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『英雄の因子』所持者の『異世界生活日記』  作者: 笠井 裕二
続・『エストレヤの船』を巡る攻防
245/383

終わる日々

続きです。



◇◆◇



一方その頃、長い間“停戦交渉”という名の足止めを食らっていたアラニグラらに進展が訪れつつあった。

当然ながらこれは、ロンベリダム帝国内部で反政府運動が激化しつつあったからである。


もちろん、ルキウスも明言していた通り、彼はいまだ健在であり、ここで『ロフォ戦争』を止めるつもりはなかった。

何故ならば、そこにどの様な思惑・大義名分があったのか、またルキウス自身、裏でヴァニタスに利用された事などは別としても、(表向きに)この戦争を引き起こしたのはロンベリダム帝国、ひいてはルキウス自身だからである。


つまり当然ながら、“国内情勢が厳しくなってきたので戦争止めますね”、で済む話ではないので、下手をすれば戦争を仕掛けられた側、ここでは“大地の裂け目(フォッサマグナ)”勢力が、その報復としてロンベリダム帝国の国土を蹂躙する可能性が極めて高いからである。


まぁ、やられた側からしたらそれは当然の報復措置なのだが、しかしそれ故に、反政府組織が“大地の裂け目(フォッサマグナ)”勢力と接触、あるいは交渉を始めるまでのロンベリダム帝国国土を守る為、あるいは時間稼ぎとして、『ロフォ戦争』を止める訳には行かなかったのである。


もっとも、自らの保身を最優先にするならば、全ての事を投げ売って逃亡を図る事も出来たのであるが、腐ってもルキウスは、世が世なら偉人や英雄と呼ばれたであろう人物である。

それ故に、自らの引き起こした事に対する責任、尻拭いを、自らでする覚悟があったのである。

まぁ、それはともかく。


こうした事もあって、当然ながらロンベリダム帝国側の交渉団も大分ゴタゴタする事となった訳である。

言うなれば、自分達の足元が危うい訳であるから、それも当然なのであるが。

それを、アラニグラは感じ取っていた、いや、知っていたのであるがーーー。



・・・



「何やら、オタクの内部事情も大変な事になっている様ですね。こんなところで“停戦交渉(こんな事)”している場合ではないのではないですかな?」

「「「「「っ!!!???」」」」」


もはや、定例となりつつあったロンベリダム帝国側との協議に臨んでいたアラニグラは、開幕早々、そんな先制パンチを繰り出していた。


もっともアラニグラには、アキトやヴァニタスらとは違い、この世界(アクエラ)において遠くの地で起きている事を正確に把握する術は持っていなかったのだが、それでも元・営業マン、現代人としては、情報の重要性など当たり前に知っている事である。

それ故に、冒険者や商人を介して独自の情報源(ソース)を入手する方法を確立していたのであった。


具体的には、いくらアラニグラがカランの街に縛り付けられているとは言えど人々の往来がなくなる訳ではない。

それに、ロンベリダム帝国側とお互いに牽制し合っているとは言え、生活の為には物資の補給が禁止される訳もなく、そうした事もあって、外部の出入り業者に金を握らせて、独自の情報網を構築していたのであった。


一瞬驚きの表情を浮かべていたロンベリダム帝国側の交渉団の一人は、すぐに苦しい言い訳を返した。


「あ、あなた方には関係のない話ですよ。」

「はたしてそうですか?下手をしたら、この“停戦交渉”そのものが意味を成さなくなるかもしれないのに、我々には関係ない、と?」

「そ、それはっ・・・。」


そうなのだ。

そもそも、“停戦交渉”とは、お互いの勢力が健在であって初めて成立する話なのである。

つまり、もし仮にロンベリダム帝国そのものの崩壊が決定的となれば、この“停戦交渉”そのものが無意味となる。


ひいてはそれは、アラニグラらにとっては無為な時間を過ごさせられただけの話になる。

そもそも関係ない訳がないのであった。


もちろん、これは相手側の内部事情であるから、今は“大地の裂け目(フォッサマグナ)”勢力の一員として所属しているアラニグラには、確かに関係ない話かもしれないが、それでもこれは進展しない現状を変える足掛かりとはなる。


