クロとヤミの『国盗り物語』 5 ~灰色の決着と、動き出した歯車~
続きです。
新年明けましておめでとうございます。
今年も、作品共々、どうぞよろしくお願い致します。
◇◆◇
「・・・お久しぶりですね、シルウァ。息災でしたか?」
「・・・女神アルメリアよ。今の私は『アルトラル体』ですよ?元気も何もありませんよ・・・。」
「フフッ、そうでしたね。」
『シュプール』の『封印』された秘密の地下の一角。
アキトも知らない、『古代魔道文明』の『遺跡』にて、アルメリアは、ぼやけた幽霊の様な『白狼』の影と対面していた。
彼女達の前には、『失われし神器』と思わしき巨大な『スクリーン』があり、そこには現在対戦中のクロとヤミの姿が映し出されていた。
「・・・それにしても、素晴らしい『強さ』を持った若者達を育てたモノですね。現在の『ボス』・ジンも歴代では1・2を争う『猛者』ですが、この2人には敵いますまい。『御披露目』はひとまず成功したと見て良いでしょうね。」
「別に私が育てた訳ではありませんわ。『英雄』アキトの義兄弟ですもの。『彼』の影響が現れた結果ですよ。もっとも、『白狼』としての知識までは流石に無理だった様ですが・・・。」
「何、それは、これから学べば良い事。やはり、ただ自然発生的に『強者』が現れるのを待つと、多大な時間を要してしまいますからね。彼らの様な存在は、これからの『魔獣の森』には必要不可欠な存在です。見て下さい。早くも他の『白狼』達にも『影響』を与え始めている様子ですよ。・・・とはいえ。」
彼女達の会話の最中も、クロとヤミの『高レベル』の戦闘は続いている。
『魔獣種』ならではの、ハイスピードの攻防。
50m四方の『場』を、縦横無尽に駆け回り、時折激突の火花がそこかしこで散る。
それが絶え間無く続き、見る者によっては、それは『戦闘』と言うより、『舞い』の様な優雅で美しさすら感じるモノだっただろう。
『白狼』達は、その『舞い』にすっかり魅了されていた。
「ええ、分かっていますわ。『白狼』達の社会性は高い。『群れ』を率いるのは、まだ彼らには早いかもしれませんわね。『王の器』は間違いなくあるのでしょうが・・・。」
「ご理解頂けて何よりです。将来的には、そうですね、2・3年の間には、彼ら2人が『魔獣の森』の『白狼』達を率いる事になるでしょうが、それまでは『ボス』・ジンと各『グループ』の『リーダー』達に『白狼社会』の『教育』を要請する必要があるでしょうね。個人の『強さ』だけでは、将来的に対応出来なくなる可能性もありますからね・・・。」
彼女達の会話の間に、『スクリーン』は別の画面に切り替わった。
映し出されたのは、アキトとその仲間達だ。
「『彼』が『英雄』ですか・・・。やはり『あの方』によく似ておいでですね。すでに、『鬼人族』と『エルフ族』を仲間に加えているのですね?」
「ええ。『彼』の出現で、『神々』の動きも活発になりましたからね・・・。私も多少お手伝いしていますが、やはり『彼』に惹かれているのでしょうね。予想より、随分早く接触して来ましたよ。」
「・・・ほう。」
画面の向こうのアキトは、クロとヤミの対戦を詳しく仲間達に解説していた。
アルメリアは、そんな彼を慈しむ様に眺め、シルウァに向き直った。
「それと・・・。」
「?」
「『彼』は『あの方』とよく似ておりますが、やはり別人です。『あの方』とは『別の可能性』を我々に示してくれる事でしょう。」
「なるほど。・・・女神アルメリアも、『彼』に惹かれているのですね?」
アキトを語るアルメリアの様子に、シルウァは『魔獣種』ゆえに率直な私見を述べた。
すると、急に顔を赤らめたアルメリアは、慌てふためき言葉を紡ぐ。
「うぇっ///!?い、いえ、私はっ///!!・・・い、いえ、そうですね。貴方相手に、誤魔化しても仕方ありませんわね・・・。確かに、私も、おそらく、女神ルドベキアも『彼』に惹かれているのでしょう・・・。責任を感じている部分もあるとは思いますが、それだけでは無い様にも感じておりますわ。・・・『全て』が終わったら、その時は・・・。『彼女達』の様になれたら、と。」
