悪夢 5
続きです。
・・・
「クッ!アーロスがいないとやりづらいっ・・・!」
ドリュースは、焦りながらそう呟いていた。
アキトの作戦は、概ね順調に事が運んでいた。
突出してしまったアーロスがアキトに釘付けとなる中で、近接特化のアイシャ(とヴィーシャ)を相手取らないといけないからである。
もちろん大前提として、“魔法使い”であるアキトを先に潰しておきたいのは、ドリュース達も共通認識として持っていた。
故に、やや感情的な面が否めないとは言えど、アーロスがアキトに突っ込んでいった事自体は、少しばかり困ってしまうが、まぁ、分からなくはなかった。
ただ、ここで想定外の事が起こる。
以前に誤解から衝突した時にも、アーロスはアキトと互角を演じていた訳であるが、それでも、魔法アタッカーであるアキトと、今や大幅なパワーアップを果たしたアーロスであれば、普通に考えれば近接戦闘の専門家であるアーロスに軍配が上がる、筈であった。
しかし、確かに最初こそアーロスがアキトを押していた訳であるが、むしろ今はアキトの方が優勢に見える。
少なくとも、“戦士”と“魔法使い”がやり合ってそれと言うのは、彼らの常識からはありえない事態であろう。
そして、そのやり取りが長引けば長引くほど、前衛職不在は響いてくる事となる。
ドリュースは『召喚士』。
大雑把に分類すると、“魔法使い”の様に遠距離から味方を援護する役割を得意としている。
もちろん、例のパワーアップの影響で、今や純粋な前衛職並みのステータスを持つに至っているが、それでも純粋な戦闘スキルを持つアイシャには分が悪いのは道理である。
何せ、向こうは力も技術も持つ達人である一方で、こちらは力はあっても技術のない素人に毛が生えた程度の使い手だ。
並みの使い手ならどうとでもなるが、そのレベルの達人相手に通用する筈もないのである。
また、『大司教』、所謂『回復役』であるウルカも、当然前衛職ではないから、当然分が悪い。
そして、『砲撃手』であるN2は、まだ二人に比べたら遠距離とは言えど、物理アタッカーであるから、多少はマシなレベルだが、そこはそれ、アイシャらにも遠距離攻撃の達人であるティーネがいるから、そちらに注意を引き付けられ、二人のフォローをするのも難しい状況であった。
仮に、ここにキドオカがいれば、事態を打開する術もあったかもしれないが、そちらはアキトの作戦通り、エイルが彼を相手取っている。
それでも、曲がりなりにも拮抗していたのは、これは例のパワーアップの恩恵と、ウルカによる『戦いの唄』によるバフの効果が大きかったーーー。
・・・
「そりゃっ!」
「クッ!サラマンダーッ!」
〈お呼びですか、ご主人っ!〉
「火球用意っ!」
〈合点承知!!〉
「ちょっ・・・!」
軽く追い込まれたドリュースは、焦りからか火の精霊であるサラマンダーを召喚し、火球の準備を開始した。
以前にも言及した通り、炎系の攻撃手段は極めて有用性が高い。
何故ならば、そもそも生物は火や炎に対する耐性など持ち合わせていないから(もっとも、ドワーフ族であるリサは、“熱”、すなわち“熱さ”に対する耐性はある程度持っているが、だからと言って火傷をしない訳ではない)、当たりどころが悪ければ下手したら全身大火傷で死亡、あるいは重症を負うし、そうでなくともその熱で、体力を大幅に削られる事となるからである。
更には副次的な効果も含めて、火は燃える対象があればいくらでも燃え移ってしまうから、特に集団戦においては極めて有効な攻撃手段となりうるのである。
「アンタ何考えてんのっ!?ここ、森の中だよっ!!??」
「発動っ!!」
〈応っ!!〉
ヒュンヒュンヒュンヒュンッーーー!!!