アラニグラの鋭い指摘に、二の句が継げないロンベリダム帝国側の交渉団の面々。

もちろん、この“停戦交渉”そのものが、時間稼ぎとアラニグラをこの場に留めておく為の口実だったのだが、ロンベリダム帝国側としては、これによって事態が良い方向に向かうかと思いきや、彼らとっては悪い方向へ向かっているのだから、焦りがあったとしても無理からぬ話なのである。


一応は、先程も述べたルキウスの方針から、この作戦そのものは継続せよ、とのお達しがあった訳であるが、彼らの中にも本国に対する疑念や自らの保身を考えるキッカケともなっていたのであった。


そこへ、アラニグラは一手仕掛ける事とした。


「そこで提案なのですが・・・。“停戦交渉”を一旦打ち切りとしませんか?」

「「「「「「「「「「なっ!!??」」」」」」」」」」


この発言には、ロンベリダム帝国側だけでなく、アラニグラの仲間である“大地の裂け目(フォッサマグナ)”側からも驚きの声が上がった。

何故ならば、勝手に“停戦交渉”を打ち切るという事は、相手側に大義名分、つまりは“相手が我々の言葉に耳を傾けなかった。”、という口実を与えてしまいかねないからである。

それ故に、どれだけ無意味な事とは分かっていても、渋々この“交渉ゴッコ”に付き合っていた訳だ。

その前提を、アラニグラは覆すと言うのである。


「・・・それは、“大地の裂け目(フォッサマグナ)”側は我々との話し合いには応じない、という認識でよろしいかな?」

「ちょ、ちょっと待ってくれっ!あ、アラニグラ殿も、何を考えておられるのだっ!?」


鋭い視線を向けたロンベリダム帝国側の使節の言葉を遮り、“大地の裂け目(フォッサマグナ)”側の一人がそうアラニグラに詰め寄った。


しかし、アラニグラは焦るでもなく、淡々と現状を語り出した。


「何をも何もないですよ。言葉通りの意味です。以前とは違い、先程も述べた通り、ロンベリダム帝国側の内部事情が怪しくなっているのですから、仮にここで何らかの合意が成されたとしてもそれが破棄される可能性は極めて高い。ならば、我々の側には何の旨味もない訳ですから、無意味な交渉は一旦打ち切りにしませんか?、と提案しているのに過ぎません。」

「・・・それは、貴方の妄想では?仮にロンベリダム帝国の内部事情が怪しいとしても、我が国は大帝国ですよ?そう簡単に崩壊するとお思いですか?」

「「「「「っ!!!」」」」」


自身有りげなロンベリダム帝国側の使節の言葉に、“大地の裂け目(フォッサマグナ)”側の使節達は顔を青くした。


確かに、多少の内乱が起こった程度では、ロンベリダム帝国側の使節の言う通り、ロンベリダム帝国そのものが崩壊する事など()()()起こり得ない。

即座に鎮圧されて終わる話だからである。


つまり彼らは、アラニグラの推測は的外れも良いところである、と考えた訳である。

それ故に、先程のアラニグラの言葉の意味が重くなってきてしまう訳で。


「アラニグラ殿っ!発言を撤回して下されっ!!」

「いえ、それには及びません。あまり私をナメない方が良いですよ?確かに、()()()()()ロンベリダム帝国ほどの大帝国が崩壊する事などありえない、と考えるでしょう。しかし、私がそう考えるのには確固たる根拠があります。()()()()()()()()()。それが、今現在のロンベリダム帝国内では巻き起こっているからです。」

