同盟
続きです。
・・・
大なり小なり“組織”というものには、異なる意見が存在するものである。
しかし、これはむしろ正常な状態なのだ。
何故ならば、ヒトはいとも容易く暴走する生き物だからである。
実際、地球においても、一人の人物、あるいは同族が権力を持ったが故に、暴走するケースは枚挙に暇がない。
もちろん、場合によっては、所謂“ワンマン経営”が吉と出る事もある。
少なくとも指揮命令系統がハッキリとしているので、意思決定と行動までのタイムラグが少なく済む、というメリットもあるからである。
しかし同時に、牽制機能が全く働かない、というデメリットもあった。
“ワンマン経営”は、一人、あるいは少数の判断で事を起こす事が可能な一方で、仮にその判断が間違っていたとしても、それを速やかに修整するのは不得意なのだ。
リスクヘッジが重要なのは、これは今更語るまでもないだろう。
しかし、過去の為政者や経営者の事例から鑑みれば、そんな当たり前の事も出来ない事がしばしばある。
もっとも、これは現在進行系の国や企業にも言える話かもしれないが。
それはともかく。
つまり、組織を長く存続する為には、一人の人物、あるいは少数の者達による神がかり的な手腕よりも、体制、つまりシステムの方が重要なのである。
仮にトップの判断が誤っていると分かったのならば、速やかにそれを修整したり、彼らの権力を剥奪する体制を取っておければ全体的なダメージを回避する事が出来るからである。
まぁ、実際にはこれは中々難しい事であるから、今日においても度々そうした事が話題となるのであるが。
話を元に戻そう。
当然ながら、“アドウェナ・アウィス”の中にも、そうした考え方を持っていた者達は存在していたのであった。
確かに、種族全体としてはさらなる“進化”を望む声は多かったのであるが、その手段として神の真似事をし、他の種族達を支配する事に懐疑的な意見を持つ者達も存在していたからである。
まぁ、結果から見れば、彼らの反対意見は的外れでもあった。
何故ならば、“アドウェナ・アウィス”はそれによって神の領域に突入する事が出来たからである。
しかし一方で、その反対意見が的を射ている事もあった。
何故ならば彼らは、結果や先の事しか見ていなかった事もあってか、足元が疎かになっていたからである。
“立つ鳥跡を濁さず”ということわざもある通り、“その後”の事を鑑みれば、反対意見は真っ当な意見でもあったのである。
“アドウェナ・アウィス”とその他の種族では、文明力の差が歴然過ぎて、争いになる要素すら皆無であった。
それはそうだろう。
とある者の言葉では、“争いとは同じレベルの者同士でしか発生しない”のである。
大人と子供、以上の差がある彼らでは、一方的な“殲滅”にはなっても“争い”にはなりようがないのである。
では、他の種族同士ではどうか?
セレウスとハイドラスが発見した宝珠の言葉を借りるならば、彼らの文明レベルはレベル1にも満たないのである。
もちろん、アクエラ人類とセルース人類とでは、そこに歴然とした文明力の差はあるまでも、“カルダシェフ・スケール”的には同じ文明レベルでしかないのである。
つまり、争いに発展したとしても不思議な話ではないのだ。
そこに、強大な力を得る事が可能な“アドウェナ・アウィス”の遺産がそこかしこに存在していたとしたら、それは当然ながら争いの火種にしかならないのである。
実際、セルース人類は、これを発見した事により大きな恩恵を受け、惑星アクエラまでやって来る事が出来た。
だが、その一方で、“アドウェナ・アウィス”が残したプログラムのもと、“科学者、研究者”グループはその地を支配する様に刷り込まれてしまったのである。
先程も述べた通り、現状ではセルース人類の技術力が圧倒的過ぎて、争いになる可能性はほとんどないのであるが(実際、科学者、研究者グループを神の如く崇拝しているアクエラ人達も存在している)、もしかしたらある時を境に、アクエラ人類がセルース人類に牙を剝かないとも限らない。
そうでなくとも、セルース人類の中にも『マギ』による洗脳を受け付けなかった“能力者”のグループも存在していた訳であるし。
先程も述べた通り、当然ながら“アドウェナ・アウィス”にも異なる意見が存在していた。
要約すると、“自分達さえ良ければ、後の事はどうでも良い。”という考え方の一方で、“そうは言っても、後の子孫達の為に、後片付けはしておいた方が良いのではないか?”という考え方を持っていた者達も存在していたのだ。
そこで彼らは、様々な惑星、文明を“支配”するプログラムを持つ人工知能の対抗手段として、それらを“破壊”、“支配”から“解放”するプログラムを持つ人工知能を遺していったのである。
