不思議な縁 2
続きです。
※ちょいちょい引き合いに出されるアーロスくん達ですが、別に作者は彼らが嫌いな訳ではありませんのであしからず。
◇◆◇
紆余曲折を経て、生まれ育ったルダの街から旅立った二人は順当に冒険者となっていた。
旅立つ時にレイナードが語っていた“アキトの背中を追い掛ける”、と言うのは、何も物理的に追い掛ける訳じゃない。
アキトが今まで成してきた事を、レイナードなりに再現・体現しようとしていたのである。
当然、全てにおいて規格外の存在であるアキトは、いくら立派に成長した二人と言えど辿り着けない境地にいる。
何せアキトは、今や一国どころか複数の国の運命すら左右するほどの存在なのだから、それも当然と言えば当然だが。
しかし、そんな彼をしても、どうしても取り零してしまう命というモノはある。
何せ、彼の身は一つしかないから、こちらも当然と言えば当然だが。
そこでレイナードは、アキトとは別の側面から、“平和な世の中”にしようと奮闘していた訳であった。
まぁ、これは、アキトが常々語っていた、平和が一番(何故なら、そうなれば色々な面倒事から開放されて、彼の趣味の一つである遺跡調査などに心置きなく没頭出来る、という意味であったが)と言う言葉を、軽く誤解して解釈した結果であるが。
こうして、冒険者としての観点から、彼らはそのアキトの理想に邁進していた訳であった。
ただ、似た様なヒーロー活動を行っていたアーロスらとは違い、彼らは地に足が付いた考え方も出来る人物達だ。
これについては、『冒険者訓練学校』にて臨時講師をしていた経験も大きいかもしれない。
ただ単に困った人々を助けるだけに留まらず、そのそもそもの原因や問題点を浮き彫りにし、冒険者はもちろん、一般市民達にも、改めて高い防犯意識や自己防衛力を促していたのである。
こうして、各地で活躍し続けた結果、その目にも止まらぬ身のこなしと剣速から、ついた“二つ名”が『神速』のレイナード。
快活美少女にして、そのあまりに鮮やか過ぎる弓術から、ついた“二つ名”が『閃光』のバネッサ。
この二人を合わせて、この世界に2つしかない月になぞらえて、『双月』と呼ぶ者達もいた。
そんな、名実共にS級冒険者となった二人だったが、残念な事に“固定パーティーを組む”、という機会には恵まれなかったのである。
ここで、改めてこの世界の冒険者達の現状を整理しておこう。
まず、前提条件として、普通の冒険者パーティーに魔法使い・魔術師がいる事はほとんどない。
何故ならこれは、基本的に魔法技術が一部の特権階級者達(各国の貴族、『魔術師ギルド』など)に独占・秘匿されているからであった。
(まぁ、とは言え、ケイラやケイア、『デクストラ』のレオニールの様に、所謂“野良”の魔法使いや魔術師がいない事はないが、その絶対数が圧倒的に少ない。
しかも、一般市民に比べて、圧倒的に裕福、つまり生活に困っていない貴族や『魔術師ギルド』の者達が、冒険者などというある意味ヤクザな商売に就く事など、まぁ、中には物好きな者達もいたので全くない訳ではなかったが、ほとんどいなかったのである。)
こうした観点から、基本的にパーティーを構成する上で、魔法使いや魔術師を組み込む、という考えはそもそもないのであった。
そうした事もあって、まぁ、これは結局はそのパーティーの方向性にも寄るのだが、基本的なパーティー構成と言うのは実は似たり寄ったりになっていた。
まず、何と言っても近接戦闘に特化した物理アタッカー、あるいはパーティーを守るタンク役となる者達の存在は必須である。
所謂、戦士系、重戦士系の使い手達がこれに該当する。
もちろん、安全性を考慮すれば、遠距離から一方的に攻撃出来る方が良いに決まっているのだが、常にそうした状況に持ち込めない事も往々にしてある。
その時、近接戦闘を得意とする者、あるいは味方の盾となる動きを出来る者の存在がなければ、パーティーはあっという間に瓦解してしまう恐れがある。
故に、まず一番最初にこうした使い手を勧誘する必要があった。
次に、遠距離から味方をサポート出来る者の存在である。
所謂、弓使い系、野伏系(場合によってはここに魔法使い系がいれば盤石と言える。)の使い手がこれに該当する。