「「「「「「「「「・・・???」」」」」」」」」

「し、失礼。不勉強で申し訳ないのだが、“社会インフラ”とは何ですか?」

「あっ・・・。こ、これは失礼した。え、え〜と、つまり、人間の活動の基盤。特に、生活や福祉を支えているもの、の事を言います。水路や道路、通信網などがこれに該当しますね。」

「は、はぁ・・・。」


アラニグラは、しまった、という顔をした。

と、言うのも、この世界(アクエラ)ではそうした用語がまだ一般的ではないからであった。


もちろん、アラニグラが例に挙げた水路や道路、通信網などの重要性についてはここに居る者達にもそれなりに理解出来ていたのだが、それがどうした?、というのが彼らの正直な感想であろう。


「で、ロンベリダム帝国においては、軍事力だけでなくこれらの全てにおいて、“魔法技術”が広く利用されています。ですが、その“魔法技術”そのものが、今現在のロンベリダム帝国ではほとんど機能していないのですよ。」

「「「「「っ!!!」」」」」

「「「「「???」」」」」


更に説明するアラニグラに、ロンベリダム帝国側の使節達は何かを察した様な表情を浮かべたが、“大地の裂け目(フォッサマグナ)”側の使節達は、まだよく分からない様な表情を浮かべていた。

これは、彼らがロンベリダム帝国側が扱う“魔法技術”というものを、しっかりと理解していなかったからでもある。


「い、一体何の話でっ・・・?」


それ故に、迂闊な発言を避けたロンベリダム帝国側の使節達は沈黙を貫いたが、“大地の裂け目(フォッサマグナ)”側の使節の一人は、更に突っ込んでアラニグラにそう聞いた。


「まず前提条件として、現在のロンベリダム帝国の繁栄において、“魔法技術”の重要度は非常に高いのです。これは、”魔法技術先進国“である事からも容易に想像がつくでしょう。それと同時に、先程も述べた通り、これは軍事力だけでなく生活に関しても直結しているのです。ロンベリダム帝国が他の追随を許さないほどの大帝国と呼ばれる所以は、ただ単に強力な軍事力を持っているだけでなく、その根底にあるのは、強力な()()()()にあるのですよ。当たり前ですが、人が生きる上では食糧が必要となります。では、これを効率的かつ安定的に供給出来る体制を構築出来ればどうでしょうか?当然ながらそれは、他の事に時間を割く余裕が出来る事に繋がりますよね?つまりそれは、人口の増加と優秀な人材を確保する事両方にも繋がるのです。それを可能にしたのが“魔法技術”です。これによって、農地の開墾や開拓も容易となりますし、通常の道具などを使った農作業よりもスピーディーに作業が可能となる。結果、生産能力の向上と時間的余裕の確保。この二点が、現在のロンベリダム帝国の繁栄の基礎となっています。」

「ま、“魔法技術”にそんな利用方法があるとはっ・・・!」


大地の裂け目(フォッサマグナ)”側の使節の一人は、そう唸り声を上げた。

と、言うのも、彼らの認識では、“魔法技術”とはあくまで戦いに利用するモノだという先入観があるからであった。

それに、“大地の裂け目(フォッサマグナ)”側の獣人族達は、各々“現代魔法”とは異なる技術体系を持ってはいるが、それも、身体能力などの延長線上のモノとして捉えているので、均一化、平均化出来る“現代魔法”の利点に気付いていない事も往々にしてあったのである。