それが、セレウスやハイドラスが出会った宝玉だった訳であるがーーー。
・・・
〈先程、貴方がおっしゃっていた『資源戦争』の例から言えば、つまり過去のセルース人類はそうした考え方を持っていた事となる。少なくとも、“未来”、後の子孫達の事を全く考慮する事なく、自分達の好き勝手に惑星を壊していったのです。その結果が、あなた方が惑星セルースに住めなくなった要因ですよね?〉
「ま、確かにな。」
「・・・しかし、私も先祖を養護するつもりはありませんが、ヒトはそこまで先を見通せないのではないでしょうか?」
〈それも否定しません。千年前の人類が、千年後の未来を想像する事は容易ではないでしょうからね。だから、結果として過去のセルース人類が、惑星セルースの環境を壊滅的に破壊してしまった事は、ある意味では仕方のない事なのかもしれません。もっとも、中にはそれらを懸念していた者達もいたのでしょうがね。〉
・・・確かに、過去のセルース人の中にも、惑星環境の保全を説いていた者達もいた、らしい。
しかしそれは、大局的な物の見方が出来ない、ある意味残念な奴らであったという記録もある。
そりゃそうだ。
これはあくまで一例だが、“惑星環境を破壊する人類は、惑星にとってガンである。故に、人類を殲滅すべきである。”、なんて事を主張した奴もいたらしいからなー。
そりゃ、あまりに極論過ぎる。
少なくとも、その時代に生きていた者達の理解は得られないだろう。
他にも、色々と施策やアイデアは出たらしいが、結果は御存知の通りだ。
もちろん、危機感は持っていたのだろうが、国同士の力学の方がもっと重要だったのか、セルース人類は結果として惑星環境の壊滅的な破壊を回避する事が出来なかったのであった。
むしろ、失って初めて、それがいかに大事だったか理解出来たくらいだからな。
この惑星じゃデカイ顔してるが、俺らもそんな愚か者の末裔なんだろう。
〈しかし、彼ら“アドウェナ・アウィス”は違います。彼らは文明のレベルアップに応じて、様々な経験を持っていましたからね。少なくとも、後片付けをしなければ、それが後に新たなる火種になる事など、容易に想像がつく事だったのですよ。ある意味では、今のあなた方と同じですね。〉
「・・・しかし彼らも、同胞の目的までは止められなかった、と。」
〈ええ。いくら進化を遂げても、文化力が上がったとしても、相反する主義や主張は存在しますからね。もちろん、あなた方が決意した様に、同胞を討つ事も一つの手ではあったのでしょうが、彼らほどの文明力を持った種族だと、それはもはや銀河規模の戦争になりかねない。故に、それは断念した様です。〉
「ぎ、銀河規模・・・。」
「・・・もはや、想像もつきませんね・・・。」
まさしく、“レベル”の違う話だ。
確かに俺らも、俺ら能力者グループと科学者グループが本格的に対立すれば、この惑星に多大な影響を与える事は懸念していたが、“アドウェナ・アウィス”レベルになると、それがその規模の話になるのか・・・。
〈ま、ぶっちゃけると“アドウェナ・アウィス”の話はここではあまり関係のない話ですけどね。この宇宙には過去にそうした種族が存在し、そのとてつもない文明力の遺産が各地に遺されている、と理解して頂ければそれで問題ありませんよ。すでに彼らは概念的存在となっているので、この宇宙に直接干渉する事は出来なくなっていますからね。むしろ問題となるのは・・・。〉
「・・・彼らの遺した遺産の方、ですね?」
〈ええ。ご承知の通り、それによってあなた方の同胞が暴走する事となったのです。彼らは、プログラムに則り、この惑星を支配する様に刷り込まれてしまった。故に、彼らはそれをする事に対して違和感を持たないのです。何故ならば、それが当然だからです。〉
「・・・刷り込み?」
〈ええ。あなた方はこの惑星にやって来るまでに、長い長い“コールドスリープ”期間があった筈だ。その間に『マギ』によって、睡眠学習ではありませんが、少しずつ“支配”という意識を刷り込まれていっていたのですよ。それが、あなた方の同胞が暴走した要因なのです。良識の境界が、かなり緩い状態になっていたんですね。〉
「なるほど・・・。通りで・・・。」
「っつか思ったんだけどさ。何で“アドウェナ・アウィス”は異星人を“支配”する必要があったんだ?彼らの技術力から言えば、もはや“奴隷”なんて必要ねぇ~と思うが・・・。実際、アンタらみたいな人工知能が存在してるんだし、何かを代行させるんなら、アンタらの方がもっと優秀だろうしよぉ〜。」
〈その答えは簡単です。異星人達の進化を促す為ですよ。〉
「はっ・・・?」
「ふむ・・・?」
・・・それと“支配”が結び付くか?