「そうですか・・・。女性が『強者』に惹かれるのは『自然』の摂理。何も難しく考える事はありますまい。『彼』が『全て』に終止符を打てるのなら、『彼』はそれ程の『存在』と言う事なのですから。」
シルウァは、大きく頷き、アルメリアは赤面しつつも、小さく頷いた。
「さて、それでは私はそろそろ『白狼』達に『介入』せねばなりません。今回は『力』もかなり『消耗』してしまいましたから、次はいつお会いできるか分かりませんが・・・。まぁ、将来的な『布石』を打てたのですから、意義のある『消耗』ですが・・・。」
「やはり、また『眠り』につくのですね・・・。私も直接『干渉』は出来ませんが、出来る限りの事はしておきます。また会える日まで、どうかお元気で・・・。」
「ええ、いずれまた・・・。」
『アストラル体』であるシルウァには、無用な心配だが、アルメリアの言葉に今度は突っ込む事はなかった。
シルウァは、小さな笑い声を上げ、その場から消え去ったのだった。
「・・・さて、これで『魔獣の森』は大丈夫っスかね~?アキトさんの後顧の憂いは消しておかないと、心優しい彼は前に進めないっスからね~。これからも色々大変だとは思いますが、頑張って下さいね、私の『愛しい御方』。」
アルメリアは、『スクリーン』に映るアキトに向けて、そう呟いたのだったーーー。
◇◆◇
クロとヤミの戦闘は、すでに10分以上経過していた。
本来なら、いくら『強者同士』の対決でも、もっと早く決着が着く。
しかし、『魔獣種』特有の『持久力』に加え、彼らは『集中力』も並外れていた。
「ワンッ、ワンワンッ(す、凄ぇ・・・。『白狼』とは、ここまで強くなれるモノなのか・・・?)」
ノルド達各『グループ』の『リーダー』も、2匹の対決を固唾を飲んで見守っていた。
「ワウッ、ワウワウッ(今の所、お互いに膠着状態の様だな。ワシらではとても防げない攻撃の応酬なのに、まだまだ余裕すら感じる。)」
「ガウッ、ガウガウッ(お互いに相手の動きを知り尽くしているのだろう。・・・切り崩す隙を窺っているのではないか?)」
「ワォーンッ、ガウガウッ(とは言え、とんでもない『集中力』と『持久力』だぞ?普通ならそのバランスが崩れ、ミスが出るから、これほど長時間戦う事は、例え『訓練』であってもありえない事だぞ?)」
「ワォーンッ、ワンワンッ(それほど、彼らの『実力』は『高レベル』かつ『拮抗』していると言う事だろう。)」
一方、当の本人達は、ひたすら『機』を窺っていた。
『リーダー』達の指摘通り、2匹の『実力』は『拮抗』している。
しかし、いくらクロとヤミが双子とは言え、その時の状況によってその『力』は変動するので、当然微妙な『実力差』が出てくる。
なので、かつて対戦した時は、もっと早く決着が着いた。
しかし、今回は、かつてないほど彼らの『力』に差が無く、双子ゆえにお互いのクセも知り尽くしているので、決着が中々着かないでいた。
そうなると、持久戦かつ我慢比べの様相を呈してくる。
どちらが先にミスをするか。
そう言った勝負になってきた。
しかし、そこへ、突如として『降臨』した存在があった。
『祖霊』・シルウァである。
ーそこまで。クロ、ヤミ、対戦を止めよ。ー
『ボス』・ジンが語った様に、シルウァは光輝く『白狼』の姿をしていた。
いつの間にか、『場』が解除され、一瞬呆けてしまったクロとヤミ、そしてその他の『白狼』達だったが、シルウァの『神威』を本能的に感じて、その場に伏せ頭を垂れた。
「ワォーンッ、ワウワウッ(『祖霊』よ。まだ『選定の儀』は終わっておりませんが・・・。)」
ーええ。分かっています。しかし、ここでこの2人の決着を着けさせ、新たな『ボス』とするより、やらねばならない事が先にある事に気が付いたのです・・・。ー
「ワォーンッ、ワウワウッ(はっ?と申しますと?)」
この中で、唯一『祖霊』との面会経験のあるジンが会話を繰り広げていた。
他の者達は、ただ黙ってその経緯を見守っている。