「クッ!!」
「そりゃっ!!!」
ただ、当然ながら地形は考慮するべきである。
アイシャが指摘した通り、この場は森の真っ只中である。
もちろん、先のセシルとの激突の末に、かなり開けた空間が出来ているのだが(それ故に、ドリュースも躊躇なく炎系の攻撃を発動した訳だが)、それでも周囲には木々がいまだに健在である。
当然ながら、間違ってそれらに燃え移ってしまうと、アイシャらはもちろん、アーロスらも炎や煙に巻かれてしまう事となるだろう。
一度燃え広がった森林火災は、消化する事が極めて困難である。
何せ、燃える対象はいくらでもあるのだから。
そうなると、当然森の中に住む生命達にとっては、まさに命の危機となる訳である。
それだけではない。
森林火災の厄介な点は、二次被害を含めて極めて影響が大きい事だ。
樹木というのは土壌を支える役割も担っているので、広範囲に燃えてしまうと土砂災害の危険性が高まるし、当然、燃焼の過程で発生した二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスや有害物質は大気を汚染し、干ばつや洪水といった自然災害を引き起こす要因にもなる。
それに、先程述べたそこに住む生命達が棲みかを追われる事となるから、“森”という一種の緩衝材が防いでくれていた、魔獣やモンスターなどの危険性の高い生物が、人間種の集落などに解き放たれる事となる(と、言うよりかは、彼らも生きる為にそうした場所を襲うしかない訳だが)。
こうした事が分かっている者達は、当然ながら森の中での“火遊び”などという愚行中の愚行は犯さない。
が、残念ながらドリュースには、そんな当然の判断力が(先程も述べた通り、いくらこの場がそれなりに空間が確保されていると言っても)全くなかったのである。
アイシャとヴィーシャには、ハッキリと言えば簡単に避けられた攻撃だったが、下手に森に引火してはいけないと、ドリュースの放った火球を全て撃ち落とした。
もちろん、先程も述べた通り、アイシャもヴィーシャも火や炎に対する完全な耐性など持ち合わせていないから、火球を物理的に消そうとすると火傷の危険性が高いのだが、そこはそれ、曲がりなりにも彼女達は“レベル500”やそれに次ぐ驚異的な身体能力を獲得しているので、拳圧や風圧でそれらを直接的に触る事なく対処出来たので、全くのノーダメージでそれらをクリアする事が出来ていた。
「チッ・・・!」
二人にサラマンダーの攻撃を防がれたドリュースは、結果として色々と彼女達に助けられた事も分からずにそう舌打ちをする。
ピキッーーー!
それには、元々は明朗快活で人当たりの良いアイシャも額に青筋を浮かべていた。
「このぉっーーー!!!」
「・・・・・・・・・はっ?ひぐっーーー!!!」
「アッタマきたっ!アンタら、ここまでバカだったのっ!!??」
まるで瞬間移動の様な超スピードで、新たなる召喚の体勢に移っていたドリュースに強襲を仕掛けるアイシャ。
やや不意打ち気味の右ストレートは、防御も何もないドリュースの胴体に吸い込まれ、その後派手に吹っ飛ばされる。
「い゛、い゛た゛っーーー!」
「ちょ、ちょっとアイシャはん、落ち着きや!」
それでも、流石に相手も“レベル500”の身体能力を持つドリュースである。
痛みにうめきながらも、何とか上体を起こしていた。
が、ややキレ気味のアイシャに、ヴィーシャは思わずそうなだめに入っていた。
「止めないで、ヴィーシャさんっ!私が間違っていたよ。彼ら、物を知らないだけの人達だって思ってたから、アキトが危険視するのはちょっと違和感があったんだけど、今分かったよっ!なまじ力があるもんだから、彼らの暴走はそのまま周囲を不幸にするんだよっ!」
「・・・ふむ。」
今の一連の流れで、アイシャはドリュースらに対する評価を大幅に下方修正していた。
アイシャら鬼人族は、所謂“脳筋”な種族である。
己の肉体に絶対の自信を持っており、それを鍛える事に余念がない。
実際、アキトも体験した事であるが、鬼人族は『力比べ』という風習を持っており、鍛え上げた力や肉体を示す文化があったりする。
それらの事から、やや好戦的な面が存在するものの、別に残虐という訳ではなく、むしろまだ見ぬ強者との出会いや戦いそのものを楽しむ、ややバトルジャンキーな面があるものの、性質的には竹を割ったようなサッパリした性格を持つ者が多い。
また、鬼人族とは別ベクトル(例えば、純粋な身体能力だけでなく、技術や経験に由来する、所謂“上手い”戦い方をする者など)で強い者を、種族問わず好意的に見る面も持ち合わせている。