先程も述べた通り、この世界では基本的に魔法使いや魔術師が希少な存在である事から、遠距離攻撃の手段は限られてきてしまう。
それ故に、後方支援、遠距離アタッカーと言えば弓術の独壇場なのであった。
もっとも、昨今ではロンベリダム帝国にて開発者された“魔法銃”なる物が登場したので、そう遠くない未来には、弓使いは銃使いに取って変わられるかもしれないが。
とは言え、今のところ遠距離攻撃と言えばやはり弓矢なのであった。
また、野伏は、ある種のガイド役であり、地形から進むべき道を導き出したり、その探知能力によって索敵などを担当し、モンスターや魔獣との衝突を避けたり、あるいはそれを予知したりと、ある種のパーティーの要となる存在である。
こうした観点から、野伏は中〜遠距離に配置される事が多いので、必然的に攻撃手段は弓術を主とする者も多い。
まぁ、とは言え、弓にしろ銃にしろ、弾数制限が存在する事から、特に冒険者であるならは、近接戦闘の心得は誰もが習得していなければならないのであるが。
これが、シンプルながらもある意味手堅いこの世界における冒険者パーティーの基本構成であった。
後はここに、そのパーティーの方向性によってその数が上下する事はあるし、場合によっては特殊な職業を持つ者をパーティーに加える事もあるのだが。
まぁ、それはともかく。
で、肝心のレイナードとバネッサであるが、もちろん、彼らも一番得意とする武器はそれぞれ存在するのだが(レイナードの場合は剣術、バネッサの場合は弓術)、しかし、アキトやユストゥスらによって、やや簡易版とは言えど『シュプール式トレーニング方法』を受けた事によって、そうしたカテゴリーから逸脱した存在となってしまったのである。
つまり、本来ならばレイナードは戦士系に属する職業、使い手なのだが、同時に他の職業のスキルや能力も高いレベルで習得しているのである。
これは、バネッサも同様であり、要するに、彼ら二人は全て自分達で自己完結してしまえるので、他者のサポートを必要としないのである。
いや、もっと言ってしまえば、仲間の存在は場合によっては足手まといにすらなる危険性があったのである。
これは、先程も述べた、『シュプール式トレーニング方法』に要因があった。
基本的にこれは、アキトとアルメリアが考案し、ユストゥスらがアレンジを加えていたが、つまりは最初の時点でのこれは、アキトがこの世界で一人でも困らない様に、生き抜ける様にと考案したトレーニング方法なのである。
アキトはここに更に魔法技術が加わるが、それ故に近接戦だろうと遠距離戦だろうと、索敵だろうと何だろうと、一人ならば全てこなせなければならない。
という、ある意味頭の悪い理論から、それを実現し、しかも高いレベルで習得出来る様にしたのが『シュプール式トレーニング方法』であり、実際、アキトはもちろん、ユストゥスらもこれらのトレーニングを続けた結果、レベル500かつアキトに次ぐ万能型となっていた。
で、レイナード達が受けたカリキュラムは、ユストゥスらが実践したトレーニングよりもかなり簡単ではあったが(もっとも、これは彼らの基準の“簡単”であり、一般的に見れば、かなりの苦行であった。)、それを乗り越えた結果、彼らもまた、一般的に見れば魔法を使えないだけで、何でもこなせるオールラウンダーとなってしまった訳であった。
(ちなみに余談だが、レイナードらを訓練した教訓から、後に『冒険者訓練学校』にも採用された『シュプール式トレーニング方法』だったが、それを更に簡易版にする事で落ち着いた。
これは、かなりハードルが高い、という事もあるのだが、下手にこれを受けて乗り越えてしまった場合、その者は間違いなくレイナードらと同程度の使い手となってしまうからである。
もちろん、強ければ強いほど冒険者としては良い事かもしれないが、逆にあまりにレベルがかけ離れ過ぎると、連携が上手く機能しなくなるデメリットもあった為だ。
『冒険者訓練学校』の創設事由の一つに、若手冒険者達の生存率を上げる事があった。
しかし、下手に強くなり過ぎて、結果ソロ冒険者が増えるのでは、ある意味本末転倒になりかねなかった為である。)
と、まぁ、こうした事から、もちろん臨時でパーティーを組む事もあったのだが、レイナードとバネッサは、基本的に二人で活動する事が主で、しかもそれで何の不備もなかったのである。
