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『英雄の因子』所持者の『異世界生活日記』  作者: 笠井 裕二
『エストレヤの船』を巡る攻防
241/383

立場を超えて

続きです。



◇◆◇



アキトと別れたティアは、その足でルキウスらに進言すべくイグレッド城を目指していた。

これは、ルキウスらに『ロフォ戦争』を止めさせる為であり、それによって、無辜の民(だと思いこんでいる)であるロンベリダム帝国民達との衝突を防ぐ為であった。


確かに、戦争を止めさせる事が出来れば、国民の反乱を防ぐ事が出来るかもしれない。

場合によっては、アキトが作り出した状況、ロンベリダム帝国内における(一部)魔法技術使用不可状態を解消出来る可能性も。

それ故にティアは、ルキウスらを説得して悲劇を回避しようとしたのであった。


もちろん、ティアにとっても、ルキウスらはある種の敵である。

何故ならば、彼女達をこの世界(アクエラ)に無理矢理引き込んだのはルキウスらの仕業であるからだ。

ルキウスらも明言していたが、普通に考えれば、そこには何某かの思惑がある訳で、彼女達を喚び出したのはロンベリダム帝国の戦力として加える事が目的であったが、結局は彼女らにイレギュラーな“自由意志”が存在した事、『同調の指輪』への抵抗力を持っていた事によって、その思惑は外される事となった。


結果、“自由意志”を持っている状態で、なおかつ拉致同然でこちらの世界(アクエラ)に連れて来られたティアらにとっては、ルキウスらは諸悪の根源である訳だから、そこに敵愾心を持つのは当然の事だったのである。


しかし、その一方で、こちらの世界(アクエラ)の事を何も知らなかったティアらが、ルキウスらの管理下から逃れる事もかなりの危険を孕んでいた。

今にして思えば、最初の時点でさっさとロンベリダム帝国から脱出したとしても、彼女らの力ならどうとでもなったとティアは考えているかもしれないが、しかし、この世界(アクエラ)世の中の仕組み(ルール)も自分達の力も把握していなかった当時は、ロンベリダム帝国の庇護を受けるのがもっとも現実的な選択だったのである。


(具体的には、この世界(アクエラ)には“冒険者”という、“身分証明書”を必要としない職業があるし、向こうの世界(地球)においても“履歴書”を必要としない職もあるにはあるが、何も知らない世界へと放り出されたら普通は途方に暮れてしまうし、そもそも世の中の仕組み(ルール)を親切に教えてくれる人がいるとも限らない。

少なくとも、生きている以上、水分補給と食糧の確保は必須条件であるから、上記の通り、この世界(アクエラ)世の中の仕組み(ルール)を知らない状況と言うのは、いくらティアらが人類を超越した力の持ち主と言えど、そもそもその事に辿り着く前に力尽きてしまう可能性もあったのである。

この様に、“情報”がいかに大事か、そして、いくら強者と言えど、重要な“情報”を持っていなければ簡単に詰んでしまう、あるいは簡単に騙されてしまう可能性も内包していたのであった。)


そうした事もあり、自分達を拉致したルキウスらに敵愾心を持ちながらも、その事を心に押し込めて、この世界(アクエラ)世の中の仕組み(ルール)を理解する為、また自分達の立場を確保すべく奇妙な共同生活が始まった訳である。


で、しかし、ルキウスらに反発する気持ちはありつつも、やはり長らく生活した場所には愛着がわくモノで、特にルキウスへの牽制役を兼ねていたティアには、ロンベリダム帝国の街並やそこに住まう人々に対する“愛おしさ”の様なモノが醸成されていった訳である。


これは、アキトで言えば、旧・ルダ村、現・ルダの街の住人達に向ける思いと同じ様なモノである。

言うなれば、その経緯はどうあれ、“第二の故郷”を大切に思う気持ちが生まれる事となったのであった。


こうして、ルキウスらには警戒感を向けながらも、自分達の不利とならない範囲ならば、彼らに協力する様になり、政策への協力、テポルヴァの一件を経て、彼女らはロンベリダム帝国における国民的な“英雄(ヒーロー)”となっていったのである。


