不思議な縁 5
続きです。
言うなればククルカンの思想は、向こうの世界における“国際赤十字”とか“国境なき医師団”と似た様なモノである。
人道的観点から、兵士、民間人問わず負傷者の救護に当たり、またその中立的な立場から戦争当事者達への介入、仲介に当たるのである。
もっとも、向こうの世界と違う点は、その活動が公式に、国際的に認可されていない点であろう。
故に、本来であればこうした組織、個人、団体を攻撃する事は御法度になっているが、残念ながらこの世界においては、ククルカン、並びにセレスティア派は誰かから攻撃を受ける事もしばしばあったのである。
まぁ、それに関しては圧倒的な力量を備えるククルカンの存在によって、決定的な打撃になる事はこれまでなかったが、それでも組織としては疲弊してしまう事だろう。
その危険と隣り合わせの活動に嫌気が差し、ククルカンのもとを去ってしまった者達も少なからずいた。
その事を認識していたレイナードとバネッサは、自分達の存在が、ある種の盾、抑止力となる事が出来るのではないかと考えた訳である。
ククルカンほどではないにしても、レイナードとバネッサの力量は名実共にこの世界の生ける伝説であるS級冒険者クラスである。
そんな彼らがククルカンに合流すれば、外部からの攻撃に対応する事が可能だし、その事が周知されれば、外部からの攻撃が減少する、かもしれない。
S級冒険者クラスの者達に手出しする事など、この世界においては自殺行為に等しいからである。
だが、レイナードとバネッサの価値は、実際にはそんな程度ではない。
アキトやユストゥスら直伝の薬学の知識は医療行為の助けになるだろうし、アキトやリベルトの得意とするしたたかな権謀術数、交渉術を見て育った二人は、更に冒険者としての経験値も加味されて、アキトやリベルトレベルとまでは行かないまでも、それなりに策を弄する事も出来る逸材だからである。
さて、そんな訳でククルカンに合流する事を決めたレイナードとバネッサであったが、その手土産、手始めとして、イカルスの実家を巻き込む事を思い付いたのであるがーーー。
◇◆◇
「ご苦労だったね、冒険者くん。ゲオルグ達を連れ帰ってくれたのだね。彼らは有能な人材だ。失うのは惜しいと考えていたのだよ。」
「いえいえ。前にも言いましたが、これは俺らの仕事の一つだと捉えていただけですから・・・。」
ククルカンのもとから、イカルスの護衛騎士達やご遺体を無事に連れ帰ったレイナードとバネッサは、その足でイカルスの父親と面会していた。
「して、今度こそ依頼料の話に移りたいのだがね・・・。」
イカルスの父親からしたら、イカルスの問題行動もあって、早く処理出来る案件は早く処理したいのだろう。
早速交渉に入ったイカルスの父親の発言に、レイナードは来た、と思っていた。
「それなんですがね、ウェッソン卿。俺らへの依頼料は結構ですわ。」
「・・・は?」
そこで、先制パンチとしてレイナードは、完全にイカルスの父親、ウェッソン卿と呼ばれた男の想定外の言葉を放つ。
「・・・それは、仕事料を支払わなくても良い、という意味かね?」
「ええ、そうです。」
しばし黙考した末にウェッソン卿はそう確認するが、レイナードはアッサリとそう肯定した。
当然ながら、ウェッソン卿は警戒する。
言葉通りに捉えれば、タダで仕事をしてくれるという事だが、当たり前の話としてそんな上手い話がある筈もないからである。
少なくともウェッソン卿は、ロンベリダム帝国の貴族位にある者として、それなりに騙し合いを含めた交渉術には精通している。
故に、レイナードの発言の裏を考えていたのであった。
「・・・それで、キミらにどの様な利があると言うのかね?」
「はい。その代わりと言ってはなんですが、別の形でウェッソン卿にはご協力頂きたいのですよ。」
「・・・ふむ。」
ウェッソン卿がそう確認すると、レイナードはそう切り出した。
それに、むしろウェッソン卿は納得していた。
つまり、“金”ではなく、自分の持つ“権力”の方に期待しているという事だろう、とウェッソン卿は当たりをつける。
ここら辺は、特段珍しい話でもなかったからである。
以前から言及しているが、冒険者はある種ヤクザな商売だ。