〈ふむ。少し分かりづらいかもしれませんね。確かに、貴方のおっしゃる通り、“アドウェナ・アウィス”達にはもはや“奴隷”などという前時代的な存在は必要としていませんでした。我々の様な労働力が存在するからです。ただ、彼らが“進化”する為には、どうしてもヒトのエネルギーが必要となったのですよ。〉
「エネルギー・・・?」
〈“信仰のエネルギー”です。〉
「「っ!!!???」」
〈“信仰のエネルギー”は、ヒト、生命体からしか抽出する事は出来ません。故に、“アドウェナ・アウィス”は、様々な惑星にて文明の基礎を与えてきたのです。彼らが進化する事によって知能が高くなり、結果として何かを信仰するほどに成長するからですね。考えても見て下さい。あなた方の神話においても、何故か神様というのは、あなた方を導こうとしている筈だ。先程も言及しましたが、あなた方から見れば万能の如き存在が、今更自分達より遥かに劣る存在を導くメリットなど皆無に等しいのにも関わらず、です。つまり、そこには、彼らの側の立場としても、低次元の存在を導くメリットがあるからに他ならないのですよ。〉
「・・・なるほど、何となく見えてきましたよ。つまり彼らは自分達の都合の為にも、異星人達を進化させる必要があった。その“信仰のエネルギー”がどういったものかは分かりませんが、彼らが更に進化する為には必要な起爆剤なのでしょう。そして、それを効率良く、素早く集める為には、自然に異星人達が進化するのを待つより、積極的に干渉する事で進化の速度を早めていた、と?」
〈その通りです。その為に、文明の基礎を与えていたのですね。更には、それをする事によって、異星人達に自分達を信仰させやすくもしていたのですよ。当たり前ですが、自分達の知らない知識や術を与えてくれる存在を、ヒトは尊敬するものです。子供が親に、弟子が師匠に向ける感情と同じですね。それが最終的には“信仰”という形になるのです。ただ、その過程で“信仰のエネルギー”を発する存在が滅びてしまっては、彼らとしてももったいないですから、“支配”、より正確に言えば、戒律や約定なんかで“管理”、“コントロール”する必要もあったのです。〉
「なるほどな・・・。」
「確かに、セルース人類の歴史から見ても、ヒトは容易く暴走するものですからね。それを回避する為に、文明の基礎を与えると共に、やってはいけない事を定めた“法”や“ルール”も教え導いた、と。」
「色んな宗教には、色んな教義があるもんなー。ま、それが新たなる火種になる事も珍しくはないんだが・・・。」
〈まぁ、解釈の仕方はマチマチですからね。同じ文言でも、受け取り手によっては全く別の解釈が出来てしまいますし、それが自分達にとってイメージ通りなら“解釈一致”となり、逆にイメージと結び付かないと“解釈不一致”となる事も珍しくない。ここら辺が、同じ宗教なのにも関わらず、色んな教派に分かれたり、同じ神様を信仰している筈なのに、全く異なる宗教となったりする要因ですね。〉
「ふむ・・・。」
ま、ヒトの考え方なんて千差万別だからなー。
結局は自分なりにどう解釈するか次第だから、そういった事も起こり得るだろう。
その結果、過激な思想を持つ者達も現れる、と。
〈・・・また話が逸れてしまいましたね。つまり、今までお話して来た通り、あなた方の同胞が暴走したのは“アドウェナ・アウィス”の遺した遺産、『マギ』によるものであったのです。と、同時に、あなた方がその“刷り込み”から逃れられたのは、あなた方が“アドウェナ・アウィス”の血を濃く受け継いだからなのです。〉
「血を・・・?」
「っ・・・!も、もしかして、“能力”の事、ですかっ!?」
「ああっ・・・!!」