ー今回の『異変』により、私は将来的に『魔獣の森』と『白狼』の未来に危機が訪れると予見したのです。それにより、老齢となったジンの『後継者』たる『強者』を求め、『選定の儀』を執り行わせました。ー
「ワォーンッ、ワウワウッ(それは存じております。その一環として、『追放』したクロとヤミを呼び戻したのはわたくしですから・・・。)」
ーええ。他の者達も素晴らしい『強者』でしたが、クロとヤミの『強さ』はまさしく桁違いでした。私に取っても、嬉しい誤算です。他の者達も、いまさらこの2人の『強さ』を疑う者はいないでしょう。ー
各『グループ』の『リーダー』を始め、『白狼』達は次々に頷いた。
「ワォーンッ、ワウワウッ(それはそうでしょう。わたくしの『全盛期』すら越えておりますよ、この2匹は。それに、何の問題が・・・?)」
ジンは、クロとヤミの『実力』を正確に理解していた。
彼らのどちらかが自分の後を継ぎ、新たな『ボス』になるのは、確定事項だと感じていた。
ー確かに『強さ』は申し分ありません。しかし、彼らはその『強さ』と相反して、『白狼』としての知識、常識、社会経験が全くありません。『白狼』達の『社会』とは距離を置いて育ってきたのですから、当然ではありますが・・・。『群れ』の一員として合流するだけならそれでも良いでしょうが、しかし、『白狼』を率いる『ボス』としては、それでは困ります。ー
「ワォーンッ、ワウワウッ(仰る事は分かりますが、それは『ボス』となってから学んでも良いのでは・・・?)」
ー・・・いえ、それではやはり困ります。彼らは強すぎる。大抵の事は2人で解決出来てしまうほどに。『ボス』とは、『強者』であると当時に、優秀な『指導者』でなくてはなりません。『白狼』は『群れ』で動く事が普通なのですから。しかし、彼らが今『ボス』になってしまったら、周りの者達が知らず知らずの内に2人の『強さ』に頼ってしまい、『群れ』の機能に障害が出る可能性があるのです。ー
「ワォーンッ、ワウワウッ(な、なるほどっ!確かに、あるかもしれませんな・・・。)」
ー大抵の事はこの2人がいれば解決出来るでしょうが、彼らだけでは手に終えない、単純に『数』が必要な局面もあります。その時『群れ』が機能障害を起こしていては、守るべきモノも守れない事態に陥ってしまいます。故に、彼らには『ボス』となる前に、『群れ』の一員として『白狼社会』の事を学ぶ必要があると考えました。ー
『祖霊』・シルウァは、一息付くと、今度はクロとヤミに向き直った。
ー故に、クロ、ヤミには、『ボス』・ジンの『後継者』として、ジンや各『グループ』の『リーダー』の元で『修行』する期間を設ける事を提案致します。と、同時に、2人の『強さ』を他の『白狼』達が学ぶ良い機会にもなるでしょう。『白狼』全体の『レベルアップ』も図れる、一石二鳥の提案であると私は考えます。ー
その発言に、『白狼』達はにわかにざわめく。
と、クロとヤミが顔を見合わせた後、言葉を発した。
「ワンッ、ワンワンッ(僕らはそれで構いません。)」
「ガウッ、ガウガウッ(正直、ジンさんの『統治能力』と『カリスマ性』には、まだまだ届かないと思いますし・・・。)」
それを受け、『祖霊』・シルウァは、またジンに向き直った。
この場の決定権は、『ボス』たるジンの手に委ねられた。
「ワォーンッ、ワウワウッ(・・・わたくしは正直年老いた『ボス』です。クロやヤミは元より、各『グループ』の『リーダー』にも今現在は敵わないかもしれません。・・・しかし、皆が認めてくれるなら、この偉大なる2匹の『王』を育てる栄誉を賜れるなら、今しばらく『ボス』でいたいと、そう感じております。)」
ー・・・では、その様に。私の提案を承けて頂き、感謝します。ー
その決定に、『白狼』達の『遠吠え』による歓声が響き渡った。
皆が、その決定を支持している証である。
ジンは、『ボス』として、皆の前に立つと、力強い『遠吠え』を発し、皆を鎮めた。
「ワォーンッ、ワウワウッ(聞けっ、我が『同胞』達よっ!ワシは、今この時より、この偉大なる2匹の『王』を育てる栄誉を賜ったっ!しかしっ、皆に取ってもこれは良い機会だっ!彼らの『強さ』を学び取り、次代の『王』となるのはお前達かもしれんのだっ!皆のよりいっそうの研鑽にワシは期待するっ!)」