“自由”という意味では非常に魅力的な反面、安定した商売とは程遠いのが現実である。
まぁ、レイナードやバネッサの様なS級冒険者、上級冒険者ともなれば下手な貴族より稼いでいるし、場合によっては蓄えも持っているが、少なくとも中級以下、ベテランになるまでに、死ぬか、生活苦から冒険者から足を洗う者達も多いのが現状である。
そして、そうした者達の転職先として一番多いのが、兵士とか衛兵、そして傭兵であった。
もちろん、冒険者の経験がなくとも兵士や衛兵、傭兵になる事は可能だが、やはり実戦経験の有無は重要な指標だったりする。
特に、この世界では魔獣やモンスター、盗賊団などの無法者が跳梁跋扈する世界であるからである。
逆に言えば、“外”にもロクに出た事もない者達が、外の世界のそうした脅威にすぐに立ち向かえるか、と言えば、答えはNoであろう。
故に、初めからある程度の技能を有し、実戦経験を持つ人材は意外と重宝されるのである。
実際、ウェッソン家に仕えている護衛騎士の大半が、軍属経験を持つか、冒険者上がりである。
この様に、貴族との繋がりを持った冒険者なんかが直談判し、収入の安定しない冒険者稼業に見切りをつけ、比較的収入の安定した貴族の専属護衛騎士となる事は案外珍しい事ではなかったのであった。
ウェッソン卿も、レイナードとバネッサがそうした目論見でいるのではないか、と思ったのであった。
「で、具体的には私に何を期待しているのかな?」
「それは、とある団体に出資して頂きたいのですよ。」
「・・・・・・・・・はっ?」
しかし、残念ながらレイナードの返事は、ウェッソン卿が予測した事とは全く別のモノだったが。
「い、一体どういう・・・?詳しく説明して貰っても良いかね?」
「もちろんです。」
若干肩透かしを食らったウェッソン卿であるが、そこはそれ、大貴族らしく情けなく狼狽える事はせず、気を取り直して目の前の男に説明を求めるのだったーーー。
・・・
「まず、前提条件として、今現在のロンベリダム帝国の現状はかなり危ういと聞き及んでいます。」
「・・・はて、何の事かね?」
「とぼけなくても結構。俺らは、それなりに名の売れた冒険者です。そういう奴らは、結構独自の情報網を持ってるモンですよ。あなた方が隠し通しておきたい情報でもね。残念ながら、人の口に戸は立てられませんよ。」
「・・・。」
アキトやユストゥスらの指導を受けたレイナードとバネッサは、当然ながら情報の重要性など十分に理解している。
それ故に、イカルスを助けた後、ククルカンに会いに行くまでの間に、しっかりと情報収集をしていたのである。
一応、表向きには何事もなく生活出来ている様に見えるが、実際にはこの頃には、ロンベリダム帝国ではアキトによる(一部)魔法技術使用不可の状態となっており、それなりの影響が出始めた頃である。
もちろん、その状況を重く見たルキウスの指示のもと、魔法使いや魔術師による、場当たり的な対処で大混乱には発展していなかったが、言うなれば、公共インフラの一部に問題が出たのと同じであり、つまり、国民の生活に多少の不便が強いられたのと同様であった。
残念ながら、人は一度便利な生活に慣れると、中々それがなかった頃には戻れない生き物である。
そして、そうした小さな不満は、不便な生活が長引けば長引くほど尾をひいてしまう訳で、徐々に体制側に対する不満となって噴出してしまう事となる。
そこら辺は、アキトの狙い通りな訳だが、そうなると貴族達の立ち位置も怪しくなってしまう訳だ。
(もちろん、その状況を改善、すなわち言うなれば“魔法インフラ”を復旧する事が出来れば問題ないが、今回の件はアキトが魔素そのものに干渉した末に起きた現象であるから、ランジェロら魔法技術者達がいくら頑張ったところで、アキトと同レベルまで魔法技術について深い見識を持っていなければ根本的解決には至らない訳で、すなわち現状の改善は実質的に不可能な事でもある。
となれば、貴族達も色々と先を見据えて立ち回らなければならない状況な訳である。)
「貴方が冒険者ギルドなんかに影響力を持っていたのも、こうした事を想定しての行動でしょう?国家とは別に、他の組織とも繋がりを持っておく事で、いざという時の手札とする。様々な保険を掛けておくのは、組織の長としてはある意味当然の判断でしょう。」
