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『英雄の因子』所持者の『異世界生活日記』  作者: 笠井 裕二
続・『エストレヤの船』を巡る攻防
243/383

パワーアップイベント

続きです。


前回予告していた通り、今回から新章、といっても前章からの続きですが、となります。


いよいよ、物語も佳境に入ってきています。

引き続き、ゆる〜くお付き合い頂ければ幸いです。



“古代宇宙飛行士説”を御存知だろうか?

これは、人類史上の古代、または超古代に宇宙人が地球に飛来し、人間を創造し、超古代文明を授けた、という疑似科学の一説である。

別名を「太古宇宙飛行士来訪説」、「宇宙人考古学」、「宇宙考古学」ともいう。


もちろんこれは、科学的な根拠に乏しい所謂“オカルト”的な仮説でしかない。

しかし、そのある種の人々のロマンや好奇心を刺激する内容から、これを信奉する者も多く、また、そのある種の便利な舞台設定から、様々な物語などに取り入れられる事も多い。


具体的には、

・巨大な考古学遺跡やオーパーツは、宇宙人の技術で作られた。

・宇宙人は、類人猿から人類を創った。

・世界各地に残る神話の神々は、宇宙人を神格化したもの。

などの内容が挙げられる。



さて、これはあくまで“地球”で提唱された仮説であるが、実はセルース人達の間でも似た様な考え方が存在していたのであった。


ここら辺は、ある程度の知性を獲得し、文明を築き上げていく過程で、以前にも言及した通り、自分達以外に宇宙人(知的生命体)や外部宇宙文明が存在するのか?、と疑問に思うからかもしれない。

この広大な宇宙の中に、自分達しか知的生命体が存在しないと考えるのはあまりにも寂しい。

それ故に、ある種の願望が形となって、そうした仮説を生み出したのかもしれない。

まぁ、それはともかく。


しかしセルース人達は、そのある種のオカルトチックな話でしかなかった仮説が、実は真実であったと知る事となるーーー。



“地球”以上の科学力を持ったセルース人達が惑星を飛び出し、スペースコロニーや衛星、近隣の惑星にまでその居住区域を拡大し、その末で惑星セルースの資源は枯渇する事となる。

それが発端となった『資源戦争』、からの『霊子力エネルギー』の獲得、そして、『楽園再生計画』や『楽園開拓計画』が提唱された頃、セルース人達は新たなる資源を確保すべく、いまだ未探索であったセルース星系の他の惑星へとその捜索規模を拡大しようとしていたのである。

これは、惑星セルースを再生するにせよ、自らの母星を放棄し、新たに入植出来る惑星を発見するにせよ、新たに資源を確保しない事には話が始まらなかったからである。


そこで、明らかに自分達が築き上げた物ではない人工物を発見する事となったのである。


この発見は、セルース人達を大いに沸かす事となった。

何故ならば、惑星セルース内とは違い、仮にセルース人の一部の者達がこの未到達の惑星に先に来ていた可能性を考えなければ、これは自分達以外の知的生命体の物である可能性が極めて高いからである。