〈その通りです。先程も軽く触れましたが、“アドウェナ・アウィス”は他に類を見ないレベルの高い知能に技術力、そして特殊な能力を持った稀有な種族だったんです。この能力とは、様々な表現がありますが、つまり“超能力”の事ですね。あなた方が扱う“能力”と同じものだ。当然ながら彼らが、自らの生み出した人工知能に操られるなどあってはならない事ですから、彼らはその安全装置として、自らの“能力”を担保にしたのです。これによって、彼らには人工知能による洗脳などを受け付けなかった訳ですよ。そして偶然にも、あなた方はその“能力”を色濃く受け継いだ為に、『マギ』による支配や洗脳から逃れる事が出来た。〉
「・・・なるほど。それで、俺達の事を“アドウェナ・アウィスの末裔”と呼んだのか・・・。」
〈そうです。彼らの中には、異星人に文明の基礎を与えると共に、少数ではありましたが、各惑星にて“ヒト”として生きて死ぬ事を望んだ者達もいたのです。そうした者達が、異星人と交配し、本当にわずかではありますが、その遺伝子が受け継がれる事となった。その中にあって、あなた方セルース人類は、『資源戦争』という未曾有の危機に瀕した事で、他に比べても“能力”に開花した者達が増えたのかもしれません。ま、まくまで推論でしかないのですがね。ただ、今回の場合はそれが吉と出るかもしれませんね。〉
「と、申しますと?」
〈『マギ』やそれに類する人工知能の洗脳は非常に強力です。少なくとも、あなた方の同胞が万が一にも正気に戻る事はない、とお考え頂いた方がよろしいでしょうね。ただ、こちらとしましても、便宜上“支配”を司る人工知能を『支配者』とし、私達、“解放”を司る人工知能を『解放者』としますが、彼ら『支配者』の思い通りにするつもりはありません。故に、あなた方とはある意味で利害が一致していると思われます。〉
「・・・なるほど・・・。」
「・・・確かにな・・・。」
〈この際、これまでのバックボーンや原因などは無視するとしても、あなた方の同胞がこの惑星を支配する為に動き始めた。そして、あなた方“能力者”は、その影響を受けなかった事により、正常な判断力でそれに反対している。ただ、“能力”云々を抜きにしても、相手方の数が多く、あなた方“能力者”は圧倒的に不利な状況に追い込まれている訳ですね。しかし、その状況を覆す為に、あなた方も色々と策を模索していた筈だ。そして私達『解放者』としても彼ら『支配者』の思惑通りに事を進めさせるつもりはない。〉
・・・確かに、利害は一致している。
多少、気に食わないところもあるが。
「つまり、貴方は私達に協力する用意がある、と?」
〈そう受け取って頂いて結構ですよ。〉
「・・・ふむ。・・・それで、具体的にはどの様なご協力を頂けるのでしょうか?」
ハイドラスは、ようやく契約、合意の段に入ったと察したのか、慎重にその条件等を確認し始める。
〈一つは、“情報”ですね。私は、あなた方の知らない情報を数多く所持していますし、それらを新たに取得する事も出来ます。交渉するにしても争うにしても、これらは重要な要素となると思われますが?〉
「・・・確かに。」
情報の重要性など今更議論するまでもないだろう。
確かに様々な情報を提供して貰えるのは、こちらとしては有り難い事ではある。
〈そしてもう一つは、あなた方の力を覚醒させる事です。〉
「・・・えっ?」
「・・・覚醒?」
〈ええ。先程も述べましたが、あなた方の“能力”は、ある意味では“アドウェナ・アウィス”の先祖返りと言っても良いでしょう。ただ、やはりその代を重ねるにつれて、やはりその血も薄れていってしまったのですよ。あなた方はそれでも色濃く受け継いだ方ですが、実際には彼ら“アドウェナ・アウィス”が持っていた本来の力にはまだ遠く及んでいません。仮にあなた方がその力を覚醒、つまり“アドウェナ・アウィス”と同等レベルで使いこなす事が出来る様になれば、数の上での不利など、瞬く間に覆す事が可能となります。〉