「「「「「「「「「「ワォーンッ、アォーンッ!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」
ジンの『遠吠え』の後、『白狼』達の『遠吠え』が重なる。
ここに、広大な『魔獣の森』、その深部の『森の主』たる『白狼』達に、新たなる歴史の幕が上がった。
後に、『偉大なる白狼の黒双王』と呼ばれるクロとヤミ、そして、盟友にして高弟となる『四天王』・ノルド、ヴェスト、オスト、メディオ、『魔獣王』・ジンとその『懐刀』・ズュードと言った『猛者』達が今集結したのだったーーー。
◇◆◇
「・・・ふむ、なるほど・・・。」
僕達は、クロとヤミの対戦中に、突如として『降臨』した『祖霊』を目撃していた。
「っ!あ、あれは何者なのでしょうかっ!?」
ティーネは、『祖霊』を視認し、そう声を上げた。
他の皆も、一様に驚きの表情を浮かべている。
その中で、僕だけは、何か懐かしい感覚を覚えたながら、今回の概要を何となく察していた。
「・・・おそらく、今回の『ボス』争いは一種の『パフォーマンス』だったのだろう。追放した『黒狼』であるクロとヤミを『白狼社会』に受け入れさせる為、また、彼らの『強さ』を閉塞しがちな『白狼社会』に取り込む為の・・・。」
ー・・・それで概ね間違いではありませんよ。ー
僕が、皆に自分の考えを述べていると、いつの間にか『祖霊』が僕達の近くに顕れた。
アイシャさんと、『エルフ族』は、すぐに警戒態勢を取り、僕を守る様に陣形を組んだが、僕は皆をすぐ下がらせた。
「何者かっ!」
「「「「「「っ!」」」」」」
「皆、大丈夫だよ。彼がジンさんの言っていた『祖霊』だよ。それに彼は『実体』を持たない『アストラル体』だ。僕らに危害は加えられないし、加える意志もないだろう。・・・仲間が失礼しました、『祖霊』よ。」
ーいえ、良いのです。『主』を守る為に、警戒するのは当然の事。むしろ、私の正体を看過した貴方は、やはり素晴らしい慧眼をお持ちの様ですね、『英雄』殿。ー
「いえ、『経験』上そうなのではないかと思っただけです。貴方からは『悪意』や『害意』を感じませんでしたし。では改めて。はじめまして、『祖霊』よ。僕は、アキト・ストレリチアです。」
ー私は、シルウァ。突然の来訪、ご容赦下さいね。ー
「いえ、勝手に覗いていたのは僕達の方ですから。それに、わざわざ僕達に説明する為に来て頂いたのでしょう?『力』を使わせてしまい、申し訳ありません。」
ー・・・その事にもお気付きでしたか。ー
「ええ、『アストラル体』である『神々』は、本来『実像』を持たないハズ。『神託』を下すだけならともかく、『顕現』するのはかなりの『力』を要するのでしょう?おそらく、『祖霊』はその『エネルギー』を、あの『大樹』と『像』によって得ているのでしょう。」
ーそこまでお分かりならば話が早い。私が『顕現』していられる時は短いので、手短に用件を済ませましょう。ー
「・・・何か仕掛けが動き出しているのですか?」
ー・・・それを私の口から伝える事は出来ません。『英雄』自身の手で『真実』に到達せねばならない事ですから。これは、私の『制約』による物です。ー
「ふむ、どうやら『神々』も思ったより『不自由』なのですね。」
ー本来なら、『神々』が『生物』に『干渉』する事自体ありえない事ですからね・・・。まぁ、これはいずれ知る時が来るでしょう。今はとりあえず、今回の私の役割を説明しておきましょう。申し訳ありませんが、質問は受付けられない事を始めに断っておきます。ー
「・・・分かりました。」
まぁ、訳知り顔で対応してみたが、半分は口からデマカセだ。
『交渉』に置ける『主導権』を取る為には、フェイクやアドリブも時には必要だからな。
僕自身も、実はよく分かってないのだが、この間の『パンデミック』から、何かが動き始めている事は、薄々感じていた。
今回のクロとヤミ、そして、『白狼』達と『祖霊』もその一環なのだろうか?