「・・・ふむ。」
ウェッソン卿は、レイナードの評価を上方修正する。
そうした事を理解しているのは、かなりの切れ者だと考えたからである。
「でしたら、また他の組織に出資する事で、ウェッソン家の生存戦略を高めてはどうでしょうか?」
「・・・と、言うと?」
それ故にウェッソン卿は、レイナードの言葉に徐々に興味を持ち始めていた。
「ウェッソン卿は、“セレスティア派”を御存知でしょうか?」
「もちろん知っておる。ライアド教内の一派であろう?そうか、キミはライアド教と懇意にせよ、と言ってるのかな?」
「いえ、違います。もちろん、ライアド教と個人的な繋がりを持っておく事も有りでしょうが、それだと、おそらく他の貴族家の人々とやっている事は変わりないでしょうね。それに、それだと御子息の言い訳も成り立たなくなるますし。」
「っ!?ど、どういう事かねっ・・・!!??」
レイナードの聞き捨てならない発言に、ウェッソン卿はますます興味が湧いてきていた。
「俺が言ってるのは、ライアド教の一派としての“セレスティア派”ではなく、ククルカンという人物が率い、“大地の裂け目”内にて、独自の医療行為に従事している団体の事を指しています。便宜的に、彼らは“ククルカン派”とでもしておきましょうか。」
「ふむ。そんな者達がおったのか・・・。」
「貴方が知らないのも無理はありません。彼らは、皇帝やライアド教上層部が、密かに“大地の裂け目”に送り込んだ団体だからです。ククルカン殿の発言からすると、表向きはロンベリダム帝国側の兵士達に対する医療班としての派遣ですが、おそらくその裏の目的としては、体よく彼をロンベリダム帝国から切り離すのが狙いだったのでしょうね。彼は、ロンベリダム帝国内でもライアド教内にも影響力を増しつつあった。それを危険視するのは、これは当たり前の判断でしょうからね。」
「ふむ・・・。」
「その末で、“大地の裂け目”勢力に潰されれば、それはそれで万々歳だった事でしょう。ロンベリダム帝国側からしても、ライアド教上層部としても、“大地の裂け目”勢力を攻撃する口実が更に補強される事となるからです。そうでなくとも、ロンベリダム帝国側の兵士が素早く回復すれば、それだけでもロンベリダム帝国としては実質的な戦力の補強となる。つまり、どちらに転んでも、ロンベリダム帝国側やライアド教には損がなかったのですよ。」
「・・・なるほどな。」
「しかし、残念ながらククルカン殿は彼らの思惑通りになる様な人物ではありませんでした。彼は、その事態を逆に利用して、独自の活動を始めると共に、ライアド教からの独立を画策していたのです。」
「ほぅ・・・。そういえば、ククルカンという名前には聞き覚えがある・・・。確か、テポルヴァ事変のおりに活躍した人物だったか。国民からも、『神の代行者』として英雄視されているとか。まぁ、私は会った事がないから、半ば眉唾な話だと思っていたが。」
「やはり御存知でしたか。その通り。彼は、その『神の代行者』の一人。正真正銘の本物です。それ故に、先程も申し上げた通り、ロンベリダム帝国やライアド教内にまで、影響力を持つに至ったのでしょうね。」
「なるほどな・・・。それで、キミらは私に、いやウェッソン家に、そのククルカン殿の率いる団体に出資せよ、と言っているのかね?」
「まぁ、早い話がそうです。」
「・・・それで、私や我が家に、どの様な利があると言うのかね?」
「それは、仮に今後ロンベリダム帝国に何かあった場合、あなた方の命綱になるかもしれない、という事です。」
「ほう・・・。」
ウェッソン卿は、いよいよ確信に迫った一言を発した。
それに対して、レイナードは言いよどむでもなく、端的に答えを返した。
「あくまで仮の話ですが、今後ロンベリダム帝国が崩壊する事でもあれば、あなた方貴族とて、ただの人となってしまいます。これは当然ですよね?あなた方の立場は、国があって初めて成り立っているモノだからです。」
「・・・まぁ、否定はせんよ。もっとも、キミらなら知っているかもしれないが、我々貴族は、それぞれ独自の事業を展開している事も多いから、即座に潰れる、という訳ではないのだがね?」
「だとしても、ですよ、ウェッソン卿。国という大きな後ろ盾がない以上、事業にも影響が出るのは否めません。ならば、当然の事として、別の後ろ盾を開拓するのがもっとも安全でしょう。」
