悪夢 2
続きです。
◇◆◇
アーロスらがセシルとの攻防を繰り広げる中、危険地帯の真っ只中でキドオカは、セシルの本体であるところの“疑似霊子力発生装置”の居場所を懸命に探していた。
もっとも、実際にはキドオカの力量ならば、もう少し遠くから探索する事は可能だった。
ただそうなると、仮にアーロスらがそれで首尾よくセシルと“疑似霊子力発生装置”を破壊したとしても、彼らが先に『エストレヤの船』が眠る遺跡類を確保する事となってしまう。
それではキドオカ(とソラテス)としては、わざわざ彼らに力を貸した意味がなくなってしまうのである。
それ故にキドオカは、危険を承知の上で、前線にほど近いこの場で式神による探索を試みていたのである。
当然ながらリスクは物凄く高い。
式神を操っている際には、他の行動が制限される事となるからである。
故に、前線にて無防備となる中で、それでも集中力を切らす事なく式神を操り続ける覚悟と胆力が必要となったのである。
もっとも、その点はアーロスらにある程度カバーして貰う予定だったが、セシルとの再戦開始からセシルが全力全開で攻撃を繰り出してきた事で、その予定は狂わされる事となる。
防戦一方となる中、いつセシルの光弾が自分に向かってくるかも分からぬ中で、キドオカは探索を余儀なくされたのであった。
アーロスらも必死であったが、その中で一際キドオカは生きた心地がしなかったであろう。
ただその甲斐あって、途中、アーロスによって集中力を乱されるトラブルがありつつも、キドオカは“疑似霊子力発生装置”を発見する事が出来た。
奇しくもそれは、防戦一方だったアーロスらが、N2の起死回生の一手によって、攻守の主導権が入れ替わったタイミングと同じであったーーー。
・・・
「っしゃっ!ようやく攻守交代だなっ!!」
〈しまっ・・・!!!〉
「おせぇっ!!!」
N2の【チャージショット】によって出来た隙に、アーロスは全速力でセシルに詰め寄っていた。
以前のままのアーロスならば、その行動の途中でもしかしたらセシルが持ち直し、あと一歩セシルに触れる事はかなわなかったかもしれない。
ただ、今現在のアーロスには、神を匂わす存在から得たチート能力が備わっていたので、これはN2も同様だったが、前回よりも全ての基礎能力が向上していたのである。
攻撃か防御かーーー。
刹那の中、セシルが行動に移すより早く、アーロスの一撃がセシルに到達する。
ズシャッーーー!!!
〈!!??〉
一撃。
ただの、通常攻撃の一撃である。
にも関わらず、セシルにはかなりのダメージを与える結果となった。
やはり、かなりの攻撃力の向上があった様である。
ここで、セシルと“疑似霊子力発生装置”には、前回と同様に自爆も視野に入ってくるが、それはアーロスらも前回に煮え湯を飲まされた事であるから、油断など一切なかった。
「自爆なんてさせねぇっ!!!一気に決めるぜっ!!“竜闘気”・全開っ!!“二刀流”・【ソニックブロウ】っ!!!」
〈っ!!!???〉
セシルが怯んだ隙に、アーロスは続けざまに速攻で奥の手を繰り出してくる。
前回の時にも言及したが、これは現状のアーロスの持つ最大火力の攻撃手段である。
ただし、当然ながらリスクは存在する。
それは、“竜闘気”(つまり自己バフである)を使用すると、一定時間の各種能力の向上が可能な一方、その効果時間が切れてしまうと一定時間の弱体化のデメリットがある点であった。
それ故に、これを使うタイミングはかなりシビアであり、それこそ仲間のサポートなしではいきなり使う様なコンボではないのである。
もっとも、アーロスもそれは承知の上である。
いくら本当の戦闘では素人同然であるアーロスと言えど、前回の経験は生きていた。
今は、まさに攻めの一手のタイミングだ。
少なくとも、ようやく攻守が入れ替わったばかりであるから、ここで中途半端な攻撃に終始してしまうと、場合によっては主導権を再びセシルに取り戻されてしまう可能性もあるからである。
戦いには“流れ”というものがある。
そしてその“流れ”を見極めて、思い切った行動に移れる者だけが、勝利を掴む事が出来るのである。
ザンッ!
ザンッ!!
ザンッ!!!
ザンッ!!!!
脅威の4連撃が完全に決まった。
「どうだっ!!!???」
〈ガッ・・・・!ガガガッ・・・!!??〉
前回とは違い、油断なくアーロスは攻撃後、すぐに後退しながらセシルの様子を眺めていた。
ただ、前回とは違うのは、今のアーロスにはアバターの能力にプラスして、チート能力が備わっていた点であろう。
それ故に、前回は仕留めきれなかったコンボであったが、今回は一撃でセシルを致命傷を与える事に成功したようであった。
「アーロスッ、離れてっ!!!」
「追撃しますっ!!!」
「了解っ!!!」
だが、前回煮え湯を飲まされたアーロスらは、セシルの自爆を警戒してか、更には追い打ちを掛けようとしていた。
所謂“オーバーキル”状態ではあるが、実戦ではマナーもへったくれもないし、下手に手加減して前回の様な事になったら目も当てられない。
故に、キッチリとどめを刺す事は、ある意味理にかなってもいたのである。
「【ウインドカッター】発射!」
〈了解。〉
「【チャージショット】ッ!!」
アーロスが安全圏に離脱した事を確認すると、ドリュースとN2はすぐさま攻撃を繰り出した。
ヒュンッーーー!
