ターニングポイント
続きです。
長くなりそうなので、今回で、とりあえず章を分けます。
次回から新章になりますが、話としては今回の章の続き、という感じです。
ー自分達以外に、宇宙人(知的生命体)や外部宇宙文明は存在するのだろうか?ー
これは、宇宙空間にまでその生活圏を拡大していたセルース人達にとっても、長年解き明かせていなかった大きな謎であった。
惑星セルースにおいても、所謂“オーパーツ”や“オーバーテクノロジー”が数多く発見されており、つまり自分達の御先祖様が進化の過程で獲得した技術ではない、かもしれない物の痕跡を見付ける事はあったのだが、それすなわち宇宙人(知的生命体)や外部宇宙文明が実在する証拠である、とするのは些か理論が飛躍してしまう事になってしまうからである。
“オーパーツ”は、そもそもそれらが発見された場所や時代とはまったくそぐわないと考えられる出土品や加工品などを指す。
つまり「場違いな工芸品」という意味である。
しかし、所謂“年代測定技術”そのものが正しいとは限らず、つまり“発見された時点では製造不可能と考えられていたが、後の研究の進歩(解析技術の向上)により論理的に説明可能になった物”や、“完全な捏造品”である可能性もあるのである。
すなわち、そうした物があるから宇宙人(知的生命体)や外部宇宙文明は存在する証左となる、とするには、そうした物を正確に自分達の御先祖様が創り出した物ではない、と証明する必要があったのである。
では、自分達以外に宇宙人(知的生命体)や外部宇宙文明は存在しないのだろうか?
そちらも、明確に否定出来る根拠が存在している訳でもなかった。
これは、所謂“悪魔の証明”と同じく、いない事を証明する事は事実上不可能であるからである。
何故ならば、いくら高度な技術力を持ったセルース人であっても、いまだに広がり続けている宇宙空間を隅から隅までくまなく観測した訳ではないので、いない事を否定する根拠がないからである。
つまり結論としては、いるかもしれないし、いないかもしれない、という非常に曖昧な結論に落ち着くしかなかったのである。
もっとも、他の異星人がセルース人達と直接接触すれば、結論はすぐに出てしまうのであるが。
もっとも、これも非常に難しい話である。
仮に、宇宙人(知的生命体)や外部宇宙文明が存在したとして、運良くセルース人達が進化を果たしたタイミングで、他の異星人達も同じレベル、それよりもむしろ高い技術力を持った種族へと進化を遂げているとは限らないからである。
仮に、セルース人以外の宇宙人(知的生命体)がいたとして、そしてそれらの種族が偶発的に惑星セルースを訪れていたとしても、その時にはまだセルース人は知的生命体へと進化を遂げていなかったかもしれないし、逆に、セルース人が他の惑星に到達した頃には、外部宇宙文明は滅びた後かもしれない。
知らなければ、それはある意味ないのと同じである。
運良く同時期に高度な進化を遂げているタイミングでなければ、お互いがお互いを知らないまま進化し、滅亡している可能性も否定出来ないのであった。
この様に、セルース人達が長年疑問に思っていた事は、その答えが出ないまま、長らく忘れ去られる事となっていったのである。
しかし、セルース人達が惑星を飛び出し、スペースコロニーや衛星、近隣の惑星にまでその居住区域を拡大し、それが発端となった『資源戦争』、からの『霊子力エネルギー』の獲得、そして、『楽園再生計画』や『楽園開拓計画』が提唱された頃、彼らは、思ってもみなかった形で、言わば先史宇宙文明の痕跡と出会う事となったのであるがーーー。
〜〜〜
星間航行をする上で、やはり一番のネックとなるのが“時間”であった。
当たり前だが、惑星から惑星へと移動する為には、途方もない時間が必要となる。
同じ星系内ならば、まだ一人の人間の寿命の範囲で行き来をする事が出来るかもしれないが、それが他の星系、あるいは他の銀河となると話は変わってきてしまう。
天文学でよく用いられる単位である『光年』。
すなわち、宇宙でもっとも早いとされている『光』でさえ、一年かかる距離を表す単位である。
そして、惑星セルースからもっとも近い銀河でさえ、2万5千光年離れている事が分かっていた。