そして、これがセルース人達の技術力で造られた物である事は、即座に否定された。

何故ならば、この人工物のテクノロジーは、明らかに自分達の科学技術の数段上を行くモノだったからである。


具体的には、その人工物の役割が、超高度な演算装置であり、“ジャンプ機能”とそれに耐えうる“バリア機能”であると解明されたからである。


以前にも言及した通り、広大な宇宙空間を渡り歩くには、一番のネックとなるのは“時間”である。

何故ならば、惑星から惑星、セルース星系から他の銀河までの道のりは、宇宙一早いとされる光でさえ、ゆうに2万年以上掛かる計算になるからである。


ならばと、それを解決する為にセルース人達が構想したのが、SFでおなじみの“ワープ“、つまりは“瞬間移動”である。


仮に、母星から他の銀河まで一瞬で辿り着く事が出来れば、一番のネックである“時間”の節約になる。

しかし、残念ながら、高い技術力を持ったセルース人達と言えど、所謂“ワープ航行技術”を獲得する事は出来なかったのである。


故に、それはあくまでフィクションや物語の中だけの夢の技術であって、現実世界にはそんなモノは存在しない、とセルース人達は結論付けていたのであった。


しかし、その人工物(仮にこれを“先史宇宙文明の遺跡”と呼称するが)には、それを実現させる為に必要となる技術が眠っていたのである。


具体的には、先程も述べた通り、“ジャンプ機能”と“バリア機能”である。

後は、その人工物自体が一種の演算装置である事が分かったのである。


以前にも言及したかもしれないが、物質界で“瞬間移動”が不可能なのは、これには膨大なエネルギーが必要となる事や、時間や空間の制約を受けるからである。

逆に言えば、3次元的な時間や空間の制約を受けない精神や霊魂、あるいはアストラルには、実はこれが可能だったりする。(セレウスやルドベキアが異世界である地球とアクエラを行き来出来たのは、彼らがアストラルである為であるし、アキトやタリスマンら地球人達がアクエラに到達出来たのは、あくまで魂としてであり、“器”となる肉体は、アクエラで用意されたモノであるからである。)


では仮に、時間や空間の影響を歪められる力場を発生させられたとしたらどうだろうか?

その“中”は、通常の物理現象が適用されないので、瞬間移動の条件を満たす事となる。


もっとも、それだけでは不十分である。

仮に、ワープ航行に耐えうる機能を獲得したとしても、それをとある地点からとある地点まで“飛ばす”機能が別途必要となるからである。


しかも、膨大な宇宙空間の中から、安全に“ジャンプアウト”する場所の情報も必要となるので、超高度な演算装置も必要となる。

着いた先が、ブラックホールや恒星の真っ只中であったら、通常空間に復帰した直後にお陀仏となってしまうからである。


これらの事を、全て解決したのが、この“先史宇宙文明の遺跡”だったのである。

どうやら、これを建造した異星人は、この人工物を利用して星々を渡り歩いていた様であった。


では、何故、それほど高度な技術を、いくら”地球“を遥かに越える技術力を持っていたとは言え、アッサリとセルース人達が解明・解析出来たのであろうか?


この理由は単純である。

その人工物(“先史宇宙文明の遺跡”)の管理者、すなわちこれを管理していた人工知能(AI)自身が、セルース人達にわざわざそれを説明・伝授してくれたからである。


では、何故そんな事をしてくれたのだろうか?

当たり前の考え方として、基本的に技術というものは、他者には秘匿しておくモノである。

これは、個人であろうと、企業や国であろうと変わらない原理・原則である。

何故ならば、それは自分達の優位性を損なってしまう恐れがあるからである。

それは、異星人であろうとも変わらないだろう。


しかし、逆に技術をあえて広める事もある。

これは、技術をあえて公開する事によって、その技術の普及を推し進める狙いがあるからである。


その人工物(“先史宇宙文明の遺跡”)の管理者も、貴重な技術力を流出させるメリットについて、セルース人達にこの様に説明した。


“この地に辿り着いた時点で、その知性体にはこれらの技術を継承する権利がある。

言うなれば、この地に辿り着く事が、ある種の試練だったのである。

そして願わくば、これらの技術を継承し、まだ見ぬ外宇宙へと旅立ち、いまだ発展を遂げていない種族を目覚めさせる手伝いをして欲しい。”


と。


それを聞き、セルース人達は理解した。

この人工物を創り出した異星人達は、この宇宙のあちこちで、知性体に進化する可能性のある種族を探し、それを目覚めさせる手伝いをし、そして最終的には、自分達と同じステージに立つ同士を育て上げ、この宇宙を生命で満たそうとしているのだ、と。