ドゴンッーーー!!
風の刃と、圧縮された魔砲攻撃がセシルを貫いた。
ただし、それによって土煙を発生させてしまい、視界を一時的に遮るという、ある意味初歩的なミスをやらかしたのだが、今回の場合はそれでも問題はなかった。
何故なら、
〈・・・。〉
「アーロスッ!状況を確認してくれ。僕らが警戒しておくから。」
「・・・。」
「お、おうっ!!」
そうドリュースが指示を出すと、安全圏に離脱していたアーロスが、またとんぼ返りでセシルに近付いていく。
しばらくの沈黙の後、
「お、おいっ!大丈夫だっ、討伐に成功したぞっ!!皆もこっち来いよっ!!!」
「「「っ!!!」」」
セシルはすでに、沈黙していたからであったーーー。
・・・
〈!!??・・・断罪者の沈黙を確認。再出現には数時間の時を要する。緊急トラップモードをオン。これで、しばらくは時間を稼げるだろうが・・・。
いや、新たなる“侵入者”の存在を感知。
こ、この反応はっーーー!?〉
・・・
ボロボロに破壊されたセシルだったものを目の前に、アーロスらは喜びにわいていた。
「っしゃあっ!やったぜ、おらっ!!」
「やりましたねっ、皆さんっ!!」
「とりあえず、第一関門は突破、って事かな?」
「そうですね。後は、キドオカさんが本体の位置を発見出来れば・・・。」
その目的が何であれ、大きな困難を乗り越える事は、お互いに達成感を感じるものである。
そこにいるのは、かつて『TLW』にて強敵を倒した仲間同士の姿があった。
「呼びましたか?」
「おわっ!?き、キドオカさんっ!!??い、いつの間に・・・。」
N2の言葉に、いつの間にかアーロスらの後ろに立っていたキドオカがそう返事を返すと、アーロスは大袈裟に驚いてそう言った。
「それはナイショですよ。」
「流石ニンジャ・・・。」
「ま、まあ、それはともかく。キドオカさんもこちらにいらっしゃったと言う事は、本体の位置が分かったんですか?」
「ええ、決着がつく少し前に。と、言っても、大方の予想通り、本体はかなり厳重に隠されていますね。具体的には、地中深くのとある空間の中です。おそらく、遺跡類にほど近い場所でしょうね。」
「なるほど。前回の爆発は、本体と遺跡類を同時に覆い隠す効果もあった訳ですね?」
「かもしれませんね。さて、どうされますかな?」
キドオカの確認に、アーロスらはしばし顔を見合わせ、即座に頷いた。
「当然、破壊します。でなければ、遺跡を確保出来ませんからね。」
「地中って事は、ドリュースの召喚術でどうにかなりそうだよな?」
「多分ね。ま、キドオカさんが正確な場所を特定してくれなきゃ無理だっただろうけど。」
「あんまりのんびりしていると、またあの守護者が復活してしまいますからね。すぐに作業に移りましょう。」
「了解です。」
分かりきった事ではあるが、アーロスらは“疑似霊子力発生装置”を破壊するという結論を下し、その為にそこまでの道のりを確保すると答える。
それに、ニヤリとキドオカは頷き、さっそく作業に移ろうとしたのであるがーーー。
「あ〜、申し訳ないんですけど、それは勘弁して貰えませんかね?」
「「「「「なっ!!!!!?????」」」」」
それに立ち塞がる様に、いつの間にかアキトとその仲間達がアーロスらの目の前に立っていたのであったーーー。
◇◆◇
やれやれ、どうにか間に合った。
守護者は、すでにアーロスくんらに破壊されてしまった様だが、本体の方はまだ無事である。
突如現れた僕らに唖然としていたアーロスくんらであったが、僕らの顔を認識すると、一転して猛然と食って掛かってくる。
「あ、アンタ、何のつもりだっ!?」
「・・・あまり、友好的な感じじゃありませんよね?」
「まぁ、そうですね。僕らは、あなた方の行動を妨害する為にこの場に来ましたから。」
「・・・。」
元々僕らに対して良い印象を持っていなかったらしいアーロスくんとドリュースくんは、僕らを凄まじい形相で睨み付けてくる。
まぁ、自分達の目的を邪魔されたのであるから、その反応も当然と言えば当然なんだが。
「アキトさん、でしたね?一応確認なんですが、そこを退いてもらえませんか?私達には、どうしても遺跡類を確保しなければならない事情があるのです。ですが、なるべくならあなた方と争いたくはありません。」
「残念ですが、それは出来ません。と、申しますか、あなた方こそ、自分達が何をしているのか本当に理解していらっしゃいますか?」
「はん?分かってんよっ!貴重な遺跡類がそこにあって、それをライアド教に渡すだけだろっ!?」