また、二人のあまりにも一般冒険者達とはかけ離れたレベルやスキルから、逆に足手まといになる事を恐れてか、仲間に加えてくれ、とは口が裂けても言えなかった、という事情もあるのかもしれない。
(ここら辺は、彼らよりも更にレベルの高いアラニグラが『ウェントゥス』と上手くやっていた例もあるので何とも言えないのであるが、しかし、アラニグラは、なんだかんだレベルが高くとも、結局はアキトの様な本当の意味での万能型ではなかった事が、仲間達の存在意義を失わずに済んだのかもしれない。)
こうして、新たなる仲間を得る、という体験こそ出来ずじまいであったが、規格外の存在として冒険者ギルドや冒険者達から尊敬や畏敬の存在となっていた彼らが、どうして“大地の裂け目”などという戦乱の最中にいるのかというと、これはかなり面倒事を押し付けられた結果なのであったーーー。
□■□
「人命救助、ですか・・・?」
「そうです、レイナード殿。実は困った事に、とある貴族のご子息が、部下を引き連れて物見遊山で“大地の裂け目”に入ってしまった様でしてな・・・。」
「いやいや、マジっすか・・・。・・・えっ?アホなの?」
「・・・そのご意見は分かりますが、事実です。戦争などという非日常に興味を惹かれたのでしょうな・・・。」
「・・・どこにでも、一定数アホは存在するってアキトも言っていたが・・・。」
偶然にも、レイナードとバネッサは旅を続けながらロンベリダム帝国に到達していた。
ロンベリダム帝国はハレシオン大陸でも有数の強国、大国であるし、同時に他に類を見ないほど非常に発展を遂げた国でもあるので、この世界の住人ならば一度は訪れてみたい場所なのであった。
もっとも、何の因果がこの頃には『ロフォ戦争』が勃発しており、あくまで冒険者でしかないレイナードとバネッサはそれに関わる筈もなく、他の国に移動を検討していた最中、ロンベリダム帝国の冒険者ギルドから直々に招集が掛かってしまった、という流れである。
「・・・それで、いかがですかな?」
「いや、そんなん答えは決まってるじゃないっすか。もちろんお断りしますよ。」
「そ、そこを何とかぁ〜!!!」
「わっ!?」
「きゃっ!?」
帝都・ツィオーネにある冒険者ギルドのギルド長は、見た目的にはかなり厳ついおっさんであったが、今はそれも見る影もなく、すげなく断ったレイナードに情けなく泣き付いていたのであった。
もっとも、レイナードの判断は正しい。
世間的には“何でも屋”というイメージのある冒険者であるし、実際にそういう側面もあるにはあるが、それでも何でも依頼を請け負う訳ではもちろんない。
それに、戦争などという状況に関わる事など、“百害あって一利なし”、というのが冒険者達の共通見解である。
それは、もちろん冒険者ギルドも熟知している、筈である。
それ故に、冒険者や冒険者ギルドは、昔から国からは一定の距離を置いていた。
冒険者ギルドは、国の一機関ではなく、あくまで独立した団体であるから、こうした事が許されるのである。
「い、いや、ちょっと、離れて下さいよっ!えっ、無駄に力つよっ!!」
「離しませんぞぉ〜!レイナード殿がうん、と言ってくれるまではぁ〜!!」
しかし、以前にも言及した通り、冒険者ギルドの形態もその地方によってマチマチである。
完全に国からは距離を置いているギルドも存在すれば、協力関係にあるギルドも存在する。
そして、場合によっては国とズブズブの関係のギルドもあるのである。
「いやいや、結局はそんなん自己責任じゃないっすかっ!それに、貴族の息子って事なら、俺らに頼まんと私兵を送り込むなりなんなりすりゃいいっしょっ!?」
「それが出来んからあなた方に頼んどるんですよぉっ〜!!後生ですから、依頼を引き受けて下さいよぉ〜!!!儂には、妻も子供もおるんですぅ〜!!!」
押し問答を続けるレイナードとギルド長。
もちろん今現在のレイナードの力量ならば、手段を選ばなければギルド長を引きはがす事は容易い事である。
しかし、その場合は、まず間違いなく彼を傷付ける事となるから、何とも対応に困ってしまっていたのである。
流石に一組織の長をしばいたとなれば、レイナード達の周囲から見られる目も変わってしまうからであった。