とは言え、その裏ではテポルヴァ事変を経て、仲間達との間に考え方の違いなどが浮き彫りとなり、タリスマンはルキウスの傘下に、アラニグラとククルカンは、この世界(アクエラ)で生きる決意を固め、仲間達との関係を解消。

敵対している訳ではないが、仲間とは別の道を歩む選択を取ったのであった。

(キドオカも、表向きはアラニグラらと同様の選択を取ったが、実際には彼の目的は、ハイドラス打倒と高次の存在の研究の為であった。)


ウルカに関しては、ヴァニタスからもたらされた情報によって向こうの世界(地球)への帰還が絶望的である事を知り、ライアド教に傾倒。

その結果、ハイドラスと独自の契約を結び、彼の力による帰還方法に一縷の望みを賭ける事としたのである。


こうして、それぞれの思惑のもと、ある意味仲間達が自立していく中、ティアの取った選択肢はあくまで“現状維持”であった。

もちろん、そこには、仲間達がバラバラになる事を危惧した上での戦略、一度『LOL』を解体し、『LOA』として組織を再編する事により、仲間達との衝突を避け、しかし最低限の“繋がり”を残す事とした為なのであるが。

もちろんそれは、当初はタリスマンとウルカはともかく、キドオカ、アラニグラ、ククルカンの理解を得られたのだが、状況が刻一刻と変わっていく中で、これは、もっとも中途半端、どっちつかずの選択となってしまったのである。


これは、後にアラニグラがエイボンに指摘した通り、『LOA』は、どの立ち位置にいるかを明確にしていないからである。

ロンベリダム帝国の味方をするのか、それとも、ロンベリダム帝国とは無関係の立場を貫くのか。

それが、ハッキリしなかったのである。


アキトも言及した通り、中途半端は行動や優しさは、時として本人はもちろん、他者をも巻き込んで不幸にしかねない。

そして、本当にロンベリダム帝国民の為を思うのなら、ルキウスと敵対したり、国民を先導したりして、ロンベリダム帝国そのものの改革を推し進める事も選択肢の一つとしてはあったのである。


しかし、彼女達がやった事は、結果としてルキウスに余計な知恵を与えただけで、『ロフォ戦争』の遠因を作ったも同然であった。

つまり、ティアやエイボンは、アーロスやドリュースを笑えないほど、実際には物事の本質が見えていなかったのである。


にも関わらず、彼女は、事ここに来ても、無関係な人々(と思い込んでいる)を巻き込んだルキウスらにしろ、アキトらに対して憤りを感じていたのである。

そして、ある意味今更焦りを感じ、現状を打開すべく奔走を始めたのであるがーーー。



◇◆◇



「皇帝陛下っ!」

「・・・なんだ、ティアか・・・。今更、余に何の用だ?」

「っ!?」


オーウェンと共にルキウスと面会してから、時間にしてそこまで経過していない。

具体的には一ヶ月かそこらである。

にも関わらず、今、目の前にいる人物は、かつての様な自信に満ち溢れ、心の奥底で虎視眈々と覇権を狙っていた野心家としての一面は鳴りを潜め、力なくうなだれ、覇気の感じられない人物に成り下がっていた。


ティアは、一瞬別人かと目を疑うほどだったが、身形(みなり)だけはキッチリしていたし、彼女にとっても、ある意味憎むべき敵であるルキウスの顔を忘れる筈もないので、その考えもすぐに四散する。

と、なれば、やはり、ルキウスも今現在の状況にかなり打ちのめされているのだと、ティアは即座に判断していた。


「い、一体、何があったのじゃ・・・?」

「何、か・・・。笑うが良いわ、ティアよ。余は、今や何もかも失いつつあるのだからな・・・。」


クククッと、自嘲じみた笑いを浮かべ、おもむろにルキウスは酒を煽った。

今現在の状況で、昼間から酒を飲んでいるルキウス(皇帝)という図にティアが更には困惑を加速させていたところで、いまだルキウスに付き従っていたタリスマンがティアに話し掛けてきた。