「・・・言うなれば、貴方にご協力頂ければ、更なる“能力”の上限が解放される、と?」
〈そう受け取って貰っても結構ですよ。正確には、“元に戻る”訳ですが、今現在は彼ら“アドウェナ・アウィス”は物質的には存在していませんしね。〉
「・・・ふむ。」
そこまで話を聞いて、ハイドラスは考えをまとめる様に深く目を閉じていた。
確かに、俺達も考えていた様に、交渉するにしても争うにしても、力は必要だろう。
それが、俺達の“レベルアップ”という形で示された訳だ。
「・・・どう思う、セレウス?」
しばしの黙考の末、ハイドラスはポツリと俺にそう問い掛けた。
コイツの方が頭はキレるんだから、俺に聞いても仕方ないとは思うのだが、どうやらこれはコイツなりに物事を整理する儀式の様なものらしい。
流石に長い付き合いなのでそれを理解していた俺は、思った事、感じた事を素直に口にする。
「・・・いいんじゃねぇ〜かな?や、もちろん、多少気に食わない部分もあるぜ?ぶっちゃけると言うと、これって、その“アドウェナ・アウィス”って奴らの尻拭いでもあるからなぁ〜。けど、今更存在しない奴らに恨み言言っても仕方ねぇ〜し、現実問題として俺達の同胞が暴走してるのは紛れもない事実だ。奴らを止める為には、今の俺達には力が足りない。なら、コイツと手を組むのもまた一興だろ。少なくとも、確かに利害は一致している訳だし。」
「・・・ふむ。」
同胞を止めたい俺らと、『支配者』を止めたい『解放者』。
どっちも、“アドウェナ・アウィス”が遺した遺産が要因な訳だが、そこはもはやあまり関係ない。
要は、やるか・やらないか、だからなぁ〜。
〈・・・それで、いかがでしょう?〉
答えを待つ人工知能からの催促に、しばしの沈黙の後、ハイドラスは口を開く。
「・・・最後に一つだけ。貴方と手を組む事によって、私達に何某かのデメリットが生じますか?例えば、今回の話が解決したとして、あなた方『解放者』の尖兵にさせられる、とかね。」
「あっ・・・!」
・・・確かにその可能性はあった。
少なくとも彼ら『解放者』の目的は、科学者グループの暴走を止める事ではなく、あくまで『支配者』の行動を阻止する事だ。
つまり、この件が無事に解決したと仮定したとして、“アンタらに協力したんだから、今度はこっちの件に協力しろ”と言ってきたとしても不思議な話ではない。
もちろん俺らとしても、宇宙の平穏が乱されるのはあまり好ましくない事ではあるが、しかし流石にその責任までも俺らが背負う必要もないからな。
〈・・・それはありません。そもそも、先程もお話しましたが、“アドウェナ・アウィス”が遺した遺産はこの宇宙に相当数存在します。その全てを、あなた方に何とかして貰うとしたら、当然ながら時間がいくらあったとしても足りないくらいでしょう。それは、とても効率的とは言えませんので、そちらに関しては他の知的生命体の協力を得るのが妥当ですからね。故に、あなた方に他の惑星や銀河に出向いて貰う事はありえません。〉
「・・・なるほど。」
人工知能の説明に、ハイドラスは納得していた。
言うなれば、言質は取った、というところか。
我が兄ながら、中々抜け目のない事である。
しかし、これは結果論になってしまうが、俺達はもう少し突っ込んだ質問をぶつけるべきだったのかもしれない。
そうすれば、少なくとも俺達が、あんな事にはならなかったかもしれないからである。
まぁ、それも今更詮無い事ではあるが・・・。
「分かりました。こちらとしても、セレウスも申しましたが、正直困っていたところです。貴方と手を組む事にしましょう。」
〈おお、ありがとうございます。〉
こうして俺達は、”アドウェナ・アウィス“が遺した遺産の片割れ、『解放者』と手を組む事と相成った訳であるーーー。
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