「・・・とりあえず、話を聞くだけ聞こうか、レイナード?」
「・・・嫌だなぁ〜。」
見かけたバネッサがそう提案するが、それはもはや断るという選択肢がなくなる事になるのではと、レイナードは嫌々ながらも渋々頷いたのであったーーー。
・・・
「コホンッ!失礼しました。やや強引な手段でしたな。」
「「・・・。」」
・・・ホントだよ。
と、レイナードは思ったが、今更ここで話を脱線させても元の木阿弥なので、それをグッと堪えた。
「ご承知の通り、本来なら、皇帝だろうと教皇だろうと、冒険者ギルドをアゴで使う事は出来ません。これは、あくまで冒険者ギルドが独立した団体だからです。それに、国家にとっても、またライアド教にとっても、冒険者ギルドの存在は必要不可欠です。何故ならば、仮に冒険者や冒険者ギルドが存在しなかった場合、魔獣やモンスターの脅威などに、彼ら自身で立ち向かわなければならないからです。」
「「・・・。」」
コクリッ、と二人も頷いた。
ここら辺は、以前から言及している通り、この世界の特殊な環境柄そうなっていた。
もちろん、国家の持つ軍事力ならば、魔獣やモンスターといった脅威に対抗する事は出来る。
しかし、同時に彼らの存在意義は、あくまで自国の防衛が主な任務なのである。
つまり、魔獣やモンスターに掛かりっきりになっている訳にも行かず(場合によっては、それを好機と見た他国から攻められる可能性もあるからである)、しかし経済的にも自国の労働力を確保する上でも、魔獣やモンスター、あるいは盗賊団などの脅威を放っておく事も出来ない、というジレンマを抱えていた訳であった。
そこへ台頭してきたのが冒険者と冒険者ギルドであった。
国の枠組みとは別の組織、武装集団が、金品などと引き換えに、それらの討伐、あるいは捕縛の為に活動するのである。
あくまで、国の枠組みの外の組織であるから、国家としては自国の組織を動かさずに済む=他国に付け入る隙を与えない事となる訳である。
逆に言えば、これは自国の枠組みに組み込まないからこそ意味があるとも言える。
もちろん、所謂『軍隊』とは別に、魔獣やモンスターの討伐などを専門に請け負う組織として、国営の冒険者ギルドを創設する、という発想は有りかもしれないが、ぶっちゃけると冒険者ギルドを国が召し抱える事は、単純に防衛費が増大する事となる。
防衛費は非常に金食い虫だ。
もちろん、自国の防衛の為には軍事力は必須ではあるのだが、しかし行き過ぎると国そのものの財政を圧迫する事にもなりかねないのである。
国家が財政難となれば、当然国民からの不満が出てしまうから、最悪内側から反乱が起こる可能性もある。
それ故に、国が『軍隊』とは別に、冒険者ギルドを抱え込む事はかなり困難な状況なのであった。
こうした事情もあって、冒険者ギルドの独立は容認されていた訳であるが、それでも、やはり一定程度は国からの意向や影響力を残しておきたい、という為政者の思惑が働いたとしても何ら不思議な話ではないのである。
これは、非常時に冒険者ギルドの持つ武力を利用する為であり、為政者側から言えば当然といえば当然の判断であった。
しかし、先程も述べた通り、直接的に冒険者ギルドを国の傘下に収める事は難しい訳で、ならばと間接的な手段として、所謂出資者という方法が取られた訳である。
冒険者ギルドの収益は、基本的に冒険者の質に懸かっている。
業績の良い冒険者を多く抱えるギルドの方が、当然収益は増す事となるからである。
もっとも、ギルドと冒険者の関係は、こちらも以前から言及している通り、所謂直接的な雇用関係にある訳ではないから、特に優秀な冒険者ほど、稼ぎの良い場所に流れてしまう事もしばしばあり、そしてそれを引き留める権利はギルド側にはないのである。
こうした背景もあり、実際には冒険者ギルドの運営はかなり厳しい状況であった。
そこに付け入る隙があった。
先程も述べた通り、この世界の特殊な環境柄、冒険者ギルドはある種必須の組織だ。
潰れられると困る人々は、それこそごまんといるだろう。
そこで、各方面からの寄付、と称した出資を組織を支える上で受け入れざるを得ないギルドも存在していたのである。