つまり総合的に言えば、“強さ”をある種神聖視しているのである。
逆に言えば、“卑劣”とか“卑怯”とかとは対局の位置に存在する孤高の種族。
それが、鬼人族の種族特性なのである。
そうした意味で言えば、アイシャ的には、まぁ、自分の想い人であるアキトにやたらと突っかかるアーロスには悪感情を抱いていたが、自分達と同レベルの“強さ”を持つドリュースらには、別に悪い感情は抱いていなかった。
言ってしまえば、自分達のリーダーであるアキトが危険視していたので、なし崩し的に対立してしまっただけなのである。
だからこそ、彼らに個人的な恨みとかそういった負の感情があった訳ではないのだが、今の一連の流れを目の当たりにして、アイシャはその考えを改めたのである。
エルフ族ほどではないが、鬼人族も自然と共に生きる種族である。
まぁこれは、以前にも言及した通り、過去のこの世界の歴史的背景に由来するのであるが、結果として鬼人族は、人間族が踏み込まない様な高地に定住する様になった事でそうした特色を備える様になった訳である。
で、なるならば、当然自然に対する知識や思いもある訳だから、先程のドリュースの行動は受け入れられない訳である。
何せ彼には、自然環境に対する尊敬の念も配慮も一切なかったからである。
まぁ、これに関しては、彼自身の無知や精神の未熟さに由来する事ではあるが、しかし、なまじ彼が強大な力を持つが故に、若気の至りとか、未熟さ故、と片付ける訳にもいかない事に、遅ればせながらアイシャは気付いたのである。
言ってしまえば、彼らはアンバランスなのである。
これは、そこまでの力や強さを得る為に必要となる筈の時間や経験を、全てすっ飛ばしているからである。
例えるならば、何も知らない幼子が、いきなり世界最強レベルの力を得てしまった様なものだ。
善悪や常識、良識を知らない者達が、世界最強レベルの力を持っているものだから、恐ろしくて誰もその事を注意してくれない。
注意してくれなければ、学ぶ機会もない訳だから、結果として非常に危うい存在が生まれる事となった訳である。
無知とは時として罪である。
そして、その罪を自覚しないまま先程の様な行動を繰り返せば、当然この世界に住む者達にとっては、マイナスの要素の方が大きい訳である。
ここら辺は、彼らが善性の存在とか悪性の存在であるとかとはまた別ベクトルでの話だ。
“大いなる力には大いなる責任が伴う。”
力を持つ者達は、こうした戒めや責任を持たなければならない。
少なくとも、アイシャは圧倒的強者として、この事を自覚している訳だが、一方のドリュース達には、そんな自覚はサラサラないのである。
“強さ”をある種神聖視しているアイシャからしたら、これはある意味冒涜にも等しい行為であろう。
そしてアキトは、彼自身、一度は増長しかけた過去もある事から、アーロスらのその危うさに気付いていた訳である。
故に、彼らがどういうスタンスで物事を捉えているのかを見極めた上で、アーロスらを危険視していた訳であった。
「もう迷わない。アイツらはこの世界の敵だ。少なくとも、”山の民“である私にとっては、ね。」
「アイシャはん・・・。」
「な、何だよっ!急にキレやがってっ・・・!」
ヴィーシャの目からは、突然暴走したかの様に映ったアイシャの一連の行動であったが、その心情を聞いた事で、彼女の行動に納得していた。
バトルジャンキーな面があるとは言え、アイシャは心優しい一面もある。
故に、本当の意味でアーロスらとやり合う事に対しては、やや否定的な意見を持っていた事もヴィーシャは察していた。
何せ、先程も述べた通り、彼女にはアーロスらに対する個人的な恨みとかは一切ないからである。
これが、仮に盗賊団などの明らかな無法者とかならば、アイシャも一切の手加減も慈悲もなく毅然とした態度で臨めるのだが、究極的に言えば、多少自分勝手な面は否めないと言えど、別に彼ら自身は“悪”ではないから、彼らを打ち倒す事に関してはアイシャの中では迷いもあったのである。
しかし、アーロスらに悪意や悪気はなくとも、その力や強さ故に、一度方向性を見誤ると、周囲を巻き込んで盛大に自爆する可能性があり、しかもその可能性は極めて高い事に気付いた訳である。
そして、今、アイシャの中で、彼らに対する慈悲や遠慮は一切なくなったのであった。
「ほんなら、彼の事はアイシャはんに任せてもええか?ウチは、リサはんのフォローに回るで。」
「オーケー!キッチリしばきあげとくよっ!!」
「クソッ!この暴力女っ・・・!!」
ヴィーシャの役目は、あくまで全体のフォローとサポートだ。