「ティアさん。今現在のロンベリダム帝国(この国)の状況はご存知で?(ボソボソ)」

「あ、ああ。もちろん知っておる。“大地の裂け目(フォッサマグナ)”勢力との戦争の真っ最中であり、しかし、戦況は膠着状態。そこへ来て、ロンベリダム帝国(この国)の経済の根幹を成す、一部魔法技術の使用が不可能となっておるのだろう?」

「ええ、その通り、ですが、事はもっと深刻です。ランジェロ殿、ティアさんもご存知のロンベリダム帝国(この国)の魔法技術の第一人者である彼を持ってしても、その原因が特定出来ておらず、場当たり的に魔法技術者や魔法使い達がそれらに対応しておりますが、魔法技術そのものの復旧の目処は立っておりません。そこへ来て、現政権への不満が爆発し、国民の反政府運動が激化。魔法技術の即時復旧や生活の保障を求めたデモが各地で横行しております。更には、ロンベリダム帝国の後ろ楯となっていたライアド教からも関係の解消を求められ、一方的に離脱。つまり・・・。(ボソボソ)」

「完全にヤツは追い詰められとる訳か・・・。(ボソボソ)」

「ええ・・・。(ボソボソ)」

「しかし、まだ打てる手はあるだろう?少なくとも、こんなところで昼間から酒を煽っている場合ではないと思うが・・・?(ボソボソ)」

「一体どの様な手があると言うのだ?よければ、ご教授頂きたいな、ティア殿。」

「「っ!!!」」


ティアとタリスマンはボソボソと小声で会話していたのだが、ルキウスには聞こえていたのか、そう会話に割って入ってきた。


これは、実は彼の得意とする皇帝家に代々伝わる秘術の一つであった。

独裁者(皇帝)という立場もあり、ルキウスの周囲には、どこにどの様な“敵”がいるとも限らない状況だ。

それ故にルキウスは、風系複合術式の魔法によって、常に周囲の会話に聞き耳を立てる必要があった。


これによって、ルキウスに対して謀反を起こそうとしていた貴族達を事前に炙り出した事もあるし、少なくとも、(一見すれば)自分達の心の奥底を見透かしたルキウスに対して、畏怖や畏敬の念を抱く事にも繋がる。

つまりこの魔法は、身を守る術であると同時に、ある種の演出として機能する、非常に利便性の高い魔法なのである。

もちろん、これだけではないが、ルキウスが周囲から“カリスマ”と見なされていたのも、この事がその一翼を担っていた。


と、同時に、これは以前にも披露しているが、演説などの時には同じ系統の魔法を応用する事で、遠くに“声”を届ける事も可能だ。

もっとも、演説時は、ランジェロ率いる『メイザース魔道研究所』が開発した『魔道具(マジックアイテム)』であると周囲に印象付けているし、実際に“拡声器”の様な『魔道具(マジックアイテム)』として存在するが、その大元は、実はルキウスがこの秘術を提供した事によって開発された物であった。

しかも、自身の腹心であるランジェロでさえも、その秘術の本質、すなわち“音をひろう事”を知らせてはいなかったりする。


まぁ、ランジェロほどの魔法技術者・研究者ならば、その使用方法についてもとっくに気付いていたとしても不思議ではなかったが、いくら魔道・魔法技術オタクであるランジェロと言えど、恩があり、なおかつ最高の研究環境を与えてくれるルキウスの不利となる様な事はしない訳で、おそらく知っていながらあえてそれに気付いていないフリをしてきたのであった。

まぁ、それはともかく。


ルキウスの反応に若干面食らったティア達だったが、彼女達は元・地球人として、マイクなどの集音装置には心当たりがあるので、おそらくルキウスが、それに類似した魔法か魔道具(マジックアイテム)を使っているのだろうとすぐに当たりを付ける。