「・・・それが、“セレスティア派”、あ、いや、“ククルカン派”だと言うのかね?」
「ええ。」
「ふぅ〜む・・・。」
ウェッソン卿はしばし考え込んだ。
確かに、今現在のロンベリダム帝国の情勢はかなり雲行きが怪しくなっている。
まぁ、楽観的に見ると、大帝国、かつ強国と名高いロンベリダム帝国が崩壊する事などありえない事態なのだが、何事にも絶対はありえない。
レイナードの言う通り、国そのものがなくなってしまった場合、結局は国に仕えている立場の貴族もただの人、一般市民と変わりなくなってしまう。
まぁ、だからと言って、ウェッソン卿の言う通り、貴族が様々な事業を展開している以上、正確には一般市民とは大きな隔たりがあるし、場合によっては、貴族の中から新たなる盟主が誕生し、別の国として建国する可能性もあるが、どちらにせよ“力”を蓄えておくに越した事はない訳で。
となれば、レイナードの言葉には一定程度の説得力があると、ウェッソン卿は判断していた。
「では、具体的に彼らの活動をご説明しましょう。ククルカン派の活動内容は大きく分けて二つになります。一つは、先程も述べた通り“医療活動”です。ただし、その対象はロンベリダム帝国側だけでなく、“大地の裂け目”側、正確には、どの組織や国に属する者でも、求められたら受け入れる様ですが。」
「な、何だとっ!?・・・それは、かなり危険なのでは?」
「確かにその通りです。どちらの味方か分からない、という点においては、物理的にも政治的にも危険が付き纏うでしょうね。しかし、そこで2つ目の活動内容に繋がります。つまり、ある意味中立な立場を利用して、両者への介入、仲介が可能な点ですよ。」
「・・・なるほど。」
「戦争を永遠に行う事など実質的に不可能です。何故ならば、戦争には戦費がかかってしまうからですね。お金は無尽蔵に湧き出してきませんから、いずれ勢いが低下してしまいます。そうなる前に勝てればそれで良いのですが、昨今の情勢を鑑みれば、それも難しいと言わざるを得ない。しかも、一応は両者で停戦についての話し合いも始めている様ですが、当事者同士ではまとまる話もまとまらない、なんて事も往々にしてありえます。何せ、相手は憎むべき敵ですから、そこには感情論も入ってきてしまいますからね。」
「それはそうだ。」
「そこで、両者に対して仲介出来る存在がいれば、話は大きく変わってきます。少なくとも、ククルカン派の尽力により、両者が医療行為を受けた事は事実ですから、ある程度の影響力は持つでしょう。しかも、それを率いているのが『神の代行者』として名高いククルカン殿なら、その話を無下にもできない筈です。では、それほどの影響力を持つ団体に、間接的に影響力を持っていたとしたら、どうでしょうか?」
「ふむ・・・。確かに、悪くはない話だが・・・。」
「もちろん、ウェッソン卿が懸念している事は俺も理解しています。要は、ロンベリダム帝国の貴族としての立場を持つ者としては、ある種の裏切り行為として捉えられるのではないか?、という事ですよね?」
「・・・うむ。」
ウェッソン卿は、ロンベリダム帝国の冒険者ギルドに幅広く出資し、ある程度の影響力を持つ事に成功しているが、しかしそれは、国とは別立ての組織とは言えど、冒険者ギルドがあくまでロンベリダム帝国の治安維持を目的とした団体(つまり、ロンベリダム帝国にとって有益な団体)だからである。
レイナードと言う通り、ククルカン派の活動内容はかなり魅力的な側面はあるが、場合によっては反逆者として見なされる可能性も考慮すると、どうしてもウェッソン卿としては二の足を踏んでしまうのであった。
「それならば心配御無用、とまでは断言出来ませんが、あくまで2つ目の目的は副次的な効果でしかない。ククルカン派の存在意義は、あくまで医療機関である、という点です。そして、であるならば、人道的観点からそれに賛同し、ウェッソン家がそれに出資をしたとしても、何ら咎められる謂れはありませんよね?あくまで、ロンベリダム帝国の兵士達を間接的に応援する為、という名目も成り立ちますし。それに、ここが一番の重要ですが、先程も述べた通り、御子息が何故“大地の裂け目”入りしたのか、という言い訳も成り立ちます。」