三人娘の中で、一番心配だったアイシャがこうして決意を新たにした事を察して、ヴィーシャは次に心配だったリサのもとに駆け付ける判断をした。
ヴィーシャが素早く移動を開始した後ろで、アイシャはポキポキと指を鳴らしていた。
「少しばかり痛い目にあってもらうよ!!」
「な、舐めるなっ!!」
・・・
「ほいっ!」
「キャッ・・・!」
一方、パーティーの最後方では、リサとウルカがぶつかり合っていた。
と、言っても、小柄なリサが鎚を振り回し、法衣姿のウルカがそれから逃げ回るという、ある種どちらが悪者かが分からない様な状況になっていたが。
「もぉ〜、真面目にやってよぉ〜!何かボクが弱い者いじめしてるみたいじゃん。」
鬼人族のアイシャほどではないが、ドワーフ族であるリサも、やや好戦的な面のある種族である。
もっとも、ドワーフ族は人間族とも友好関係にある数少ない種族であるから、そうした面はあまり目立たないのだが。
「や、止めて下さいっ!私達が何をしたって言うんですかっ!?」
「え?ヤバい物発掘しようとしてたんだよね?ダーリンがそう言ってたし。」
「た、確かに、ハイドラス様からの神託を受けて、この地には発掘を目的に訪れていますが、ヤバい代物などとっ・・・!」
「じゃあダメじゃん。ボク、一応『鍛冶師』なんだよねぇ〜。で、“道具”って、使いようによっては、良くも悪くもなる。少なくともライアド教がそれを手にして、良い未来は想像出来ないよ。」
「それこそ誤解ですっ!ライアド教は、ハイドラス様は貴女の考える様な事は決してっ・・・!!」
「それがそもそも間違ってるんだよねぇ〜。ってか、人が強大な力を手にしたら、どうなるかなんて分かりきった事だと思うけど?少なくとも、アナタ達にその資格があるとは思えないし。」
「な、何故ですかっ!?」
「だって、アナタ達には、強者ならば当然持ってる筈の、ある種の覚悟と矜持が一切見えないし。」
「・・・は?」
リサは腕の良い鍛冶師である。
それ故に、実際にはアキトらの中では一番、“道具”に関してはシビアな意見を持っていた。
当然ながら、特に武器などは、時として人を傷つけてしまう事がある。
それ故にリサは、それを扱う者を選別する独自の鑑定眼を持っていたのである。
当たり前の話として、せっかく自分が丹精込めて創り出した代物を悪用されては目覚めが悪い。
例えば、自分の創り出した武器などが無法者に流れ、それで無辜の民達を虐殺されるなど、考えるだけで恐ろしい事であろう。
もちろん、“道具”はあくまで目的を達成する為のツールに過ぎない。
結局は使い手次第で、良くも悪くもなる。
だからこそ、リサはその使い手を選んでいる訳であった。
「もちろん、全部が全部って訳じゃないけどね?ボクらにも生活があるし、それこそ、皆にも生活がある。自分が打った武具なんかの所有者をいちいち選んでいたら、それこそおまんまの食い上げだもんね。けど、それでも自分の中で会心の出来だと自負した物は、やっぱり使い手を選びたいよ。場合によっては、自分の名誉にも関わってきちゃうもんね。ま、これは師匠の受け売りなんだけどさ。」
以前にも言及した通り、リサが人間族の領域に出てきた理由は、いっぱしの鍛冶師になる為だった。
これは、ドワーフ族の風習(悪く言えば因習)によって、ドワーフ族の女性は、『鍛冶師』を名乗る事を許されなかったからである。
そこで、当時ドワーフ族の国に修行に来ていたリサの師匠であるドニが、人間族の領域ならばドワーフ族の国のしきたりは関係ないと、リサに示した訳である。
こうして、リサはドニに師事し、そのまま人間族の領域に飛び出した訳であった。
その後、偶然アキトに出会い、その縁もあって、ルダの街にやって来る。
そこで、本格的にドニから学ぶ事となった訳である。
と言っても、当時のリサの腕はすでに鍛冶師として極まっており、ドニには技術的に教えられる事は少なかった。
しかし、師匠から弟子へ、上から下に伝承する事は、何も技術的な事だけに限った話ではない。
当然ながら、“仕事”に向き合う精神とか責任、覚悟や哲学なんかも含めての話なのである。
リサも言及していた通り、生産系、特に武具を扱う鍛冶師ともなるとかなりの責任が伴う事となる。
少なくとも、下手な代物を世に送り出したら、それで命を落とす者もいるかもしれないからである。
評判の悪い、腕の悪い職人が生き残れるほど、職人の世界は甘いものじゃない。
その一方で、武具は場合によっては人を傷付ける事もあるのだから、生半可な覚悟で続けられる仕事でもないのである。
ここら辺は、ドニを含めて、この世界の一流の鍛冶師達が持ち合わせている精神、職業倫理である。