ーそもそも、今回、『英雄』の義兄弟たるクロとヤミを『白狼社会』に呼び戻したのは、『異変』により将来的に『魔獣の森』と『白狼』の未来に危機が訪れる事を予見しての事はもちろんですが、一番の理由は、『白狼』全体の『レベル』の底上げが目的でした。
閉塞しがちな『白狼社会』に、『同族』だが、『黒狼』であり、かつ桁違いの『強さ』を持つ彼らを引き合わせる事で、『意識の改革』を促したかったのです。
その試みはある意味成功しました。
彼らの『強さ』は、私の想定以上でした。
多くの『白狼』達は、すでに彼らを『王の器』であると認めています。
しかし、私の想定以上の『強さ』故に、今回は『ボス』とする事を見送りました。
絶大な効果と共に、彼らの『存在』は『群れ』に取っては劇薬ともなり得るからです。
故に、『ボス』としての『群れ』合流ではなく、『後継者』としての『群れ』合流とする事としました。
これにより、クロとヤミは『白狼社会』を学び、他の『白狼』達は彼らの『強さ』を学び、共に過ごす事で、『群れ』としての機能も円滑に行われる事でしょう。ー
ふむ、ここまでは僕の想定内の内容だな。
ただ、その『裏の目的』はなんだろうか?
クロとヤミを『群れ』に加え、『白狼』全体の『レベル』の底上げをするなど、何かに備える為としか思えない。
と、言う事は、『魔獣の森』が狙われる可能性が高い事を意味する。
『祖霊』の眠る大樹に『像』、ニルが持ち去った『召喚者の軍勢』に、それが発掘された『遺跡』・・・。
それらの事を考えると、『魔獣の森』には、まだまだ『古代魔道文明』に関わる『秘密』が眠っている事になる。
まぁ、『祖霊』は質問を受付けられないと言ったので、答えてくれはしないだろうが・・・。
やはり、ニルとフロレンツ候が発掘させた『遺跡』を詳しく調べる必要がありそうだな。
ー・・・聞きたい事は色々あるでしょうが、私の『制約』によって答えられない事を心苦しく思います。ただ、貴方の持つ『力』なら『真実』に到達出来るかもしれません。故に、『英雄』とそのお仲間には、『祖霊』の名に置いて、『選定の像』を調査する許可を与えます。それが、私の答え代わりです。ー
「っ!!・・・分かりました。謹んでお受けしましょう。」
まるで僕の考えを読んだ様な答えで、僕の『仮説』は正しいのだと理解した。
しかし、いずれにせよ、『真実』とやらには、自力で到達しなければならないらしいが・・・。
ぼんやりとそんな事を考えていると、『祖霊』の『身体』が光の粒となり、薄れていった。
ーさて、もう時間の様です。私が言った『真実』が知りたければ、『英雄』は旅立たなければなりません。『魔獣の森』の『秘密』を解き明かすには、『魔獣の森』で得られる『情報』だけでは辿り着けないからです。そうすれば、いずれまた会う時が来るかもしれませんね。その時まで、どうぞお元気で・・・。ー
最後に含みを持たせた言葉を残し、『祖霊』は消失した。
アイシャさんや、『エルフ族』は気付いていなかった様だが、僕だけは、『祖霊』・シルウァだった光の粒が『祖霊』の眠る大樹に吸い込まれていったのを感じていた。
「・・・アキト・・・。」
「・・・主様・・・。」
やはり、『英雄』は某かの問題に巻き込まれる『運命』にある様だ。
昔、アルメリア様が僕に語った様に、『英雄』が平穏無事には過ごせないのだろう。
しかし、今はそれも悪くないと感じている自分もいる。
これも『英雄の因子』の影響なのだろうか・・・?
・・・いや・・・。
不安そうな表情の皆に笑顔で答え、僕は振り返った。
「何、無事にクロとヤミが『白狼』達に合流出来たんだ。ここから先は彼らの領分だから、僕らは引き上げよう。また、日を改めて『選定の像』は調べさせて貰おうか?その時は、皆の『力』を貸してくれよ?」
「っ!うんっ!!」
「「「「「「はっ!!!!!!」」」」」」
それは、こんな僕にも信じて着いてきてくれる『仲間』がいるからかもしれないな・・・。
僕は頷くと、後片付けをして、『シュプール』へと戻るのだった。
こうして、僕と『弟分』の『道』は別れたのだったーーー。
誤字・脱字がありましたら、ご指摘頂けると幸いです。
今後の参考の為にも、よろしければ、ブクマ登録、評価、感想等頂けると幸いです。よろしくお願い致します。