「っ!!!それは、一体っ・・・!?」
先程レイナードが口にした言葉がここで出てきて、思わずウェッソン卿は身を乗り出していた。
「ウェッソン家ほどの大きな家ならば、パートナーや御子息やご令嬢に名代を任せる事も多い事でしょう。ならば、ウェッソン卿がククルカン殿の噂を聞き付け、彼の活動内容を確認すべく、イカルス殿を派遣したとしても不思議な話ではない。その結果如何で、ククルカン派への出資を決める為です。しかし、残念な事に、その過程で“大地の裂け目”勢力と鉢合わせしてしまい、結果攻撃を受ける事となってしまったーーー、という筋書きです。少なくとも、本当はイカルス殿が何にも考えずに“大地の裂け目”入りしてしまった、というよりかは、遥かに外聞を取り繕う事は可能でしょう。」
「な、なるほど・・・!」
「そして、結果かなりの損害を出してしまったが、反面、患者として彼らに世話になった結果、逆に彼らの本意が見えてきた、という訳です。国を裏切るつもりはないが、平和である事に越した事はないので、間接的に彼らの活動を応援する事とした。不本意な武力衝突に関しても、彼らの仲介によって事なきを得た、とね。」
「ふむ・・・。確かにそれなら、ある程度言い訳は成り立つか・・・。」
もちろん、これは屁理屈である。
しかし、案外筋が通っており、そしてあくまでククルカン派を派遣したのは、その思惑はどうあれ、ルキウスやライアド教上層部であるから、彼らの活動に感銘を受け、それを支援したとしても責められる謂れはないのである。
「あい分かった。もちろん、私の一存で決める事は出来ないが、前向きに検討するとしよう。」
「そうですか。」
そこまで考えた上で、ウェッソン卿はそう現時点での結論を述べた。
レイナードも、流石にこの場で答えが出るとは思っていなかったのか、アッサリと頷いただけで終わる。
「・・・しかし分からないのは、何故キミらがそこまでするのか、だ。」
「それは簡単ですよ。俺ら自身が、彼らの活動に賛同し、合流しようとしているからです。ただ、やはりそうした活動を継続していくには、どうしても資金が必要となる。そこで・・・。」
「白羽の矢が立ったのが私達、という訳か・・・。」
「ええ、まぁ。それに、そちらとしても悪い話ではないでしょう?まぁ、ある程度のリスクがある事は否定しませんが、それを恐れている様では何事も成功しませんからね。ただ、一つ言える事があるとしたら、案外悪くない賭けだと言う事でしょうか?将来的に成長の見込める組織に、今の内から貸しを作っておく事は、ウェッソン家の生存戦略の一助になるかもしれませんからね。」
「・・・・・・・・・。」
レイナードの言葉に、ウェッソン卿はぐるぐると頭の中で考えを巡らせていた。
「では、俺らはこの辺で。良い答えを期待しています。」
「ああ、うむ。」
・・・
「彼らはククルカンさんに出資してくれるかなぁ〜?」
「さあ?今のところ五分五分ってところじゃないか?やっぱ俺には、アキトやリベルトみてぇには行かねぇからここら辺が精一杯だしよ。」
「けど、結構上手く主導権は握ってたと思うよ?それに、なんだかんだメリットとデメリットを提示して、彼らにとってのメリットの大きさも示す事が出来てたと思うし。」
「サンキューな。けど、やっぱあんま頭使うのは俺の性には合わねぇわ。」
「そんな事ないと思うけどなぁ〜。」
ウェッソン卿との交渉を終えたレイナードは、先程は正々堂々とウェッソン卿と渡り合っていた時とはまるで別人の如く、いつもの調子でバネッサとそんな会話を交わしていた。
彼の持ちうる限りの力を使って計画を練っていたが、やはりレイナードの言う通り、アキトやリベルトに比べたら後一歩詰めが甘いのは否めない。
しかし、そもそも貴族と正々堂々と渡り合える時点で、すでに普通の範疇から軽く超えている事には彼らも気付いていなかったが。
その後、ククルカンに合流した二人は、数日の時を経て、ウェッソン卿からの答えを貰っていた。
そこには、ウェッソン家は、ククルカン派の出資者になる事を正式に決めた、と書かれていたーーー。
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