それと同時に、所謂“一流”と呼ばれる職人達は、頑固でこだわりを持っている者達も多いのである。
ドニも、その中の一人であった。
そしてそのドニは、生活に必要な“道具”はともかくとして(例えば、農具とか包丁、護身用の武具なんか)、自身の“作品”とも呼べる武具に関しては、むやみやたらに売らない事にしていたのである。
ここら辺は、先程も述べた通り、職人としてのプライドの問題であった。
「長らく“道具”を求める人を見てるとさぁ〜、その人の大体のレベルが分かるんだよねぇ〜。例えば、一般人なのか、それとも冒険者なのか、とか。はたまた、駆け出しなのか、ベテランなのか、とかさ。それで、大体その人に見合った“道具”のレベルを見繕う事も出来る様になる。当たり前だけど、一般人には最上級の“道具”なんか必要ない。それは、腕前的にも、金銭的にもさ。普通の人からしたら、切れすぎる包丁なんか、危なっかしくて使えたモンじゃないし、それが高ければ尚の事だよね?逆に言えば、それなりの腕を持つ人には、それなりの“道具”が必要になる。つまりは、その人の身の丈に合った“道具”を提供出来る事が、良い鍛冶師の条件なんだよ。」
「で、ではっ・・・!」
「まぁ、慌てないで。で、それが分かってくるとさぁ〜、今度は、その人の属性?、って言うのかな?大雑把に言うと、良い人か悪い人かも分かってくる様になる。ま、悪人らしい悪人はすぐ分かるけど、本当にヤバいのは、自分の無知を自覚していない人と、一見良い人そうに見える悪人なんだよねぇ〜。」
「・・・は?」
「ま、ここら辺は感覚的な話になっちゃうんだけど、冒険者の中にも、身の丈に合っていない成長を遂げてしまう人がいるんだ。ダーリン曰く、元々才能があったのか、よほど運が良いか、はたまた“パワーレベリング”だけしてしまった結果かは分からないんだけどね。で、そういう自分の無知を自覚していない人は、レベルに対して、経験が伴っていない事が往々にしてある。さっきの例で言えば、腕前は一般人同然なのに、レベル的にも資金的にも、それをクリアしている人の事だね。そういう人に、上物、最上級の物を提供してしまいがちなんだ、けど、ちょっと待って欲しい。その人は、その“道具”を本当に扱い切れると思う?」
「そ、それはっ・・・。」
「答えはNOさ。何故なら、腕前がそこに至っていないからね。では問題。アナタ達は、その“道具”が自分に見合っていると思う?」
「と、当然ですっ!これは、私達が苦労して手に入れた物ですからっ・・・!!」
「ブブー、ハズレェー。ボクの鑑定眼から言えば、もちろん詳しくは分からないけど、確かに、レベル的に言えば、その“道具”はアナタ達が持っていても不思議ではない。けど、さっきも言った様に、アナタ達の腕前はそれに伴っていない。非常にアンバランスだよねぇ〜。」
「っ!!!???」
「極端な話、子供が神々の武器を持っている様なものさ。そんなの、危なっかしいよね?少なくとも、マトモな大人なら、それを防ごうとする筈さ。では、更にここで問題だ。そんな事も分かっていないアナタ達が、もっとヤバい代物に手を出そうとしている・・・。これを、どう捉えると思う?」
「!!!」
「ボク達職人は、信用や信頼のもとで成り立っている。もちろん、中には自身で買い付け出来ない人もいるかもしれない。けど、その使者が無知蒙昧では、主の格が知れるというものだよ。少なくともボクは、アナタ達にはボクの“作品”に任せたくない、と思うよ。ま、古代魔導文明を築いた人々が、どの様に判断するかは分からないけど、さ。」
「・・・。」
「ま、色々言ったけど、それを含めた上で力付くで強奪するのはボクは悪だとは思わない。アイちゃん達ほどではないけど、ボクらドワーフ族も、“強さ”を一つの指標としているからね。だからこそ、自分が間違ってないと思うんなら、覚悟を決めたらどう?」
「・・・ゴチャゴチャ、ゴチャゴチャうっせっーなぁー!やってやるよっ!後悔すんじゃねーぞっ!!!」
「そうこなくっちゃっ!」
聖女の仮面の剥がれたウルカに、リサはニコリと笑う。
どうやら、リサもかなりのバトルジャンキーの様であったーーー。
「なんや、リサはんにも、ウチのフォローなんていらなそうやんか・・・。ま、一応、サポートはしときましょか。」
独自の線引きを持ちつつ、戦うべき時を判断出来るリサは、案外大人であった。
自分の存在意義を多少疑問に思いつつも、ヴィーシャはさりげなくアイシャとリサをサポートするのだったーーー。
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