様々な最先端テクノロジーが戦争に利用される事は多いが、それ以上に重要なのは、市民生活にも広く利用する事の方である。

何故ならば、そちらの方が建設的だからである。


実際、ロンベリダム帝国においては、“魔法技術”を広く一般生活にも利用する事によって、他国とは比べ物にならない発展を遂げている。

これは、アラニグラが言う様に、国民の生活水準を高める事に繋がり、ひいては国力・経済力の向上と、高い能力を有する人材を確保出来る事にも繋がるからであった。


もっとも、こうした思い切りの良い政策を取れるのは、ロンベリダム帝国が独裁国家だからでもある。

他国においては、いまだに“魔法技術”の流出を恐れているところも多いし、“魔法技術”はある種の利権でもあるので、特権階級者や魔法技術者からの反発も多いのである。

それでも、(これはロンベリダム帝国も同様だが)ロマリア王国やヒーバラエウス公国の様に、あくまで“魔法技術”の根幹となる部分は秘匿しつつ、『魔道具(マジックアイテム)』として“魔法技術”を市民生活に活用しようとする動きは、徐々に出始めていた訳であるが。

まぁ、それはともかく。


「ところが、先程も述べた通り、今現在のロンベリダム帝国内においては、それらの“魔法技術”が一切使用不可となっているのです。もっとも、魔術師や魔法使いらが使用する“魔法”、すなわち、個人の技能としての“魔法”はこの対象外の様ですし、私も普通に“魔法”が扱えますがね。」

「で、では、特に問題がないのでは・・・?」

「いえいえ。まぁ、これに関しては獣人族の皆さんには中々想像が付かないのかもしれませんが、“魔法”は一部の者達にしか扱えない技術なのです。当然ながら、ロンベリダム帝国の大半の者達は、この“魔法”そのものは扱えません。」

「???し、しかし、それだと、先程のお話と矛盾してきますが?」

「いえ、矛盾はしません。ロンベリダム帝国の一般市民達が使っている“魔法技術”とは、すなわち『魔道具(マジックアイテム)』。つまり、“魔法”の技能や知識なしで扱える様にした物だからですよ。」

「な、なるほど・・・?」

「しかし、それが今は使えないという事ですか・・・。しかし、それのどこが問題となるのですか?元々使えなかったモノが元に戻っただけですよね?」


先程も述べた通り、“現代魔法”とは異なる技術体系を持っている、しかも、各種族全ての者達がそれを扱える獣人族達には中々想像が付かなかったが、アラニグラの説明を何とか飲み込んでそう指摘した。


「ところがそうではない。もちろん、貴方が指摘した通り、使えないなら使えないなりに生活する方法はいくらでもあります。しかし、一度便利な生活に慣れた人々というのは、かつての生活には中々戻れないものなのですよ。もっとも、中には適応力の高い者達もいますし、そもそも“魔法技術”の恩恵をあまり受けていない者達にはその影響は軽微なのですが、それはロンベリダム帝国内においては少数派となります。大半の者達が、“魔法技術”が使えなくなると大変困った事となる。」

「なるほど・・・。つまり、人々の不満が高まってしまう、という事ですね?」

「その通り。しかも、感情的な話だけでなく、先程も述べた通り、ロンベリダム帝国の現在の発展には“魔法技術”がその根幹を担っているので、それが扱えないとなると、当然生産能力は著しく低下しますし、国内の経済はガタガタとなるでしょう。それは、更に人々の不満に拍車を掛けてしまいます。」

「ね、根も葉もない噂だっ!虚偽の話を流布するのは止めて頂きたいっ!!」

「・・・では、何故あなた方の国では、今現在反政府運動が激化しているのですか?もしや、『ロフォ戦争』に対する反戦運動だとでも?」

「そ、そうだっ!一部の非国民達が、我が国の大義を理解せず、いたずらに状況を引っ掻き回しているだけなのだっ!!」

「・・・そんな訳ないじゃないですか。私も、一時はロンベリダム帝国に身を寄せていましたから知っていますが、あなた方の国は独裁国家だ。普通に生きる分にはさして問題ありませんが、政府に逆らう事は、それすなわち“死”を意味する。少なくとも、敵性貴族達を大量に粛清した事は私でも知っていますよ。国民がそれを知らない筈がない。では、単純な反戦運動、つまりは自分の生死が懸かっているのに、正義感からそんな危険な事を出来るとは到底思えません。もちろん、極一部の者達ならば話は別ですが、ね。」