「簡単な話じゃ。戦争を止めれば良い。」


ティアが、そう当然の事の様に答えを返した。

それに、若干ルキウスが目を見開くと、次いで吹き出した様に笑い出した。


「フハハハハッ!な、何を言い出すかと思えばっ・・・!!」

「な、何がおかしいっ!?この場合は、それがもっとも合理的な判断であろうっ!?」

「いやいや、失礼した。余は、少々お主の事を買い被っておった様だ。まさか、そんな()()な手法を口にするとは思っておらんかったからな。」

「っ!!??」

「・・・確かに、お主の言う事も一理ある。しかしそれは、時機によるのだ。そしてすでに、その段階はとうに通り越している。今の状況で戦争を止めたらどうなると思う?」

「そ、それは、国内に注力する事が出来るだろう?」

「いやいや、むしろ逆だ。戦争を仕掛けた“大地の裂け目(フォッサマグナ)”勢力はどうする?“すいません、国内が不安定になったので、停戦しますね。”で通用すると思うか?余が“大地の裂け目(フォッサマグナ)”勢力の指導者なら、バカも休み休み言えと思うだろう。むしろ、その状況を好機と捉え、更には攻勢を強める事となるのがオチだ。」

「っ!!!」

「更には、一度立ち上がった国民達を納得させる事は容易ではない。しかも、先程述べた通り、下手に戦争を止めれば、状況は更には悪化する訳だから、彼らが求めているモノなど提供しようがない。つまり、それでは根本的な解決方法とはなり得ないのだ。いや、むしろ攻勢を強める“大地の裂け目(フォッサマグナ)”勢力の勢いに押され、自分達の立場も危うくなると、余が反政府組織の代表なら考えるだろう。ならば、余のクビを差し出す事を条件に、協定を結ぶべく働き掛ける事となるだろうが、その場合も、賠償金の支払いなどの不利な条件が増えるだけの事である。つまり、ここで余が戦争を止めると言う事は、むしろ国民の将来に更に禍根を残す事に繋がる訳だ。」

「・・・・・・・・・。」

「余とて、ロンベリダム帝国(この国)の責任者だ。その時には余は、すでにこの世にはおらんかもしれんが、最終的に、ロンベリダム帝国(この国)が不利となる事は避けねばならん。もし、ここで余が戦争を止めれば、その後、ロンベリダム帝国(この国)の領土は大きく失われ、勢いも衰退、最終的にはロンベリダム帝国(この国)そのものが失われる事態となり得るだろう。それは、ロンベリダム帝国(この国)に対する一番の裏切り行為となるわ。」

「で、では、どうすれば良いのじゃっ!!お主には、何か考えがあるのかっ!!??」

「どうにもならんさ。残念ながら、な。仮にこちらに、まだライアド教勢力が残っていた場合、彼らに仲介してもらう事も出来たかもしれないが、彼らにはとっくに見切りを付けられている。つまり、国内を安定させる方法はすでになくなったも同然であるのだ。更には、国内がこんな状況ならば、戦争に勝つ事など夢のまた夢だ。すでに余は、行く事も引く事もままならん状況なのだ。それ故、余は、最後の仕事として、国民に討たれる事を座して待つのみである。」


そこには、運命を受け入れた男の矜持があった。


もちろん、ルキウスがなりふりかまわず国外へ逃亡する事も可能だった。

実際、国家や企業の責任者と呼ばれる者達が、こうした状況に陥った際、真っ先に逃げ出す例は枚挙に暇がない。


先程もルキウスが述べた通り、仮にここで責任者であるルキウスが逃げ出した場合、その後の“落とし所”が非常に難しくなる。

少なくとも、ロンベリダム帝国民にとっては、ルキウスを追い出す事である種の革命は成就する事が出来るかもしれないが、“大地の裂け目(フォッサマグナ)”勢力にとって見れば、戦争に対する責任の所在が、ルキウスから新政権に移管するだけの事なのである。


“戦争に対する損害賠償を要求する。”

“いやいや、それは我々がやった事ではありませんよ?”