(余談だが、アキトの存在、魔獣の森という稼ぎ場もあって、現・ルダの街の冒険者ギルド支部は収益面では問題はなかったのであるが、その後、アキトやノヴェール家などの出資を受け入れた事によって、独自の『冒険者訓練学校』の創設に繋がっていたりする。
この様に、割と自由度や規制が緩かったりする面が存在するのである。)
そして、ここ帝都・ツィオーネにある冒険者ギルドも、各方面からの寄付、出資を受け入れていた訳である。
そしてその事が、ギルド長を悩ませる事となっていたのであった。
「とは言っても、そうそう上手く行かないのが世の常です。帝都は皇帝のお膝元ですし、一般的には平和そのものです。平和なのは結構ですが、それだと冒険者ギルドや冒険者にとってはおまんまの食い上げな訳ですな。しかし、そうは言っても、全く仕事がない訳でもない。そうした事もあって、華やかな街並とは裏腹に、我が冒険者ギルドの運営は火の車な訳です。それ故に、どうしても各方面からの出資を受け入れざるを得ない。」
「んで、その件の貴族のドラ息子の実家から、かなりの額の出資を受けている、と。」
「・・・お話が早くて助かります。その通り。故に、我々としては、彼の貴族家からの“お願い”を断るという選択肢がないのですよ。」
「・・・世知辛いねぇ〜。」
「アキトの言ってた通りだよね。単純な武力で解決出来る事なんて、たかが知れている、って。」
「昔は分かんなかったけど、今はそれを実感してるぜ。やっぱ、なんだかんだ言って、世の中金、ってかルールを握ってるヤツが強い、ってか?」
「それで、無理は重々承知の上で、あなた方にその依頼を請け負って欲しいのです。お恥ずかしい話、今のウチには、ろくな人材が残っていない。まぁ、冒険者からしたら、大して実入りの見込めない場所に留まる理由がありませんからな。しかし、そんな折に、S級冒険者であるあなた方がこの地を訪れたのは、我々にとっては天の助けでした。」
「・・・どうする、レイナード?」
「・・・ま、気は乗らねぇ〜が、ギルド長の顔を潰す訳にもいかんだろ。それによく考えたら、戦争状態にある場所に、下手に私兵を送り込めない事情も分からんではない。場合によっちよ、今の状況より悪くなるかもしれんからなぁ〜。つまり、俺ら以外にそいつを救出する術がないだろうしなぁ〜。」
「・・・だよね。」
パッと明るい顔をしたバネッサにレイナードは苦笑しつつ、ややあってギルド長に視線を向けた。
「分かりましたよ、ギルド長。そのドラ息子を連れて帰ればいいんすよね?」
「おおっ!それではっ・・・!!」
「そのご依頼、お引き受けします。」
「あ、ありがとうございますっ!も、もちろん、無理を言ってるのはこちらの方ですから、依頼料についても、出来るだけ頑張らせて貰うつもりですが・・・。」
「あぁ〜、それなんですがね・・・。」
・・・
「幸運でしたな、ギルド長。割と上手く事が運びました。」
「所詮S級冒険者と言えど、まだ年若い二人組でしたからなぁ〜。ギルド長の泣き落としにコロッと行っちまいましたよ。」
レイナードとバネッサが去った後のツィオーネの冒険者ギルドでは、職員がそんな会話を交わしていた。
「まだまだ、世間の厳しさを知らないですかねぇ〜。大方、才能だけでここまで来たんじゃないっすか?」
「・・・いや、あの二人組はそうした類の手合いではないだろう。」
「「・・・へっ???」」
彼らが指摘しているのは、交渉事が一見稚拙見えた点である。
しかし、ギルド長の印象は違った様である。
「依頼料の話になった時、あの青年、何と言ったと思う?」
「・・・はっ?そ、そりゃ、出来るだけ引き上げるんじゃないんすか?それ相応に難しい依頼な訳ですから。」
「普通はそう思うだろうな。しかし、あの青年は違う。“そっちは、その貴族と直接交渉する。”、だそうだ。」
「・・・はっ?い、いやいや、それってどういう・・・?」
「私も、その真意は分からなかったが、もしかしたら彼らは、よほどの大馬鹿か、よほどの大物かのどちらかだろうな。そして、私の印象では、おそらく後者だろう。」
「「・・・。」」
「・・・『双月』、噂には聞き及んでいたが、もしかしたら噂以上かもしれん。」
誤字・脱字がありましたら御指摘頂けると幸いです。
いつも御覧頂いてありがとうございます。
よろしければ、ブクマ登録、評価、感想、いいね等頂けると嬉しく思います。