それ故に、人工物を遺し、これを受け継がせようとしたのである、と。


ー自分達以外に、宇宙人(知的生命体)や外部宇宙文明は存在するのだろうか?ー

その問いに対する、別の形のアプローチである。


すなわち、いないのならば、自分達で仲間を作れば良いのである。


先程も述べた通り、この広大な宇宙の中に、自分達しか知的生命体が存在しないと考えるのはあまりにも寂しい。

特に、高度な知性を持った知性体ほど、そうした感情を持ったとしてもおかしな話ではない。


仮に、どこかの銀河でその異星人達とセルース人達が出会う事があれば、それは非常に素敵な事だろう。

セルース人達は、そう考えたのである。


もっともこれは、未知の技術や未知の種族の痕跡に出会った故の、ある種のロマンチシズムに傾倒してしまった事もあるかもしれないが。

少なくとも彼らは、もう少しその“本当の意味”を考えるべきだったかもしれない。

まぁ、それについてはまた後述する事としよう。


こんな経緯があり、セルース人達は夢の技術である“ワープ航行技術”を手に入れたのであるがーーー。



◇◆◇



セシルとの激闘を制したアーロスらであったが、結果自爆され、しかもセシルは何度でも蘇る(正確には、あくまで“ロボット”であるセシルは、新たに製造する事が可能であった。そうさせない為には、セシルの大元である“煌めき回転する剣”、すなわち“疑似霊子力発生装置”の方を叩かない事には元の木阿弥である事実が判明した。)事を知った彼らは、すごすごと退散する事となった。


これは、ウルカによる回復魔法によってダメージが回復したとは言え、その事実に心が折れかけてしまったからでもあるし、どちらにせよ、その対応策を検討する為には、現場では不可能であると判断した結果である。


こうして、“情報の取得”という、ある意味十分な成果があったとは言えど、『エストレヤの船』が眠る遺跡類を確保出来ると踏んでいた彼らのモチベーションは、かなり低下する事となる。


当たり前だが、どんなに簡単そうに見える事でも、時に想定外、イレギュラーな事態が起こる事もある。

その時に、どの様に判断するかによって、その後の成否に違いが出てくるモノである。


確かに、アーロスらのチームとセシルがマトモに戦り合った場合、十中八九アーロスらの勝利で幕を閉じる。

それ故に、比較的早期に『エストレヤの船』が眠る遺跡類を確保出来ると踏んだ彼らの見積もりも間違いではない。


しかし、先程も述べた通り、時に想定外、イレギュラーな事態が起こる事もある訳で、そうした事態の場合、無理にクリアを目指すのではなく(そもそも前提条件として、アーロスら以外にセシルに対抗出来る人材がハイドラス派には存在しないからである。)、時間が掛かろうとも、確実なクリアに向けて必要最低限の“情報の取得”で良しとする柔軟な発想力などが必要となってくるのである。


これは、モチベーションを維持する為である。

当たり前だが、一度クリア目前まで行って、それが全て御破算となった場合、人によっては匙を投げる事もある。

少なくとも、人の心理としては、モチベーションを大きく低下させる事となるだろう。


当然ながら、士気の低下は、集団にとってはマイナスでしかない。

ならば、それを回避する上でも、どの時点でクリア条件を変えるのかを冷静に判断出来る指揮官の存在は必要不可欠であった。

当たり前だが、物事を上手く進める為には、ただ単純な強さだけで済む話ではないのである。


しかし残念ながら、アーロス、ドリュース、N2、ウルカの中には、困難な状況でこそリーダーシップを発揮出来るタイプや、冷静で知性的な頭脳派タイプは存在しなかった。

それ故に、その日の内にクリア出来ると踏んでいたアーロスらのモチベーションは一気に下がってしまったのである。


(キドオカは、ある意味頭脳派なタイプとして助言を与えられる存在だったが、彼はこの状況では外様に過ぎないし、あくまで彼がアーロスらを助けたのは、ソラテスに言われた為であり、自発的に動いた結果ではない。

それ故に、彼はでしゃばり過ぎない様に、沈黙を貫いていたのであった。)


結果、『エストレヤの船』が眠る遺跡類を手に入れる為の結論としては単純であり、どうにかしてセシルをやり過ごしつつ、“煌めき回転する剣”、すなわち“疑似霊子力発生装置”をどうにか特定し、それを破壊すれば終わる話だったが、その具体的なアイデアが出ないまま、対策会議は一旦お開きとなったのである。