「しかし、先程のアラニグラ殿の口振りですと、実際にはロンベリダム帝国内にて反政府運動が激化している訳ですよね?」

「それは当然です。何故ならば、今回の場合は自分達の生活に直結しているからですよ。“魔法技術”が扱えない中で、しかも政府はその状況を改善する事も出来ず、なおかつ戦争を止める気配もない。むしろ、戦争の為に増税までされている状況ですから、生産能力の著しく低下した国民の中には、特に地方の者達は明日生きられるかも怪しい人々が出てきています。」

「・・・当然、明日死ぬとも分からない者達は、追い詰められた状況ですから思い切りの良い行動に打って出る訳ですね。すなわち、それが今現在のロンベリダム帝国で巻き起こっている反政府運動の実情なのです。」

「っ!!!」

「え、エイボン殿っ・・・!!」


朗々と語っていたアラニグラの言葉を引き継ぎ、これまでこの場に姿を見せていなかったエイボンが結論を述べた。

それには、アラニグラはもちろん、ロンベリダム帝国側の交渉団も驚きの表情を浮かべていたが、エイボンは気にする風でもなくシレッとした顔をしていた。


その様子に、訝しげな表情を浮かべたアラニグラだったが、あえてその場では気にしない事にした様で、アラニグラは先を続けた。


「ま、まぁ、こうした訳もあり、今現在のロンベリダム帝国内で起こっているこうして活動は止む気配がない訳ですね。何故ならば、彼らの望みは現状の回復。すなわち、以前の様に“魔法技術”が使える様にするか、それが無理ならば戦争を止める事で自分達への生活の負担を減らしてもらいたいからです。しかし、政府側では、“魔法技術”が使えない事に対する解決策がない様です。平たく言えば、原因不明。当然ながら、原因が分からなければ、解決する糸口も掴めません。では、戦争を止められるか?、と言われれば、それも不可能です。何故ならば、これはこちら側が黙っていないからですよ。そこにどの様な思惑があったのかはこの際置いておくとしても、先に戦争を吹っ掛けてきたのはロンベリダム帝国側なのですから、そちらの事情で戦争を止める以上、負けを認め、“戦争賠償”を支払って貰わねばこちらも納得はしませんからね。」

「な、何を言うっ!元々は、そちらが我が国の同胞を攫っていた事が原因だと言うのにっ・・・!!!」

「ならば戦争継続ですね?内部からの圧力と我々との戦争を抱えて、どこまで耐えきる事が出来ますかな?」

「う、うぐっ・・・!!!」

「まぁ、いずれにせよ、ロンベリダム帝国の現政権としては、我々から国土を守る為にも、戦争を継続するしか道は残されていないのですがね。以上の事から、すでに風前の灯であるロンベリダム帝国と我々が“停戦交渉”を継続する事は、もはや無意味だと断じました。何か反論がお有りですか?」