つまり、光でさえ2万5千年かかるのだから、とてもじゃないが人一人の人生の範囲で辿り着ける訳がないのである。
また、“エネルギー”と“資源”の問題がある。
もっともこれは、夢のエネルギーである『霊子力エネルギー』を手にしたセルース人達にはクリア可能な問題だが、しかし、これを『電気エネルギー』(つまり、利便性の高いエネルギー)に変換し利用する為には、どうしても資源が必要となってしまう訳である。
仮に、これはスペースコロニーにも採用されている方式だが、完全循環型の宇宙船を建造するにしても、何らかの要因でその一部が破損してしまった場合は、それを補修しなければならなくなる。
つまり、どうしても資源は必要となる訳だ。
当たり前だが、無から有は作れないのである。
こうした問題は『楽園開拓計画』発案時には、当初から持ち上がっていた課題であった。
もっとも、セルース人達は、惑星外へと生活拠点を広げていた事によって、宇宙に関する知識を飛躍的に伸ばしていたし、『資源戦争』があったとは言えど、高いテクノロジーを持っていた事は間違いない。
更には、帰るべき母星を事実上失っていた事もあってか、ある種の開拓者精神が醸成される土壌が出来上がっていたのである。
それ故に、とりあえずやってみよう、の精神から、また、『楽園再生計画』支持者達への一定の配慮もあってか、まず、惑星セルース星系のいまだ手付かずだった他の惑星へと進出する事としたのである。
これは、再生にしろ開拓にしろ、その両計画共に一番のネックだった資源問題を解決する為の事であった。
そして、そこで彼らは、未知の技術の痕跡に出会う事となったのであるがーーー。
???
〈参ったなぁ〜。アキトくん、強すぎじゃない?〉
〈これじゃあ、“計画”が完全に頓挫してしまうよねぇ〜。〉
タリスマンとティアが、ルキウスの要請を受け入れてロンベリダム帝国から出奔していた頃、どこかでそれを見ていた謎の神性達がそんな会話を交わしていた。
どうやら、アキトを利用して何らかの“計画”を推し進めようとしていた様である。
もっとも、アキトは誰かの思惑通りに動く様な人物ではなかった事もあってか、彼らの“計画”に支障をきたしている様であるが。
〈それに加えて、他の『異世界人』達が期待外れすぎるのかもしれねぇ〜な。まさか、セシル程度に苦戦するとは・・・。〉
〈彼らは元々一般人だからねぇ〜。特別な素養も使命も持っていないし、少しでも見込みのある者達は、すでに離脱してしまっているし・・・。〉
〈・・・ソラテスやアスタルテはともかく、アルメリアやセレウス、ルドベキアは何をやっているのだろうか?〉
〈元々、アルメリア達は、我々とは考え方が違う。こちらの思惑とはむしろ正反対の立場であろう。〉
〈それに、彼らはアキト・ストレリチアに協力的な立場だ。彼らに期待する方が間違っているかもしれんぞ?〉
〈はぁ・・・、ままならんモノよ。〉
〈然り。〉
神性は、どうやら複数存在する様だ。
〈やはり、少々テコ入れしてやる必要がありそうだな・・・。〉
〈しかし・・・、危険ではないか?〉
〈何、ハイドラス、いや、カエデスが『エストレヤの船』を手にすればそれで済む話だ。そうすれば、我々は解放される。〉
〈しかし、このままでは、アキト・ストレリチアに阻まれて終わり、か・・・。彼は、ただ強いだけでなく、あまりに万能すぎる。〉
〈それに加え、今現在の彼はアルメリアから彼女の船を託されている以上、もはや彼に敵う者など我々を含めて存在せんぞ。『エストレヤの船』を手に入れない限り、ではあるが。〉
〈多少危険でも、やるしかない。我々の“計画”を完遂する為には、な。〉
〈それしかない、か。・・・で、具体的にはどうする?〉
〈少々役不足だが、他の『異世界人』達を使うしかあるまい。レベルの上で、アキト・ストレリチアに匹敵するのは彼らしかいないからな。まぁ、厳密には、アキト・ストレリチアの仲間達も彼に匹敵する存在だが・・・。〉
〈それは完全なる悪手だろう。下手をすれば、アキト・ストレリチアに我々の存在を完全に認識させる事となる。ただでさえ、“夢”という形で接触している以上は、これ以上、彼の周囲への介入は控えるべきだろう。〉
〈アルメリアらには感知されているだろうからな。ま、彼らの口から我々の存在が割れる事はありえんが。〉