ダメージや体力的な問題はともかく、精神的には疲労が蓄積していた事もあり、一旦頭を切り換える為にも、とにもかくにも休息が必要だと判断した為であった。


そうして、各々がそれぞれにあてがわれた自室に戻り、各自が寝静まった頃、元・『LOL』のメンバー達は不可思議な“夢”を見る事となるーーー。



・・・



「ZZZ・・・。ZZZ・・・。・・・?」


なんだかんだ言って、今日の戦闘においては一番活躍していたアーロスは、その後セシルの自爆、からの生還。

そして、強敵であったセシルが、実はただの量産品である事実など、感情のジェットコースターにより、中々寝付けない時を過ごしていた。


とは言え、やはり肉体的にも精神的にも疲労の蓄積があった為に、ほどなくしてウトウトとしていた頃、遠くで彼を呼ぶ声に気付いた。


〈・・・アーロス、アーロスよ、目覚めよ。〉

「あん・・・?」


ようやく眠りにつくタイミングでのそれは、アーロスにとっては迷惑極まりない行為だろう。

それ故に、多少不機嫌な声色になってしまったのは、これは致し方ない事かもしれない。


「っ!!??」


が、周囲の光景が目に入ってきた時、アーロスは不機嫌さも吹っ飛んでしまっていた。

そこは何とも不可思議な所だったからである。

色々な景色がごちゃ混ぜになったような混沌とした場所なのに、何らかの秩序がある様なそんな感覚。


少なくとも、アーロスが目を閉じたのは、簡易的なテントの一室であり、この様な不可思議な場所ではなかった。

ただ事ではない事が起こっている、と瞬時に理解する程度にはアーロスにも普通の判断力が備わっていたのである。


「な、なんだ、こりゃっ・・・!?」


混乱するアーロスの目の前に、薄い、霞がかった影が蠢いた。


〈まぁ、焦るのも無理はない。が、とりあえず落ち着いて欲しい。私は、キミの敵ではない。〉

「頭ん中に直接響く様な声・・・。もしかして、目の前の“霧”からすんのか・・・?」


明らかに普通ではない事が起こっているにも関わらず、アーロスは比較的冷静であった。


と、言うのも、アーロスは、元は『異世界人(地球人)』であり、更には『TLW』を嗜む程度には、所謂『オタク』だったからである。

それ故に、アキトが初めてルドベキアに邂逅した時に、すぐに状況を察していた様に、もしかしたら、この目の前の存在は、神様的な存在じゃないかと、すぐに理解したからであった。


少なくともアーロスらは、ある種のテンプレとなっている、“神様に会ってから異世界に転生、あるいは転移する”、というイベントを経験せずに、所謂『異世界転移』させられている。

故に、実は何らかの要素で、そのイベントを強制スキップされられたのではないか、とチラリと考えていた。


〈ふむ、中々察しが良いな。キミの考えは、おおよそ間違っていない。と、言うのも、キミ達のケースは、イレギュラー中のイレギュラー。ある種の不慮の死、すらも超えて、『異世界転移』する事となったからね。私が介入する暇すらなかったのだよ。〉

「あぁ〜・・・。」


考えてみれば、確かにその通りである。

少なくとも、アーロスらは、


おおまかな所謂『神様転生』のテンプレとして、

1.何らかの要因で主人公が死ぬ。

2.死んだ主人公の前に神様が現れる。

3.主人公が死んだ理由を神様から聞く。(神様の手違い、誰かを庇って身代わり、単純に運が悪かった等)

4.そのお詫びとして、生き返らせる事は出来ないが、他の世界に転生、あるいは転移する事が出来ると告げられる。

5.転生先の世界を決める。

6.神様が主人公に能力(転生特典とも呼ばれる)を与える。(通称「チート」。桁外れに強力だったり、主人公以外の登場人物は誰も持っていない特別な能力だったりする)