「「「「「っ・・・。」」」」」


アラニグラの理路整然とした結論に、ロンベリダム帝国側の使節達は反論出来なかった。

これは、アラニグラが語った事が全て事実であり、そして、内心彼らの中にも、本国に対する疑念があったからでもある。


「・・・結論は出た様ですな。」

「そうですね。これ以上の“停戦交渉”は無意味でしょう。アラニグラ殿の提案を私は支持します。」

「っ!?」

「「「「「「「「「「っ!!??」」」」」」」」」」


ロンベリダム帝国側の使節達が何も言えない中で、エイボンだけはハッキリとそう答えた。

それには、当のアラニグラさえ、思わず驚愕の表情を浮かべたほどだった。


「え、エイボン殿っ!気でも触れたのですかっ!?それは、本国に対する裏切り行為ですぞっ!!!」


ロンベリダム帝国側の使節の一人は、そのエイボンの発言に激しい憤りを見せながらそう詰め寄った。

しかしエイボンは、それを涼しい顔で受け流す。


「いえ、むしろ逆ですよ。私はロンベリダム帝国、まぁ、ここでは現政権ではなく、国民の為ではありますが、の事を踏まえてそう判断しました。」

「・・・どういう事かな?」


あくまで冷静なエイボンに、多少クールダウンした使節はそう問い返した。


「そもそも我々の仕事は、おとしどころを確定させる事です。以前ならば、『ロフォ戦争』の停戦とその後の戦後処理に対する、ね。しかし、先程のアラニグラ殿の発言の通り、すでにロンベリダム帝国側の内情は火の車です。おそらく、反政府側の勝利で終わり、実質的にロンベリダム帝国は崩壊する事となるでしょう。それは、おそらく皇帝もすでに理解している筈です。」

「そ、そんな事はっ・・・!それにこれは、だだのクーデターではありませんかっ!!」

「ところがそうでもない。確かに、現政権側からしたらクーデターではありますが、そこに国民の支持が加われば、それは立派な社会運動となる。つまり、反政府側は逆賊ではなく、腐敗した現政権を打ち倒す“英雄”に様変わりするのです。なんだかんだ言っても、結局国の根幹は国民ですからね。と、なれば、我々のやるべき事は、この場にて無意味な“停戦交渉”に時間を費やす事ではなく、各方面との調整だと思います。反政府側の勢いを打ち消す事は出来ませんし、大半の軍部が『ロフォ戦争』に駆り出されている以上、国内の鎮圧も出来ませんしね。」

「し、しかしっ・・・!!!」


なおも食い下がるロンベリダム帝国側の使節に、エイボンはとある事実を付け加えた。


「これは、あまりこの場で発言するには相応しくない言葉ですが、我々にとっても現政権側に与するのは得策ではありませんよ?何故ならば、仮に現政権側が反政府側に打倒される事となれば、当然、我々にもその責任がのしかかる事となるからです。最悪、反政府側、そして“大地の裂け目(フォッサマグナ)”側の事情もあいまって、処刑される可能性もある。」

「「「「「っ!!!」」」」」

「それが嫌ならば、まずは反政府側と交渉し、国の行く末について議論するべきでしょう。そして、改めて()()()()()()()として、“大地の裂け目(フォッサマグナ)”側と『ロフォ戦争』を含めた交渉を進めるべき案件だと愚考します。」

「・・・鞍替え、ですか。」

「我々に、国を捨てよ、と?」


エイボンの言葉に、ロンベリダム帝国側の使節達は動揺し始める。

それは、彼らも内心思っていた事であるからである。


「いえ、そうではありません。そもそも、“国”とは一個人や少数の者達だけのモノではなく、国民全体のモノです。確かにこの選択は、ロンベリダム帝国そのものは見捨てる事になりますが、その後続となる国への希望を残す事にも繋がります。しかし、昨今の情勢を鑑みれば、交渉を担う様な人材が不足してしまうと、その希望そのものが泡へと消えてしまう可能性も大いにあります。むしろ、我々の選択は、国民の為になるかもしれないのですよ?」

「「「「「っ・・・!!!」」」」」


続けて、エイボンの口から語られたメリットや大義名分は、彼らの心を揺さぶるには十分であった。


「まぁ、もっとも、あなた方がどの様な選択を取るかは、結局は各々の自由ですがね。しかし、少なくとも私は、すでに方向性を決めていますが。」

「「「「「・・・。」」」」」

「・・・それでは、採決を取りましょう。“停戦交渉”の一時打ち切りについて賛成の方は挙手をーーー。」





















その後、“停戦交渉”の舞台となっていたカランの街の代表者の屋敷では、ロンベリダム帝国側の交渉団と“大地の裂け目(フォッサマグナ)”の交渉団が、それぞれ慌ただしく荷物などをまとめる風景が見られたのであったーーー。



誤字・脱字がありましたら御指摘頂けると幸いです。


いつも御覧頂いてありがとうございます。

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