「・・・それで、あなた方は目的を達する事が出来るかもしれませんが、その後の事は関係ないのでしょうね・・・。断言しておきますが、これがライアド教、と言うかハイドラスに渡れば、まず間違いなく“世界”はとんでもない事になります。少なくとも、この世界に住む全ての生命達が、何らかの影響を受ける事となります。それでも、御自分の目的を優先される、と?」
「・・・あのよぉ〜。前から思ってたんだけど、アンタ個人的な感情持ち込み過ぎじゃねぇ〜の?ライアド教は、別にそんなひどい組織じゃねーぞ?」
「それは、あなた方が事実を知らないからですよ。前にも言ったかもしれませんが、僕やあなた方をこの世界に呼び込んだ元凶はハイドラスですし、僕のこちらの故郷で大規模な『パンデミック』を引き起こしたのもライアド教です。他にも、歴史の裏で数え切れないほどの暗躍をしてもいます。」
「・・・けっ、被害妄想ヤローが。」(ボソッ)
「残念ですが、僕らは貴方の言葉を信用出来ません。それに、ハイドラス様は僕らと約束してくれました。向こうの世界に帰す、と。」
「それに、ハイドラス様はこの世界の行く末を案じておられますっ!貴方が言う様な方ではないと思いますよっ!おそらく、誤解されているのですっ!!!」
必死に訴えかけてくるウルカさんに、僕は溜息をついた。
・・・こりゃ、完全に洗脳されとりますわ。
「・・・貴方こそ、『失われし神器』を手に入れて、何をされるおつもりですか?その力を悪用し、この世界を支配しようとしているのではありませんか?」
むっつり黙っていたエルフ耳の青年がそう指摘する。
あんまり喋った事はないが、確かN2と呼ばれた人だったな。
「それこそ、そんなつもりは毛頭ありませんよ。個人的に古代魔道文明なんかには興味はありますが、その力を使って世界征服など考えた事もありませんよ。」
これは本当である。
・・・だって面倒くさいし。
ま、世界征服や統一なんかは、人によったらある種の夢やロマンかもしれんが、実際には子供の描いた絵空事に近い理論である。
何故ならば、人々の主義・主張はバラバラだからである。
それを何とかする為には、それこそ強力な支配力を持つ何かを使うか、恐怖で縛り付けるしかない。
となれば、当然そこには大きな反発を招く事となる。
比較的平穏な統治でさえ、人々の反発を招くのであるから、そうした手法で支配したら、ある程度の期間は良いかもしれないが、我慢の限界を超えれば一気に決壊する事は目に見えている。
僕に言わせれば、せっかく、何者にも縛られない自由な世界に来たのに、わざわざそんな事をするだけ時間の無駄なのである。
けど、まぁ、その疑いも分からんではない。
僕の経歴から見れば、ハイドラスと個人的な因縁があって、ひいてはこの世界そのものを憎悪している可能性があるのも、否定出来る根拠がないからな。
「とても信じられませんね・・・。」
呟くN2さんに、アーロスくん達も“その可能性があったか”、と益々こちらを睨み付けてくる。
うん、誤解なんですけどねー。
僕らの意見は、どこまでも平行線であった。
やっぱり、僕は、特に若者を説得するのは向いてないかもしれない。
僕は、軽く諦めモードになりながらも、それでもまだ言葉を紡ぎ続けた。
「・・・お互いに誤解があるのかもしれませんね。ともかく、一旦落ち着いて、結論を急ぐのは止めにしませんか?今ならまだ、互いの意見を修整出来るかもしれません。」
「聞けねぇ〜な。こっちは急いでんだよ。早く処理しねぇ〜と、またあのヤローが復活しちまうかもしんねぇ〜んだからよ。」
獲物に手を掛けて、アーロスくんはそう言った。
確かに、彼らからしたら、さっさと本体を倒してしまわないと、再び守護者が復活してしまう訳であるから、焦る気持ちは分かる。
・・・分かるが、何でこうも喧嘩っ早いのかねぇ〜。
「・・・でしたら、どうしますか?」
僕は、ふぅと軽く諦めモードで溜息をつき、次いでそう尋ねた。
「フンッ、知れた事よ。メンドクセェし、何かムカつくから、とりあえずここでアンタをぶっ倒すっ!!」
「「「「っ!!!」」」」
「「「「「っ!!!」」」」」
遂に獲物を抜いてしまったアーロスくん。
これで、もう後戻りは出来ない訳だが・・・、本当にその事が分かってるのかね?
「残念です・・・。」
「行くぜっ!!!」
まぁ、ある程度は想定の範囲内であった僕らは、焦るでもなく臨戦態勢に入っていた。
こうして、元・同郷の者同士での戦の火蓋が切って落とされたのであるーーー。
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