“それはそちらの理論であってこちらには関係ない話だ。少なくとも、こちらは被害を受けた側である。仮に責任者が逃げ出したのならば、連帯保証人たる国民が代わりに支払う事だと思われるが?それとも、それを不服として、あなた方も我々と争うか?”

“・・・。”


という感じである。


しかし、そこにルキウスがいまだ健在の場合は、彼の首を差し出す事、彼の資産などを差し押さえる事で、戦後処理がスムーズに運ぶ事となる。

散々好き勝手やってきたルキウスであるが、彼は独裁者であると同時に、ロンベリダム帝国(この国)の最高責任者である自覚を併せ持っていた。

故に、その義務をしっかりと全うする覚悟なのであった。


なるほど、稀代の天才政治家として、様々な人々を魅了したカリスマ性を、確かに彼は持ち合わせていた様である。


「・・・お主はそれで良いのか?儂は、この状況を作り出した犯人を知っておる。彼に頼めば、少なくとも一部魔法技術使用不可状態は解消出来るかもしれんぞ?」


だが、ティアは、覚悟を決めた男に対して野暮とも言える言葉を発してしまう。

まぁ、彼女にしてみれば、ルキウスは気に食わないがロンベリダム帝国(この国)そのものには愛着を持っている訳で、何とか悲劇を食い止めたいと思ったとしても不思議な話ではないのだが、と同時に、ルキウスの言う通り、すでにその時機はとうに過ぎている事にはいまだ気付いていなかった。

いや、気付いていながら、いまだ何とかなると甘く見積もっていたのかもしれないが。


「・・・ふむ、例の“ロマリアの英雄”であるな?」

「何じゃ、気付いておったのか。そうじゃ、彼がこの状況を作り出した。」

「ふむ、で、あるか・・・。噂に違わぬ、いや、噂以上の怪物の様だな。余も、まさか正解であるとは思わんかったぞ。」

「???何某かの情報を得ていた訳ではないのか?」

「いや、こんな事が出来るとしたら、神々か英雄くらいのモノだと思っただけだ。余は、神々の存在は信じておらんから、消去法で英雄か、とな。それに、噂では、彼は魔法技術に深い造詣があると聞いていたしな。」

「なるほど・・・。」


以前にも言及した通り、ルキウスは現実主義者(リアリスト)である。

それ故に、ライアド教の権威自体は認めているが、ハイドラスや神々の様な、所謂“高次の存在”について、本当に信じている訳ではなかったのである。


しかし、これについては不正解であり、少なくともこの世界(アクエラ)においては、神々という存在は実在している。

もっとも、そうした存在と邂逅したり、しっかりと認識している人物などほとんどいないので、大半の人々はルキウスと同様に実在するかどうかも分かっていない曖昧な存在であるとの認識であったが。


それに、ある意味ルキウスの認識も間違ってはいない。

と、言うのも、中には例外も存在するが、基本的に神々は、人間種に()()干渉する事は出来ないのである。

故に、人によっては、それはいないのと同義であるから、考えるだけ無駄とも言えるのである。


「それで、どうするのじゃ?」


話が逸れたが、ティアは改めてルキウスに確認した。

しばし黙考した上で、ルキウスは頭を振った。


「いや、それも今更詮無い事であろう。仮に、ここで英雄に命乞いしたところで、もはや状況は元には戻らんだろうからな。むしろ、その力量はとてつもないが、たった一手、それだけで、この状況を生み出した彼の英雄の策略は脅威に値する。そして、それだけの策略家ならば、とっくに終わっている話である事も理解している筈だ。ふふ、なるほど。ニルらが彼の英雄と、直接やり合うのを避けたのは正解だったかもしれんな。もっとも、余も彼の英雄とやり合ったつもりはないのだが、余の行為の何かが、彼の逆鱗に触れてしまったのであろうな。」

