くある話である。

かつて一時代を築き上げた企業や団体が、その後時流に乗れずに衰退する、などが良い例だろう。


これと同様、“能力者”達も常に時代に合わせて変化する必要があるのだ。

少なくとも、この惑星(アクエラ)で生きていくならば、新たなる価値を創造していく必要があったであろう。


その点において、理由はともかくとしても、ハイドラスらはそれに挑戦し、ある種の成功を収めている。

それは、慎重、かつ保守的である意味日和見主義に成り果てた上層部には不可能な事であったかもしれない。


世代交代の時期が来ているのかもしれないな、とハイドラスは考えてつつ、その後、言葉を締める。


「いずれにせよ、反逆の意を示した時点で、向こう側からしてら我々は排除すべき対象ですよ。もしかしたらあなた方の中には、再び彼らと合流する未来を思い描いていた人達もいたかもしれませんが、それはあまり現実的な話とは言えないでしょうね。」

「「「「「っ・・・!」」」」」

「もちろん私とて争いを好むんでいる訳ではありませんが、現状を鑑みればそれらも視野に入れて行動すべき場面だと思います。ともあれ、もちろん私の()()にして下さって結構ですので、こちらの作戦を承認して頂きたいと思います。」


腰の重い上層部をある種見限り、ハイドラスはそう迫った。


彼らの決意が固い事を察して、また自ら()()を負うと請け負ったハイドラスに、上層部はしばしの黙考の後、ややあって言葉を紡ぎ出した。


「そこまで言うのなら、やってみるが良い。ただし、それはあくまで貴様が()()()主導した事だ。我々は関与するつもりはないので、ゆめゆめ忘れぬ様に、な。」

「承知しました。」


こうして、“能力者”達内の亀裂は決定的なものになりつつも、上層部からの容認を得る事が出来たハイドラスらは、ソラテスらの暴走を止めるべく、いよいよ本格的な作戦に打って出たのであるがーーー。



・・・



「・・・えらく大見得を切ったな。」

「セレウスか・・・。まあな。いい加減、じいさん達のお守りには飽き飽きしていたからな。」


上層部との会合の後、待ち構えていたセレウスがそう言った。

それに苦笑まじりに、ハイドラスはそう返す。


「しかし良いのかよ、あんな事言っちまって。じいさん達は、マジで知らぬ存ぜぬを貫くと思うぜ?」

「それはもちろん分かっているさ。しかし、現状を鑑みれば、このタイミングしかもはやないと私は考えている。こちらも“パワーアップ”を果たしたが、アスタルテ・キャンベルの話を信じるならば、向こうも人工“神化”を実現している以上、こちらに優位な状況ではなくなってしまっていると思われるからな。むしろ、時間をかければかけるほど、人員の面で劣る我々にどんどん不利な状況となるだろう。もちろん、向こう側の人員を全て人工”神化“させる可能性は極めて低いとは思うが、な。」

「やるにしても、今をおいてない、って事か・・・。」

「ああ。ま、そもそもやらない、という選択肢はないのだがな。」


ハイドラスの見立てでは、上層部はなんだかんだ言って、向こう側と本格的に衝突するのを避けようとするだろう事は事前に予測出来ていた。

しかし、彼の考えでは、今のタイミングを逃すと一生向こうに勝てない可能性の方が高いのである。


故に、慎重論がはびこる上層部を見限り、若手だけで事を起こそうとしたのであった。


「んで、勝算はあるのかよ?」


もちろんセレウスは、ハイドラスに付き合うつもりだった。

しかし、やはり彼も、その点は気になっていたのかそんなセリフを呟いた。


「もちろんだとも。私とて、勝てない戦をするつもりは毛頭ないからな。」


しかし、打てば響く様に、不敵に笑いながら自信満々に答えたハイドラスに、”愚問だったな“と呟きながら、セレウスは頭を振った。


「お前がそう言うなら問題ねぇ〜な。いっちょ、やってやろうぜっ!!」

「うむ。」



◇◆◇



「彼らは、やはり動き始めましたか・・・。」

〈ええ。もっとも、こちらの予測通り、その規模は大した事はありませんけどね。〉

「・・・それでも力を増した彼ら”能力者“を侮る事は出来ますまい。」


一方ソラテスらは、ハイドラスの予測通り“能力者”側の動向を正確に把握していた。


元々マギの技術によって、彼らは監視されていたからである。

もちろん、アスタルテが彼らを裏切り、“能力者”達の陣営に鞍替えした事も把握している。


「・・・しかし、まかさアスタルテ女史が寝返るとは・・・。」

〈あくまで私の()()は、常識の壁や倫理観などを薄れさせる程度のものですからね。強烈な自我を有する者ならば、それが解ける可能性はありましたよ。また、“能力者”達には、そもそもその強靭な精神防壁によって、()()そのものが通用しませんでしたけどね。〉