7.神様が主人公を転生させる。


というイベントをこなしていない。


と、言うか、厳密にはそもそも彼らは死んですらいないのである。

これは、以前にも言及した通り、地球における一部の技術力が飛躍的に向上した結果起こってしまった不幸な事故であった。


具体的には、あくまでアーロスらはフルダイブ技術によって、仮想世界(バーチャルリアリティ)に入り込んでいただけなのである。

しかし、それがこちら側(アクエラ)からの干渉によって、最悪の結果をもたらす事となった。


これは、キドオカも言及していたが、フルダイブ技術が擬似的に“幽体離脱”を実現してしまった事が要因である。

つまりはプレイヤー本人の意識(魂)が、本来の肉体ではなく、ゲーム内のアバターに限定的な憑依状態となっていた結果、本来は『召喚者の軍勢』の効果によって、()()()()()()()()()()()()()()()()こちらの世界(アクエラ)に喚び出すところを、擬似的に憑依状態となっていた意識(魂)も一緒にこちらの世界(アクエラ)へと引っ張られてしまったのである。


故に、本来はアーロスらは死んだ訳ではないのであるが、当たり前だが元々の肉体だけ健在であったとしても、意識(魂)がなければ死んだも同然であった。

少なくとも、地球の現代医療的には彼らの状態は所謂『植物状態』であり、場合によっては脳死判定を受け、元の肉体は適切に処理される事となる。


と、この様に、非常にイレギュラーな転生、あるいは転移となってしまったので、仮に最近の物語などにありがちな『神様転生』が実際にあったとしても、アーロスらはそんな事を体験する間もなく異世界へと飛びされる事となった訳だ。

そして、アーロスらは、少なくともこちらの世界(アクエラ)には“神様“と呼ばれる高次の存在が実在するらしい事をすでに知っている訳だ。

故に、今、この場面で“神様”と呼ばれる存在が自分に接触してきたとしても、そこまでの驚きはなかった。

いや、むしろ納得さえしていたのであった。


「んで、今更俺に何の用っすか?」

〈時間がないので単刀直入に言おう。残念ながら私はこちらの世界(アクエラ)の担当ではないので、キミ達を元の世界(地球)に戻す事は不可能だ。〉

「・・・。」


意味ねぇ〜、とアーロスは正直に思った。

まぁ、流石に口には出さなかったのであるが。


〈が、少しばかり手助けする事は出来る。キミ達は、すでにこちらの世界(アクエラ)の神の一柱と接触し、元の世界(地球)に戻る契約を交わしている筈だ。しかし、その為の交換条件として、高難度の課題に取り組んでいるだろう?〉

「まぁ、はい、そうっすね。」

〈しかし結果は、残念ながら失敗に終わった。キミ達はこの世界(アクエラ)においては、最高峰の実力者達だ。そのキミ達でさえ不可能ならば、もはやその世界(アクエラ)でその課題をクリア出来る者達は皆無であろう。〉

「い、いやいや、もう一度チャレンジすれば大丈夫っすよ。」

〈残念ながら、それは見積もりが甘いと言わざるを得ない。何故ならば、キミ達がその世界(アクエラ)()()する事はないからだ。すでに、レベルMAX(カンスト)に到達しているから、当然と言えば当然なんだがね。つまり、ある程度工夫する事は出来ても、これ以上の劇的な変化が起こり得ない以上、何度やっても同じ事なのだよ。〉

「・・・・・・・・・。」


それは、アーロスらも考えていながら、あえて口に出さなかった結論であった。

もっとも、実際には、工夫次第では現状のレベルでもクリアする事は可能なのだが、それにはかなりの戦略が必要となるし、仮に戦略をしっかり組み立てて挑んだとしても、成功率は良くて五分五分と言ったところであった。


当たり前だが、向こうも思考する事が出来る訳だから、当然対策は立ててくる。

つまり、まずはその読み合いに勝利しなければならない訳で、残念ながら現時点でのアーロスらの人材を考慮すると、そうした戦略を立てられる人物はいなかったのである。


と、なれば、ある意味RPG系ゲームのお約束ではないが、“レベルを上げて物理で殴る”のがもっとも手っ取り早い正攻法だが、そこで、すでにレベル500(カンスト)という事実がのしかかってくる事となる。