「そうか・・・。」


以前にも言及したかもしれないが、“現実”とは、物語の様に単純ではない。

原因を排除したからと言って、物事が良い状況に向かうとは限らないのである。


一部魔法技術使用不可状態は、ある意味起点、キッカケとはなったかもしれないが、その根底にあるのはこれまでの積み重ねに対する答えなのである。

故に、この状況でそれが元に戻ったとしても、一度動き出した反政府活動が止む事はおそらくないだろう。


その事をルキウスは理解していた。

そして、以前にも言及した通り、ティアはそれを真には理解していなかったのである。


それでも、ティアはルキウスが自らの破滅の運命を受け入れている事は理解していた。

と、同時に、すでに覚悟を決めている人物に、それこそこの状況を更に引っくり返す秘策でもない限り、考えを改めさせる事が出来ない事も悟っていた。


そして、残念ながらティアには、いくら人知を超えた力を持っていたとしても、この状況を引っくり返す策など持ち合わせていなかったのである。


そもそも、比較的治安の良い“日本”で生まれ育ったからか、ティアは何かを勘違いしているのかもしれないが、“平和”という状況は簡単に手に入る様なモノではない。

そこには、様々な人々の努力のもと、初めて“平和”という状況を生み出す事が出来るのである。


そして、そこには、極めて高度な外交努力が存在する訳で、それを一歩間違えれば、“平和”という状況は簡単に崩れ去ってしまうのである。


そんな状況の時に、無力(と思い込んでいる)国民が結集し、“平和”を求めて武器を持って立ち上がる事も往々にしてある。


この様に、国民とは、守られる存在ではなく、国家の構成員の一人、つまりは彼女らと同じ様な“自由意志”を持つ“人間”なのである。


で、あるならば、彼らが選択した事を否定する権利はティアにはないのである。

つまり、ティアが求めているモノは、最初から彼女の都合でしかないのであった。

まぁ、それはともかく。


「時にティアよ。最後に、お主に相談がある。」

「・・・何じゃ?」

「タリスマンを連れてロンベリダム帝国(この国)を脱出してくれぬか?今回の件はお主らには関係のない事だ。余と運命を共にする必要はあるまい?」

「・・・了解した。」

「ち、ちょっと待って下さいっ!私は、貴方様に忠誠を誓った身ですっ!!それに、貴方様に罪があるとしたら、それは私にも無関係ではありませんっ!!!」

「タリスマン殿・・・。」

「お主の忠心は受け取っておくが、しかし、それでも無関係な話よ。少なくとも、お主が戦争を仕掛けた訳でも、国民に対して圧政を敷いた訳でもあるまい?お主がした事は、余の護衛でしかない。そこに、罪などあろう筈もない。が、余と共にいたとしたならば、同罪と見なされたとしても不思議な話でもない。少なくとも、お主らをこちらの世界(アクエラ)に呼び込んだ責任は余にもある。まぁ、元々はお主らをロンベリダム帝国(この国)の戦力に加える目的ではあったが、な。」

「陛下・・・。」

「フフフ、最後くらいカッコつけさせろ、タリスマン。」

「・・・行こう、タリスマン殿。儂らには、覚悟を決めた男を止める権利などありはしない。」

「・・・・・・・・・。貴方様の事、忘れはしませんっ!!!」

「・・・ふっ。」



世の中には、善人か悪人かはともかく、“天才”とか“カリスマ”、“偉人”と呼ばれる人物が存在する。

彼らは、多くの場合、他者を惹きつける魅力を備えている事が多い。

彼、ルキウス・ユリウス・エル=クリフ・アウグストゥスもその一人であった。


残念ながら彼は、彼を越える存在であるアキトにより、その命運を決定付けられてしまったが、そんな彼に影響を受けた者達は残される事となる。


元々は敵対者であったタリスマンとティアもその一人であった。

タリスマンは、その強烈なリーダーシップに惹かれて。

ティアは、敵ながら天晴な覚悟を認めて。



ルキウスの最後の願いを受けて、ロンベリダム帝国を脱出した二人であったが、その胸中はいかなるモノだったのであろうか?

それは、まさに神のみぞ知る、と言ったところか

ーーー。



誤字・脱字がありましたら、御指摘頂けると幸いです。


いつも御覧頂いてありがとうございます。

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