〈だな。〉
以前にも言及した通り、神々にもルールが存在する。
いや、厳密に言えば、彼らは普通の人間種以上に、様々な制約に縛られている、と言っても過言ではない。
それ故、これはアキトもすでに理解していたが、アルメリアら高次の存在は、人間種に必要以上の情報を伝える事などが出来ないのであった。
まぁ、中には例外もいるのであるが。
〈では、他の『異世界人』達を強化する方向で異論はないか?〉
〈〈〈〈〈異議なし。〉〉〉〉〉
〈・・・では、そうしよう。〉
〈・・・ところで、ヴァニタスはどうするのだ?〉
〈ヤツは混沌な存在だ。そこに計算などあってない様なモノだからな・・・。ヤツの行動は注視する必要はあるが、気にするだけ無駄であろう。そういう風に造られたのだから、な。〉
〈ですな。〉
この会話の意味するところがどういうモノか。
それをアキトが知るのは、もう少し後の話であるーーー。
〜〜〜
〈奴らも、いよいよ焦れて行動を始めた様だな。〉
〈そうだねぇ〜。ま、彼らの気持ちも分からんではないけど。〉
〈そうっスか?私には、彼らはただ自分達が助かりたいだけの様に感じるっスが・・・。〉
〈それも含めて、さ。客観的に見れば、彼らはある意味被害者だからねぇ〜。ま、この世界に干渉した以上、本来はボクらと同罪ではあるんだけどね。その証拠に、だからこそ、彼らもいまだにこの世界に縛られている。〉
〈ま、俺から言わせれば、奴らは被害者ぶってるだけさ。それに、もはや奴らにはマトモな思考回路も倫理観もないだろうよ。一つの目的の為に集った大きな群体。そういう存在に成り下がっているんだからな。〉
〈資格もないのに、無理矢理力を与えられた結果だよ。哀れなモノさ。〉
〈ま、それ自体は同情するっスけどね・・・。〉
ところ変わって、こちらはアキトの心の中。
最近は出番の減っていたセレウス、ルドベキア、アルメリアがそんな意味深な会話を交わしていた。
彼らもまた、まだ大きな秘密を隠している様だった。
〈それで、こちらはどうするっスか?〉
〈どうもこうもないさ。後は、アキトくんに任せるしかないからねぇ〜。〉
〈アキトに本当の事を全て伝えられないのが歯痒いがな。〉
〈“宇宙の意思”、か。何とも融通の効かない存在だよ。〉
〈ま、彼ら、ってか、姿かたちがあるのかも分からないが、の立場から言えば、むしろ当然の判断なんだがな。〉
〈こちら側に来てしまったら、アキトさんは全ての資格を失う・・・。いえ、むしろ新たなる苦難を強いられるっスもんねぇ〜。〉
〈流石にそれはあまりにも酷さ。本来彼は、こちら側の事情には関係ないんだからさ。ま、それは他の『異世界人』達も同じなんだけど。〉
〈アキトは、俺が巻き込んじまったからなぁ〜。〉
〈しかし、セレウス様。案外、貴方とアキトくんが出会ったのは、ある種必然だったかもしれないよ?ボクも、彼がここまでの存在に成るとは思ってもみなかったし。〉
〈それは俺もだ。とにかくアキトは、良い意味でも悪い意味でも常識から外れた思考回路を持っているからなぁ〜。一見見当違いとも言える方法で、まさかロンベリダム帝国そのものを無力化しちまうとは・・・。〉
〈ま、その片鱗は昔からありましたけどね。無名の英雄。それが、ある種の彼の理想の英雄像ですから。〉
〈力を持ちながらも、それが覚醒しなかったからこそ育まれた一般人としての意識、か。彼の根底にあるのは、あくまでそこがベース、って事か・・・。〉
〈彼も、ある種の英雄願望はありますが、同時にその問題点についても理解していましたからね。〉
〈特定の人物達だけで世界を変える事の恐ろしさ、か。耳が痛いな。〉
〈〈・・・・・・・・・。〉〉
自嘲気味にそうつぶやくセレウスに、アルメリアとルドベキアは何も言えず黙りこくってしまう。
そんな二人の反応に、これはまずいと思ったのか、セレウスは努めて明るく言葉を続けた。
〈ま、まぁ、今更過ぎた事をウダウダ言ってる場合じゃねぇ〜わな。とにかく、その時は近い。俺らも、過去にケリをつける覚悟や心の準備はしておこうぜ。〉
〈ああ。〉
〈ハイっス。〉
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