その事実に、アーロスは二の句が継げなかった。

しかし、ここで、この謎の存在が接触してきた事が、一縷の望みとなったのである。


〈だが、悲観する事はない。先程も述べたが、そこで私が手助けをする事が出来るからな。〉

「・・・えっ?」

〈先程も述べたが、本来キミ達は、こちらの世界(アクエラ)に飛ばされる前に私と出会う事となる。特にキミ達は、本来死すべき運命ではありえなかったのだからね。そこで、本来ならば特典、つまりはチート能力を与えられる事となる。これは、所謂緊急的措置だ。残念ながら、一度死んでしまった場合、例外的に生き返らせる事は出来ないが、しかし、予定と違う生死は世界にも悪影響を与えてしまいかねない。故に、一時的に私の傘下である他の世界へと退避させて、それらを調整。そして、時がくれば元の世界へと戻し、また人生をやり直す事で上手く整合性を合わせる為にね。だが、他の世界で死なれてしまっては元も子もないので、それに、ある種のお詫びも兼ねて、その世界で生き抜けるだけの十分な力を与える訳だよ。〉

「・・・なるほど。」


その謎の存在は、所謂『神様転生』を何故行うのかを説明した。

アーロスは、これまでの経験から、その言葉に納得する。


〈もっとも、キミ達の場合は、本当にイレギュラーな事態なので、私が直接的に関与する事が難しかった。何故ならば、この世界(アクエラ)は私の傘下にない世界だからだね。つまり、結局はキミ達自身でどうにかしてもらわなければならないのだが、それも先程言った通り難しい訳さ。しかし、そこで、まだ特典の受け渡しをしていない事に着目した。これならば、こちらの世界(アクエラ)に干渉する事ではないから、どうにか目を誤魔化す事が可能だ。キミ達は、元々はこちらの世界(地球)の住人なのだからね。と、言う訳で・・・。〉

「・・・つまり、チート能力を貰える、って事っすか?」

〈その通り。今現在のキミ達の力に加え、特典が組み合わされば必ずや現状を打開出来るだろう。で、一応確認だけど、特典を受け取るつもりはあるかな?〉

「うおぉっ、マジっすか!もちろん貰いたいっすよっ!!」

〈だろうね。じゃ、少しの間目を瞑って、気持ちを落ち着けてくれたまえ。はじめに言っておくけど、危害を加えるつもりはないから。〉

「は、はぁ・・・。」


影の発言に、アーロスは素直に従い目を瞑った。

すると、薄い、霞がった影が、アーロスに纏わりついたのだった。


「っ!?」

〈落ち着いて。〉


目を瞑っていても、何か変な感覚を感じたアーロスだったが、影の声に気を取り直した。

しばらくすると、影はアーロスから離れていく。


〈さぁ、もう目を開けても良いよ。〉

「す、スゲェッ!な、何だこりゃっ!!!」


見た目的には、そこまでの劇的な変化はなかったのだが、アーロスの内側は違う。

言いしれぬパワーが、アーロスの内側を駆け巡っていたのである。


〈これで、特典の受け渡しは完了したよ。私に出来るのはここまでだが・・・。〉

「い、いや、問題ないっすよっ!これだけの力がありゃ・・・!」


アーロスは、今の自分が、つい先程の自分とは比較にならない力を得ている事を確信していた。


「ありがとうございますっ!これなら行けそうっすっ!」

〈そうかい。では、頑張ってくれたまえ。キミ達の帰還を心待ちにしているよ。〉

「はいっすっ!」


そう告げると、影は徐々に四散していった。

と、同時に、アーロスの意識も、徐々に遠のいていくのだった。


謎の影が消え去る直前に、ほんの少しほくそ笑んだ事も気付かないままーーー。



誤字・脱字がありましたら御指摘頂けると幸いです。


いつも御覧頂いてありがとうございます。

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