「彼女は、人工“神化”を施していませんでしたし、もちろん“能力者”でもありませんから、自力で貴方の()()から脱した訳ですか。」

〈そうなりますね。〉

「・・・一応確認なんですが、他の者達は大丈夫なんでしょうか?」

〈ご心配には及びません。こちらにも事情があったとは言えど、先程も述べた通り、あくまで私の()()は、程度としては軽いものですからね。逆を返すと、強烈な違和感がない分、自身が()()を受けている事にすら気付きませんよ。そうした意味では、アスタルテさんは、よっぽど『新人類』の境遇に腹を据えかねたのでしょうな。“ヒト”の、女性の、所謂“母性”というヤツでしょうか?〉


マギやソラテスにとっても、アスタルテの裏切りは想定外の事であった。

これは、彼らが人の感情を正確には理解していなかったからである。


当然ながら人工知能(AI)であるマギは、そもそも“ヒト”の感情など、知識としては知っていても真には理解していない。

また、ソラテスも、元々社会性に乏しかった結果として、ある意味ではマギ以上にヒトの機微には疎いところがあった。


それ故に、アスタルテの裏切りを事前に予測する事は出来なかったのだが、しかしそこはそれ、そうなってしまった事は理解出来なくとも、その後、それを利用する事には頭を回す事が可能でもあったのだ。


故に、当然ながらハイドラスが予測した通り、彼らはアスタルテの存在を利用して、逆に罠を張り巡らせていたのであった。


「・・・それならば良いのですが・・・。」

〈それよりもソラテスさん。そちらの()()は終わっていますか?〉

「もちろんです。彼女から情報が流出したのなら、まず間違いなく彼らは“擬似霊子力発生装置”を何とかしようとするでしょうからね。」


“擬似霊子力発生装置”、すなわち旧・『エストレヤの船』こそが彼ら科学者グループの今現在の生命線と言っても過言ではない。

これによって、人工“神化”を可能とし、限界突破を果たした“能力者”の力に対抗する事が可能だからである。


逆を返せば、“擬似霊子力発生装置(これ)”を失ってしまえば、いくら数の上では優位な状況とは言えど、限界突破を果たした“能力者”に対抗する術を失う事と同義でもある。


それ故に、彼らからしたら“擬似霊子力発生装置”は最重要機密として慎重に隠していたのであるが、それがアスタルテの裏切りで相手方にその存在が知られた事となる。


そうなれば、彼らは間違いなく“擬似霊子力発生装置(これ)”を狙ってくるだろう。

“能力者”達からしたら、これを何とか出来れば、すなわち勝ちが確定するからである。


ならば逆に、ここに罠を張り巡らせておけば、彼らは勝手に罠にハマってくれる事だろう。

もちろん、その為の“エサ”は、決して安いモノではないのであるが。


〈ならば結構。こちらに取ってもリスクはありますが、極上の“エサ”は彼らに取っても無視出来ない存在だ。当然ながら罠には警戒するでしょうが、数で押し切ってしまえば、それで終わりです。〉

「後は、彼らが“エサ”に食い付くのを待つばかり、ですか。」

〈ええ。〉


半ば勝利を確信した様なセリフをのたまうマギとソラテス。

だが、もちろんそれはフラグであった。



こうして、後に『神話大戦』と呼ばれる大規模な衝突まで、刻一刻と近付いていくのであるがーーー。



誤字・脱字がありましたら御指摘頂けると幸いです。


いつも御覧頂いてありがとうございます。

よろしければ、ブクマ登録、評価、感想、いいね等頂けると非常に嬉しく思います。

よろしくお願いいたします。

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